複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.79 )
- 日時: 2016/03/01 02:51
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
ドアが開く。
「はい、どなた……っ」
彼女は息をのんだ。
続く言葉がないようで、赤い瞳で怯えたようにこちらを見ている。
静かに、水色の髪に銃口を押し付けた。
「……動かないで」
————
城の前にいた革命軍は、今や一人残らず撤収している。
ちょっと寄り道したのがまずかったかな。
「でもあの白髪はなかなかの逸材だよねぇ。知り合えるなんて僕ってばやっぱりツイてる〜」
まあ誰もいないところでうろちょろしたところで何もならないし、
どうせだから戻ってあの子の観察でもしようかな。
伝斗……彼のあの一言が忘れられない。
“……できるか?”
「……やってみればいいのにね」
そんなことを思いながら、ふと引っかかることが一つ。
あれれ、僕ってそういえば場所をちゃんと伝えた覚えがないなぁ?
急いで戻ろう、契約を解消される前に。
……まあ、解消されたところで彼を殺すまでだけど。
—————
「動かないで。顔に傷跡はつけたくないんだ」
頬がチクッと痛んで、そこから徐々に凍り付いていく。
心臓が冷え切っていく感覚にのまれながらも、頭は至って冷静だった。
予想外だったのは、自分の声が思ったよりずっと優しかったことくらい。
「え……と……」
「言うことを聞けば殺しはしない。怪我させることもない。ただ一緒に来てくれるだけでいい」
彼女はこの戦争の要だ。
下手に傷つけたらどうなるかわかったものではない。
それにまあ、女子を泣かせるのは趣味じゃないしね。
「書置きくらいなら、時間をあげるから。来るか来ないか、はっきり言って」
「そんなの……」
気がついたら引き金を引いていた。
銃弾は少女の耳を掠めて部屋の奥へ突き刺さる。
微塵の躊躇いもなければ、自覚もなかった。
気がついたら迷いなくそれを撃っていたことに、動揺した。
まるで、別の誰かが自分を操ったかのように。
「……早く。次は耳だよ。俺は傷つけたくない」
無意識に出た言葉は、先ほどより遥かに冷たく重かった。
矛盾してるとか、優しくないとか、言いたいことはいっぱいあったけれど、心臓は冷え切ったままだった。
俺、今どうした?
「……わかりました。行きましょう。
その前に、彼に一言、書置きを」
「……1分」
少女は手早く何かを走り書きすると、すぐにこちらに来た。
さすが、空が惚れるだけある。
銃をしまい、とりあえず人の少ない森のほうへ。そこから大きく回ってサラマンダーたちの基地のほうへ向かう予定だ。
「急ごう、あんまり厄介ごとに巻き込まれたくないんだよね」
「あの、いいんですか?」
「何が?」
「え……? こ、拘束とかするものかと……」
「ああ、俺そういう趣味ないんだよね〜」
むしろ自由にさせたほうが彼女が自分で身を守りやすいだろう。
俺が全部守れるなんて、そんなに調子に乗ってない。
むしろ「僕が守る」とか言ってるヤツは、自意識過剰すぎて気持悪いよね。
自分のみは自分で守る。守れないヤツは不幸になる。ま、当然だよね。
「たしかラキちゃんだったよね?
無言で行くのもつまんないからさ、なんかおしゃべりしない?」
ラキは黙ったままだった。
警戒されてるな、当たり前か。
うーん、でも黙って行動するなんて絶対俺にはできないんだよね。
人がいたらしゃべりたくならない?
「ねえ、ラキちゃん空と同居ってマジ? あ、噂で聞いただけなんだけど。
どんな関係?」
「……」
「あ、言えないような関係? じゃあ聞かない。
そうそう、親とかは? いないの?」
「……母は、数年前に亡くなりました」
確か彼女、グレンの娘だって話だったな(ライヒェ調べ)。
ってことは現在両親ともにいない。
つまり、空とはそういうことだ(そういうことって、どういうことだ?)。
……思ったよりいい感じなのかもしれないな、この二人。
「へぇ、面白いね」
「……何がですか?」
「いやいや、こっちの話」
空がそんな色恋沙汰になってたら笑える。
まあ、いざ空にあって確かめるとなると相当厄介だけれども。
そんなに魅力的か? 俺女子をそんなふうに見たことないからわかんねえよ。
でも、ラキの凛とした雰囲気は嫌いじゃないかもしれない。
「ところでラキちゃん、魔法使えたりする?」
「え? はい、もちろん」
もちろん、ねえ。じゃあたぶん空も使えるんだろうな。厄介だな。
遠くのほうから足音が聞こえた。
先頭を歩いているのは、紛れもなくあいつだ。
……ちょっとからかってやろうかな。
「きゃ……」
「しっ。大丈夫、どうせすぐ離すから、ちょっとだけ」
ラキの肩を抱き寄せる。
サラマンダーの添い寝のせいで、至近距離なのにまったく緊張しない。。
うーん、嫌な慣れだ。
それにしても、こんなところで空に会うなんて、
本当に、厄介。