複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.82 )
- 日時: 2016/03/09 13:07
- 名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)
今回は、拠点を潰したという成果のおかげでかなり高い報酬が貰えた。
これなら当分は生活にも困らないだろうし、ラキも喜んでくれるはずだ。
僕は上機嫌で家に帰った。
「ただいま〜」
「あ、おかえり、ソラ君」
僕を出迎えたのは、ソファの上で膝を抱えて少し疲れた様子で笑うラキだった。
目の下に微かに涙の痕があった。
やはり泣いていたのだろうか?
「ごめんね。僕が守れなかったせいで」
「ううん、平気。ソラ君も頑張ってたんだもんね」
そう言ってふにゃりと微笑む。
僕は上着を掛けて彼女の隣に座ろうと歩く。
その時、机にメモ帳が置いてあるのを視認した。
「ん、これは?」
「あっ、それは・・・」
ラキが微かに反応する。もしかして、伝斗に攫われかけた時の書置きか何かかな?
こんなものを用意してくれるなんて、相変わらず気が利く優しい少女だ。
僕は彼女の隣に座り、ゆっくりそのメモ帳を開く。
『ソラ君へ
革命軍のソラ君の知り合いの人が来て一緒に来いと言っています。
殺されることは多分ないと思うので、安心して下さい。
晩ご飯は作ってあるので、温めて食べて下さい。
ラキより』
それを読んだ僕は、息を吸って・・・。
「ラキの中で僕ってラキのこと晩ご飯作ってくれるだけの人としか思ってないと思ってるの!?」
何か勘違いしているんじゃないか?
無意識に大声を出してしまった僕を見て、彼女は・・・———
「クスッ」
———笑った。
まるで微笑ましいものを見たような温かい笑い。
「な、なんだよ・・・?」
「いえ・・・やっぱり、これ書いてて正解だったなって思って」
「え?」
彼女は僕の方を見て微笑む。
「ソラ君って、一人で溜めこむ時多いから、こういうこと書いとけば、少しはリラックスできるかなって」
彼女の優しさに、僕の胸がチクリと痛んだ。
守りたい人に気遣われるような人間になりたかったわけじゃない。
僕はただ、彼女を守る力が欲しくて・・・それで・・・・・・。
「またそうやって一人で考え込む」
気付けば、僕は彼女に抱き寄せられていた。
まるで弟をあやすような手つきで、頭を撫でられる。
よく分からないけど、なんか良い匂いがした。
「少しくらい、私に頼ってくれてもいいんだよ?」
「僕は、ただ・・・・・・」
言葉が続かない。
みっともないな、こんなの。
子ども扱いするなと言いたいが、年上の彼女から見れば、僕は子供だ。
「ソラ君は充分頑張ったから、ね?たまには、頼ってほしい」
「ん・・・・・・」
僕は目を逸らす。
ここは甘えるべきなのだろうか?それとも拒絶するべきなのだろうか?
どれも、ダメだな。
好きな女の子に甘やかされるために努力してきたんじゃない。
守るために、頑張ってきたはずなのに。
「ラキ・・・」
「ソラ君」
彼女は、僕の頬に手を添えて目を合わせる。
そして、彼女の顔が近付いてきて・・・。
「んッ・・・!?」
唇に柔らかいものが触れる。
直後、まるで電流でも走ったかのような感覚が僕の体中を駆け巡る。
初めてではないのに、だ。
いや、あの時は僕からだったし、あれはどちらかというとラキを慰める的な意味でやったことだから、あまり初々しさはなかったというかなんというか・・・・・・?
誰かにそんな意味不明な言い訳をしていた時、唇が離れる。
困惑する僕を置いたまま、彼女は立ち上がり、
「それじゃあ、ご飯作ってくるね!」
笑顔でそう言って、台所に入っていった。
僕は、自分の唇を手で触る。
「・・・・・・熱い」
耳が、顔が、熱い・・・。
まだ、冬の寒さは残っているし、動いてないと寒い時期だけど・・・・・・。
「・・・・・・人生って、こんなに上手くいくものなんだなぁ・・・なんてね」
完璧な人間なら、完璧な人生が送れる。
やはり、僕の認識は間違っていなかったんだ。
だって、『彼』がそうだったから。
「アイツ、今何してるんだろう・・・」
僕は窓から、空を見上げる。
今日は、月が綺麗だ。
−−−
暗い空の下、一人の少年が何もなかった空間から飛び出す。
「いたたた・・・ここどこなんだよ?」
彼は辺りを見渡す。その時、軍服を着た男が長い刀を振り上げ、襲いかかってきた。
少年は、その刀を避け、男の顎を下からアッパーで殴る。
男が気絶したのを見た後で、ソイツの持っていた長刀を拝借する。
さて、と彼は空を見上げた。
「自分で考えろってわけか・・・はいはい、分かりましたよっと。ひとまず、町でも探そうかな」
自惚れた少年が、凡人に戻る瞬間は、刻一刻と迫ってくる。