複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.83 )
日時: 2016/03/11 13:16
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)


「ところで、ライヒェ」
「何?」
「お前って結局のところ何なんだよ」
「何なんだよって、何が?」

何が? と言われても。
この場合なんて言えばいいのかな、正体?

「あー、この体のこととか?
これは人間の女の子の体だけど?」
「その前って言うのかな。何でその体を選んだのか、って言うか」

ライヒェは一瞬目を伏せて、わざとらしく鎌を回した。

「……もともと、僕は人間の魔法の失敗作の一つでさ。
蘇生って言うの? 他人の死体寄せ集めて、魔法かけたんだけど、うまくいかなかったのかな。
見た目は酷いし、殺しても死なない。
もうバケモノだよね。
で、まあいつまでも虐められるのは嫌だし、そこにいる人適当に殺して出てきたんだけどさ」

生れてきたときから、バケモノ……。
変な仲間意識が芽生えそうになる。
いやいや、こいつは死体だから。人間じゃないから。

「だんだん生きる要領がわかってきてさ。
腕がもげたら、腕を付け直せばいいし。足が折れたら、足を取り替えればいい。
そうするとだんだん欲が出てくるわけ。
自分より強くて、自分より美しいものが欲しくなる。
そのときに出会ったのが……」

ライヒェは左手で自分の頬を撫で、にっこり微笑んだ。
この顔、ってことか。
確かに、整った顔立ちだ。可愛いとは思う。

「その子ったら、可愛いんだよ。
すごく綺麗な声で歌うし、無邪気に笑うし……僕の姿を見ると、泣いて怯えるんだ。
遠くで眺めて、追い掛け回すのも悪くなかったけど、
でも、一度でも言葉をかわせたら素敵だなって思った。
全部僕のものになったら……もっと素敵だなって……」

そこでライヒェは一度言葉を切り、歩みを止めた。
つられて、俺も足を止める。
彼女(あれ? 彼?)はしばらく空を仰ぎ見た。

「でもさ……やっぱり、あの子じゃないんだよね。
あの子はもっと柔らかい赤みの差した頬だったし、
もっと優しい目だった。
記憶も声も同じはずなのに。
仕草の、表情の、言葉の、ひとつひとつがあの子じゃない。
すべては手に入らない……」

ライヒェらしくない、寂しそうな表情。
かける言葉が見つからない。
長い沈黙のあと、またライヒェはニッと笑った。

「でも僕、後悔はしてない。
だってこれから先も、ずっとこの子といられるんだから!
永久に一緒なんて……ロマンチックすぎない?」

背筋が凍りつく。
いつもより数百倍、毒々しい笑み。
ライヒェはきっと、強がりでも何でもなくて、本当に後悔していないのだ。
心から、自分の犯した罪に酔っている。

「あの子が自分のものにあって、僕は幸せ。
僕が愛情をたっぷり込めて殺してあげたから、あの子も幸せ。
こんな幸せな結末の恋物語なんて、なかなかいいと思わない?」

死んだ彼女も幸せ……か。
ライヒェらしい発想だ。
もしそんなふうに考えられていたら……俺も、少しは幸せになれたのかな。

「昔話なんてどうでもいいでしょ。
僕は今を楽しく生きるほうが大事!」

……それ、激しく同意。
どうせどこに行っても俺の居場所はないんだから。
ならここで思いっきり暴れて、何も考えずに死ねたら、それほど楽なことはない。