複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.85 )
日時: 2016/03/17 15:17
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)


ライヒェと分かれ、サラマンダーの部屋に入る。

「ただいま〜。どうだった?」
「うん、まあ……」

サラマンダーはそっけなく返し、俺にそれを差し出した。
アニメみたいな、ずっしりとした鍵がジャラジャラついている。
「城のざっくりとした構造を把握して、できればなんか盗んでこれば?」
……とか言う俺のふざけた指示にちゃんと従ったってことか。
偉い偉い。

「俺はリーダーだぞ、それくらい楽勝だ」

ふん、と目を逸らすサラマンダー。
……でも、目がすごい自慢げだ。
「褒めて、褒めて!」オーラがハンパない。小学生か。
さすがだな、っていってやったらすごく満足そうな顔してた。
……いまどきそんなヤツ小学生でもいないぞ。

「で、なんか紙に地図みたいなのかいてよ」
「……地図?」
「うん、城の。中入ったなら大体の構造とかわかるだろ」
「……」

サラマンダーはわかりやすくしゅんとした。
叱られた子供……というか、ウサギっぽい?
うん、覚えてないのか。サラマンダーらしい。

「……じゃあ、また思い出したら描いて」

絶対にありえないけど!
ふと窓の外を見ると、バッチリ木の上に潜んでいるライヒェと目があった。
……アイツ。
薙刀を片手に、窓を開ける。

「……おい、ライヒェ。何やってんだよ。そんなに気になるなら中は入れよ」
「ばれちゃったー……」

ばれちゃったと言う割りにいつものニヤニヤは崩れない。

「でも僕アイツ嫌いなんだよねー、リーダーのヤツ」
「だからって家の中覗くな。刺し落としてやる」
「わっ、ごめんてー。お邪魔しまーす」

お邪魔します程度の常識があるのに覗きはするのかよ。
ライヒェにそれを言うと、ペロッと舌を出されて誤魔化された。
……まあ、仕方ないか。コイツそういうヤツだし。

「伝斗、何してんだよ」
「んー、客人。ライヒェが覗きしてた」

ライヒェ、ときいただけでわかりやすくサラマンダーの敵意がむき出しになった。
ライヒェみたいにわかりにくいのもどうかと思うけど、サラマンダーくらいわかりやすいのも考え物だな。

「おい、ライヒェ。家の中まで見るのはやめろ」
「何で? いちゃラブする他所のカップルとか興味ない?」
「ない。やめろ」
「しかたないなぁ」

ライヒェは困ったりする素振りをまったく見せない。
なんかあったら爪でも剥がしてやるか。どうせつけかえれるんだし、あの手。
それでも直らなかったら……どこかで痛い目にでもあうんじゃない?
突然、サラマンダーがライヒェの胸倉に掴みかかった。

「……何?」
「お前……ふざけんなよ……っ!」
「えーと、大胆な挨拶だね……?」

……え? この二人の間に何があったかって? 知らねーよ。
なんかわからないけど、仲が悪いのかな。
首絞められてるのにライヒェのほうが余裕だ。
まあ、そうだろうな。死なないから。
しかしサラマンダーは何を怒ってるんだ?

「……伝斗は気づかないのか?」
「気づいたとしても初対面で突っかかるヤツはいないだろうなぁ。
 サラマンダーってば大胆」
「茶化すな」

サラマンダーはライヒェを床に投げ捨て、背にある白い翼を乱暴に掴んだ。
そこで俺はようやく思い出した。
あの羽……あれの持ち主を俺たちはよく知っていた。

「シルフの……なんでシルフの羽をお前が持ってるんだよ!」
「何でって、僕が殺したから」

……まあ、ライヒェのことだからそうだろうと思ったけど。

「だってあの羽さ、白くてぴょこぴょこして可愛いじゃん?
 ずっと欲しかったんだけど、なかなか殺るチャンスがなくてさぁ。
 一人でいるからラッキーって……っ」

サラマンダーの蹴りが鳩尾にヒットする。
痛そう。
ちなみにライヒェはと言うと
「羽が痛むから優しく扱ってね。君の愛したシルフちゃんの羽だから」
と言う余裕っぷり。

「殺してやる!」
「殺せないよ?」
「首を切る」
「でも死なない」

サラマンダーの暴力の手が止まらない。
無駄だって言ってるのにね。
サラマンダーの頬を銃弾でかすめる。

「……何の真似だ、伝斗」
「いやいや、俺ライヒェと手組んでるし。
 味方が虐められるのは面白くないなぁと」
「ふざけるな、何が味方だ……ッ」

俺の拳がサラマンダーの顔面を捕らえる。
……衝動的に殴っちゃう癖、やっぱり直ってない。
俺の比較的力のないパンチでは流石に吹っ飛ぶようなことはなかったが、
サラマンダーは顔を抑えうずくまった。
指の隙間から、血が溢れる。

「……おい? また吐血か?」
「違う」
「無理に嘘ついて強がらなくても……」
「違う。鼻血だ……」

鼻血……。
俺は思わず吹きだした。
ライヒェにいたっては大笑いしている。

「何がおかしいんだよ!」
「いやだってこの流れで鼻血出すとは思わないじゃん。マジウケる」

それにしても手のひらから溢れた血が床に垂れ、大きなシミを作っている。
これが鼻血って量? 多くない?
それに答えたのはライヒェだ。

「平気だよ、だって君ドラゴンの子供なんでしょ。
 だったら知ってるよね。『ドラゴンに血液はない』って」
「……そうなのか?」

サラマンダーは何も言わない。(と言うかたぶん鼻押さえるのに必死で何も言えない。)
ライヒェは勝手に続ける。

「でももう片親が人間だから血が流れている。だからドラゴンより人間に近いのは当然。
 ついでに言っとくと巨人の血の色ってぶどう酒みたいな色してんだよ。
 人魚の血は銀色とか、あとシルフちゃんは綺麗な朱色だったりね。
 乾燥すると割りと緋色に近い色になるんだよ、って気づいてた?
 と言うかそもそも魔物って言うのは人間の魔法の失敗作みたいなものなのにさぁ、
 それに呑まれそうになったから迫害するなんて、やっぱり人間は愚かだよねぇ」

緑色の目がらんらんと輝いている。
けらけらと笑うその様は……すごく不気味。

「ねえ、僕ちょっと町のほう覗いてくる」
「人の家は覗くなよ」
「…………はーい」

何、今の間。
ライヒェは軽い身のこなしで木から木へと移っていく。
猿みたい。

「サラマンダー、血、どうなった?」
「うるさい、止まった」
「……じゃあ何でまだ鼻押さえてんの?」
「うるさい、止まったったら止まった」

仕方ない、あとで鼻栓作ってやるか。