複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.87 )
- 日時: 2016/03/18 09:59
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
“君ドラゴンの子供なんでしょ。
だったら知ってるよね。『ドラゴンに血液はない』って”
ライヒェの言葉が頭に焼き付いてはなれない。
知ってる、はず。でも思い出せない。
思い出したくない。
それに『ドラゴンに血液はない』なんて認めてしまったら……自分はどうなる?
当然、腕を切れば血が出る。
そのくせして、一度血が出ると止まらないどころか、大量出血でも死なない。
俺って……何なんだよ。
————
「サラマンダー、血は止まったか?」
「うるさい、さっきから止まったって言っているだろ」
「だって止まってなかったじゃん」
「うるさい」
サラマンダーは機嫌が悪い。
鼻栓もさせてくれないくらい悪い。
それもそうか、ライヒェを問い詰められなかった上に、俺までアイツの肩を持ったから。
っていうか、嫌いなやつの肩を持たれると拗ねるって、子供かよ。
「あ、殴ったのは悪かった。アレは……その……癖? 見たいなヤツで。
悪気はなかったんだけどさ……」
「……伝斗」
サラマンダーはようやく顔を上げた(でも鼻血は止まってなかった)。
今にも泣き出しそうな怯えた目は、一転に定まっていない。
「あー、まだ全然止まってないじゃん。やっぱり鼻栓しろよ、大人しくさ」
「……俺って、何だ?」
「は? 何だって、何?」
「俺は、自分を人間じゃないと思っている。でも、ドラゴンでもない。
じゃあ、俺って何だ? 何のために俺は存在するんだ?……」
……何のために存在する?
今更何言ってんの、コイツ。
「存在意義なんて考えたらみんな死ななきゃいけなくなるじゃん。
そんなこと考えるのは『死ぬ』ってことを理解できない子供か、相当の馬鹿だけだろ」
まあぶっちゃけ、俺も考えたことあるけど。
結論? 『不要物』って答えしか出ないよ。
当たり前じゃん。俺なんか必要とする人間なんていないんだから。
俺一人消えたって、世界は少しも変わらない。
むしろ俺一人分誰かが幸せになる。それだけ。
サラマンダーは俺の皮肉が聞こえていないのか、そもそも聞く気がないのか、再び顔を埋める。
「伝斗、お前は何のために生きてる?」
「はー? そんな道徳みたいなこと聞くなよ。そんなもんねえよ」
「俺は……父さんと母さんのために生きてる。
母さんを殺した輩が憎いから、殺してやりたいから、生きてる。
父さんが生きてた証を消さないために、戦争を続けてる。
戦争を終えたら、きっと、父さんが忘れられてしまうから……」
……。
人が死ぬと、残されたものはその人を神聖化する。
サラマンダーの場合、それが重症すぎる。
イタい。非常にイタい。
「俺は自分が幸せになるために生きてる! それでいいだろ。
あ、ついでに鼻栓させろ。いつまで経っても止まらないし」
ティッシュなんてものはなかったので手ごろな布を細く切って鼻に詰め込む。
あ、どうしよう。割と似合う。
口に出したら殺されかねないから言わないけど。
「はーい、出血してる場合は安静にしろ。寝ろ」
「鼻血は怪我じゃないし、俺まだ眠くない」
「いい子は寝ろ!」
雑に毛布被せてほっといたら、意外とすぐに寝た。
しかも爆睡じゃん。
俺はすっかり忘れていた紙を取り出す。
あの名簿みたいな紙ね。調べようと思って忘れてたなー。
これがあるってことは、あの白い箱のような研究所からこちらの世界に来た人間がいてもおかしくないと思う。
俺は薙刀を担ぎ、静かに部屋を出る。