複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.88 )
- 日時: 2016/03/19 12:04
- 名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)
それから、僕はとにかくいじめを受けた。
毎日の暴行はもちろんのこと、布団に大きな石を大量に詰め込まれたこともあった。
図書館で借りた本を燃やされて、僕のせいにされたこともあった。
靴に牛乳を入れられて、太陽の下で発酵させられて臭くなったこともあった。
雪が積もった日には、裸で雪の中に埋められ風邪を引いたこともあった。
冬には、長袖の服も布団も全部奪われ、半袖で寒い夜を過ごしたこともあった。
他にも色々あったけど、これ以上言うと自分の精神が持たないので、割愛する。
とにかく、文字通り年中無休365日、毎日なんらかのいじめを受けた。
しかも、陸人君はとても賢かったので、先生から見れば皆が仲良く毎日楽しく暮らしているように見えただろう。
僕が先生に言えば、綺麗ごとを抜かして誤魔化し、後でコッソリ嬲られる。
そんな痛みと蔑む眼差しの毎日の中で、僕の脳内を反芻する言葉があった。
『お前がもっと完璧な人間だったら良かったのに』
たしかにそうだと思う。だって、陸人君の人生は、完璧じゃないか。
ここに来た理由も、親が事故で死んだのが原因ってだけだし。
つまり、陸人君みたいになれば、僕だって良い人生が送れる。
いや、むしろ僕なら、陸人君よりも完璧になれる。
だって、彼は僕にこんなにも恨まれているんだもの。
完璧な人間っていうのは、誰にも恨まれない人間のことだろう?
僕なら、なれる。僕ならもっと、上手な人生を送れる。
それが分かってからは、盲目的に、貪欲に、完璧を求めるようになった。
勉強は元々できたから、さらに努力して中学生のテストで満点取れるくらいまで頑張った。
苦手な運動は、いじめっ子が寝静まった後くらいに一人でこっそり筋トレをしたり、図書館で運動の本を読んだりした。
芸術や、音楽面も同様だった。
完璧になることに夢中になることで、自殺しようとも思わなかった。
それがイラついたのだろうか。それらを学ぶための本がトイレで黄色の液体でビショビショになっていたこともある。
昼ごはんの時に床に落ちた物を食べさせられたこともある。
時には、食事を3食全部奪われた日もあったっけな。
口の中で床を拭いた雑巾を絞られた事もあるけど、でも、全てがどうでもよかった。
僕は陸人君のようになりたかった。彼のように完璧になりたかった。
幸せな人生を送りたいから。もう、裏切られたくないから。
8歳になって、僕は人を信用することをやめた。
信じなければ、裏切られないから。友達だと僕が思わなければ、人は裏切らない。
だって、信じるの反対は裏切るだから。つまり、信じないの反対は裏切られない、だ。
夏には笑顔の貼り方を覚えた。簡単だった。
僕はただ、裏切られることに怯えて過ごした。
完璧にならないと、裏切られるから。信用したら、裏切られるから。
僕にとって、陸人君と僕の両親は恐怖の対象だった。
彼らは僕を裏切った。また裏切られる。僕は、裏切られることが怖くなった。
誰も信用したくない。裏切られたくない。
そんな恐怖が、僕をさらに完璧な人間へと導いた。
そして、9歳。
僕は、すでにほとんど完璧と言っても過言ではない状態だった。
背だけはチビのままだけど、顔自体はイケメンな方だと思うし、基本なんでもできる。
そして、そんな僕を気に入った晴太家に貰われた。
優しい両親、暖かい家庭、僕を慕ってくれる友人。完璧なら、なんでも手に入った。
父親が道場をやっており、そこで剣道や柔道などを習った。というか習わされた。
筋トレの影響で元々良い体つきをしていたので、鍛えたら有名になって道場の宣伝になるって。
そんな親の期待に応えるために、僕は頑張った。
柔道とか空手より、剣道の方が僕には合っていたので、主に剣道を鍛えた。
そんな中で出会った友達。彼等なら、信じてもいいんじゃないかと思えた。
信じた結果は最悪。僕を裏切って、理由も無く殴ってきた。
殴られたことはいくらでもあるからいいよ。骨が折れるまで殴られた事だってあるから。
でも、やっぱり信じるんじゃなかったよ。お前なんか信じなければ良かったよ。
やっぱり人間は、信じたら裏切るんだよな。すっかり忘れてた僕が馬鹿だったんだよな。
僕は、彼等の前でも仮面を被った。僕は多分、一生人を信用できない。できるわけがない。
親、友達、親友。全てに裏切られた僕は、静かに壊れていった。
誰も信用するな。自分だけ信じろ。そんな言葉が頭の中で何度も響く。
・・・・・・でも、信用しても、いいのかもしれない。
あと、一回だけ。最後のチャンスだ。
目の前にいる少女を、僕は守りたい。彼女と一緒に、生きたい。
だから・・・・・・———
−−−
「———・・・・・・だから、君のことだけは・・・・・・信じたい」
そして僕は、全てを語り終えた。
