複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.90 )
- 日時: 2016/03/22 11:01
- 名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)
「えっと・・・・・・」
僕の2時間にも渡る過去話を聞き終えた彼女は、困惑したような様子で目を左右に泳がせている。
まぁ、異世界から来たなんて話聞かされて、むしろ困惑しない方が無理な話だろう。
彼女を混乱させないためにも、今まで言わなかったようなものだ。
「知らなかった・・・・・・異世界人だった、なんて・・・・・・」
ラキはそう言って両手をギュッと握った。
「別に気にしないでよ。普通、そんなことなんて考えない」
僕はそう言いながら、握りしめた彼女の手の上に手を置く。
生まれてはじめて、心から信用できる人の温もりは、とても温かかった。
「おかしいと思ってたんだ・・・・・・この世界で、白い髪の人なんて見た事ないし、それに、記憶無くしても、この世界では魔法なんて当たり前だし、学んだ知識は覚えてるなら、魔法も覚えてるハズだよね」
僕は無意識に自分の髪を指で触った。
今では一種のトレードマークになってる白髪。でも、別に白くしたかったわけじゃない。
「僕だって、ここに来る前は黒かった。多分、トリップの時にここの魔力とかと反応したんじゃないかな?」
「でも、デントさん?は髪白くないよね。色素は薄いけど」
うーむ、僕の髪が特別・・・・・・というわけではないだろうな。
ここでは椿とも出会ったけど、彼女の髪も大丈夫だった。
これについては、また今度福田さんに聞いてみよう。
とりあえず、今は適当に誤魔化すことにする。
「あー・・・アイツ実は昔から病気なんだよね。徐々に衰弱していってやがて死んでしまうという未知の病。回復魔法でも治せないらしく、アイツの髪は細胞が死んでて、多分僕の髪が白くなった原因の物質とかには反応しなかったみたいなんだ・・・・・・」
「なるほど。だからあんなに体が細いんだ」
あ、冗談で言ったらまともに受け取られちゃった。
まぁ、伝斗だって男子なんだからもっと筋肉をつけるべきなんだよ。
これは部活をすぐにやめちゃった伝斗へのちょっとした罰ってことで。
まぁ、これからラキと伝斗が関わる機会があってほしいわけじゃないけど。
「でも・・・晴れた空君、かぁ〜」
ラキはポツリとそう呟いた。
こうして聞くと僕のフルネームって恥ずかしい。なんだよ晴れた空って。文章じゃないか。
「急にどうしたの?」
「え?えっとね・・・・・・その・・・・・・」
ラキはなぜか少し目を泳がせた後で、俯いて恥ずかしそうに言った。
「ソラ君には、その・・・ピッタリな名前だな〜って」
僕に、ピッタリな名前?そんなこと、考えた事もないや。
むしろ逆。僕は空が大嫌いだ。
それは、今でも変わらない。特に晴れた空なんて、気味が悪くて仕方ない。
被害妄想だと思うけど、僕を嘲笑っているようにしか見えない。
「だって、ソラ君は温かいし、体は小さいけど、その分、心はすごく大きい」
そう言って微笑む。
その笑顔を見た瞬間、最後まで残っていた何かが静かに溶けていった。
あぁ、そうだ。僕はこの笑顔を守りたかったんだ。この笑顔があれば、光があれば、僕の生きる意味があるような気がして。
「ラキ」
「ん?なに?」
「これを、受け取って欲しい」
僕は上官用の拳銃を取り出し、彼女に渡した。
彼女は目を見開いて、それを見る。
「昨日、伝斗が来たんだよね?多分、革命軍には、この家の場所はばれている。下手したら、これからも来るかもしれない」
「で、でも・・・・・・」
「だから、僕が傍にいない時は、この拳銃を使ってほしい。銃口を向ければ一瞬でも怯むだろうから、その間に逃げて欲しい。もしダメなら、引き金を引いて」
「ちょ、ちょっと待って!」
拳銃を渡した理由を説明する僕を、彼女は遮った。
「ん、どうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ・・・・・・ソラ君は、私には人を殺してほしくないんじゃなかったの?」
「そうだよ。僕は君に人殺しをしてほしくない」
「じゃあッ・・・・・・」
「これは、命令だ」
少し声にドスを効かせてみた。ラキが微かに怯んだのが分かった。
僕は彼女の手から拳銃を奪い取ると、頭に押し付けた。
「この拳銃を使って、敵を殺せ」
「ッ・・・・・・」
「さもないと、貴様の命は無い」
彼女が怯えているのが分かる。まぁ、実際に引き金の引くつもりはない。
だって、こうすることで、彼女の手は血で汚れなくなるから。
僕はそのまま拳銃を指先で回し、彼女に持ち手の部分を向ける。
「君はあくまで、僕に脅されて殺すだけ。君の意志じゃない」
「えッ・・・・・・」
「この拳銃だって僕のものだ。つまり、君が殺したんじゃなく、殺したのは僕なんだよ」
彼女は、よく分からないと言いたげな顔で僕を見る。
いや、ホント僕何言ってるんだよ。自分でも言葉がまとまらなくなってきている。
僕はできるだけ口角を上げて、笑顔を浮かべて見せる。
「僕は君に生きてほしい。本当は僕の手で守りたいけど、そこまでの力はまだないから、だから・・・・・・」
「ハァ・・・・・・そういうことか」
彼女はクスッと笑い、僕の手から拳銃を受け取った。
そして銃口の辺りを指でなぞり、僕に笑みを浮かべて見せる。
「ありがとう。すごく嬉しい」
そう、僕はこの笑顔を守りたいんだ。
この笑顔を血で汚したくない。たとえ僕が死んでも、たとえどんな犠牲を払ってでも。
「そ、それじゃあ・・・・・・私、ちょっと出かけてくるね!」
「ん。何か用事?僕もついていくよ」
「ううん、一人で大丈夫。ソラ君は、たまには少しゆっくりした方がいいよ」
そう言って立ち上がると、拳銃を持ったまま家を出て行った。
拳銃出したまま歩く気か?人の目を引くぞ?
今度ホルスターでも買ってあげよう。
いや、僕の給料はラキが管理しているし、自分で買ってもらうしかないか。
僕はソファに倒れ込み、クッションに顔を埋めた。ちょっとだけ彼女の匂いがする。
って、何ラキの匂いを堪能しているんだ僕は。変態か。
「・・・・・・そろそろ、ケリをつけなくちゃなぁ・・・・・・」
僕は立ち上がり、自室に行く。
そして、棚の引き出しから福田さんに直してもらったスマホを取り出す。
僕はそれを、壁に投げつけた。粉々に砕け散った。