複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.92 )
- 日時: 2016/03/28 16:12
- 名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)
相変わらず、大袈裟な広さだな。
城の中をのんびり歩きながら、僕はなんとなくそう思った。
今日は国王に用事があって城にやって来たのだが、この城の大きさには感嘆せざるを得ない。
用事と言っても、大したことではない。
先ほど兵士たちが鍵の束が盗まれていたと騒いでいたので、とりあえず国王と軽く話し合うだけだ。
と、国王への用事を思い出しながら歩いていると、王室の前に着いた。
いるといいけどな〜なんて考えながら、僕はドアノブに手をかける、
「お願いします!もう少し税金を減らして下さい!」
中から聴こえてきた声に、僕はドアを開ける手を止めた。
嫌な予感がする。これ以上この会話を聞いてしまったら、また僕は酷い目にあいそうな感覚。
そう、8年前のあの日のように・・・・・・。
「それはできない」
国王の声。なぜだ?あの人は優しい人のはずなのに、なぜこうも冷たい言い方ができるんだろうか?
僕は扉に耳を付けて続きを待った。
「お願いします・・・・・・税金のせいで、私達の村は金が足りず、なんとか育てた農作物も国の為だとほとんど兵士によって強奪されましたッ・・・・・・税金を減らしてもらわないと、私達の村はもう終わりだッ!」
「知ったことではない。この城下町は人が多いのでな、食料や金が必要なのだ」
冷ややかな声。この声を出しているのは本当に国王なんだろうか?
あぁ、そうか・・・・・・国王も陸人君と同じ、仮面を被った人間なんだ。
「ですが、私達の村のことももう少しッ・・・・・・」
「黙れ。僕に反抗するな。貴様は死刑だ」
「なぜッ・・・・・・」
「僕に逆らう者は、生きる価値などない」
最後の言葉を聞くのと同時に、僕はそのドアを離れ長い廊下を歩く。
ここにいては駄目だ。このままでは、僕もラキも彼の黒さに染まってしまう。
次第に歩く速度は上がる。逃げなくちゃ・・・・・・この国から。あの国王から。
城を出るのと同時に僕は走った。
−−−
「お母さん・・・・・・」
ここは、戦争で死んだ人の墓地。
目の前にあるのは、お母さんのお墓。
お父さんの死体は革命軍が回収したらしく、まだお墓はできていない。
できるのならこのお母さんのお墓の隣がいいな。天国では、二人で幸せにしていてほしい。
「お母さん、私ね。好きな人できたんだ。すごく強くて、優しくて、でも、弱い人。背も低くて、サー君に少し似てる子なんだよ」
一人で墓に語りかけるという行為はとても恥ずかしいことだけど、お母さんには、今の私の状況を知っておいてほしかった。
私が小さい頃、お父さんはいつも戦場に行ってたから、家でお母さんと一緒に待っていた。
怖い夢を見た時は、お母さんの腕の中で子守唄を聴きながら眠ったり、一緒に魔法の練習をしたり。
そんなお母さんは、町に革命軍が攻め込んできた時に逃げ遅れた私を庇って死んでしまった。
剣で真っ二つにされた母親の姿は、今でも脳裏に鮮明に蘇る。
「お母さん・・・・・・私、あの頃よりも強くなれたかな・・・・・・?」
今、私の手には、拳銃が握られている。
これは、世界で一番大切な人がくれたプレゼント。
『僕は君に生きてほしい』
彼の声、顔・・・・・・思い出すだけで顔が熱くなる。
って、なんで私親の墓の前で好きな人のこと思いだしてるんだろう。
「・・・・・・サー君」
その時なぜか、幼い頃に出会った少年を思い出した。
たしかあれは、10歳の頃のことだ。
まだ私達が町じゃなくて村に住んでいたころ、崖の下で怪我をしていた毛先の赤い黒髪の少年を家に連れて行って、看病してあげたことがあった。
別に私が誰かを連れ帰って怪我の治療をするのは初めてのことじゃないのに、お父さんもお母さんのあまり良い顔はしていなかった。
でも放っておけないし、客室に寝かせてあげて治療した。
私は初級の回復魔法しかまだ覚えてなかったから、浅い傷だけ治して後のところは包帯で不器用に治してあげた。
サー君は、なぜか怯えていた。
なんだかそれが可愛くて、まるで弟ができたような気持ちになった。
その後も、彼に会うのが楽しみになって、よく話しかけたりした。
彼のことが好き、というわけではなかった。恋とは別の感情。
友達とか、守ってあげないとっていう責任感みたいな。
そんな幸せな日常はすぐに途絶える。ある日、村を燃やされた。
その時はお父さんと一緒にいた時だったから、お父さんに抱かれて家を出た。
お母さんはその時晩ご飯の買い物に出かけていたから、一家全員無事だった。
その頃はあまり裕福じゃなかったし、お父さんも中将じゃなかったから、町に行ったり家を探したりするのは大変だったけど、家族3人で一緒にいられるだけで私は幸せだった。
でも、家を焼かれた時、私は密かに見ていたのだ。走り去っていくサー君の姿を。
でもお父さんには言わなかった。だって言ったら、サー君が殺されちゃうから。
結局、サー君はどこかに行ってしまった。
元々私が勝手に仲良くしていただけだし、いつかいなくなることは予想していた。なんて、言えればいいんだけど。実際は想像もしていなかった。
自分がどれだけ甘やかされていたのかを、知ることになった。
人はいずれ自分の前から去ってしまう。そんなの当たり前のことなのに。
サー君と話したりするこの日々が永遠に続くものだと、信じて疑わなかった。
お母さんやお父さんだってそうだ。ずっと私の傍にいてくれるんだって、甘えていた。
人はいずれ自分の前からいなくなる。それが早くなるか遅くなるかの差だったんだ。
「お母さん、安心してね。私は・・・・・・ラキは、今も元気に過ごしてるからね。だから、だから・・・・・・」
気付けば、目から涙が流れていた。
悪い癖だ。お母さんのお墓に来ると、いつも泣いてしまう。
優しかったお母さん、大好きなお母さん。そんなお母さんを、私が殺した。
私が逃げ遅れたせいで、優しいお母さんは私を庇って死んでしまった。
私が逃げ遅れなければ、私がもっと強かったら・・・・・・。
「私なんか・・・・・・生まれてこなければ・・・・・・ッ!」
「そんなこと言わないでよ」
気付けば、私は抱き寄せられていた。
白い髪。グレーの軍服。
なんで・・・・・・なんで、あなたがここにいるの・・・・・・?
「なんでそんなこと言うんだよ・・・・・・僕は、君がいるおかげで生きていられるのに・・・・・・」
彼の真剣な瞳が私の泣き顔を映し出す。
つい数時間前は私が慰めてた立場なのに・・・・・・。
「だって、私のせいで、お母さんが・・・・・・」
「例えばもし、僕が死んでラキが生きられるって言うのなら、僕は喜んで自害する」
ソラ君の言葉に、私は目を見開く。
少し離れて、彼は私の手から拳銃を取ると、自分のこめかみに銃口を付ける。
「君は僕だ」
ハッキリと、そう言い切った。
「君は、僕の生きる意味だ。君がいるから僕は生きられる。君がいなかったら、僕の存在価値なんてない」
「そんなこと・・・・・・」
ないよ、と私は力なく言う。
私は、彼の生きる意味なんかにはなれない。そんな立派な人間じゃない。
そう思っていた時、さらに強く抱きしめられた。
「君はすごい人だよ。僕なんかより、ずっと・・・・・・」
「私は別に・・・・・・」
「君がすごくないのなら、僕はただの人殺しだよ」
「そんなことないよ。ソラ君は、国のために殺しているんだから」
「そんなの、僕の行為が美徳化されているだけだ」
「でも・・・・・・」
「それに、この国は守るほどの価値なんてない」
「え?」
彼から唐突に放たれた一言。
優しい彼が放った言葉とは思えず、私は思わず目を見開く。
その後彼は、国王が酷い人だったということを話した。
信じられないけれど、彼が私に嘘をついたことなんてない。信じざるを得ない。
「国王が、そんな人だったなんて・・・・・・」
「もうこの国はダメだよ・・・・・・国王がひどすぎる・・・・・・」
彼は私の耳元に口を近づける。
そして小さい声で言った。
「ラキ・・・・・・一緒に逃げよう」
「・・・・・・うん」
その日私たちは、軽く荷物をまとめて町を出た。