複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.93 )
- 日時: 2016/04/01 16:02
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)
「サラマンダーのチビ!」
「お前だって同じくらいの背だろ!」
「じゃあ、デブ!」
「それはお前が痩せすぎてるだけだろ!」
「おー、太刀筋が乱れてるぞ。集中しろ」
「伝斗がうるさいから!」
「俺はしゃべってるほうが集中できるんだよ」
「そんなわけないだろ!」
ギャーギャー言いながら剣を交わす二人を、ノームは遠巻きに見ている。
そこへケントとシュリーがやってきた。
「何見てるんだ?」
「二人が剣の練習をしていて、危ないので」
「子供のケンカにしか見えない」
ケントの言葉に、ノームは笑った。
サラマンダーが伝斗に馬乗りになって頬をつねっている。
なるほど、確かに子供だ。
「いっつもこんなのにつき合わされて、ノームさんも大変ですね」
「いえいえ、楽しいですよ。
ケントニスも、そんな堅くならなくてもいいのに」
「あ、いえ、年上なんで」
「そうだぞ! 堅くなるな!」
「シュリーはもっと礼儀を重んじろよ!」
ケントがつっこんだところに、ちょうどサラマンダーの太刀が地面に突き刺さる。
伝斗がふっ飛ばしたらしい。
「ごめんごめん、ちょっと力入れすぎた。
お! シュリーもいるなら一緒に相手してよ」
「おっしゃ、任せろ! 手加減はしねぇぞ坊主!」
子供みたいに駆けていく三人。
少し前まで戦場で足を引っ張っていた伝斗も、だいぶ武器の扱いに慣れたようだ。
「小僧、強くなりましたね」
最近の伝斗は、気がついたら片手で薙刀を振り回しているときさえある。
今までの彼からは想像もつかないほど強くなっているはずだ。
その成長には、目を見張るものがある。
「でも……私はそれが少し気がかりです」
「どういうことですか」
「かつてののサラマンダーに似てきている……何かに依存しながら戦っているように思えるのです」
“母さんは殺された。父さんも、今……”
父親の存在だけを頼りにふるった刃は、死という絶望によって錆付いた。
依存先を失った怯えた少年の姿が、くっきりと脳裏に焼きついている。
かつて、と言ったが、ノームはずっと気づいていた。
きっと彼はいまだ父親のためだけに戦い続けているに違いない。
「それは、依存先を失ったら弱くなるから……ですか」
「それもありますが……。
依存しているもののために心をすり減らす。それが怖いんです」
首をかしげるケント。
「すみません、俺にはちょっと。わかんないです」
「そうですね……トライデントの普段の表情が、少し愁いを帯びてきているような気がして」
かなり時間がかかって、
ようやくケントはトライデントが伝斗のことだと言うことを理解したようだ。
「確かに。ちょっと以前と比べて暗くなったかも……です」
「何か悩んでいるようにも見えるし、きちんと相談とかできると言いのですけれど……」
「“愁い”って? なーあに?」
いつの間にかちゃっかり後ろにライヒェが立っている。
一通り決着のついた3人休憩がてらこっちに集ってきた。
サラマンダーだけは何故かちょっとふくれっ面だったが。
「どうしたんだよ、ライヒェ。
みんながいるとこにわざわざ出てくるなんて、めずらしー」
「うん、できるだけ早く伝えなきゃと思って」
いつも通りの読めない笑顔で続ける。
「ラキちゃんと空君、いなくなっちゃったー」