複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.94 )
- 日時: 2016/04/01 16:17
- 名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)
僕たちは、その日のうちに町を出た。
ラキは我が家の全財産と2,3着の着替え。僕は刀だけ持って。
軍服は置いて来た。だってあれは、国王が僕にくれたものだから。
とにかく人通りが少ない道を選び、途中で拾ったフードでトレードマークの白髪も、顔も隠して、僕たちは城下町を脱出した。
その後はしばらく歩いた後で馬車を発見したのでそれに乗って近くの村まで運んでもらった。
田畑が広がる少し小さな村についた時には、日は沈み辺りが暗くなる時間だった。
「ふぅ・・・・・・かなり暗くなっちゃったな。こんな時間に来たら迷惑だろうね」
「どうなんだろう。でも寝静まるような時間でもないし、大丈夫じゃないかな」
そんな会話をしながら村に入った時だった。
「おお!ロブ。帰って来たのか。今日の収穫はどうだった?」
村人の一人が僕達に寄ってくる。
僕は咄嗟に彼女の前に立って刀を抜き構えた。
その時別の男がランタンのようなもので僕たちの姿を映しだした後でその男の頭を叩いた。
「馬鹿野郎!旅人じゃねえかよ。すいませんねコイツ眼鏡してないと目悪いもので。村長〜。旅の人が来ましたぁ〜」
男がそう叫ぶと、村の中で一番大きな建物(と言っても城に比べれば雲泥の差である)から出てきた気難しそうな初老の男は叫んだ男からランタンをひったくると僕の顔を覗きこむ。
するとすぐに眉間にしわを寄せた。
「子供二人?こんな時間になんで外を歩いているんだい?」
「僕達は・・・・・・わけあって町を出てきました。良ければ、この村に置いてくれませんか?」
「わけありか・・・・・・わしの家に来い。理由を聞こう」
初老の男についていき、僕たちはその大きな家に入る。
お茶を出してもらったがすぐには手を出さない。毒が入っている可能性があるからだ。
ラキもそれを分かっているのか飲まずに、キッと村長の顔を見ている。
村長は自分にもお茶を入れて飲んだ後で、口を開く。
「君達を村に招き入れることは容易だ。ちょうど今一軒空き家があるからそこを使えば良い」
「ありが・・・・・・」
「しかし、さっき言っていたわけというものをきちんと聞かせてもらおうか」
僕とラキは顔を見合わせる。
しかし、ここで嘘をつくわけにもいかない。ばれれば、下手すれば村を追い出されるからだ。
なので僕は、自分が国王軍の兵士でラキは少し前に死んだ中将の娘であること、国王が酷い人で自分達に被害が来る前にここに逃げてきたことを細かく正確に話した。
全てを聞き終えた村長は二度大きく頷いた後で言った。
「国王が酷い人であることで、君はなぜ自分に被害が来ると思ったんだ?」
なるほど。彼は僕を試している。
ただ裏切られたからと身勝手に町を出てきたと思っているのだろう。
僕は姿勢を一度直し、静かに喉を震わせる。
「あの人は・・・国王は、あくまで城があるあの町だけを重要視しており、その他の村や町などは、最悪潰れても良いと思っています」
「ほう・・・・・・」
「そうすれば、いずれは全ての村や町は枯れ果て、潰れてしまうでしょう。そうすれば、次は城下町から自分のためだけに食料などを搾り取ろうと考えていると思います」
「その考えでは、いずれこの村も潰れるという結論に至るが?」
「いえ、この村は城にも近いですし規模も大きい方なので、少なくとも潰れるのは一番遅いでしょう。後のことは細かくは考えていませんが、とにかく国王から離れたかったので」
「なるほどな。それで恋人を連れて駆け落ちというわけか」
同じポットから出したお茶を村長がゴクゴク飲んでいたので安心してそれを味わっていた僕はそのお茶を空気中に吹き出す。
茶色のしぶきが家の中を照らす裸電球に照らされキラキラ光る。
あら綺麗。
「ゲホッゲホッ!恋人って・・・・・・え?」
「え?って、君達は恋人じゃないのか?」
「ち、違いますよ!」
多分今僕の顔は耳まで赤くなっていることだろう。
ラキも顔を赤くして俯いている。
「はっはっは。若い者はからかうと面白いものだなぁ。冗談だ、気にするな」
「気にしますよ・・・・・・」
悪趣味なおじいさんだ。とはいえ、こんな村だと僕達みたいな青春まっただ中という年齢の者は少ない、下手すればいないだろう。
そう考えればこうして若者をからかうという一種の娯楽を楽しませてあげられるのも今の内なのかもしれない。
いや、娯楽にするなよ。
「ところで、そこのお嬢さんは魔法は使えるのかな?」
突然話しかけられたラキはビクッと肩を震わせた。
まぁ年下の僕がずっと話してしまったので彼女に喋るターンは今まで回ってこなかったので、てっきり話すことはないだろうと思っていたようだ。
でも普通はむしろ年上の彼女が話すべきだと思うが、そこは割愛。
「えっと・・・・・・はい、使えます」
「ほぉ。あの城下町の人間は全員魔法が使えると聞いていたが本当のようだな」
グレンさんは使えなかったみたいだけどね。
しかしそれは口に出さない。
「たまに例外もいますけどね・・・・・・」
「そうか。まぁいい。君は農作業などの力仕事はできないだろうから、子供達に魔法を教えてやってほしい。この村で魔法が使える者はいなくてな」
「そうなんですか。良いですよ」
ラキは朗らかに微笑んでそう答える。
もし彼女が魔法使えなかったら何させられてたんだろう。この村の看板娘とかかな。
「とはいえ、歓迎するよ。二人とも。じゃあ他の者達にも早速紹介を・・・・・・」
「ロブが帰ってきたぞ〜!今日はなんとでっかいドラゴンを3匹も狩ってきたぞ!」
外から声がするので、村長はやれやれといった様子で家を出る。
ていうか、ちょっと待て。ドラゴン3匹を『狩って』きた?『買って』きたの間違いじゃないのか?
僕も慌てて村長家を飛び出した。
そこには首の無いドラゴンを担いだゴツイ男が一人、血に染まった斧を担いでそこに立っていた。