複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.95 )
日時: 2016/04/01 18:10
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)


俺は空とラキの家にいた。
いや、空とラキのものだった家って言うのかな?

「や、やめろよ伝斗。中に入るのは、さすがに……」
「えー、ここまで来てそれ言う? サラマンダーもっと空気読めよー」
「そうだよー。僕が何度も確認して鍵まで壊したのにー」

俺とライヒェが遠慮なく侵入しているのに、サラマンダーはまだ玄関で渋っている。
まったく、踏ん切りのつかないヤツだ。
ライヒェはライヒェで勝手に物色してるし、俺も自由に動いてる。

「やっぱりあんまり残ってないねー」
「うん……本もねぇや」
「本? 読むの? 小説とか?」
「バーカ、魔法の勉強だよ。使えたほうが便利だろ」

ライヒェは、ラキの部屋から服を引っ張り出してファッションショーしてる。
サイズ大きすぎてぶかぶかだけど。

「なあライヒェ。本当に二人って出てったんだよな?」
「じゃないの? だって荷物全然ないし」
「じゃああいつらの行き先とか知らねぇの? 後つけたとかさ」
「……ううん、どこ行ったかはぜんぜん知らなーい」

一瞬手を止めたが、まったく悪びれた様子もない。
ライヒェのことだし、仕方ないか。
それぞれ(サラマンダーを除く)見たいもの見て満足したようなので、帰り際に適当に荒らしておいた。
まあこんなにたちが悪いのは向こうの世界でも俺ぐらいしかいなかったし、もし帰ってきたら気づくんじゃね?
みたいな。
サラマンダーはもう外に出ていた。
相変わらず臆病だなー。こんなのちゃっとはいってちゃっと出れば済む話なのにー。

「早く帰るぞ、俺はもうこんなところにいたくない」
「はいはーい。でも惜しかったなー、魔法の本」
「俺のがある」
「サラマンダーのところに禁断魔法の本ってある?」
「馬鹿か。
 そんな本、学者みたいなヤツのところにしかあるわけないだろ」

あっ、そっか。
そうだよね、興味本位で真似するヤツとかいたら困るもんねー。
なるほどー、盲点だったなー。
じゃあどこで調べようかな。

「お城とかー?」
「おっ、ライヒェ名案! 早速行こう!
 サラマンダー、こないだの鍵!」
「伝斗みたいなヤツに貸したくない!」

サラマンダーの機嫌がすこぶる悪い。
あららー、俺なんかやったっけ?

「お前この前俺のことチビって言ったし。だから嫌だ」
「何だよそれ! 子供かよ!」

流れでそのまま取っ組み合いになる。
いや、サラマンダーが刀抜いちゃってるあたり取っ組み合いで済んでないのかな。
でもさ、コイツ単純だからなんか最近攻撃パターンわかってきちゃったんだよね。
絶対気づいてないし、俺が勝てるようになったから気づかせる気ないけど。

「頑張れ〜」

ライヒェが他人事すぎてちょっとイラッとする。
手伝ってくれればいいのに。
そんなこと考えながら、避けきれなかったふりして上手いことふところに手を伸ばす。
金属の感触があった。
取った!
確信した瞬間、サラマンダーは再び飛び掛ってきた。
しかも、魔法付きで。
炎が俺の指先をかすめた。

「熱っち!」

鍵は綺麗な弧を描くと、小さな水音をたててどこかに消えた。

「あーっ、どうしてくれんだよ。サラマンダーのせいだぞ」
「だからなんだ。もともと俺たちには関係ないものだろ!」

サラマンダーがまだこちらを睨みつけていたが、俺はすぐに目を逸らした。
まったく、付き合いきれない。
彼のほうも唇を尖らせてノームたちのほうへ行ってしまった。
ライヒェはしばらく様子を見ていた。
らしくない少し動揺した口調で話しかける。

「えーとえーと。あ、そうだ。
 ねえねえ、“愁い”って何?」
「愁い? 悲しいとか、そういう感じかな」
「悲しい? じゃあ悲しい顔ってことかなぁ?」
「誰が?」
「伝斗が」

ライヒェの右腕が宙を舞う。
それが地面に落ちるまでのわずかな間、二人は呆然としていた。
俺の中で一瞬、すごく嫌な感じが弾けて溢れる。
怒りのような、違うような。よくわからない感情に押された。

「ライヒェ、それ以上言ったらたぶん左腕も飛ぶ」
「……みたいだね」
「悪いけど少し一人にしてくれる?」
「うん、オッケー」

すばやく右腕を拾うと、ライヒェは二回くらい袖の辺りをはらった。
気づいてなかったけど、白色だからさっき盗ってきたやつかもしれない。
ライヒェの姿が見えなくなる前に、俺も歩き出した。

どこにも行き場がない。
仕方ないから、死体処理でもすることにしようっと。