複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.97 )
日時: 2016/04/05 13:07
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)


家族がある人が死んだ場合、その家に伝えに行かなければならない。
めんどくさいけど、こういうのもやらなきゃいけないんだよなぁ。
俺は大きく息をついた。
例え魔物彼らがであっても、大抵は知らせを聞いただけで目じりを押さえ、中には号泣する者もいる。
俺の母さんが死んだとき、あの男はむしろ笑みを浮かべたと言うのに。
あげく、その関係をなかったことにしてしまったし。
ああ、思い返すだけで反吐が出る。

「次は、女か……」

年は28。若い上に確か死体でも綺麗な人だったよなと思い返す。
そういう人でも容赦なく死ぬのか。
死は平等って、本当だな〜。
人間の姿をしていて、かつ手の甲とか、足とか、ところどころに鱗のようなものがついていて、
血が半透明の銀。
きっと死んでさえいなかったらすげぇ美人なのに。
一応籍に示されている洞窟を訪ねた。
上から落ちた雫が、足元で細い流れを作っている。
暗くて、じめじめしてて、冷たい。
なんか俺の家みたいで落ち着くなー。

「姉上……ではありませんね?」

奥から、声が響いて、心臓が飛び跳ねた。
水を書き分けるような音、闇から一人の少年が姿を現す。

「どなたでしょう?」

—————

彼は、なくなった彼女の弟らしい。

「姉上が……なくなりましたか」
「うん。
 どーする? お前のねーちゃんの死体。別にこっちで燃やしちゃってもいいけど」
「ええ……お願いします」

しばらく黙った後、少年は恐る恐る視線を上げた。

「あの……小生のような者でも、軍に入ることは可能ですか?」
「は? ごめん、もう一回言って」
「小生のような者でも軍に加わることは可能でしょうか……?」

このやり取りを数回交わし、俺はようやく『小生』と言うのが一人称の一つであることに気づいた。

「この体では戦争向きではないとわかってはいますが、それでもお力になりたいのです」
「軍って言うかなんていうか、お前人魚だろ?
 革命軍ははっきり言って軍っぽい軍じゃないし、入れると思うけど」

今まで消えそうだったのが、ぱっと光が差したような表情になる。
弟も、姉に似て綺麗な顔立ちだった。
ガラス玉みたいな目とか、銀に近い髪色とか。
ここでは暗いけれど、光を浴びたらよりいっそう輝きを増すに違いない。

「ありがとうございます!」
「いや、別にそういう仕組みってだけで俺関係ないし、礼とかいいけど。
 あ、名前教えといてよ」
「名……あの、オンディーヌと申します」
「オンディーヌ、ね。
 お前武器とか持ってるの?」

彼は一度闇に姿を消し、銛をもって出てきた。
長さが俺の薙刀と同じくらいで、先に大きな針みたいなのがついている。
なんかちょっと複雑な仕掛けになっているのは、一度刺さったら抜けないようにするためだとか。

「へえ、かっこいいな!
 俺も似たようなのもってるし、一緒に戦えそうじゃん」
「……そのようなお言葉、非常に光栄です」

深々と頭を下げるオンディーヌ。
家族は姉と彼の二人きりだとか、本が好きだとか、そんな話題で盛り上がった。
彼の口調が妙に丁寧なのは、書物でしか言葉を得ないかららしい。
そんなことはさておき、なんかこの洞窟があまりにも居心地がよくて、つい長居をしてしまいそうだ。

「俺、この後まだ数件回らなきゃいけないんだよね。
 また来るから」
「あ……はい」

ちょっと名残惜しいけど、洞窟を出る。
ずっと薄暗いところにいると、光がまぶしい。
数回瞬きをして目を鳴らすと、ふと前方に人が立っていることに気づいた。
男だ。若そうな。しかも、人間。
その人は真っ直ぐとこちらに向かってきている。
知っている顔だった。
確か、あの名簿に……。

「やあ。杜来……伝斗君、だったよね」