複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.98 )
日時: 2016/04/05 13:15
名前: 凜太郎 (ID: eldbtQ7Y)

 さて、僕達には一つの家が与えられた。
 前住んでいた家に比べると小さいが、この際贅沢は言うまい。
 それに、ラキは意外と気に入っている様子なので、僕がワガママを言っても仕方がない。
 ただ一つだけ素晴らしいと思うことがある。
 なんと、寝室が一つしかないことだ。

「異世界、万歳・・・・・・」
「あ、見て見てソラ君。暖炉があるよ」

 ラキは暖炉を指差して微笑む。
 たしかに今夜は一段と冷える。薪は置いてあるし、点けた方が良いだろう。
 彼女もそれを察したらしく、薪をいくつか暖炉の中に投げ込み火を・・・・・・。

「待て待て待て待て待て!」

 自分でも驚く素早さで火を点けようとした彼女の手を止める。
 ラキはキョトンとした様子で僕の顔を見る。
 その顔はすごく可愛いが今は冗談にならないことをしようとしていたぞ!
 そりゃ前の家には暖炉も無かったので(ちなみにラキの風魔法と火魔法の混合魔法を暖房にしてました)暖炉の使い方なんて普通知らないだろう。
 だがしかし、暖炉というものはただ薪を入れて火をつけるだけではすぐに火も沈下し一酸化炭素中毒で死んでしまうのだ。
 僕は一度薪を出し、小さいものを下に、大きなものを上にして組み始める。
 開閉弁を開き煙突を余熱で温め、ラキに頼んで窓を開けてもらい換気をする。
 さぁ、これで準備は整った。

「つきますように・・・・・・」

 少し祈りながら火をつける。
 薪は燃え、しばらくしてパチパチと音を立てて燃え始めた。
 ちなみになぜ暖炉の火の点け方を知っているかって?小説になぜか出てきたんだよ。

「わ、すごい・・・・・・あ、上に毛布あったから、取ってくるね!」

 自分があまり役に立てなかったことを気に病んでいるのだろうか。
 彼女は窓を閉め、すぐに2階に上がり、しばらくしてベージュ色の毛布を1枚持って来てくれた。
 暖炉の前で温まっていた僕は素直にそれを受け取る。
 わお、なにこれすごいモフモフだ。僕は無意識に毛布をギュッと握りしめた。
 毛布を体に巻いている僕の姿が微笑ましかったのか、ラキはニコニコと僕を見ている。

「温かい?」
「ああ。ラキが抱きしめてくれればもっと温かいかな」

 冗談でそんなことを言ってみた。
 やれやれ、彼女相手にこんなジョークを言えるようになるとは。僕も成長したな。
 そんなことを考えていた時、後ろから彼女が抱きついてくる。
 僕の情けない脳みそはそれだけで思考を停止する。

「ふぇ?」
「これで温かい?」

 ラキはふにゃりと微笑み、僕の背中に頬を付ける。
 鼓動が早くなる。彼女には勘付かれているだろうか。多分、気付いているだろう。

「・・・・・・ラキ」

 何か話さないと。僕はそう思って脳みそを働かせる。
 僕にとって唯一の才能だった脳みそ。優秀なはずの脳みそを働かせる。

「ごめんね・・・・・・勝手にこんな所に連れてきちゃって」

 最初に謝罪が口から零れた。
 昔からこうだ。いつも謝るのは僕から。
 相手から謝ってきたのは、多分伝斗のやつくらいかな。いや、あれは僕は悪くない。

「ううん。気にしてないよ。この村良い所だと思うし、あの家はお父さんとの思い出が詰まってるから、あそこに住んでると少し辛かったんだ」

 ラキの今の表情は分からない。
 でも、なぜか微笑んでいると、確信していた。

「ラキ」

 僕は体を捻り後ろを見る。
 見つめ合う僕達。しばらくの静寂。そして僕は・・・・・・・・・・・・。
 ダァンッ!
 銃声が響き渡る。僕たちは立ち上がり、窓から外を見た。
 そこには、何人かの国王軍の兵士がいた。

「なんで・・・・・・」
「今、国王軍の兵士の一人と国民一人が行方不明である。兵士の方は白い髪を持っている少年だ」

 僕は絶句した。国王はそんなにも僕をあの町に縛り付けておきたいのか?
 行方不明者は僕が初めてじゃない。僕が知ってる中でも何人か行方不明になった者もいる。
 なのに、僕たちの時だけこんなこと・・・・・・異常としか言いようがない。

「なんだなんだ、こんな時間に」

 その時村人たちが出てくる。皆寝間着姿だ。
 あの人たちが会ったばかりの僕たちのために命がけで嘘をついてくれるかどうか。
 荷造りをした方が良いだろう。
 そんなことを考えている間に兵士たちが僕たちの説明を終えたらしい。
 ばれるのも時間の問題か、と俯いた時だった。

「そんな少年は知らん」

 窓の外から聴こえた声に、僕は顔を上げた。

「白い髪なんてこの村にはいねえよ」
「それは本当か?嘘だったらどうなるか分かって・・・・・・」
「ロブ〜お客さんの相手をしてやりなさい」

 (ドラゴンの)血に染まった斧を担ぎ、ギロリと兵士たちを見下ろすロブさん。
 それだけで兵士たちは怯えて、去っていってしまった。
 全く、同じ軍にいたのが恥ずかしくなるくらいの弱虫だ。
 って、今はそんなことよりもっと重要なことがある。
 僕は家を出て走って皆の所に行った。

「あの、今のは・・・・・・」
「あぁ。いやはや、まさかこの村まで来るなんてな」
「そうじゃなくて、その・・・・・・なんで、嘘をついてまで・・・・・・」
「は?何言ってるんだお前」

 男はニカッと笑い、

「この村に住んでいるやつは皆家族!それが、この村の唯一の決まりさ」

 この村に来て良かった。心の底からそう思った。
 僕の居場所はここにある。ラキがいて、家族のように大事な人達がいて、僕がいる。
 僕の人生はここから始まるんだ。仮面も、鎧も、メッキさえ剥がされ、自分を偽ることすらやめた今から、始めよう。新しい家族と共に・・・・・・。

「・・・・・・ソラ」
「は?急にどうしたんだ?」
「僕の・・・名前です」

 僕は微笑む。
 頬を伝う液体の名前を、心に刻みながら。