複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.99 )
- 日時: 2016/04/08 17:54
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)
福田竜之介。
名簿の最後のほうに名前があった。
垂れ目で、黒髪の若い男。
「杜来……伝斗君、だったよね」
「……なんで名前知ってるんだよ」
「研究所の近辺に住んでいた人の名前を覚えるくらい、僕には容易いことだよ」
研究所。
やっぱり、向こうの世界の人か。
嫌だな。しかも名前まで知ってるなんて。
「どこまで知ってるんだよ」
「どこまでって、例えば?」
「例えばって、そんなの……」
言いたくない。
そもそも、こっちの世界に着たら、向こうのことなんて関係ないじゃないか。
ああ、聞かなきゃよかった。
福田は優しそうににこっと笑って、悪意もなさそうに尋ねる。
「あれ? もう一人の彼は刀片手に戦っていたのに、君は雑用なのかい?
しかもここ、革命軍の領地じゃない?」
「はは、雑用ね。
ちげーよ。ちゃんと人間を殺す革命軍の一員だし」
「人間を、ね」
彼は少し考えるように目を伏せた。
何もかも見透かしたような態度。実際に名前とか大雑把なことは把握してるらしいし。
気に入らない。何だよコイツ。
「何? 俺が弱いから信じられないとか?」
「まさか。むしろ君が弱いってことはないんじゃないの?
ナイフ振りかざして大人数の相手したり、手八丁口八丁で年上を騙し抜いたり。
革命軍にいても生活できるのは、君が生き抜く術を知っているから。そうでしょ?」
「……マジでどこまで知ってんの」
「あんまり公になってないところまで、かな」
コイツ、意外とあんなこととかこんなとことか知ってんじゃないの。
言いふらされたら困るようなこと……ばかりだから、今更だけど。
「まあ確かに、空君は剣道やってたから剣の扱いに慣れてるかもね」
「そんなの、関係ないでしょ。
剣道なんて一対一で戦うものじゃん。大人数になったら闇雲に刃を振り回す素人と変わんない。
しかも動きが硬いしね。筋力とかつけても動きに変な癖がついてるんだからダメだって、あんなの」
「はは、辛辣だね」
福田がまともに聞いてくれるなんて思ってなかった。
でもさ、事実だし。
多少の速さがあっても、ソラの動き方には限界がある。
いつまであんなことやってるのかな。馬鹿だよね。
「勝つために刀を振るのと、生きるために刃を振るうのは全然違うっての。
空のやり方は、お遊戯の延長だよ」
「厳しいね……」
「まあ、どっか行っちゃったらしいからもう俺とは関係ないけど」
そして一緒にラキちゃんもいなくなった。
惜しかったな。
空が恋焦がれる相手なんて、からかい甲斐があったのに。
福田は唐突に聞いた。
「君は空君の事をどう思ってるのかな?」
「どう思ってる? 別に。特に思うようなこともないけど」
「友達……ではないんだね」
心臓が飛び跳ねた。
『友達』なんて安っぽい言葉に、動揺した。
何それ、空と俺はもうそんな平和ボケした関係じゃない。
「……そんなわけないじゃん」
極端に小さな声になった。
振りかざしそうになったこぶしをぐっと押さえつける。
「なんかお前のこと探してたけど、時間の無駄だったな。
俺まだ雑用があるんで、それじゃ」
「うん。向こうの世界の出身同士として、これからもよろしくね」
ああ、もう本当に嫌なやつ。
去り際に、目を合わせずに吐き捨てた。
「死ね」
—————
俺は珍しくノームたちと一緒に畑作業をしていた。
「リーダー、もっと丁寧に、根から抜いてください」
「うるさい」
「リーダー様、偉そうな口聞いておいてそんなことも出来ねーのかよ?」
「シュリー、お前は自分の仕事をしろ」
いつの間にかこのケントとかシュリーとか何とかってヤツとも打ち解けてしまっている。
大人数で作業とか絶対にできないって思ってたけど、案外効率がいいのかもしれないな。
「そういえば、伝斗は?」
「知らねー。そ言えば最近アイツよくどこか行くことない?」
ケントもノームも首を縦に振る。
こうしてみんなでいることが増えたのは間違いなく伝斗がきっかけなのに、
今では彼がいなくても自然とこのメンバーで集っている。
俺は山になった雑草を捨てる場所を適当に探した。
結構頑張ったな、俺。
「好きな女でもできたんじゃねぇか!? なんてな!」
腕の間からこぼれた一本をきっかけに、俺の手から一気に草の山が崩れ落ちた。
急いで落ちた草をかき集める。
一瞬だけ気がそれた。一瞬だけ彼女の顔が頭をよぎった。
それだけ。
「おう、気をつけろよ!」
「……うるさい」
“もうっ、お兄ちゃんしっかりしてよ! 僕が安心して飛べないじゃん!”
シルフの声を思い出す。
俺が失敗すると、いつもそう言うんだ。
……ダメだ、忘れなきゃ。忘れろ、早く。
「……リーダー?」
忘れ去ろうとすればするほど、くっきりと彼女の像が鮮明になる。
足音、声、表情、その羽の一枚一枚まで、嫌なほど鮮やかに……。
「おい、固まってないで働けよ」
ケントに言われて、我に帰った。
彼女はもういない。
そんなのわかりきったことなのに。
拾おうとしゃがみこんだとき、腕が伸びてきて草を拾い上げた。
「俺に手伝わせてよ。こういうの、結構好きなんだよね」
茶色い髪の少年はにこっと笑った。