複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.100 )
日時: 2016/04/08 17:58
名前: 凜太郎 (ID: qToThS8B)

 小さな丸太を切り株の上に置き、斧で思い切り真っ二つに斬る。
 それがこの村に来て初めての仕事である。
 最初は簡単すぎやしないかと思ったが、やってみると意外と疲れた。
 足腰に常時力を入れていなければ斧を振り上げられないし、振り下ろす時に毎回全力を注がなければ割れるものも上手く割れない。

「ははっ、やってるね〜」

 僕に仕事を任せたおじさん、えっと名前はたしか・・・・・・パウロさん、だったかな。

「パウロさん」
「これだけあれば当分の薪には困らないな。村人への振り分けは俺がやっておくから、少し休みなよ」
「お言葉に甘えて」

 僕は肩を竦め、近くにあった岩に座る。
 そして竹から作った水筒に入った水で喉を潤す。
 ちなみにこの水筒やらは僕の家の隣のフレッドさんがくれたものだ。

「パスパス〜」
「行くよ〜」

 さて、薪割りに疲れて休憩している僕の目の前の広場では、幼い男子4人が2人ずつに分かれてバスケをしていた。
 年齢は5歳くらいの子供が多い。
 木や古い網でできたゴール。地面に木の枝で線を引いただけのコート。
 それを見ていると、中1になったばかりの頃を思い出す。

−−−

 僕は伝斗のことを、『磨けば光る原石』だと思っていた。
 伝斗は、僕が努力で補わなければいけなかった才能をたくさん持っていた。
 なんていうか、彼は機転が良く利いていた。
 発想力が柔軟というか、僕が考え付かないようなことを考えたりするのだ。
 運動神経も良く、体育だけなら僕と同等だと思えた。
 中学生になって彼がバスケ部に入ったと聞いた時は、応援したいと思った。
 多分、自分が努力によって救われた人間だから、人の努力を支えてあげたいと思ったのだろう。

 剣道部の活動が早く終わって体育館を覗きに行った時、なんていうか、普通に驚いたよ。
 伝斗は、1年の中では確実に一番上手かった。
 彼の発想力と運動神経は、バスケに向いてると思っていたけど、本当にすごかった。
 今から一生懸命努力すれば、確実にエースになれると思った。
 僕は彼を応援したかった。信用しているかは置いといて、一応友達だから。
 何かできることを探していた時、部活の中で彼だけが体育館シューズを使っていることに気付いた。
 なんで買わないのかは知らないけど、多分やむを得ない事情があるのだろう。
 そこで思いつく。彼にバスケシューズを買ってあげようと。
 体育館シューズでもできなくはないだろうけど、やはり専用の物の方が走ったりしやすいだろうし。
 それから僕は、時間がある時にインターネットを使ったりしてバスケシューズの有名なブランドなどを調べまくった。
 使い道がなくて溜まりに溜まっていたお小遣いやお年玉の貯金を下ろして、僕はシューズを買った。

 その時が6月くらいだったかな。ちょっと早いけど、彼への誕生日にしてやろうと思った。
 デザインもカッコいいし性能も良い。絶対喜ぶぞ、なんて意気揚々としていたさ。
 その日もたまたま剣道部の活動は早く終わって、僕はシューズが入った箱を持って体育館に行ったんだ。
 でも、そこには伝斗はいなかった。
 僕はバスケ部の顧問の先生に聞いたよ。伝斗は休みですか?って。
 やめたと聞かされた時は、なんかもう・・・・・・何も言えなかったよ。
 僕にはなかった才能に恵まれた彼が、努力せずに部活をやめたんだからさ。
 本当は責めてやりたかったけど、彼にだって何か理由があると思うとできなかった。
 シューズを捨てようかと思ったけど、もしかしたら彼がまたバスケを始めるんじゃないかって思うと、できなかった。
 でも、結局彼がバスケをすることはなかった。
 多分、僕の部屋の押し入れを探せば新品のシューズが出てくるんじゃないかな?

 僕は彼が羨ましかった。僕にはなかった才能に恵まれた彼が。
 努力しなくても、友達を作ることができる彼が。とにかく羨ましかったよ。
 でも、それなのに努力しなかった彼のことを、僕は・・・・・・。

−−−

「すいませーんッ!」

 少年達の声に、僕は我に返る。
 見れば、目の前にボールが迫って来ていた。

「うおッ!」

 僕は咄嗟にそのボールを両手で掴む。
 しかし、その力は思いの外強く、バランスを崩してその場に倒れてしまった。

「うわぁ、強いなぁ・・・・・・これは将来有望だね」
「すいません!大丈夫ですか?」

 仰向けになって転ぶ僕に少年達が駆け寄ってくる。
僕は立ち上がり、服に付いた土などを払い落としてボールを拾い上げた。
 これ本当に子供が作ったのか?皮とかもちゃんとしてるし、大きさだってバスケボールと同じサイズだ。

「このボールすごいね。君達が作ったの?」
「ううん!このゴールとかも含めて、廃材とか集めて、おじさんたちに作ってもらったの!」
「そうなんだ。しかし、さっきのボールの威力はすごかったなぁ。これは君達の将来が楽しみだね」

 元兵士でありそこそこ有名人である僕に褒められたからか、皆照れたように笑う。
 やはり子供というものは褒めれば伸びると思う。これからも伸ばしてあげよう。

「よし、それじゃあ君達のその素晴らしい才能をこの僕が直々に鍛えてあげよう」
「実際はただ遊びたいだけなんじゃないの?」
「あ、ばれた?ま、そこは気にするなってことで。それじゃあまずシュートから」
「はーい(笑)」

 ゴールにシュートを入れていく少年の姿を見ながら、僕は空を見上げる。
 今日は生まれて初めて、晴れた空を憎たらしく思わなかった。