複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.102 )
- 日時: 2016/04/19 18:31
- 名前: 凜太郎 (ID: qToThS8B)
子供達との楽しいバスケも終わり、彼等は現在休憩中である。
僕はダメもとで自分に回復魔法をかけたら疲労が回復したので、子供達にもかけてやる。
まぁ、これで魔法すげーアピールをしておけば、昼からのラキの魔法の授業にも集中できるだろう。
「ははっ、やってるね〜」
そんなことをやっていると、おじさんが一人話しかけてくる。
名前はよく覚えてないけど、顔には見覚えがある。
「しっかし運動なんかしちゃって。今からも農作業は残っているんだよ?」
そう言って鍬を渡してくる。僕は苦笑いをしてそれを受け取る。
「今からちょっと土を耕してくれないかな?」
「はは・・・・・・いいですよ。かなり疲れてますけど」
−−−それから3時間後
「あっつ・・・・・・」
僕はTシャツの胸の辺りをパフパフとやる。
冬だというのに、農作業のせいでとにかく暑い。
今の恰好だって7分丈の黒いズボンに白い長そでシャツだぞ。
それなのに汗が止まらず次から次へと溢れてくる。
「今からそんなに汗だくじゃ、夏には脱水症状で倒れちまうかもな」
僕に畑を耕す作業を押し付けた男、ケビンさんはそう言ってははっと笑った。
ちなみに彼は僕達が村に来た時にランタンを持って村長に叫んだ男でもある。
一通り畑を耕し終えた僕は、鍬を近くに置き岩に腰かけた。
「ふぅ・・・・・・」
「疲れたようだな。でもこのまま次の仕事をしてもらうぞ」
ケビンさんが笑顔でそう言うので僕が軽く身震いをしてしまった時だった。
膝に何か、白くてフワフワした物体が乗った。
空を見上げると、いつのまにか白い雲が空を覆いつくし、雪が降っていた。
「うわ・・・雪だ・・・・・・」
「おいおい・・・・・・農作業は中断だ。今日は早く帰って休め」
ケビンさんはそう言って農具を片付け始める。
僕も鍬を近くに置いていたのでそれを持ってケビンさんに持って行く。
「なんでもうやめちゃうんですか?」
「ん?いや、今雪降ってんだろ?この雪は今夜にでも積もるやつだからな、明日は雪かきすることになるだろうし、今日はもう休んで明日の為に体力を整えておくんだよ」
ふむふむ、勉強になるね。
たしかに今降っているのは、粒も量も多いし、これはかなり積もりそうだ。
そういえば、この世界で積雪は初めて経験するな。一体どんなものなのか、今から楽しみである。
−−−
「うおおお・・・・・・ッ!」
夜、日も沈み辺りは真っ暗闇。それぞれの家の明かりと月の光だけが外を照らす中、その光を反射して白銀の世界がきらきらと光る。
僕はそれを窓に貼りついて見つめる。
すごい。すごいぞこの世界!別に雪を見たのが初めてというわけではない。
しかし、僕たちが住んでいたところは結構都会な方だったので、人の足跡などでボコボコした醜い雪原しか見た事が無かったのだ。
誰も踏んでない雪原・・・・・・もし僕の精神年齢が少しでも幼ければ飛び込むぞ。
なんて考えつつ試しに雪を踏んでみる。
ていうか外寒いなおい。一応上着着てきたけど、やっぱりコートか何か着てくれば良かったか。持ってないけどね。
ちなみに余談だが、僕の服はジュリアさんという女性がくれたものだ。
なんでも、息子が今城に兵士として行っているらしく、歳は僕とほとんど一緒くらい。
なので、その息子のお古を使っていた。
「すっごい綺麗・・・・・・絵になるな・・・・・・」
喋る度に口から白い息が漏れる。自分の体が少し震えているのが分かる。
僕は試しに雪を適当に掴んでみた。シャリシャリとした感触が伝わってくる。
雪自体はさすがに向こうの世界と一緒か。冷たくて、フワフワしていて、それで・・・・・・。
パフンッと音を立てて、背中に何か当たる。
見ると、ラキが口に手を当ててクスクスと笑っていた。
なるほど、戦争というわけか。受けて立ってやろうじゃないか!
僕はしゃがみこみ雪を適量掴んで玉を作る。
さぁ、戦争の始まりだ!
———閑話休題。
「ぜぇ・・・ハァ・・・・・・やっぱり足場がこんなんだと疲れるね〜」
「はぁ・・・・・・うん、そうだね・・・・・・」
僕とラキは雪の上に仰向けで寝転がり夜空を見ていた。
未だに止むことのない雪が僕の顔に降り注ぐ。
背中からはひんやりとした冷たさが伝わってくる。
「ふぅ・・・体が冷えるといけないしそろそろ戻ろうか」
僕は起き上がり軽く伸びをした。
髪に付いた雪を払っていると、ラキが僕の上着の裾を掴んできた。
「ん、何?」
「ソラ君はさ・・・・・・向こうの世界に戻りたいって、思う?」
夜空を見上げたまま、彼女は言う。
この質問をどんな気持ちでしているのかなんて、僕は知らない。
でも、分かることが一つだけある。そう、この質問の答えだ。
「思わないよ」
僕は彼女の手を握った。
雪遊びをしていたせいか、その手はとても冷たかった。
「僕はあっちの世界に戻るつもりはないし、戻りたくもない」
「そっか・・・・・・良かった・・・・・・」
ラキはか細い声でそう呟き、安堵の表情を浮かべた。
このままにしていてもいいが、風邪を引いても良くない(もっとも魔法で治せるが)。
僕は彼女の手を引き、家に戻った。
彼女が風呂に入っている間、僕は暖炉の火で少し湿った体を温める。
「・・・・・・にしても、あっちの世界か・・・・・・」
強いて言えば両親との記憶くらいしか楽しい思い出も特にない場所。
その両親だって、血が繋がってないってだけで周りから勝手に憐みの視線を向けられハッキリ言って少し邪魔だった。あの二人には、本当に感謝しているけど。
この村に来たんだし、できれば伝斗や陸人君にも二度と会いたくない。
伝斗の場合は、僕の自業自得でもあるけれど。
やっぱり信用できない人間には自分からは会いたくないものだ。
殺す価値もない、なんて粋がってしまったけど、もしかしたら今頃僕より強い可能性も無くはないな。
まぁ、戦いから身を引いた僕には、もう関係の無い話だ。
そうだ、今度ロブさんの狩りにでも連れて行ってもらおう。
ドラゴンの狩り方とか教えてもらおうかな。
あの人強そうだし、僕よりロブさんがいた方が村の皆の安心感というものも大きいだろう。
僕もドラゴン倒せるようになったらカッコいいだろうな。
明日すぐに、とかは雪が積もっているだろうから難しいだろうけど、いずれ行きたいな。
「明日が・・・・・・楽しみだな・・・・・・」
今まで感じたことないようなこの気持ち。
この村でなら、僕はやり直せる。新たな人生を、信用できる人達と共に。
自然と笑みが零れた。
−−−
膝まで降り積もった雪に、少女は顔をしかめる。
もう一週間も飲まず食わずのこの状況。できれば少しでも体力を温存しないといけないという時に、これだ。
早く村でも見つけなければ、餓死してしまう。
「急がなくちゃ・・・・・・」
少女は素足で、雪を踏みしめる。
それを嘲笑うように、雪は少しずつ勢いを増すのであった。