複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.103 )
日時: 2016/04/25 21:09
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)


「誰?」

人の良さそうににこにこしている少年をさしてサラマンダーに訪ねた。

「ども! 俺は陸人。
 気軽に下の名前で呼んでよ」

相手が握手を求めてきたように見えたから、俺は思わず右手を引っ込めた。
あきらかに彼を避ける動作をとったにも関わらず、陸人は肩を二度ほど叩いて「よろしく!」と笑う。
空なんかより遙かに親しみはわくけど、俺はあまりこのタイプは好きじゃない。

「おい、サラマンダー。
 なんでこんなヤツがここにいるわけ?」
「……家がないらしい」

革命軍リーダーとか言っておいて、サラマンダーにはまるで危機感というものがない。
俺のときもそうだったが、家がないと言われたら簡単に上げちゃうし、
スパイとかだったらなんて疑うことも知らないんだろう。
しかも一緒に寝ろとかマジふざけんな。刺されるぞ。
あれ、そう言えば俺は添い寝係のためにここに来たんだよな。
代わりがきたってことは、俺、お役ごめんじゃね?

「決めた、俺出てく」
「ダメだ」
「なんでだよ。
 添い寝係はソイツにパス」
「嫌だ」
「俺だって添い寝係は嫌だ」

出ていったらどこに行くかって?
とりあえずオンディーヌのところにでも転がり込もうかな。
別に野宿でもいいし。
二人でにらみ合ってると、あいだに陸人が割って入った。

「俺からもちょっといい?」
「どーぞ」
「ありがと」

彼はひょいと右手をふった。
そういう仕草は軽いのに、礼儀はきちんとしてる。
生徒にも先生にも、加えて保護者にも受けのいいどこかのアニメの主人公みたいなヤツ。
俺、こういうタイプ嫌い。

「俺、確かにここに来たばかりで知らないことも多いけどさ、
 そのかわりここにいる限り君に尽くす。絶対に。
 それに、体使う仕事も自信あるし。
 ボディーガードとかそういうのも君には必要だろ?」

あー、こういう自分を売り込むのが上手いヤツも嫌い。大嫌い。
話の流れでいくと俺に有利そうだから、今だけ調子合わせておくけど。
適当に首を縦に振っておく。

「でも」
「どうしてもだめかな?
 俺に非があるなら直すから、だめな理由を教えてくれないかな?」

陸人の説得は、なんて言うか、抜け目がない。
サラマンダーはなにも言い返せないようで、ずっと押し黙っていた。

「言いたいことがあるならはっきり言えよ、サラマンダー」

ちょっと冷たく言ってやったら、陸人はなだめるように笑った。
俺の言い方が悪かったのか、陸人の気が俺に向いたのが気に入らなかったのか、
(たぶん前者だが、)
サラマンダーはふてくされたような顔になる。

「……もうどこにでも行けよ」
「本当にいいんだね?」
「知らない。もういい」

陸人が不安そうにこちらを伺う。
かまわない、コイツはこうなったらもう言うことを聞かない。
そして俺はそれをねらってあんな言い方をしたんだ。

「じゃーな、サラマンダー」
「勝手にしろ」

もうしばらくここには戻らない。
俺には別でやりたいことがあるし、そのためにはサラマンダーは足枷にしかならない。

゛いらないんだよ、ただ単に゛

その言葉を聞いたとき、俺は何故か恐ろしい不安に駆られた。
でも、よく考えてみろよ。
俺だっていとも簡単に誰かを切り捨てる。
それと同じだろ。
それに……。
あのいい人ぶった笑顔が脳裏をよぎる。
福田、だっけ。
向こうの世界からきた人が俺だけじゃないことは何となく予想してたけど、
まさかそいつが向こうでの俺を知ってるなんて。
下手に革命軍の誰かの耳に入ったら面倒くさい。

「ライヒェあたりはケロッとしてそうだけど」

急に裾がぐっと引かれた。
なにを惜しんでいるのか、サラマンダーが引き止めるようにガッチリ掴んで離さない。
……邪魔。
強く振り払って、振り返りもせずに歩き出した。