複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.104 )
日時: 2016/04/25 21:26
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

 真っ暗闇。上も下もない世界で、僕は立っていた。
 いや、地面すらないのだから立っていたという表現はおかしいか。とはいえ、地面も床もないくせに足はどこかに着いている感覚があるのだから、不思議だ。
 そして目の前には、陸人君が立っていた。

「お前は完璧になんてなれない」

 もう、完璧なんか目指してない。僕は凡人のままでいい。

「完璧にならないと、裏切られちゃうよ?」

 黙れ黙れ黙れ!僕は彼の顔面を殴ろうとしたが、拳は彼の体をすり抜け、体はまるで霧のように消えてしまった。

「あんな剣じゃ命がけの戦いでは勝てない」

 その時背後から声がした。見ると、伝斗がまるで蔑むような目で僕を見ている。

「たかが剣道できるだけで粋がってんじゃねえよ。才能の無いただの弱者が」

 黙れ、黙れよ!才能のある人間に僕の気持ちなんか分かるわけないだろ!
 僕は彼の首を絞めようと首に手をかけ握りしめたところで、消える。

「僕は・・・・・・死にたくなかったなぁ・・・・・・」

 その時、また背後から声がする。
 振り返ってその顔を見た瞬間、僕は硬直する。
 なんで・・・・・・お前がいるんだよ・・・・・・?

「君が僕を殺したんだろ・・・・・・君がいなければ・・・・・・」

 やめろ、来るな、やめろ!僕は後ずさろうとするが、体が全く動かない。
 彼は一歩ずつ近づいてくる。一歩ずつ、一歩ずつ。そして、僕の胸に手を当て、笑う。

「次は、君の番だ」

 ニッコリと笑った彼は、そのまま・・・・・・———。

−−−

「やめろぉッ!」

 僕は飛び起きた。
 部屋はとにかく寒いのに、体は汗だくで心臓はバクバクいっていた。

「ソラ君、大丈夫・・・・・・?うなされていたみたいだけど・・・・・・」

 その時、ラキが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
 どうやら、心配させてしまったみたいだ。
 朝日が窓から差し込み、この村にのどかな一日が訪れた事を知らせている。

「ごめん・・・・・・ちょっとだけ、悪い夢を見ただけだから・・・・・・」

 僕は無理矢理笑って見せる。
 そんなこんなで、今日も一日が始まります。

−−−

 雪かきという作業は、想像通りかなり疲れた。
 シャベルに乗せた雪の塊を眺めながら、僕は何度目かになる溜め息を吐いた。
 白い息が空気中に溶け込んでいく。
 いっそのことラキの上級水魔法で村全体溶かせばいいのに、と案をだしたところ子供たちが雪遊びをするという理由で却下されたのだ。知るかよ。

「もう疲れたのか?」

 声がしたので見ると、ロブさんが立っていた。
 大きなシャベルでも、彼が持つと小さく見えてしまうから不思議だ。

「いえ、まだ大丈夫ですよ」
「そうか。あまり屋根の下には行かないようにな。雪が落ちてきて埋もれるから」

 彼はそう言うと僕の頭を撫で、少し撫でた後で去っていく。
 彼は僕を子供扱いしすぎだ。僕だって雪の日に屋根の下が危ないことは百も承知だよ!
 と言っても子供だということは否定できないので僕はまた溜め息を吐いてシャベルで雪を取り除く。
 しばらくしていると、向かい側の家の人が掘っていた通路に合流した。

「おや、もう自分の家の前が終わったのか」
「えぇ、まぁ。次はどこをやればいいですか?」
「いや、大丈夫だよ。子供はあそこで雪遊びしてなさい」

 そう言って指差した方では、子供たちが雪合戦や雪だるま作りをしていた。
 残念ながら僕は昨夜ラキと楽しく雪合戦をしたので、今更やる気なんて起きない。
 とはいえ、村人の皆を見ていると僕が手伝うこともなさそうなので、適当に村を歩き回ることにした。
 すでに村の出入り口までは通路ができており、村の外には森が広がっていた。

「おー。すごいな〜」

 雪が積もった森というのは、中々の絶景である。
 と、のんびり感傷に浸っていた時、汚れたフードを被った人間がこちらに近づいてきているのが分かった。
 かなり足取りは危なっかしく、すぐにでも転んでしまいそうだ。
 心配になったので、僕は雪の中、足元の雪を最近覚えた水魔法で溶かしながら強引に進みその人に近づいた。

「あの〜、大丈夫ですか〜?」

 僕が声をかけると、その人はハッと顔を上げた。
 それと同時に、その場に膝を着くので僕は慌てて駆け寄った。
 近づいてみてよく分かったのだが、なんとその人は女だった。しかも結構美少女。
 フードで隠れているが、赤くて短い髪。少し淀んだ桃色の瞳。
 こんなにも雪が積もっているという時に、彼女の足は靴を履いていなかった。
 身長は僕と同じくらいで、体格は、筋肉自体はついているようだが、かなり華奢だった。
 とはいえ、伝斗とかに比べればかなりマシだ。あれはもう病気のレベルだよ。いや、もしかして真面目に病気?
 ハッ、もしかしたら今頃病気で死んでたりして!その時にはぜひ葬式に呼んでほしいな。
 そんな冗談はさて置き。

「えっと、大丈夫?」

 僕がその子の顔を覗きこむと、彼女はうっすらと僕の顔を見た。
 しばらく僕の顔を見つめた後で、か細い声で呟いた。

「・・・・・・神様?」

 そう言ってドサッと倒れてしまったので、とりあえず抱いて村に運ぶ。
 僕が人を抱いて戻ってきたので、村人たちも何かに気付いたらしく雪かきをする手を止めて近づいてきた。

「おや、その子は?」
「さっきそこで倒れてました。足を中心に、全体的に凍傷の恐れがあります」
「分かった。とりあえず家はまだ空いてるのがあるからそこに運びなさい。暖炉の点け方は?」
「分かります」
「そうか。それにしてもその子はガリガリじゃないか。多分何も食べてない可能性も高いな。後で食料を運んでおいてやる」
「分かりました。ありがとうございます」
「それはそうとソラ君・・・・・・その抱き方は・・・・・・プフッ・・・・・・」

 一人の村人の指摘に僕は少女を抱く両手を見た。
 まぁ、ザックリ言えばこの抱き方は世に言う『お姫様抱っこ』である。
 焦っていたから適当に抱いたのが、まさかこの抱き方になっているとは・・・・・・。
 僕は恥ずかしくて俯いた。

「と、とにかく!僕は彼女の看病をしてきますから、皆さんは気にせず雪かきを続けて下さい!」
「ははっ・・・・・・まぁ、君にはラキちゃんがいるからね〜」
「ラキとはそういう関係じゃないです!」

 これ以上必死に弁解しても、彼等が楽しくなるだけだろう。
 僕は抱え続けて少し両腕が疲れ始めてきたので一度抱え直し、彼女の家になる予定の家に運んだ。