複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.105 )
- 日時: 2016/04/30 21:56
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)
オンディーヌは戸惑いながらも、何かかんか俺を受け入れてくれた。
助かった。
「悪いな」
「いえ、小生はかまいませんが、しかし……」
「サラマンダーのことなら、気にするなって。
人間一人行方をくらましたくらいで傾くような組織じゃねえし」
唯一の不安要素は陸人とか言う輩だけだが、たぶんあいつはいいヤツだ。
むしろ、サラマンダーにとって最良の人材ともいえる。
俺の計画の邪魔になるなんて、とうてい想像できない。
「本当だったらサラマンダーをお前に押しつけて入れ代わりに出ていこうとしてたんだけど、陸人がいるからなぁ」
「あ、いえ。小生は他と関わるのが苦手なので、今のままの方が……すみません」
そこまで言ってオンディーヌは顔を背けた。
確かに、話によるとオンディーヌは長らく引きこもっていた(って言う表現でいいんだっけ)らしいし。
人と話すことが苦手だとしても、何の不思議もないだろう。
現に、これまで俺とオンディーヌは一度も目があってない。
「あ、もしかして俺、すげぇ迷惑?」
「と、とんでもございません! 滅相もない!」
「そう? ならいいけど。
ところでさ、この棚使っていい? 俺しまっておきたいものがあってさ」
ポケットからナイフを取り出す。
オンディーヌには悪いけど、せっかく戦争を休むチャンスを得たわけだし、これはしばらく手放してもいいと思った。
ぽつんと置かれた引き出しの、一番下の段を開けようとして、躊躇って、その一つ上に手をかけた。
「そこは……っ」
開けた瞬間、むわっと甘い匂いが溢れた。
中に入っているのは葉? のようだが、匂いがエグい。
「そこは触らないでッ!」
彼の白い弱そうな腕が、予想もできない強さで俺を弾き飛ばす。
引き出しが恋われそうなほど、強く叩きつけるように閉めた。
彼の頬を汗が一筋伝う。
「……すみません。
お願いですから、この段には触らないで。
一番上の引き出しを使ってください」
まるで猛獣の様だった。
その豹変ぶりに一瞬呆気にとられる。
「……おう、ごめん」
まだあの匂いが鼻の奥にこびりついている。
引き出しの一番上の開けると、そこには見覚えのある鍵束が横たわっているだけだった。
“禁断魔法の本ってある?”
“学者みたいなヤツのところにしかあるわけないだろ”
“お城とかー?”
“早速行こう!
サラマンダー、こないだの鍵!”
“伝斗みたいなヤツに貸したくない!”
そうだ、あのまま紛失したと思ってたヤツだ。
何でここにあるのかわからないけど、これって絶対偶然なんかじゃない。
空が消えて。
サラマンダーの世話からも逃れて。
なくしたものも見つかって。
そう、これは一種の運命だ。
神はまだ俺に味方してくれているのかもしれない。
「ごめんオンディーヌ。
俺ちょっと用事ができたから。
これ借りる!」
「えっ、その鍵ですか?
かまいませんけど……あの、気をつけてください」
なぎなたと鍵束、それにしまうはずだったナイフをひったくって飛び出す。
ああ、こんなに愉快なことってある?
笑みがこぼれた。
やるなら、今しかない。
不幸が訪れる前に!
雪だとか、もうそんなことどうでもよくなるほど、胸が躍った。