複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.106 )
日時: 2016/05/11 20:51
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

 足からは、痺れるような冷たさが伝わってくる。
 雪を踏みしめるたびに、足の感覚が麻痺してくるようだ。
 飲まず食わずで、そろそろ一週間経つ今日この頃。
 できるだけ体力を温存しておきたい状況で、この大雪だ。
 膝まで積もった雪は、あたしの体力をガンガン削り取ってゆく。

 結局、あたしの人生はなんだったのだろうか。
 誰にも愛されず、必要とされず、独り孤独に親の仇を探し続けた毎日。
 親の仇を探したのだって、本当は生きる意味が欲しかっただけだった。
 でも、色々な人に殺されかけて、すでに今、死にかけている。
 寒さで死ぬか、飢えて死ぬか、魔物に襲われて死ぬか。どれだって同じ。
 結局は死ぬ。それは変わらない。

「あの〜、大丈夫ですか〜?」

 声が聴こえた。あたしは顔を上げる。
 そこには、背の低い白髪の少年が、力強く走って来ていた。
 この辺りでは見た事のない綺麗な白い髪。真剣な眼差し。
 しかし、逞しい足取りやその鋭い視線には不似合いな柔らかい声。
 それにどこか安心してしまい、あたしの足からは力が抜ける。

「えっと、大丈夫?」

 少年はそう言って私の顔を覗き込んでくる。
 こうして改めてみると、彼の存在は色々と、異質だ。
 白い髪というだけで異常な上に、こんな雪の中、運よくあたしを見つけ、しかも助けるだなんて。
 もしかしたら、彼は神様の使いなのかもしれない。
 くだらない考えだが、人間だった場合なんて、ご都合主義すぎる。
 せめて、聞いてみよう。もう、あたしには時間なんて、残されていないのだから。

「・・・・・・神様?」

 力を振り絞りそう呟いたところで、あたしの意識は途絶える。

−−−

「ん・・・・・・ぅ・・・・・・」

 目を開けると、そこには見覚えのない木目の天井が広がっていた。
 ここは、どこなのだろうか?あたしは首だけ動かして辺りを見渡す。

「あ、目覚ました」

 そこには、白髪の少年が立っていた。
 あたしは驚きのあまり後ずさりそうになったが、もう片方は壁だったので後頭部がガンガンぶつかるだけだった。

「え、そんなに驚かなくていいじゃん・・・・・・ご飯できてるから、食べる?」

 あたしが距離を取ろうとしたせいか、彼は少し落ち込んだ様子でそう言った。
 見ると、奥にある台所の鍋からは湯気が立っている。
 それと同時に、あたしのお腹は盛大な音を立てた。

「クスッ、すぐに準備してくるから、待っててね」

 彼は微笑みながらそう言うと、台所に行った。
 あたしはフラフラと立ち上がり、なんとか席に着く。
 しばらくすると、目の前には様々な料理が並んでいた。
 あたしは皿が並べられた瞬間、とにかく片っ端から手を出した。
 全て食べ終わる頃には、何年ぶりかくらいに満腹感を味わうことができた。

「はは・・・・・・そんなに美味しかったかい?」

 笑いつつ皿を片付け始める少年。
 そういえば、かなり前に奴隷市場に売られた時に、白い髪の奴隷は普通の人間より高値で売れていた。
 彼をあそこに売れば、10年は遊んで暮らせる。
 あたしは彼の袖を掴み、彼がこちらを見た所で顔面をぶん殴った。
 彼は皿を落とし、何歩か後ずさった。
 よろめく彼の胸を蹴って距離を取らせ、太股に隠しておいたナイフを一本取り出す。
 トドメを刺そうと一気に距離を詰めたところで、頭突きを喰らった。

「がッ・・・・・・」
「いったいなぁ・・・・・・」

 ナイフを持ったあたしの手を掴み、背負われる。
 視界が回転し、気付けば床に背中が叩きつけられていた。
 殺される!そう思ったが、トドメの一撃は中々来ない。
 彼は自分の鼻骨が無事なのを確認すると、風魔法で竜巻を発生させて皿の破片を集め始めた。

「こ、殺さないの・・・・・・?」
「え?殺してほしいの?」

 キョトンとした表情でそう聞いてくる。
 まるで、殺さないことが当たり前といわんばかりの表情。

「そういうわけじゃなくて・・・・・・だって、アンタのこと攻撃して・・・・・・」
「いやぁ、僕そういうの気にしないんだよね」

 彼はそう言って肩を竦め、笑った。
 その笑顔はどこか年相応な感じがして、なんだか親近感が湧いた。

「なんで・・・・・・?」
「いやさ?僕だってちょっと前までは人を殺して、自分の手を血で染めていた。周りはそれを褒めたから、僕は良い気になって天狗になって。でも、当たり前だけど、僕より格上の存在はいた」

 彼は少し遠くを見るような目で、そう言った。

「でも、今はこの村で、人を殺さなくても、認めてもらえる。こんな僕でも、認めてもらえるから、僕は嬉しい」

 彼はあたしの前に立つと、手を差し出してくる。

「一緒に生きよう、この村で」
「・・・・・・何それ、超クサイ。つか、ダサい」

 あたしは本心を吐露した。
 なんていうか安いドラマの主人公みたいだったから。
 あたしの言葉を聞いて、彼は顔を真っ赤にして膝を抱えた。

「だって君ってなんか人を信用してない雰囲気あったからさぁ!どう接して良いのか分からなかったんだよ・・・・・・」

 そう言って大きく溜め息をつく。
 なんだか、変な少年だな。平気でクサイセリフは吐くし、安っぽい言葉を平然と並べられるし、明らかに演じているような雰囲気もある。
 でも・・・・・・温かい。
 まるで、晴れた空のように。私の心のどこかを、温めてくれる。

「・・・・・・面白いね、アンタ」

 あたしは、いつしか笑っていた。
 自分が笑われて恥ずかしかったのか、彼は不満そうな顔をしている。
 あたしはしばらく笑って満足して、彼の目を見る。

「あたしは、ラルナ。今日からよろしく」
「あ、えっと、ソラです。今日からよろしくって・・・・・・マジ?」

 彼はぎこちなく、あたしが差し出した手を握り返す。
 その仕草が面白くて、あたしはまた笑った。