複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.107 )
日時: 2016/05/13 22:32
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: BnjQrs2U)

暗がりに目を凝らし、指の腹で金属質の扉をなぞる。
ここにたどり着くまでは容易かった。異常なほどに。
城内は今までの印象に比べて、人がえらく少ない。
通りすがりの兵士の噂では、何かを探しに出払ってるらしいけれど……まあ、好都合だ。
書庫があるかどうかも半信半疑で侵入したのに偶然兵士が本の話題をしていたおかげで、あっという間にたどり着いた。
マジで幸運すぎて逆に不安になるくらい。
明かりをつけるのはもう少し我慢だ。中に入ればこの分厚い扉がいくらでも隠してくれる。
ようやく見つけた鍵穴にそっと、順番に鍵をさしていく。

「これでもない。次も違う……」

そんなこんなで全ての鍵を試したけど、全部はずれ。
ここまできて引き下がるのも癪だ。
でも、見つかったらそれはそれで大問題。いや、The End。
そんな恐ろしいこと、考えたくもない。
落ち着け、もう一度順々に……。

「ん? 今フォークの音がしなかったか?」

背筋が凍る。
正確にはフォークの音じゃない。鍵の音だ。でもそんなことはどうだっていい。
早くこの重い扉を開かなければ。
ここで終わりなんて、やっぱり神は残酷だ—−。
もうパニックだったのか、近くに落ちていた針金を鍵穴につっこんだ。
上、下、手探りで一つずつ窪みをずらす。
芸は身を助けるって、本当かもしれない。
あのときの悪事が、こんなところで生きてくるなんて。誉められたことではないけども。
重い扉の隙間から中に転がり込んだ。

「っはあ、マジ死ぬかと思った……」

ぼふっと舞い上がる綿埃を払う。
数回瞬きし、扉が閉まっていることを確認した。
そっと、小さなランプに灯りをともす。
目の高さまでそれを掲げたとき、俺は思わず息をのんだ。
廃墟のようにそびえる本棚が、暗闇から不気味に浮かび上がる。
そこに並ぶ、幾千もの書物。
俺にとって、それは未知の世界だった。
この中になら……!

ーーーーー

だいぶ時間がたった気がする。
目を皿のようにして文字という文字を漁り、見つけた本はたった一冊。
タイトルも埃に埋まってしまっているうえに、ひたすら厚くて重い。
まあでも、これが見つかっただけマシかな。
この中には砂粒のような字でびっしりと、『一般的な回復魔法を除く、人間にかかる魔法』についてかかれている。

“そもそも魔物って言うのは人間の魔法の失敗作みたいなものなのにさぁ、
 それに呑まれそうになったから迫害するなんて、やっぱり人間は愚かだよねぇ”

『死者蘇生』は一見すると回復魔法のようだが、ラキちゃんの回復魔法の書物には掲載されていなかった。
つまり、あれは『一般的な回復魔法を除く、人間にかかる魔法』ってことで間違いないだろう。
さらにライヒェの言い分が正しいとしたら、ほかの魔物についても同様と考えて間違いない。
「俺はドラゴンだ!」って言い張るどこかの誰かさんにもそろそろ現実を見てほしいし。
……使えたら、なおよし。
さっそく左脇に抱えていそいそと部屋を出ようとした。

「これって……」

視界に入ったのは、一つの挿し絵。
葉っぱの絵だ。
しかも、先ほどオンディーヌが隠していた(というと人聞きが悪いが)
あの葉にそっくりだった。

「……一冊が二冊になるだけだし」

急いでそれも手にとって、逃げるように城から出た。
いや、まあ実際逃げてるけど。
鍵束はポケットに滑り込ませる。
当分返す気はないんだよね。

なんとか第一段階を終え、一人で安堵のため息をついた。