複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.108 )
- 日時: 2016/05/15 20:25
- 名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)
「はぁッ!」
僕が思い切り振った右手の木刀はロブさんの持つ木刀に弾かれ、宙を舞う。
僕は即座に左手の木刀を振ったが、すぐに木刀を持ちなおし、そちらも弾かれて手を離してしまう。
すぐに僕の首には木刀が突きつけられた。
現在、僕とロブさんは訓練という名目で組手をしている。
今のところ僕の34戦0勝34敗だけどね。
村の雪かきも終わり、ロブさんが暇していた様子だったので、なんとか頼み訓練してもらうことにした。
村を出て少し歩くと、森の中でちょっとした広場になったような場所があり、そこの雪を溶かして木を切って簡素な木刀を作り、戦える場所は作った。
そして、ひとまずロブさんも専用の武器は剣ではないので、戦ってみて、僕の悪い部分を指摘してもらうことにしたのだ。
「お前は、剣の才能は無いな」
いきなりそう言われた。
あ、ヤバい、何かがグサッと刺さった感覚がある。
ちょ、待って、それはマジ辛いから。
そりゃ分かっていたよ?僕に剣の才能がないことも、そもそも運動面に関しての才能は皆無だという事も。
「あと、なんか動きも固いし、クセもあるな。剣筋は悪くないが、これ以上強くなるのは難しいな」
ぐはぁっ・・・・・・。
もう僕のSP(精神ポイント)は0だよロブさん。そろそろやめません?
僕の願いが届いたのか否か、彼は指摘を止めてしばらく考え込み、言った。
「お前、魔法は使えるんだよな?」
「え?あ、はい。まぁ・・・・・・」
突然どうしたのだろうか。たしかに、最近暇な時間は魔法の特訓に費やしているから、全属性の中級までは使えるようにはなったけど。
中級まで使えると、割と戦いのバリエーションは増えるんだよね。
混合魔法とかも、考えれば結構色々あるし。
「じゃあ、これからは魔法で戦え。お前の戦い方は魔導師に向いている」
そう端的に言った。
いや、急にそんなことを言われても、僕はあくまで魔法はサポートで、基本剣の方が馴れてるんだが。
「お前は剣を振る時に考えすぎている部分がある。普通の戦いでは、剣を振る時は何も考えず、速さを追求する必要がある」
な、なるほど・・・・・・。
「まぁ、今すぐに、っていうのは無理だろうが、強くなりたいならそうした方がいいと俺は思う。まぁ、ちょっと休憩にしようか」
彼はそう言うと森の中に入っていく。
斧を持って行ったので、恐らく木を切るか、ドラゴンでも狩りに行くのだろう。
僕は火照った体を冷やすために、雪の中にダイブした。
相変わらず、冷たいな。でも、気持ち良い。
にしても、魔導師か・・・・・・。
魔導師ってことは、杖とか持って魔法ぶっ放すのかな。
この世界で魔導師なんて見ないから、よく分からないけど。
「俺、この戦いが終わったら、魔導師になるんだ」
適当にそう呟いて寝返りを打った時だった。
「死亡フラグ、お疲れ様」
目の前には黒髪の青年、福田 龍之介が立っていた。
「どうしたんですかこんな場所で」
「それはこっちの話だよ。行方不明になったって聞いていた人間が、目の前で雪に埋もれて死亡フラグ立てているんだからさ」
あぁ、そっか。僕って一応行方不明扱いなんだっけ。
なるほど、確かに僕も逆の立場なら混乱するかもしれない。
「別になんだっていいじゃないですか。それで、何か用ですか」
「いやぁ、元々用は特に無くて、ただ歩いていただけなんだけどさ。今、用できた」
そう言うと、彼は持っていた鞄から2冊の本を取り出した。
「それは?」
「まず、こっちの本は魔法に関する注意事項とかが書いてある本」
そこまで言うと、目つきが一瞬変わったような気がした。
今までヘラヘラしていたのが、急に真面目になったような、そんな感じ。
「魔法については僕も色々と調べたから、知っている。これは、君が思っているほど簡単なものではない」
「はぁ・・・・・・」
「この本を読めば分かると思うが、念のために言っておく。この世界では、魔力量に応じて髪色は変わっていて、異世界から来た僕達にも、それは適応されている。君の髪が白くなったのは、そのせいだ」
僕は無意識に自分の髪を指で触った。
魔力量に応じて、変わる?じゃあ、僕の髪が白くなったのは、僕の魔力量によるものだということか?
「君が魔導師になることを止めるわけじゃないし、魔法を使うこと自体は悪いことじゃない。でも、気を付けてほしい。力は時に、己の身を滅ぼすということを」
普段の彼とは違う、真面目な雰囲気。
何が言いたい?そもそも、僕の白髪の理由がなんとなく分かっただけで、僕の魔力量は分かっていないからピンとこない。
でも、話の流れから察するに、かなり多いのかもしれない。気を付けよう。
「分かりました・・・・・・気を付けます」
「そっか・・・・・・。それならいいんだ。じゃあ、もう一冊だね。こっちは上級以上の魔法が載っていて、結構色々すごいのが載っている本だよ」
「いきなりすごいの出したな!?」
「冗談だよ」
「・・・・・・」
「これはね、禁断魔術が載っているんだ」
禁断魔術。
死者蘇生とか、世界を滅ぼしかねない魔法とか?
「大当たり」
じゃあ、それはいらないな。
「え、なんで?例えば君の大事な大事なラキちゃんが死んじゃった時に、死者蘇生を使えば生き返らせられるんだよ?」
どうせそういうのは、命と引き換えとか、確実に魔法を使った後で何かを請求されるものだ。
いや、命と引き換えならまだいい。例えば呪いに掛かった状態で不老不死とか、そういう意地が悪いものが憑く可能性もある。
それでも、ラキを生き返らせるなら、もしかしたら手を出すこともあるかもしれない。
しかし、もしかしたら、生き返らせても記憶喪失だとか、廃人になるとか、確実にそういうものは付いてくるだろう。それでは、ラキが苦しむだけだと思う。だから、いらない。
そういうのは自暴自棄になっている馬鹿にでも渡しておけばいい。少なくとも、僕は今の状態で満足している。禁断魔術に手を出すほど、落ちぶれてはいない。
「・・・・・・まぁ、君ならそう言うと思ったよ。この本は君を試しただけ。気を付けるとか言いながら受け取ったらどうしようかと思っていたよ」
そう言うと、仰向けに寝ている僕の腹の上に本を置いた。
恐らく、魔法に関する注意事項とかの本だろう。
福田さんは禁断魔術の本を鞄にしまう。
「ソラ?誰かそこにいるのか?」
その時、後ろから声がしたので振り返ると、ロブさんがこちらに歩いてきていた。
福田さんを紹介しようと振り向いたところで、僕は溜め息をついた。
そこには、誰もいなかった。
「話し声が聴こえたんだが?」
「・・・・・・いえ、独り言です」
僕は話を濁し、本を片手に立ち上がった。