複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.109 )
- 日時: 2016/05/29 01:47
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: 2GGQ3F7r)
その書は、不安になるほど簡単に持ち出すことができた。
前街を歩いたときの感じではもっと警備が厳しかった気がするが、何かあったのか、三分の一ほどまで減っている気がする。
サラマンダーにそれを教えればほぼ間違いなく革命軍の勝利に貢献できるはずだが、生憎今はアイツに会いたくない。
「誰に会いたくないって?」
空から可愛らしい、且つ皮肉を含ませた声が降ってきた。
見上げると、枝々の間に小さな影があり、そこから二つのエメラルドグリーンの瞳が光を放っている。
「……お前、よく瞳の色変わるよな」
「うーん、そう? あんまり意識してないやぁ」
カラスみたいな黒い陰が揺れて、赤い舌がペロッとのぞいた。
この陰、すなわちライヒェに会うのは久し振りだと思う。
いや、そんなことないか?
「久しぶりだよ。
僕、君を捜して飛び回ってたんだから」
「その過程でその眼も?
ってか お前、目 好きすぎだろ」
「まあこの体の前は瞼がただれてくっついてたし、この体の持ち主のも地味な茶色だったし。
それよりマシかなって」
「地味で悪かったな」
俺は自分の顔をよくみたことはないが、たぶん黒より焦げ茶に近い色をしている。
俺はこの目が嫌いだ。
目だけじゃなくて、鼻も、口元も、顔、いや全部が嫌いだ。
今のままの身長じゃクローゼットの一番上に手が届かないし、
こんなに腕が細かったら、女性1人持ち上げられない。
「伝斗でもルックスに不満とかあるんだぁ。
なんか意外」
「そうかぁ?
俺はいっそのこと全部とっかえたいけど」
「わかる〜、その気持ち。
僕もこんなのよりあの紅い瞳が好きだな」
ライヒェはやや興奮気味だった。
紅い?
そんなのいたっけ?
サラマンダーは金色だし。
「そうだっけ?
彼はあんまり近づかせてくれないから覚えてないや。
僕が言ってるのは女の子だよ」
「女?」
「とぼけなくていいよ。
ラキちゃん、あの子の目って父親譲りの紅色でしょ」
言われて、しばらくしてから思い出した。
ラキ、ああ、彼女か。
もう記憶のかなり端に追いやられていた。
それほどに忘れたかったのか、あるいはどうでもよかったのか。
たぶん後者だろう。
「ラキちゃんで思い出した。
大ニュースだよ。僕ついにあの白髪ボーイの居場所を見つけたんだ!」
「へー」
「なにそのリアクション。
もっと大げさに喜んでくれたっていいじゃない」
確かに、空の居場所が分かることは、こちらにとって好都合だった。
サラマンダーに報告すれば間違いなく単身で突っ込んでいくに違いない。
でも、俺にとってはそれすらもどうでもよかった。
「なに? 興味ないわけ?」
「今のところはなー。
そもそも空とか眼中にないし」
「あっそう。
じゃああの赤黒い髪のアイツにも言うけどいいんだね?
引き留めるなら今だけど?」
ライヒェは少し無愛想に言った。
俺が妙に無関心すぎることにご立腹らしい。
でもそんなこといったって、興味ないものは仕方ないじゃん。
それにほら、今はオンディーヌと一緒にいたいし。
それに、最近ライヒェの相手も飽きてきた。
「引き留めない。
じゃあな、当分来なくていいよ」
「……あっそ」
ライヒェは最後に疑いの目でじろじろと俺を見てから、唇をとがらせた。
念を押すように強い口調で、
「本当に引き留める気がないんだね?
ラキちゃんたちが殺されてもかまわないんだよね?」
「まあね」
まだ何か気にしている様子だったが、埒があかないと判断したのか、ライヒェは再び闇に溶けて消えた。
“友達……ではないんだね”
福田とかいうヤツのいやーな一言を思い出した。
気がつけば最近、アイツがいなくなることばかり考えている。
死ねばいいのに、消えちゃえばいいのにって。
そういうときは大抵、自分が追いつめられてどうしようもないことが多いのだけれど。
「……そもそも、嫌いだし」
俯くと、自分の弱々しい身体が目にはいるのが溜まらなく悔しい。
だから、前以外何も見えないフリして、真っ直ぐと洞窟へ足を進めた。