複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.111 )
- 日時: 2016/06/12 00:30
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: aFJ0KTw3)
僕はこの辺りで一番背丈の高い木によじ登った。
ああ、どうしよう。本当にどこにもいないよ。
ん? もちろん、伝斗ってヤツのことね。
赤黒い髪のアイツも知らないって言うし、ただの家出だといいんだけど。
余談と言えば余談だけど、リーダーのところになんか見たことないヤツがいた。
特に惹かれるような容貌じゃなかったから無視してきたけど、アレ誰だろ?
赤黒の髪が言うには荷物もまとめて出てったらしいし。
困るなぁ、不安なんだよね。
あ、いっとくけど僕が心配してるのは伝斗の脳のことで、あいつ本人には興味ないから。
そこんとこよろしく。
……。
と無駄なおしゃべりをしていると、町より少しはずれた方向に人影が見えた。
うーん、よく見えない。
ハーピーの目ってやっぱダメだなー。超鳥目って言うか、超暗いとこ見えない。
その前の目はサイズががっばがばだったし、年頃の子の目が一番しっくりきていいんだよねー。
とりあえず近くで確認してみるしかないかな。
大鎌を携えて、思い切り枝を蹴飛ばす。
木々の隙間を飛び移るのはフランケンシュタインとか死神とかそんなワードにはほど遠いんだろうな。
でも超速いから。ほら、もう着いたっと。
その男は人間らしい風貌で、明らかに伝斗より年上だった。
「ねえ、そこのおにーさん。
僕に興味ない?」
薄暗い中にとけ込んだ僕に気づいてなかったんだろう。
その人は一瞬驚いた顔をして、すぐににっこりと笑った。
「はじめまして。君は……人間なのかな?」
「んー、元人間。今は違うかも」
へんてこな僕の返答にも「そっか」と頷いただけだった。
普通はもっとあからさまに敵意をむき出しにしたり、そうでなくても何らかの警戒はするだろうに。
大して気にする様子もないし、この人変人なのかな。
「僕に用事でもあるのかな?」
「あっ、そうそう。
僕さ、男の子探してるんだ。えっとね、細くてー、長い武器もっててー、髪とかの色が白っぽい……?」
「白? じゃあ空君かな?」
違う、と言おうとして思いとどまる。
よく考えたら彼も行方不明扱いなのだ。
情報は一つでも多い方がいいに決まってる。
「うーんと、その子も探してる」
「なんで?」
なんで?
なんでって何が?
首を傾げていると、その男は笑顔のまま言った。
「君に教えるメリットなんてこちらにはないじゃないか。
それに空君に危害が及ぶようなことはできないからね。当然だろう?」
「えー、メリット? 空とかいうヤツに危害を加えないじゃダメなの?」
「それじゃ交換条件として釣り合わないからね」
……この男、なかなか一筋縄ではいかなさそうだ。
やだなぁ。
僕めんどくさいの嫌いなのに。
うーん、何かいいのないかな。
「僕の体の一部をあげるっていうのは?」
「そんなものを僕がもらってどうするの」
男は苦笑した。
彼の顔は最初から張り付いたような笑顔なんだけどね。
「じゃあ禁断魔法のなかの一つを教えるってのは?」
「うーん、なかなか悪くないね。
僕は魔法つかえないけど」
お、これはいい手応え。
よし、このままこれで押し通そう。
「いやいや、魔力の量に差はあるけど基本的には魔法は使えるはず……だし、
そもそも禁断魔法の類って魔法をかけられる側の魔力にも依るから、
君本人の魔力量だけでできないと決めつけちゃうのはもったいないしね」
「ふーん……詳しいんだね」
僕、禁断魔法の被害者ですから。
まあ、でも損ばかりじゃないよ?
あの魔法のおかげでこんなにかわいい顔になれたんだからむしろ感謝。
棺桶に閉じこめられて腐り落ちるよりよっぽどいい人生だと思わない?
「まず材料はね……」
「おっと、ちょっとストップ。
これじゃ声が筒抜けだし、紙にまとめてくれないかな。
僕も空君の居場所を教えるけど、紙にまとめてある方が君的にもいいだろう?」
「あー、ごめん。僕、字書けない。
魔物ってそんな人ばかりだよ」
彼は少し驚いて、でも納得したような表情をした。
そして空のいる村の名前とだいたいの方角を示す。
僕もつらつら長々と死者蘇生の手順を説明したけど、彼はメモを取ることもなくニコニコして聞いてるだけだった。
「まあね、僕記憶力には自信があるんで」
「じゃあはじめから紙にまとめなくてもいいじゃん」
「ああ、確かに」
彼はキュッと目を細めた。
容姿も特別そそるものはないし、何か生き甲斐があるようにも見えない。
ライヒェにはこの男が欲を満たすために生きているようには見えなかった。
彼は何が楽しくて微笑んでいるのだろうか。
っと、大事なことを聞いてなかった。
「ねえねえ、ついでに伝斗とかいうヤツ知らない?」
「……本当に君は彼らに危害を加える気はないんだろうね?」
念を押すように、彼が訪ねる。
いや、逆にこちらが聞きたいよ。
何で彼はここまで空や伝斗を意識するんだろうって。
君はいったいヤツらの何だっていうのさ。
「そうだね、僕らは同じ次元の出身なんだ。
ここから遥か離れた、ね。
仲間意識とか、そんな類のモノが芽生えちゃってるんじゃあないかな」
「それだけ?
まあいいや。僕、伝斗と約束があったのに向こうが逃げちゃって困ってんだよね。
知ってるなら早く教えてよ」
「その小川の辺り。あまり詳しい訳じゃないけど、そこで会ったんだ。
洞窟のそばともいうかな? 僕が知っているのはそれだけだよ」
詳細なことじゃないからか、案外あっさり教えてもらえた。
僕が満足げにしてると、「そうだ」と、付け足すように彼は続ける。
「仲がいいならかまわないんだけど、少し伝斗君は様子を見た方がいいかもしれない」
……意味不明。
首を傾げると、彼は笑顔のままいう。
「僕らがここに来る前、彼については悪い噂が絶えなかった。
一部挙げるなら、例えば……いじめの一環で盗みをしているとか、同級生にナイフで切りかかったとか、
あと先生を何人か退職に追い込んだとか、母親殺しとかね。
根も葉もない噂だけど」
「そう、でも噂でしょ」
「でも彼は否定しなかった。
僕が若干ほのめかしたけど、そのとき彼はこう言ったんだ。
『どこまで知ってんの?』ってね」
……だから? って言うのが僕の感想だけど。
いっか、知りたいことはわかったし。
あーあ、空の居場所までわかっちゃうなんて、僕ってなんてラッキー!
赤黒髪には教えないでおこう。
空の白髪を汚されたりするのはイヤだし。
ほら、アイツ野蛮じゃん?
伝斗には教えた方がいいのかなぁ。
「とりあえずありがと、ニコニコさん」
「ニコニコさんって……」
彼は苦笑した。
やっぱり笑顔は変わらない。
へーんな人間。
「最後に教えてよ。
ニコニコさんは魔物の味方? それとも人間?」
彼はすぐに答えた。
「僕は誰の味方でもないよ。
僕は僕の味方」
ですよね。
それさえわかれば満足。
僕二 三度頷いて、すぐに闇の向こうに消えた。
僕は革命に興味はない。人間にも興味はない。
僕が大切なのは僕だけ。
たとえ強くても弱くても、所詮みんな考えることは同じだよね。
“僕らは同じ次元の出身なんだ。
ここから遥か離れた、ね”
どんな環境で育ってもそれは同じ。
赤黒髪のアイツも、ニコニコさんも、伝斗だってよく似た理想を追いかけているはず。
だから、と言い訳のように言葉を補う。
リーベだって、同じだったはず。
自己肯定で満ちた胸を躍らせながら、僕の姿は夜に溶けていく。