複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.112 )
日時: 2016/06/12 21:43
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

 朝起きると、体には疲労感が溜まっていた。
 昨日は大変だった。サラマンダーとかいう革命軍のリーダーが、俺の力を見たいとか言うから軽くあしらってやったら、どうやら負けず嫌いだったらしく、「もう一回」と言った感じで、彼の体力が切れるまでやらされた。
 戦うこと自体はそこまで疲れない。俺強いし。
 でも、真剣使った状態で、相手を『殺さない』っていうのは結構疲れる。
 殺したらいけない相手と真剣で戦うなんて、力を制御するのが大変だった。
 とはいえ、俺の中で殺して良い人間なんて、知り合いの中じゃ一人しかいないけど。

「そういえば・・・・・・アイツもこの世界、いるんだよな・・・・・・」

 6年ぶりに会った時は驚きの方が大きくて、何もできなかった。
 アイツが里親に貰われてからはおもちゃが無くて、ストレス溜まったんだよな。
 次会った時には殺そう。アイツは目障りだ。

『陸人君、はさ・・・・・・僕のことを騙していたの?』

 あぁ、そうだよ。俺は君のことなんかハッキリ言えばどうでも良かった。
 でも、無駄に頭は良いし、俺に無い物を持っていて、アイツのあの澄んだ目で真っ直ぐ見られると、「お前は完璧にはなれない」そう言われているような気がした。
 だから関わらないようにしていたのに、アイツがいつも一人でいるせいで先生に仲よくしてやってくれとか言われたから、仕方なく一緒に遊んでやった。
 はっきり言って、苦行だったよ。アイツと長く一緒にいるのは。
 だからいじめた。幸い、他の奴らも空君を嫌っていたので、俺が指示を出せばその通りに動いてくれた。俺の命令で空君が苦しむのを見るのは、かなり楽しかったさ。
 でもしばらくして、彼は完璧を求め始めた。
 夜にコッソリ筋トレしたり、当時の俺じゃ読めないような難しい本や、色々な本を読み漁ったり。
 完璧になることなんてできないくせに。努力なんかじゃ埋められない差があることに気付かず、無駄に努力して、空回りして。まるで道化師だった。

「ハァ・・・・・・アイツのこと思い出すなんて、最悪の目覚めだな」

 俺は前髪を掻き上げ、息をつく。
 頬を叩き、頬の筋肉を少し緩ませ顔に笑顔を貼りつける。
 そして長刀を担ぎ、いざ出陣・・・・・・というところで、棚の隙間に冊子のようなものを見つける。

「これは・・・・・・」

 手に取るとそれは、色々な人間の情報が載った本だった。しかも、向こうの世界の。
 なんでここにあるのかは知らないが、別にあっても困らない。
 俺はそれを丸めてズボンのポケットに突っ込み、俺は外に出た。

「・・・・・・」

 それとほぼ同時に、周りにいた魔物(笑)さん達がこちらを見てくる。
 普通に見るだけでなく、明らかに嫌悪とか、負の感情が籠った視線。
 とりあえず、俺は『それに気付かない爽やか青年』を演じることに徹した。

「おはようございます。皆さん」

 笑顔でそう挨拶してみたが、返事は無し。
 随分とまぁ、嫌われたなぁ。ただ君達のリーダーと戦って文字通り百戦百勝しただけじゃないですか。
 自分達に強い仲間が出来て嬉しいと思えないの?バカなの?死ぬの?精神年齢低すぎじゃないですか?幼稚園からやり直すんですか?そんな疑問が純粋に頭に浮かぶ。
 これ言ったら怒られるだろうなぁ。この人数で囲まれたら、疲れそう。
 まぁ、負けないから命には関係はないんだけど。
 俺はそんなことを考えつつ、しばらく歩き、人目のつかない場所に行く。
 そこで岩に座って、冊子を開く。
 なんていうか、個人情報保護法とか関係なさそうな、つまびらかな情報がギッシリ載っている。
 その人の利き手とか、恋愛履歴とか、貯金残高とか。

「うわ、すげ・・・・・・」

 ペラペラと捲っていくと、とあるページで俺の手は止まる。

 晴太 空。

 見覚えのある顔。憎い顔。
 過去の思い出が色々と思い出される。

『はい、これ落としたよ?』

 ウザい、ウザい、ウザい、ウザい、ウザい、ウザい、ウザい、ウザいッ!消えろッ!

『陸人君はすごいよ。僕もいつか、陸人君みたいに・・・・・・完璧に、なれるかな、なんて・・・・・・』

 お前は!完璧になんて!なれないんだ!
 俺の右手は、気付けば近くに落ちていた古びたナイフを持っていた。
 左手は、彼の写真を握りしめ、グシャグシャにしていた。

「ぁ・・・ぁあッ・・・・・・」

 俺はそのまま、しわだらけになった写真にナイフを・・・・・・———。

「何をやっているんですか?」

 いつの間にか隣に立っていた巨人の言葉に、俺は我に返る。
 俺は何をやっていたんだろうか。我を忘れるなんて、俺らしくない。

「いえ。特になにも」

 俺はすぐに笑顔を顔に張り付けつつ、ナイフを音を立てないように地面に落としておく。
 確かコイツの名前は、ノーム、とか言ったか。
 筋肉質でがっしりした体に、右足は義足で左目には眼帯を装着している。
 実物を見たことなどないが、歴戦の戦士とか、そんな言葉がよく似合いそうな男だ。

「そうですか・・・・・・」

 彼は右目で俺の体を見下ろし、小さく呟くように言う。
 俺としては、単純に寝泊りできる場所が欲しくて上がり込んだのだが、まぁ、このまま嫌われたままより好かれた方が生活しやすいのは分かり切っている。何か手伝いでもして点数稼ぎをした方がいいだろう。
 そう思って俺は、冊子をポケットにしまいつつ、彼の持ち物を見る。
 桑に、何やらでかい袋。
 単純に考えるなら、農作業だろうか。

「あ、もしかして、農作業ですか?だったら手伝わせてください!」
「いえ、大丈夫です。間に合っていますので」
「じゃあせめて、この袋を運ばせてください。俺、こういう力仕事とか得意なので」

 俺の言葉に、彼は渋々といった様子で頷き、袋を渡してくる。
 結構重いが、まぁ気にするほどの重さではない。手触り的に、肥料か土だろう。
 どこに運べばいいのか聞いて、俺は歩き始める。
 それと同時に、考える。
 力はある。あと足りないのは情報だけ。
 今の空君の情報。あちらの世界でのものと、こちらの世界でのもの。それと、こちらの世界自体の情報。
 集めきれば、準備は完了。俺なら、彼を殺せる。

 だって、俺は完璧だから。