複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.114 )
- 日時: 2016/06/29 22:03
- 名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)
「なんでまたここに来ないとダメなんですか、僕は」
「仕方ないだろう。物資の補充はここでやっているのだから」
フードを被ったままの僕の頭を、ロブさんはポフポフと撫でた。
現在、僕とロブさんは城下町に来ている。
そう、つい先日まで僕が住んでいた町だ。
元々、あの村は僕がいなくとも人手に困ったこともないし、前のように若者いじりでこき使われることはあるが、最近は雪なども積もったせいで割と真面目に農作業をしなければいけない状況なのだ。
知識も技術も力もない僕は手伝えることもなく、とはいえただ見ているだけというのは悪いと思い、何かできないか聞いた結果、城下町に買い出しに行くことになった。
流石にもう僕を探し回っていることはないだろうが、見つかれば即逮捕。からの拷問などの罰が下されるかもしれない。それがなくとも、まぁ、また人殺しをしまくる兵士時代に逆戻りさせられるかもしれない。
そんな理由から、町脱出の際に着たフードを着て、護衛にロブさんも引き連れて町へと舞い戻って来た。
力仕事が得意であろうロブさんを連れてきても良かったのかと思ったが、ロブさん曰く、「村の農作業より子供の身の安全の方が大事だ」らしい。何この人良い人すぎる。
「それで、何を買うんでしたっけ」
僕はロブさんに聞きつつ、町の様子を見る。
相変わらず、活気に溢れた町だ。
それを見ていると、もしかしたら、国王も本当は良い人で、あれは夢だったんじゃないかと思えてしまう。
しかし、仮にそうだったとしても、僕は今の村での生活の方が好きだ。戻る気はない。
「えっと、たしか肥料と、農具も古くなっていたから、新しいものを買うくらいかな」
「わぁ・・・・・・重そうなものばかり・・・・・・」
「お前一人だったとしても、持てなかっただろうな」
「今日はお世話になります」
「どうした。急にかしこまって」
そんな会話をしていると、ロブさんは誰かにぶつかった。
視線を向けた僕は、息を呑む。それは、国王軍の兵士だった。
兵士は怯えた表情を浮かべ、すぐに逃げ出そうとしたが何かを思い出したらしく、すぐにこちらに戻って来た。
「あの、聞きたいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか」
「良いが、速やかにしてくれよ?」
「はい。えっとまず、こちらの書物を知りませんか?」
自分のことかと思った僕は、多分自意識過剰なのだろう。
兵士が差し出したのは写真で、そこには辞書とかよりも数倍分厚い本が写っていた。
「これは何だ?」
「最近、城の書庫から消えた本でして」
「ほ、本が消えるなんてことは・・・・・・よくあることなんじゃないですか?」
僕はできるだけ喉に力を込め声を変え、ばれないようにして聞いてみた。
兵士は僕の言葉を聞くと、笑顔を浮かべてそれに応えてくれた。
「この本には禁断魔法という、とても危険なものが載っていて、持ち出しどころか、書庫に入ること自体も僕達兵士にしか許されていなかったんだ」
僕許されてなかったけど?
「まぁ、とある中将だけは許されてなかったけどね。彼はまだ、子供だったから」
「へぇー・・・・・・」
舐めやがってこの野郎ッ!
いや、納得はいくんだ。どんなに戦えても僕だってまだ子供。
そりゃ、そんな危険なものを齢15歳。しかもこんな低身長で下手したら小学生にも見えかねない子供に渡せないだろうさ。それはいいよ。置いておこう。でもなんかね、悔しい。
なにが「僕の隣まで上がって来い」だクソが。そもそも他の兵士より待遇が違うじゃないか。
「そういえば君・・・・・・その中将に似ているような気が・・・・・・」
僕の顔を見下ろしながら、兵士は言う。
ロブさんが何を感じたのか、前に出ようとしたが、僕は彼の服の裾を掴んで止めた。
「世の中にはそっくりな人は三人いると言いますからね」
「確かにそうだね。ごめんね。変なこと言って」
はにかみながら言う兵士を見て、ロブさんも安心した様子になる。
「そういえば、その中将ってどんな人なんですか?子供で中将って・・・・・・」
ちょっとした好奇心で、聞いてみた。
墓穴を掘ることになるかもしれなかったが、なんとなく、聞いてみたかった。
彼は優しい笑みを浮かべた。
「子供なのに、どこか大人で。小さい体なのに、頼もしくて。少なくとも僕にとっては、最高の中将です」
・・・・・・聞くんじゃなかった。
こんなに僕を慕ってくれる人を、僕は裏切ったんだ・・・・・・。自分の身を守るためだけに。
「・・・・・・そうですか」
「はい。では、僕はもう行きます。ありがとうございました」
会釈して去って行く兵士の後ろ姿を見つめながら、僕は俯いた。
後悔と、罪悪感と、その他、よくわからない感情がごちゃ混ぜになって、言葉にすら表せない。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「・・・・・・ちょっと、待ってください」
歩き出そうとするロブさんの服の裾を掴み、僕は掠れた声で言う。
できるかぎり、今僕の胸の中にあるぐちゃぐちゃの感情を外に出さないようにして、声を出す。
「なんだ?」
「少しだけ・・・・・・行きたい場所があるんです・・・・・・」
−−−
懐かしい。そんな感想しか、思い浮かばない。
ラキと、住んでいた家。鍵が壊され、中は荒らされた、家。
誰が荒らしたか。誰が鍵を壊したか。そんなことは、どうでも良かった。
「ああああああああああああッ!」
比較的綺麗だった、二階の僕の部屋で。僕はひたすら、暴れた。
棚をぶち倒し。カーテンも引きちぎり。ベッドに置いてあった枕も破り捨て。
しばらくして、僕の部屋は、ボロボロになった。
息が荒い。僕は、横に倒された棚に腰掛けて、自分の顔を手で覆った。
「なんで人を裏切るのは・・・・・・こんなに簡単なんだ」
人を殺したことがありますか?あるよ。何度もある。
じゃあ、大切な人を殺したことは?・・・・・・二回。
一人は、好きな人の、父親。僕の無駄な優しさが殺してしまった。
もう一人は・・・・・・———。僕が裏切ったから、死んだ。
もう、こんなこと嫌だよ。忘れたいよ。
でも、忘れられない。だってそれを・・・・・・『彼』が許してくれないから。
僕は左胸の辺りに手を当て、自分の鼓動を感じる。『彼』は今でも、僕の中で生き続けている。
心の中で、とか、記憶の中で、とかではなく。本当に、僕の心のどこかに寄生して、生き続けているのだ。
ホラ、今でも目を瞑れば、すぐ目の前で笑ってる。歪な笑みで笑ってる。
僕の負の感情を食って、少しずつ、成長してるんだ。
『彼』が僕の精神を蝕むのが先か、僕が『彼』を完全に殺すのが先か。
「早く・・・・・・消えてくれ・・・・・・」
僕は、ここにはいない誰かに、そう願った。
その後僕は、何事もなかったように立ち上がり、ロブさんと一緒に買い物をした。