複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.118 )
- 日時: 2016/10/20 19:14
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: 0ymtCtKT)
オンディーヌはしばらく黙っていた。
「……不快でございましょう。
申し訳ない」
「いや」
「姉上も、この話をするたびに顔をしかめておりました。
過去を引きずる男は醜いと」
俺は、不快どころか、むしろ親近感と高揚感が沸き上がって、
自分でもなんとも表現しがたい感情に襲われていた。
父親に対する嫌悪感も混じっているのか。
気まずそうにするオンディーヌの背骨をなぞる。
「俺も同じだ」
「同情はいらんのです」
「同情っていうか……俺も、父さんに母さんが殺された」
彼は顔を上げた。
目に浮かんでいるのは、驚き、憐み……好奇心。
今、オンディーヌもきっと俺と同じ気持ちに違いない。
「俺の母さんの場合は自殺だったんだけど。クローゼットで首を吊ったんだ」
「首を……」
「だいぶ前から父さんは帰ってこなくって、母さんは電話をかけるたびにヒステリー起こして、
八つ当たりが酷くてさ、まあ殴られるはうるさい輪で散々だったよ」
当たられるこっちの気持ちにもなってほしいよね、何て笑って見せる。
本心を言うなら、こんなことあんまり口に出したくないし思い出したくない。
でもさ、俺はきっと心のどこかでこう思ってたりもするんだ。
もっと同情してくれよ、ってな。
なんて可哀想なんだって言って、抱きしめてほしいだけなんだ。
でもそれはそれでみじめな気もして、なんだかよくわからない。
そんな俺を、学校の大人たちは嫌った。
「わかります」
ぽつりとオンディーヌがつぶやいた。
その気持ちがわかるだなんて散々言われてきたけれど、こんなに重い言葉は初めてだ。
しばらく二人とも黙っていた。
「でもさ、お前はいいな。いい姉ちゃんじゃん」
それにお前だっていいヤツだよ。
だって、誰も俺を陥れようなんてしないし、誰も俺の存在をかき消さないから。
そういう意味では、ここは天国だ。
俺は絶対にこの世界からは帰らない。何があっても。
オンディーヌの薄い唇から、姉上、と言葉が零れ、うずくまった。
「姉上はその時から小生を養ってくださりました……。
ああ……姉上……」
嗚咽で震える肩に、そっと手を添える。
薄っぺらい身体だ。
骨格がむき出しになったような背中は、頼りない。
華奢な脚では、いまにも立てなくなってしまいそうだ。
「姉上にもう一度会いとうございます。
自分はなんて弱いのでございましょう」
頼りないもの、それは、美しい。
何かに縋りつく姿は、愛おしい。
そういう輩は、誰かがいないと生きていけない……母さんもそうだった。
儚げな人間は、いまにも壊してしまいそうで、すぐにでも壊してしまいたくなる。
衝動的に、この手で。
「大丈夫。俺も、一緒だから」
口から出た優しい言葉とは裏腹にどす黒い欲望が渦巻き、ずしりと腹にのしかかった。