複雑・ファジー小説
- 番外編・1 まだ繋がりさえ無かった話 ( No.16 )
- 日時: 2015/11/09 22:40
- 名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)
番外編・1 まだ繋がりさえ無かった話
取り巻く人々の“才能”。
笑えてこない?
“才能”っていうのは、それぞれ持ってるたった一つしかないものでしょ?
それを分類するなんて変だろ。
でもこの世の中はそうやって成り立ってる。
“物体操作”。
“空間操作”。
そして。
この世界にあるもう一つ。
“精神操作”。
これが最も忌み嫌われる、“才能”。
この能力が発動する人はごく僅か。
確かに気味が悪いかもしれない。
勝手に相手の心を読んだり、操ったり、騙したりできる。
目には見えないからこそ、人はそれを恐れる。
でもね。
別に好きでこうなったわけじゃない。
本当はこれは俺の“才能”だって、胸をはって言いたいんだ。
でも、社会はそれを許してくれない。
疎外して、無視して。
誰も見てくれないんだ。
寂しいよ。
俺には周りのやつらの気持ちが嫌ってほど分かる。
なのに、誰も俺の気持ちを分かってくれる人はいなくて。
悲しかった。
まだ少年だった、
彼、岡本 幸太は孤独に震えていた。
- 番外編・1 まだ繋がりさえ無かった話 ( No.17 )
- 日時: 2015/11/13 23:42
- 名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)
岡本がその能力に気づいたのは、まだ小学生だったとき。誤ってぶつかってしまった友達に手を差し伸べた際に、相手の感情が身体全体を駆けていくの感じた。相手の痛み、怒りが直接頭に鳴り響いた。最初は全く理解できなかったが、だんだんと相手の感情が手にとるように分かっていった。ある時、相手の考えを岡本が先に言ってしまったことがあった。相手がもじもじしていたから、岡本は善意のつもりで代弁しようとしただけだった。しかし、それからだ。岡本が“精神操作”の持ち主であり、その能力を乱用したと言われるようになったのは。たちまち周りの友達は消えていき、独りになった。
「俺、なんか悪いことした?」
岡本はそれを何度も口にした。しかし、彼に訪れたのは否定だった。
家族は唯一見放さずに一緒にいてくれた。が、岡本には分かっていた。家族の疲労を。決して顔には出すことはなかったが、周りの偏見に耐える家族を見るのは岡本自身にとって本当に辛かった。
14歳のある日。
そんな生活に耐えかねた岡本は独り、家を出た。
もう迷惑かけたくはない、その一心だった。
◆
独り歩いていた。
何分?
何時間?
何日?
どのくらいの時間がたっただろう。
覚えてない。
人波に入ると、感情が勝手に流れてきた。
見たくもないのに。
聞きたくもないのに。
お願いだから、
俺の声を聞いてよ。
誰か、感じて。
◆
不意に誰かとぶつかった。
岡本は頭を下げ、すぐに立ち去ろうとする。
しかし、その男性に肩を掴まれた。
岡本の顔は不安で包まれる。
きっとバレたんだ。
そんな恐怖が身体全体を包んだ。
「お前・・・・・・」
相手の口が開かれる。
「悲しそうな顔してる」
- 番外編・1 まだ繋がりさえ無かった話 ( No.18 )
- 日時: 2015/11/14 23:55
- 名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)
◆
え?
今、なんて?
それ、俺が今思ってたことだよ?
◆
「大丈夫か?」
男は岡本の顔を覗き込む。
岡本はその場で固まってしまった。
まさか。
まさか。
自分の感情を分かってくれる人がいるなんて。
思ってもいなかった。
◆
この出逢いは偶然だったのか、それとも必然だったのか。
それは分からない。
でも、今こうして出逢った。
斎藤 真人と岡本 幸太。
二人の繋がりはここから始まった。
- 番外編・1 まだ繋がりさえ無かった話 ( No.19 )
- 日時: 2015/11/16 23:04
- 名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)
◆
「で、連れてきたの?」
長田は斎藤を見る。いや、正確には斎藤の背に隠れる少年を。
「だって、腹空かしてそうだし、なんかほっとけなかったっていうか・・・・・・」
斎藤は長田にそう返す。長田は首を傾げ、後ろの少年を覗きみようとする。それを見ると少年は斎藤の服にしがみついた。
「まさ君、この人誰?」
「?」
長田は疑問符を浮かべる。まさ君とこの少年は誰かを呼んだ。まさ君ってまさか・・・・・・。
長田はたどり着いた結論に思わず吹き出す。斎藤はそれを見ると慌てて訂正しだした。
「これはこいつが勝手に言い出したんだよ!」
「まさ君って、斎藤が、そんな可愛く呼ばれちゃうなんて、なんかもう、可笑しくて」
笑いを抑えることなく、長田は話す。いつの間にか斎藤の顔は真っ赤になっていた。
「面白い子だね、そんなに怖がらないで。俺、まさ君の友達だから」
長田!と斎藤の怒りを込めた声が聞こえたが、長田は無視する。
「それから、俺の後ろにいる子もね。あの子は望月 美音。仲良くしてあげて?」
その言葉で長田の後ろにいる存在を確かめるために、少年はゆっくり斎藤の背後から恐る恐る顔を出すと、長田の後ろにはテーブルで静かに本を読む美音の姿があった。美音は視線に気づいたのか、視線を少年に向け、少し微笑んでから再び視線を本に戻した。
「俺、長田 宏樹。好きに呼んでいいよ。君は?」
「岡本、幸太」
「じゃあ、岡本くんでいいかな?よろしくね」
「よろしく、宏樹」
今度は斎藤が吹きだした。このあと斎藤に水が入ったコップが飛んできたのは言うまでもない。
番外編・1 完