複雑・ファジー小説

番外編・3 悪ガキコンビは追いかけっこがお好き ( No.26 )
日時: 2015/11/24 22:39
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)

悪ガキ二人。




「ほら、圭!行くぞ!」




「ちょっと陽人!待って!」




夜の街。




明るく楽しい声が響いた。










番外編・3
悪ガキコンビは追いかけっこがお好き

番外編・3 悪ガキコンビは追いかけっこがお好き ( No.27 )
日時: 2015/11/25 22:45
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)


「空き巣?」

長田は首を傾げる。江ノ島は資料を見ながら話した。

「なんか最近多いんだって。だから気を付けてね」

「ねえねえ、空き巣ってなに?」

注意を促す江ノ島に美音が空き巣の意味を尋ねる。すると江ノ島は真剣な表情で解説を始めた。

「空き巣っていうのは、悪い人が家が留守の間に入り込んでいろんなものを盗んで行くんだよ。戸締りちゃんとしないとね」

「へぇ・・・・・・」

怖いね、と美音は一言口にした。すると奥から声が聞こえ、

「どうしたの?」

岡本が出てきた。

「おはよう幸ちゃん。なんかね、空き巣が多くなってるの」

「ふーん。まさ君もとっしーも大変そうだね」

岡本は皿を持つと他人事のように告げる。

「幸ちゃん、もうちょっと興味持ってくれてもいいんじゃない?」

江ノ島は寂しそうに話すが、岡本の態度は変わらない。

「俺には関係ないもん」

江ノ島はがっくりと肩を落とす。そんな様子を長田と美音は微笑みながら見ていた。



「長田〜」

しばらくして、小声で美音が話しかけた。長田は何?と言いながら美音の話に耳を傾ける。

「岡本の能力って、本当に人の心を読みとることなの?」

その言葉に近くにいた江ノ島が反応する。長田は江ノ島の様子に気付き、声をかけた。

「江ノ島、何か美音の考えに思い当たる節でもある?」

「ん〜・・・・・・、まあ・・・・・・ね」

あからさまに江ノ島の歯切れが悪い。美音はやっぱり、という顔をして江ノ島を見た。長田はぼそっと呟く。

「そういえば、この世界で同じ能力を持つものはいない、だったよね」

「まだ幸ちゃんが隠し事をしている可能性が高いのか・・・・・・」

「宏樹ー、これ何処にしまうっけ?」

噂をすれば何とやら。キッチンから出てきた能天気な岡本によってこの話題はやむを得ず中断されることとなった。

番外編・3 悪ガキコンビは追いかけっこがお好き ( No.28 )
日時: 2015/11/29 22:02
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)





斎藤は聞き込みに追われていた。目撃者のいない空き巣事件。しかし、今ひとつ情報が集まらない。ただひとつ言えるのが、

「夜によく聞こえるんですよ。二人の男の子の楽しそうな声が」

と口ぐちに地域の人々が言うことだ。

(そいつらが犯人っぽいな。そうじゃなくても、深夜徘徊なら補導の対象だ)

斎藤は聞き込みを進めていく。ただ、もう少し情報が欲しかった。決定打になるような、何か。














「よーと。次どうする?」




「そうだな、決めてない」




「ならさ、ならさ!ここなんてどう?」




「いいんじゃない?」




「よし!じゃあ、決まり!」

番外編・3 悪ガキコンビは追いかけっこがお好き ( No.29 )
日時: 2015/11/29 22:31
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)

「岡本くん、塩切れちゃったから買いに行ってくれる?」

「はーい」

長田に頼まれ、岡本は昼下がりの街へ繰り出していく。

おつかいは初めてではない。これまでも何回か、長田に頼まれ出かけたことはあった。

(この角を曲がるんだったね)

目的地まではあと少しだ。

不意に岡本は前方の人間とぶつかった。岡本はその人物を見る。自分とはあまり歳の差はなさそうな少年だった。

「すみません」

岡本は頭を下げ、道を譲った。その少年は何も言わず去っていく。

(なんだ、感じ悪いな)

岡本は少し膨れ顔のまま歩きだそうした。

——あれ?

岡本は異変に気付く。ポケットの中にあれがない。

財布・・・・・・。

身体をパンパンと叩き、探すが見つからない。

どっかで落としたかな・・・・・・。

来た道を戻ろうとしたとき、先には先程の少年がいた。

まさかな・・・・・・。

岡本は彼に向かって意識を集中させる。少年の声が頭に響いた。

(なんだこの財布、全然金入ってねえし)

あーーーっ!!!!!!!!!!
岡本は少年に向けて走り出す。

「待て!この泥棒!」

前の少年はその声に驚いたように駆け出した。

「え!?バレた!?」










別々の場所で二つの携帯が鳴った。





同時に手にとる。




「どうしたの、岡本くん?」




「どうしたの、陽人?」







息切れをしながら二人は答える。




「泥棒!財布すられた!」




「やばいやばい!見つかった!」










「「えーーー!!!!!!」」




別々の場所で二人の声が重なった。




昼下がりの街。




バタバタとした追いかけっこが始まった。

番外編・3 悪ガキコンビは追いかけっこがお好き ( No.30 )
日時: 2015/11/30 22:37
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)

「何やってんだよ、もう!いつもそんな失敗しないくせに!陽人のばかばか、ばかぁぁぁっ!!」

「いつも通りやったよ!何でかわかんないけどバレたもんはしょうがないだろ!」

宮守の怒りが森山の耳に響く。しかし森山は今、逃げるのに必死なようだ。

「財布捨てちゃえばいいんじゃない?その場にポーンって」

森山は僅かに後ろを振り向く。相手はものすごい勢いでこちらに迫っている。財布を返したからといって許してくれそうにもない。

「無理無理!いや絶対そんなんじゃ止まらないよ!めっちゃ怒ってるしスゲー勢いで俺追っかけてる!」

携帯から聞こえる宮守の呆れ声。森山は頼りにならない相棒のことを嘆きながら走った。




その時、一人の男とすれ違う。




岡本もまた走っていた。

(絶対逃がさない・・・・・・!)

目線のその先、岡本はある人物を見た。

(あれ・・・・・・、とっしー!)




江ノ島は空き巣事件の聞き込みをしていた。一人歩いていたとき、見知らぬ少年とぶつかる。

「ごめん、大丈夫?」

江ノ島は声を掛けようとするが、少年は駆け去った。

「なんだ?あんなに急いで?」

「とっしー!」

岡本の声が後ろから聞こえる。

「あれ、幸ちゃんどうしたの?そんなに走ってさ。」

「あいつが、俺の財布とったんだ!泥棒!」

「えー!」







「増えた!増えた!」

「今度はなにー」

宮守の声のトーンは低い。

「もっと親身になれよ!増えたんだよ!なんか偶然ぶつかった奴も俺追っかけてんだよ!」

「いや、わけわかんない。何その偶然」





「あ!いたよ!」

美音の声が聞こえる。電話をうけた長田と勝手についてきた美音は岡本を探して街を走っていた。岡本と江ノ島が並走しているのを通りの横から見つけた二人はそれにまざる。

「岡本くん!もしかして前を走ってる子が財布とったの?」

「そう!」

「スリなんてしちゃってさ・・・・・・。絶対に逃がさないよ!」

「「「怖っ・・・・・・」」」

どことなく黒いオーラを発した長田に答える三人。どうやら追っかけっこは終わりそうになさそうだ。






「圭!圭!やばいって!」

森山は携帯に向かって叫ぶ。

「はーい。なんですかー」

既に棒読みの宮守。

「また増えた!」

「それ本当?なんか展開がありきたりで信用できないんだけど」

「バカ!本当だよ!さらに増えてんだよ!とりあえずめっちゃくちゃ黒いオーラ出してる奴も加わったんだよ!」

「陽人、今度病院行く?俺ついてってあげるからさ。」

ついに宮守は森山を心配し始めた。

「ふざけんな!とにかくこの状況を打破する方法を考えろよ!」

「分かったよ。じゃあいつもの場所に向かって来て。俺も考えとくからさ」

通話は切られた。森山は全力で走る。ここで捕まるわけにはいかなかった。

番外編・3 悪ガキコンビは追いかけっこがお好き ( No.31 )
日時: 2015/12/02 23:10
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)

「斎藤に連絡しといたよ!もうこっち向かってくれてると思う!」

長田は三人に伝える。

「まさ君が来たら、一発で捕まえられる!」

「斎藤がいれば百人力だね」

「俺もばっちり覚えたから、もう逃げらんないよ!」

三人が意気揚々と話した。




そして。




「おい」

少年の前に立ちはだかる大きな影。ついに少年は立ち止まった。後ろには三人が控えている。はさまれた。

「話、聞かせてもらおうか」

斎藤は少年ににじり寄る。少年は僅かに後ずさりした。




(やばい・・・・・・)

森山の顔に汗が伝う。まさに逃げ場がない。

(ちくしょう・・・・・・!)

諦めかけたその時、

「陽人!」

あいつの声が聞こえた。





斎藤は後ろから迫る足音に気づき、振り返る。丁度、顔の前に走り寄ってきた少年の高く蹴り上げた足の裏があった。

「陽人から、離れろ!」

クリーンヒット。もろにくらいそのまま後ろに吹き飛んだ。

「サンキュー、圭!」

少年は安堵の表情を浮かべる。

「まさ君!」

岡本は斎藤に駆け寄った。

「なにすんだ!」

岡本は少年たちを睨む。だが、二人は全く聞いていない。

「岡本、俺は大丈夫」

斎藤は静かに立ち上がる。四人はそのただならぬ空気を感じていた。

(まさ君、怒った・・・・・・)

「この、クソガキ!」

斎藤は能力を発動させる。目の前の二人の身体が宙に浮き始めた。二人の驚く様子が岡本の目に映る。

(よっしゃ!これなら・・・・・・)

ブーン。

一匹の虫が斎藤の鼻に止まった。

それと同時に浮いていた二人の身体が地に降りる。

(・・・?は!?)

岡本には状況が掴めなかった。岡本だけではない、その場にいた全員が?マークを浮かべている。

「ま、まさ君!?」

虫を見て、気絶していた。












宏「・・・・・・。」




寿「・・・・・・。」




陽「・・・・・・。」




圭「・・・・・・。」




幸「・・・・・・。」




美「・・・・・・。」












「ねえ、長田くん。斎藤くんって虫苦手なの?」

「苦手は苦手だけど、ここまでとは知らなかった」

「どうすんのこれ?なんか俺、この展開の申し訳なさを色んなとこに謝らなきゃいけない気がしてきたよ」

「これはさすがにひどい展開・・・・・・」

「まさ君、使えない」

目の前の二人はすでに遥か後方に走り去っていた。

残された四人と道路で絶賛気絶中の一人。なんかすげーむしゃくしゃする。四人はそんな気持ちを抑えることが出来なかった。顔を見合わせる。どうやら次に考えていたことは皆同じだったようだ。

「「「「ふざけんじゃねえよ!!!!」」」」

四人の足蹴りが夢に落ちていた斎藤の腹に入った。

番外編・3 悪ガキコンビは追いかけっこがお好き ( No.32 )
日時: 2015/12/04 23:35
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)

「何かわかんないけど、ラッキー!」

森山と宮守はハイタッチする。

「危なかった・・・・・・」

ある廃墟に辿り着いた二人は胸をなで下ろした。

「でもさ、陽人がバレちゃうなんてよっぽどだね」

「最初は全然気づいてなかったんだけどな、何でだろ?」

「まあ、逃げれたんだからいいよね!」

宮守の声が楽しく弾んだ。












「逃げれた?」




二人のものではない声。それに驚き二人はその声がしたほうを見やる。

「俺たちのこと、なめすぎだよ」

「これぐらい楽勝かな」

「約一名使えんのいたけど、あれはカウントしないから」

あの四人が立っていた。

「なんで、この場所分かったの!?」

宮守が叫ぶ。

「圭、相手にすんな」

森山が会話を遮った。その言葉に四人は驚く。

「どうせお前ら、能力持ちなんだろ?だったら、別に難しいことじゃない」

森山は四人を睨む。先程まであの明るい声を出していたとは思えないほど冷え切った目だった。

「あ、分かった」

宮守は何かを思いつき、岡田を指差す。

「あいつ、‘精神操作’なんじゃない?だから陽人がとったの分かったんだよ」

「なるほどね」

二人は岡本を見る。その岡本は自分の能力を名指しされ動揺していた。

(どうせこいつらは俺が気持ち悪いって言うんだ)

次にくるセリフを岡本は覚悟していた。しかし、森山から告げられたのは意外な言葉だった。

「なに?‘精神操作’だからどうせ気色悪いとか思われてるとか思ってんだろ?そういうのがむかつくんだよ!」

岡本は驚く。三人もまた同様だった。

「能力持ちはいいよな、そうやって悩めてさ。都合のいいときには使ってあとは自分の能力は嫌いだとか言いやがって!」

「俺らみたいな無能力者のこと、考えたことないでしょ?」

森山の言葉に宮守が続いた。

「俺らにとっちゃ、能力者は全員一緒なんだよ」

岡本はその言葉に固まる。今まで自分だけが被っていたと思っていた社会の闇。それを彼らは、受けていると言っている。

「そんなの・・・・・・」

返す言葉がない。これが闇なんだ。無意識に誰かを傷つける。誰もがその立場に立ちうる。そう、自分も。

「確かに能力使ったよ、だから君たちの場所が分かった」

長田が岡本の前にでた。小声で岡本に「大丈夫だよ、岡本くんが悪いわけじゃない。」と言う。

「岡本くんは勝手に君の心を読んだ。それは謝るよ。でもね」

江ノ島が言葉のバトンを受け取った。

「していいこととダメなことあるじゃない?ほら、人のものとっていいわけないよね」

二人の身体がビクッと動いた。

「ていうかさ、」

続けて美音は小さく笑いながら二人に告げる。

「思いっ切り名前叫んでたしね、それが一番の証拠だよ。この辺りでこの名前の子いますか?って聞いたらいますよー、この廃墟よく出入りしてまーすって近隣の人が言ってた」

顔を見合わせる二人。確かあの時・・・・・・。




(「陽人から、離れろ!」)




(「サンキュー、圭!」)




・・・・・・言ってた。

「お前が先に言ったんじゃねえか、バカ!」

「陽人が失敗しなきゃこんなことになってないだろ、アホ!」

喧嘩を始める二人。そんな二人に江ノ島が近づく。

「じゃあ、一緒に来てくれるかな」

きゅうっと二人は縮こまる。








ついに追いかけっこの決着がついた。

Win 岡本・長田・江ノ島・美音

Lose 宮守・森山

戦力外 斎藤 (もう参加しなくていいよby岡本)

番外編・3 悪ガキコンビは追いかけっこがお好き ( No.33 )
日時: 2015/12/05 23:54
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)

俺たちが出逢ったのはある孤児院。それぞれ色んな事情があってそこにいた。お互い、両親のことは一切知らなかった。

友達なんていらねえって思ってた。だから、壁つくって誰も入れないようにしてた。でも、

「よーと!」

とか言ってこいつは壁を壊して入ってきやがった。最初はめんどくさくて無視してた。んでもって、もっと高い壁つくって拒んでた。

「よーと!!」

でもあいつは何度も何度も壊して入ってきたんだ。だから俺も、

「圭!」

っていつの間にか呼んでた。

ずっと一緒だった。別に寂しくなかった。二人だったから。でも周りのやつらは俺たちのこと嫌ってたんだ。何でかって?簡単だよ、俺らに‘才能’がなかったからだ。いや、正確には能力の‘才能’がなかったんだ。そう、生まれつきの無能力者。別にそんなの世間じゃ普通なんだぜ?でも周りが全員能力持ちだったから、そいつらは全力で俺らを蔑んだ。バカだなあ、どうせなんもできないだろって言ってさ。悔しかった。だってしょうがないだろ、元々俺らにはないものなんだから。どうしろっていうんだよ。だから、二人で出たんだ。このクソみたいな場所をな。能力があるかなんて関係ない、俺らだってちゃんと生きていける。色んなことやったよ。空き巣、スリ。全部能力者にやってやったんだ。そのあとのアホ面見るのが面白くてさ。だから、何度もやってやった。まあ、そうしないと俺らも生きてけないからな。だけど、それもこれで終わりらしい。













「俺が引き取ります」

斎藤はそういった。

「俺がちゃんと見守ります」

何だ、こいつ?
圭に飛び膝蹴りされて、絶対にきれた!と思ったら虫見た瞬間に気絶したよくわかんないやつ。そいつが今、俺たちの前に立って偉そうな人に向かってなんか言ってる。俺らを引き取る?見守る?何言ってんの?

「ほら、行くぞ」

それだけしか言わない。俺たちはどうしたものかと顔を合わせる。でも行くあてもないし仕方なくついていく。そしてある喫茶店の前で立ち止った。ドアを開け、中へ招かれる。

「遅いよ、まさ君」

「お、来たねー!」

「ようこそ〜!」

「ほら、もっと中入って」

あの四人がいた。装飾された店内。上にはWELCOME!って書いてある。


はあ?


「どうせお前ら行くとこないんだろ?それを岡本が聞いたら、俺と一緒だって言ってきかなくてな」

「何言ってんの?一番二人のこと心配してたの、斎藤でしょ?」

長田は微笑みながら口にする。

「うるせえよ」

戸惑う二人を置いて彼らの会話は続く。そんな二人の前に岡本は寄った。

「もう財布のことは気にしてないよ。そういえば、名前、二人の口から聞いてなかった。なんていうの?俺は岡本 幸太。」

そういって両手を差し出す。

何だよ、この暖かい気持ち。

「宮守 圭・・・・・・」

やや戸惑ったように宮守は岡本の手を取る。そして、宮守は森山に目線で握手を促した。

「森山、陽人」

森山も岡本の手を握った。それ見た岡本はニカっと笑った。

「圭くん、陽人くんだね。よろしく!」

岡本は二人を引っ張り店の中央に連れていく。

「じゃあ、二人の歓迎会始めるよ!」

おー!と、江ノ島と長田と美音は声を出した。そんな様子を斎藤は隅から見守っていた。










ねえ、陽人。




なんだよ。




こいつらなら、信じていいかもね。そう思わない?



かもな。





店に七人の声が響いた。みんな笑っていた。時間が過ぎるのも忘れて、騒いだんだ。








その夜。すっかり静まりかえった喫茶店では、斎藤と長田、江ノ島がそれぞれ帰宅しようとしていた。

「長田、鍵ちゃんと持ってるか?」

「持ってるよ」

心配性な斎藤が長田に確認すると、長田と江ノ島は思わず苦笑いになる。そんな時、ふと江ノ島が二人に話しかける。

「あの四人・・・・・・ちゃんと部屋の鍵閉めたかな」

「そういや確認してなかったな」

三人はこっそり喫茶店の二階に上がり、一つしかない部屋の扉を見る。案の定、江ノ島が気にした通り、鍵は閉まっていなかった。しかも、扉は半開き。

「無用心だな・・・・・・」

斎藤は静かに扉を開いた。長田と江ノ島も斎藤の後ろから部屋を覗く。部屋の中にあるあらかじめ人数が増えるということで新たに置いて四つとなった連結させた状態のベッド。長田には連結させて置いた覚えがないため、おそらくあの四人が動かしたのだろう。

「「「「・・・・・・」」」」

小さな寝息を立てて、美音は岡本の背中に、岡本は宮守と向かい合うような形で、森山も宮守の背中にそれぞれくっつくようにして寝ていた。そんな可愛らしい姿に江ノ島は頬を緩めた。

「あ〜あ、幸ちゃんと圭のベッドしか使ってないじゃん、結局」

そう言いながら江ノ島は移動して役目を果たせていない布団を美音と森山にかけた。一瞬、森山がもぞもぞと動いた気がするが、まあ大丈夫だろう。

「よし、じゃあ俺たちも帰ろうか」

江ノ島が部屋を出ると長田は静かに扉を閉めた。部屋の鍵は岡本が持っているはずなので、必然的にかけられない。

「これから、一段と賑やかになるな」

斎藤が呟く。やれやれ、という顔をしながらも声は弾んでいた。















そう、七人は出逢った。これが、始まりだったんだ。

番外編・3 悪ガキコンビは追いかけっこがお好き ( No.34 )
日時: 2015/12/05 23:58
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)




俺は覚えてる。

みんなと出逢った日のこと。

斎藤くん、長田くん、江ノ島くん、美音。

そして、岡本。

俺はこの五人と出逢った。

それより前に誰かと一緒にいた気がするんだけど、思い出せない。

誰だっけ。

もやのかかった記憶。

どうしても思い出せない、君。

本当にそんな人、いたのかな。

いないって思ってたほうが気分は楽なのに。

そいつの記憶だけがハサミで切り取ったみたいに穴になってる。

何も思い出せない。

誰?誰なんだよ、お前。

この穴はなんだろう、疑問が静かにその穴をうめていく。

いや、考えることじゃないよね。

穴は穴だ。ないものはない。

そんなこと考えてもしょうがないんだ。




今、俺の前に立って俺の名前を呼んでる俺の知らないやつ。




「俺は忘れてねえよ、バカ」




そんなこと言ってる。




「何度も言わせないで」




俺は二つの拳銃をそいつに向かって構えた。




「言ったよね?俺は、お前のことなんか知らない」




二つの銃口が火を噴いた。







番外編・3 完