複雑・ファジー小説

第2話 再会は突然として起こる ( No.8 )
日時: 2015/09/19 14:36
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)



森山と江ノ島が喫茶店を訪れた翌日。二人は殺人事件の起きた現場にいた。森山は資料をパラパラとめくり、少し驚きが混じった声で呟いた。

「これ、1発で全員仕留めたって・・・・・・」

江ノ島は森山の呟きに反応したのか、死体のあった場所で簡単に手を合わせた後立ち上がり、今更気づいたのとばかりに森山を見た。

「それさ、さっき東塚さん話してたよね。聞いてなかった? 銃弾1発で10人の急所撃ち抜いたんだから、覚えててもいいと思うんだけど」

東塚さん、という人は江ノ島と森山の上司で、周囲からの信頼も厚い『異能力課』の刑事である。ちなみに、森山が仕事中にため口で話すのは江ノ島に対してか同僚にだけで、他の人物には普通に敬語で話す。

「あーはい聞いてませんでしたごめんなさい」

それで良し、と江ノ島は森山の頭をくしゃくしゃと撫でる。いつまでも子供扱いされる森山は恥ずかしくなって手を払いのけ、そっぽを向く。その顔を背けた先で、森山は考え込んだ。能力の力には個人差がある。特に物体操作では尚更だ。銃弾1発で10人撃ち抜く、と言う普通に考えれば不可能なことは力の強い物体操作の人物が行えばなんとか説明がつく。森山の脳裏に嫌な予感が走った。
——いや、待て。あいつはもういないんだ。

思い返される、過去の記憶。








ガシャン、と食器が割れた。少しふざけていた3人が勢い余って食器を持っていた美音にぶつかったのだ。その音に反応して、斎藤と長田、江ノ島が様子を見に来る。割れてしまった食器を見て、3人は恐る恐る長田を見た。

「これ、誰が割ったの?」

笑顔だった。いや笑顔ではあったが、目が笑っていなかった。これが長田の怒った時の表情であり、全員を震え上がらせる程の威圧感を放っている。しかも、その眼は食器を最初に持っていた美音ではなく、森山たち3人に向けられていた。

「「「いや、これは・・・・・・その・・・・・・」」」

声を揃えて弁解しようとするも、長田には全くもって効果はない。そして・・・・・・

ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!

リズムの良いげんこつの音がキッチンから3つ流れた。







ちょっと待て。何を思い出しているんだ、と自分で自分に突っ込みを入れた。確かに常に優しい長田が怒るのはかなり珍しいことで、江ノ島曰く「レア物」らしいが。と、江ノ島が森山の肩に手を置いた。

「ほーらほーら、捜査始めるよ。陽人」

そう言いつつメモを取りだし、現場から出ようとする江ノ島の姿を見て聞き込みか、と森山は判断した。その後すぐに、

「江ノ島、ちょっと来てくれるか?」

呼び出しがかかった。江ノ島は一旦メモをしまい、

「ちょっと待ってて、すぐ戻るから!」

と声の方にかけて行った。一人残った森山は端の方に移動し、現場の外を見た。毎度のことながら、野次馬が集まり現場の様子を探ろうとしている。そんな光景に毎度毎度よくやるな、そう思って苦笑を浮かべた。その時、野次馬勢の中に懐かしい影を見つけた気がした。しかし、その影はすぐに人混みに紛れてしまう。
誰だろうか、そんなことを考えている間もなく森山は走り出した。



『もう、陽人がふざけてるから、俺たち怒られたじゃん!』
『ちょっ、俺のせいかよ!?』
『二人とも落ち着いて! ねえ、もっちゃん?』
『うんうん、二人とも落ち着いてとりあえずうるさい』



——幼い頃の大事な記憶。いつまでも仲良しで、楽しくて、ずっと続くと思っていた日常。しかし、幼かった俺たち4人のうちの2人は、ここにはいない。でも、その1人がいた。今追いかけなければ、もう会えないかも知れない。だから、俺はあいつの名を呼ぶ。

「待て・・・・・・ちょっと待てよ、“圭”!!」

第2話 再会は突然として起こる ( No.9 )
日時: 2015/09/20 19:32
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)



「あっれ〜・・・・・・?」

会話を終えて戻って来た江ノ島が呟いた。さっきまでいたはずの森山がいないのだ。

「もしかしてとは思いたくないけどもしかして・・・・・・」

そう言いつつ、江ノ島は携帯を開いた。










「え? 森山くんがここに?」

携帯で電話に出ていたのは長田であった。すぐ近くには美音もいる。そして、電話の主は江ノ島。

「さっきちょっと目を離した隙にいなくなったんだよね〜、そっちにいない?」
「こっちは見てないかな。ね、美音は見てない?」
「見てないよ〜」
「・・・・・・だってさ」

大声で返事をした美音の声は電話を通しても聞こえたのか、江ノ島は苦笑しながら話を続ける。

「そっちで見かけたら俺に教えてくれる? 迎えに行くからさ」
「了解、こっちも森山くんに逃げられると困るしね」

じゃあ、そう言って電話は切られた。携帯を閉じた長田は元々していた皿を片付ける作業に戻ろうとする。しかし、喫茶店の窓がガタガタと揺れたのが長田の目に入った。今日は風の強い日だったようで、看板は中に入れた方がいいと思ったのか、扉を開ける。

「うわ〜、強い風」
「あ、看板中入れるなら私も手伝う!」

2人で外に出る。そして看板を中に入れようとすると、ふと美音は喫茶店の反対側の歩道に見知った影を見つけた。

「ねえねえ、長田。あれってさ・・・・・・」
「あれ・・・・・・」

とんとんと長田の肩をつつき、影に指を向ける。すると、長田も気づいたのか声を上げた。

「美音、追いかけるよ!」
「え!? ちょっと待って長田〜!!」

いきなり走り出した長田を追いかけるか、看板を中に入れるか一瞬迷った美音だったが、つけていたヘアピンをもう一度つけ直し長田の後を追った。











『ねえねえー』

『なんだよ』

『もしさ、』

『ん?』

『俺が死んじゃったら、陽人はどう思う?』

『はあ?』

『どう思うのかな? って今ちょこっと考えたから』

『いなくなったらってことか?』

『うん』

『まあ・・・・・・清々する』

『えー!』

『うっさいって』

『陽人のバーカ!!』

『いきなりか!?』

——その時は考えもしなかった。

『陽人!』

俺の前に立ち、両手を広げる。
そして最後に見たのは、お前の背中だった。










ちょうど同じ頃、電話を終えた江ノ島がぶつぶつと言いながら聞き込みをしていた。

「陽人見つけたら、どんなお仕置きしてあげようか・・・・・・」

少し怒った表情で歩いていたが、聞き込みをするときには演技の仕事につく人々が真っ青になるんじゃないかと言うぐらい表情が変わる。次に声をかけたのは、小学生低学年ぐらいの男の子と母親だった。

「あの、すみません。この男に見覚えありませんか?」

そう言って被害者の写真を見せる。聞き込みの基本だ。母親の方は少し写真を見たあと、

「ごめんなさい、見覚えないです」

そう言った。やっぱりそうだよな、と小さくため息をついた江ノ島だったが、男の子の一言で逆に息を飲む。

「ぼく、しってるよ?」

その言葉を聞いた江ノ島はしゃがみ、男の子と同じ目線になって尋ねた。

「いつ、この人を見かけたか教えてくれるかな?」
「えっとね、しらないひととけんかしてた。それでね、しらないひとのほうのうでがちょっとみえて、くろと、きいろのブレスレットつけてたよ」

まさか、勘違いであってほしい、江ノ島の頭にそんな思考が駆け巡る。動きの止まった江ノ島を心配して男の子の母親が話しかけると、江ノ島は慌てて立ち上がりお礼を言った。男の子は小さく手を振り、母親と共に去って行った。それを見送った江ノ島は踵を返し、走り始める。見当違いならいい、でも。そう考えながら、思い当たる場所へ向かって行った。










「やっぱり、集まるもんだね」

小さく呟いた。
本当のところなら、あの男の子が記憶するはずがなかった。でもわざと記憶させたのだ。自分のことを気づかせるために。右腕の裾を捲る。黒と黄色のブレスレットが見えた。

「ははっ、楽しみだなぁ・・・・・・」

自分の掌で動く彼らのことを思う。

「みんなで、遊ぼう。昔の時みたいに」

第2話 再会は突然として起こる ( No.10 )
日時: 2015/09/23 22:09
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)




「ちょっと、森山くん! どこ行くの!」
「森山ー!!」

長田と美音は道路に出て森山を呼び止めようとする。しかし、森山には聞こえてないようだ。反対側の道路をそのまま駆けていく。

「待って!」

二人は森山の後に続いて走った。










「おい、長田ー。ってあれ?」

奥から斎藤が出てきて、長田と美音に声を掛ける。が、二人の姿はそこにはなかった。

「あいつ・・・・・・。また、飯を無断で食いに行ったな。って、美音もいないのか」

気づいてみれば普通ならいるはずの美音もいない。つまり、今店には斎藤一人。どうやら今日は寂しい昼を過ごすことになりそうだ。無意識に斎藤はため息をついた。










「森山! 森山ってば!」
「森山くん、聞こえてる!?」

二人がいくら叫んでも森山は気づかない。何故こうも彼は必死なのだろう。それが長田には分からなかった。徐々に押し寄せる不安。しかし、今はとにかく森山の行く先を知る必要がある。長田は不安を振り払うように風を切る。










「うーん、どうしようかなぁ・・・・・・」

彼らが到着するのを待つ間、青年は考えていた。

「・・・・・・どうしたら皆が喜んでくれるのか」

行ったり来たり、その場をうろうろしながら青年は腕を組み動いていたが、ふと立ち止まって尋ねる。

「ねえ、どう思う?圭くんはどうしたい?」
「そうだね、どうしよっか?俺は皆と会えればそれでいいんだけどな」

“圭”と呼ばれたもう一人が答える。しかし、青年はかぶりを小さく振り、小声で呟いた。

「それだけじゃないんだよ、圭くん。俺の目的は、ね」

第2話 再会は突然として起こる ( No.11 )
日時: 2015/10/19 19:03
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)




あれ、そう思い森山は一旦足を止めた。何かがおかしい。

(同じ場所を行ったり来たりしている・・・・・・?)

何故か、さっきから進んでいる気配がしない。ゆっくりと森山は歩き始める。一歩ずつ進むにつれ感じる、不思議な感覚が森山を襲った。

「なんだよ、これ・・・・・・」

森山は気づいていないが、もう既に参加してしまっているのだろう。
——彼の、遊びに。










何故だろう。

見えない。

真っ黒い世界しかわからない。

もう、君のことが見えもしないんだ。

辛いよ。

悲しいよ。

俺には君が居なくて、

どうやって生きればいいの?










不思議な感覚を覚えながら人混みの中、森山は見知った背中を見つけた。ずっと、ずっと探していた、あの後ろ姿を。

「ようやく、見つけた・・・・・・」

最後に見た時とあまり変わっていなかった。自分を庇った、あの背中は。

『陽人のバーカ!』
『陽人・・・・・・だい、じょうぶだった・・・・・・? バカ、だね、陽人は・・・・・・』

どうしてあんな無茶したんだよ、

どうして俺の前からいなくなったんだよ

馬鹿はどっちだ。そう声をかけようとしたその時、



反転。



(「陽人!そっちは・・・・・・」)

煩い“あいつ”の声。邪魔すんなよ、今は・・・・・・


そう思った瞬間、森山の意識が現実に引き戻された。

横からは一台の車が。

「森山くん!!」

反対側から、長田の声が聞こえた。










この場所は、今でもよく覚えている。まあ、当然と言えば当然なのだが。

街から少し外れた廃墟にたどり着いた江ノ島は、気配を伺うようにあたりを見た。すると、こちらに走って来る影が一つ。

「陽人、どこ行ってたの?心配したよ〜」
「ごめんごめん」

悪びれる風もなく森山が謝った。すると森山は江ノ島にそういえば、と尋ねた

「何でお前がここにいるんだよ?」
「さあ、なんでかな」

江ノ島は理由はぐらかした。

「なんだよ、教えろよ」
「嫌だ」

江ノ島の声は鋭い。そして、

「ねえ、一ついい?」

その言葉で江ノ島は拳銃を構え、森山に照準を合わせる。

「ちょっ、さっきは本当にごめんって・・・・・・」
「謝って欲しいのはその事じゃない」

謝る森山に対して、江ノ島はさらに鋭い声で話を続けた。

「陽人のこと、忘れちゃった?ほくろの位置が逆だよ」

それを聞いた森山はうっすらと笑みを浮かべ、降参のポーズをした。

「やっぱり江ノ島くんには敵わない、かな」

空間が割れ、森山“にそっくりな誰か”がいた位置に一人の青年が現れた。

「覚えてるよ、俺は・・・・・・ね」


もうその名前を呼ぶことはないだろうと思っていた。
しかし、運命と言うのはいかにも残酷である。

にっこり笑顔を作った青年の名前を、江ノ島は呼んだ。

「幸太・・・・・・」

Re: one’personality【オリキャラ募集中】 ( No.12 )
日時: 2015/10/26 18:54
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)

「久しぶりだね」

名を呼ばれた幸太と言う青年——改め“岡本 幸太”は、軽く手を上げた。そんな様子に江ノ島は手をこめかみに当て、ため息をつく。

「久しぶり、じゃないって・・・・・・」

すると岡本が上げていた手をおろし、江ノ島に一つ尋ねた。

「でも、江ノ島くんいつ気づいたの?そんなに似てなかったかな?」
「いや、似ているどころじゃない。ほとんど陽人そのものだったよ。でも、少し違う。髪の長さとか、ほくろの位置とか」
「凄いねぇ、江ノ島くんは」
「俺の“才能”、知ってるくせに」
「知ってるよ。見たものを全て記憶する能力、だよね」

江ノ島は見たものを全て記憶するという、“才能”を3つに分けたときの“空間操作”に属する能力である。それ故、森山に資料のあった場所を尋ねられた時、正確に答えることができた。これを能力と呼べるのか定かではないが、江ノ島には生まれつきこの能力を持っていた。

「でも、」

岡本は付け加えた。

「自分でコントロールすることができない。自分が覚えたくない、と思うものでも記憶してしまう。完全にね」

でしょ、と幸太は首を傾げて微笑んだ。

「おかげさまでね、お前には大変お世話になりました。」

江ノ島は悪態をつくように答えた。

忘れもしない。

あの時の光景は。

思い出せば、すべて甦ってくる。

それもこいつが。

こいつが。

やったんだ。

握り拳が震える。

今でも疑問なんだ。

どうしてお前はそんなに変わったんだよ。

第2話 再会は突然として起こる ( No.13 )
日時: 2015/10/31 23:48
名前: ルナ (ID: qsIQOkd3)

「覚えてるよね?あの時のこと」

岡本は静かに語りだす。

「なにもできなかった、江ノ島くんはただ見てた」

言うな。

「叫んでた。まあでも、届かなかったけど」

言うな!

「江ノ島くんは見捨てたんだ。あいつのこと」

「違う!」

反射的に答える。その瞬間、無意識に引き金を引いていた。

弾丸は真っ直ぐに岡本へ向かって飛んでいく。

岡本は動かない。

笑顔のまま、そこに立っていた。









カラン。

銃弾が地に落ちた。

江ノ島は状況がつかめず困惑する。

銃弾を遠目で確認した。

すると、別の銃弾ではじかれたような跡があった。

「岡本、大丈夫?」

部屋に響く男性にしては少々高めの声。トントン、というリズミカルな足音を立てて廃墟の階段から誰かが降りてきた。その姿を見た江ノ島は驚愕する。

「ありがとう、圭くん。大丈夫だよ」

岡本はその人物に振り向き、礼をした。

「圭・・・・・・」

江ノ島は呟いた。

あの時と変わらぬ幼顔。笑顔が何よりも可愛いと思っていた。

「江ノ島くん、久々だね」

岡本の前に立ち、江ノ島に告げる。

宮守 圭。

自分のかつてのバディであり、仲間であり。

今ここにはいないあいつの大切な人で、

気弱なあの子の本当の兄のような存在で、

皆から可愛がられていて。

あの時江ノ島が、

叫んでも、

泣いても、

その言葉は。

(届かなかったよね、圭くんにはさ)

岡本は江ノ島の頭に’直接’話しかけた。










あの時。





「圭!」



目の前に倒れ伏せる一人の青年。



その横には彼がいた。



「そこで見ててよ」



江ノ島に彼は告げる。



「圭くんが、壊れていくのを」



思い出していた。



江ノ島がいくら叫んでも届かなかった、



もう戻ることのない、あの日のことを。











江ノ島はそのまま崩れ落ちた。そんな江ノ島を立ったまま宮守は見つめる。

「たとえ江ノ島くんでも」

一発の銃弾を宮守は取り出し、江ノ島に構える。

「岡本を傷つけるなら、許さない」

冷たい目だった。

「バイバイ」

別れの挨拶にしては寂しすぎた。

手から放たれた銃弾。先程とは立場が逆転していた。江ノ島に向かって躊躇いもなく進む。

江ノ島は動かない。いや、動けなかった。

現実はこうも残酷で、哀しい。

いっそこのまま。

そんなことまで考えてしまう。









パチン。

誰かが指を鳴らす。

瞬間、江ノ島の姿が消えた。宮守は僅かに顔を歪めるが、すぐに平静を保つ。岡本もまた同様だった。

「やっと来た!」

岡本は待ちに待ったといわんばかりに声を弾ませる。

視線を右へとずらした。そこには岡本が予想した通りの人物がいる。

「長田くん、もっちゃん」

意識のない森山と江ノ島を抱え、長田と美音はそこにいた。しかし、二人は息が上がっているような状態だった。

「遅かったんじゃない?もう少し早く来てくれると思ったのに」

長田は厳しい表情を浮かべたまま答える。

「こっちは森山くんと美音と仲良く死にかけたんだよ、ほんとにもう」

「生きてるじゃん」

「ぎりぎり、間一髪で間に合ったからね」

長田は息を整える。正直、もうそんな体力は残ってない。

(使えてあと一回・・・・・・)

「美音、能力はまだ使えそう?」

「無茶、なこと言わない、で・・・・・・自分の、能力じゃ、ないのに、無理やり使った、から。ギリ1、2回ぐらい、かな」

息を整えようにも整わない美音は、切れ切れに言葉を紡ぐ。
その返答を聞きながら、長田は目の前に立つ二人を見る。簡単には見逃してくれそうにない。考えろ、思考を止めるな。
美音もまた、驚きと少しの嬉しい感情が混ざったような複雑な表情で二人を見ていた。なんで、でも、ようやく会えた。

「な、がた、くん・・・・・・」

背中に抱えた森山が声を上げる。目が覚めたようだ。

「動かないで。脳に直接くらったんだ。身体の感覚はまだ戻らないよ」

小声で森山に告げる。そして、状況を端的に伝えた。

「俺・・・・・・、どうしたの?さっき、圭を追っかけて・・・・・・」

森山は虚ろな感覚のまま僅かに目を開ける。すると、視界には予想もしなかった光景が映った。

「岡本・・・・・・!」

そして横には。

森山は長田の背中から滑り落ちる。長田は咄嗟に身体を支えた。

「森山くん!お願いだから動かないで!」

長田は声を必死に掛けるが、森山には聞こえていない。

「圭!」

呼べた。

あいつの、あいつの名前。

探してた。

やっと、逢えた。

ずっと、待っていた。




だけど。




これが答えだった。

第2話 再会は突然として起こる ( No.14 )
日時: 2015/11/03 11:04
名前: ルナ (ID: MQ1NqBYl)







「誰?」




たった一言。それだけなのに、全身を貫かれたような感覚が走った。




森山はそのまま動かなくなる。これ以上、現実を直視することを拒むように。




「俺、お前のこと知らない」




「知らないけどさ、江ノ島くんと長田くんと美音の知り合いなんだよね?だったら」




また銃弾を宮守は構えた。




「ここで、消えてよ」




放たれる無慈悲な弾。




長田は動いた。




銃弾が届く僅かな時間。江ノ島と森山を抱え、弾を止めようとする美音の手を握り、もう一度指を構える。




そして、最後に告げた。




「岡本くん、変わったね」




四人の姿は消える。その代わり、何かがその場所から発射される。




カチャン、と音を立てて弾が落ちた。消える寸前に発射された物体——かなりの固さの氷とぶつかったのだろう、弾は少々潰れ、氷は地面で水になった。




残された二人は辺りを見渡すが、四人の姿はない。




「やっぱり長田くんと美音の’才能’はすごいね。そう思わない?岡本」




「そうだね」



『岡本くん、変わったね』

岡本は天を仰ぐ。長田の言葉が頭でリフレインされた。

(さて、変わったのはどっちかな)










どうして、こうもすれ違ってしまうのだろう。

もう戻れないのかな。

楽しかった、あの頃。

そして、

まだ俺たちが繋がってた、あの頃に。













喫茶店のドアが強引に開かれる。

「おい!どこ行ってたんだよ、長田!美音!」

斎藤はカウンターに出てきて怒鳴った。しかし、そのただならぬ雰囲気に怒りはかき消される。

「どうしたんだよ・・・・・・」

眠る二人を抱えた長田と美音がひどく疲れた顔で立っていた。そしてそのまま倒れこむ。

「おい、長田!美音!森山!江ノ島!」

四人の身体をゆするが応答はない。が、僅かに長田が口を開いた。

「逢ってきた・・・・・・」

「誰に!?」

「岡本くんと、宮守くんに・・・・・・」

それだけ告げるとまた長田は意識を手放す。斎藤は四人を運び、寝かせた。

「なんで俺に言わないんだよ・・・・・・!」

斎藤は拳を固め、震わせた。













俺たちは、また出逢った。

最も、最悪な形で。

世界に意思があるならば。

どうして。

俺たちを別れさせるんだ。

出逢ったことさえ、間違いだったのか。

一緒に、歩いちゃいけないの?


どうして?——何故、こんな。


誰かが哭いた。

その声を聞くものはいない。




第2話 完