複雑・ファジー小説

Re: 星屑逃避。 ( No.4 )
日時: 2015/09/06 21:20
名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)



プロローグ2 僕の知らない人たち

電車に乗って1時間揺られて、ひなた町へと到着した。
思ったよりも遠かったが、穏やかな学生街という感じだ。
何百人もの人が不安と楽しみを胸にこの大学へと向かうのを見て、僕も少しだけわくわくしてきた。

会場へと向かい、手続きをすますと、総合理学部と書かれた看板が付いた近くの椅子に座った。
みんな緊張しているのか、誰もしゃべることはない。
遠くのほうはざわざわと騒いでいるような声がしており、この堅苦しい空気をどうにかしなきゃなあと思っていた。
隣にいる近づきがたい感じの雰囲気を出している女の子にでも話しかけてみようかと思い、そっちのほうを向いて微笑んだ。


「はじめまして、君は生物コース?」
そう言うと、女の子はぎっと僕のほうを睨んだが、すぐに顔をほころばせて首を横に振った。


「違うわ。私は化学コースなの。
ああ、はじめまして。私は星永 ありすよ。」

「僕は御剣 繚っていうんだ。」

「繚君ね。いい名前じゃないの。
ねえ、私たち友達になりましょうよ。きっといい友達になれるわ。
携帯の番号、教えるね。」
こんなところで電話番号を交換するとは思わなかった。
思ったよりも美少女って感じで、ふんわりとした口調に周りの人々はざわつきはじめた。


「ここはね、総合理学部と総合文学部があるのよ。
2つの学部しかないのにコースが多いなんて、まるで国立大学みたいよね。でも、そこから選ぶのって大変じゃなかった?」

「ううん。すぐに此処かなあって感じて。」

「うらやましいわ。私、1週間くらい迷って決めたの。
ここの化学コースは実験の多いコースだから、きっと充実しているかなあって。生物コースもよさそうだなって考えたけど……。」
さっきまで知らない人だったのに、友達になっちゃうと結構いろいろ話せちゃうんだなあと思いながら入学式がはじまるのを待った。
左隣に誰かがまた座った。調子がよかったのか、僕はその人にも微笑みかけた。


「はじめまして。君は生物コース?」

「……あ、はい。」
大人しそうな人だなあと思いながら、僕はいろいろと話してみた。
趣味の事や習い事の事、いろいろと話してみると次第にその人も心を開いてきたようだった。しかし、ありすは黙り込んでしまった。


「俺は暁 美紅っていうんだ。まあ、なんと呼んでもいいよ。」

「ああ、よろしく。そういえば、自己紹介していなかったね。
僕は、御剣 繚っていうんだ。よろしく。」

「まあ、同じコースだし、仲良くしていこうぜ。」
僕はありすが黙り込んでいることに気づかないまま、入学式まで暁さんと話し続けた。
僕よりも器用そうで世渡り上手って感じだ。僕と同じように指定校で入ったらしい。


「お、そろそろ始まるみたいだな。」

「そうだね。ちょっと楽しみかもしれない。」

「ただの入学式に楽しみだなんて、変わった奴。」
軽やかな明るい音楽と共に教授の人や学長さんが入っていくのを僕たちは拍手をしながら見つめていた。
今から大学生活がはじまると思うと、僕は胸がわくわくして止まらなかった。あの縛られた環境からいなくなれることが本当にうれしかったのだ。

入学式が終わり、コースごとに説明会などが終わるとそれぞれ帰ることとなった。
暁さんは入学式に来ていたらしい両親と連絡をとり、すぐに帰ってしまった。それにしても、はじめて自分から友達を作ることが出来たような気がする。

でも、僕には帰る場所がない。そういえば、何も決めていなかった。
コインロッカーから荷物をとりだし、1人でふらふらと歩き始めた。きっとネットカフェくらいはあるだろうと思いながら歩いていると、少し背の高い男性がじっと立っていた。金髪の短い髪を綺麗にまとめているからか、髪の毛がきらきらと太陽に当たって輝いていた。
僕はそれをじっと見つめていた。すると、僕に気が付いたのか、振り向いてその人は微笑んでくれた。


「どうしたんだい。ここに来る人がいるなんて、珍しいね。いや、でも、君のような人が来るとは思ってはいたけど。」

「え。」

「帰る場所、あるのかい。」
知らない年上っぽい人に帰る場所があるのか聞かれるとは思ってもいなかった。図星だったのかすぐに家なしであることがバレてしまった。


「ふふふ。君は嘘が下手なんだね。
この学校では、いろんな人に頼るといいよ。たとえ、君の苦手な大人の人でも、頼ってみたらいい人だったりするからね。」

「う……、はい。」

「僕が帰る場所を見つけてあげるよ。
あ、寮なんてどうかな。
この学園の寮はね、家族の許可がいるんだけども……まあ、僕が家族だって思えばいいさ。優しい人ばかり集まっているから、もしものことがあればきっと君を守ってくれるよ。」
この人はとても優しいのだなと思いながら、僕は寮という場所までついていってもらうこととなった。
寮は思ったよりも大きくて、見た目は煉瓦で作られた城のようだった。2つの場所に分かれているらしく、その場所を結ぶように大きな橋のようなものも煉瓦で作られていた。


「まるで、お城のようだろう。君みたいな女の子には人気だよ。」

「えっ。」

「あれ、君、女の子じゃないの。」

「お、男です……。」
驚いた。女の子とバレないようにショートカットの流行っているような髪型にしていたはずなのに、バレていたなんて。


「まあ、いいや。
ああ、ちなみに僕が管理しているところだし、僕がお兄さんだと言えば許可されているんだなって誰だって考えてくれるさ。」

「えっ、管理人さんなんですか!?」
僕はまた驚いた。
あのミステリアスな感じの容姿からは考えられないことであったから。


「じゃあ、行こうか。ええっと、もう一度確認するけど、男?」

「男です!」
寮の中は単なるマンションという感じで、僕は外と中のギャップにまた驚きそうになった。
こつこつと2人の靴音だけが重なって聞こえていた。どうやら、すでに新入生も寮の部屋でくつろいでいるらしく、誰も外へは出ないようだ。
そして、『300』と書かれた部屋へと僕たちは足を止めた。


「ここはいわゆる組長室。ああ、言っていなかったね、君は今日から『林檎組』に入るんだ。
同じ組の人と仲良くするんだよ。もちろん、他の組の人とも。
じゃあ、挨拶しに行こうか。」
その人はすぐに扉を開けた。中は少しごちゃごちゃとした部屋と共に一人の男の人がいた。その人は前髪のせいでうまく目を見ることができない。そして、とにかく髪の毛がぼさぼさとしていて、青色のジーンズと白いシャツを見に纏っていた。


「ええと、島野君。今日から林檎組に入る新入生だよ。」

「あれ、新入生は全員挨拶終わったって、先ほど報告があったはずじゃ……。」

「え?そうだったかな。ああ、そんなことよりも。
組長さんの新年度最初の仕事ね。彼は僕の兄弟なのだけども、手続き違いで違う組にいたみたいで。」

「……残念ですけど、余ってる部屋なんてないですよ。
葡萄組のほうに行けばまだ余ってるんじゃないですか。」
それを聞いて、その人は落胆したような表情をしたが、すぐに何を思いついたのか冷静な表情を取り戻した。


「あ、君の部屋が空いているじゃないか。」

「確かに……、っていいんですか。僕の部屋で。」

「いいよ。いつも一人部屋で悪かったなあとは思ってるし。」

「全くですよ……。
僕のほうはいいですけど、サチコサンはどうなんですか。」

「もちろん。じゃあ、僕はこれで。」
その人はサチコサンと呼ばれているようだ。何故だろう、どう見ても女の人じゃないのに、奇妙な名前で呼ばれている。
サチコサンが去っていき、僕と男の人の2人になった。年上のように見えて、なんだか緊張してしまう。こういう時にこそ、年上の人間と2人になるのは嫌だった。


「ああ、入って。こんなにたくさんの荷物、大変だっただろ。」

「は、はい……。」
こんな緊張ははじめてだった。
震えかける足を落ち着かせるように歩き、荷物を部屋に入れた。思ったよりもケースが大きくてどこの場所に置こうか迷っていたが、余っていたらしいクローゼットを男の人は譲ってくれた。
そして、荷物の準備が終わって、僕は小さなクッションの上に座った。見つめてみると、意外といい人そう。だけど、やっぱり前髪が気になってしまう。


「僕は島野 柚木っていうんだ。今は大学3年生で、この学校でいう18年生さ。」

「ぼ、僕は……、御剣 繚っていいます。
総合理学部生物コース所属の16年生です。」

「真面目な自己紹介だね……。
僕は総合理学部情報コース所属なんだ。多分、何も情報は与えられないだろうけども、お互い仲良くいこうぜ。」

「は、はい……!」
差し出された手をゆっくりとつかみ、震えそうになるのをこらえながら、握手した。
その手と、その微笑みは暖かくて、僕の胸を何度も溶かしかけていた。それがどんな感情なのか、僕はまだ知らない。ただ、いつも抱えているものや、与えられるものとは違う感情。

なんでだろう、この人が気になるような、気にならないような。


                              続く