複雑・ファジー小説

Re: 子供と大人の闘い【オリキャラ応募終了!】 ( No.7 )
日時: 2015/10/16 20:50
名前: モンブラン博士 (ID: 7KvZCID9)

土日は、アカデミーは休みである。
週の五日、学生寮から学校に通っている生徒達も、この2日間は各々の家に帰り、家族と共に過ごすのだ。
川村猫衛門(かわむらねこえもん)も、家へ帰るべく、帰路を歩いていた。
黒髪を一本結びにし、くりくりとした大きな瞳と少し低い鼻のやや幼い顔立ちをしており、着物に袴姿という侍風の恰好をしている。
少年は幼い頃から、弱きを守り強きを挫く正義の侍に憧れていた。
その夢を叶えるため、スターアカデミーに入学したのだ。
ブティックや本屋、楽器店が並ぶ通りを飄々と歩いている最中、彼の腹がぐううと音を立てる。

「小腹が空いたでござる……」

腹を押さえ、近場に設置されている時計を見ると、時刻は午前7時。
アカデミーでは土曜日は朝食が出ないため、空腹になるのも当然のことであった。

「ここから800メートル先には、拙者の大好きな和菓子屋があるでござる。そこに到達するまでは、なんとしても持たねばならぬでござる!」

拳を堅く握りしめて決心するなり、彼は鎌居達の如き高速で道行く人を疾走し、ものの数秒で目標地点に辿り着くことができた。
そこで彼は大好物のあんまんを購入し、そのまま店前にある横断歩道を渡って公園に行く。
人気の少ない公園で食事をするのが、彼の習慣となっていた。
ベンチに腰を下ろし、あんまんにかぶりつく。

「美味しいでござる〜!」

ふかふかとした柔らかい生地に優しい甘さが口の中に広がる餡の味に、少年は頬を赤らめる。
空腹もあってかあっという間に完食した彼は、食後の余韻に浸っていた。涼しげな風が吹いているため、次第に瞼が重くなっていく。
もう、このまま眠ってしまおうか。
そんな考えを抱いたそのとき、ひとりの人物が彼の視界に飛び込んできた。

「川村君、久しぶりだねぇ」

現れたのはマロンであった。
つい先日退学処分を言い渡された彼が、自分に何の用があるのか。
思わぬ相手の出現に眠気が覚めた川村は、閉じかけていた目を見開き、腰に差してある日本刀、斬心刀(ざんしんとう)の柄に手を回す。
警戒態勢の川村に、彼はにこやかな微笑みで言った。

「僕は君と闘うつもりはないよ。ただ、ちょっとお願いをしにきたんだ」
「願い?」
「そう。僕の復讐計画に協力してくれないかな」
「復讐計画!?」
「僕は、スターアカデミーに見せつけてやりたいんだよ。自分がいかに優れているかということをね」

少年侍はその言葉に、凛々しい瞳で相手を見つめる。

「お主、拙者がそんな悪事に協力すると思っているでござるか」
「うん、思っていないよ。だから……こうするのさッ!」

川村が急接近するよりも素早い初動で着ているブレザーの袖口からフルートを取り出し口に含むと、妖しい音色を奏でる。
彼の持物であるフルートは、普通の人間には無害だが、スターアカデミーに通っている生徒を洗脳する効果がある音色を発することができた。退学してからの数日間でこれを制作し、スターアカデミーの生徒達を自分の駒にして勢力を作り上げ、教師達に挑むつもりなのだ。
魔の音色に悶絶し、両手で頭を抑える川村。
その様子にマロンは美しい顔に悪意の漂う黒い笑みを浮かべる。

「さあどうする? このまま僕の部下にならなければ、君は脳を破壊されて死んでしまうよ」
「まだまだ……この程度では……拙者はお主の操り人形などにはならぬ!」
「仕方ないね。威力を最大にしてあげるよ」
「ぐああああっ」

全身に電撃が走ったかのような激痛に襲われ、川村は前のめりに倒れてしまった。

「ウフフフ、よく頑張ったけどここまでのようだね。目が覚めたら、君は僕の忠実なしもべになっているんだ。「今のうちに眠っておくんだよ、大好きな家族の夢でも見ながらね」