複雑・ファジー小説
- Re: 紫電スパイダー ( No.8 )
- 日時: 2019/08/27 09:40
- 名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: xEKpdEI2)
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「最近ウチの奴らをシメて回ってるってのはテメーか」
カズマは紫髪の男に問いかけた。不良共と骨肉削る争いの日々を潜り抜けてきたせいか、少年らしい声の高さに似合わぬ凄みを帯びている。彼に睨みを効かされて委縮しない者は、そうはいないハズだった。
しかし紫髪の男は眉ひとつ動かさず、少しの間思案する。そして、何かを思い出したというように口を開いた。
「ここ最近絡んで来るバカ共の話なら、そっちから勝手に襲い掛かって来ただけだろう」
そんなことだろうとカズマは思っていた。
今や規模が大きくなりすぎたアマテラス、その末端のメンバーが、めいめい好き放題にあちこちでやりたい放題やっているという噂はカズマも耳にしている。大きくなりすぎた組織にはよくあることだ。その中でこの男にちょっかいを出し、返り討ちに遭った三下が身近な格上のメンバーに泣きつき、その格上までも返り討ちに遭い——を繰り返し、自分のところまで話が回ってきたのだろう。カズマに学は無いが、それを予想する程度の頭は持ち合わせている。
しかし、実際のところどちらに非があるかなどカズマはどうでも良かった。
まず前述の通り、組織としてのメンツが問題だ。天下のアマテラス、自業自得とはいえそのメンバーが次々にやられ、黙っていたとなればもちろん他のグループからナメられる。メンバーの信頼も離れる。そして万一この紫髪の男が組織を作り上げた時、いずれ大きな脅威になるやもしれない。アマテラスが盤石の地位を保つためにも当然、芽は早く摘んだ方がいいに決まっていた。
そして何より興味がある。恐れを知らぬ謎の強者に。
「テメーにゃ分からねえかもだが、こっちにもメンツってモンがある。メンツが潰れりゃ組織は回らねえ。だから事実どうあれテメーをシメるしかない」
紫髪の男は、鬱陶しいとでもいうような視線をカズマに向ける。
篝火に目覚めてからというもの、カズマを前にして、アマテラスを前にして恐れない奴などいなかった。だからカズマは、コイツは使えると考えた。
「テメー、何て名前よ?」
「ヒトに名前訊く時はまず自分から名乗れよ」
素気(すげ)無く正論で返され、カズマは流石にイラッとした。
カズマの周りで事の成り行きを見守っていた男らのうちひとりも、紫髪の男があまりに不遜な態度をとるものでがなり立てる。
「おいさっきから黙って聞いてりゃ生意気にも程があんだろ!!」
「いやいい。確かにこっちが名乗るべきだわ」
ここで怒りを露わにしても逆にカッコ悪い。
そう判じたカズマはがなり立てた男を制し、バイクから降りた。
「黄河一馬。このアマテラスってチームを仕切ってる」
それからカズマが軽く片手を上げると、彼の周りにいた4人の男たちも次々バイクから降りてくる。降りるや否やおもむろに紫髪の男を取り囲み、それぞれ得物を持ち出した。鎖、バール、ナイフ、スタンバトン——あまりに古典的過ぎて、紫髪の男は少し笑いそうになる。
「そしてコイツらはウチでも特に腕が立つ4人だ。なあ、モノは相談なんだがよ……お前がアマテラスに入るってんなら見逃してやってもいいが、どうだ?」
「ヤだね」
「そうかい——やれ」
言いざま、ひとりの男が勢いよく鎖を投げつける。紫髪の男は避けるでもなく腕で鎖を受けた。鎖が絡みついたと見るやバールの男とナイフの男がそれぞれ左右から襲い掛かる。
しかし紫髪の男は絡みついた鎖を逆に引っ張り——バールの男に勢いよくぶつけ、衝撃で男の手を離れた鎖を、そのまま振り回しナイフの男の首元に巻き付けた。さらにぐいと引っ張り男を手元まで寄せるとその顔面を掌底で打ち抜き、一撃で気絶した男から落ちたナイフを掠め取る。そしてスタンバトンを紫髪の男めがけて振り下ろそうとしていた男の喉元に、ナイフの切っ先を向けた。
目の前の男がスタンバトンを手から取り落とすのを見届けると、紫髪の男もまたナイフの切っ先を喉元から下ろした。
ここまで十数秒もかからず、紫髪の男を取り囲むアマテラスのメンバー達は唖然とした。
カズマの表情から余裕が消える。こいつは、今まで出会った誰よりもただ者ではない。
「——やっぱ俺が出なきゃか」
がしがしと頭を掻くカズマが、一歩前に歩み出た。そして顔の横でかざした手に黄金色の火炎を纏わせる。火炎を見るや否や、アマテラスのメンバー達はどよめいた。
「ヤベエ! カズマさんは篝火を使うつもりだ! バイクをここから離せ!」
例え世界中のどこだろうが、一番強い力を持った奴が最強で、一等強い力を持った奴が思うように世界は回る。これはひとつの真理だ。
邪魔する奴はまとめてブッ飛ばし、何なら焼き払うことも躊躇わない。カズマは、自分にある日宿ったこの篝火ならそれが出来る。だからこの辺りでは自分が最強で、誰も自分を打ち負かしたことは無い。そう信じ切っていた。
凶暴に牙を向いて笑んだカズマは、更に前へ進み出る。