複雑・ファジー小説

Re: 空の心は傷付かない ( No.24 )
日時: 2015/11/03 01:07
名前: 之ノ乃 ◆kwRrYa1ZoM (ID: wpgXKApi)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

 
「んー。結構時間も経ったし、そろそろ帰ろっか」
 会話もまばらになった所で、スマホで時間を確認した屋久が言った。
 空に居座っていた太陽はいつの間にか沈み外は暗くなっていた。この辺りは田舎だから夜になるとめっきり人通りが減る。あんまり遅くなるのも良くないか。
 注文票を持ってレジに行き、お会計する。合計金額は千円よりも低かった。流石学生の味方。
「一括で」
 割り勘にしようとする屋久を遮り、僕は千円札を出した。お釣りを受け取り、屋久と一緒に外に出る。自動ドアが開くと暑い空気が体を包み込んでくる。太陽が沈んだというのに、相変わらず暑い。
「くぅ君が奢ってくれるなんて……びっくりした」
「僕だって男だし、甲斐性を見せる時は見せるんだよ」
「くぅ君が甲斐性を語る日が来るなんて思わなかった……」
 前に舎仁に奢らせた時、後から物凄く文句言われたからな……。いつもとは違った種類の笑みを浮かべながら、敬語で長時間お説教してくる舎仁。あれから外食する時はきちんとお金を持ち歩くようにしている。
「じゃあ、帰ろうか」
 店の前でいつまでも話してる訳にはいかないし。
「あー、ごめん! 私この後行きたい所あってさ」
「……へえ」
「だから一緒には帰れないんだ」
「どこに行くの?」
「んー、内緒」
「そっか。ああ、そういえばさ」
「なぁに?」
「今日は楽しかったよ」
「うぇ!?」
 僕の言葉に屋久が目を白黒させる。そんなに驚かせるような事を言ったか?
「何か、今日は色々くぅ君にびっくりだよ」
「普通だけどな」
「いつもが普通じゃないからな……」
「……これでも屋久には感謝してるんだよ」
「……うん」
「毎日お弁当とか夕食を作ってくれるしさ」
 こんな僕でも——、空っぽの僕でも——、屋久と話していると自分に中身があるんじゃないかと錯覚出来るんだ。
 普通の人間になったんじゃないかって、錯覚できるんだ——。
 嘘でまやかしだと分かっていても、悪い気分にはならない。
 だから本当に、感謝しているんだ。
「あ、明日は隕石でも振るんじゃないかな……」
「…………」
 昔、僕に中身があったかもしれない頃の記憶。
 あの時僕は、屋久の事を大切な人間だと認識していた。と思う。
 今はもう分からないけど、まだ僕は屋久の事を大切だと認識出来ているんだろうか。

「ねえ、オワ」

 その時僕は。
 思ってしまった。考えてしまった。
 もし大切な人が——、屋久が。
 「ん? どうした?」
 屋久が死んだら——僕の空の心は傷付くのだろうか——と。
 絶対に出してはいけないはずの答え。
 絶対に考えてはいけない答え。

「あのさ————『     』」
 
 






 その答えはすぐに出ることになった。
 その晩、屋久は行方不明になり————死んだ。
 正確に言うならば『殺された』。


 屋久の死。
 殺害。

 僕が感じたのは。
 思ったことは。

 答えは。


「あぁ。これからはご飯、自分で作らないとな」