複雑・ファジー小説
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.11 )
- 日時: 2018/12/26 20:30
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
彼女は温かい。優しい温もりが肌に伝わる。
「泣かないで・・・・・・!」
香織が涙を堪え陽気に振る舞う。
「地球は1つ、世界は繋がっているのよ。だから、悲しむことなんてない。私、手紙書くわ。そうすれば寂しくないよね?」
「香織ちゃん・・・・・・!」
「それにアメリカに行くのは今日じゃなくて2週間後でしょ?だったら、その間にたくさん遊びましょ?」
「うんいいね!どこに行く!?」
詩織が涙を流しながら笑顔で頷いた。そして2人は互いに提案を出し合う。
「洋服屋なんてどう?」
「その前に映画でも見に行かない?」
「いいね!恋愛系なんてどう?」
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。気が付いたらもう日が暮れていた。今日初めて寒さを肌に感じたのはその時だった。
「そろそろ帰ろうか?」
「そうだね。寒くなってきたし風邪引いたら大変だよ」
「じゃあまた明日、今度映画でも見に行こう?」
「うん、約束だよ。楽しみにしてるね」
こうして香織と詩織はさよならと言って別れそれぞれの家へと帰って行った。
「ただいま!」
香織は自宅の玄関の扉を開け中に入った。
「お帰りなさい」
母の声が台所の方から聞こえた。もう夕食の準備ができているのか食欲をそそる香りが漂う。
「よお、やっと帰ってきたな!」
「出たなガリ勉」
背の高い青年が階段から下りてやってきた。
「おいおいガリ勉はねえだろ!?お兄ちゃんだろ!?」
「はいはい」
香織は兄の言葉を聞き流し階段を上り彼の横を通り過ぎた。
2階へ上がると扉から今度は小さな少年が出てきた。
「ただいま茂!」
「・・・・・・お姉ちゃん、実の弟の頭撫でて喜んでるなんてキモい・・・・・・」
「何よ、優しく接しただけじゃない!」
茂はそれだけ言うとまた自分の部屋に閉じこもってしまった。兄と違って非友好的なのが玉に瑕。でもそれは病弱なことが原因で心を閉ざしているからだと香織は知っていた。本当はとても優しく人の痛みを理解できることも分かっている。
香織は兄の部屋を通り過ぎ自分の部屋に足を踏み入れるとまず机に鞄を置いた。次に制服を脱ぎ私服に着替える。上着を最後に着替えを済ませたら置いてあったリモコンを手に取り気紛れにテレビの電源を入れる。いつも通りどのチャンネルも暗いニュースばかり流れていた。
『・・・・・・今日の午前10時頃、千葉県に住む25歳の女性が自宅で血を流して倒れているのを隣人が発見し通報しました。被害者の女性は病院に運ばれましたが既に息は無く死亡が確認されました。現場である民家の壁には被害者の血で書かれたフランス語の文字や遺体の口元に置かれていたチョコレートの破片などから見て連続殺人鬼ファントムの犯行と見て警察は今も捜査を続けています。続いてのニュースです・・・・・・』
殺人鬼『ファントム』、今世間を騒がせている連続殺人鬼だ。目撃証言によるとそいつは男性で骸骨の仮面で素顔を覆い鋭利な刃物を用いて人を殺害するのだ。被害者は男、女、老人、子供。そいつと出会ったら最期、その日が被害者の命日となる。正体不明のシリアルキラー(連続殺人鬼)で被害者の数は100人以上にも上っていた。
「千葉・・・・・・近くじゃない。恐ろしいわね」
香織はそう言うと不快そうにテレビの電源を切るとリモコンをベッドに置き部屋のドアを開け下の階の台所に下りて行った。