複雑・ファジー小説
- ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.17 )
- 日時: 2018/12/26 20:37
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
翌日の午後・・・・・・
この日は何故か異様な空気が漂っていた。どういう訳か今日は誰も絡んでこない。いつもと様子が違う。誰がどう見ても平凡で平穏な学校生活だ。昨日のクラスメイトの奴らが気味の悪い笑い顔を浮かべながらこっちを見ているが手は出してこなかった。気持ち悪いほどの違和感を感じる。奴らが何かを企んでいるかは明白ではない。
心を読めないなんて人間とは不便な生き物だ。そう思いながらあまり気にせず今度のテストに向けて教科書とノートを使い勉強に励む。昨日のほとんどの傷も大分良くなった。これで部活を再開できるだろう。香織は剣道部の主将だからこの程度で休むわけにはいかなかった。それに部活は学校での数少ない楽しみでもあったからだ。
昼食も今日は美味しく食べられデザートにジュースを飲んだ。午後の授業も何事もなく終わり生徒達が帰っていく。お待ちかねの部活の時間がやってきた。部室で制服を脱ぎ剣道の防具を身に付ける。香織にとってこのオニキスのように黒光りした鎧の重さがたまらなかった。
「・・・・・・っ!」
その時だった。破裂音のような音がしたと同時に頭に衝撃が走った。どうやら後ろから竹刀で叩かれたらしい。軽い力でやられたからよかったものの頭蓋骨にひびが入る程の痛みを実感する。香織は不機嫌そうに後ろを振り向いた。
「ふふん、今の不意打ちをかわせないとはまだまだだな。それとも腕が相当鈍ったのか?」
「零花、それやめろって言ったわよね?やるなら自分の頭にやりなさいよ」
「無理、頭が悪くなったらどうすんだ」
「はあ・・・・・・」
このいかにも低能そうな女は竹之内零花(たけのうち れいか)。剣道部の副主将を務めている主将である香織に対し敵視に近いライバル心を抱きいつも後ろから竹刀で叩く。彼女は力に頼り過ぎてそれが仇となりこの前の県大会でも相手を大怪我させ反則負けとなった。香織はこんな奴なんてライバルなんてこれっぽっちも思ってはいない。本心を明かせば剣道部の面汚しだ。
「まいったか?」
「はいはい、まいったまいった」
こんな奴は無視してさっさと着替えて広間に向かう。自分用の竹刀を取り出しロッカーを閉めようとした時だった。鞄にしまってあったスマホの着信音が鳴る。メールではなく電話、この時間帯にくるなんて珍しかった。
「誰かしら?詩織?」
それを取り出し画面のマークを押す。
「もしもし?」
「もしもし香織、今話せるか?」
電話の相手は兄だったので香織は不思議に思った。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「大変なんだ。お袋が倒れてしまって・・・・・・!」
「え・・・・・・!?」
「今布団に横にさせて寝かせている。茂が付き添って看病しているところだ。さっきからずっとお前の名前を苦しそうに呼んでで・・・・・・すぐに帰ってきてくれないか?」
「・・・・・・分かった、すぐ帰宅するわ」
急いでせっかく着用した防具を脱ぎ捨ていい加減にロッカーへ押し込む。そしてまた制服に着替える。
「何だ。帰るのかよ」
零花が喜んでいるのか残念そうなのか分からない表情で言う。
「悪いけど急用ができたから帰るわ。気が進まないけど後輩達の指導はあんたに任せるわ。優しくしなさいよ?」
「はいはいサボり乙」
今度は彼女が香織の口調を真似した。鞄を持って家に向かって足を進める。走っていけばすぐ着くはずだ。
「断言するよ」
「え?」
零花のその言葉に香織は後ろを振り向く。いつもふざけたような性格をした奴が真剣そうな真顔で見ていた。気味が悪かったしちょっと恐かった。
「あんたは二度と剣道をすることができない。永遠にな・・・・・・」
「何それ?脅迫?」
「予言」
呆れて皮肉も言えなかった。何も答えず無視して部室を後にする。非常に残念だが今日は詩織とは会えない。後でメールが来るだろうが忙しいから今日は会えないと返信して誤魔化す事にした。まずはとにかく急いで自宅に向かう。