複雑・ファジー小説

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.22 )
日時: 2018/12/26 21:22
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 自宅は騒然としていた。薬品や濡らしたタオルなど色んな物を抱え部屋を行き来する子供達。皆、不安そうな表情で焦りを隠せない様子だった。ソファーの上で容態が悪そうな母親が横たわっている。

「お母さんしっかりして!」

 茂が今にも泣きそうな顔で母の手を握る。弱ったその手は異常なくらいに冷たかった。

「ちょっと退いて茂!薬を飲ませるから!」

 香織と正一が薬を持って2階から走ってきた。それを母の口に入れ水を飲ませゆっくり体内に流し込むと再び布団に寝かしつける。

「熱がさっきよりも上がっている。これはもしかしたらやばいかも知れないぞ・・・・・・!?」

「ねえお姉ちゃん、お母さん死んじゃうの・・・・・・?」

「大丈夫よ。今までだって何ともなかったじゃない」

「解熱剤を飲ませた。これで少しは良くなればいいんだが・・・・・・」

「今日の晩御飯は私が作るわ。他に作れる人いないでしょ?」

「え〜!お姉ちゃんの料理!?味薄いんだよね・・・・・・」

茂が嫌がって顔をしかめる。

「文句言わない。今日は濃いめに作ってあげるから。」

「俺はお袋の看病を続けるよ。誰かがついていないと不安だと思うから。」

 香織は料理なんかほとんどした事がなかった。しかし、栄養をつけなければ明日はまともな生活はできない。そんな悪いタイミングでに電話が鳴り出す。茂が受話器を取って戻って来た。

「お姉ちゃん電話」

「・・・・・・え?私に?誰から?」

「誰だか分からないけど女の人だった。焦ってたみたいだよ?」

 客間へ行き受話器を手に取り右耳に当てる。おそらく断りもなしに部活を早退したから先生が怒ってるとかそういう内容かと思ったがその予想は見事に外れた。

「もしもし?香織ですけど?」

「香織さんですか!?私は詩織のクラスメイトなんですが大変なんです!今すぐ学校に来て下さい!」

「落ち着いて下さい。何かあったんですか?」

「詩織が・・・・・・詩織が・・・・・・!」

「詩織がどうかしたの?」


「詩織が死んでしまったんです!!」


「・・・・・・え?」

 香織は突然の悲しい知らせに言葉を失い手から力が抜け受話器を落とす。頭が真っ白になり全身が震える。

「詩織が・・・・・・何で・・・・・・」

 香織は気が狂ったように玄関に走り急いで靴を履いた。

「お姉ちゃん!?こんな時にどこ行くの!?」

「茂、今日の晩御飯はお兄ちゃんに作ってもらって!あとお母さんの看病お願いね!」

 それだけ言うと香織は家を飛び出した。


「はあはあ・・・・・・!」


 香織はいつもの登校ルートを死に物狂いで走る。詩織が死んだ理由など今はどうでもいい。とにかく学校に行って彼女に会いに行きたかった。