複雑・ファジー小説

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.33 )
日時: 2018/12/29 19:23
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「・・・・・・香織ちゃん、起きて」

 ぼーっとした意識に聞き覚えのある声、残った眠気に苛まれながら香織はゆっくりと目蓋を開く。

「え?・・・・・・詩織・・・・・・!?あなた生きてたの!?」

 勢いよくベッドから起き上がる香織。死んだはずの詩織が笑顔でこちらを見下ろしていた。

「そうだよ。さあ、早くここを出よう?こんな酷い所、香織ちゃんには似合わないよ」

そう言って詩織は香織の手を取り開いた檻の先を指差す。

「また一緒になれるね。早くここから・・・・・・うぐっ!?」

 詩織がいきなり苦しそうな声を上げうずくまった。。胸部から血が滲み出てくる。

「し、詩織ッ!!」

「痛い・・・・・・!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっっ!!・・・・・・あああああああああ!!!!」

 悲鳴を上げる詩織の体からいくつもの鋭利な刃物が突き出ていた。血が噴水のように噴き出す。


「あははははははっ!!」


「・・・・・・!」

 冷酷な笑い声を聞き香織は檻の外を見た。冷酷な笑みを浮かべる零花がその惨劇を面白そうに眺めていた。

「ははは、いい眺めだ。親友を殺されその罪を擦り付けられた気分はどうだ香織?悔しいか?悔しかったら私を殺してみろ!」

「殺してやるっ・・・・・・!零花ァァァ!!」




「あああああ!!・・・・・・え?あ、ああ・・・・・・ゆ、夢・・・・・・?」

 香織は目を覚まし天井を見上げた。興奮から我に返り何度も荒い呼吸を繰り返す。これ以上はないくらいの胸糞悪い悪夢だったが夢だと分かっていても気分がかなり悪い。意識がとんでしまいそうだほどに頭痛がする。

「そうか・・・・・・私は昨日逮捕されて・・・・・・詩織、あなたは本当に死んでしまったのね・・・・・・」

 親友がこの世を去って1日が経った。この悪夢ではない現実が未だに信じられない。死んだ親友の事を思うと泣きたくなってくる。もしも今のこの狂った全てをなかった事にできるのなら悪魔に魂を売っても構わない。香織は強くそう思った。


午前7時、受刑者に朝食が配られる。メニューは焼いた食パン(バター無し)に少量のおひたし、1杯の水。無論、デザートなんてない。今まで生きてきた中で最悪な食事パターンだった。でも食べないと死んでしまうので文句を言わず黙して配給を待った。

「姫川香織」

 看守の1人が香織の名前を呼んだ。嫌な予感が体を過る。鍵穴に鍵を差し込み檻は開けられ警察官が2人中に入ってきた。

「来い」

 そして昨日のように強引な力で独房から引きずり出す。

「痛い・・・・・・!やめて・・・・・・!」

「おいまだ子供なんだぞ!乱暴するんじゃねえよ!」

 向かいにいる受刑者が叫んだ。

「黙れ!」

 香織はそのままどこに連れて行かれるのか分からないまま連行された。


「やあ、よく眠れたかい?香織ちゃん?」

 連れてこられた場所は昨日と同じ取り調べ室だった。目の前には無抵抗な女子高生を殴った警官が座っていた。

「お前にとって大事な話がある。よく聞け」

「・・・・・・」

 警官は目を合わせようとしない香織を睨みつけ

「お前みたいなクズは今すぐにでも拷問部屋に連れて行きたいところだがその予定はなくなった」

「・・・・・・え?」

 それを聞いて少し安心し気が楽になったことを体で感じる。

「予定が変わってな、お前は今から明日に裁判にかけられる。つまり裁かれる日が早まったってことだ。理解できたか?」

 何とも言えない気持ちだった。嬉しくも悲しくもないしただちょっと不安になっただけ。香織はいきなりここに呼び出されたから母が病気で死んだのかと思ってしまった。だが、その予想も見事に外れてくれた。

「どんな判決を下されるかは俺にも分らん。ただこれだけは言っておく。少女を脅すのは好きじゃないが実刑は免れない。それだけは確かだ」

 それだけ伝えられると香織は再び強引な力で独房へ戻された。一時の安心のお陰かいつの間にか空腹になっていてとりあえず今は朝食に在りつく事にした。香織は冷めて美味しくなくなった料理に手をつける。