複雑・ファジー小説
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.38 )
- 日時: 2018/12/30 14:53
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
法廷の中には大勢の人が集まり傍聴席は満席だった。裁判官や検察官、弁護士も既に待機していた。どうやら香織が最後に到着した人間らしい。その中に見覚えのある人間も、家族だった。
「お姉ちゃん・・・・・・」
父と母に兄と弟、皆悲しそうな表情でこっちを見ている。茂と目が合ったが思わず目を逸らしてしまう。隣にいる人達は詩織の遺族だった。親友の母と父と弟、確か名前は純介。特にスポーツよりも勉強が得意な子で詩織の家に遊びに行った時に何度か話をした事があるので知っていた。彼の母は死んだばかりの娘の遺影を握りしめている。笑顔の写真だ。まるで命が吹き込まれているようにも見えた。香織は被告人として法廷の中心に立つ。
「起立!これより裁判を始めます!」
行われた裁判は思っていたよりも単純だった。似たような質問をいくつもされ何度も似たような答えを述べる。警察署と違い暴力がないためか異様なくらい集中できた。決して行き詰ることはなくスムーズに進んでいく。無論、香織はどんな質問にも真面目に答え無実を主張した。次に証人が呼び出された。現れたのは香織と同じくらいの少女。私服で見慣れない格好をしていたが同じ学校に通うクラスメイトだとすぐに分かった。
「質問します。被告人と被害者の関係はどんなものでしたか?」
「・・・・・・えっと、凄く仲が悪かったです。いつも殺してやるとか言っていたのを覚えています。私は恐くて香織さんには近づかないようにしていました・・・・・・」
あり得ない言葉が証人の口から出た。だが動揺を隠せず嘘をついている事は一瞬で分かった。
「嘘よ!私はそんなこと一度も言った事がないわ!」
当然、香織は強く否定する。
「静粛に。被告人は何も喋らないで下さい」
「ありがとうございました。もう下がって頂いて結構ですよ」
役目を終えた1人目の証人はその場を離れた。そして次の証人が呼ばれた。
次から次へと同じクラスの証人が呼ばれたがどいつもこいつも嘘の証言をする者ばかり、被告人にとって有力な証言など1つもなかった。だがここまで来るとあることに疑問に思えてくる。
香織は開廷した時からこの裁判に違和感を感じていた。嘘の証言だけじゃなく弁護士がろくに弁護してくれないのだ。それに加え検察官が異常なくらいに攻撃的で裁判長が気味の悪い笑みを浮かべながら被告人を眺めている。
「ご協力ありがとうございました」
最後の証人が去り嘘つき大会はようやく終わりを迎えた。だが不利な証言を多くされてしまった。致命的だ。このまま行けば確実に極刑に処される。だがここには味方が1人もいない。やってないと叫んでも意味がない。その後も裁判が続けられ状況は悪い方に転がっていくばかりだった。
「これにて今日の裁判を閉廷します」
最悪な裁判が終わり香織はすぐに警察署に戻された。香織は弱々しい返事をするとそのままベッドの掛け布団に潜り込んだ。疲労を感じていたが全然眠くならない。明日が心配だからだ。翌日にとうとう自分の人生が決まる。そう思うと生きた心地なんか少しもするはずなんてなかった。
「お母さん・・・・・・お父さん・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・茂・・・・・・」
家族の名を呟き静かに目をつぶる・・・・・・