複雑・ファジー小説
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.43 )
- 日時: 2018/12/30 15:07
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
- 参照: ht
法廷の様子は昨日とほぼ変わっていなかった。同じ席に両者の家族、まわりに座っている記者やマニアもほとんどが昨日と同じメンバーだった。詩織の遺影は母親ではなく弟の純介が抱えていた。父親は憎しみがこもった目で睨みつけている。皆、昨日と変わらない表情でこっちを見ていた。この広い部屋にいる人間は自分だけのような闇の深い孤独感に苛まれる。
「被告人!」
裁判長が香織を呼んだ。今の声で彼女は我に返る。気がつくと香織はもう法廷の中心で立ち尽くしていた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい・・・・・・!」
「今から判決を言い渡しますよ」
そう言って裁判長は数枚の資料を手に取り数秒間書かれている内容を真面目な表情で見つめた。どうやら最後の確認らしい。それをすぐにガベルの横に置いた。そして口を開く。
「被告人は被害者を屋上に連れ出し主犯である男性に強姦させ屋上から突き落とさせました。これは紛れもない殺人教唆です。そして、その犯行に容赦というものは一切無くあまりにも卑劣で残酷なやり口だという理由で少年法は適用されません。」
「え・・・・・・!?」
「よって被告人を仮釈放無しの無期懲役に処します」
その一言で体全体が無になり一瞬、たちの悪い幻聴だと思ってしまった。
それを聞いた背後にいる母親は我が子を失ったように泣き崩れる。その現実が現実だと理解したのは母の泣き声を聞いた直後の事だった。仮釈放無しなんて終身刑と言っているようなものだ。いや、実際言葉が違うだけで全く同じ事を言っている。もうかつての人生を送ることができないということは心ではなく体で感じ取った。冤罪なだけに受けたショックと屈辱は相当なものだった。強い金縛りにあっているかのように動かない。目の前が真っ暗になっていく・・・・・・!
「ふざけんなっ!お姉ちゃんが人殺しなんかするわけないだろ!!」
納得しきれるはずもない弟の茂が怒鳴った。当然、目には涙が浮かんでいた。
「やめろ茂!」
「ちゃんと調べたのかよこの糞裁判官共!!賄賂でも貰ってんじゃねーのかっ!?」
「やめろと言っているんだっ!!」
兄が怒鳴り茂も本格的に泣き出した。父は何も言わず下を向いているだけだった。香織の人生は終わった。愛する者も数日前の幸せなひと時も全て失った。でも心の奥底では嬉しかった。父も母も兄も妹も最後まで自分を信じてくれたからだ。少しも親友殺しの容疑者としては見ていなかったようだ。それだけが唯一の救いだった。香織は涙を流さず無理矢理微笑んだ。そして後ろを振り向き
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、それに茂。今までありがとう」
それだけ言うと哀れな少女は家族に背中を向け法廷の外へ立ち去って行った。