複雑・ファジー小説
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.47 )
- 日時: 2019/01/01 20:17
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
- 参照: ht
「毒なんて入ってないわよね?」
開けられた蓋と包装紙を眺めながら一応確認する。
「なら食べなければいい。フランス製の高級菓子なんだが」
かなり怪しいが甘い物の誘惑には弱い。香織は数秒くらいお菓子箱の中身を黙したまま眺める。その直後に地面に落ちた金を慌てて拾う物乞いのようにチョコを鷲掴みにした。そして震えた両手で包装紙を取り除き一気に口の中へ放り込んだ。アルコールが混じっていていささか癖があるがそれでも美味しかった。ここに入れられてから1週間近く経った。たったの数日なのにただの甘い物がかなり甘く感じた。幸せなあまり大粒の涙が溢れ出てきた
ファントムはその様子を見て
「変だな、涙が出る毒は入れてないはずだが・・・・・・」
しばらくして涙も治まり心も大分落ち着いた。なかなか心地よい満足感に一度だけ大きく息を吐く。香織は数十分間だけだが今の苦悩を忘れる事ができた。
「少しは正気は取り戻せたか?」
「・・・・・・ええ」
そして軽く余裕そうに微笑んだ。
「あの・・・・・・ファントムさん・・・・・・?」
「何だ?」
香織が唇を震えさせながら聞く。
「罪のない命を奪う事に罪悪感を感じないの?」
「人々は皆罪人だ。たとえ自分が殺されても別に文句は言わない」
(異常者ね・・・・・・)
そう香織は心の中で思った。
「無論異常だ、私は自分が正常なんて少しも思ってないぞ?」
香織は今の言葉に焦り慌てて口を塞いだ。何故頭の中の言葉が分かったのか?
「どうして私を助けようと?」
香織はありきたりな質問をする。
「なかなか面白い質問だ。当ててみるがいい」
とりあえず頭に浮かんだ答えを口にする。
「私が哀れに感じたから?」
「そんな慈悲深いものではない」
彼と話していると暗号の解読に挑んでいるような、そんな頭痛にかられる。
「じゃあ何なの?ただの気まぐれ?」
ファントムは気味の悪い笑みを浮かべ言った。
「ゲームだよ。お前に他者を殺す許しを与えてやる」
「はあ?もしかして殺しの依頼?重罪よ?まあ殺人鬼のあなたにはただのお使い程度のお願い事なんだろうけど」
その言葉にファントムが呆れと皮肉を込めながら言った。
「呆れさせてくれる。運動能力は優れているが頭はもう少しのようだな。脳みそも筋肉でできてるのか?」
「それどういう意味よ!?」
香織が邪険な態度でファントムを睨みつける。
「じゃあ私に何をさせたいの?具体的に説明してくれない?」
「お前に親友の仇打ちをさせてやろうと言っているんだ」
その一言に香織は無表情になり、え?と言いたそうに口を開いた。嬉しいような感覚と不信の感覚が心の中で混ざり込む。複雑な気持ちでどう返答すればいいのか分からない。短い時間で迷いに迷ったが香織はゆっくりと口を開き
「それ、本当の話・・・・・・?」
ファントムは不気味に薄笑いし左手で仮面を掴んだ。
「お前の親友、森川詩織を殺害した犯人は分かっているのか?」
「知ってるわよ、あいつしかいないわ。竹之内零花・・・・・・!」
「なるほど、一部分は正解だ。確かにその女は容疑者の1人だ」
「え?容疑者の1人!?」
香織は無意識に驚愕の言葉を漏らす。
「復讐の標的は数人存在する」
「それってどういう事!?詳しく教えて!」
とにかくその聞き捨てならない内容に飛びつく。ネガティブな内容だが有力な情報なら何としても問いただしたかった。香織は必死になり両手でファントムの服の腕部と肩部の服を強く掴んだ。