複雑・ファジー小説

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.59 )
日時: 2019/01/02 15:57
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
参照: ht

 バンは町はずれの山道に入り込んだ。まともな人間なら誰も近寄りたがらない夜の山。途中で道路が終わりでこぼこの砂利道の上を走る事となった。当然車は酷く揺れる。緊張していた事もあり少し吐き気が増す。外灯のない外の世界は何も見えず命綱は前方のライトだけ。目の前だけを照らされた道を頼りに慎重に進み続ける。香織はさっき貰ったばかりの仮面の事を思い出した。両手で持っていたそれをそのまま裏返し顔に身につける。

「それはなんだ?出所祝いのプレゼントか?頼むから笑わせないでくれ。この山道は慣れてるが気が抜けたら事故を起こしてしまう」

 博仁がジョーク混じりに口を少しにやつかせる。香織は何も答えず頭の中で『暗視』と唱える。目に映る世界が変わり全てが緑の山道になった。ちょっと暗いがはっきり見える。まるで夜明けを迎えたばかりの朝のようだ。無数の長い木が道を取り囲みそれ以外は植物ばかりで動物はいなかった。

(結構簡単ね。)

 香織は仮面を取り外し再び膝の上に置きて再び暗くなった外を見た。博仁が口を開く。

「もうすぐ着く。心配するな、感じの悪い奴は大勢いるがブラックジョークのメンバーは基本、いい奴だ。お前が裏切ったり命令違反をしない限りはな」

 またしばらく進むと道はここで終わっていてその前にはただの崖があるだけだった。隠れ家なんてものは入口すら見つからない。そう思った時だった。

「!」

 岩しか見えない崖の一部が大きなシャッターのように開いた。香織は驚きを隠せない様子で目の前の信じられない光景を見つめる。中から武装した男女2人が出てきた。軍人が持つような武器の銃口をこちらに向けながら近づいてきた。博仁は窓を開けそこから腕を出し撃つなと合図した。男性が安全と確認したのか銃を下ろし運転席に駆け寄った。女性の方はそのままの姿勢だった。

「時間通りだなそいつが新入り候補か?」

「そうだ。早く中に入れてくれないか?尾行されてる気がしてならない」

 博仁はそれだけ言うとバンを中へ移動させた。男女2人も中に入りシャッターを閉める。香織は車から降りるとまたもや背伸びをした。隠れ家の中は広くまるで軍事基地のようだった。多くの組織のメンバーがその場で夜の作業に明け暮れている。

「なかなかの隠れ家ね・・・・・・」

「ついて来い。会わせたい人がいる」

「会わせたい人?」

「来れば分かる」


 しばらく歩き続け2人は指令室に到着した。部屋は広く映画で見るような巨大スクリーンやコンピューターがいくつも置いてあり数人の指揮者がそこにいた。その中に背の高い30代くらいの男が1人両手を後ろに組み立っていた。ショートヘアに迷彩服。腰のホルスターに自動拳銃を入れていた。その男は今来たばかりの香織を鋭い眼光で見つめ

「その子供が新人か?」

 厳しい声で聞いた。

「そうです。無事、刑務所から連れてきました」

 博仁の返答に男はやる気のない敬礼をした。

「草野忠信、元自衛隊員だ。今はここの最高責任者をやってる。ちなみに階級は少尉、これ以上は聞くな」

「ひ、姫川香織です!どうぞよろしくお願いします!」

「ふん、いかにもスポーツ派って感じの女子だな。しかし何故、あの方はこんな民間人をスカウトしたんだ?」

 忠信は呆れながらも自分の背後にあったスクリーンの下のボタンを押す。

「『ブラックジョーカー』、例の人物を連れてきました。姫川香織です。間違いありませんね?」

 それだけ言うと彼は博仁と共に去っていった。

「・・・・・・」