複雑・ファジー小説
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.64 )
- 日時: 2019/01/02 17:51
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
- 参照: ht
「サテ、私ハコレカラ大事ナ仕事ガアル。少シ早イガ面会ハココマデニシヨウ。楽シイ会話ダッタ。期待シテイルゾ」
ブツンと音が鳴りスクリーンが元の映像に入れ換わった。再びどこかも分からない町のマップが表示された。まわりを見渡すと数人の組織のメンバーがコンピューターとにらみ合いをしているだけだった。自分達の話を聞いていたのは明白だが最初から何も知らなかったように背を向けている。ちょうどその時に博仁と忠信がやってきた。香織は呆れ顔を崩せないままだった。そんな彼女を見て2人は目を丸くお互いに顔を見合わせた。
「お前に提供する寝床の部屋が決まった。ついて来い。あと紹介したい奴がいる」
「どうした?嫌いな奴に口説かれたような顔をして。プロポーズでもされたのか?」
錆と埃に塗れた階段を上る。さっきの指令室とは違い何十年間も手入れされてない汚さだった。灯りも薄く一種のホラースポットのようだ。寝室の出入り口の扉の数は多く壁のある向こう側まで綺麗に並んでいた。ここも灯りがない。寝室というよりも刑務所に近かった。この長い廊下を見るとさっきまで収容されていた牢獄の記憶が浮かび上がる。
「ここがお前の部屋だ。早く夢の中に入りたいだろうが、あと数分だけ我慢しろ。先輩達に対するご挨拶が先だ」
忠信がそう言って扉を開ける。少し期待していたがここも埃臭い。中に入ると4人の男女がいてほとんどが香織とほぼ大差ない年齢に見える。例えるならまだ20代を迎えてなさそうな学生達だ。自分と同じここに配属されたばかりの新入りだろうか?目つきもまだ前科のないような優しい目をしている。彼らは司令官の入室に即座に立ち上がった。そして香織の存在を気にしながらも敬礼して忠信が叫んだ。
「よく聞け!今日からこの新入りがここに配属される事となった!名前は姫川香織!仲良くしてやってくれ!」
「はい!」
4人はそのまま姿勢を変えずに叫んだ。
「じゃあ俺達は仕事に戻る。お前のベッドはそこだ。なかなか広い構造になっているから枕の横か足の部分の空いたスペースに所有物を置ける。まあ、こんな事思えないかもしれないが高級ベッドを提供された気でいろ。まだ案内されていない場所についてはここの4人に聞け。俺からは以上だ。疲れただろ?もう寝ろ。じゃあな、俺の案内もここまでだ。」
忠信は簡単で短い説明をするとすぐに扉の外へ出ていった。4人は敬礼をやめ体勢を崩すと教師が去ったのを確認した修学旅行中の生徒達のようにそれぞれのプライベートな生活を再開した。香織はたった今指を指された自分の寝床に足を運ぶ。
「香織」
1人残った博仁が名前を呼ぶ。呼ばれた香織は後ろを振り向く。
「何ですか?博仁さんは行かないんですか?」
「俺もすぐ出ていく。聞いてくれ。明日の朝、武器庫に来てくれないか?いくつか渡したい物があるんだ」
「渡したい物?・・・・・・分かりました。武器庫ですね?必ず行きます」
それだけ伝えると博仁も安心したかのようにこの部屋を後にした。扉を閉め始めは大きく響いた足音がだんだんと小さくなっていった。これで睡眠に対する妨げは終わったようだ。香織はようやくベッドの上で横になる。掛け布団を身体の胸部の上に被せ目をつぶろうとした時だった。
「まだ9時過ぎよ?寝るにはまだ早いわ」
部屋にいた4人の1人が話しかけてきた。サイドテールの少女だった。香織より背が高く体格もよくモデル向きの容姿だった。まだまだ就寝する気がないのか半袖の服を着ていた。私服というよりもミリタリースーツに近いデザインだった。
「ソルジャーチーム所属の草野愛利花よ、よろしくね新人さん。今はここ(埼玉)に住んでるけど出身地は岐阜。もう1つ付け足せばさっきあなたをここに連れてきた草野忠信は私の父親、頭でっかちのバカ親父よ」
そう言って右手を差し出し香織が差し出した左手を強く握りしめた。
「姫川香織です。よろしくお願いします」
「あなた結構体格いいわね。運動部に入ってたでしょ?」
「え・・・・・・?ええ、まあ・・・・・・」
「女の子同士の友情の誕生を邪魔するようで悪いんですがあなたの今着ている服は囚人服ですよね?」
横から青年が口を挟んできた。背は香織より高く髪はボサボサで短い服はどこにでも売ってそうな物でこれと言った特徴は見当たらなかった。彼は新入りの彼女よりも着ている服に興味が湧いたようだった。香織は終身刑になった絶望と外に出られた嬉しさで今自分がこんなにも縁起の悪い物を着ている事を忘れていた。
「女の子が着た服に興味があるの?気持ち悪いわね」
愛利花が蔑んだ口ぶりで言った。