複雑・ファジー小説

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.68 )
日時: 2019/01/10 01:11
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
参照: ht

 気がつくと香織はグランドに立っていた。そこは間違いなくかつて通っていた母校だった。不思議に思った。もうここには戻れないはずなのにかつての人生の空間の中にいるのだから。しかし、誰もいなかった。不意に彼女はある事に気がついた。決してあってはほしくないものが・・・・・・一階の教室のすぐ横、つまりはグランドの端っこにそれはあった。ブルーシートだった。あの時と同じ場所に覆いかぶさっている。中身は見えなかったが滲み出ていた血が砂の地中に染み込んでいた。とてつもなく嫌な予感がした。香織は走りブルーシートの傍にそっと歩み寄る。

(この中で詩織は死んでいた・・・・・・あの子が天国に行ってからもう1週間近く経つんだ・・・・・・)

 更に2歩近づく。目をつぶりながら右手でシートを掴む。力強く引っ張り上げ後ろの方へ投げ捨て重い目蓋を開けると

「!?」

 香織は驚愕した。地面には血痕がべったりと付着していたが死体はなかった。これはどういう事だろうか?


「ううううう〜・・・・・・」


「・・・・・・!!」


 後ろから誰かの唸り声が聞こえた。背中に冬のような寒気を感じた。体が硬直する。この世のものとは思えない苦痛の声。ずりっ・・・・・・ずりっ・・・・・・と音がする。後ろにいるそいつは何かを引きずっているようだ。涙が出ないのが不思議な程の恐怖を感じた。動けないはずなのに震えだけはする。とてもじゃないが振り向けない。だがこのまま立ち止まっていたら後ろから襲われる気がした。吐き気がする。何故なら後ろから服に付着した血よりも濃い生臭さが漂っていたからだ。

「か・・・・・・おりちゃ・・・・・・ん・・・・・・」

 後ろのそいつは香織の名を口にした。哀れに思った彼女はおそるおそる後ろを振り向く。そしてその行為に後悔した。

「かおりィィィ・・・・・・!!」

「あ・・・・・・ああ・・・・・・いや・・・・・・」

 詩織だった。間違えようなんてなかった。それが分かったのは髪型を目にしたからだ。彼女の顔は腐りたただれ落ちているかのようにぐちゃぐちゃになっていた。片方の眼球が取れ口の部分でさくらんぼの様にぶら下がっている。手足の関節は逆方向に折れ曲が立っていられるのがやっとの様子だった。服は制服で香織のよりもまだ新しいどす黒い血で染まっていた。腹部の黒さは血の塊ではなかった。穴だった。赤子をえぐられたようなその大きさの穴からは流れ出た内臓が地面に当たっていた。何かを引きずる音はそれだった。

「いやあああああ!!」

 香織が叫んだ。足の力が抜け後ろへ倒れ込む。涙が止まらなくなり今度こそ動けなくなった。変わり果てた親友の姿から目が離れない。相手の苦しみが体の奥までに伝わり吐き気が限界を感じ取る。

「おぇぇぇぇ!」

 胃の中に溜まっていた消化物をその場で吐きだし残りの嘔吐物と唾液が混ざった液体の残りを出しながら咳をした。詩織はそんな香織を見下ろした。

「なんで私だけがこんな目にィィィィ・・・・・・!!どうしてあの時助けに来てくれなかったァァァ!!」

「ご、ごめんなさい・・・・・・!あ、あ・・・・・・あ・・・・・・ああ・・・・・・あの時は・・・・・・お母さんが病気で・・・・・・!」

「ふざけるなァァァッ!!」

 そう怒鳴りつけ両手で香織の首を絞めつける。

「がっ・・・・・・!」

 骨が砕かれる音と共に視界がかすんできた。体の感覚が抜け青空が黒く変色していった。

「お前も私と一緒になれッッ!!同じ苦しみを味わわせてやるッッッ!!」

「あああああああっ・・・・・!」




「ああああああああっ・・・・・・!!」

 香織が叫び声を上げ目を開ける。自分の首をおさえながら飛び起きのた打ち回る。恐怖の感情に耐え切れなくなり泣き声を上げた。我慢しようにも止められなかった。上から音がした。愛利花も香織の叫び声で叩き起こされたらしい。慎一もメイフライも目が覚めたのか驚いた様子でこちらの方に駆け寄る。透子はまだ眠ったままだった。

「大丈夫!?何があったの!?医務室に行く!?」

 香織は返答を返す余裕もなくわめき続けた。

「ちょっと俺、他の部屋に行って大丈夫だと伝えてきます!他の人達もびっくりしたと思うから!」

 メイフライはそれだけ言うと他のメンバーに事情を説明するため部屋から出ていった。

「慎一も何ボサッっとしてるの!?早く安定剤を持ってきて!」

「は、はい!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」

「苦しい経験をしたのね・・・・・・大丈夫、大丈夫よ。私がついているわ。だから安心して」

 愛利花はそんな香織を優しく抱きしめる。