複雑・ファジー小説
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.71 )
- 日時: 2019/12/22 07:56
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
- 参照: ht
しばらくして香織はようやく落ち着きを取り戻した。涙が止まり呼吸も安定してきた。震えも大分楽治まった。抱きしめられながら何度も息を吐く。目覚めた直後の感情も時間の流れで薄く濁ってきた。目の前には昨日出会ったばかりの人間しかいない。今頃になって現実の世界に解放された気分に包まれる。
「うっ、ぐすっ・・・・・・!」
「偉かったわ、今までずっと耐えてきたのよね」
「ただいま、全部の部屋に行って事情を説明してきましたよ。あ、やっと落ち着いたんですね。よかった・・・・・・」
「ごめんなさい・・・・・・私のせいで・・・・・・」
「気にする必要なんてないわ。さっきみたいになったのはあなたが最初の人間じゃないから」
愛利花がそう言ってメイフライは穏やかな表情で続ける。
「俺達は今はこうして明るく振る舞ってるけどこう見えても深い闇を背負っているんですよ」
「深い闇・・・・・・皆さんもやっぱり辛い過去が・・・・・・」
「そうよ、死んだ方がマシという最悪な人生を送ってきたわ」
「俺もです。母親よりも毒薬を愛した日もありましたよ」
最後に慎一もそう言った。
「数日前、私は親友を殺されました・・・・・・私が受けていたいじめに巻き込まれたんです。屋上で誰かに犯されその場から投げ落とされて・・・・・・現場に駆けつけた直後に私は逮捕され不正裁判にかけられ無期懲役の判決を・・・・・・!」
数日前の悲劇を思い浮かべると血涙が出るほど憎しみが湧いてくるがそれに耐え自分の過去を打ち明けた。
「そんな酷い事があったの・・・・・・実は私もね・・・・・・」
愛利花が下を向いて口を開き皆の視線が彼女に集まった。
「母を殺されたわ。何者かに家に押し入られ鋭利な刃物で刺し殺された。盗まれた物はなく警察は怨恨による犯行だと睨んだけどそれが不自然だった。母は誰からも恨まれる理由なんてなかったんだもの。結局、この事件は未解決のまま」
「この組織にはどうやって?」
「大切な家族を失い心を病んだ父は仕事をやめ酒浸りになった。私も憂鬱な状態から抜け出せず部屋に引きこもる日々を過ごしたわ。そんな時、ブラックジョークのメンバーが家に来て自分達に加わるよう説得されたの。最初は混乱したけど断る理由なんてなかった。こんな理不尽で腐った世の中を壊したかった。人の幸せを踏みにじる悪党に復讐したかった。それで私と父は組織に加わる事を誓い共に第二の人生を始めたってわけ。ここにいればいつかは母を殺した犯人に辿り着けると思ってね」
今度は慎一が
「俺も過去に大切な人を奪われました。宮城の介護施設で働いていた頃、夜間の休憩中に飲み物を買おうと外に自動販売機へ足を運んだんです。そしたらいきなり後ろから通り魔に襲われ暴行されました。逃げようとしたんですがそいつがナイフを突きつけてきて恐くて立つ事もままならなかったんです。その時、親友が助けに来てくれて通り魔を追い払ってくれた。彼女がいなかったら俺は今頃ここにはいなかったでしょう。ですがその直後、親友は倒れました。腹部を刺されていたんです。彼女は俺の身代わりになって犠牲になった・・・・・・通り魔は未だに捕まらず、彼女は帰らぬ人となった・・・・・・あの日の事件が今でもトラウマです・・・・・・!」
次にメイフライが
「俺は幼い頃に両親を早くに亡くしたった1人の肉親である弟と共に孤児院に引き取られ、そこを出た後は情報屋として働きました。有力な情報を警察に提供しその報酬の金で弟を養っていました。でもそんな幸せな日々は長続きしませんでした。弟が無実の罪で捕まって警察に暴行され殺されて・・・・・・だから分かったんです!警察が正義感溢れるの組織だと思ったら大間違い、奴らは金さえもらえれば不正も平気で働くクズ共だ!ってね・・・・・・」
気がつくと今度は皆が泣きそうな顔になっていた。愛利花が涙を見せないためかすぐさま視線を逸らし慎一が両手を強く握り締めメイフライが下を向く。
「じゃあ、ひょっとして透子ちゃんにも・・・・・・」
香織が言って愛利花が勿論と言わんばかりに頷く。
「ええ、普段優しくて幸せそうに見えるけどこの子も辛い過去を背負っているわ・・・・・・口にするのも嫌なほどね・・・・・・辛い過去を抱えているのは決して自分だけじゃないわ。さて、暗い話はここまでにしてそろそろ食事の準備ができている頃だから何か食べに行きましょう?朝ご飯を食べないと後で苦労するわよ」
「そうですね、朝に弱い俺にとって起きたばかりの朝食はきついですが、何か食べないと脳に血は回りません」
すっかり目が覚めた愛利花と慎一が靴を履き食堂へ向かう準備をする。透子はまだ起きる気配はなかった。
「起きて透子ちゃん、休日のように寝てたいのは君だけじゃないんだよ?」
メイフライが透子のパジャマを掴み軽く揺する。意識を取り戻したのか"ううん・・・・・・"と小さな声を上げ横に転がる。
「もう朝なの・・・・・・?」
「よし、全員起きたようね。一緒に食堂に向かいましょう」
「分かりまし・・・・・・あ、ちょっと待って下さい!」
香織が呼び止めるように焦った声を出した。何やら大事な事を思い出した表情だった。
「どうしたの?もしかしてまだ具合が悪い?」
「いえ、昨日博仁さんから武器庫に来いって言われたんです!いくつか渡したい物があるって・・・・・・!」
「そう、じゃあすぐに向かった方がいいわね。誰か案内してくれる?」
「俺が案内しますよ。皆さんは食堂に行って下さい」
慎一が自分を指差し簡単な頼みを承諾する。
「あんたってホントに女の子ラブよね・・・・・・」
「とんでもない。こう見えても俺は男女平等主義者です。相手が香織さんじゃなくてメイフライさんだったとしても同じ事をしてましたよ?」