複雑・ファジー小説
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.105 )
- 日時: 2016/03/25 12:59
- 名前: 波坂@携帯 (ID: DJvXcT4Z)
第七章、〜無彩色は何の為に〜
はぁ……。
俺こと十橋時雨はため息をついた。歩いている為に揺れる景色はいつもと何も変わらずにただただそこに佇んでいるだけの様だ。
そしてそのまま流れる様に天を仰ぐ。日の光りは鬱陶しい程に輝いていた。
しかし、現実逃避しても仕方が無いと考えて再び首をソイツに向ける。
相手もこちらを向いたのだろうか。ピタリと視線が交錯する。
「どうかした?」
何でもない。そうとだけ答えて顔を前に向け歩く。
暫く無言の間が空き、何だか別れ話を切りだそうとしているカップル見たいな雰囲気が出てくる。最もコイツとは彼氏彼女の関係と程遠い仲なので、それは杞憂に終わるだろうが。
そして俺は思いを馳せるーーーーコイツこと、鸛御弥とであった日の事を。
そう。あの日は雨だった。
通行人達の傘はまさしく十人十色といった感じでいつもは灰色だらけのビル郡もその日はカラフルだったことは今でも覚えている。
そして、そんな中に一人、傘も差さずにただボーッとした様子で濡れながら歩いていた同年代の少女が酷く浮いて見えたことも覚えている。
そんな存在に声をかけたのは気まぐれだったか、お人よしから来たものかは自分でもよく覚えていない。
声をかけたとき少女は歩みを止め、こちらを見る。
身長はむしろ低い部類に入る辺りだったがその目は機械的な迄に無機質な感じだった。他にもその背中に背負うバックからは、コードが数本飛び出しており、時折モーター音を鳴らしている。
「貴方は誰?」
通りすがりのスタントマン。こう名乗った自分を時雨は多少ながらも尊敬している。
どうやらつい最近引っ越して来たらしく道に迷ってしまったらしい。一緒に探してやろうとすると酷く拒絶された。いちおう帰り道はわかるらしく、それは道に迷ったとは言わないんじゃないか?と言いたかったがいらないことは言わない事にした。
そうだ、これ差しとけよ。そんなに濡れると風邪ひいちまうぞ。
俺はコンビニで売っているようなビニール傘を差し出す。……安物で悪かったな。
少女は一瞬戸惑うような表情をしたあと、恐る恐る傘を手にとった。
じゃあ俺はこれで。
立ち去ろうとする俺の服の裾を何者かが掴む。掴んだのは少女らしく、何でも電話番号を聞かせて欲しいと言われた。悪用される可能性もあったが、俺は自分のケータイの電話番号を渡して立ち去ろうとする。
その間際、少女はこう言った。
「私は鸛、鸛御弥」
これが俺と鸛との出会いだった。
……余談だが俺はその後びしょ濡れになって家に帰った。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.106 )
- 日時: 2016/03/30 19:50
- 名前: 波坂@携帯 (ID: DJvXcT4Z)
ただいま。
「お帰り」
帰り着いた俺を碧子が玄関で出迎える。
義義理碧子。訳のわからない組織的なものから追われる身となっていた少女だ。
身長は120や130といった所だろうか。髪型は恐らくずいぶん前から伸ばしっぱなしの緑色の髪の毛を白いカチューシャで束ねて後ろに下ろしている。ぱっちりとした瞳は幼さを感じさせるが、かなり頭(ここは知能と学力の二つを指す)が良く時雨も時折勉強を指導して貰っている。足元辺りまであるワンピースに裾を折った白衣という奇抜な格好だが、これには体罰を受けた跡を隠すためという理由がある。
「今日は鸛さんとなにかあったの?」
鸛は俺を毎日の様に呼び出しては、街の案内をさせていた。流石に仕事の時は行かなかったが、それ以外の日に出かける俺を不審に思った碧子がある日「時雨彼女でもできた?」と尋問され、白状した為に碧子は鸛の事を情報的に知っている。
今日も道案内をさせられただけさ。
「へぇ〜。碧子、てっきり鸛さんを手札に加えてるのかと思ってたよ」
お前の中の俺はそんなにたらしなのかよッ!?
「うん」
俺がたらしだと?ちょっと待て。別に俺は女子を周りにはべらせている訳でも無い(碧子)。運命的な出会いかたをした奴もいない(緋奈子)。友人と呼べる女性もいない(平子)。うん。大丈夫だろ。
「碧子、時雨には変化球は効かないからストレートで勝負しなきゃいけないって事が分かったよ」
碧子、呆れたように言うのは止めてくれ。あと何で野球の話になるんだ?
「いいよ。時雨は時雨だから」
意味がわからなかったが、俺は放っておく事にした。
「あ、碧子、料理作ったよ」
……どうやら放っておく事ができない案件があるようだ。
私は嬉しかった。
なぜなら、初めて友人と呼べる存在ができたのだから。
私ーーーー鸛御弥は自分の手の平を見つめながらそう思った。
十橋時雨。それが彼の名前。初めて私に優しさを教えてくれた。
彼は私に傘を貸してくれた。私は気になって両目の望遠機能を使い彼を追った。
そして知った。彼は私に傘を貸したせいで雨に打たれてずぶ濡れになってしまっていたのだ。
それを見た私はーーーー嬉しかった。
それは人として駄目な行為かも知れない。だけど、彼はこんな私に優しくしてくれたのだ。
『おい……聞こえるか』
私の思考は電話の主ーーーープロフェッサーによって中断を余儀なくされた。
『ターゲットが近づいている。確実に始末しろ』
了解と無機質に返す。
確かターゲットになったこの男性はDHAの元幹部の一人だ。辞めたから、情報を流されたら困るから。ただこんな理由で殺されるとは世の中は何と殺伐としているのだろうか。
だが、そんなことは関係ない。私はただターゲットを始末しDHA中央エリア本部に帰還するだけだ。
私はこれまで幾度と無く見ているーーーー命令に逆らい、また失敗したために文字通り『スクラップ』にされた同期達を。
だから私は失敗もできない。逆らうことも許されない。機械的に命令を受け、機械的に実行する。それが私、鸛御弥だ。
自身ですら、腐りきっていると分かっている。
いや、私の体は腐らないだろう。なぜなら私はーーーー機械接合手術を受けたサイボーグなのだから。
私の視界に映るのはターゲットが乗っている車。どうやらコンビニでトイレを済ませているらしい。
私は私服のまま、紫色と黒色の混じった、いわば闇色の髪を揺らしながら店内に入る。当然、私を不審に思う人物などいない。
そしてトイレに入る。どうやら男性のトイレが一つ使用中なので、ターゲットはここを使っているのだろう。
私は両目の機械眼を作動させる。視界がクリアになる。
私は両目と背中が既に機械と化している。その両目の機能は望遠とーーーー念動磁場の可視化だ。不可視のはずの念動磁場を波として視界に映し出し、明るい色ほど強く、暗い色ほど弱いという仕様になっている。
何故こんな機能なのかと言うと私の能力は[念動を操る能力]という能力であり、念動磁場を操作する類の能力なのだ。
そして私のもう一つの機能。それはリュックサックから伸びている直径三センチ程のケーブルの様な鉄線だ。
私が念動磁場を操作し、背中のリュックサックから幾つもの鉄線を伸ばす。その数は十五本。
「モードスパイク」
私がそう発声した直後、その鉄線達から夥しい数の棘が生え、見るのもおぞましい程の凶器に成り代わる。
【鉄鋼の茨】プロフェッサーはそう呼んでいたが、まさしく鉄の茨だと私は思う。
そして、その凶器を私は念動磁場を操作してトイレの一室に叩き込む。
肉をえぐる音と液体の噴き出す音の短い演奏会が繰り広げられ、それが終わると私は【鉄鋼の茨】を引き抜く。
【鉄鋼の茨】にはとてつもない程の血液が付着し、棘には所々紅い肉片がぶら下がっている。
それに遅れて個室のドアから鮮血がはい出るように流れ、私の足元をうめつくす。むっとする悪臭が鼻を突き刺し私に現実を突き付ける。
『ご苦労』
プロフェッサーの声が通信機から聞こえる。ああそうだ。私はまた一人殺したんだ。でももうどうでもいい。だって私の二つ名はーーーー。
『帰還せよ、【抹殺者】』
抹殺者なのだから。
今回わかりにくい部分が多いので、質問してくださっても結構です。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.107 )
- 日時: 2016/04/03 18:13
- 名前: 波坂@携帯 (ID: OYJCn7rx)
最近更新の遅い私ですが、wifi切られたのでさらに遅くなります。
因みにこれは友人の家から投稿しています。pcは壊れているので……。
これからもゆっくり更新していく予定ですのでよろしくお願いします。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.108 )
- 日時: 2016/04/03 23:57
- 名前: 三毛猫 (ID: dXPHeVX6)
気長に待ちます!!
これからも頑張ってください!!
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.109 )
- 日時: 2016/04/05 09:05
- 名前: 金権園 (ID: 5Yz4IUWQ)
ぼくはカレ—パン男爵です
以前いたメロンパン貴族の弟です
今はキング坂下くんと学校で暮らしています
坂下「おうよ!!おれっちはカレイっちの親友だぜ!!ふはは」
ぼく「もうさかちゃんったらぁ、あそばなでぇ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.110 )
- 日時: 2016/04/05 18:59
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
三毛猫さん、ありがとうございます。
続きです。
目覚まし時計の音が私の部屋に響く。
もう朝か。そう呟いて私ーーー古都紡美はもぞもぞと布団から這い出た。
私は一人暮らしだ。理由は高校と実家の距離的な問題という微妙な理由だけどね。
ポストに何か入っていないかを確認するのは私の日課。入っている割合の方が少ないのは新聞を取っていない事が大きな理由だろうね。
だけど今日は割合の少ない方の日だったっぽい。白いA4位のサイズの紙が入りそうな大きさの封筒が狭いポストに押し込まれた形で入っていた。
なにこれ?
今確かめてもいいんだけどおなかの虫が鳴り出したので大人しく後回しにした。
朝食を食べ終えたころには既に時計は随分と回っていた。
顔を洗い終えた私はケータイのバイブレーションに気がつき、応答する。
「あ、紡美ちゃん? 私だよ」
オレオレ詐欺はお帰りください。
「ひどいって訳だよ、紡美ちゃん」
冗談だって平ちゃん。で、どうしたの?
どうやら私に電話をかけたのは平野平子こと平ちゃんだった様だ。
「それでさー、紡美ちゃん。黒ビルって知ってる?」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.111 )
- 日時: 2016/04/13 16:21
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
私こと平野平子は紡美ちゃんとバスに揺られていた。
「気持ち悪い……酔った」
ちょっと紡美ちゃん、雰囲気ぶち壊してどうするの。
私たちは最近噂となっている黒ビルへ向かうためだった。
黒ビルとは最近噂となっている窓以外がすべてマットブラックに染まっている高層ビルです。噂では、そこではクローンが生産されているだのテログループのアジトだのゲートがあるだのと根も葉もない噂が乱立している建築物です。
で、まあその実物をこの目で見てみたいな〜。って訳なんで場所を知っていそうな紡美ちゃんに連絡して行く事になったって訳ですよ。
「吐きそう……うっぷ」
何で酔い止め飲まなかったの? 私が聞くと紡美ちゃんは、
「酔い止めまずいんだよね……おえ」
酔い止めって美味しい物じゃないよ? 薬って味わうものじゃないって訳だよ?
紡美ちゃんは心底気持ち悪そうにしている。
三段フリルの付いたスカートを穿いてI am fine.と書かれたTシャツを着ている紡美ちゃん。どこが元気かわからない……。
私はミニのプリーツスカートを穿き、白いポロシャツの上から白いキャミソールを羽織った格好です。あ、スパッツは穿いてますよ。私の下着を見れるとでも? 残念でしたって訳ですよ。
「ちょっと袋取って」
この後の事は紡美ちゃんのために見なかった事にしました。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.112 )
- 日時: 2016/05/02 21:08
- 名前: 波坂@携帯 (ID: aBTAkqDJ)
「ほら、しっかりしてって訳だよ」
私、平野平子は現在相変わらず気持ち悪そうにしているゲ……嘔吐物を吐いた紡美ちゃんの背中をさすっています。ゲ……嘔吐物はそこら辺のごみ箱に投棄しました。流石にゲ……嘔吐物を道端にポイ捨てする度胸は無いって訳ですよ。
というかゲ……嘔吐物っていちいち言うの疲れますね。でも私はゲ……何て言いませんよ。だって私、乙女ですから。
このネタ半年ぶりに使ったって訳ですよ。あ、こっちだと三ヶ月ぶりか。
まぁ、そんなメタい事は置いといて。
「ううう……」
ここのベンチで横になっている紡美ちゃんをどうにかしないと黒ビルを見るどころか帰れもしないって訳ですよ。ついでに言いますけど、女子にとってゲ……嘔吐物を吐くって結構恥ずかしい事なんですよ?いや、女子に限った話じゃ無いですけど。
私は仕方が無いので近くの店から酔い止めを買ってくる事にしました。女子力高め(笑)な私でも酔い止めは守備範囲外って訳ですよ。てか(笑)とか失礼過ぎません?
「はい、酔い止め」
適当な店で買った酔い止めを平子は紡美に渡した。
二人が現在いるのはC-7と平子達が住んでいるC-6の一つ隣の区域だ。因みに区画の仕切は携帯端末のGPSで確認できるので、勘違いすることは無い。
公園のベンチに顔を青くして横になっている紡美は平子から貰った酔い止めを口に含みーーーー軽快な音を立ててかみ砕いた。
「まずい……おえっ」
そしてーーーーこの一言である。
「馬鹿なの?私さっき酔い止めは味わう物じゃあ無いって言ったけど、かみ砕けとは言ってないって訳だよ?」
平子は呆れた様に額に手を当て、何をやってるんだと言わんばかりにミネラルウォーターの入ったペットボトルを手渡した。
「あ、ありがと……んぐっ」
かみ砕いた薬を全て飲み込もうと、紡美が一気に水を口に流し込む。
そして飲み込み終わった紡美は呟く。
「早く気分良くならないかな」
そう、 それは何気ない希望的な観測に過ぎない呟きだった。
その呟きがーーーー変異をもたらすとは知らずに。
ぐにゃり、と紡美の視界が歪んだ。
「あれ?」
「どうしたの?」
紡美は今の事を聴こうとして止めた。色々と鋭い平子が何も感じていない様子なので、恐らくは自分の勘違いだと思ったからだ。
(あー、大分酔ってたのかな?視界が歪んで……あれ?)
再び紡美は疑問を持つ。
自分に訪れた錯覚。目眩、そして、明らかな異常。
何故ならーーーーさっきまで酷かった気分が今は嘘のように晴れていたからだ。
(何が……起こってるの?)
誰に問う訳でもなく、ただ漠然と心の中で呟かれたそれに、返答を返す者も、当然居なかった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.113 )
- 日時: 2016/05/08 19:54
- 名前: 波坂@携帯 (ID: aBTAkqDJ)
ドアをノックする音が私の仕事部屋の中に遠慮がちに響く。
今日呼び出したのはジーナっちと雅ちゃんだったかな?と私ーーーー織宮織香は考えながらドアを柔らかい茶色ソファに座りながらドアノブを回した。
「入るよ」
「失礼しますね」
どうやら私の記憶は合っていた様で、無遠慮に入ってくる金髪の人影と、礼儀正しく入ってくる青白の人影が見えた。
金髪の……本人曰く、ブロンド色の髪にサルファーイエローの目をした外国人みたいな髪と目で、痩せこけた体をねずみ色のレディーススーツで包んでいるのがジーナっち。コードネーム的なものはハリック・ジーナ。本名は確か……。
「で?用件は何?アタシをわざわざ呼び出して何の用?」
ジーナっちが相変わらず砕けた口調で質問を投げてきた。そうそう二人には用事があったんだ。
「ジーナさん、年上には敬語を使う物ですよ」
今ジーナっちを注意したのが、黄昏雅ちゃん。ジーナっちと違って礼儀が正しくていい子。ま、表面だけだけど。容姿は上から白から青のグラデーションの珍しい髪を伸ばして後ろで白いリボンで一本に括っている。身長はジーナっちと変わらないくらい、その胸は絶望的な迄の差があって雅ちゃんが完勝してるけど戸籍上の年齢は確か……。
「もしもーし、話聞いてますかー?てかタバコ吸っていい?」
おっと、ジーナっちがタバコを吸い始める前に私は話を切り出した。
貴女達、今回【裏】の事情に関わっているそうね。
「そうだけど何?」
ジーナっちはやっぱり即答した。雅ちゃんは真顔で少しだけ汗をかいているみたい。まぁ、一応ジーナっちに鎌をかけておく。
あらジーナっち、即答?少しはごまかした方が自分の為と思わない?
するとジーナっちは、馬鹿な事をと言わんばかりに喋り出す。
「なーに言ってんだかこのおばさんは。気付かないと思ってる?この部屋に読心能力者が居ることぐらい、モロバレなんだけど?ほら、そこの仕事机の影、あそこらへん影の形が凄い事になってるんだけど?」
やっぱりジーナっちにはばれていた様だ。仕方なく私はその能力者を部屋から退出させる。その能力者がドアを閉めた事を確認してからジーナっちは再び喋り出した。
「だいたいアンタが私をそんな簡単に始末する訳が無いんだよ。アタシが何回外国からの嫌がらせのミサイル攻撃を防いだと思ってんの?まして私とストップウイッチは司る能力者と同じ扱い、それを殺したら色々とめんどくさい事にこじれるのは高校を中退したアタシにも分かる」
ジーナっちの頭が悪くないのはいいんだけど、ここまで理解してくる上に自分の価値も理解しているというところがまた性質が悪い。
ストップウイッチって言うのは雅ちゃんのコードネーム的なものだけど今は気にしないでいい。
「あら、もう私が話す前に結果は出た様ですね。まあ織宮さんの考えは多分、『死なずに終わらせろ』でしょうね」
雅ちゃんは人を観察する事に長けていて、この人ならこうする。と相手がどう答えるかを先読みすることがある。いや、もしかしたら彼女は時間を延ばして長考したのかも知れない。
ま、結論から言うとそんなところね。貴女達には死んで貰ったら困るのだから。
「大丈夫だって、三桁越えのばあさんに心配されるほどやわじゃ無いって」
少し口を慎みなさい。
私がせっかく良いことを言ったのにジーナっちはそれをぶち壊しにしてくれる。少しは性格が良くならないものかな。
「じゃあ、この辺で失礼するよ」
ジーナっちは手を背中を向けながら片方の手をポケットに突っ込みながら手を振って帰って行った。
恐らく雅ちゃんは人知れずいつのまにか帰って行ったのだろう。もう部屋には影も残っていない。
一段落した私は再び仕事に戻る。今はとても重要な仕事がある。
なぜなら、司る能力者が一人増えたからだ。そう、二、三ヶ月に、幾つもの偶然が重なり合って、だ。
その能力者は異例だ。発動条件から能力の範囲、そして創造力の量。何よりーーーー黒い髪の能力者だからだ。
そしてこの事態を私ーーーー中央エリア元首、織宮織香が見過ごせる訳も無かった。
今日は楽しかったな。家に帰った私ーーーー古都紡美は一人の部屋で呟いた。
バスに酔ったり色々な不幸もあったが、やはり友人と出かけるのもそれなりには楽しかった。
黒ビルも勿論見た。窓が上の方にしか存在しない為に中を覗く事はできなかったが、それが変な噂がたつ原因じゃないかと思ったりもした。
と、考え込んでいたらどうやらメールの着信があった。
緋奈子ちゃんが浴衣を買いに行くらしいので一緒にどうか、と誘ってくれている様なのでとりあえず行く予定にしておく。ふう、と携帯端末をベッドに落とすと少しバウンドして静止した。
私もベッドに横になろうとしてーーーー茶色い封筒が目についた。後回しにしていた事に今更気が付き、興味本位で私は開けた。
いや、開けてしまったのだーーーーそれがパンドラの箱とも知らずに。
そして私は、読み終わった頃には別人と化していた。
ーーーーそういう事だったんだ。
私はそう呟いて、そのままベッドの上で瞼を閉じた。
この出来事が、夢であることを願って。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.114 )
- 日時: 2016/05/13 00:00
- 名前: 波坂@携帯 (ID: aBTAkqDJ)
「はぁ……」
少女が、目を伏せて溜め息をついた。
生地に軽金属ワイヤーを織り込む事によって防弾、防刃機能を付与。なおかつ柔軟性があり動きやすいという一般人はとても所持していない様な青色の制服で身を包んだ少女は窓の外をぼんやりと眺めていた。
「珍しいな」
その彼女に声をかけた同じ青色の制服で身を包んだ少年は、主語を省略した形でそう言う。因みにこの少年の発するニュアンスは「お前が溜め息とは珍しいな」であり、これを一つの単語に省略するからにはこの少年は無口もしくはかなりの面倒臭がりである。
ーーーー最もこの場合は二つとも当てはまるのだが。
「私が溜め息をついた事ですか?それは私だって溜め息くらいつきますよ」
少女は少年と顔を合わせて返答する。妙に疲れた顔をしているのは先程までデスクワークをこなしていた事を如実に表している。
「で、お前は一体何に溜め息をついていたんだ?」
少年の本題の質問に対して少女は窓の外を再び向きながらこう話す。
「私が今の天気を予知したからですよ。風間さん」
風間と言われた少年は窓の外に降り注ぐ水の球達を見て納得した。
「そうか、天澤、お前の能力で未来を見たのか」
天澤と呼ばれた少女の能力は、[未来を予知する能力]と呼ばれる能力を持ち、色々な制限はあるものの、15秒後程なら苦もなく予知する事ができるのだ。天澤はこれを用いて15秒後に雨が降ることを予知したのだ。
因みに風間は[能力を無効化する能力]と言う能力を持っていて風間に関する予知は風間の部分が切り取られた形で認知する。
「私傘持ってきて無くて……」
確かに今日の朝は快晴と言って良いほどに晴れていた。最も昼ごろには既に曇りとなっていたが。天気予報でも見ない限りは今日、雨が降る事を予想する事は難しいだろう。
「まあ、解散時刻迄に止まない可能性も無い訳では無いだろう」
最終的にこの会話は風間の打ち立てた希望的観測により幕を閉じた。
「降ってますね」
結果、外の天気が持ち直す事は無く、むしろ悪化し雷が混じる様になっていた。
一応この都市には避雷針が数十箇所に設置されているので、住宅街に落ちる危険は無いのだが、それでも雷は迷惑だ。
「天澤は電車だったか?」
「はい、だから帰る事はできると思うんですけど……」
「なら駅まで送ってやる」
風間的には風邪を引かれたら困るからという理由に過ぎないのだが、天澤は何分人に気を使うので、
「いやいいですよ」
と、断ってしまうだろう。
そしてしばらくの論戦の後、風間が徒歩で天澤を送るという結論に達した。
ザーザーと傘が雨音を鳴らす中、天澤は一人で緊張していた。
今から天澤の置かれている状況を簡潔に書いてみよう。
・好きな人と相合い傘をしている。しかも傘が小さい。
(うわぁぁぁぁん!)
天澤は心の中で悶えていた。
別に風間と隣同士ではなく風間の少し後ろ辺りを雨に濡れない様にてくてくとついて回っているだけなのだが、それでも天澤には顔の朱色を抑えてはいられなかった。
「天澤」
「は、はいぃ!」
「……声が裏返ってるぞ」
「そ、そうですか、す、済みません」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.115 )
- 日時: 2016/05/17 06:40
- 名前: 波坂@携帯 (ID: aBTAkqDJ)
炭。
そう、私の前に転がるものはそうとしか思えない程に真っ黒だった。
そしてそれが人型だろうが、右足が不自由で義足を付けていた父親の義足が傍に転がっていようが、私はそれを炭としか思えなかった。
勿論それの隣に転がるもう一つの炭の塊の傍に眼鏡を愛用していた母親の眼鏡が落ちていたところでそれは、それ以上でもそれ以下でもない炭だった。
その人の手を模った様な形の部分を握ると雪を踏んだのと似たような音がした直後に粉々になった。
そう、きっと周りは気が狂っているのだ。こんな炭が私の両親な訳が無いのだ。
そして私は葬式から飛び出して事故現場に向かおうと走り出しーーーー
「……久しぶりに見たわ」
私ーーーー鸛御弥は大して覚えたくもない夢に起こされた。
とあるアパートの狭い一室を借りて私は任務期間を過ごす手筈になっているが、もう少し環境を整えても良いんじゃないかと心の中で毒づきながら洗面台へと向かう。
鏡には酷く眠たそうな少女が映っていた。髪も所々跳ねている。
顔を洗い、水玉模様のパジャマを脱ぎ、動きやすい様に細工した黒色のレディーススーツを着る。朝食はトーストにジャムを塗って済ませた。髪は念動によって整えいつもの様に荷物を持って職場ーーーーもといアジトに足を運ぶ。
私の格好は浮いている。レディーススーツにリュックなどとても相性が良いと言う人類はこの世の中でも少ないだろう。
今日は天気予報では雨が降るらしいが傘は持ってきていない。実際傘で雨を防ぐよりも念動磁場の膜を作った方が雨風を防げるからだ。
そんな大した重要性も無い事を考えていたら仕事場についた。
窓が下の階にはほとんど無く、ビル自体が黒く染まっている建造物ーーーー最近では『黒ビル』という呼び名が流行っているらしい。
ビルの周りには警備員ーーーーDHAの構成員が監視の目を光らせている。
私も声を掛けられるが、背中のリュックから【鋼鉄の茨】を伸ばせばすぐに本人だと分かって貰えた様だ。そのままビルの中に入っていく。
何を気に留める訳でも無くエレベーターに乗り込み私の部署の部屋がある13階のボタンを押そうとーーーーする前に別の誰かがそのボタンを押した。
その手を辿っていくと視界に映ったのはーーーー。
「おはようございます。抹殺者」
加速者、私と同じサイボーグだ。確か彼は身体のほぼ八割を機械に置き換えている。その銀色の髪と大人しそうな顔立ちは人気が出そうだが、彼は何かとプロフェッサーと為なら火の中水の中と狂気的な迄に狂っている節がある。
「何か用?」
「今日の作戦は分かってますか?」
「分かってる。貴方が義義理碧子の担当。私と飛翔者が天澤秋樹担当。そして移動者と燃焼者がーーーー古都紡美の担当」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.116 )
- 日時: 2017/10/01 17:21
- 名前: 波坂@携帯 (ID: VXkkD50w)
「……残念だな天澤」
風間の目の前には呆然とした様子の天澤が棒立ちになっていた。理由は天澤の斜め45度前方に位置する液晶画面の中に書いてある。
内容はこうだ。『落雷の集中により避雷針が焼き切れ、その避雷針が線路の上に落下した為に運行延期。復旧は23時を目処としています』
風無表情にも少しばかりの同情が含まれている。同情の眼差しを向けられた天澤は「こ、これからどうしたら……?」等と戸惑いながら手を忙しく宙にさまよわせている。
「天澤」
「はい?」
「俺とザンとキャロルと火麗、誰が良い?」
天澤は風間の言った言葉の意味が理解できずに「え?」と聞き返している。
風間は苛立つ事もなく、もう一度同じ台詞を繰り返した。
「だから、俺とザンとキャロルと火麗、誰が良いかと質問している」
ーーーー風間さん、区切ったら良いって事じゃ無いんです。主語述語修飾語をはっきりさせて欲しいだけなんです。か
天澤はなかなか伝わらない思いを心の中で叫びつつも、取り合えず自分の言語解釈により質問に答えようと試みる。
幾つか考えたものの結局意味が分からず(恋愛云々は火麗が入っているために除外した)、まあ一番関係が深いと言える風間と答えた。
しかし、返答は予想外のものだった。
「そうか。服は我慢しろよ」
「え?」
本日二回目の「え?」に風間は少し面倒とばかりに緋色の目を伏せ、溜め息をつきーーー
「取り合えず、復旧する迄は俺の家に居てもらう。風呂と食事は用意するが、替えの服は我慢しろ。……分かったか?」
この風間の爆弾発言に天澤が三度目の「え?」を口から漏らしたのは未来予知せずとも分かる事だった。
「時雨ぇ……もうゆるひてぇ……ひやぁっ!」
【上原荘】の一室で、緑色の長い間伸ばしっぱなしにした髪を白いカチューシャで整え、淡い水色のワンピースに裾を折った白衣を羽織っている十歳ほどの少女ーーーー碧子が普段の落ち着いた声からは想像もつかない妖艶な声をあげる。そのぱっちりとした丸い碧色の目は潤んでいて虐待心を刺激し、はぁはぁと荒い息と時々挙げる喘ぐ様な声はそっち系の趣味に傾かざるおえない程に刺激的かつ官能的である。
「何言ってんだ。止める訳無いだろ」
そこに凛々しい顔立ちのに鋭くも緩くも無い目付き、黒い髪は少しばかり伸びてきて、目に少しかかる程度に伸びている。明らかに室内で過ごすための普段着の半パンと、『野口!樋口!福沢!俺の財布に集合せよ!』と白地に黒い文字でデザインされたTシャツを着た青年ーーーー時雨が碧子に無慈悲な返答をする。
「そ、そんなぁ……もう碧子、どうにかなっちゃ……ひゃあっ!ふあぁっ!」
「なぁ碧子……」
「ご近所に俺が幼女趣味とかいいふらしただろ」
時雨がそう言いながら碧子の脇腹をくすぐる。
「ふぁっ!ひいゃ!止めてってば!」
正直、横から見たら幼女を襲っている様にしか見えないので非常に犯罪チックである。
事の発端は今朝の事だった。時雨がゴミを出そうと下の階に下りたときだった。
そこでは二つ下の階に住む鈴木さんと佐藤さんがこんな噂話をしていたのだ。
要約するとーーーー『十橋さん、幼女趣味があるらしいわよ』と。
時雨はゴミをゴミ捨て場に向かって怒りのままに放り投げ、階段を超スピードで駆け上がり、部屋にいた碧子をうつぶせに押し倒して背中から押さえ付けて今に至る。
「白状するまでは止めなーーーー」
不意に、ドアノブを回す音とそれに遅れてプラスチックをどこかに打ち付けた様な音がした。いや落とした音だろうか。
整備の行き届いていない機械の様にぎこちなく首を音源へと回す時雨。
そこで時雨は見てしまったのだ。
ーーーードン引きした表情で、回覧番を落とした、ご近所こと鈴木さんを。
鈴木さんは唖然とした表情のままポケットからスマートフォンを取り出し見覚えのある三つの数字を入力ーーーー。
「ちょっとまてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.117 )
- 日時: 2016/05/24 21:26
- 名前: 波坂@携帯 (ID: aBTAkqDJ)
その後何とか俺は鈴木さんを説得することができた。
が、問題はまだ現在進行形だった。
「時雨が……弄んだ」
もてあそんだとか言うなよ。碧子の場合自業自得だろ。
「酷い!私の清い身体で散々遊んで乙女の心をズタズタに引き裂いた挙げ句に知らぬ顔で自業自得なんて!」
碧子?お前頭俺より良いだろ?だったら乙女は人に幼女趣味のレッテルを貼付ける様な奴の事を指す言葉じゃないって事ぐらい分かるだろ?
最近、少し碧子が暴走気味な気がする。
いや、別にそれは良いんだぞ?ただこう……俺も年齢的にはまだ高校三年な訳で……やっぱりこういう色っぽい艶姿は目に毒というか眼福というか……。
いつもは落ち着いた感じで俺より冷静なんだが時々年齢相応の部分のギャップに驚かされたり、ちょっとした行動にドキッとさせられたり。碧子がやっぱり女の子なんだなぁって思う時がある。
まぁ碧子が良いならいいんだけどな。
でも幼女趣味のレッテルを人に貼付けるのは止めろよ。マジで。
「雨か……」
隣を歩く碧子がそう呟く。
あれから碧子が落ち着かせ、今は時計の短い針が7の針を指していた。
傘を差しながら歩く俺とその傘に入る碧子は、買い出しに向かっていた。
何故こんな遅い時刻なのか。それは二人の理由だ。
一つ。この時間だと半額シールが貼られる商品があるから。
二つ。午後8時以降は電気代が安くなるから。
どちらも経済的な問題だが、こちとら食費が増えたので少しは節約をしている。
「時雨、覚えてる?碧子と出会った日のこと」
忘れる訳無いだろ。
ああ、そういえばあの日もこんな雨だったか。雷が混じる、自転車でカッパを羽織って行くよりは徒歩で傘を差した方速いな。そう判断したのを今でも覚えている。
「時雨ったら普通ドアの前で行き倒れになってるこんな歳の女の子を連れ込むなんて、碧子、今でも奇跡だと思ってるよ」
ま、確かに今考えると変態的な行動だな。
それに救われる碧子も変態かな?俺が変態ならお前は既に汚れてるさ。時雨になら汚されても良いよ。何馬鹿な事を言ってんだ。そんな何気ないやり取りを二人でいるには少し狭い傘の中で続けた。
碧子の瞳は夜の雨を綺麗に映し出している。そしてその碧色の瞳はそれを背景に俺を映していた。
轟々と鳴り響く雷も、きっと碧子の小さい悲鳴が無ければ気づかなかっただろう。
だって俺は今碧子に見とれていたのだから。
それはエメラルドの宝石ではなく、エメラルドの原石を見ている気分だった。
流石に視線を感じとったのか碧子が何?と言っているが、俺は傘と雨粒がうるさいって思っただけだ。とごまかす。
冷やかす様に、車のクラクションがどこからか唐突に鳴り響いた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.118 )
- 日時: 2016/05/26 01:44
- 名前: 波坂@携帯 (ID: aBTAkqDJ)
「いつまで降るんだろ。この雨」
碧子がそうポツリと呟く。
ま、確かにこんなに降ってたら止むかどうかは気になるわな。
碧子、俺のポケットからスマホ取って天気予報見てくんねぇか?
「ん、わかった」
もそもそとポケットが漁られ、スマホが取り出される。碧子にスマホは持たせていない。理由は金銭的問題だ。
さーて、今日は夕飯どうすっかなー。等とどうでもいい。事を考えながら雨の中を歩く。雨粒が傘に当たって軽く騒音を発てるが、何より雷が煩かった。
目の前で、何かが光る。
雷かと思って見過ごしーーーー直後、爆発音が聞こえたと思えば、俺は吹き飛ばされていた。
訳が分からない。一体何が起こった?状況の整理がつかないまま、俺は歩道に沿うように立てられた街灯に激突した。
時雨を吹き飛ばしたのは、雷でも暴風雨でもなく、加速者ーーーー白道隼成の放つ、拳の一撃だった。
ただし、ただの拳ではない。
体内に積み込まれた電子エネルギーを推進力として、身体の肘、膝、肩、手首、足首、手の平、足裏等などに設置された噴射口から噴射。その反作用を利用した推進力ーーーーロケットの噴射がイメージとしては近いだろうかーーーーにより、爆発的な力を叩き出すという強力かつ凶悪なものだ。
そしてそれを打ち出すのは、人工皮膚に覆われた機構の腕。つまり義手だ。加速者は、義手以外にも両足両手等と身体の八割が機械化している。
そして、その拳が直撃した時雨は成す統べなく飛んで行き、街灯に激突して街灯をくの字に曲げる。
「えっ?」
碧子は天気予報を時雨に伝えようとしてーーーー今現在の状況にようやく気がつく。そして碧子は時雨に駆け寄ろうとーーーー。
「おっと行かせませんよ」
加速者が碧子の腕を掴んで引き寄せ、利き手で白衣の胸元を掴んで持ち上げる。
そしてそのまま地面に叩き付けて無力化する。
「ぎッ!」
「大人しくしていて下さい。殆どの戦力を天澤秋樹に注ぎ込んでいるのですから、あまり手間を掛けさせないで下さい」
そう平淡な口調で話す加速者。そのまま碧子を持ち上げようとして、目の前に飛んできた拳を受け止める。
「おい……誰だよお前」
「通りすがりのサイボーグ……とでも言っておきます」
「だったらスクラップにしてやるよッ!」
時雨の左腕が、加速者の胴体に吸い込まれる。
今度は加速者が飛んでいく。が、壁面に当たる直前で足裏と手の平からジェットの様に閃光が噴射。勢いを殺して着地する。
加速者が反撃と言わんばかりに足裏から閃光を噴射して接近。更に肩、肘からも噴射して推進力を格段に増やして時雨に右腕を愚直に繰り出す。
対して時雨も、ただ力を込めて右腕を愚直に突き出した。
お互いの拳がぶつかり合い、軽い衝撃波と轟音を響かせる。
「おや……本来ならこれでチェックメイトだったんですがね」
加速者は予想外と言い首を傾ける。
「おいおい、もう手品はおしまいか?」
時雨が煽るも加速者は淡々とした様子でこう答える。
「最後に一つ、見せるものがあります」
唐突に鳴ったそれは、特殊警察時代に聞き慣れた、火薬の炸裂する音だ。
自分のシャツが、赤くデザインされていくのを見た時雨は、相手が何をしたのかを理解した。
加速者の手に握られていたのは、黒光りする散弾銃だった。時雨が被弾したのは、とても片手では数えきれなかった。
「すいません。時間が無いもので」
加速者は碧子を担いで足裏から閃光を撒き散らしながら遠ざかって行く。
時雨も追い掛けようとするも、血液が抜けると同時に段々と力が抜けていく感じがした。
そして、時雨は電池が切れた様に、プツリと意識を手放した。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(二千五百参照突破!) ( No.119 )
- 日時: 2016/05/26 21:56
- 名前: 波坂@携帯 (ID: aBTAkqDJ)
やっと二千五百参照突破しました。
いやー、長かったですねー。これ書きはじめたのは去年の十月辺りだから……もう半年以上も書いてますね。
流石にこれだけ長い間書き続けていれば、私とて初心者から脱却して中級者になーーーーはい、初心者です。すみません。
そして夏休みがリアルタイムで半年以上という謎の現象まで起こりましたね。
私としては夏休みは四章で終わる予定だったんですけどねぇ……いつの間にか七章までグダっているという始末。
早く平子を登校させないと学生キャラを登場させられない。でもこの章はやりたい。でも早く登場させたい……なんてグダってたらもう半年以上。いやー、時が経つのは速いと言うか。
まぁ、夏休みも終わりが見えてきたのでそれを目指してとりあえず頑張って行きます。
そう言えば他作者様達が【参照〜突破記念!】等とやっているのを見かけて思うこと。
……私、千回記念も千五百記念も二千記念もしてないし……。
という訳で二千五百記念はやりたいと思います。
でも何をすれば良いのか分からない私は基本的に趣味に塗れた頭を絞ってアイデアを幾つか出してみました。
1.ssを投稿。→何かおもしろくなさそう。
2.人気アンケート。→そもそも投票人数が少ない。
3.キャラ設定制作。→ポリシー(笑)的にはあまり作りたくない。
4.コラボ。→べ、別に相手がいない訳じゃ無いんだからね!(最悪波坂の別小説とコラボさせればいいし)
5.新しい小説投稿。→誰得。あとその暇この小説に使うわ。
ダメだ。何していいかわからねぇ。
とにかく、他作者様達の記念うんたらを参考にして考えてみます。
二千五百記念をお楽しみに。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.120 )
- 日時: 2016/05/27 23:57
- 名前: かくたかし (ID: zjmgeTG7)
どうも。
「ネコミミ少女との夏休み」の作者の
かくたかしです。
波坂様の小説を読ませていただきました。
感想の方ですが、「コメディ・ライトの方に出してもよかったんじゃないでしょうか。」
と言うのが感想です。
そのぐらい、面白かったです。
では、また、次回。(^0^)
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.121 )
- 日時: 2016/05/28 15:55
- 名前: 三毛猫 (ID: z18hpbrC)
参照2500到達おめでとうございます!
これからも応援しています!
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.122 )
- 日時: 2016/05/29 11:23
- 名前: 波坂@携帯 (ID: aBTAkqDJ)
かくたさん感想ありがとうございます。
かくたかしさん質問ですけどまだ最初辺りの方しか呼んでませんか?いや、もしそうなら悪いと言う訳では無いのですが……がんばれ!かざまくん!辺りとか題名の割に後半シリアス全開だったのでコメライ板は厳しいかと思うのですが……。
でも面白いと言ってくれるのはありがたいです。
三毛猫さんありがとうございます。
いつかは参照記念をするつもりなので良かったら楽しみにしていてください。
コラボ相談待ってます。
続きです。
平野平子は雨の中を歩いていた。
今日は緋奈子に誘われて、来週の夏祭りに着ていく予定の浴衣を選びに行く約束だったのだが、待ち合わせ時刻の午後七時半になっても紡美が現れなかったのだ。
因みに何故こんなに遅い時間かと言うと、送迎してくれる緋奈子に急用が入った為であり、別に最初からこの時刻に待ち合わせをしていた訳ではない。
十分程でしびれを切らした平子は紡美の家に乗り込むと言い出した。そんな飽き性の、というかじっとしていられない平子に飽きれながらも緋奈子も同意し、今は雨の中、傘を差して紡美の家に向かっているのだ。
最近膝丈の浴衣が流行ってるらしいね。膝丈?スカートの様なものでしょうか?イメージは近いと思うよ。それって太股とか見えちゃうんじゃ……。それを緋奈子ちゃんは時雨さんに見せ付けると。変な事言わないで下さい!等とたわいもない会話を繰り返す内に紡美の住むアパートに到着する。
そのまま平子はアパートの玄関に入り込む。
「うわ……何これ……」
見れば壁面に黒い模様が出来ていた。しかしペイントにしては何も書かず、ざっくり言うと染料を無造作に壁面に向けてぶちまけ、したに滑り落ちる雫を拭き取ったきの様な模様である。
「少し焦げ臭いですね……」
一階の誰が焼き魚でも失敗して灰でも作ったのかと思う平子。私も焼くの苦手だからなぁとどうでもいい事を考えつつエレベーターを使おうとーーーー
「……ねぇ緋奈子ちゃん」
「はい?」
「流石にこれはおかしいって訳だよ」
平子が指を指したのは、エレベーターを使用する際に押すボタンの付けられている部分。そしてそこは、無造作に破壊されたボタンが付いている。あたかも、ハンマーで殴りつけた様な破壊の仕方だ。
平子は黙り込んで階段に向かう。
ぐちゃり。そう足元から音がして、下に視界をずらす平子。そして視界に映ったのはーーーー。
「なに、これって訳です……よ」
平子は直感的に覚った。この自分の足元に転がっているのはーーーー赤に染まった屍だと。
平子は悲鳴を上げなかった。平子は自分で、どうやら自分は一定以上精神が揺さぶられると、反って冷静になる思考の持ち主だと頭の片隅で思い浮かべる。
緋奈子は悲鳴を上げかけたが、口を抑えて自分を黙らせた。緋奈子が冷静を保っていられるのは、皮肉にも自分の両親が屍となるのを直に見ているからだった。
「紡美ちゃんは……」
そう呟いた瞬間、平子は走り出していた。階段を二段ずつ駆け上がり、紡美の部屋がある階層を目指して。それに緋奈子もついていく。
途中で何度も赤い肉片や黒いペイントを見たが、平子達は無視した。見ていて平常心を保っていられる自信が無いから。
紡美の部屋の階層にたどり着き、平子は愕然とする。
紡美の部屋のドアが、無くなっているのだ。たまらず平子は中に駆け込む。
そして、
「……ああ、平ちゃん」
平子は親友を見つけた。
「ごめん……少しあってさ」
しかし、親友の他にも、目を引くものが幾つもあった。
「……ホントは見られたく無かったな……」
親友が立っている周りにはーーーー。
「平ちゃんと緋奈子ちゃんとは、親友でいたかったから」
何人かの、屍が転がっていた。
その屍は、明らかに一般人とは思えない装いをしている。
「紡美さん!大丈夫でーーーー」
遅れて駆け込んできた緋奈子に対して、紡美は。
「うん、大丈夫だよ」
諦めた様に笑い、呟く様に返事をした。
「やっぱただの無能力者じゃ無かったんだな」
突如聞こえたその声に三人が玄関の方に振り返る。
レインコートのせいでよく見えないが、恐らくはブラックスーツを着ているその男性は、砂の様な色をした髪を左手で弄りながらこう言った。
「誰?貴方もどっくへっどありげいたーとか言うグループの人?」
紡美の問いに訳の分からない二人を差し置いて戸堀照友ーーーー燃焼者はこう答える。
「そ、俺達はDHAっつーテロ組織なんだわ」
テロ組織、その言葉に激しく反応したのは誰でも無い、緋奈子だった。
「何のために……こんな事を!」
歯ぎしりの音と共に、破れて玄関に転がっている鉄のドアが、緋奈子の能力によって燃焼者に突撃する。
「いやな?俺も分かってねーよ。ま、抹殺者とか加速者辺りは知ってんじゃね?」
そう軽い調子で返事をしながら、燃焼者はそのドアをレインコートから出てきた右手の筒で弾く。
その筒は六角柱で側面にはいくつかのLEDが付いており、右手で持っていると言うより右手の肘までを侵食している。
緋奈子は驚く。それは攻撃を弾かれた事に対してではなく、そのレインコートに収まっていた、燃焼者の肘から付いている筒に、だ。
「……キラー?テレポーター?」
平子は未だに事の整理が追いついていないらしく、言われた言葉をただ呟くだけとなっていた。
「因みに俺は燃焼者。まぁ文字通り」
燃焼者の右腕の筒に付いてあるLEDが点滅する。
そして燃焼者は筒を三人に向けた。
「火炎を噴射すんだよ」
そして三人に燃え盛る劫火が襲いかかった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.123 )
- 日時: 2016/05/31 17:50
- 名前: メイドLOVE (ID: JbPm4Szp)
いつもにこにこ貴方の周りに這いよる混沌メイドLOVEです。
2500参照おめでとうございます。
これからも一読者として、「不老不死は眠れない」と「超能力者と絶対に殴り会うの能力」共に楽しく読ませてもらいます。
それでは、これにて失礼。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.124 )
- 日時: 2016/05/31 23:47
- 名前: 波坂@携帯 (ID: aBTAkqDJ)
メイドLOVEさんありがとうございます。
あちらも頑張って行きます。
続きです。
三人に劫火が触れる直前、突如現れたのは『壁』だった。
薄く、まるで青色の付いたガラスの様に透き通った一枚の壁だった。
しかし、その頼りなさげな薄い壁は三人を劫火から守り切る。
そして劫火が途切れる辺りで凛とした女性のハスキーな声が聞こえる。
「アカネちゃん、ちょっとそこの人どけてくれないかしら」
「りょーかい!」
アカネと呼ばれた朝焼けの様な色の髪に使用人服を着た高校生程の少女が元気に返事をしながら燃焼者に突撃を仕掛ける。
アカネは燃焼者目掛けて掌打を放つ。それを燃焼者は放火を止め、機械筒で受け止める。がーーーー
「おいおい……最近のメイドはこんな腕力あんの?」
燃焼者は機械筒で受け止めた事でダメージは入らなかったものの、一メートル程押されたのだ。アカネの掌打によって。
「秘密だよっ!あははっ!ヒントは一点集中!」
ぱっちりとした黄色の目を文字通り輝かせながら距離を詰めようとするアカネ。だが燃焼者もテロリストグループの一員だ。即座に機械筒をアカネに向けて劫火をぶちまける。
それをアカネは「うわぁ!」と笑い半分驚き半分の笑顔を作りながら曲芸めいた動きで後退し、使用人服の長い裾から片手で四本のナイフを投げる。
燃焼者は一本を回避し三本をまとめて機械筒で受け止め、左手からあるものをアカネに向ける。
燃焼者は劫火を放ちながら左腕で拳銃をドロウしていた。立て続けに発砲を繰り返す。
発砲を警戒していなかったアカネに銃弾が当たることは確定している様に思えた。
「全く、お前は手のかかる奴だ」
が、アカネに銃弾は当たらなかった。アカネの前には捩り切られた様な跡がある防火扉が空中で静止していたからだ。
なぜなら車椅子に乗った暗い紅色の短髪の高校生辺りの少年ーーーー不知火円が彼の能力、[念力を操る能力]によって防火扉でアカネを守ったのだ。
彼はその赤紫の三白眼でアカネをじっと睨む。
「アカネ……帰ったら少し反省だな」
「ご、ご主人まさか私に罰と言ってあんな事やこんな事を……」
「お前が何を思ってるかは俺の知った事では無いが、前の敵に油断は命取りらしい。気を引き締めろ」
「前の敵……つまりご主人の敵……」
アカネはボソッと呟いてから無邪気な、しかしどこか狂気的な笑みを浮かべ嬉しそうに言う。
「ご主人の敵は私の敵だからね、『お掃除』しなくっちゃ!」
三人は目の前に行われている事に対して訳が分からなかった。
ただ分かるのは、この目の前にいるハスキーボイスの女性が自分達を助けたと言うことだけだ。
金属色の青。言うならばコバルトブルーの髪を大きな灰色の髪留めで二つに括っている。服装は薄灰色を基調として、白い縦線と黒い横線を右胸辺りで交差させた十字架の様な模様のYシャツに、赤と黄のチェック柄の膝丈のスカート。首には水玉のネックレスを付けた女性は平子達に顔を向ける。
「初めまして、だね。古都紡美ちゃん、平野平子ちゃん、鋼城緋奈子ちゃん」
「えっ?」
平子が反射的に言ってしまった様な事を他の二人も思っていた。
何故この見知らぬ女性は自分達の事を知っているのかと。
女性は優しく微笑みながら、落ち着かせる様に話し出す。
「私の名前は聖林寺五音。貴方達を助けに来たの」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.125 )
- 日時: 2016/06/01 07:01
- 名前: メデューサ ◆VT.GcMv.N6 (ID: Jhl2FH6g)
>>波坂さん
ついに出てきましたね…!
想像通りのキャラで嬉しいです!
遅ればせながら参照2500おめでとうございます。少し感慨深いかもです
更新、これからも応援しております!
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.126 )
- 日時: 2016/06/02 21:56
- 名前: 2次元大好き (ID: RHqvt9yZ)
初めて読ませてもらいました
とても面白いです
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.127 )
- 日時: 2016/06/04 14:23
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
メデューサさんありがとうございます。
二人にはこれからも頑張って貰いますので良かったら楽しみにしていてください。
二次元大好きさんありがとうございます。
これからも頑張って行きます。
続きです。
「助けに来たって、本当の事?」
「そう、本当。さ、付いてきて」
紡美の部屋の奥に進む五音に三人は言われるがままについていく。
ふと五音が立ち止まり、壁に手を合わせる。
次の瞬間、人が通れるほどの穴が壁に空いた。
しかしそれは静かな破壊だった。壁も切り取られたかの様に綺麗な切断面である。
そして五音はその穴から容赦なく踏み出す。平子が「えっ?」と予想外の行動に呆気を取られ、緋奈子の顔が驚愕に染まる。
が、五音は落ちなかった。
何故なら先程三人を守った薄い、青色の付いたガラスの様な壁が今度は五音の足場となっていたのだ。
「驚いた?これが私の能力[障壁を司る能力]よ」
平子の顔が再び呆気に取られ、そして驚愕する。
「あの……」
「聖なるの聖に林に寺、数字の五に音で聖林寺五音よ」
「聖林寺さんは……司る能力者何ですか?」
平子は恐る恐ると言った感じだ。とは言うものの彼女は司る能力に置いて余り良い感情を抱いていない。
具体的にはーーーー貯水施設に投げ込まれたり、片足麻痺させられたり、右腕凍らされたり、コンテナ投げ飛ばされたりーーーー等。
「ええ、中々珍しいでしょう?」
珍しい所の話では無い。
彼ら彼女ら【司る能力者】達は今の所十人程しかおらず、また既に三人が死亡している。彼らに特に共通点は無い。あるとすればその稀少さと、能力の強度である。
現に聖林寺五音は、[障壁を司る能力]を所持しているが、この能力は基本的に一定の圧力に耐え切る壁面を設置したり、また彼女が障壁と判断したものを操る事もできる。
この能力によって生み出される壁は工事用の鉄球を受け止める程堅く、彼女の前ではどんなに強固な壁も意味を成さない。先程の様に静かに破壊される。
また他にも応用的な要素があり、防御系の能力ではハリックジーナの[錠を掛ける能力]を超える存在である。
四人が障壁によって生み出された階段を下っていく最中、燃焼者とアカネ、そして円の戦いは苛烈になっていた。
燃焼者は平子達に逃げられた事に舌打ちをしながらポケットからトランシーバーを取り出す。
「こちら燃焼者ぁ。A班……は古都紡美に殺られたか。B班、取り合えずJK三人とその近くにいる護衛を分断しろ。C班、てめぇらは他にも敵がいねぇか見張ってろ。移動者、お前は仕事しろ」
突如トランシーバーから雑音が聞こえはじめる。どうやら誰かが喋っている様だ。
『こっ、こちらC班!た、大変です!こちらにも能力者が……うぐわぁぁぁ!』
C班の通信役の悲鳴と共に爆発音が聞こえる。
そして燃焼者は一言呟く。
「おいおい……あの無能力者はどれだけの価値があるんだ……?」
飛来するアカネの投げナイフを野球のスイングの要領で弾きながらも燃焼者は劫火を放つ。
そしてその劫火にあるものが念動磁場によって投げ込まれた。
それはーーーー消火器。
爆発音と共にアカネと円の視界がカラフルに染まった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.128 )
- 日時: 2016/06/06 20:57
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
一方、平子達四人は障壁によって作られた階段を下り終えていた。
四人の視界に映るのは、激しい戦闘。
赤黒い髪のビニールのレインコートを着た二十代前半の男性と青いメッシュの掛かった銀髪の同じくレインコートを着た女性がその中でも一際目立っていた。
赤黒い髪の男性はレインコートの下にはこの季節にしては暑いであろうトレンチコートを着ていた。その男性は空き缶や石などとにかく手の平サイズの物をひたすらに武装した集団ーーーーDHAに投げ付けていた。
その空き缶等は一瞬潰れた様にひしゃげ、次の瞬間爆発する。その威力は軽く手榴弾に匹敵するだろう。
「ほらほらほら!上手く避けないと死んじまうぜ!」
その男性はこの状況を面白がっている様にも見えた。爆発が起こる度に地面や壁の形が変えられ、それを見た平子は背中にぞっとしたものを覚える。
青いメッシュの銀髪の女性は軍隊の様な帽子を被り、ミニドレスの様な軍服を着ていた。チェーンで装飾されている箇所もあり、履いているブーツには輝く十字のエンブレム。目は色が違い片方は青色。もう片方は淡い緑色。
女性は地面から生える何かを操っていた。あるものは何かを飛ばし、あるものは触手の様なものを伸ばし相手を拘束する。よく見れば銃弾程の速度で打ち出されているのは種で、触手は緑色のみずみずしさがある。
女性が操っていたのは植物だ。ただしその植物はその女性の何倍も大きく育っているが。
「この程度、私には造作も無いことじゃ」
事実、彼女は殆ど動いていない。なぜなら彼女は植物で攻撃し、植物で防御をしているからだ。異常な程長いツタはそれをしならせムチの様に攻撃する。異常な程分厚い葉は彼女への攻撃を守る壁となる。異常なサイズの種を飛ばすホウセンカは、最早一つの大砲となっている。
しかし流石は未だに生き残るテログループDHA、彼らの戦闘力は野外戦でこそ発揮される。多人数による波状攻撃、攻撃を阻害する後衛の手際、何より統率の執れた動き。彼等は強力な能力者の二人を押さえ込む事に成功していた。
「出雲さんと俊介君は頼れないわね……」
五音はあの二人ーーーー中野俊介と出雲悠ーーーーを押さえ込まれた事に対してDHAの厄介さに舌打ちをする。俊介は[爆弾を操る能力]、自分の触れたものを一つ爆弾にする事ができる能力を持っていて、悠は[植物を操る能力]を持っている。この二人を同時に押さえ込むとなれば司る能力者である五音にも難しいかも知れない。
仕方なく一人で平子達を避難させなければならなくなった五音はここから移動しようとする。
突如、発砲音が耳を貫く。
五音が反射的に自分の前に障壁を作らなければ、赤い液状の花が舞っていただろう。障壁によって弾いた銃弾をみて五音はそう理解する。
発砲した人間を特定し、五音は少し固まった。それ程までに、目の前の人物は意外だったのだ。
「平子……なんでアンタここに居る訳?」
その声は平子にとっても衝撃的だった。
ブロンド色の髪を肩甲骨の下まで伸ばしたロングヘア。サルファイエローの瞳に線の細い身体。
「ジーナ……さん?」
そこに居たのは、銃口を五音に向けるハリック・ジーナだった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.129 )
- 日時: 2016/06/09 19:57
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
今回約3000文字くらいあります。
分かりにくい事があったら言ってください。
続きです。
ジーナは苦虫を噛み潰した様な表情をした後にため息を着く。
そして銃を持つ逆の手で頭を掻きながら平子に話し掛けた。
「全く……なんでアンタは頼まれても無いのに【裏】(こっち)に来ちゃうんだろうね?アンタみたいな奴は、【表】(そっち)で平和に生きるのが良いに決まってんのに……ね」
「ジーナさんこそ……何してるんですか?」
平子も分かりきっていた。確証していた。
だが認めたく無かった。嘘であって欲しかった。
しかし平子の幻想は打ち砕かれる。
なぜならこの国は超能力という異能が横行する夢の様な国でもありーーーー
「仕事だよ。私の仕事」
ーーーー最も闇の深い国だ。
「危ない!」
緋奈子がそう叫び、次の瞬間平子が横殴りの圧力に襲われる。
平子は成す術もなく念動磁場によって吹き飛ぶ。
そのまま街路の植え込みに突っ込んだ平子は少し怒り気味に顔を上げた。だがその数秒後に顔を青く染める。
平子が先程まで存在した位置に男の拳が刺さっていたのだ。
誤字は無い。男の振り下ろしたであろうその剛拳はアスファルトを容易く破壊し肘あたりまでを地中に捩り込んだのだ。
よく見れば緋奈子が平子に手をかざしている。恐らく彼女はジーナに気を取られている間に狙われた平子を吹き飛ばしたのは彼女立ったのだろう。
「やらせないわよ」
その破れたレインコートにネクタイを外したブラックスーツを着た茶髪の男性に向けて五音が障壁を作り出し、それを高速で移動させぶつける。
少しばかり大きな衝突音が耳を突き刺し男性が吹き飛んでいく。
そして五音は吹き飛ばした男性に追い撃ちをかけようと再び障壁を作り出した。
銀に煌めく刃が一閃。
五音の右頬が皮一枚切り付けられた。
「あのさぁ……これアタシも仕事だからさぁ……まぁ、恨みとかは無いけど、相手してくんない?聖林寺さん?」
ジーナが軽い調子で少し鮮血に塗れたナイフを片手で踊らせながら五音に対峙する。
五音は障壁を周りに生成しながらポケットからハンカチを取り出して頬の切り傷に当てる。
「ハリック・ジーナ。貴女は誰にものを言っているのか理解しているのかしら?」
「理解してるも何もアンタも理解してる?アンタの攻撃はアタシに一切通用しないってのにさぁ」
「その言葉、そのまま返させて貰うわ。貴女の攻撃は武器に頼ったもの以外何かあるの?悪いけどそれだけなら私の障壁は破れないわよ」
お互いに言葉を交わすだけで動く事は無い。
なぜならお互いはお互いの事を知っているからだ。
ジーナは知っている。自分の攻撃では五音に通用しないと。
五音は知っている。自分の攻撃はジーナに通用しないと。
そう、お互いに理解しているのだ。自分の攻撃が相手に通用しないことを。
そしてお互いが奥の手を隠していることもまた、理解していた。
五音が障壁を細くし、槍の様な形状で打ち出す。
ジーナはポケットに入れておいた炭に触れる。
錠を掛ける音と共に槍が弾かれた。
ジーナの能力、[錠を掛ける能力]は触れた物体に触れている物質の【錠】を掛ける能力だ。それを使いジーナは服に『炭素』の【錠】を掛けたのだ。
そう、炭ではない、炭素だ。
能力はそもそも能力者の解釈によって成り立っている。この場合、ジーナは炭を『炭』ではなく『炭素の塊』として解釈したのだ。
そして炭素は構造によっては自然物最高のモース硬度を持つ物質ーーーーダイヤモンドとなる。
ダイヤモンドはハンマー等で簡単に砕けてしまう様な脆弱さもあるが、それはあくまで小さなサイズの話である。ジーナの服程のサイズのダイヤモンドならば、障壁の槍を動かしただけでは貫かれる事は無かった。
ジーナが銃を立て続けに三発発砲。だが工事用のクレーンを受け止める障壁はそんな物ではびくともしない。
勿論、ジーナの狙いはそれでは無かった。
ジーナが銃を手放し、腰からあるものを取り出してオーバースローの要領で五音に投げつける。
その物体ーーーー閃光式スタングレネードは障壁に当たり、地面を転がった後に強力な閃光と衝撃を撒き散らしながら爆ぜる。
ジーナは予め目を閉じていたが、五音は反応が遅れ、直にその閃光に目を焚かれるーーーー筈だった。
しかしジーナの狙いに反して五音の前には漆黒に染まった黒い障壁が鎮座していた。その障壁は、まるでプラスチックで出来ているかの様だった。
「私の障壁が物理攻撃だけを防ぐなんて貴女の様な容易い能力と思っていたのかしら?残念だけど私の障壁はいざとなればありとあらゆるものを一定まで遮断するわ」
「丁寧な説明ご苦労様だね。でもさ、流石にそんなあまり日常生活に使えない様な能力と比べられて私の便利な能力を容易いなんて言われても困るだけなんだけどねぇ」
二人の高位防御系能力者の戦いが、そう簡単に決着する筈も無かった。
一方平子達には別の能力者が襲い掛かっていた。
それは移動者である。
先程平子の背後を音もなく襲ったのは移動者だ。無論、テレポートを用いての話。
五音がジーナと戦闘している中で最初に狙われたのは緋奈子だった。
恐らく彼女が一番の厄介だと理解したのだろう。移動者は明らかにおかしい腕力を用いて路上に停められていたバイクを緋奈子に向かって投げ飛ばした。
余りの予想外の事態に緋奈子は焦燥を覚えつつも念動磁場を使ってバイクを押さえ付けようと試みる。
しかし、減速したもののバイクを止められなかった緋奈子は自分自体を通常有り得ない軌道で移動させて回避する。
平子が果敢にスタンバトンで移動者の脚を殴り付けるが、金属を殴った様な感触と共に平子の腕が痺れに侵された。そして、一瞬の隙が生まれる。
移動者は鬱陶しい小虫を払うかの様に腕を振るう。
その腕が平子の腹部にヒット。平子の華奢な身体が宙を舞い、アスファルトに這いつくばる。肺から息を吐き出した平子はそのままスタン。
友人の退場に動揺した緋奈子の背後に、移動者がテレポートし無慈悲な蹴りを叩き込む。勢いのままに飛び、アスファルトを跳ねて植え込みに突っ込む。
邪魔者二人を排除した移動者は紡美の方に振り返る。
そして、鈍い音と共に移動者の身体が宙を舞った。
突然の事に対応が遅れ、諸にアスファルトに全身を打ち付ける移動者。すぐに立ち上がり体制を立て直す。
紡美のやった事は単純だった。
鉄パイプを持って、移動者を下から殴り付けた。ただそれだけだった。
しかし幾重にも偶然と奇跡がたまたま積み重なり、少女の一撃はサイボーグの中でも一番の重量である移動者を吹き飛ばした。
まぐれだ。そう片付けて移動者は再び紡美を狙う。
今度はテレポートして背後に回った移動者。
そしてーーーー彼の顔面を鉄パイプの鋭いスイングが襲う。
偶然にもその鉄パイプがへし折れ、その折れた部分が街灯に跳ね返って移動者の頭を再び殴り付ける。
とっさにテレポートして距離をとる移動者。かなり動揺している自分と血の溢れる頭を押さえ付けながら次の一手の考える移動の思考を中断させたのは能力でもない、兵器でもない、背後から迫るクラクションだった。
一瞬後、移動者の身体がトラックに吹き飛ばされて宙を舞った。そしてーーーー五音が作り、ジーナが弾いた障壁の槍が移動者の肩を突き刺した。
ああ、またやっちゃったな。
また人を、理不尽な目に合わせちゃった。
この力は、私には大きすぎるんだよね。
こんな能力なら要らなかった。私は能力なんて要らなかったし、あっても平ちゃんや緋奈子ちゃんと同じ位の平凡な能力でよかった。
でもなんでだろうね?
なんで私に
[結果と選択を司る能力]なんてものが付いちゃったんだろうね?
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.130 )
- 日時: 2016/06/12 23:00
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
油断禁物。
そう、この場において油断することは敗北を意味する事と言っても過言では無かった。しかし紡美はしてしまった。
移動者が紡美の背後にテレポートし、スタンガンのスイッチを入れたときは既に遅かった。
電子が弾け、電光と特有の音が弾ける。首筋に当てられたスタンガンは所詮肉体は一般人の紡美には致命的な一撃。
痙攣した後に気絶する紡美。テレポートが瞬時に紡美を抱えてテレポートする。
その場に残されたのは争い合うジーナと五音、倒れ伏した平子と緋奈子だけとなった。
ジーナが隙を見て逃走を謀る。五音が引き止めようとするものの、ジーナがアスファルトに紙の【錠】を掛け、100円ショップで購入可能なライターをその場に放り投げた為に五音は炎に包まれジーナを逃がしてしまった。
障壁で囲んだ小さな部屋で炎を凌ぎながら五音は連絡用の片耳イヤホンを耳に当て、小型マイクを口に当てる。
「こちら聖林寺。悪いけど保護対象を連れ去られたわ。追跡は不可能。そちらの現状は?」
『こちら不知火及びアカネ、こっちも逃げられた』
『出雲及び中野じゃ、こちらも奴らはしっぽ巻いて逃げよった』
五音は下唇を噛んで苛立ちを押さえ込む。
もし、ハリック・ジーナの乱入さえ無ければ保護できていた筈だと思い、無意味なIF論だと切り捨てた。今自分達がやるのは叱咤でも反省でもない。五音はそう気を取り直す。
『うむ、それでは皆の衆、一旦ここから撤退じゃ』
逃げる事だ。
自分達は非合法活動をする組織なのだから。
平子と緋奈子を障壁に乗せて五音は歩き出した。
軽自動車のドアが血で汚れる。
移動者は血を流しながら紡美を荷台に詰め込む。一応手足には手錠が掛けてある。
移動者はテレポートしたのはに逃走用に置いてあった軽自動車を停めた駐車場だった。
荷台を閉めると同時に移動者の足から力が抜け、その場に倒れ込んでしまう。
移動者はずっとある人物について考えていた。
古都紡美。
彼女はただの人間だった筈だ。しかし自分をここまで追い詰めたのもまた彼女だった。色々と疑問はあるが何より疑問は二度目に彼女が鉄パイプを振った時の事だ。あれは流石に出来すぎている。
背後にテレポートした自分に偶然振った鉄パイプが当たり、たまたま鉄パイプが折れ飛んでいき、奇跡的に街灯に当たってそれが跳ね返り自分の頭を殴り付けたのだ。
偶然、たまたま、奇跡、とにかく彼女にはこの三つの単語が多く当てはまる。
運、この三つの単語は全てこの要素に集結する。
では彼女の能力とは?
と、そこまで考えた移動者に声を掛ける者が一人。
「おいおい、いつものクールは何処に落としたんだよ?」
「……燃焼者」
「おいおい、二人きりの時ぐらい名前で呼べよ有人」
「……仕事中はコードネームだ照友」
移動者の本名、無幽有人。そして燃焼者ーーーー照友はそれをしる数少ない人物である。
「……しっかしよぉ。プロフェッサーは何考えてんだ?こんな黒髪のJK連れ去って何するつもりだ?」
「……俺達が知る必要は無い」
「そうかよ。じゃあさっさと車出すか」
「ちょっとアンタ達アタシを置いていくつもり?」
ジーナが近くの車から現れた。
ジーナ本人はDHAとの関係は無いが、今回はDHAが雇った能力者として行動を共にしているため、燃焼者はジーナを車内に入れた。
ジーナは車の中でタバコをくわえる。別にジーナはニコチン中毒ではないが、一定の間布団に入っていないとイライラしてタバコを吸いたくなるのだ。社会的引きこもりは伊達ではない。ちなみに銘柄はLUCIA(ルシア)である。
「ライター持ってない?さっき撒くのに使っちゃってさ」
「いやライターで逃走って何したらそうなるんだよ」
そう言いながら左手のみで車を動かしていた燃焼者が右腕ーーーー機械筒をジーナの方に向け小さな、ロウソクに灯る様な火を出した。
ジーナはタバコに火を付けながらその小さな火に対して一言。
「それ戦闘用じゃないの?ライターじゃん」
『すまんのぉ織宮殿。私達も手を尽くしたのじゃが……』
「大丈夫よイズモン。いざとなれば私が出向くわ。それにまだ貴方達には仕事があるのだから」
『はて、仕事とはな?』
「ええ、前々から思っていたのだけど…………そろそろDHAを【潰す】わ。あの組織は災禍の種を蒔きすぎたわ。伸びすぎた茨を刈り取るのは私の仕事だから」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.131 )
- 日時: 2016/06/14 21:45
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
結論から言おう。
風間司と天澤秋樹はずぶ濡れだった。
とは言うものの雨はあの後、更に強くなり相合い傘等と言う甘い雰囲気ではなく天澤の出すことが可能な最高速度で風間の家へと向かったのだ。当然ながらそんな状況で一つの傘が役に立つ訳も無く、雨に打たれた末に水を通しにくい性質がある筈の防弾制服が水を吸い、下着に被害をもたらす始末。
取り合えず玄関に一応置いてあった小さめのタオルを天澤に渡す風間。天澤が寒さに震えながら受け取ると肩辺りで切り揃えた青い髪を拭きはじめた。
風間はこれからの事について考えておく。確か今日はカレーを二日分程作る予定だったので冷蔵庫の食材が無い等という事は無い。まずはこの冷えた身体を何とかしなければ。そこまでたどり着いた風間の思考は次の瞬間、そこそこの爆弾を投下した。
「天澤、シャワー使ってこい」
一瞬、天澤が固まる。そして、
「ふぇぁっ?!かかかかか風間さんんん?!なななな何を!?」
風間は馴れた様子で天澤の両肩に手を置いて、錯乱した子供を落ち着かせる様にーーーーその顔には相変わらず鉄仮面が嵌められているがーーーー少し柔らかな声で喋る。
「落ち着け。お前は、少なくとも震える位には身体が冷えているだろう。そのままだと風邪を引くぞ」
妙に落ち着いた風間の声に段々と赤い実が弾けた様子だった天澤も落ち着きを取り戻していく。
深呼吸深呼吸と風間が言うと天澤は言われた通りに深呼吸をする。そして大方天澤が冷静を取り戻しーーーー
「きゃわわわ!」
再び赤い実が弾けた。
とは言うものの冷静になるとはつまり周りの状況が先程よりも見えてくると言う事であり、それはつまり今まで興奮して気が付かなかった風間が両肩に手を置いた上に顔を近付けているという状況を天澤が把握したと言う事だ。
そういうものに対して極端に免疫が無い天澤がどんな反応をするかは最早見らずとも分かる事だった。
因みにこれを落ち着けるのに風間は少々の時間を使ったという。
実際にシャワーの音とは響くものだな。そんな感想を抱きながら風間は人参の皮をピーラーを使って剥くという作業を行っていた。
一方シャワールームは天澤が使用している。
ひたすらに野菜の皮を剥くだけの簡単な作業を行っているとやけに水滴がシャワールームの床を打ち付ける音が耳に入ってくる事に対して風間はふと思った事があった。
ーーーー考えてみれば、初めて入った男の部屋でシャワーを浴びる事はーーーー。
そこまで考えて風間は剥いた野菜の皮を入れておいた冷水の入ったボウルに頭を突っ込む。
ーーーー馬鹿か俺は。何を考えている。しっかりしろ。
しかし一度考えると人の考えとは中々止まらないものである。
ーーーーそういえば天澤の奴、あの身長の割には火麗や平子よりもーーーー。
風間は再び冷水に頭を突っ込む。
しかしながら風間は一度意図的にといえば意図的にその豊満なソレに触った事があるのだから余計にイメージに無駄な修正がかかってしまう。
風間は自分の頭を一度リセットすべく額を壁にぶつける。
しかし予想以上に大きな音がし、シャワールームから天澤の小さな悲鳴が聞こえてきた。
そしてその声によって再び風間の思考はそちらに傾いてしまいーーーー。
風間はもう一度、額を強く壁に打ち付けた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.132 )
- 日時: 2016/06/17 21:34
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
今部屋には二人が夕飯を食べている。カチャカチャと空虚な音が余計にこの部屋の静寂を強調する。
片や、ユニ〇ロで購入したTシャツに短パンを着て何食わぬ顔でカレーを食す風間。
片や、少し大きめのサイズのジャージを着て行儀良くカレーを食す天澤。
電源の入ったテレビではバラエティー番組を垂れ流しているのだが、二人には笑う気配すらない。
まあ、この前にあったことを説明すると長々と語る事になるので省略しよう。
簡単に言うなら、風間が天澤の着ていた服(下着含む)を自分の服と一緒に乾燥機にかけたり、コンビニに天澤の替えの下着を買いに行ったり、そしてそれらを風間が殆ど無表情で行った事だ。
天澤が自分の下着が無いことに気がつき、風間に言ったところ風間はシャワーも浴びずにコンビニに行ってしまった。
ずぶ濡れになり、無表情の真顔で、片手に女性用の下着、片手にコーラを持ってレジに向かう風間に怪奇の目を向けるなという方が無理な程にシュールな光景だった。
帰宅した風間は天澤にブツを放り投げた後、シャワーを浴びにシャワールームに行く。そして風間は服を脱いで洗濯機に放り込み、洗濯を開始。その後シャワーを浴びた風間は服を着てついでに洗濯が終わっていた洗濯物を乾燥機にかけたのだ。ーーーー女性の下着を何食わぬ無表情で乾燥機にかける風間はなんとも言えなかった。決して良い意味では無い。
そして天澤といえば風間に自分の着ていた下着を乾燥機にかけられた事を知って文字通りオーバーヒートしてしまうのは最早お決まりである。
その後落ち着いたところで夕飯が開始したが未だに二人とも口を開いていない。
そもそも風間は喋らない。天澤に至っては羞恥心を堪えるのがやっとでそこまで意識が回っていない様だ。
「天澤」
と、ここで風間が声を掛けた。
「なにぇっ……何ですか?」
少々噛んでしまったものの一応平然と返す天澤。頬に朱色が混ざっている時点で虚勢だとまる分かりだが。
「……お前の皿には何が入っている?」
ふと天澤は自分の皿を見下ろす。
「あっ」
皿の中身は空で、天澤のスプーンはずっと空気をすくっていた。
天澤の頭の中の整理がついていない事は明白だった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.133 )
- 日時: 2016/06/19 08:54
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
そのまま微妙な空気に気まずくなっていた二人の静寂を打ち破ったのは秋樹の着信音だった。最近の若手歌手の着メロを聞いて天澤が応答する。
「兄さん?どうしたんですか?」
どうやら兄からの電話の様だ。確か名前は天澤春樹だったなと風間が懐かしく思い出す。実際には対面したことは無いが天澤の兄に興味が無いと言えば嘘になる。
「ああ今日実は……そう電車が……うん、だから帰りが遅くな……ふぇっ?!ちちち違います!おお、お大人の階段なんての、のの登りません!もう!兄さんのバカッ!次からご飯作ってあげませんよ!」
「天澤、声が大きいぞ」
「す、すみません、風間さん……え?風間さんに?分かりました」
天澤がスマホを風間に手渡す。
「兄さんが代わって欲しいと……どういう事でしょう?」
多少腑に落ちない点もあるが風間はどうでもいいか、と切り捨てて秋樹からスマホを受けとった。
「もしもし、風間ですが」
『貴方が風間君ですか!いやぁ中々良い声をお持ちで!聞いたところ結構格好いいらしいじゃないですか!もう家の秋樹が二日や三日に二回は貴方の話をしてーーーー』
「に、兄さん!そ、そんなこと風間さんの前で……あう」
頭を抱えて風間から目を逸らした秋樹。風間は無表情のままこんな事を思っていた。
ーーーー天澤の性格はこの兄を反面教師にしたものだろうか。
もしもこれと似たような性格だったらと考え途中で断念する。流石に今の天澤からこの兄の様な性格になることは想像が難しすぎたのだ。
「はぁ、ありがとうございます」
『いやぁ済みません、秋樹を弄るのがついつい楽しくて。きっとそっちでは羞恥に顔を赤く染めながら涙目になって上目遣いで見てくる秋樹がいるでしょうがそれを見れないのが残念です』
風間が横に首を回すと秋樹がたった今春樹が言った事と同じ状態となっていた。
一瞬保護欲(抱きしめたい)と同時に虐待心(もっと弄りたい)をくすぐられたが顔に鉄仮面を貼付けて風間は返した。
「確かにその通りですね」
『大分話は逸れましたがここからは本題です』
本題、と聞いて心を張る風間。
しかし、スマホ越しに放たれた言葉はその風間の張った心を一瞬にして瓦解させた。
『ーーーー秋樹の事、どう思ってます?』
この声はそれほど大きくなかった為に秋樹には聞かれなかったが、風間は、は?と返し、そのままの意味ですよ。と返答を貰った。
『シスコンの兄からすれば妹の恋愛事情は結構興味深いものでしてね?今秋樹に一番近い異性は貴方ですから』
ーーーーつまりアレか、俺はこの人の肴にされているのか。
風間は少し考えた後、こう答えた。
「可愛い、とは思います」
可愛い、まさかその単語か風間の口から飛び出るとは一体誰が予想しただろうか。
きっとこの場にキャロルがいたら思い切り大爆笑した後に皆に言いふらすだろう。
それを聞いた春樹は少し満足げに「それではこの辺で失礼します」と通話を切った。
「天澤、通話終わったぞ」
秋樹はさっきまでこちらを見ていた筈だがいつのまにか立って頭を抱えていた。
風間は取り合えず軽く肩を叩く。
しかし秋樹は反応しない。いや、想像とは掛け離れた反応をした。
「ううううっ……いやです……止めて……助けて!……嫌です!ああ……ああああああああああああああああああああああああああああああ!」
絶叫しながら床に倒れ込む秋樹。頭を押さえて心底苦しそうな顔をする。
「天澤!どうした!しっかりしろ!」
事態の急変についていくので必死の風間は秋樹に声をかけながらふと思い出す。
秋樹の能力を。そして、観る未来が遠ければ遠い程ーーーー秋樹に負担が掛かると。
風間は迅速にシャワールームへ駆け込みタオルを濡らし、ついでに自分の制服を手に取る。
秋樹をお姫様抱っこでソファに寝せ、額から目元にかけてを濡れふきんで被う。
風間は少し離れて特殊警察の制服に着替える。
風間の予想はこうだ。
ーーーーもし、これが天澤の能力によって起きた症状なら、絶対に良くない事が起こる筈だ。少しでも、準備をしなければ。
ふと、部屋のインターホンが鳴らされた。
不安要素しか無いものの風間は思いきってドアを開ける。
「さようなら」
開けた途端、太いケーブルの様なものが風間に殺到する。
が、風間に触れた瞬間、風間の能力[能力を無効化する能力]が作動し、ケーブル、いや鉄線達が萎れる様に落ちる。
こんな事なら武器も取っておくべきだった。風間は後悔する。
鉄線を蹴り出しドアを閉め、チェーンを掛けて風間は自分のスマホからある番号に掛けながらスマホを肩と頭の間に挟み、秋樹を今度は背負う。
派手な音と共にドアが破られた。
見れば鉄線達が金属製のドアを穴だらけにした上にグシャグシャに曲げている。その鉄線達をたどると一人の人間がいた。
闇色の髪、小柄な身体。冷たい、無機質な瞳ーーーー鸛御弥ーーーー抹殺者。
鸛が、いや抹殺者が再び【鋼鉄の茨】達を風間に襲い掛からせる。
秋樹に当たらない様に神経を使いながら【鋼鉄の茨】達を打ち落とす風間。
風間は舌打ちして片手であるものを持ち、口でピンを抜きおもむろに投げつける。
あるものーーーー手榴弾が爆裂し、抹殺者を爆炎が包み込む。
風間が火を迂回しながらなんとか玄関にたどり着く。
ふと背後に寒気を感じ、玄関から出て廊下に転がり込む。
一瞬後、風間と秋樹のいたところを燃えるクローゼットが通り過ぎる。
風間は背中に重みを感じながらも舌打ちをした。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(2500突破記念回 ( No.135 )
- 日時: 2016/06/24 00:02
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
逃げる。
それが俺に残された選択肢だ。
俺は天澤を背負いながら戦う事ができる訳では無い。天澤をどこがへ飛ばす事ができる訳でもない。
だから逃げる。
雨は相変わらず降っているが、そんな事を気にしている場合ではない。身体が冷えるよりも運動による発熱が勝っている。
漫画やアニメでは女子は軽いと言われているが実際は40kg以上の物体を背負いながら走っている為に体力の消耗は尋常では無い。息が切れ、足が悲鳴を上げ始めた。
無理、無駄、諦める、三つの言葉が頭を横切る。
俺は虚弱な奴だ。たったこの程度の事で諦めるという選択肢が浮かび上がる程に虚弱な精神と肉体しか持っていない。
息が切れようが、息を吸い続ける事ができれば死にはしない。
足が悲鳴を上げようが、激痛を無視すれば問題ない。
そんな横暴とも無理矢理ともとれる言葉で自分を奮い立たせ虚勢を張る。
だか所詮精神論でしかない。借宿の駐車場まで行ったところで、俺の虚勢も糸が切れた。
不意に上から謎の音がして真上を見上げる。
雨が視界を妨げる中、一つの影があった。
その影が十数枚の背中の薄いなにかを震わせたと思えば、こちらに落下してくるのが分かる。
恐らく一歩後ずさりしていなければ俺は下敷きになっていたのだろう。目の前にその影が降ってきた。よく見るとそれは人型だった。背中から羽の様な十数枚の薄い金属片が生えている事を除けば。
「貴方が所持している人間を要求します」
お断りだ。
その言葉を聞いた瞬間、目の前の女性の様な人影が殴り掛かって来たのが見えた。その拳を受け止めると距離が近くなりはっきりと姿が見える様になった。
外人の様に白い肌。淡い緑の一つに束ねられた髪に鋭い目付き。視界を落とせば見える体はスラリと細くスレンダーで身長は俺より高い。見に纏うのは灰色に緑色のラインが入ったライダースーツ。そして背中からは薄い羽の様な金属片が生えている。
「それでは戦闘による実力の格差を貴方に学習させます」
がら空きの腹部に鋭いパンチが打ち込まれる。危うく天澤を落としそうになるが懸命に支えながら後退する。
足を狙ったローキックを跳躍して回避するーーーー筈が足に蓄積した疲労がそれを阻み、その足にローキックが叩き込まれ派手に転倒する。
眉間に何か固いものが突き付けられた。マズイ。
「これで失礼します」
そして眉間に突き付けられたーーーー銃の引き金が引かれる。
そしてそれと同時に、銃身がバラバラに切り分けられた。
「オイコラ」
突如として現れた人間が敵を武光で撲った。派手に吹っ飛ぶが背中の金属片をはためかせ空中に静止した。
そしてその人間ーーーーザンはこう言った。
「俺の先輩と後輩に何してんだぜお前」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(2500突破記念回 ( No.136 )
- 日時: 2016/06/25 14:09
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
いつの間にか3000突破。
続きです。
「貴方は何処の人間でしょうか?」
「ただのお巡りさんだぜ!」
空中に静止している敵に向かって残切が空気銃を立て続けに発砲する。
それを敵は空中で右に左に鋭く動き回避する。
あの背中の金属片は空中での制御装置、あたかも鳥の羽の様なものかと風間は思い、どちらかといえばトンボに近いなと自己完結した。
「では何故警官が此処に存在しているのかを自身に拝聴させることを要求します」
「何言ってんだか分かんねぇ、ぜ。それより答えろ!お前は一体誰なんだぜ!」
敵は少し考えた後にこう言う。
「自身は飛翔者です。以後知覚することを要求します」
飛翔者が再び風間に襲い掛かる。
残切は上から背中の金属片を振動させて推進力を上げている飛翔者の攻撃を竹光で弾き風間を守る。そのままとんぼ返りで後退する飛翔者。
「その程度か、だぜ」
「はて、貴方が一体どんな妄想を脳内で加速させようと自身がその程度と発言をされる事象は発生していないと自負しています」
残切がなにかを言おうとした瞬間、残切の持っていた竹光の刀身が粉々に砕けた。
残切は冷や汗を流して柄の部分だけとなった竹光を捨てて素手を構える。
飛翔者はそれを見て再び背中の金属片を振動させ、推進力を付けようとする。しかしーーーーそこに暴れ回る竜巻が空気を乱した。
飛翔者の飛行は背中の金属片十数枚を振動させ、空気を叩く事によって空中を移動する。当然、空気自体が掻き回されては飛行もままならない。
そして竜巻を発生させたのは勿論ーーーー。
「おねーさんはぶっ飛ばしちゃってもいいよね♪」
キャロル・シェイキーだ。
その隣には桟橋火麗もいる。
火麗は疲れた風間と気絶した秋樹を一瞥し、飛翔者に問う。
「一応聞いておく、自首をすれば罪は軽いぞ」
「明確に、この状態は不安を記憶します。しかし貴方とその仲間は勘違いをしています」
「自身が一人で此処に到来すると思考しましたか?」
風間が先程の存在を思いだすと同時に、後ろからはとてつもないものが迫って来ていた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(2500突破記念回 ( No.137 )
- 日時: 2017/10/01 20:07
- 名前: 波坂@携帯 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=11370
作家プロフィールとやらに手を出してみました。
まあ報告書的な感じで使っていきます。
プロフィールは上のリンクからどうぞ。
風間だけが、偶然後ろを向いた風間だけが気がついた。
背後から超高速で軽自動車が地面と平行線をなぞりながらこちらに飛来してくるのを。少なからず音を立てているが、それは到底雨音に勝る事は無い。現在進行形で軽自動車は風間達に接近している。最早口頭で伝えて回避できる間合いでは無い。
ーーーーどうするーーーーキャロルに頼む?ーーーーいや、間に合わないーーーーザンや火麗もーーーーそもそも誰が?ーーーーまさかあの時のーーーーいや、それより目の前の事だーーーー被害が一番少なくなるのはーーーーよし。
もし気付いたのが残切だったら、軽自動車をバラバラに切断して小さな無害の欠片に変える事ができただろう。
もし気付いたのが火麗だったら、空気摩擦で減速させ、皆が回避できる時間を作れただろう。
もし気がついたのがキャロルだったら、竜巻を意のままに操り軽自動車ごと吹き飛ばしただろう。
もし天澤が起きていれば、事前に予知し全員で対処することができただろう。
だが、気がついたのはこの中で唯一対抗策の無い風間だった。残酷な運命とはまさしくこれだろう。これを不幸と言わずして何と言う。
無力な自分に歯がみしながら風間は考えた。被害を最小最低限に抑える方法を。
思い付いた策はネジが飛んでいるとか、そのレベルの策だった。しかしこの方法が一番だと風間は決断を下す。
風間は意を決して、すぐ隣にいた残切を力一杯殴り飛ばし、その隣に居た火麗を勢いのままに突き飛ばし、秋樹を少し離れた位置にいたキャロルへと放り投げる。
突然の味方からの攻撃に成す術も無い残切と火麗。唯一キャロルだけが天澤を受け止める。しかし体格問題でそのまま後ろに倒れ込む。
なんなんすか!風間!風間センパーイ酷いですよー。各々が数秒後に発しようとした文句は0.7秒後に起こった惨劇により掻き消された。
ガラスが割れる音と物体同士が衝突する音。そして人が壊れる音がミックスされた刺激的かつ残虐な音が雨の音の中を暴れ回った。
文句を言おうと振り向いた彼ら彼女らの視界に映ったのは、いつもの様に鉄仮面を付けて立つ風間ではなく、宙に浮く軽自動車と、それに弾き飛ばされた何かだった。
何かがフェンスに衝突。そしてそれの後を追うかの様に軽自動車がフェンスに突っ込む。フェンスがひしゃげ、白かった軽自動車の前面をトマトが潰れた様に降り注ぐ赤色の染料によって塗り潰される。
雨の音を除く全ての音が死んだ。
水の溜まった駐車場の隅から、赤い色の水が流れてくる。雨が降っている性か臭いはしなかったが、その場にいた気絶した天澤を除く者はそれがなんなのかを理解した。
「一人仕留めたわ。さあ、さっさと終わらせましょう」
ゆらりと姿を現したのは、【鋼鉄の茨】を数十本程背中のリュックから伸ばした抹殺者だった。念動磁場で自分の周りの雨を弾いている彼女は少しも濡れておらず、むしろ少々服は焦げていた。
「了解しました。抹殺者。では回収を開始します」
返事をした飛翔者を、雨粒を含んだ竜巻が襲う。
「おねーさん……ボク今機嫌が悪いんだ……それ以上ボクの機嫌を悪くするつもりなら……」
竜巻が更に膨張し、キャロルの心情を表すかの様に黒く変色する。
そしてキャロルは更にもう一つの逆回転の竜巻を作り出し、それをいま飛翔者が捕われている竜巻とぶつけ合わせた。
巨大な竜巻同士が擦れ合い、飛翔者に風圧を打ち付ける。
キャロルは拳を握り締める。それに呼応して竜巻が小さく圧縮される。
キャロルが手の平を広げた。
閉じ込められていたものが吹き出すかの様に圧縮されていた風圧が解放され、辺りを辺り構わず強風でうめつくす。最早飛翔者がどうのこうのの問題ではない。
「風間センパイの……怨みだ」
キャロルの形相はとてつもない怒りに染まっている。
人の怒りは普段以上の力を引き出す時がある。が、時に怒りとは人の行動を阻害するものである。例えば、怒りに捕われて視界が狭まる。等。
キャロルの目前に、急スピードで飛翔者が迫った。
キャロルが竜巻を作り吹き飛ばそうとする。がーーー。
竜巻は消された。
キャロルの表情が驚愕を表すと同時に、飛翔者は嘲笑う様に言った。
「貴方の攻撃は、所詮空気を媒体とした空力操作。空気自体に強烈な振動ーーーー衝撃を付与すれば、崩壊させるのは容易です。そして自身の能力は[振動を操る能力]。振動を増幅または減衰させる能力です。貴方の竜巻を崩すのは容易でした。貴方は自身と全員の範囲で一番相性が良好と判断したのでしょうがーーーー残念、貴方と自身では圧倒的に自身が有利です」
「なっ!」
「貴方を始末します。衝撃に準備して視界を閉鎖する事象を推奨します」
キャロルが何か言う前に、キャロルの頭に飛翔者の手刀が振り下ろされた。
その振動が飛翔者によって増幅され、キャロルの脳に多大なダメージを与える。
それだけでは終わらない、
飛翔者の背中の金属片達が振動し、推進力を生み出す。
気絶したキャロルを抱えた飛翔者はそのまま急スピードであるアパートの壁面に向かって直進する。
そして壁が大きく見え始めた距離で
「Good night」
飛翔者は急カーブし、殆ど直角に曲がり衝突を避ける。
が、キャロルはカーブの直前で投げ出されーーーーアパートの壁面に高速で激突した。
そして高速で叩き付けられた人体の行方など、駐車場へと戻り始めた飛翔者が知る訳も無かった。ただ言えるのは、もうアレは再起不能という事だけ。
「排除完了。そちらの支援に進行します」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(2500突破記念回 ( No.138 )
- 日時: 2016/06/30 17:13
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「……おかしいな」
「何がっすか?」
火麗と残切は抹殺者と対峙していた。
火麗が腑に落ちないといった表情で呟く。
「何故01部が駆け付けないんだろうな?」
「……確かにそうっすね」
火麗の言った言葉に納得する残切。
風間が連絡したのは特殊警察00部へ向けたものではない。正確には戦闘行為を得意とする特殊警察01部に連絡を寄越したのだ。
これを緊急事態と捉えた01部は00部に協力を仰いだ。しかし00部は唯一の中学生であるキャロルを呼び出すのに手間が掛かってしまった。その為に01部は先に現場に到着している筈なのだ。
その疑問に答えたのは、対峙している抹殺者。
「逆に私達が聞きたいわ。何故貴方たちは此処にいるのかしら?構成員達からは特殊警察は包囲したと聞いていたのだけれど」
抹殺者の発言にようやく歯車が噛み合った火麗。
恐らく特殊警察01部は待ち伏せされて今頃は敵対組織の何かに囲まれているだろう。しかし00部は諸事情により少し出動が遅れた為に包囲を回避できた。と言うことだ。
しかしそれはもう助けが来ないの裏返しでもあることを火麗は敢えて考えなかった。
「そういう事か。ザン、どうやら私達は爆睡して出動を遅らせたキャロルに感謝しなければいけないらしい」
残切はチラリと後ろのキャロルを見る。
完全に怒って我を忘れている様だ。残切は多少の心配を振り切って前を向く。
「それにしても随分と冷静ね。お仲間が殺られたのに……もしかして特殊警察という組織は案外薄情な連中なのかしら」
抹殺者の言葉を聞いた火麗はそれをフンと鼻を鳴らして一却する。
腕を組んで冷たい目線を抹殺者に向けて火麗は言う。
「貴様の口調からして貴様は私達を怒らせて冷静な判断ができない様にしたいんだろう?悪いが私はそんな策に乗ってやる気は無い。
無論、私だって怒っているとも。だが、それが理由で負けたらそれこそ風間に示しが付かないからな。こうやって冷静な精神で怒りを押さえているんだ」
火麗だって怒っている。残切もそうだ。二人は今、爆発寸前の怒りを中に溜め込んで押さえ付けている。
キャロルの様に怒ったっていい。仲間の為に怒れるのは良いことだ。
だが二人はそれをしない。何故なら二人は目の前の強敵に冷静を取り乱した状態で勝てると思っていないからだ。
それを聞いた抹殺者は興味がなさそうにふぅん。とだけ呟いた。
「さぁ、そろそろ始めましょう……悪いけど一方通行の戦闘になってしまから、先に謝っておくわ。ごめんなさい」
【鋼鉄の茨】が動き始め、地面を這うようにして襲い掛かる。狙いはーーーー火麗。
火麗との距離が一定以上縮まった瞬間、【鋼鉄の茨】が地面から跳ね返った様に火麗の心臓や首を目指して伸びる。【鋼鉄の茨】の先端は尖っている為にそれが当たれば蜂の巣にされるのは最早分かりきった事だ。
「悪いがこちらも奥の手を使わせて貰う。私を怒らせた事。後悔するなよ」
【鋼鉄の茨】の先端が火麗に直撃した。そのまま火麗の心臓が貫かれるーーーー事はなく、そのまま火麗の服に沿って滑る様にして移動し、火麗から外れてアスファルトに突き刺さった。
抹殺者が不審に思いつつももう一度【鋼鉄の茨】を火麗に突きささんとその凶器を伸ばす。が、先程と同じ様に先端は滑って外れるばかり。
次の瞬間、【鋼鉄の茨】の一本がバラバラにされた。
「硬いぜ……今の最大出力なんだぜ?」
残切が少し疲労を顔に出している。どうやら竹光の媒体無しで【鋼鉄の茨】を切断するには中々創造力を使った様だ。
それらを、二人の立ち振る舞いを見た抹殺者は感嘆の声を上げる。
その声の語尾に「まあでも」を付けた抹殺者は深呼吸してこう言った。
「念動磁場を直接使ってない私を直ぐに倒せないなら……悪いけど楽勝だわ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.139 )
- 日時: 2016/07/01 23:18
- 名前: 三毛猫 (ID: z18hpbrC)
風間さん…………
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.140 )
- 日時: 2016/07/03 20:37
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
抹殺者が残切に手をかざす。
次の瞬間、残切の身体が横殴りに吹き飛ばされる。
駐車場に停められていた一台の軽自動車に突っ込んだ残切。頭を押さえながらフラフラと立ち上がるものの、頭からは赤い筋が浮かび上がっている。
「今のは……念動砲弾……か」
「ご名答。私の攻撃がこの【鋼鉄の茨】だけとは思わない事ね」
余裕の表情を浮かべる抹殺者に火麗が拳を突き出す。しかし虚空で突如拳があたかも壁を殴りつけたかの様に停止する。
抹殺者の念動磁場による防壁だ。火麗の顔が苦悶の表情に変わる。握り締めた拳からは少し出血している。
抹殺者は火麗へと狙いを定め、直接念力により火麗を拘束する。その拘束はそこらの拘束具以上の束縛力を発揮し、火麗の動きを押さえ込むーーーー筈だった。
しかし火麗の能力、[摩擦を操る能力]により念力と自分の摩擦をゼロにすることによって拘束を逃れた。
そして、火麗の拳が今度こそ抹殺者の腹部をえぐった。
空気の吐かれる音と共に短い悲鳴が響く。
このままでは少し部が悪いと覚った抹殺者が念力で空中に浮かび上がる。
「なるほどね……貴方の能力はものを滑らせたりするだけじゃ無いようね」
そういう抹殺者の服の胸の下辺りに黒い焦げた様な跡が残っていた。
これも火麗の能力によるものだ。摩擦を操りいつもの様に火球ではなく、物と物が擦れる間に生じる静電気を拳に纏わせて放った。ただし電気量が静電気とは比べものにもならないが。
「貴方の能力は恐らく[空気抵抗を操る能力]もしくは[摩擦力を操る能力]辺りの様ね。
じゃあ対抗策もわかった事だし」
始めるわ。という前に既に残切に念動砲弾が殺到した。
明らかに雨の方向や角度がおかしい事から念動砲弾が来ているとわかったが、量が桁違いだ。思い切り横っ跳びして念動砲弾をやり過ごそうと試みる。
そのがら空きの背中を、無慈悲な念動砲弾が一つえぐる。
残切が吹っ飛ばされーーーーずに空中に静止したのだ。念力で持ち上げる抹殺者は次の目標へと狙いを向ける。
【鋼鉄の茨】達が火麗目掛けて殺到する。
今度は火麗に突撃するのではなく、巻き付いた。その四肢に絡み付いたものを見て火麗が鬱陶しげに能力を使って脱出を試みた。
「貴方の能力は厄介よ。摩擦力が0だったら少しでも方向に誤差がある限り突き刺さらないわ。だけど……それは全方向から攻撃された場合どうなるのかしら?
モード、スパイク」
火麗の身体が真っ赤に染まる。
絡み付いた【鋼鉄の茨】か突き出てそのまま火麗の四肢を串刺しにしたのだ。
火麗は摩擦を0にし、物体は自分と限りなく垂直で無いかぎりは自分の体を沿うように滑る様にしたのだ。
しかしこれには欠点がある。それは全方向からの攻撃に対しては意味が無いという事だ。
「ぐがぁッ……」
そしてそのまま【鋼鉄の茨】で火麗を持ち上げ、念力で空中に浮かしている残切目掛けて激突させた。
二人が起き上がる様子もなく地面に倒れ伏したのを見て抹殺者はチラリを飛翔者の方に首を回した。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.141 )
- 日時: 2016/07/04 19:16
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
何で私はこんな事をしているのだろう。
いや、分かってる。仕方ないんだから。命令通りの事をしなければ組織に消されてしまうから。
勿論、こうやって自分を正当化してごまかして、プロフェッサー達に罪をなすりつけてる事も分かってる。
梅雨は二、三ヶ月位前に終わったというのにザンザンと降り続ける雨が鬱陶しく感じる。私は何を苛立っているんだろうか。
目の前に転がるのは二人の人間。片方は恐らくだが肋骨が何本か折れている。もう片方は四肢が正しく蜂の巣で、その穴から血が流れ水溜まりを濁らせてた。
止めを刺さないといけない。だけど身体は動かない。まるで錆び付いた機会を無理矢理動かそうとしている気分だ。
何で?前は殺せたのに。容赦の一欠片も無く命を消せたのに。
ふと彼の顔が脳裏を横切る。
彼は優しかった。
まさか私は彼のせいで余計な感情が芽生えてしまったのだろうか。
殺さないと。彼は殺したらどう思うだろう。
殺す、私は抹殺者。殺したくない、私は鸛御弥。
私は人を殺すための存在。彼はそれを知ったらどう思うだろう。
「抹殺者、表情が硬直に近接する状態に移行していますが」
大して意味も無い自問自答に夢中になっていると飛翔者から声を掛けられた。
彼女の腕には目標だった天澤秋樹が抱えられている。
「……じゃあ早く戻りましょう。いつまでも特殊警察が黙っているとは限らないから」
「了解しました」
私は逃げた。理由を付けて選択肢から逃げたのだ。
結局私は非道になりきれなかった。しかし人と言う訳でも無い。
どっちつかずの私は何者なんだろう。
私はその思考を投げ捨てる。何をネガティブに捉えているんだと。
飛翔者が飛び上がり私を待つ。私も念力で浮かび上がろうとするーーーーが、何故か私は浮かば無かった。
ふと足元から引っ張られている感触がした。
私の足元を見下ろす。
「なッ!」
それは足を掴んでいた。真っ先に始末した筈のそれは、名も知らぬそれは、私の足を群がるゾンビの様に掴んでいたのだ。
この男はなんなのだろうか。その思考か私の精神を恐怖となって攻撃する。
身体は血まみれのボロボロ。満身創痍も超えてそれは死体にすら見える。
そんな状態の男が、私の足を掴んでいた。
「……貴方は……何のためにそこまでするのかしら」
裏返りそうな声を抑えてその男に問う。
男は顔すら上げずに、いや上げる事すらままならない様子でこう答えた。
「俺の為に、誰がこの程度で、諦めるものか」
その声は、私の精神を更に揺さぶる。
この傷をその程度?何を言っているの?
耳を刺激的な音が貫く。
その男から赤い飛沫が飛んだ。
刺激的な音の方向を見ると飛翔者が銃口を向けていた。
「さぁ、早急に期間を行使しますよ」
私は恐怖を抱きながら念力で空中へと浮かび上がった。
第7章
〜無彩色は何の為に〜
一旦閉幕
あとがき
時雨「あー、この章だが長すぎて整理がつかない恐れがあるからな、ここで一旦閉幕、大まかな流れを説明していくぞ」
平子「実際作者も最初の辺りの下りがうろ覚えでしたしね」
風間「仕方ない事だ。何せ今の章は三ヶ月以上書いてるしな」
影雪「じゃあさっさといくぞ」
平子「あ、影雪さん。このコーナーに復活したんですね」
影雪「ケンカ売ってんのかテメー」
風間「お前達少し大人しくしていろ」
時雨「じゃあまず、この章は俺の視点から始まったな。
鸛と出会って少し経った辺りから、だな」
平子「そしてその時、私と紡美ちゃんは遊びに出掛けていたって訳ですよ」
風間「その二日後、俺と天澤は豪雨に遭って……その後サイボーグどもが乗り込んできた」
時雨「その日に俺も襲われた」
平子「私達もその日ですね」
時雨「時間軸はこんなところか。次に色んなとこの説明な。まず鸛もしくは抹殺者の【鋼鉄の茨】ってのは、鸛もしくは抹殺者が背負っているリュックから何本も機械チックな触手が出ているイメージだな。モードスパイクてのはその触手のいたるところから棘が飛び出るみたいな感じだな」
影雪「それに串刺しにされた火麗ってヤツは大丈夫なのかよ?」
風間「それに至っては続き次第だ」
平子「てか私のところでは色んな人が出てきましたよ。聖林寺さん、円くん、アカネちゃん、あとは出雲さんに中野さん。あとサイボーグの二人ですか。ああ、ジーナさん登場は予想外でした」
風間「ああそいつらは(ピー)の(ズギューン)ていう組織の奴らだ。まあ古都はそれ程マークされていた様だ。古都の能力についても続きで明らかになる筈だ」
影雪「ジーナが出てきたか……実はおれも」
時雨「ネタバレ禁止な、まあ他にも質問があったら聞いてくれ。
因みに加速者の加速するときのはロケットのエンジンが炎を噴出するのを色を青くして、細く絞った感じだ。燃焼者の火炎放射はもうロケットの噴射のまんまだな。飛翔者はトンボの羽が十枚背中に付いてると思ってくれ」
平子「さて、今後どうなるんでしょう。
えーっと次は……へぇー時雨さん視点からですか」
風間「まぁこの小説を今後ともよろしく」
影雪(今度こそオレに出番が!)
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.142 )
- 日時: 2016/07/08 19:04
- 名前: 波坂@携帯 (ID: dY22Nade)
ずっと、走り続けていた。
立ち止まる暇なんて、無かった。
走って、走って、走って。
走り続けていた。
だから、気付かなかった。
自分が大事なものを取りこぼしているなんて。
取りこぼした大切なものを見た時、俺は荒れた。
荒れて荒れて荒れ狂った。
そんなある日、異常な程のお人よしが、俺に声を掛けた。
俺はそれに対して散々八つ当たりをした。
でもそいつは折れなかった。
俺は気になってそいつと暮らし始めた。
それから、そいつのおかげで、俺は段々と温もりを取り戻していった。
でもある日、そいつは死んだ。
一人の少女を庇って。
それ以来決めた。
俺はそいつみたいな奴になると。
だから、俺はその少女を庇った。
そして仲間を失った。
そして、少しの間だけ、何も無い静かな日々が過ぎた。
でも長くは続かなかったらしい。
ある日、俺は白い少女と会った。
そいつは何処か、あのお人よしに似ていた。
そいつと会って、俺は目標を再確認した。
そう、あいつみたいな奴になると。
その矢先、俺の家の前に、緑の少女が倒れていた。
そいつを助ける為に、頑張って、頑張って、頑張って。
守りきった。
そして俺は、その緑の少女を護り続ける為に、走って、走って、走り続けた。
そして、また、走っている内に。
俺は何かを取りこぼしてしまったんだろうか?
目を開けると、何度か見覚えのある気もしないことはない天井が出迎えた。
少し痛む頭を押さえながら上半身を起こすと刺すような痛みに襲われたので、悲鳴を上げながら再び寝る。
ロクに働こうとしない頭を強制労働させてクリーンにしていく。
段々と思い出してきた。
それと同時に何処へ向けた訳でも無い苛立ちの様な感情がふつふつと煮えたぎるのがわかった。
乱暴に点滴をむしり取って、頭をぐしゃぐしゃと掻きむしる。
負の感情による悪循環。何故こうなった。俺が悪い?知るかそんなこと。でも負けたのは俺。だけど俺は悪くない。悪くなくない。悪い悪くない俺は悪くない悪いのは俺は悪くない訳無い俺がそんな悪い訳無い俺が悪い悪くない悪く悪い俺は悪く悪俺悪く俺悪い俺
「落ち着きたまえよ。十橋くん」
冷静な声に、頭が冷えていく。
確かこの人物の名前は……。
扇堂医師、だったか?
「そうだ。私は扇堂。きみの担当医でもある」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.143 )
- 日時: 2016/07/11 19:34
- 名前: 波坂@携帯 (ID: dY22Nade)
扇堂医師曰く、俺の身体は約十発の弾丸によってえぐられていたらしい。その弾丸を摘出するのに何本か手術用具を折ったりしたらしいがそこは置いておく。
その後、特殊警察による聴取等があったが、俺はあまり覚えていない。
なんだ、この虚無感は。
心に風穴でも開いたようだ。
なにか大切なものを落としてきたかの様な感覚に捕われる俺。
外の未だに降り続ける雨を特に感想も抱かぬまま無機質に見つめる。
そのままボーッとするだけで時間は過ぎていく。
ーーーー俺は何をしているんだよ。
ーーーー俺は何ができるんだよ。
ーーーー俺は……一体何なんだよ……?
そんな自問自答に答える俺は、当然ながらいなかった。
「失礼します」
知らない様な知っている様な声が病室に発生する。
誰だ?そもそもこの事を俺はまだ誰にも話していない。そんな中来る訳が無い。
そいつはベッドに横たわる俺の視界に入り込む。
そして、俺は理解した。
こいつが誰なのかを。
お前は……!
「どうも、昨日会いましたね。十橋時雨さん」
感情が煮えたぎる。
何が煮えたぎっているか?
怒りだ。
何故かって?
こいつは誰でも無い……昨日碧子を連れ去った……張本人だ。
……何をしに来やがった!
「おっと怖い怖い。というわけなので用件を済ませたら帰らせて貰いますよ」
この余裕の表情や態度。こいつにとって俺は何なんだ。
そいつが一つの封筒を放って帰っていった。
一応封筒を開いてみる。
まず折り畳まれている紙を開いた。
どうやら地図らしい。そして一つのポイントには×印が描かれている。
もう一枚は写真の様だった。何故か不透明のカバーが付いていたので剥ぎ取る。
そうかよ。
そういうことかよ。
こんなにも。
こんなにもわかり易い挑発は初めてだ。
一枚の写真。
写真に写っていたのは碧子だ。
身体中を痣だらけにされて、鎖に縛られている、碧子だ。
俺が何色の感情に狂ったなんて、言う必要は、無いだろ?
もう時計は8時を指す頃。空も大分暗くなり、闇夜が街を染める頃。
俺は病室からそっと出る。
そしてそのままホールを目指して歩く。
夜の病院とはいえまだ明かりも付いているので怖い事は無い。
そして受付のカウンターで医療費等の用事を済ませ、病院から退場しようと
「待ちたまえ、十橋くん」
聞き覚えのある声を背にゆっくりと振り返る。
白衣姿の五十代辺りの医師、扇堂医師だ。
「きみの身体は確かに頑丈だ。今もきみは至って普通の日常動作を行っている。
しかしだね、きみの身体は既に悲鳴を上げているよ。……悪いが医師としてそんな身体の患者を見過ごす訳にはいかない」
……あんたがいい人だってのは知ってる。
別にそれに反対する訳じゃねぇ。
でもな、俺には捨てられないものがあるんだよ。
暫くの静寂、不意に息を小さく吐き出す音が聞こえた。恐らくニュアンスは溜め息。
「……仕方ない、きみには特別に私から少し助力をさせてもらうよ」
扇堂医師の指が、俺の肩に触れる。
その指が光りだし、段々と輝きを強めていく。
力が湧いてくるようだ。
先程まで絶不調に近かった調子が一気に絶好調へと変わった。
「私の能力、[体調を引き上げる能力]だよ。ただし効果は一時間だ。
それを過ぎれば身体は殆ど動かなくなると言っていい」
一時間、それがタイムリミットらしい。
俺は扇堂医師に礼をして、その場を去った。
一秒でも早く、碧子を救う為に。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.144 )
- 日時: 2016/07/16 14:22
- 名前: 波坂@携帯 (ID: dY22Nade)
ずっと、友達だと思っていたって訳で。
小学校で出会ったとき、あの子は虐められてた。
それを、髪が黒いからって、人より身長が低いからって、それだけで虐められていたあの子をみていられなかったって訳で。
だから、私はある日、虐めをしていた男の子の頬を張った。
「髪の色が黒いからって、能力が無いからって、だからってそんな事をするのは間違ってるって訳ですよ!」
確かこんな台詞を言ったっけ?
そして私は、虐めの対象にされた。
だってその時、私も髪が黒かったって訳だから。
虐めは辛かったけど、私には沢山の友人がいたから、それほど苦にもならなかった。
そして、私はある日聞いた。
放課後の教室、虐められていたあの子と虐めていた男の子が話していた。
虐めていた男の子はこう言っていた。
「平野を虐めたらお前は虐めないぞ」
私は呆れた。そして悲しくなった。
明日からあの子からも虐められるんだ、と。
でも、私の耳に入ったのは、人の言葉じゃなくて、乾いた音だったって訳で。
そのあと、確かに聞こえた。
「そんなのするわけ無いよ!平野ちゃんは私を助けてくれたんだから!」
だから決めた。
この子とは、絶対友達になるって。
ああ……寝違えた、首が痛いって訳ですよ。
首を押さえながら目を開けると、白くも無い見知らぬ天井が映った。
「あら、目が覚めたのかしら」
パタン、と本を閉じる音と共にハスキーな女性の声が聞こえた。
寝違えて痛めた首を押さえながらそちらに目線を動かすと、トランプ柄のブラウスに赤と黒のチェック柄のスカートを穿き、コバルトブルーの髪を大きな灰色の髪留めで二つに括った髪型の聖林寺さんがそこにいた。聖林寺さんの髪型はツインテールって何故か呼ぼうと思わないって訳ですよ。大人びているからですかね?
おはようございま……ストップ。
いやちょっと待ってって訳ですよ。
なんで私の寝てるすぐ近くで聖林寺さんが本を読んでたんですか。
てかそもそもここ私の家じゃないし。
「?何がストップなのかしら?
おかしい所は見当たらないわよ?」
聖林寺さん、逆です。おかしな所しか見当たらないって訳ですよ。
取り合えずベッドから出て聖林寺さんに近付こうと痛ったぁい!
何ですかこれ!なんか私が寝ていたベッドの周りに薄くて青いガラスみたいなものがっ!
「ああ、貴方の周りに障壁を張ってるのよ。
……ついでに言っておくけど貴女も女なんだから羞恥心を持ちなさい」
は?羞恥心?一体何のこキャアアァァァァァ!
なんで私服着て無いんですか!ばれる!私のスリーサイズばれる!
って問題はそこじゃ無いって訳ですよ!
ま、まさか聖林寺さん……そんな趣味が……変態ッ!
「……酷い誤解を受けている気がするけど、服ならベットの左側にあるわよ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.145 )
- 日時: 2016/07/18 20:44
- 名前: 波坂@携帯 (ID: dY22Nade)
ベットの側に置かれていた私の服を着る。てか誰が脱がせたのこれ?
障壁から透けて見える壁や床は表面に光沢のある大理石の様な石で、オーク材の大きなテーブルや椅子達が規則正しく列んでいる。聖林寺さんの座っていた椅子はあそこから拝借したんですかねぇ?
「聖林寺」
と、重厚な扉を開く音に遅れて女性の声が聞こえた。
軍服の様な恰好をした女性……うわぁ、胸大きいって訳ですよ。
その女性と赤黒い髪を適当に跳ねさせた天然パーマのトレンチコートを着た身長推定170辺りの男性。そして車椅子に乗ったカッターシャツを羽織っている……私と同い年位の男子と……なんか朝焼けみたいな髪の色のメイドさんが入ってきた。
「あら出雲さん、少し遅かったわね」
「すまぬ。少し外せぬ用があっての」
なんか女性が爺言葉喋ると違和感しかないって訳ですよ。
「つーか障壁張りっぱで良いんですか?創造力尽きちまいますよ?ひじりん姉さんよぉ」
天パの男性が頭をかいてこちらを指指しながら言った台詞に対し、聖林寺さんはスタスタとその男性の前まで早足で向かい、その細長い五本指で顔面を鷲掴みにしてニッコリと脅迫的な笑みを浮かべながら言葉を返した。
「うふふふ、障壁については問題は無いわよ。だって私は一応司る能力者の一人、創造力は殆ど尽きる事は無いわよ♪
ただね……少し向こうで優しい優しい聖林寺姉さんとオ・ハ・ナ・シ、しましょうか♪」
「痛い痛い痛いいだいぃ!すんません聖林寺姉さん!調子乗りました!だから止め頭がぁぁぁぁ!」
「うふふふ♪」
ニッコリと黒い笑みを浮かべながら、そして天パの男性の顔面を鷲掴みにしながら文字通り引きずって部屋を出て行った。……聖林寺さんって優しそうに見えるけど怖ッ!
「……やれやれ、中野さんもわかっているだろうに」
「ご主人!あれはきっと喧嘩する程仲が良いという奴です!だから私とご主人も喧嘩しましょう!」
「……落ち着け、それより紅茶入れてくれないか」
こっちの高校生位の二人は……至って普通なんですかね?
「いかんいかん、本題を忘れておった」
と、爺言葉の女性が思い出したかの様に手をポンと叩いて私の方に近付く。私より身長高いです。
上から見下ろす様に視線を投げつけて来るこの人に対して私はどういう目線を返せば良いんでしょう?睨みつける?防御力下げさせてどうするんですか。
ここは無難に「え?何?」みたいな目線を投げつけましょう。
「おぬしは平野平子で間違いないかの?」
一瞬「いいえ違います」なんて言う英文を直訳した様な文章が頭を横切りましたが変な事をしたら即やられそうな気がしたので「そうですけどなにか?」と返しました。私だって空気くらい読むって訳ですよ。
「そうか、では平野平子。
私らと一緒に来んか?」
……え?
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.146 )
- 日時: 2016/07/22 22:04
- 名前: 波坂@携帯 (ID: nYs2x9iq)
始めてだった。
自分自身が、建前や倫理からきたものでは無く、純粋に、心の底から、守りたいと思ったのは。
そう思えたのは、あいつだけだった。
恐らく、他の人間の為に、俺はあそこまで意地を張る事はできないだろう。
俺はヒーローじゃない。ただ、単純に、俺の手の届く範囲であろうと、自分の知らぬ人間は助けないし、救おうとも思わない。
あくまで、特殊警察だから、知り合いだから、面倒事に繋がるから、そんな理由を並べたてて、風間司なんていう正義ぶった仮面を付けている。
でも、
だけど、
あいつだけは、仮面の風間司では無く、本心の、本当の、俺が守りたいと思った。
俺は汚い、汚れた人間だ。あいつみたいな純粋な人間じゃない。打算で動くし、切り捨てるものは切り捨てる。
だが、
しかし、
そんな俺が、あいつを守ろうって思っても、悪くは無いだろ?
「ーーーー間、ーーー答、所望、葉月」
声が聞こえた。
天澤の様な柔らかい声じゃない、低音でカクカクとした声だ。
目を開けると真っ先に飛び込んできたのは海の様に深い藍色の瞳。
サイドテールが垂れて鼻先をくすぐるが、流石に心配していた様子だったので視線で訴える。
記憶の追跡者ことメモリアルストーカー、青星葉月はベットに横たわる俺を覗き込む姿勢でこちらを見ていた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.147 )
- 日時: 2016/07/23 20:53
- 名前: 波坂@携帯 (ID: nYs2x9iq)
「風間、此処」
あの後、青星から俺の身体について聞いた。どうやら肋骨が数本逝っているらしく、あと二日程は絶対安静、二週間程は運動禁止らしい。むしろ俺は限界まで足を酷使した上に軽自動車に交通事故さながらに激突され、おまけに銃弾を数発プレゼントされた割には怪我が軽いと思う。
とは行っても今は本当に体が重い。運動能力の低下に加えて肋骨を支える器具を巻き付けていて、日常動作すらもけだるげに思え、今こうして歩いているだけでも自分の容態の深刻さが把握できる。
青星が手をかけたドアノブは特殊警察医務担当の06部の部室だ。もはや部室というよりは病棟ーーーーとはいうものの特殊警察中央エリア本部の三割を医務担当の部が占領しているのだから当たり前と言えば当たり前だがーーーーであり、00部との社会的格差を思い知らされる。
俺も先程までは此処にいた訳だがやはりと言うべきか01部による事情聴取が行われた。どうでもいい、知らない事は「知るか」の一点張りで答えたのは些か手を抜きすぎたとして反省している。
青星がドアノブを捻る。ドアを開けると通路があり、病院の様な雰囲気を醸し出していた。
病室に繋がるドアが幾つも設置されていて、視線を右にずらせば『特殊警察06部部員室1』とゴシック体の字が印刷された紙がドアに無造作にセロハンテープで貼っている。
青星がなんの躊躇もなくドアをノックし返事をもらいズカズカと入室していったのをみて無遠慮な奴だと感想を抱きながら便乗する。
「ありゃー?こりゃ葉月っちゃん後輩ちゃんじゃな〜い」
高い声、女性というか少女の様な印象の声。
声の主の方向に首を回す。前では青星が特に反応も無く「報告」と一言だけ呟いている。それを聞いて何の報告だと気にかかったがどうでも良くなったので後回しすることにした。
声の主はしたにローラーが付いている椅子に腰掛けて足を組んでいた。もしそれが大人の女性の容姿ならば色っぽく見えたのだろうが、その存在は余りにも幼く見えた。
06部の灰色を基調とした制服の上から床に擦れる程サイズが合っていない白衣を羽織った身長140cm程の少女だ。スリッパのサイズも大きいのかオレンジ色の靴下が八割がた見えている。
ふふんとピンク色の髪を小さなツインテールに纏めた少女は幼げな童顔で笑っていた。
青星がその少女に向かって俺に指をさしながら一言言う。
「彼、風間司」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.148 )
- 日時: 2016/07/24 00:18
- 名前: 三毛猫 (ID: ./JJ2jTc)
司、生きてた!
てっきり死んでしまったのかと。
いつも彼がお世話になっております。
そして、ほとんど人間味が無かった司に、人間味を与えていただきありがとうございます。
これからも更新頑張ってください。
応援しています。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.149 )
- 日時: 2016/07/25 13:20
- 名前: 波坂@携帯 (ID: nYs2x9iq)
三毛猫さん、彼は生きてますよ(笑)
風間さんの取り柄の一つは生命力ですから。
続きです。
「ふぅ〜ん、これが噂の風間っちくん後輩くんね〜」
ピョンと椅子から下り、俺の周りをうろちょろと歩き回る少女。
多少鬱陶しく思ったので首の後ろ辺りの襟を掴み顔が俺の顔と同じ高さになるぐらいに持ち上げる。「うにゃー!放せー!」という抗議の声に無視を決め込む。
手をブンブンと振り回す少女のツインテールが頭に辺り鬱陶しく思うが流石にこれは俺の招いた結果なので我慢することにした。
おい青星、こいつは誰だ。
そのまま少女を青星の方に突き出す。少女は疲れたのか少し大人しくなった様だ。
「彼女、特殊警察医務部総長、立待月早夜。風間、年齢、上」
は?
こんなガキが?と言葉にしなかったのは一重に奇跡という奴だろうか。
特殊警察には医務担当の部が幾つか存在する。
その部ひとつひとつの指揮をとるのは隊長だが、その隊長の数名を纏めるのが総長。即ち全ての医務部の長と言う訳だ。
「放せー!もう先輩ちゃん怒っちゃうよ!」
再び暴れだしたのでそのまま手を離す。しまった。まあいいか。
暴れた状態でそのまま高い位置から放り出したら当然ながら床に着地などできるわけもない。案の定と言っていいのやら「むぎゅ!」などと俺の年上とは思えない可愛らしい声を発して床に落ちた。
「うっうう……早夜っちゃん先輩ちゃん泣いちゃうよぉっ……ひぐっ」
流石に見た目は小学生もしくは背の低い中学生にしか見えないので罪悪感が心を占領する。
取り合えずそれを流すために、裾から手が出て折らずに肘辺りで目を擦っていることから腕の長さは白衣の本来肘辺りが通過する辺りまでしかないのか。等とどうでもいい事を考える。
「……酷いよぉっ……早夜っちゃん先輩ちゃんは18の風間っちくん後輩くんの8つも年上なのに……ひぐっ」
なっ!
あの容姿、あの性格、あの口調で26だとは俺としては受け入れがたい現実であった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.150 )
- 日時: 2016/07/28 10:35
- 名前: 波坂@携帯 (ID: nYs2x9iq)
「ふぇぇん……ひっぐ、風間っちくん後輩くんのいじわる……ひっぐ」
目から大粒の涙をぼたぼたと零して口を大きく開けながらこちらを見てくる本人曰く26才の少女(?)を前に俺はどのような行動を取ればいいのか。おそらく今までの中でもトップクラスに入る試練だ。
と、余りの静さ故に一瞬思考からフェードアウトしていた青星が急に立待月(先輩?)に近寄り持ち上げる。
「高い、高い」
完全な子供扱いだ。それ俺より酷いだろ。
「早夜っちゃん先輩ちゃんは……ひぐっ……後輩ちゃん達より……ぐすっ……年上なんだから……子供扱い……しないでよぉ……」
涙ながらのその台詞に思わず応援したくなってくる。原因を作ったのは俺なのだが。思うところがあったのか青星か棒読みで高い高いをするのを止めて子供をあやすように胸に抱えて頭を撫でる。
数分間の間それを行った青星がボソボソと耳元に何かを喋っている。
「……先輩は強い子。強い子は泣かない。強い子強い子」
やはり子供扱いだ。
青星の奴、意外に残酷だ。
「……うん!早夜っちゃん先輩ちゃんは強い子だもん!泣かないもんっ!」
そしてそれで元気を取り戻すこちらにもツッコミを入れたくなった。
……それで本題に入りたいんだが。
もうなんか面倒だったので水に流した。本題をさっさと済ませよう。
立待月総長は無い胸を張り偉そうに腕を組んで自信満々といった様子だ。先程までのテンションはどこに消えたのか。
「いいよ〜。たしか00部のみんなの容態だね〜」
まぁ、実際に付いてきた方が早いよ。と部屋を出ていった立待月総長に付いていく俺と青星。というか青星はなんでここに?
まぁどうでもいいので放っておく。
立待月総長がドアをノックする。その部屋には部屋番号と病室とだけ書かれたプレートが吊されていた。
ドアを開けると見慣れた顔が幾つか。
ただし見ていて気分は良くはならないが。
「……風間か」
「風間先輩!」
火麗とザンだ。何故男女別ではないのかとあとで聞いて見たところ、二人ともそんな事やあんな事をできる容態では無いというテキトーな理由だった。
気分が良くは無い理由。それは二人の体だ。
ザンは右腕の殆どをギブスが占領している。おまけに腹部には俺と同じ固定器具。足にもギブスが当てられており、とても日常生活が成り立つとは思えない。
火麗など殆ど寝たきりだ。体中に包帯が巻き付けられていて、所々赤くなっている。
こうして考えると自分の容態は四人の中で一番軽傷かもしれない。
……そういえば………キャロルは……。
おい、オレンジ色の髪をした子供みたいなのはいないのか?
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.151 )
- 日時: 2016/07/29 11:53
- 名前: 波坂@携帯 (ID: nYs2x9iq)
「風間」
……。
「風間」
…何だ。
「風間、冷静、必要、頭部、冷却」
……冷静になれ?俺は至って冷静だ。
「……私、理解した。風間の、怒り、を」
珍しくきちんとした文章を話した青星。
今、俺と青星は事件現場へと向かっている。俺の場合は帰宅だが。
割と特殊警察から近場なあそこのアパートは徒歩で行ってもそれ程苦にはならない。
相変わらず降り続く雨を鬱陶しく思いつつも傘を差して歩く。
『キャロルっちくん後輩くんは今だいぶイケナイ方に行っちゃってるの〜』
立待月総長の言葉が俺の頭の中で反響する。
『キャロルっちくん後輩くんはね〜、激しい脳震盪を起こしてる上に肩甲骨にひびが入ってたり肋骨が肺に突き刺さったりしてて散々だったの〜。多分担当医が私じゃあ無かったら今頃天に召されてたと思うよ〜』
キャロルが、殺されかけた。
最初は邪魔で面倒で煩いだけの後輩だった。
だが、キャロルだって俺には無いものを持っていた。
だから、こそかもしれない。
俺の目がいつもより少々吊り上がっているのは。
とは言うものの、ここを調べたところで得られるものと言っても殆ど何も無いだろう。
強いて言うならば天澤のスマホくらいなものだ。
と、思っていたものの、現場には違うものが、いや、人がいた。
青い髪を柔らかくストレートに伸ばしたスーツ姿の男性。まだ歳は若く、風間の少し上と言ったところだろうか。身長は180はありそうだ。
……誰だ?
多少苛立ちを含んでいたなと後悔する。ここで関係の無い人間に苛立ちをぶつけてどうする。
男性は少し顎に手を当てた後、思い出したかのように手を叩いてこちらを向く。
「始めまして。天澤秋樹の兄である天澤春樹です。
昨日会話したのを覚えてますか?風間司くん?」
確かに、この声は昨日話した人物ととても良く似ていた。
青星はじゃあ、と俺から離れて行く。どうやらあちらも仕事を始める様だ。
「一つお聞かせ願いたいのですが宜しいでしょうかね?風間くん?」
何ですか?
「……もし、貴方が単独で妹を救助しようと言うのならば、私に連絡を下さい。速やかに貴方の助けとなりましょう」
……何故?
「私は秋樹大好きなのです。愛おしいのです。守りたいのです。
そんなシスコンの私にとって、秋樹が裏を歩くのは許せない。
百歩譲って、強制的に歩かせる事をするのは、許せないのです」
急に真剣な声音と顔で話しはじめた。
正直、羨ましいとさえ思う。
この人は、あいつの為に自分を切れる覚悟があるからだ。
しかし、今のところは乗り込む予定は無い。
とは言うものの、相手の場所が掴めないからだ。
居場所の分からない敵は倒せない。
さて、どうしたものかと考え始めたとき、ふと爆発で画面が割れたpcが目に付いた。
……これに賭けるしかないようだ。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.152 )
- 日時: 2016/07/31 00:47
- 名前: 波坂@携帯 (ID: nYs2x9iq)
「なぁるほどなぁ」
相変わらず寝ぼけた目をした御手洗はパソコンのキーを打ちながら生気の無い返事をする。
相変わらずのメカメカとした部屋で生活している御手洗は最早変態では無いだろうか。いやまぁ、変態だからハッカーなんて非合法活動やっているんだろうがな。
「しっかし……前来た天澤ちゃんだったか?あの娘、なんか訳ありだったりすんのか?」
回転椅子に寄り掛かりながらこちらに体勢を向ける御手洗。
実際のところ、恐らくだがコイツは既にそのことを知っている筈だ。例え変態と言えど超一流のハッカー。例えダメ人間でもコイツは情報収集能力だけはある。プライベートロックをゴキブリの様にすり抜ける奴が、気になった事を調べない訳が無い。
「……今すげぇ馬鹿にされた希ガス」
安心しろ。事実だ。
「安心できるわけ無いだろうが」
心配するな。例えお前自身の人間性がゴミであろうとも、その狭い隙間をすり抜けるゴキブリの様な情報収集能力だけは評価に値する。
「……ガチで泣いていいか?」
御手洗の心が割れて使い物にならなくなる前にさっさと依頼しておこう。
本題だ。DHA本拠地は何処にある。前に潰した場所じゃない。
俺が御手洗の元に来たのはこのためだ。
例え『記憶の追跡者』である青星であろうとも、あの現場からは犯人の容姿等というそれ程約にたちそうに無いものしか手に入らなかった。
正攻法で駄目。ならば側面からだ。
相手は非合法組織。ならばこちらは非合法ハッカーで対抗だ。
「……おい、風間」
急に鋭くなった目付き。
一瞬だけ、冷静が崩れたがなんとか持ち前の鉄仮面で隠す。
にしても、だ。コイツのこの表情は見たことが無い。いつもと違って冷たく、機械的な表情だ。
「お前は、今回の裏事情にどれだけ絡んでる?」
何のことだ。サッパリ分からん。
……どうやら今回、事件は思ったよりも複雑らしい。
「それ、本当だろうな?」
ああ、そうだ。
事実、俺は今回の件に関して無知だ。それは本当のことである。
「……そうか。
実は別件の依頼でたまたまお前と同じオーダーがあってな。既に情報は入手済みだ」
御手洗がハードディスクを一つ、ハードディスクボックスから取り出す。
「まあ、これな訳だが……一つ言ってやる」
「お前……死ぬぞ」
その言葉は、何故か俺の心の奥底まで響き渡る程だった。
「しかし、私としてもこんな速く連絡が付くとは思っていなくて。いやぁ、済みません。待たせてしまいましたね」
もう時刻は9時を回った辺りだろうか。俺のアパートの前には一人の男性ーーーー天澤春樹が訪れた。
こちらから駄目元で連絡を掛けてみたのだが、思いの他早く来てくれた。
仕方ない、事だ。
仮に、このハードディスクを誰かに渡すとしよう。
それで事件は終わるかもな。
だが、考えてみろ。
手がかりも何もなく、急に情報が入ってきたのだ。
しかも、隊長でも何でもない、一構成員からだ。
そんなもの、不自然過ぎて非合法に絡んでると自白している様な物だ。
こういう情報を、上手く上に流す事ができる火麗は今、重体も良いところで無理はさせられない。
要するに、俺が動くしかないのだ。
だが、俺は無力だ。だから助けが必要だ。
だから、助けを呼んだ。
いや、来てくれるだけでも有り難い。
「それはどうも。いやですね、仕事仲間達に協力を要請してみたのですがね……結構仲が良かった相川君にまで断られてしまい……一人しか呼べなかったのです」
?仕事仲間?まあ、なんにせよ味方が増えるのは嬉しい事だ。
それで?その仲間とやらは?
「もうすぐ来るはず……お、噂をすれば影です」
春樹が指を指した先に視界をずらす。
真っ先に見えたのは引きずられた白衣。
次に目に付いたのはピンク色の髪。小さなツインテールに纏められている。
身長は140辺りで兎のイメージが合いそうな少女……。
「あれ〜?風間っちくん後輩くん?
ねーねー、春樹ちくん後輩くん、ど〜ゆ〜こと〜?」
何故だ。
何故ここに、
特殊警察医務総長の、
立待月早夜がここにいる。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.153 )
- 日時: 2016/07/31 19:30
- 名前: 波坂@携帯 (ID: nYs2x9iq)
自分の最初の頃の文章を読んでは死にたくなる波坂です(泣)
外は雨が降り続いていた。
どうでもいい。
雷は収まった様だが、その雨粒達は視界を遮り、傘を差していない俺に対して鬱陶しさを感じさせるには十分過ぎた。
どうでもいい。
ひたすらにがむしゃらに走り続ける俺ーーーー十橋時雨は今までに無いほどに熱くなっていた。
目的地迄はあと数百メートル行った辺りだ。
と、赤信号が煌めき俺の走行を止めようとする。
今は時間が惜しい。
俺は赤信号を無視して自動車が通る道路の上を跳躍して向こう側まで跳んだ。
周りからは多少どよめく様子が伺えたが、今となっては塵埃だ。
着地を決めて再び走り出す。
少し息が上がってきた頃。ようやく地図が指す目的地辺りに到達した。
キョロキョロと回りを見渡す。
目に付いたのは、一つの廃屋。元々工場だったのだろうか。
どうやら地図はこの場を指しているらしい。
意を決して入ろうとするが、案の定鍵は閉まっている。
俺がどうやって侵入したかなんて、最早言うまでも無かった。
電気もロクに通っていない薄暗い廃工場の中を進む。
一体何処に何があるのか皆目検討も付かないが、取り合えずしらみ潰しにするしかなさそうだ。
ドアノブに手を掛けてみたところ、錆が酷く、俺が強く握ったところドアノブが取れてしまった。仕方なくドアを蹴破って入室する。
蜘蛛の巣があることを除けばここは恐らく事務室だろうか。一世代前のコンピュータが腐りかけたデスクと共に鎮座している。
ここにはいない様だと退室し、明かりを持ってくるべきだったかと毒づいたところで何も変わらないので一つ一つ見ていく。
と、とある部屋のドアは、何故か最初から開いていた。
違和感を覚え、慎重に部屋に入る。
そこの部屋には、ありきたりのテーブルと椅子が数組。割れた窓ガラスにぼろぼろのカーテンと生活感がある部屋だった。
テーブルの上に置かれていた謎の物体が目に付き、気になったので取ってみる。
どうやらスマートフォンの様だ。一応電池は残っているらしく使い物にはーーーー待て。
これ、俺のだ。
そう思った直後、狙い済ましたかの様に一通のメッセージが届いた。
差出人不明
『馬鹿ですか?そんな所に義義理碧子を置いておく訳無いでしょう?
精々そこで遊んでいてください』
それを読み終えた直後、先程完全に閉めた筈のドアが開く音がする。
誰だ?そう思い後ろを振り返ると、見覚えのある顔が一つ。
「まー、なんつーか、運悪いな、オマエ」
所々跳ねたウルフカットの金髪の髪。
同じく金色の瞳。
白シャツのインナーの上にはテーラードジャケットを羽織り、ボトムスにスニーキーパンツ。
その男性ーーーー風折影雪は手をかざして一言。
「ワリーな」
次の瞬間、俺の身体に大量の熱気と光が押し寄せた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.154 )
- 日時: 2016/08/02 17:20
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
時雨が取った行動。
それは思い切り床を蹴り、飛び上がった上で天井に拳を突き刺し、めり込ませてそのままぶら下がると言うキテレツそのものな行動だった。
爆発の様な攻撃は消えてなくなり、影雪の姿だけが時雨の視界に映る。
「風折……ッ!」
「……ア?テメーは……十橋じゃねーか」
その日常会話するかの様な言葉とは裏腹に影雪は壁を殴り付けた。
次の瞬間、殴り付けた際に発生した作用・反作用によって起こった運動エネルギーを影雪が光エネルギーに変換しそのまま空気中に発散する。
時雨の目が閃光に焚かれホワイトアウトする。
思わぬ事態に時雨は間違えて天井にめり込ませていた手が抜けてしまう。
あ、と時雨の口が後悔げに開かれた時にはもう遅い。
床に落ちた時雨に向かって熱エネルギーを奪い全てを冷凍する悪魔の手が襲いかかる。
「クソ野郎がぁっ!」
影雪の能力を断片的にしか知らない時雨だが、あの手に触れてはならないと床に手を付いたまま足でテーブルを蹴飛ばす。
影雪の手にテーブルが触れた瞬間、そのテーブルが一瞬にして、まるで真冬の木の枝の様に霜に被われた。
その光景を目撃した時雨は一目散に部屋立ち上がり、部屋から出る。
が、部屋から出ようかという辺りで、背中に照明が着弾し、ガラスが割れる特有の音を響かせる。あわや転倒するところを回りの機材に手を付いてなんとか防ぐ。
「なんで……お前がいるんだよ……風折」
「テメーには関係ねーだろうが。仕事だ仕事。
……あー、だりー。
オイ、確か義義理とか言うガキを探してんのか?」
「……碧子はどこだ」
「教えるかバカ」
廃工場であるが故に転がっている機材の残骸や鉄パイプ等を風折が能力によって熱エネルギーを奪い冷却。奪った物質達が霜に被われる。
その熱エネルギーを電気エネルギーに変換した影雪は電撃を床に伝導させ、そして自身で伝導する経路を操りそのまま時雨の立っている場所に伝導させる。結果的に影雪は時雨に直接電流を流し込んだ。
時雨の足が痙攣し、膝から力無く崩れ落ちる。成す統べもなく床に倒れ伏す時雨。
「まー、あれだ。いまんとこ敵のオレが言うのもなんだが……ここは素直に諦めろ」
頭を掻きながらポツリと零す影雪の言葉に必死に立ち上がろうとする時雨が「は?」と疑問を口にする。
「この際言っといてやるけどよー、オレ、『司る能力者』もしくはその権利を持つヤツラの中でも……結構強いの部類に入ってんだぜ?
そんなオレに無能力のテメーが勝てる道理はねー。諦めるのが利口な判断ってんだ」
「うるせぇ……」
「オレは別に殺すつもりはねーが仮にテメーがこれ以上刃向かうってんなら容赦無く殺す。オレはそこまで出来た人間じゃねーんだ」
影雪の言っている事は本当だ。決してハッタリや脅しの類ではない。
そもそもの話、影雪は平子や時雨の様に人を殺すことに対して躊躇が無い。
平子にわざと敗北したのも、実際のところは影雪のたった一人の妹、風折雪花に負い目を感じさせたくなかったと言うのが理由だ。
実際のところ。仮に過去、影雪を使い平子を殺害しようとした里見甲人は雪花を盾にして影雪に命令したが、影雪は雪花を盾にされておらず、普通に依頼されていたら殺していた。
風折影雪はもう汚れているのだ。彼が絶対に護るのは雪花だけであり、それ以外は全ての人間関係さえ切り捨てる事ができると思っている。
そして、そんな狂ったとさえ言える影雪の前で時雨は言い放つ。
「諦め切れたら……こんなに苦労しねぇよ!」
「そーか。じゃー死ね」
先程奪ったエネルギーの全てを影雪は自分の足に運動エネルギーに変換して伝導。そしてその莫大なエネルギーを持った物体を時雨の顔面目掛けて思い切り放った。
次の瞬間、先程まで動く事すら難しかった時雨の身体が強制的に壁に向かって吹っ飛ぶ。
壁に激突し轟音を鳴らすも勢いは止まらずそのまま壁を貫く。
そして次の壁で再び轟音。今度は止まった様だ。
コンクリ粉が舞い視界を阻害する中で影雪は興味なさげにその場を立ち去ろうと
「待てよ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.155 )
- 日時: 2016/08/04 00:26
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「マスター、紅茶を用意しました」
コンコンとノックの音と共に聞き慣れた声が私の耳に飛び込んできた。
「入って良いわよ」
「失礼します」
全く、気を使わないで良いと言っているのにこうして律儀にノックしたり入室の際に頭を下げる辺り本当に生真面目ね。
入ってきたのは私の直属の部下……と言うより私としてはこの子は私の子供として見てるわ。
真っ白い髪を肩甲骨の下辺りで切り揃えたロングヘアー。前髪は二つのヘアピンで五分五分に分けている。髪質はサラサラで動く毎にゆてrらゆらと揺れている。
色白な肌に黒い水晶見たいな目をしたこの子はいつもの様にこの時間帯になると私好みの紅茶を用意してくれる。
「マスター、ここでよろしいでしょうか?」
「ん、大丈夫よ。……別に貴女は私の子供と同義なのだからそこまで気を使わなくて良いのよ?」
彼女は無表情で首を横に振る。
「いいえ、マスターは私の恩人です。私に生きる意味を与えて下さったマスターに私はこれ以上を求めていません」
「全く堅物なんだから……もう」
恩人と言ったらそうだけど、私としては普通に接して貰いたい。
「それにマスターは中部エリア元首であり、私はその部下に過ぎません」
まぁ……そうだけど。
こういう時に限って中央エリア元首の織宮織香の肩書は邪魔になるわね。堅苦しいのは好きじゃ無いのだけれど。
「マスター、ところで今は何をなさっているのですか?」
「……ちょっと気になる事があったのよ」
首をカクンと傾けて露骨に疑問を表す彼女。
「最近、妙に事件が多いのよ。しかもそれの大半が中央エリアで起こってるわ。
そろそろ私も対策をしなければならないのよ。
……だから今、『司る能力者』の様子を把握していたの」
「なるほど。それで成果は出たのですか?マスター」
「分かってるのはビリリ君とシン君、ひじりんにユッキー、あとはマキマキにやみちー、テレパッギーとホリちゃん……あ、つむりんと私もね。今のところ所属や立場、今現在が分かってるのはこれくらいかしらね。
実際はジーナっちとかの能力者の力も借りないとだけど」
「マスター、済みませんが私にはマスターの命名センスを到底理解できません。何より自分が誰一人として特定できません」
私は人にあだ名を付ける事が好きだから仕方ない。異論なんて認めないわよ。
「でもね……ちょっと問題があるのよ」
そう、これこそが私を悩ませている事柄の一つ。
「問題?一体なんの事ですか?」
「……『司る能力者』ってプライド高いのが多いのよ。もうマキマキとかやみちーとか引き合わせたら科学反応起こして爆発するわよ」
だってお互いに周りを見下しているんだもの。マキマキはまだしもやみちーはホントに歩く爆薬だから困ったわ。
「そうですか。それでは引き合わせる際にはガスマスク及び消化器の準備をお勧めします」
今の冗談なのだけれど……まぁ、それぐらい相性悪いわよあの二人。
「実際、プライドがそこまで高くないのはつむりんとか、あとホリちゃんぐらいかしら」
あとはひじりんくらいかしら?でもあの子は怒ると中々恐いし、信念がしっかりある子だからプライドもあるはあるのよね。
……考えてみればシン君もそこまでプライド高くないわね。
「しかしそれはそこまで問題では無いのではないでしょうか?」
「ええ、でも他にも問題はあるの。コストも勿論そう。それにパワーバランスもあるわ。
ユッキーが全体を纏めてくれるのなら助かるのだけれど……。
そもそも、やみちーはこういう話嫌いだし……」
「マスター、そのユッキーと呼ばれる方は纏められる程の何かがあるのですか?」
「……ユッキーはね、表の世界の能力者の中では最強よ。勿論、テレパッギーやつむりん見たいに相性が悪い子もいるけどね」
「その、ユッキーさんとやらは一体どんな方なのですか?」
「うーん……金髪に金色の瞳の20歳よ。
まあ、彼が表の世界で負ける相手としたら、あの面白い黒髪の人位ね」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.156 )
- 日時: 2016/08/04 19:55
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「マスター、それはそうとお客様がお見えになっています」
「あら?中央エリア元首にアポ無しとはいい度胸ね。何と名乗っているのかしら?」
「平野平治郎と名乗っています」
……あの男、ね。
「良いわよ、通しなさい」
「かしこまりました。案内に向かう為少々お待ち下さい」
扉を閉めて彼女は退室していく。
私は応接様のソファに腰をかけて、はぁ。とため息をつく。
本当に、今年はまだ四ヶ月もあるのに沢山の問題が舞い降りて来る。
長寿の私でもこれは流石に辛いわ。
背骨を伸ばして首を回す。バキバキと音を鳴らすので疲れが溜まっていたのだろう。
「お客様がお見えになりました」
再びノックの音と義娘の声が部屋に響き、今度は私の返事を待つことは無く部屋に入ってきた。その傍らには一人の男。
少しヨレたスーツを着た、30代辺りの男性。実際の年齢は47辺りだったかしら。
髪は特出した点は見られない。強いて言えば色がグレーな事だろうか。
身体付きは普通に見えるが、実際は結構な体力があるはずだ。護身術を教えているのだから、体力が無ければやってられないのでしょうけど。
そして身長は180はあるだろうか。人の良さそうな顔だが目付きは鋭い。
「久しいって訳ですな。織宮さん」
「ええ、本当に久しいわ。平治郎さん」
彼と最後に会ったのはたしか5年前辺りだろうか?正直あまり覚えていない。
「しかし、相変わらず貴女の姿は変わりませんな。
日本は若返りの薬でも作ったって訳ですかな?」
相変わらずの訳です訳ですの口調、私からするとこの人も時間の流れが緩やかな気がする。
「いいえ、これは私の能力によるものよ」
「マスター、マスターの能力は国会機密に相当します。慎みを持って下さい」
むぅ、やっぱり彼女はこういうところ堅物だわ。
ニコニコとした笑顔、声を出して笑うのは平治郎さん。
「はっはっは!いやはや、実にしっかりとした娘さんですなぁ!」
そして彼は急に笑顔と笑い声を止めてこう言った。
その目は、まるで私を咎めるかの様にギラリと睨んでいる。
「本当に……見た目は我が子とそっくりって訳ですな……。
織宮さん、じっくりと話を聞かせて貰いましょうかな?」
〇
「待てよ」
完全に背を向けた影雪の背後から、一人の声が浴びせられる。
影雪が振り向くと同時に、時雨が貫通した壁が吹き飛んだ。
再び舞い上がるコンクリ粉。視界が晴れる頃には一人の男性がそこに立っていた。
「俺はまだ、生きてるぞ」
時雨だ。頭から流血しながらも、時雨はその二本足で立っていた。
影雪の攻撃を受けた瞬間、時雨は自ら、麻痺しておらず動かすことが可能だった上半身の腕で床を殴りつけ、その反作用により後ろに飛んだのだ。
勿論、ダメージが0という訳にはいかなかったが、衝撃は半減することができた。
最も、時雨では無かったら意識不明の重体と化してもおかしくはなかったのだが。
「……だりーなオイ」
ため息を付くのは影雪。
それに対して時雨の目には炎が宿っている。
「あのなぁ、今ので命拾ったんだからよー、大人しく帰るって選択肢はねーのかよ?」
「無い、俺の選択肢は一つ。碧子を助ける。それだけだ」
「あー、そうかいそうかい。オマエに期待したオレが馬鹿だった」
心底面倒臭そうに、影雪は露骨に嫌な顔をしてポケットに手を突っ込む。
まるでそれは、かかってこいと言わんばかりの態度だ。
それに対し、時雨は自分の間合い、時雨の絶対的キリングレンジ0.6mまで影雪との距離を詰め、全力の拳を放つ。
時雨はこの時、影雪の能力を断片的にしか知らなかった。
影雪の能力、[伝導を操り][エネルギー変換を司る能力]。もしくは[伝導を操る能力]と[エネルギー変換を司る能力]。
この[エネルギー変換を司る能力]は影雪が計算式を把握しているエネルギーを変換する事ができる能力だ。具体的には熱を光に変えたり、運動エネルギーを電気エネルギーに変えたりできる能力だ。
そしてその能力は、たとえ『あ相手から加えられた運動エネルギー』も例外ではない。つまり影雪にエネルギーによる攻撃をするのはもはや雑草に水と肥料をやるようなものだ。
平子の時は、わざと敗北するためにしなかったが、今は敗北する理由も無い影雪は、当然ながら時雨の放った膨大な量の運動エネルギーを[伝導を操る能力]によって受け流し、[エネルギー変換を司る能力]により熱エネルギー、光エネルギー、運動エネルギーに変換、そして再び[伝導を操る能力]で空気中へと伝導する。
そして、その伝導されたエネルギーがもたらす現象、それは所謂爆発だった。
再び、時雨が吹き飛び大量の光と熱がばらまかれる。
ボロクズ同然に吹き飛ばされた時雨は壁面に背中から激突、床に落ちてその身体が数回バウンドする。
自業自得だ。そう吐き捨てた影雪は背を向けて廃工場を後にしようと
「まだに……決まってんだろっ!」
その起き上がる筈の無い身体は再び起こされる。フラフラと今にも倒れそうに、しかし強い意志と明確な理由を持って、時雨は再び立ち上がる。
服は多少焦げ付き、髪は爆発で崩れた。
頭からの流血は対して変わっていないが、他の部位にはダメージが入っている筈だろう。
そう、そんな時雨の姿を見て、影雪はーーーー。
「……めんどくせー」
そう影雪が言った時、時雨は再び距離を詰めていた。
時雨の拳が、再び影雪に迫る。
影雪はそれに何の関心も示していない。
そしてーーーー、
派手な音を立てて、影雪の身体だけが吹き飛んだ。
「ぐがぁぁぁっ!」
咄嗟に走った激痛。それに耐え切れずに悲鳴を漏らす影雪。
吹き飛ばされた身体の運動エネルギーを変換して0にし、そのまま重力に身を任せて着地する影雪。その変換したエネルギーを電気エネルギーに変換して放つが頭は別の事で一杯となっていた。
何故、何故自分の変換防御が破られたのか。
そして、影雪は時雨の姿を見て、理由の一部が判明した気がした。
「テメー……さっきまで黒髪だった……よな?」
時雨の髪は、紅い紅に染まっていた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.157 )
- 日時: 2016/08/05 09:22
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「ハハッ……」
空虚な笑いが、影雪の口元から零れ落ちる。
自分の腹部にできた傷。それを見ては影雪は再び空虚に笑う。
「……何がおかしい」
時雨は相変わらずの様子だ。その紅に染まった頭髪を除けば、の話だが。
影雪は、ただひたすらに愉快で仕方が無かった。
能力を使用している自分を、愚直な拳で殴り付けた者が他に居ただろうか?
能力を使われ、ボコボコにされ、それでも自分に立ち向かって来る者が今まで居ただろうか?
否、そんな者など一人として存在すらしなかった。
表の世界で最強。そんな風に言われ続け、実際に最強で有り続けた自分に、目の前の男は核兵器すら防いだこの変換防御を、何らかの方法で破ったのだ。
愉快で仕方が無かったーーーー所詮は天狗に過ぎなかった自分が。
「オマエ……中々素敵な事してくれるなオイ!」
影雪の足が触れた物体達を次々と飛ばし、凶器に変換する。
対して床を走り、壁を蹴り、天井を掴み、常人には到底できない方法でそれらを回避する時雨。
影雪が、自分の手を床に叩き付けると同時に、壁や床から氷の刺達が生えはじめ工場を痛々しく装飾していく。
味の無かった無機質な室内に、美しい氷達が生える光景は絶景だった。ただし、それが人を傷付ける用途でなければ、の話だが。
いつもの影雪なら殆どしない攻撃だ。なぜならこれは、床から熱エネルギーを吸い上げ、その床から更に辺りの水蒸気に干渉し、その水蒸気達からも熱エネルギーを吸い上げる事によって自分の扱えるエネルギーを増やすだけでは無く、冷やされた水蒸気が氷柱となって攻撃するという極めて有効な手段だ。言うなれば一石二鳥である。が、創造力の消費が激しい為に使わない手段だが、影雪はそれ程までに全力だった。
時雨が足に力を込め、壁を蹴り付ける。壁が圧力に耐え切れずに多少のクレーターを生み出すが、時雨はお構いなしにそのまま跳び、影雪に向かって再び拳を振るう。時雨の背後で足場となった壁が風の前の塵の様に崩れたが、二人が気に留める様子も無い。
一方影雪は氷柱を生成した際に奪った大量の熱エネルギーを全て運動エネルギーに変換して拳に伝導する。その手は自らの保持する運動エネルギーに耐え兼ねているのか、ギシギシと嫌な音を立てる。が、影雪はそんな事はどうでもいいと言わんばかりのストレート。
直後、辺りの設備が吹き飛び衝撃波が飛び割れていない窓ガラスを全て玉砕し、それでも暴れ足りんと廃工場に亀裂を入れていく。が、それでも二人は未だにぶつかり合っている。
お互いが譲らずお互いが渡さず、手綱は未だに右往左往。
結局お互いが限界辺りで同時にノックバック。
再び、お互いが相手に向かって駆け出し、相手に向かって拳を振るう。
轟音、そして爆風。更に衝撃。
二度目の激突を勝利したのはーーーー時雨だった。
バットに打たれたボールが一直線に飛んでいく様に、影雪が壁に向かって剛速球の様に吸い込まれる。
影雪が衝突事故紙一重で運動エネルギーを0に変換、その運動エネルギーを電気エネルギーに変換して時雨ーーーーではなく回りの氷柱目掛けて撃ち放った。
氷柱が電撃に穿たれ、それがそのまま状態変化を起こし液体となる。
時雨が気づいた頃にはもう遅い。
影雪から電撃が地面を這い寄る蛇の様に放たれた。氷柱が溶けた水を突き進み電撃は当然ーーーー時雨の足を突き刺さし這い回る。
再び、自由を奪われる時雨。
そして、時雨の周りの水が、再び冷え固まり固体化した。
直後、莫大な運動エネルギーが時雨に上から襲い掛かった。
押し潰される感覚と共にバキバキと床が軋みと言う名の悲鳴を上げる。
直後、浮遊感に捕われた時雨に再び襲い掛かる超重力。周りの床が崩落していき、建物全体が崩壊の災禍に包まれ始めた。
床下に未だに超重力で押し付けられた時雨は、その災禍から逃れる術など持ち合わせてもいない。
影雪が時雨から足を離し、そのまま近くの壁に手を付いた。
まるでそれがキーだったかの様に、天井から瓦礫の雨が降り注ぐ。
当然、未だに脱出出来ていない時雨がどうなったかは、考えずとも容易に理解が可能だった。
破砕音の過激なリズムが鳴り止んだ頃に、雨ざらしとなった崩壊後の廃工場を見て影雪は一言呟く。
ーーー自業自得だ。
まるで、それがキーワードだったかの様に、
爆発するような音と共に一点の瓦礫達が四散する。
「……あぶねぇな。死ぬところだった」
その瓦礫の山から這い出てきたのはーーーー
「十橋……オマエ……」
「まだだ、まだ、終わってないぞ。風折」
十橋時雨だった。
時雨には、諦めるという選択肢は無い。
そしてその拳を握り締め、再び影雪に正面から挑む。
影雪はーーーー時雨の攻撃を受けず、寸前でかわし、そのままそのまま足を無造作に掴む。
次の瞬間、辺りの温度が急激に低下し、夏にしては寒すぎる程の気温となる。
なぜなら、影雪が熱エネルギーを奪ったからだ。
そして、影雪はその熱エネルギーを運動エネルギーに変換し、
「そんなに逝きてーなら………逝きやがれぇぇぇぇぇ!」
時雨を思い切り、明後日の方向に、全てのエネルギーを乗せて
投げた。
まるで、ハンマー投げで投げられたハンマーの様に、
野球で時折見かけるホームランの様に、
雨の降り注ぐ夜空に吸い込まれていった。
「……計算、あってるよな……」
影雪は、一人でボソリと呟き、時雨の飛んで行った方向目指して歩き始めた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.158 )
- 日時: 2016/08/06 06:33
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
平野平子はただの一般人であった。
しかしーーーー偶然が幾重にも重なり、少女はいつしか裏側に辿り着いてしまった。
そして、裏側を知った少女は。
もう、表の人間にはなれない。
理不尽な迄に一方通行の境界線。
片足を突っ込めば、そのまま全身が呑まれていく。
それが、この国の裏側。
〇
「ー私達と一緒に来んか?」
唐突なそのセリフに平子の頭は完全な迄に思考回路が凍結し始める。
そもそも、何故自分なのか。
これは、何を問う質問なのか。
そして、私は一体何をしたのか。
平子の頭の中を疑問達が駆け巡り軽いパニックを引き起こす。
「え?あれ?え?え?はい?」
混乱した状態で何とか返事をしようとするが、文が頭の中でミキサーにかけられたかの様にバラバラのぐちゃぐちゃになっていく平子の脳内。
「……済まぬ。おぬしには少々説明が足りんかった様じゃな」
未だに整理の付かない平子を前に、出雲悠は少々考え込んだ後、ポンと手を叩く。
「そうじゃな。まずは私達の実態を説明せねばならぬのう」
「実態?」
混乱した平子の頭が徐々にクリーンになっていき、思考回路が解凍されはじめた頃にようやく平子は返事らしい返事を返す。ただし言われた事を繰り返すだけの単調な言葉だが。
「私達は政府直属の所謂秘密組織じゃな。主に政府の要望に応じて活動をしておる。
組織名は『シャドウウォーカー』。影を歩く者。という意味じゃ。
私はそれの長を勤めておる。聖林寺は副長じゃな」
「ちょ、ちょっと待って下さいって訳ですよ!
な、何ですかそれ。政府の組織?シャドウウォーカー?意味と訳がわからないって訳ですよ!」
慌てた様な、焦る様な、そんな様子の平子は空気中に忙しく手を動かし身振り手振りでひたすらに『意味がわからない』とジェスチャーを繰り返している。
「出雲さん、相手は詰め込むだけでは理解してはくれないわよ。
平子ちゃん、貴女もただ理解で出来ないと喚くだけでは何も解決しないわ。理解しようとしなければ、理解なんでできるはずもないわ」
扉から一つの声が二人に投げ掛けられた。
音源にいたのは聖林寺。手にはボコボコにされた中野を引きずっている。
「理解……しようとしていない?」
「ええ、そうよ。
貴女は本当は分かっている。だけど目を逸らしている。
紛れも無い事実があるというのに、それをひたすらに見ないようにして、いつものように振る舞っている。
生憎だけど……そんな事をしたってもう貴女は【裏】に入り込んでしまったわ。
もう貴女は……普通の『表』の住人には……戻れないわ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.159 )
- 日時: 2016/08/07 07:15
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「……ごめんなさい、出雲さん。悪いけど平子ちゃんを借りるわよ」
「まあ、こういった説明は聖林寺の方が向いておるからのぉ。うむ、許可する」
「ありがとう。さ、平子ちゃん、付いてきて」
平子の手をとってその部屋を出ていく聖林寺。
平子はされるがままに連れていかれた。
頭の中で、先程の聖林寺の発言の事を考えながら。
〇
小さな部屋に連れていかれた平子。どうしていいのか、わからなかったが取り合えず目に付いた椅子に座る。その無遠慮さは我を失いそうになっている今も健在だった。
向かい側に聖林寺が平子に向き合うように座り、足を組んで平子に問い掛ける。
「まずは、何から聴きたいのかしら?」
何から、と言われても特に思い付かないなぁ……と思う平子に一つの疑問が頭に過ぎる。
「あの……紡美ちゃんは……どうなっちゃったって……訳ですか?」
その事を質問した時、一瞬だけ聖林寺が唇を強く噛んだ。
「……教えてあげましょう。古都紡美ちゃんは……能力者よ」
「ーーーーは?」
目を伏せながら放った聖林寺の言葉を平子は思わず声を上げてしまう。
「な、なんで……?」
「貴女、確か梅雨の事件に関わっているわよね?」
梅雨の事件。その言葉に平子は手を頭に当てて記憶を漁る。
「あーーーー」
そう、梅雨にあった事件となればあのことしか平子の頭には浮かび上がらなかった。
ーーーーかつて、里見甲人が黒髪を誘拐し、その脳を弄って無理矢理能力を発現させていた事件だ。
しかし、平子には未だに全貌が見えない。
そんな煮え切らない平子に多少なりとも苛立ちを覚えた聖林寺はもういいと言わんばかりに言葉を吐き出し始める。
「教えてあげましょう。古都紡美ちゃんはあの事件の被験者の中のーーーーたった一人の成功者よ」
かつて、平子は無理矢理能力を発現させられた人間を目撃した事がある。
そう、まるで操り人形の様だった。感情と呼べるものが器に入っていなかった。
まるで機械の様だった彼等と、喜怒哀楽に溢れた人間味のある紡美。
どう考えても、結び付かなかった。
でもーーーー。
「そして、発現した能力は[結果と選択を司る能力]。でも本人すら自覚が無かったから、国から通知が行くまで知らなかったみたい」
思い出されるのは、彼女の部屋に横たわっていた、武装した人間のーーーー死体。
考えてみれば、彼女の近くにも、また彼女自身にも、凶器と呼べるものは何一つ無かった。
そう考えるのなら、つじつまが合う。
紡美が何かしらの能力を持っているのなら、妙につじつまが合ってしまうのだ。
「平子ちゃん、少なくとも、これだけは言えることよ」
「貴女一人では、古都紡美ちゃんは救えない。
救うには、私達と手を組むしか無いのよ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.160 )
- 日時: 2016/08/08 06:47
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
平子は一人で頭を抱えていた。
もう、自分が何をしていいのか、何をするべきなのか、頭がぐしゃぐしゃになっていく感覚を覚える。
もう!と苛立たしげに机を叩く。バン!と大きな音の後の静寂が、無駄に虚しく平子の心を圧迫する。
頭をワシャワシャと掻き、少し崩れ気味だった髪型がボサボサになっていくが、平子はお構いなしだ。
「どうすれば……」
助けに行く?無理だ。私一人じゃ何もできない。
助けを求める?周りの人を巻き込んで被害を増やすだけ。
じゃあ聖林寺さん達に?私にはあんな世界にいる勇気は無い。
その事を考えて、ふと紡美が住んでいたアパートに幾つか転がっていたものを思い出す。
ーーーー焼け焦げた死体。
ーーーー撃ち殺された死体。
ーーーー砕かれた死体。
ーーーーそして、親友の近くに転がっていた、死体。
「あああああああああああああああああああああ!」
平子の絶叫が狭い部屋の中で反響する。
喉か痛くなる程に叫んだ平子はそのまま机に突っ伏してしまう。
ーーーーもう、ダメだ。私にはできない。こんなの無駄って訳だよ。
平子の心に徐々に諦めの感情が湧き出る。
それと、同時にーーーー平子の瞳から一つ、また一つの水玉が零れはじめた。
余りにも、酷だ。たかが普通の高校生には、重過ぎる問題だったのだ。
そして、何故こんなに自分が悩んでいるかという理由さえ、今の状況的には酷過ぎた。
ーーーー私が弱いから。
ーーーー私には時雨さんみたいな力は無いから。
ーーーーだから、紡美ちゃんも助けられなかった。
ーーーー今から救う事もできない。
自分の無力感に打ちのめされた平子は更に瞳から水玉を零す。
その涙を拭おうとポケットに入れてあったハンカチを取ろうとして、手が震えていてそのまま床に落としてしまう。
そんな事すらできない自分に、平子はまた鬱な感情を抱く。
ーーーーもう、いっそのことーーーー全部、全部、全部ーーーー諦めてしまおうかな。
そんな言葉が思い浮かんだ平子の頭を誰かが優しく撫でる。
え?とその手の先に視線を伸ばす。
「もう、一人で悩んで、そんなになっちゃ駄目じゃない。
相談してくれたって、良いでしょう?
確かに、【シャドウウォーカー】副長の聖林寺は貴女を絶望に突き落としたわ。
でもね、私はそんな貴女を、私として、個人として、見ていられないわ」
聖林寺だった。その顔は優しく彩られていて、平子は少しのゆとりが心にできた様に感じた。
「なん、で、ですか?」
涙ながらの平子の問いに、聖林寺は平子を正面から抱きしめて答える。
聖林寺に暖かい温もりを感じる平子。
「私はね、可能性が好きなの。
だから、その塊でもある子供達が大好きなの。
中でも、貴女は可能性に満ち溢れているわ。そんな貴女を、そんな可能性を、私は潰したくないの。
だから、辛かったら私が相談してあげる。悩みを聞いてあげる。励ましてあげる。慰めてあげる。
勿論変な事したりしたら怒るわよ。でもね、これだけは覚えておきなさい」
「私は貴女を見捨てない」
「ひじ、りんじざぁん!」
平子が聖林寺を強く抱きしめる。
まるで、赤子の様に。
「ひっぐ、えっく、ひじ、りんじ、さぁん!」
嗚咽を漏らしながら、自分の顔を聖林寺の胸に押し付ける。
そんな様子を見て聖林寺はニコニコと笑いながら頭を撫でる。
「あらあら、そんなに辛かったのね。よしよし」
〇
私は可能性が好き。
だって、環境や運等の要素次第では思いもよらない方向に伸びたり、期待以上の成長をしたり、面白いじゃない。
でも、可能性を潰すのは嫌い。
そんな芽を摘み取る真似は、私の前では許されない。
だからかしら。
ーーーー開花しそうな、だけど折れそうな、潰れそうな可能性を見て、助けたくなったのは。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.161 )
- 日時: 2016/08/09 08:07
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
少し前は聖林寺さんの三人称での表記は「五音」でしたが、最近は「聖林寺」にしています。
「それで、結論は出たの?」
聖林寺が平子に問いかける。
平子は明確な、強い意志を持って答える。
「はい」
「そう、それで、どうするのかしら?」
「私はーーーー」
〇
「ただいまー」
と、言っても家の中からは誰も返事をしない。
胸を撫で下ろす平子。玄関を上がり真っ直ぐ自分の部屋を目指す。
引き出しから自分の服を取り出し、そのままシャワールームへ向かう。
「ふぅ」
約一日ぶりに浴びたシャワーはとても気持ち良いいなぁ。と感想を抱く平子。
雨に打たれて凍えていた身体も温めたいのだが、身体の前に髪を洗わなければならない。
平子の場合まず髪を洗うのだが、これがまた面倒である。
まず髪をクシでとかしてから水で濡らす。髪が長いのでこれがまた結構面倒だったりする。
シャンプーをよく泡立ててから、頭皮をマッサージするかの様に馴染ませて髪を丁寧に洗っていく。いつもの平子からは考えられない様に丁寧にだ。
再びシャワーでシャンプーの泡を流し、髪のぬめりが無くなるまで続ける。
身体をボディーソープで洗い、その泡をシャワーで流す。身体を擦ると滑る様な音がしたことに平子は若干のどや顔をした。
その後もシャワーを浴びていた。その間少し考え事をしながら。
〇
「シャドウウォーカーへのお誘い……断ります」
「ふーん、じゃあ紡美ちゃんは諦めるのかしら?」
「私、考えてみたんです。仮に、私を助けるために紡美ちゃんが、こんな腐った世界に入ったら、多分私は罪悪感で押し潰されそうになると思うって訳ですよ。
だから私は、シャドウウォーカーの力は借りません」
「……全く、その腐った世界とやらの住人の前でそんなこと言わないの。
わかったわ。貴女が【シャドウウォーカー】に入る気は無いことを出雲さんに伝えておくわね」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあさっさと行きましょう」
「ほぇ?」
「だって貴女、面白いんだもの。まさか断るなんて思いもしなかったわ。
やっぱり貴女は可能性に満ち溢れてる。
そんな貴女を私はむざむざ死なせたくないのよ」
〇
濃い藍色のブラウスに水色の短パン、白いベルトに白ニーソックスに着替えた平子は部屋の中で準備をする。
とは言っても、平子が持って行くのは今平子が手にしているスタンバトンだけなのだが。
因みにこのスタンバトン。結構高性能なギミックがある。
例えば、今まで説明していなかったスタンガン機能。これはスイッチを入れるとスタンバトンの打撃部分に電流が流れるという機能だ。
スタンバトンバトンを収縮させてスカートのポケットに突っ込む平子。
自分の部屋からキッチンへと向かい、そこの引き出しに入っていたカロリーメイトを数箱取り出してビニール袋に下げ、玄関へと戻る平子。
と、そこである人物に鉢合わせした。
「父さん……」
「こんな時間にお出かけって訳か?平子」
平子の父、平野平治郎だ。
平子は目を逸らす。今から危険な場所に足を突っ込もうとしているのだ。親である平治郎が止めないはずが無い。
「父さん、私、行ってくる」
「流石にこんな時間に出かけるのはおかしいって訳だぞ。平子、戻りなさいって訳だ」
平子がごまかそうとしても、平治郎はそれを良しとせず、頑なに通そうとしない。
しかし平子も諦めはしない。じっと平治郎の目を真っ直ぐに見つめ続ける。
そんな平子に根負けした平治郎はため息をついて家のドアを開ける。
「お父さん、用事ができたって訳だ」
そのまま平治郎は何処かへ行ってしまう。実はこれは平子の様子の原因を知るために中央エリア元首、織宮織香の元へ向かっていた。
「……ありがとうって訳だよ、父さん」
平子は家の鍵を閉めて、約束の場所へと向かった。
聖林寺との、待ち合わせ場所に。
〇
カロリーメイトをモキュモキュと食べ、傘を差しながら歩いている平子の視界に一つの人影が映り込む。
コバルトブルーの髪が風に吹かれて揺れていた。雨が降っているが、その人影に傘を差す様子は無かった。
なぜなら上に薄青色のガラスの様な壁ーーーー障壁が雨粒が入ってこない様にしているからだ。
「あら、来たのね」
「はい」
「じゃあ、行きましょうか」
聖林寺がポケットから取り出したのは鍵。
平子が何の鍵か聞こうとした時、聖林寺が近くに止まっていた軽自動車な鍵をボタン操作で解除した。聖林寺に手招きされるがままに乗り込む。
平子は知らない車内に座りながら、窓の外に広がる雨模様を見つめていた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.162 )
- 日時: 2016/08/09 18:26
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「見えて来たわよ」
聖林寺のその言葉に平子は少々眠たげに目を擦って前方を見る。
「ハッカーから貰った情報によると……あの真っ黒いビルね」
「……あのビルだったんですね」
通称黒ビル。かつて平子が紡美と共に見に行った建造物である。
聖林寺が平子にシートベルトをするように促す。平子は少々の疑問を抱きながらもそれに同意しシートベルトをかける。
「うーん、やっぱり警備が厚いわ。
それだけ、古都紡美ちゃんを渡したく無いのかしら」
聖林寺はいつの間にか双眼鏡を覗き込んでいた。自動車は信号待ちなので事故にはならない。
信号が青に変わったので双眼鏡を平子に手渡す。それを覗き込んだ平子は「……わー」と少し絶望気味に呟く。
実際、警備の人数が信じられない。
まるで宗教団体だ。100人は下らない人々が黒ビルの敷地内から敷地周辺をくまなく警備している。
ーーーーあんな、危険なものを相手にするのかぁ………。
平子の心臓がバクバクと音を鳴らし始める。警報するかの様なその音に平子は段々と手が震え始めていた。
ふと手に湿り気を覚えたと思えば、手汗が尋常では無いほど湧いていた。
段々と呼吸が苦しくなっていく。酸素を吸っている心地がしない平子が少しずつ顔色を悪い方向へ変えていく。
「まぁまぁ、そんなに緊張しなくてもいいのよ」
そんな慰めの言葉の直後に平子は謎の違和感を覚えた。
違和感というか、変な感触を覚えた。
聖林寺の方を向くと聖林寺の右腕はハンドルに、左手はーーーー平子の胸に伸びていて、平子の胸を掴んでいる。というか揉んでいる。
「ふふん♪手の平に丁度よく収まるわね♪Cカップ辺りかしら?」
ニヤニヤとしたその顔と、容赦なく胸を揉む聖林寺に平子はたまらず叫ぶ。
「せ、セクハラぁっ!」
聖林寺の手を振り払って羞恥に顔を染める平子。そんな平子を見て聖林寺は「いじりがいがあるわね〜♪」とニコニコとした笑みを浮かべる。
「ひ、聖林寺さん?」
「冗談よ。貴女、緊張で様子がおかしかったもの。だから、ね」
まともな人モードに戻った聖林寺を見て平子はほっと息を吐く。
「でも平子ちゃんの胸は柔らかいわね〜♪」
「聖林寺さん!」
〇
「本当に……見た目は我が子とそっくりって訳ですな……。
織宮さん、じっくりと話を聞かせて貰いましょうかな?」
むぅ。やっぱり実の娘と殆ど同じ容姿だとマズイわよねぇ。
少しの間黙り込んでしまう私を更に怪しむ平治郎さん。
あ、一応伝えておかないと。
「言っておきますが、この子を造ったのは私じゃないわよ?」
「マスター、先程からお客様とマスターの会話の内容が不明瞭です。
確かに私はマスターの手によって生み出された個体ではありませんが」
平治郎さんは少し考えるように顎に手を付ける。
しばらくした後、平治郎さんは彼女に声をかける。
「大変失礼という訳だけどお嬢ちゃん。名前を教えてくれないかな?」
彼女はこちらに目線を向ける。どうやら私に教えてもいいかと許可をとっているらしい。別に許可しない理由も無いので首を縦に振る。
「私の名前は平雨平瀬です。以後お見知り置きを」
〇
段々と黒ビルが近づいてきた。もう双眼鏡はいらないので適当な場所に置く平子。
そしてもうすぐ降りるだろうとシートベルトを外そうとして、聖林寺に止められる。
「危ないわよ。ちゃんと付けておきなさい」
「え?もうすぐ降りるんじゃ……」
その平子の当たり前の事を聞く問いに聖林寺は全く違う答えを持って回答した。
「このまま突っ込むわ」
平子が数秒間黙る。思考が一瞬だけフリーズしている。
か、それもすぐに解け、平子が説得を試みようとーーーー。
「今から私の車を障壁で囲うわ!でも衝撃は来るから備えてなさい!」
聖林寺のマジな声に掻き消され、一秒後にはエンジンが唸りを上げて車を加速させる。
そして、目の前に敷地を囲うフェンスが現れたと同時に、車の目の前にガラスの薄青色の壁ーーーー障壁が現れ派手にフェンスを破る。
その音に、警備していた人間達が気付かない訳がない。
能力や銃弾。爆弾さえ投げ込まれたが、聖林寺の障壁が周りに張られあらゆる攻撃を弾く。
「……作戦変更ね。平子ちゃん、貴女が単独でビルに乗り込みなさい」
「……わかりましたけど……いつ?」
「とにかく、私に凄いことがあるまでこの車に隠れてなさい。凄いことがあったら、全力で入口まで走るのよ。後は貴女に任せるわ。それとこれ」
ガシャ。と平子に差し出されたのはーーーー黒光りする拳銃。
「使え。とは言わないわ。ただ、それ脅し目的なら大分使えるわよ。あ、安全装置は外してないから。……じゃ、後頼むわよ!」
平子が受け取ったのを確認すると、聖林寺は急ブレーキをかけて車内を飛び出す。
地面に擦れる直前で、地面と自分の間に障壁を作り出しダメージを防ぐ。
ーーーーまだ、だよね。
平子は車内からこっそりひっそり聖林寺を見つめている。
聖林寺は思いのほか高い身体能力で敷地の中心へと走っていく。そこは駐車場だ。
敵の能力者が聖林寺を邪魔せんと踊り出るが、聖林寺は容赦なく障壁で作り出した槍で貫く。
ーーーーまだ。
連なる銃声が鳴り、銃弾が連射銃やマシンガンによってばらまかれる。
が、聖林寺を囲う立方体状の障壁にはやはり通じない。
そして、聖林寺が敷地の中央の駐車場にたどり着く。
聖林寺は障壁を全て解き、深呼吸をして高らかにこう叫んだ。
「【王城防壁】!」
〇
超能力とは、創造力ーーーー想像力から成り立っている。
言ってしまえば、人の想像力から超常現象を引き起こしている。
聖林寺が叫んだ言葉。【王城防壁】これは決して中二病的な心からきたものではない。
聖林寺は想像力を更に高める為に、言葉という『実際にあるもの』をトリガーとして更に具体的な想像をした。
普通の能力者程度なら、少し威力や範囲が上がるだけだ。
だか、もしそれを、殆ど尽きる事は無い創造力と、最高スペックを持つ能力者が行ったとすれば。
それの生み出す効果は、計り知れない。
〇
聖林寺が高らかに叫びを上げた次の瞬間、聖林寺を中心に障壁が広がっていく。
その範囲内に入っていた人間や物体は全て押し出された。
が、変化はそれだけでは留まらない。
更に障壁が何十枚として生成され、それらが一枚のパーツとしてまた一枚、また一枚と重ねられていく。
そしてその積み重ねられた障壁はーーーーいつしか巨大なーーーー城となっていた。
勿論、大きさは実際の城ほどでは無いが、そこら辺の住居を軽々と追い越す程には巨大だった。
ーーーーこれだ!これしか無い!
殆どの敵が聖林寺の作り出した障壁の城に釘付けになっている間に、平子は入口へと駆け込む。
ドアを開けると、ホテルのロビーを思い出させる光景が広がっていたーーーー二人の存在を除けば。
「………オイオイ、中々やんじゃん白髪JK。あの包囲網を突破するとかよぉ」
右腕が肘まで機械質の六角柱に侵食されたサイボーグの一人ーーーー燃焼者が感心した様に声を上げ、口笛を吹く。
だが、平子には燃焼者は余り意識されていなかった。勿論、しっかり認識はされているが、平子には驚きの人物がそこにいた。
「……ホンっト。アンタには良い意味でも悪い意味でも驚かされるよ。平子」
ーーーーネズミ色のレディーススーツ。出会った頃と同じ服装。
そのブロンドヘアーは会った時よりも少し伸びていた。
そのサルファーイエローの瞳は、何処か悲しげにこちらを見ている。
「……ジーナ、さん……」
ハリック・ジーナ。彼女はDHAに雇われた能力者としてその場に立っていた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.163 )
- 日時: 2016/08/10 19:05
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
平子が一歩、ジーナに歩み寄る。
それだけで、たったそれだけの行為で、ジーナは拳銃を引き抜き平子に照準を合わせた。無論、安全装置は外されている。
「動かないでくんない?」
素っ気なく言い放たれたジーナの一言。
平子がそのジーナの反応に対して歯がみする。
平子はジーナが居る可能性を想定しないなかった訳では無い。彼女への対策も考えていた。
しかし、平子としては余り使いたくも無い対策だった。穴だらけも良いところ。完全に一か八かの運任せだからだ。
「……ジーナさん」
「何?アタシ、警告したんだけど?それを無視しておいて命乞いなんて真似は許さないよ」
「……覚えてますよね。私とジーナさんの約束」
平子がジーナにできる。唯一の対抗策。
それはーーーー過去の約束を使う事だった。
守るなんて確証は無い。覚えている確証も無い。そんな穴だらけのズタボロの作戦。
平子は最早、それに頼るしか無かった。
『国はアンタに対して特にお詫び的な事はしないんだよ。アタシにもやっぱ申し訳ない的な思いはあるからさ、アタシにできる範囲でアンタの言うこと三つだけ聞いてあげるよ』
過去のジーナが放った台詞。
平子は、二度の質問をした。
一回目は、能力について教えて。というお願い。
二回目は、友達になって。というお願い。
三回目はーーーー未だに行使されていない。
「お願いします。ジーナさん。私に……ついて下さいって訳ですよ。
約束……守って下さいって……訳ですよ」
平子が、すがるような声でジーナに三回目の願いを言う。
しかし、平子の思いとは裏腹にーーーー。
「アンタ……馬鹿だね」
ジーナは、平子の願いを聞いた上でそう吐き捨てた。
「そんな口先だけの約束。アタシが守るって理由でもあった?覚えてる理由でもあった?
無いじゃん。本当にアンタ……馬鹿だよ」
俯く平子にジーナが再び標準を合わせ、確実に頭を穿つように狙いを定める。
実際のところジーナは拳銃の扱いを得手としないが、流石に10m程の距離で完全に外しはしないだろう。
そして、ジーナが拳銃のトリガーにかかった指に、力を込め、こう呟く。
「馬鹿だよアンタ。本当に…………」
「本当に…………面白いヤツだねぇ!」
ジーナが喋り終わったと思えば、突如体を180度入れ替え燃焼者に向かってトリガーを絞った。
火薬が炸裂する音が響き、連なるように銃弾を弾く音が追い掛ける。
ジーナの放った銃弾は、燃焼者の機械筒に当たり何処かに跳弾して行く。
「……え?」
「そんな俯くんじゃないよ。折角このハリック・ジーナが味方してやるって言ってんのに」
平子に対して背を向けているジーナの顔は平子には見えない。
ただ、平子に見えたのはーーーーニヤリと歪んだ唇だけだ。
「でも……ただ口約束って……」
「そんなただの口約束を、わざわざアタシを信用して、本気で信じてる。
うん、すっごい馬鹿。正直すぎだよアンタ。でも……それだからアンタは面白い!」
珍しく興奮した様子で語るジーナ。
そんなジーナを目の前にして燃焼者は頭に手を当ててけだるげに呟く。
「オイオイオイ、前金受け取った上に寝返りとか質悪すぎだろお前」
「悪いね。アタシはそんなのより面白い方に寄っちゃうんだよ」
「ああもうめんどくせぇ。タバコの火の恩を忘れたかよ?」
「心配しないで良いよ。死ぬときは一思いに楽にさせるから」
「恩を仇で返そうとしてやがるコイツ」
そんな一通りのやり取りを済ませている中、ジーナが階段を指差した。
「さっさと行きな。このチャラチャラサイボーグはアタシが引き受けてあげるから」
チャラチャラサイボーグと呼ばれた燃焼者は頭に青筋を浮かべて露骨に怒りを表す。だがジーナはどこ吹く風で相手にしない。
「……ありがとうございます。ジーナさん」
「守谷仁奈」
「え?」
「アンタには特別に教えてあげるよ。アタシの本名。
アタシの本名は守谷仁奈だよ」
平子は驚く。
今まで頑なに本名を喋ろうとしなかったジーナが、自ら本名を名乗ったのだ。
「……ありがとうございました。仁奈さん」
平子は走り出す。
その遠くなっていく背中を見てジーナは呟く。
「……羨ましいねぇ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.164 )
- 日時: 2016/08/14 22:12
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「ハリック・ジーナ、てめぇ俺に勝てる自信でもあんのかよ?」
多少怒りを含んだ声で燃焼者がジーナに問い掛ける。
ジーナはやれやれと言った様子でため息を吐く。
「馬鹿?アタシは勝率の無い賭けはやんないの。わかる?」
小馬鹿にした様な態度の裏腹にジーナはかなり焦っている。
ーーーーさて、どうしたものかね。
燃焼者は「そうかいそうかい」と愚痴気味に零してその機械的な六角柱をジーナに向ける。その機械筒からは熱気が溢れており、今にも噴火しそうな火山の様だ。
対してジーナはレディーススーツを一枚脱ぎそれをまるで闘牛士の様に自分の前に構えた。カッターシャツ姿になったジーナに向けて燃焼者は一言。
「じゃ、消し炭な」
その言葉と殆ど同時に燃焼者の機械筒が噴火した様に火炎を放射する。
が、鍵を閉める様な音と共にジーナの構えたレディーススーツにダイヤ柄の南京錠が掛かり、その火炎を完全に防ぎ弾く。ジーナが掛けた『錠』の素材は、ジーナの指と指に挟まれている球体ーーーー白金。
その炎が途絶えた時、ジーナの右腕が振るわれ燃焼者の元に一つの物体が放り込まれる。
「やべ」
その声は、ジーナには聞こえ無かった。
なぜなら、たった今爆裂した手榴弾の爆裂音により掻き消されてしまったからだ。
爆発が予想以上に大きく、煙で全く燃焼者が視界に映らないジーナ。
それどころか煙がこちらにまで流れて来るので少々視界が曇る。
「モード、ブラスター」
そこに燃焼者の声が届き、ジーナがそれを耳にしたとき、既に燃焼者が猛スピードで煙を突っ切りながら接近していた。
ジーナが今更避けることも、『錠』の種類を変える事も間に合わないと覚った時、既に燃焼者の機械筒が、あたかもバットのスイングの様に振るわれ、ジーナの腹部に吸い込まれた。
空気を吐き出しながらジーナが吹き飛ぶ。燃焼者の攻撃は白金の『錠』で防げる程の生半可な攻撃では無かった。
壁に当たる前に床に擦れ、摩擦力によって停止した。
「……やってくれるね」
ジーナが腹部に手を当てながら、フラフラと立ち上がった。
が、ジーナの持っていたレディーススーツが割れる様な音と共にバラバラに玉砕した。
どうやら『錠』が破壊されたようだ。ジーナは少しの間、能力を封じられてしまった。
ジーナの能力はジーナ自身が『錠』を解除した場合は連続して使えるが、相手が破壊した場合は暫くの間、『錠』を掛けられない。即ちーーーー能力が封じられる。
「諦めた方がいいんじゃね?もうテメェの能力は使えねえ。能力あってのハリック・ジーナだろ」
その言い方に表情をほぼ変えず、内面で歯がみするジーナ。
ーーーーそうだねぇ。アタシは能力が無けりゃただのカースト下位だったし。
と、またもや燃焼者が突っ込んでくる。
先程はよく見えなかったが、よく見れば燃焼者は自らの火炎放射をジェットの様にして爆発的な加速を得ている様だ。その機械筒から吐き出される火炎も、先程の様な纏まりの無いものでは無く、収束されていて加速に向く形になっている。
ーーーーじゃあさっきの声はモード変更的なアレ?
ジーナがそんな事を考えながら、再び振るわれた機械筒をギリギリのところで回避した。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.165 )
- 日時: 2016/08/15 09:30
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
ーーーーでもこのままじゃジリ貧だね。取り合えず能力が戻るまでは避け続けるしか無い。だけどこれ……マズイね。
ジーナが気にしているのは先程、重量は10kgは下らない重量の金属製の機械筒で撲られた腹部だ。先程から激痛が激しくもしかしたら内蔵が幾つか逝っているかも知れない。
ジーナの表情が焦燥に駆られた表情に変わる。
ジーナがポケットに突っ込んでいた拳銃を引き抜き燃焼者に向けて発射。
激発された銃弾が爆裂音に遅れて発射された。
しかし、ジーナの銃の腕前は素人に毛が生えた程度でしかない。止まっているものにすら当たらない事が多い、その腕前で動き回る燃焼者に当てよう等と無謀もいいところだ。
突如、爆発音。
燃焼者が、自分の腕を侵食している機械筒をジェットの様に後ろに回して爆発的な加速を以ってジーナへと接近する。
再び回避しようとバックステップをとるジーナ。が、燃焼者の鋭い蹴りが腹部を貫く頃には既に再び吹き飛ばされていた。
激突する音と共に壁に打ち付けられたジーナ。激突と同時に肺に詰まっていた空気を吐き出してしまう。ポケットからはビー玉の様な球体達がゴロゴロと地面を転がっていく。
あの球体達はジーナの能力のいわば核だ。球体の素材は鉄、銀、クロム、ガラス、炭、木、中にはタングステン等もあった。
ジーナはそれらから能力の『錠』の素材を選んでいたのだ。そしてあれが無ければ、ジーナの能力はまともに機能しない。
吐き出してしまった空気の補填に、急いで酸素を吸い込む。
受けたダメージにより、カッターシャツがグロテクスな色に滲む。
何か口の中に鉄の風味のするドロドロとしたものを感じ、ジーナが嫌悪感を覚えて吐き出す。
吐き出されたもの。それはーーーー血。
「……やっばいなぁ」
「だから俺言ったじゃん?さっさと諦めろよって」
その壁に寄り掛かり床にへたり込むジーナに向けて、10m程の距離を開けて燃焼者が頭を掻きながら小馬鹿にする様に言う。
「悪いねぇ。一応、最後に勝つのは多分私なんだけど」
「相変わらず減らず口だなテメェ。じゃあさっさと消し炭になれ」
燃焼者が機械筒をジーナに構える。筒の内部が赤い光りを徐々に強めていき、次第に熱が発っせられ始める。
一方ジーナに攻撃手段は無い。銃は先程の攻撃で床に落としてしまった。一応持っているサバイバルナイフを投げようにも、そんな曲芸師の様な特技など持ち合わせていない。
と、ここで今更『錠』を掛ける事ができる様になったジーナ。が、ジーナのポケットに球体達は存在しない。つまりーーーー『錠』を作る物質が無い。
そして、その絶望的な状況下、燃焼者の劫火が容赦無くジーナに襲い掛かるーーーー筈だった。
しかし、
次の瞬間、
起こった現象は、
ーーーー爆発だった。
ーーーー爆発したのはーーーー燃焼者の機械筒そのもの。
大爆発により辺りに轟音と爆風が撒き散らされ、辺りのものを構わず吹き飛ばす。
元々壁に寄り掛かっていたジーナは爆発による爆風で吹き飛ばされる事は無い。
爆風が止んだ頃。ジーナがふらりふらりと酔っ払いの様に立ち上がり、そのおぼつかない足取りで、爆発地点の中心へと向かう。
「テメェ……なにしやがった……」
そこにいたのはーーーー右腕は勿論、右半身に深刻なダメージを受けたーーーー燃焼者だ。
「アタシの能力は、『生物』には掛けられないっつールールがある。だけどさぁ……アンタの火炎放射してたアレ……どう見ても『非生物』じゃん?だったらアタシの能力の守備範囲だ。
んで、単にアンタの火炎放射機にこれの『錠』を掛けただけ」
ジーナが『錠』を掛けたのは、燃焼者本人ではなくーーーー燃焼者の機械筒。つまりは『非生物』。
ジーナがこれと指すのは小さく切られたーーーー紙。
「そりゃ紙の素材であんなエネルギーぶっぱしようとしたら、爆発するのは当たり前っちゃ当たり前だよ?」
「……チッ」
「なんかもう少し悪役の捨て台詞吐いてもいいんじゃない?なんか意外とすっぱり諦めるねアンタ」
「……俺は元々死んでる身、プロフェッサーの元で死ねるなら後悔はねぇ」
「そっか。じゃ、約束通り一思いに死なせてあげる。なんか遺言とかある?」
「……くたばれ貧乳」
「死にな」
激しい音。打ち出される銃弾。貫かれるのは燃焼者の頭。
血が吹き出し、短い声の後、燃焼者はピタリと動かなくなった。
そんな燃焼者の死体にジーナはさっさと顔を背け、出口に向かってフラフラと歩み始めた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.166 )
- 日時: 2016/08/16 01:40
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
平野平子はただ浸すらに探し続けた。
救い出すべき友人を。
必死となって探す。が、未だに紡美の姿すら見えない。
ドアを乱暴に開けては、誰も居ないと開けっ放しにして別の部屋を探す。その繰り返しをしている内に二階、三階はもぬけの殻だと言うことが判明した。
多少体力に余裕の無さを感じつつも階段を駆け上がる平子。その表情は必死そのものだ。
階段を上り終わると一つの大部屋に当たった。そこのドアを意を決して開く。
中には誰も居なかった。ただ、真ん中にパイプ椅子が置いてあり、そこには小説が一冊置かれている。
平子は友人の影も形も無かった為にその部屋から退出しようとするーーーーが、そのドアが突如として、平子が振り返った瞬間にバタンと閉じる。
急いでドアに駆け寄るものの、そのドアは電子ロックが掛かっている様子も無いのに、開かないどころか、びくともしないのだ。本当に1ミリも動かないとはこの事だ。
「初めまして」
背後から迫ったその声を耳に入れた平子が振り返る。
振り返った先には、先ほどは誰も座っていなかったはずの椅子に、一人の女性が座っていた。
上から、白く、段々と青に染まるという珍しいグラデーションの長い髪を肩甲骨のした辺りで大きなリボンで纏めた髪型。
ブレザーによく似た服に黄緑色のプリーツスカート、スカートの下にチラチラと除くのは太もも辺りに付けられた黒い結束バンド。
首からは金色の鎖の付いた懐中時計が吊されている。
体の凹凸はそこそこあり、スレンダーと言うよりは健康的な肉付きだ。
その女性ーーーー黄昏雅は紫色の瞳を閉じたまま、平子に話し掛ける。
「私は黄昏雅、DHAに雇われた能力者。つまり、貴女の敵です」
そしてその瞳を閉じたまま、雅が指を鳴らした。
平子がその音を聞き取った時、平子は足に違和感を覚えた。
そのまま足元を見ると一本のロープが足首に巻き付いていた。解こうと思ったとき、それが引っ張られる。そしてそのまま引きずられる平子。
平子が急な困惑している間にも、足に巻き付くロープが平子を徐々に宙吊りにしていく。
見れば、まるで台車の様にロープが天井のパイプに掛けられていた。そんなもの、先程までは見当たらなかったと平子は余計に困惑するが、今はそれどころではない。
平子は今、絶賛宙吊りにされていてもはやいつどこから攻撃されてもおかしくない。
せめてその原因である右足に絡み付くロープを切断できたら良いのだが、平子にはそんな腕力は無い。
「あらあら、もう終わりですか?手間のかからない、良い子です」
ロープは重そうな機材にいつの間にかくくり付けられていて、雅はただ椅子に座って眺めているだけだ。
視界が逆さまになっている平子は成す統べも無い。
取り合えず、ロープを外そうと懸命に体を揺らしてみるが、ロープはむしろ右足首に食い込むだけでむしろ悪化した。ついでに言うなら大分揺れるので平子は少し酔った感覚を覚えた。
「大した事無いですね」
再び、指を鳴らした雅。
次に平子に訪れたのは、刺激的な爆発音と共に押し寄せる熱風だった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.167 )
- 日時: 2016/08/16 17:57
- 名前: siyaruden (ID: T/Qtp4km)
参照4000回突破しました!おめでとうございます!
これからも私はこの小説を応援していきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします
それと4000回記念とかはやるんですかね?
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.168 )
- 日時: 2016/08/16 18:44
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
siyarudenさんどうもです。
4000回記念?いやその前に3000回記念と3500回記念やってねぇ……(汗)
今の章が終わってからにします。夏休み中にこの章終わらせたい。
お楽しみに。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.169 )
- 日時: 2016/08/17 16:01
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「あれ〜?風間っちくん後輩くん?
ねーねー、春樹ちくん後輩くん、ど〜ゆ〜こと〜?」
特殊警察医務部総長であるーーーーはずの立待月早夜の言葉に風間はむしろ何故お前がここにいるんだと問いたくなった。
風間が口を開く前にその問いに答えるのはビニール傘を差す春樹。
「おや?二人は知り合い……いえ、考えてみれば特殊警察の所属は違えど接点はありましたね。失礼。
早夜さん、風間くんは私の妹を救うために非合法のハッカーに頼んで拠点の位置を割り出しました。しかし、その事を上手く上層部に流せる人材がおらず、風間くんは致し方なく私に協力を申し出てきたのです」
その発言に一番過剰に反応したのは風間だ。
なにせ、秘密にしたかったからこそ、春樹に協力を申し出たと言うのに、それを医務部総長という位置付けの、早夜に教えてどうするのか。
風間が、雨に打たれて濡れたわけでも無い頭に、多少の塩分の含んだ汗を浮かばせる。
が、予想と反して帰ってきた反応は、風間の肩をバンバンと叩いて「やるね〜、風間っちくん後輩くん」と言うだけだった。
「安心して下さい」
ニッコリとした笑みを顔に張り付け、風間に言い放つ。
「私達は既に『裏』の人間です」
『裏』の人間。その言葉は風間に多少の、疑念を浮かばせるには十分過ぎた。
特殊警察の、中々高い位置付けにまで、その『裏』の人間とやらが入り込んでいるのならーーーー特殊警察は本当に『正義』なのか?と。
そんなここで考えても無駄な事を風間は考える。降り続ける雨と多少の暗がりのせいで、考えが少しネガティブになっているのか、と自分でもよくわからない脳内結論を無理矢理下して、その考えを捨てる風間。
「ていうかさ〜、早く行った方が良いんじゃないのー?
仮に春樹ちくん後輩くんの妹がまた操られたりしちゃったら大変だよー?」
あくびをしながらの台詞。確かに今はそこそこ遅い時間だか、緊張感ないやつだな。と風間は勝手な感想を抱いた。
「確かに、それは正論ですね。
秋樹を操るなんて真似をした者には当然ながら鉄槌を下しますので」
安定のシスコンを発揮する春樹。……本当に天澤の事が好きなんだな。と風間は他の人に言えないような感想を抱いた。
「……要するに、アンタ達は俺の味方なんだな?」
歩みを始めた二人の背中に問いかける風間。
二人はそれぞれのタイミングで、バラバラの返答をした。
「ええ、貴女が秋樹の大切な人な限りは」
「味方だよ〜。私、先輩だから〜」
〇
「……何が起こっている」
風間の思わず口から漏れたような言葉。
それも無理は無い。
御手洗の情報によると、風間の家(仮設住宅の、である)の家からは、そこまで遠くなかった為に徒歩で来たのだが、いざ敷地の付近に来てみれば、そこには青白いガラスのような者でできた大きな物体ーーーー言わばミニサイズの城があった。
「ありゃー?なんで【王城防壁】なんてものがここにあるのかなー?」
「……ふむ、これは【シャドウウォーカー】もこの一連に関わっている、と考えるべきですかね」
二人はどうやらアレに見覚えがあるようで各々勝手な独り言を垂れ流している。
風間からすれば、何故あの城のようなものが建っているのか以前に、何故周りの奴らはそれを攻撃するのかの方が疑問であった。
「しかしこれはチャンスです。
さっさと裏口から突入しましょうか」
〇
「……やはり裏口にも警備はついているか……」
風間が影から覗いただけでも見つけたのは4人。少なくとも8人程度はいるだろう。
「では、ここから狙ってみます」
春樹が傘を閉じ、そのまま濡れたアスファルトに手を付ける。
すると次の瞬間、警備していた一人の足元から何かが飛び出すのがわかった。
その飛び出した紐状のものが、警備していた一人の腕を絡めとり、そのまま地面に這い着くばらせる。だけでは飽き足らず、更に数本の何かが飛び出て、アスファルトとその人間を縫い合わせていく。
そして、その何かが動かなくなったとき、それの招待が判明した。
ーーーー鎖だ。鎖が警備の人間を強制的に、地面に拘束しているのだ。
他の人間がそれに気がつき、拘束された人間へと駆け寄る。
ーーーーそして駆け寄った人間の足が鎖に絡め取られた。
「早夜さん、お願いします」
「りょ〜か〜い」
ぴょんぴょんと跳ねるようにして、素早く足の動かせない人間に接近するのは、小さめのツインテールを激しく揺らす早夜。
蹴りの姿勢に入った直前、早夜の足に光りと共にバジジという音が流れる。
そして、蹴りを入れたとき、その足は強力な電撃に包まれていた。
激しいスパークが起こり、蹴りを入れられた人間が吹き飛ぶ。案の定、それは動かなくなった。
「撃て!」
どこからともなく聞こえたセリフに一同が早夜に攻撃の姿勢をとる。
突如、火薬の炸裂した音と共に一人の人間が、頭から血を吹き出し、糸が切れた様マリオネットのように倒れる。
「……よそ見とはいい度胸だ」
その銃を発砲したのは、風間。
風間は銃を構え、再びその銃弾を放った。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.170 )
- 日時: 2016/08/18 15:52
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「ん〜、これで最後かなー?」
早夜が手をかざす先には、巨大な水の塊が、空中で敵を包み込んでいた。
敵はもがき苦しむものの、どうやら脱出できないような水の流れになっているらしく、気泡を吐きながら悪あがきを続けている。
「ええ、それで最後です」
それに答えた春樹の足元には、何人かの人間が、アスファルトに強制的に這い着くばらされていた。
その姿勢を強制させているのは、春樹の足元から出現している十数本は下らない、アスファルトに似た色のグレーの鎖。
「……さっさと行くか」
そんなものには目もくれずにスタスタと歩き出したのは、防弾制服にべっとりと返り血を浴びた風間。手には数個程弾丸を放った、実弾銃が握られている。
それについていく二人。
「ところで、アンタ達の能力はなんだ?」
風間のふとした発言に、「はいはいは〜い」と手を挙げるのは早夜。
風間が少し、というかがっつり面倒臭そうな顔を向けると、早夜がシュンと俯いて、目に水を溜めはじめる。
「いや、その、なんだ、早夜先輩の能力はなんなんだ?」
わざとらしく『先輩』の部分を強調した風間には、相当な気遣いが目に見てえていた。恐らく、以前泣き喚かれた事が未だに記憶に残っていたのだろう。
『先輩』という単語の響きに、いつも子供扱いされている早夜は、強く満ち足りた気分になった。その満ち足りて幸せな気分のまま、早夜は無い胸を張って自慢げに話す。
「早夜っちゃん先輩ちゃんの能力はね〜、[電気を操る能力]と[H2O(エイチツーオー)を操る能力]だよ〜。凄いー?凄いでしょー?」
キラキラとした期待の眼差しに風間が「凄いな」と表面上の感想を返した。
そのことに、再び気分の良くなった早夜がパァッと笑顔を風間に向けた。
正直、風間としては面倒臭いと思うが、実際に操る能力を、二つも持っているんだ、凄い事は凄いか。と自分を納得させる。
ーーーーしかし、何故[水を操る能力]ではなく[H2Oを操る能力]なんて言い回しなんだ?
「春樹さん、アンタの能力は?」
「私の能力ですか。言うなれば……[鎖を操る能力]でしょうかね。
触れている物体を素材とした鎖を上限まで生成することが可能です。勿論、能力を解くと雲散してしまいますが」
〇
「そこの人間三人、停止を要求します」
「…………当然だな。中に居ない訳が無い」
裏口専用玄関から侵入した風間率いる三人は、その中にいた人間ーーーーいや、サイボーグに見つかった。
淡い緑色の一本に束ねられた髪は、天井に取り付けられた照明の光りを反射し所々が煌めいている。
肌は色白。すっと細いあごのライン。鋭い目は雷のような黄色。風間よりも幾らか高い、女性の割に高身長な、スレンダーな四肢は、ライトグリーンとラインの入ったライダースーツに包まれている。そして背中にはーーーートンボの羽のような金属片が十数枚が刺さるようにして、生えている。
「おや、貴方、生存していたのですね。自身は死亡したと認識していたのですが」
そのサイボーグの名はーーーー飛翔者。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.171 )
- 日時: 2016/08/18 23:10
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「……ここは私が引き受けましょう。早夜さん、司くんをお願いします」
「早夜っちゃん先輩ちゃんにまっかせなさ〜い」
春樹が二人の前に出て、先に行くよう促す。
風間はチラリと飛翔者の方を見る。
ーーーーあいつとしては、俺がここを通ろうがどうでもいいらしいな。
恐らく、俺の実力を考えての事だろう。風間はその自虐的とも言える思考を繰り広げ、その上で納得した。
風間は別に強い訳では無い。容赦が無いだけであり、後はもっぱら能力による耐性と、多少の生命力と、装備の力を借りているだけの、ただの高校生だ。
だから、風間は誰よりも理解しているーーーー自分の実力を。
それは、プライドなどの安っぽいもので崩されるものではない。
だからこそ、ここは春樹に任せるのだ。風間は階段を駆け上がり、早夜はそれについていく。
「行動を共同せずにいいのですか?貴方の力量で自身に勝利する事象を発生させるのは、困難です」
目に見えた飛翔者の挑発に対し、春樹は気にした様子もなく挑発を返す。
「おやおや、貴女はどうやら知らないらしい。
まぁ、無理も無い事です。無知は恥じるべき事ではないのですから」
〇
「……この部屋、か」
どうやら表側の入口からの階段と、途中で交じる様な構造になっているらしく、階段は途中から非常階段のようなものでは無くなり、学校の校舎に近い階段となっていた。
他の階のドアは片っ端から開けられていて、そこに誰かがいる様子もなかったので、風間はそのまま無視して上の階を目指す。
と、どうやら大部屋の階層の様だ。この大部屋の扉は閉じているので、誰かがいるかもしれないな。そう思った風間がそちらに向かう。
「誰かいないかな〜」
早夜がそのドアノブを回そうとするがーーーー1ミリも動かない。
あれあれ〜?と戸惑いをあらわにし、ドアを叩くが、ドアは音すら出さない。
「俺が開ける」
風間がドアノブを掴んだ瞬間、能力を無効化する音が発生した。
そのまま乱暴にドアを開ける。
その中にはーーーー平子が宙吊りの姿勢で固まっていた。
文字通り、固まっていたのだ。
そう、まるで人形の様だ。まつげ一つ、瞬きすらしない平子に、少し面識のある風間は不気味な感覚を覚える。
ふと、後ろを振り返るとーーーー早夜が空中で静止していた。
こちらも、瞬きすらせずに、空中で静止を続けている。
焦って辺りを見渡すと、どうやら風間に気がついていない、青白の髪の女性がいた。
その女性がーーーー手榴弾をピンを抜き、それを平子に向かって投げた。
ーーーー風間は、それを掴み思い切り窓に向かって投げつけた。
女性の顔が驚愕に染まり、手榴弾が壁にぶつかり爆発する。がーーーー壁は全く、傷付きすらしない。
その直後、思い出したかのように、突然平子が前後に揺れた。そして早夜が空中から床に着地する。
ーーーー何が起こっている?
風間は、目の前の女性に向けて眼光を放ちながら、ホルスターに入れておいた銃を引き抜いた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.172 )
- 日時: 2016/08/22 17:07
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
風間がトリガーに指をかけ、それを引き抜く。
発砲音と銃弾が、風間の銃から発射された。
その銃弾が、敵こと黄昏雅に触れる直前で、指を鳴らした音が響く。
すると、まるで一時停止したかのように、銃弾が雅の目前で停止した。
そして、風間からは能力を無効化する音が響く。
「……貴方、動いていますね」
「何の話だ」
「周りを見てください」
風間が後ろを振り向く。
平子と早夜が完全に停止していた。
それだけではない。先程発射された銃弾すらも、未だに雅の前で止まっているのだ。
雅が、一歩踏み出し銃弾の延長線上から外れる。
すると再び銃弾が動き出し、目にも止まらぬ早さで壁に突き刺さる。
「えっ!」
平子の驚いたような声。風間が「どうした」と問い返すと平子は焦ったように話す。
「いや、さっき風間さんが急に現れたと思ったら、今度はそっちの女の人が瞬間移動してたって訳ですよ」
風間が何を言ってるんだと言おうとしたとき、それを遮って言葉を吐いたのはーーーー早夜だった。
「……その人はね〜、[一時停止させる能力]を持ってるんだよ〜。
多分さっきからその人……雅っちゃん後輩ちゃんは時間の流れそのものを一時停止してたんじゃないかなー?」
〇
「……無知、とは自身を指定した単語でしょうか?」
「ええ、むしろそれ以外誰がいるのか、私には甚だ理解できませんね」
空中で制止を続ける飛翔者。地面から見上げる春樹。
二人を睨み合いは、飛翔者の先制攻撃によって終わりを告げた。
飛翔者の、推進力を上乗せした蹴りが、春樹の顔面に迫る。
が、春樹はそれを余裕の表情で見ているだけだ。
そして、蹴りが当たりインパクトが発生ーーーーするはずが、飛翔者の蹴りが何かによって防がれていた。
飛翔者が蹴りを叩き込んだもの。それはーーーー幾重にも重なった鎖だ。
「鎖とは、人を拘束する為のものですが、それ以外に用途が無い訳ではありません。
例えばこんな風に」
鎖が春樹の手から伸び、その鎖が飛翔者の首に巻き付く。
瞬間、その鎖が縮み、飛翔者が春樹に吸い寄せられる。
そしてーーーー春樹がそのまま右ストレートを飛翔者の右肩目掛けて放った。手にはあたかもメリケンサックのように、鎖が巻かれている。
ストレートが直撃。背中と脚しか機械化していない飛翔者の肩から、骨が砕ける音が響く。
「ーーーーッ!」
飛翔者が左腕で首に巻き付く鎖を軽く叩いた。その振動を[振動を操る能力]によって増大させ、飛翔者が鎖を破壊した。
そして距離をとろうと、今度は春樹の左肩に蹴りを見舞ったのは飛翔者。
機械化された脚から放たれた蹴りは、春樹の左肩を易々と砕く。
「……痛いですね」
飛翔者がその反作用を利用して、春樹から距離をとる。
地面に着地した飛翔者は右肩を。春樹は左肩を、それぞれ自然と軽く庇うような姿勢となる。
「……ふう、少し手を抜きすぎましたね。
いやぁ参った参った。肩も痛いので、済みませんが終わらせて貰います」
その言葉を春樹が言い、飛翔者の耳に届いた頃には、春樹の生成した鎖が、床から飛翔者の足に伸びていた。
飛翔者の足に巻き付き、それを地面と波縫いするように固定していく鎖。
飛翔者が焦り気味に左腕で鎖を壊そうとした時、壁から鎖が伸び、その鎖が飛翔者の左腕に巻き付く。
飛翔者が気付いた頃にはもう遅い。
なぜならーーーー飛翔者の周りには、既に二十本以上はあるであろう鎖が生成されているのだから。
「……恐怖……します」
その言葉を待っていたかのように、飛翔者に鎖が巻き付いていく。
その鎖達が、飛翔者の背中の十数枚の金属片達に巻き付き、捩りへし折り、次々と、まるでトンボの羽を毟るようにとっていく。
そしてーーーー最後の羽を毟りとった時、飛翔者は頭以外を全て鎖に巻き付かれた状態で、芋虫のよう床に転がっていた。
「……さて、貴方には幾つか聞きたいことがあるのですが」
「……」
「秋樹はどこにいますか?」
「……回答を拒否します」
その言葉を聞いた春樹が、飛翔者に巻き付いた鎖を縮ませ、飛翔者の体を締め上げる。
「あッ……がッ!」
それだけで、飛翔者にとっては全身が押し潰されるような感覚に陥る。
体が徐々に悲鳴を上げはじめる。飛翔者の顔が苦悶に歪み口からは、悲鳴が少しこぼれはじめた。
「もう一度聞きます。秋樹はどこですか?」
「……ぎッ!……か、回答拒……ひ!」
更に、春樹が容赦無く飛翔者の全身を締め上げていく。
すると、一際大きく、骨が折れる音がした。
「あぎぁぁぁぁぁぁあ!」
「さて、そろそろ吐かないと命にかかわりますよ?」
「……き、拒否しま……」
カクンと飛翔者の首が垂れた。
どうやら激痛の余り気絶してしまったようだ。
そんなに痛いのなら、さっさと吐けば良いものを。そう感想を抱く春樹。
しかし、春樹はある意味では感心していた。自分の肩を砕いた機転に。あの拷問に口を割らなかった精神力に。
春樹が顎に手をあてて考える。
しばらく考えた後、春樹が鎖を消滅させ、飛翔者を自由の身にした。
そしてーーーーその飛翔者を担ぎ、春樹はそのビルから出て行く。
外に行く過程で、春樹はスマートフォンである番号へとかけた。
「もしもし?相川君ですか?
少々、見込みのありそうな人材がいたので確保しました。
……………そんなに心配なさらずとも、【裏】の人間の上に、テロ組織の一員です。
……はい、それではよろしく頼みます」
ドアに立てかけてあった傘を手に取り、雨の中を人を担いで歩み始めた春樹はこう呟いた。
「風間くん。私にできるのはここまでです」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.173 )
- 日時: 2016/08/26 17:40
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「つまりね〜、その人は時を止められるんだよ〜。で、止まった時の中であの人は動けるんだよ〜。
多分風間っちくん後輩くんじゃ勝てないよ〜」
「早夜先輩。悪いが、俺は止められた時の中でも動けたぞ」
早夜の忠告に風間が反応的な切り返しをする。が、早夜は首を横に振って「違うってばぁ〜」と風間の意見を否定した。
早夜は身体準備体操のように伸ばしながら言葉を続けた。
「風間っちくん後輩くんの身体は〜、誰が治療したと思ってるのー?
私はね〜、風間っちくん後輩くんがイケナイ方向に向かってる事くらいは知ってるよー?」
風間は図星と言わんばかりに多少たりとも眉をひそめた。
風間の身体は、表面上は治っていても、実際に肋骨数本は未だに固定しているし、歩くことも多少の不便を覚える程には、体調が悪かった。
風間の少しの動作だけでも、図星を付いたとわかった早夜は雅に対面する。
「だからね〜、ここは早夜っちゃん先輩ちゃんが引き受けてあげるから〜、先に行ってて〜。私なら勝てるから〜」
一体その自信はどこから沸き上がるのか。相手は時を止める事すらできる能力者だと言うのに。風間はそう思わずにはいられない。
そんな風間の肩にそっと、手を乗せたのはーーーー足から縄を解いた平子。
「風間さん。何が起こってるか分からないって訳ですが、ここは任せて行くべきです。少なくとも、今の状態の私達じゃ、太刀打ち出来ないって訳ですよ」
風間はそれを理解していた。
多少の屈辱的なものを感じながら。風間は「任せた」と一言置いて部屋から飛び出す。平子も早夜に一礼してから部屋を出て行った。
「あらあら、残ったのは可愛らしい先輩ですか」
「もぉー!子供扱いしないでよぉー!私26なんだからねー!」
微笑みながら吐かれた雅の台詞に早夜は子供扱いされて、目に少しの水を溜めながら、プンスカと子供のように怒る。
ーーーーそして、いつの間にか早夜の目前には手榴弾があった。ピンは抜かれている。
雅の唇がニヤリと黒く歪む。そして手榴弾がそのまま破裂。
「きゃー!」
した瞬間。早夜の白衣からにゅるりと液体が出現し、そのまま手榴弾を包み込み、その液体が爆発を減衰させた。
黒い爆発を起こすはずが、爆煙すら起こらない手榴弾。
得意げに笑う早夜の顔にはしてやったりという言葉が嫌ほど滲み出ていた。
「私だってこれでも暗部の人間だよー?」
更に白衣から液体が飛び出し、その液体が壁面に取り付けられている半透明のガラスを割り砕く。
そして、そこから一気に大量、とまでは行かずとも、多少の水が入り込んできた。
それは早夜の能力[H2Oを操る能力]によって集められた水だ。どこらか集めたのかと言われたら、それは降り注ぐ雨を見ればわかることだ。
早夜の周りに、徐々に水が集まり、早夜よりも大きい水の塊を数個形成される。
そして、その水の塊から水鉄砲のような水が放出された。ただし、発射された速度は、最早水鉄砲の域では無いが。
雅が指を鳴らし、時を止めて移動。水流を余裕の表情で避け、停止を解く。
時が流れ始めると、その水流が壁を穿ち、コンクリートに爪痕を残す。
「あら、これは随分と荒っぽい攻撃ですね」
「ごめんね〜。先輩の余裕とか見せる暇ないんだ〜」
更に水の塊から水を噴射するが、その水流は雅に当たる気配は無く、ただひたすらに壁や床を傷付け、水浸しにしていくだけだ。
「そんなに乱射しても、数撃てば当たるものではありません」
「んー?別に当てようなんて思ってないよー?」
そう切り返した早夜の腕には、紫色に煌めきほとばしる電気が纏わり付いていた。
そして、その腕を無造作に水浸しの床にたたき付ける。
直後、電撃が水に伝わり床中を這い回った。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.174 )
- 日時: 2016/08/26 07:54
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
雅が慌てて指を鳴らす。
次の瞬間には浸水していない場所へと移動していた。
「ありゃー?結構いい作戦だと思ったんだけどなぁ〜」
早夜が手を突いている床に、既に水と呼べるものは無かった。
なぜなら強力な電圧によって流された電流が水そのものを電気分解してしまったからである。乾いた床では電気を伝える事はできない。
「惜しかったですね」
止めなく外から流れ込んで来る水が、再び早夜の周囲に集まる。
雅が早夜に気付かれないように、指を小さく後ろで鳴らす。
そしてーーーー早夜の周りに大量の爆弾が出現した。
その爆弾らが連鎖的に爆発を起こす。先程のように無効化された訳でも無いようで爆煙も上がっている。
「……さて、どうなりますかね」
その独り言を呟いたのは雅。
徐々に徐々に、爆煙が晴れて視界がクリアになっていく。
「ケホッ!ケッホ!……酷いなぁ〜」
そして、早夜が姿を現したーーーー白衣が少し弾け、所々から傷が覗く姿で。
「さて、そろそろお時間なので終わらせて頂きます」
「……もうこうなったら出し惜しみは無しだね〜」
早夜のその台詞を、雅はハッタリと考え結束バンドに止めておいた投げナイフを三本雅の頭に向かって投げた。
だが、突如として早夜に変化が起こる。
早夜が半透明な水に包まれたかと思えば、その水はナイフを弾き飛ばした。それはまだ当然の事と言える。雅は再びナイフを構えーーーー半透明の水が取れた時、驚きの余りナイフを手から零した。
「……ふぅ、この姿も、ちょっと久しぶりかな」
半透明の水から姿を現したのは、高身長の女性だった。
そのバストは豊満で、伸縮性のある服の一部を押し上げている。
髪は細長いツインテールとそれ以外をまっすぐストレートに伸ばした、長いツインテールとロングヘアーが混ざった様な髪型。ピンク色の髪は色彩豊かに輝く。
全体的にピッチリとした服、そしてちょうどいい丈の白衣を着た女性は、高くも低くも無い声で雅に喋りかける。
「ん?どうしたの?雅ちゃん後輩ちゃん?」
はっきりとした口調のその女性は、ゆるゆるとした口調であった早夜と同じ様な台詞を吐いた。
「…‥どちら様ですか?」
その問いは、手に手榴弾を持っていなければ穏便に見えただろう。
「ああ、そうだね。雅ちゃん後輩ちゃんにこの姿を見せるのは初めてだったね。
私はーーーー立待月早夜、さっきのちんちくりんと同一人物だよ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.175 )
- 日時: 2016/08/28 07:37
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「…………何を言って」
「私の能力。それは液体を分子単位で操作する事ができる。
だったら話は簡単だよ。私の体の一部を液体に状態変化させて、適当な容器に詰めてただけ。そしたら私の体は小さくなるのは道理だよ。
どっちかと言えばちんちくりんな姿が変身かなー。寧ろこっちが本体だよ。
で、ちんちくりんな姿の利点はエネルギーの消費が少ない事。で、こっちの利点は‥‥‥‥気分が大人になって理論的に考えられるようになる。つまりは能力が強力になるかな」
早夜が足を上げ、そ床を強く踏む。
それに呼応したかのように、水が丸くなり、水の弾が形成され、瞬く間にそれが雅に向かって発射されていく。
指を鳴らして時を止めてから避けるが、幾ら避けても早夜の弾幕が尽きる様子は見当たらない。
早夜が床を再び踏む。
すると雅の足元の飛び散っていた水が浮き上がり、雅の足を捕らえる。
「しまッーーーー」
雅が時を止め、絡み付く水を外そうと試みるが、逆効果だったことに気がついた。
雅の能力によって時を止めた場合。空気と重力と雅以外を全て止めてしまう。勿論除外設定を作る事も可能だが。
そして止まっている物質は絶対に動く事はない。たとえどのような力が加わろうと決して凍り付いた流れは動かない。
つまりーーーー雅は自分の足に絡み付く水まで停止してしまったのだ。これでは何をしようと逃げ出すことはできない。
時が流れはじめる。
そして早夜の水の弾が雅に殺到した。
大量の弾に晒された雅が壁まで水に押され壁に押し付けられる。
「もういいかな?」
早夜が水を止め、自分の知覚に引き戻す。
その瞬間だった。
雅が指を鳴らしたと思えば、雅と早夜以外の全ての時が凍り付いた。
雅が時間を止め、除外設定に早夜を含めたのだ。これにより、早夜だけは動くことができる。そうーーーー早夜だけは。
「……なるほどね。これじゃあ私は動けても水は動かせない」
「ええ、それでは」
雅がナイフを持って早夜に近づく。
二人は体術に関しては、少し早夜が上手である。
しかし、雅には凶器があった。強い凶器を持つ者が勝つのがこの世の道理なのは既に、世の中で大量の事例がある。
だから勝つのはーーーー早夜だ。
なぜなら早夜は持っているからだ。
「一つ忘れてない?」
「何をですか?」
ーーーー能力という武器を。
早夜の腕に、煌めく電流が走った。
それを見て、雅が口を開けた頃にはもう遅い。
「私、電気も使えるんだよ」
早夜が電流が纏わり付く右腕で雅の腹部を殴り付ける。
「かはッ……!」
そしてお構い無しに電圧を上げて雅に電流を流した。
ぐったりとした様子でその場に倒れ込む雅。
「……はぁー、疲れた。この姿燃費悪いなぁ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.176 )
- 日時: 2016/08/28 21:01
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「ああああああああああああああああ!」
十橋時雨は空を飛んでいた。
無論、それは自ら起こした現象ではなく影雪によって引き起こされた現象だが。
時雨の視界は常に雨と夜の薄暗さが遮り、殆どのものにフィルタがかかって見える。
時雨自身は今もそこそこ速いスピードで絶賛空を未だに角度20〜30度程で上昇中である。
その赤に染まっていた筈の黒い髪が空気によって激しくはためき、時雨の髪型はオールバックと化している。
ーーーーコレ、どうすんだ?
時雨の思考などお構いなしに、段々と速度が低下し始める。
つまりーーーー降下を始めた。
「きゃああああああああ!」
可愛いヒロインのような台詞を男の声変わり済みの声で言う時雨。その声は最早気持ち悪いというニュアンスの形容詞以外を見つける事ができない。
そして、降下しはじめたと思えばーーーー時雨の目の前が真っ黒に染まる。
否、染まっているのは時雨の視界ではなく目の前の建造物だ。
「死ぬううううううう!」
冗談では無いと時雨がもがくが、成す術があるわけもない。そのまま建造物へと吸い込まれて行きーーーー
ーーーーガラスの破砕するような音と共に、時雨の肌が少しガラスの破片に切られ、床に打ち付けられた。そして床に亀裂が入り、着弾地点には浅めのクレーターが作り出さる。
時雨本体はそのまま床や天井にバウンドし、スーパーボールのように二度ほど跳ねた後に床に倒れ込んだ。
「畜生……‥‥痛い‥…」
しかし時雨は痛いと呟きながらも立ち上がる。体が頑丈とか言うレベルではなかった。
「……ここ、どこだ?」
時雨が辺りを見回す。
あるのは用紙が敷き詰められたり整理しておかれている棚。要するに資料などが置かれている。
どうやらビルの一室見てぇだな。そう結論を出した時雨のポケットが、振動する。
どうやら振動の源はスマートフォンだったらしい。時雨はあの激戦の中でよく耐えたな。と感想を呟いてスマートフォンを取り出した。
「買い替えないとな……」
時雨のスマートフォンには蜘蛛の巣状に亀裂が入り、液晶画面がそれはそれは無惨な姿に成り果てていた。多少涙を堪えつつひび割れたスマートフォンの液晶をタッチし電話に応答する。
『……よー。十橋」
「風折……?なんでこの番号を……」
『誰がテメーのスマホをアッコに置いたと思ってんだよ」
「……風折、教えろ。碧子は何処にいる」
『教える訳ねーだろ。オレの独り言でも聞いてろ』
「おい!ふざけんなよ!」
時雨が激を飛ばして電話に怒鳴るが影雪はどこ吹く風な声色で話始めた。
『あーあ、全く最悪だ。…………十橋のヤツをまさか依頼主のところまで殴り飛ばしちまった』
その言葉を聞いて、時雨が閉口した。
『めんどくせーな。テロ組織のDHAの本部に殴り飛ばしちまうなんてオレもまだまだだな。
言える訳ねーよな。十橋の探してた義義理とか言う奴と一緒に天澤秋樹と古都紡美がいるなんてよー。
それが最上階の辺りに居るなんて言える訳もねーよな』
「風折、お前……」
『ああ?独り言中に喋りかけんじゃねーよバカ』
「……ありがとな」
『……ハッ。罵倒されて喜ぶなんて、テメーマゾかよ』
それを境に、影雪との通話が切れた。
「…………此処、なんだな」
時雨が拳を握り締め、部屋の天井を見上げる。
「んでもって、あっちに碧子がいるんだな」
時雨が見据えたのは上へと繋がる階段。
「風折…………お前の言葉、信じるぞ」
時雨は、力を込めて階段の全ての段を一歩で飛ばして駆け上がった。
〇
「…………ハリック・ジーナ、風折影雪、立待月早夜、天澤春樹、聖林寺五音。これだけの強力な能力者達があの三人に味方している。特に、ハリック・ジーナと風折影雪に関しては我々が雇っていたにも関わらず、だ」
一人でビルの窓から外の景色を見つめる一人の男の視線は、駐車場で展開された聖林寺の【王城防壁】に向いていた。
振り返り、監視カメラの映像が映し出されるモニターには、白、灰、そして黒の三人ーーーー平野平子、風間司、十橋時雨が映し出されている。風間と平子より時雨が一足先といった様子だ。
「非常に私は残念で仕方が無い。なぜなら君をじっくりと掌握する時間が無くなってしまったからだ」
銀色に輝くその髪は証明の光りを反射し輝いている。
体には新品のようにシワの無いスーツを纏い、その風貌は多少老いを感じさせるものの、何処かカリスマ的な威圧感を放っている。
その男ーーーー羽舞明示(ばまい/めいじ)は目の前にいる幼げな雰囲気を纏う少女ーーーー古都紡美に向けられていた。
「じゃあどうするの?」
紡美は両手両足に手錠を掛けられ、首には首輪をつけ、それを壁に繋がれた状態で拘束されていた。
「なに、簡単な話だ。
取引をしよう。君は私のマインドコントロールを受けるんだ」
明示の言葉に反抗的な瞳と口調で切り返す紡美。
「そういうのは取引じゃなくて一方的な命令って言うんだよ」
「淑女なら最後まで話を聞くべきだ。私が切るカードは『鋼城緋奈子の命』だ」
それを聞いて、紡美が口を閉じた。
「今現在、鋼城緋奈子はある病室で寝かされている。そしてその傍には私の部下がいる。これ以上は言わなくてもお分かりだろう?」
「証拠は?」
「では、部下に送って貰おう……………。これが証拠だ」
明示のスマートフォンには寝顔の緋奈子が写っている。
「……合成、って訳でもなさそうだね……」
「さあ、取引の再開だ。君にはイエスかノーかの二択しか与えられていない」
「……分かったよ。イエス」
ニヤリと明示の口元が三日月のように歪む。
「では古都紡美、『私に従うか?』」
「……イエス」
そう紡美が答えた瞬間、電源が切れたかのように紡美が床に倒れた。
「…………さて、残るはーーーー」
〇
「おい、天澤秋樹はどうなった」
明示がある部屋へと入室しながら問う。
明示が部屋に入った瞬間、部屋にいた一人を除く全員が背筋を伸ばす。
「ハッ!未だ反抗しており、マインドコントロールは難しいかと!」
報告をした部下に「ご苦労」とだけ声をかける明示。そのままスタスタと部屋の奥へと歩く。
この部屋には、鉄格子等による檻が数多く設置されていて、その中には鞭等の拷問用具が並べられている。
いわば此処はーーーー拷問部屋。
そして、とある檻の中へと入る明示。
その中にいたのは一つの人影。
着ている白衣とワンピースはボロボロになっていた。
体中に、鞭などで打たれた痣が痛々しく浮かび上がっている。
緑色の髪は薄汚れていて、何本かが床に抜け落ちていた。
頭を軽く切ったようで血が一筋、顔に流れている。
その少女ーーーー義義理碧子を無造作に掴み、檻から出る。そして碧子を一人の人間に投げる
「俺の部屋に放り込め。それは既にマインドコントロール済みだ」
「ハッ!」
部屋から出ていく部下を傍目に今度は別の檻へと入る明示。
そして、目の前に拘束された少女に話し掛けた。
「元気かな?」
「……貴方は……」
返事をしたのは、青い髪を肩辺りで切り揃えた、薄汚れた防弾制服を着ている、天澤秋樹だ。頬は腫れており、体は鎖で壁に固定されている。
「いい加減、君からも許可を取りたいのだが」
「……嫌です……もう私は……あの人に迷惑を掛けたくないんです‥…!」
「そうか。それは立派な事……だっ!」
その言葉と共に、明示が秋樹の腹部を膝で蹴る。
「がはっ!」
空気を吐き出して苦しそうな表情をする秋樹。しかし目には強い意志が感じとれた。
「もう一度聞く、君からも許可を取りたいのだが」
「絶対に……嫌げほっ!」
再び明示の膝が、秋樹の腹部に付き刺さる。
「……余り私を苛立たせるな」
「そんなの……知りません」
今度は秋樹の腫れた顔面を殴った明示。秋樹がロクに抵抗もできないまま汚い床に転がる。
「言え、イエスとな」
「嫌…‥です!」
返答として、明示が秋樹の頭を踏み付けた。
グリグリと靴底で秋樹の頭を踏み付ける明示は、心底飽き飽きしていた。
ーーーーたかがあの程度の人間に、左右されるとはな。
「…………ッ!」
秋樹の表情が厳しいものへと変化していく。耐えがたい激痛を必死に唇を噛んで抑えている秋樹の口元からは、血が零れていた。
明示がため息を吐きながら、足を離す。そしてスーツの胸ポケットから黒光りする銃を取り出す。
「言え。これは命令だ」
「嫌‥…!絶対に……言いません……!」
「そうか」
その返答を聞いた後に、短い返事をした明示が引き金を引いた。発砲音が檻に響く。
「ああああああああああああ!」
秋樹は耐え切れなくなって悲鳴を上げ、ジタバタと床の上でもがく。
秋樹の足元が、真っ赤な血で染まっていた。貫かれた足を庇おうとするものの、拘束する手錠等が邪魔で庇う事すらできない秋樹。
「……次は左だ。言え」
「あああ!…………ぜ、絶対、言いません!」
尚も気丈な目を向けて、意志の篭った瞳を向けて秋樹に対し、明示は覚った。
ーーーー コイツは折れない。
仕方なく、明示は部下に秋樹を治療した後に自分の部屋まで連れて来るように命令した。
そして拷問部屋から出ようとしたとき、先ほど一人だけ背筋すら伸ばさなかった男に声をかける明示。
「おい里見、サイボーグ共が二人やられたぞ。お前の残りの商品は期待出来るんだろうな?」
「当たり前だろう。燃焼者は元々低スペック。飛翔者は本人の使い方が単調。どちらも所謂失敗作だ」
そう答えたのはーーーーネズミ色のボサボサとした不健康そうな髪。電子タバコを口に加え、ヨレた白衣を身に纏った里見甲人ーーーー教授だった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.177 )
- 日時: 2017/04/24 01:24
- 名前: 波坂@携帯 (ID: SkZASf/Y)
「移動者、加速者、抹殺者。命令だ。
移動者、お前は風間司を連れて来い。ただし殺すなよ。
抹殺者、お前は足止めだ。
加速者は待機。二人のどちらが危うい状態となったら救援に向かえ」
〇
「はぁぁぁっ!」
平子の右拳の一撃が、相手の腹部に突き刺さる。
更に平子がそのまま両手で肩を掴み、膝を腹部に打ち込んだ。
相手が息を苦しそうに吐き出すもお構いなしに、駄目押しの右ストレートを打ち出す平子。顔面に直撃してよろめく相手。
相手は能力を発動させようとするが、既に平子の能力、[相手と自分を平等にする能力]が発動している為、能力そのものが作動しない状態となっていた。
その隙に、平子がポケットから携帯型スタンバトンを取り出し、一閃。
確実に首を捉えたスタンバトン。相手が短い悲鳴を上げて倒れようとしたところで、スタンバトンの柄で後頭部を殴り付ける。
今度こそ、相手の名も知らぬ人物の意識は途切れた。
「…………ふぅ」
「平野、お前容赦無いな……」
風間が他人に言えないような台詞を吐く。
実際、風間は先程まで何人も撃ち殺している。勿論、平子が見ているときは自重していたが。
「こういうのは確実にやる方がいいって訳ですよ」
そのまま携帯型スタンバトンを折り畳み、ポケットに収納する平子。
「まあ、それもそうだが」
風間と平子は言葉を交わしながら、階段を駆け上がった。
〇
十橋時雨は急いでいた。
ーーーー一分でも早く。
道を塞ぐ能力者が、何やら防壁のようなものを作り出す。
時雨がそれを思い切り殴る。そう、ただ拳で殴っただけだ。
たったそれだけで、防壁が砕け散る。
ーーーー一秒でも早く。
時雨がそのまま接近し、今度は能力者自身を殴った。
それが時雨の視界からフェードアウトした頃には、既にそれは時雨の頭から消え失せていた。
そのまま階段を駆け上がり、次の階段を目指す時雨。
しかし、いつまで通路を探しても階段が無く、部屋の中にあると予想した時雨が一つの大部屋の扉を開けた。
「…………やっぱり、来ちゃったのね……」
そう呟いた人影は、黒いレディーススーツを身に纏っていた。そして背中にはリュックサックをかるっている。リュックサックからは数本のコードのようなものがはみ出していた。
「…………嘘だろ?」
時雨がそうポツリと呟く。
その人影は、黒と紫が混ざったような、言わば闇色の髪を伸ばしていて、前髪はでこが見えるように左右に分けられている。
「…………なんでだよ…………嘘だって言ってくれよ…………」
「……………」
時雨が、答えの分かっている問い掛けを目の前の人影にするが、目の前の人影は目を伏せて首を横に振るだけだ。
その人影は、異常な迄に無機質な瞳だった。顔のラインは少し丸く、幼なげな顔立ちだ。
「…………なぁ、なんでだよ。なんでなんだよ」
時雨の問いは、最早時雨でさえ、自身に問いたのか目の前の人影に問いたのかは、わからない。
その人影は、時雨と同い年である18歳にしては低い身長だった。その身長の低さから時雨はいつも見るときは視界を下にずらしていた。
「…………どうしてなんだよ!教えてくれ!教えてくれよ鸛!」
そして目の前の人影ーーーー鸛御弥は、目を伏せたままこう答えた。
「…………それは私がテロリストの一員、抹殺者だからよ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.178 )
- 日時: 2016/09/01 16:12
- 名前: 波坂@携帯 (ID: hSqi2epP)
「…………わからねぇよ……俺にはサッパリだ!お前の事を表面しか知らねぇ俺にはわかんねぇよ!」
「ええ。わからないのは当たり前よ。だって貴方が理解する必要性なんて何処にも何のだから」
冷たい態度の鸛。それに時雨は心が圧迫される感覚を覚えた。
鸛と時雨。二人はただの知り合いだった。友人。と言える程には仲が良かっただろう。
それが、こんな場面で再開を果たすとは、運命の皮肉さが伺える。
時雨の頭の中はぐちゃぐちゃになり始めていた。
一体何をすればいいのか。何ができるのか。自分はなんなのか。
そんな後回しにしていた疑問が今更のように時雨の脳裏に浮かび上がる。
ひゅん、と風を切る音。
頭を抱えて悩む時雨の横を、何かが通過した。
そして、コンクリートのようなものが砕ける音が重なる。
時雨が前を見ると、鸛のリュックサックから何本もの、一般的な腕より少し細い位の太さの鉄線ーーーー【鋼鉄の茨】が飛び出ており、祖のうちの一本が時雨の横を通過していた。
「……さっさと構えなさい。無抵抗を痛めつけるのは趣味じゃないの」
そう呟いた鸛の瞳は、仄かに赤くなっていた。
これは鸛のサイボーグの機械的な部分の一つ、念動磁場を可視化する機械眼が作動した証である。
「畜生……」
時雨の愚痴るような呟きを貫くかのように、鸛が念動磁場による念力で、【鋼鉄の茨】を高速で発射した。
「畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして、その発射された高速の鉄線を、時雨は拳で横から殴り付けて弾き返す。
さらに鸛が幾つも鉄線を発射。それを時雨は体を捻り、しゃがみ、蹴り返して防いだ。
そして、一本の【鋼鉄の茨】を時雨が思い切り握る。
超常的な握力により、【鋼鉄の茨】が無残に握り潰された。
ーーーーなんでよ。
鸛が不可視の念動磁場で時雨を押さえ付ける。そしてその時雨を拘束している空間へと鉄線達を殺到させる。
多少焦りながらも時雨は念動磁場による拘束から、文字通り身体能力だけで脱出した。
直後に、鉄線達が先程まで時雨がいた場所に殺到した。
鉄線達が引き抜かれると、そこには蜂の巣が誕生しているではないか。
鸛が念動磁場による念動砲弾を生成。
そして、その不可視の5発の砲弾が時雨をビルの壁面まで吹き飛ばす。
交通事故にあったかのような感覚に陥る時雨。成す統べもなく床を転がるが、壁面に激突する前に体制を立て直して、壁に着地した。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.179 )
- 日時: 2018/01/29 21:47
- 名前: 波坂@携帯 (ID: KLUYA2TQ)
「……あの傘、まだ持ってるか?」
時雨が、小さく、しかしはっきりと聞こえる声で呼び掛ける。
束の間の静寂、窓の外には雨が降り注ぎ、室内は少し湿ったような感覚がある。
鸛が返したものは言葉ではなく、念動磁場による念動砲弾だった。
「……ッ!」
苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる時雨。
対して鸛の表情は凍てつく氷のように冷たかった。
そして時雨に念動砲弾が激突した。
ボロクズのように吹き飛ぶ時雨。轟音が撒き散らされ部屋に反響する。
吹き飛んだ時雨が壁に叩き付けられ、少し跳ね返り床に倒れ込む。
そして時雨を襲うのは、鸛の念動磁場による重力の加算。
流石の時雨も、ロクに体を動かすこともままならなかった。
ゆっくりとした歩調で歩み寄るのは、背中の【鋼鉄の茨】達を展開した鸛。
押さえ付けられた時雨に、【鋼鉄の茨】達が、まるで人の首にナイフを当てる行為のように、時雨の背中に先端の鋭く尖った部分を向ける。
「……無駄な抵抗は止しなさい。貴方はここで私に殺される運命なんだから」
凍てつく目線が、時雨の目線と交錯する。
時雨はそんな目には怯えず、尚も真っ直ぐな視線を返した。
「……お前が殺しなんて……出来るわけねぇよ」
「……もう一度言ってみなさい」
時雨が要望に答え、倍の声で言った。
「だから……お前みたいな奴が殺しなんてできねぇんだよ!」
時雨のその言葉に、心底驚いているのは、鸛だった。
「……私はテロリストの一員。もう殺しの経験なんて片手じゃ役不足よ」
しかし、時雨はその視線を曲げない。
「だったら…………何でお前は俺に攻撃が当たる度に目を伏せてたんだよ!」
「ぐ、偶然に決まってるでしょ!」
「偶然が10回以上も続いてたまるかよ!」
「続いたのよ!」
鸛が、激しく動揺して大きな声を上げる。
時雨はそれに対して更に大きな声を張り上げる。
「じゃあ……なんで念動磁場の拘束が緩んでんだよ!」
次の瞬間、時雨が思い切り右腕を振り上げ、それを地面に降ろした。
爆音。時雨が、あたかもジェット噴射の反作用によって飛び上がるロケットのように、拳で床を殴った反作用で移動した。
「しまったーーーー」
鸛が気付いた頃に、既に時雨は鸛に向かって走り出していた。
とっさに念動磁場によって念動の壁を作り出し、時雨の進行の邪魔を試みる。
時雨はそれに正面から当たり、その走りを停止させられた。
安心したのも束の間。時雨の拳により、その壁が雲散霧消する。
そして、時雨曰く拳の届き、確実に仕留めると豪語していた、0.65mの間合いに時雨が潜り込んだ。
鸛が防御しようとしても、間に合わない。
そして時雨の拳がーーーー【鋼鉄の茨】の本体をえぐった。
「ーーーーは?」
ーーーーなんでよ。
鸛は間抜けな声を発しつつも反射的に念動磁場の付加された蹴りを時雨にお見舞いする。
低身長の少女から放たれたとは思いがたい一撃が、時雨を間合いから弾き出す。
「……いいの貰っちまった」
時雨が蹴られた腹部を押さえながら呟く。
「……ふざけてるわね……貴方」
「ふざけてねぇっつの!これでも俺は真面目にやってんだよ!」
「じゃあ!なんでよ!なんでさっき、私じゃなくて【鋼鉄の茨】を狙ったのよ!」
鸛の背中の【鋼鉄の茨】本体は、リュックサックの中に入っているが、先程の時雨の一撃により半分ほどがスクラップと化していた。
だが、まだ【鋼鉄の茨】は動いている。そもそも本体の役割は鉄線の収納と排出だけであり、操作自体は鸛の念動磁場で行っている為に、本体を破壊しても意味は無いのだ。
「悪いけどなぁ…………俺は相手が殴ってくれって言われても、俺が知ってる奴は殴りたくねぇ!俺が殴る理由のねぇ奴は殴らねぇ!それが理由だ!」
「殴る理由なんて!そこら辺に転がっているでしょう!?私がテロリストの抹殺者だから!貴方を傷付けたから!貴方の大切な子を奪った人間の仲間だから!こんなに沢山あるじゃない!」
「うるせぇ!」
「ッ!」
時雨の一喝が、鸛の声を黙らせる。
「俺は今、友人の『鸛御弥』と会ってんだよ!テロリスト?キラー?んな奴ら知るかよ!」
「私は鸛御弥じゃない!テロリストの抹殺者!ただ殺人鬼よ!」
「殺人鬼が人を殺すのに躊躇するかよ!」
「黙りなさい!」
その言葉とともに、夥しい数の鉄線が、時雨の四肢を絡めとった。
時雨が全く動けない状態となり、首にも鉄線が巻き付いた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.180 )
- 日時: 2017/04/24 01:28
- 名前: 波坂@携帯 (ID: SkZASf/Y)
「あと一言、あと一言唱えたら、貴方は穴だらけの蜂の巣になるわよ……。これでも、これでも私が人間と言えるのかしら!?友人と言えるのかしら!?抹殺者じゃない鸛御弥と!言えるのかしら!?」
鸛は、自分を蔑んで欲しかった。
自分を見下げ果てて、失望して、憎んで欲しかったのだ。
相手から憎まれているなら、たとえ自分が好意を持っていても殺せるだろうと。
だから、時雨に言って欲しかった。
時雨に自分を蔑んで欲しかった。
失望して、見下げ果てて、自分を嫌いと言わせたかった。
だから、こんな遠回しに言えと言っているような脅迫をするのだ。
それに対し、時雨も自分の言いたい事を吐き出す。
「お前は人間だ!友人だ!鸛御弥だ!」
だが、時雨はそんな鸛の心境などお構いなしに、人間であると、友人であると、鸛弥夜を肯定し、抹殺者を否定する。
鸛の仄かに赤く光る瞳が、水に濡れていく。
「どうしてよ!なんでよ!なんで貴方は私を蔑んでくれないの!憎んでくれないの!罵ってくれないの!
私なんて!声を張り上げて罵倒されるべき人間なのに!」
感情の荒ぶりを示すように、時雨を締め付ける力が強くなり、時雨が苦しい吐息を吐く。
しかし、時雨は喉に力を入れ、尚も言葉を紡ぐ。
「お前は罵倒されるべき人間じゃない!」
「なんでそんなこと言うのよ!」
「なんでそんなに自分を蔑むんだよ!」
鸛が膝を付き、小さな両手で目元を隠す。
その指の隙間から漏れるのは、一筋の水滴。
「お願いだから……私を……憎んで……嫌いになってよ……」
声は、震えていた。
だが、時雨はそんな願いを聞きはしなかった。
「絶対お前を憎まない!絶対お前を嫌いにはならない!」
その言葉を聞いて、鸛の中の何かが崩壊する。
まるで、ダムでせき止められた水が、決壊により溢れ出したように。
「あああああああああああああああああああ!モード!」
叫びをあげ、あの一言を唱えようとする鸛。あの火麗を蜂の巣にした一言を。
「ス……パ……………イ……………………」
ク。
その一文字が、鸛の喉につっかかり、喉から出てこない。
「無理よ……」
その言葉を境に、【鋼鉄の茨】達が力無く萎れ、時雨を解放してダランと地面に落ちる。
「私には無理よ……そんな、そんな優し過ぎる貴方を殺すことなんて……できない……」
床に膝を付いたまま、鸛は言う。
「……やっぱり、お前は鸛だ」
「……もう私は生きていく事なんて……できない……こんな中途半端な私に……生きる価値なんて無い……」
「だったら!お前の価値は俺が見つけやる!だから……言えよ!一言でいい!『助けて』って!そしたら俺が!お前に生きる意味を教えてやる!だから言え!鸛!」
時雨が、鸛に右手を差し出す。
鸛が悩んだ末に、恐る恐る手を伸ばしーーーー。
時雨の視界が、血の色に染まった。
ーーーーは?
鸛は伸ばした手を空中で右往左往させている。
そして鸛の腹部からーーーー一本の黒い義手が、突き出ていた。
時雨の視界が、鸛の血によって赤く塗られる。
鸛が吐血し、その義手が鸛の体から抜かれた。
鸛が血を噴き出し、そのまま仰向けに倒れる。
時雨の中で、何かが切れる音がした。
「全く、貴女ともあろう方が裏切りとは情けない。僕達はプロフェッサーに忠誠を誓ったサイボーグだと言うのに」
「貴方……加速者ね…………かはッ!」
目の前で、体に細い穴の空き、再び血を吐いた鸛と、義手の機械的な部分が丸見えの状態のサイボーグーーーー加速者がしている会話さえ、時雨の耳には届いていなかった。
「お前は……!お前達は……!」
「何個俺の大切なものを奪えば気が済むんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
時雨の頭の中が、一言に染まっていく。
その時雨の拳が、加速者の体を吹き飛ばした。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.181 )
- 日時: 2016/09/06 20:24
- 名前: 波坂@携帯 (ID: hSqi2epP)
少し前。
上の階を目指していた平子と風間の前に、大柄な人影が姿を現した。
茶髪の髪。太い腕と脚。そしてそれを支える胴体。
腕は真っ黒い金属色を隠そうともせず、義手の部分が丸見えである。
「……また会ったな」
かつて、風間と互いに本当の意味で殺し合った仲。
ブラックスーツを見に纏った移動者が、テレポートで立ち塞がる。
「…………この人は……!」
「ああ、敵だ。それも全身のテレポートを、正確にこなしてくる厄介なやつだ」
「……お喋りとはいい度胸だ」
その言葉を発した移動者の姿が消える。
瞬間、空気の裂ける音と共に移動者が風間の側面から現れ、重い拳を以ってして襲い掛かる。
風間はそれを寸前で拳銃の柄で横から殴り、横に流し、運動ベクトルを逸らす。手に軽い痛みを覚えつつも、拳銃の引き金を引く。
炸裂音が風間の銃の銃口から鳴り響く。しかし硬度の高い金属の体を持つ移動者には、歯が立たない。
ベクトルを逸らした事によってできたその隙を突き、平子がスタンバトンを構えて、移動者目掛け軽めの一撃を振るった。
予想通り。と言うべきか、軽い金属同士がぶつかり合う音が発生し、スタンバトンが弾かれる。
「……胴体も金属だって訳ですよ」
仮に、今本気の一撃を加えていたら平子の腕は痺れてしばらく使い物にならなかっだろう。
逆に隙のできた平子を狙うのは、移動者の蹴り。その威力は、常人の蹴りの数倍はあるだろう。
平子がスタンバトンを盾にして、防御を試みるがーーーー、破砕音が響き、スタンバトンが割れ砕けた。
平子自身はスタンバトンの犠牲により事なきを得た。名残惜しそうに新品だったのに、等と考えながら後ろに跳び、破片を捨てた。
「風間さん、なんか作戦無いんですか?」
「負けるな。そうすればいつか勝てる」
「……無いんですね」
移動者がテレポート。どうやら狙いは風間のようだ。風間の背後に空気の裂ける音が発生。
風間が驚きつつも、それを鉄仮面で塗り潰して表情に出ないようにし、冷静に背後に銃口を向け、発砲。
そんなものを無視して放たれた移動者の剛拳。激しく痛々しい打撃音と共に風間が数メートル飛ばされる。
ただでさえ体調の悪い風間が、殴り飛ばされた影響と、殴られた部位が傷口である事が主な原因となって、風間の体中が激痛に襲われる。
悶絶する風間。それを蹴り飛ばそうとしていた移動者の視界が、白色の髪と共に現れた平子の拳により塞がれる。
そのまま力を入れ、なんとか退け反らせる事に成功した平子。移動者の体重は重く、平子は体を倒す事さえできなかった。
「……こんなもの……!如きで……!」
風間が無理矢理、体を起こし、立ち上がる。
当然、風間の体が激痛に蝕まれる。
風間はそんなもの知った事かと、体の示す拒否反応に無視を決め込む。
平子が距離を置いて、両手を音を大きく発てるように合掌した。
その瞬間、[自分と相手を平等にする能力]が作動し、移動者の能力が使用不可能になる。
風間の能力。[能力を無効化する能力]はあくまで自分を対象とした。また自分に向かってくる能力は無効化するが、他人に掛かっている能力を無効化することはできない。
つまりーーーー風間の能力は、例え移動者を殴ろうと平子の能力を無効化する恐れは無いのだ。
移動者がテレポートを試みて、いつまでも作動しない事に気がつく。
「……モード、ソー」
その言葉を、平子達には聞こえない程度でボソリと呟く移動者。
そして、移動者の右腕が変形し、円盤状のチェーンソーと化す。
「……平野、気を引き締めるぞ」
「了解って訳ですよ!」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.182 )
- 日時: 2016/09/10 23:04
- 名前: 波坂@携帯 (ID: hSqi2epP)
移動者が、強くその足を踏む。
そして、二人との距離をつめんと走り出した。そして、円盤状の回転する凶器を振り回す。
それは早い動きではあるものの、二人は簡単に攻撃をかわす。
移動者の長所。それは重く強い攻撃を、一瞬で接近し零距離で叩き込む事を可能にする能力と、上半身のみでも十分な力を作り出せる機械の体にある。
が、上半身のみで十分な力を生み出すには、当然ながら機械の質量も増え、機動力に欠陥が出てしまうのはもはや当然と言えよう。
不意打ちをする為の能力である瞬間移動が、いつの間にか機動力を補う重要な役割となっていたことに、移動者は気付いていない。
だからこそ、今二人が易々と攻撃を避けたことに対して疑念を抱かざるを得なかった。
避けた二人は当然ながら別々の行動をとる。
平子はがら空きの背中を足裏で蹴りつける。が、やはり金属でできており、鈍い音が平子の足を弾き返す。
風間はスライディングで移動者の足を刈らんとその脚を伸ばした。が、如何せん風間の脚力には、重量型の移動者の足を刈ることは荷が重く、結果的に少し体を傾かせるに留まった。
止めろ。という言葉の代わりに移動者の円盤状チェーンソーが振るわれた。平子の髪の毛数本がさらわれる。平子は文字通り間一髪のところだった。
「やっぱり機械部分は平等にならないって訳ですよ」
追撃の拳をしゃがみ込んで避け、後転する要領で姿勢を立て直し後退。風間は下から拳銃を発砲し移動者の意識を散らしながら距離を置く。
「……平野、数秒だ。数秒足止めできるか?」
「……できるかわかりませんけど……やってみるって訳です……よっ!」
平子が移動者に突っ込んでいく。移動者は右腕のチェーンソーを前に構えるだけだ。
平子が、右腕を後ろに引く。当然ながらそれは右ストレートの予備動作だ。移動者もそれを察知しチェーンソーを右腕目掛けて振るう。
そのチェーンソーは当たるはずだった。平子が右ストレートを打ち込む前提の話だが。
平子が、右腕を突き出さない。つまりーーーーフェイント。
まさかこんな土壇場でフェイントをかけてくるなど思いの他だった移動者が、チェーンソーを振り完全に腕にかけてしまった体重を元の位置に戻そうとするが、その前に平子の左足が、ボクシングのジャブのように、軽く速く繰り出された。
その狙いは、腰。
腰に平子の左足が打ち込まれた。が、その威力はとても乏しく、もても金属の体を傷つけられるものではない。
平子の足を左手で掴み、右手のチェーンソーで平子に花を咲かせようとする移動者。とても綺麗とは言いがたい、少し薄黒い赤色の花を。
平子の表情が、恐怖に襲われる。
そして、そのチェーンソーがあと少しで平子に突き刺さろうというところで、チェーンソーの付いた右腕を掴み、攻撃を止めた者がいた。
風間だ。そのまま風間が右腕の関節部分に弾丸をありったけ撃ち込む。
度重なる発砲音。そして機械が破損する音。
弾が尽きたところで、移動者の右腕の肘から先が、撃ち込まれた銃弾によって肘が分断され、風間が思い切り右腕を引っ張ると、バキンという音と共に取れた。
そして、未だに高速回転を続けるチェーンソーのついた移動者の右腕の肘から先を、風間が移動者目掛けて振る。
そのチェーンソーは、火花を散らしながら移動者の腹部を削り、段々と突き刺さっていく。
移動者も止めようとするが、既にもぎ取られた右腕は使い物にならず、左手は平子を捕まえていたはずが、逆に平子に抑えられ、使えない状態となっていた。
「……自分の武器で朽ち果てろ」
風間がその一言を呟くと同時に、痛々しい音と共に移動者の体がチェーンソーに貫かれた。
確実に致命傷だったようだ。痙攣のようなものを起こした後に、移動者がまるでシャットダウンしたかのように体が動かなくなる。
回転を続けるチェーンソーを引き抜き、銃弾を撃ち込んで黙らせた風間。そして風間が、平子に声をかける。
「……さぁ、行くぞ」
「……はい」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.183 )
- 日時: 2016/09/13 21:21
- 名前: 波坂@携帯 (ID: hSqi2epP)
場所は変わり、階層は三つ上へ。
時雨の怒りの拳が、加速者の知覚スピードを超えて、体のどの部位に当たったかすらもわからぬ内に加速者が吹き飛ばされた。
その拳は、踏み込みだけで床に浅い凹みを作り、インパクトの際には爆発したかのように音が爆ぜた。
「ごばぁっ!」
壁に高速で直撃する加速者。強い吐き気を感じ口から吐き出す。
グロテスクな色に染められた嘔吐物。そして鉄の臭いと胃液の臭いが混じり合い吐き気を促す。
四つん這いの状態の加速者の顔面目掛けて、いつの間にか接近していた時雨の足が振り抜かれる。
「図に……乗るなぁっ!」
加速者の腕が弾けるかのように音が鳴り、ジェット噴射のような閃光に後押しされて時雨の足と衝突する。
だが均衡も束の間。すぐに加速者が吹き飛ばされた。
加速者が足からエネルギーを噴射。閃光が飛び出し器用に空中で体制を整え、床に足をつく。が、運動エネルギーは残っているようで、足裏を床に付けたまま数メートルほど後退を余儀なくされる。
時雨の表情は、俯いているのか猫背になっているのかダランとしているのが原因なのか、目は見えず、表情の半分以上は髪と陰で隠れていた。
そして、戦闘の余波で破壊された照明の生き残りが、申し訳程度に時雨の表情を照らす。
そこにはーーーー時雨の顔など無かった。
正確には、それは自らを【偽善】と名乗り、憧れの先輩を目指していた時雨の、笑った表情、呆れた表情、けだるげな表情、悲しげな表情、楽しそうな表情。そのどれにも当てはまらない、酷く濁った表情をしていた。
ーーーー怒りと憎しみという名の真っ赤で真っ黒で濁った表情をしていた。
それはもう、時雨ではない。この場合。使う固有名詞は時雨であって時雨ではない。
時雨が道を踏み外していた頃の固有名詞ーーーー【機械仕掛けの喧嘩屋】。
今のそれには、その固有名詞がとても似合っていた。
真っ黒な髪のそれが、床に踏み込みを入れる。
浅めのクレーターを残し、爆音を置き去りにして、その凶悪になってしまった拳を、加速者めがけて振るう。
加速者は、拳にありったけのエネルギーを詰め込み、肘や肩等の加速装置から噴射。まばゆい閃光から打ち出された機械の腕を、その悲しい哀しい拳に合わせて打ち付ける。
轟音、後、拮抗。
発せられた衝撃波が二人の周りのものを吹き飛ばす。穴の空いた鸛を紙くずのように吹き飛ばし、鉄製のドアをひしゃげさせてねじ切り、窓ガラスを全て玉砕する。
お互いの拳が、自己主張を繰り広げ、お互いの拳がお互いの拳を破壊し、お互いが傷付いていく。
床で爆発ーーーー否、真っ黒なそれが踏み込んだ。
それだけで、たったそれだけで拮抗は崩れる。
真っ黒なそれの、傷つきボロボロの拳が、加速者を壁に叩き付けるどころか、壁を貫通するほどの威力をもってして殴り飛ばした。
加速者は、壁を貫いた衝撃で頭が回らない状態と化していた。虫の息、と言って差し支えないだろう。
そして、その真っ黒なそれは、その虫の息に対して、その赤黒いグロテスクで中途半端なコーティングがなされた腕を振り抜こうとしーーーー唐突にその場で倒れ込んだ。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.184 )
- 日時: 2016/09/16 02:43
- 名前: 波坂@携帯 (ID: hSqi2epP)
一時間。
時雨に与えられていたのは、長いようで短い一時間というタイムリミットだった。
『私の能力、[体調を引き上げる能力]だよ。ただし効果は一時間だ。
それを過ぎれば身体は殆ど動かなくなると言っていい』
扇堂医師の言葉が、時雨の頭の中で繰り返された。
段々と冷えていく思考回路。
しかし、体は依然として動こうとしない。
ガラッという音が、時雨のすぐに近くで発生した。
加速者だ。加速者が時雨によって吹き飛ばされ、壁を貫通した際に崩れた瓦礫をどかしたのだろう。下敷きになっていた証拠として、左手の真っ黒い義手は無残にもコード数本が飛び出した状態で肘から綺麗とは言えない断面で無くなっていた。おそらく瓦礫をあされば真っ黒い肘から指先までの義手が見つかるだろう。
フラフラと立ち上がり、懐から見覚えのあるものを取り出し、時雨に向かって構えた加速者。その見覚えのあるものーーーー散弾銃のトリガーに指をかけた。
「死んで、下さい」
その散弾銃にしては銃身の短い、二連の銃口を時雨の頭に狙いをつけーーーー無慈悲にもトリガーを絞る。
空薬莢が数本排出され、火薬が弾け、十数発の弾丸が飛び出す。
それらはロクに拡散せず、殆どの弾丸が時雨めがけて空気中を疾走する。
瞬間的に時雨の脳裏に『END』の三文字が浮かぶ。
しかし、時雨の体に弾丸は当たらなかった。
何故なら、止まっているのだ。停止しているとは言えないが、まるで何かに遮られているように、空気中で、時雨の直前で止まっている。
そう、鸛の念動磁場によって。
「その人に……手を出すのはゆるさな……げほっ!」
顔は青白い。
体調は明らかに良くない。
たった今も喋る途中に血を吐いた。
体には、目にするだけで痛覚を感じるような、痛々しい、体を腕で貫かれた傷がある。
それでも、鸛は立ち上がった。
抹殺者であることを否定してくれた、唯一の人間のために。
誰よりも、鸛弥夜を肯定してくれた、唯一の男性のために。
生きる価値を教えると言ってくれた、唯一の時雨という存在のために。
激痛と朦朧とする意識と戦い、体から溢れ出る血液など無視し、死ぬことを前提として、それでもなお、時雨を守り抜くと言うのだ。
フラフラの加速者に、鸛が背中の【鋼鉄の茨】を伸ばし、体に纏わり付かせた。
加速者に、最早振りほどく程の余力など残っていない。
ーーーー彼のためなら、言える。
「モード、スパイク」
加速者の全身に、体に纏わり付く【鋼鉄の茨】から飛び出た棘が突き刺さった。
拘束を緩めると、全身を血に染めて倒れた加速者。
それを見て、鸛が全ての能力による動作を停止した。
ーーーー次の瞬間、加速者が足からエネルギーを噴射して飛び掛かって来るというのに。
爆発音と共に、加速者の足から爆発的なエネルギーが噴射され、閃光を発しながら鸛へと接近する。
もう、鸛にはそれに反応できない。
その真っ黒と真っ赤のコントラストを生み出す、加速者の義手が、鸛へと吸い込まれる。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
加速者の足からエネルギーが噴射され、狙いを悟った時雨の髪がーーーー真っ赤な紅に輝く。
時雨の倒れ込んでいた床が破裂。否、時雨が体を瞬間的に起こし、思い切り足を踏み込んで、跳んだのだ。
超スピードで砲弾のように、加速者の拳が鸛に当たる一歩手前で、時雨が加速者の体に体当たりをぶちかました。
加速者が、割れた窓ガラスへと突き進みーーーー窓から外へ出て、ブラックアウトした雨の中へと吸い込まれて行った。
「良かった……貴方が生きてて……良かった……」
崩れ落ちる鸛を、髪が紅に染まった時雨が抱き留める。
それだけで、時雨の服が血で濡れていく。
「鸛!」
口から血を垂れ流しながら、鸛はなんとかその顔を時雨に向ける。
そして、必死に言葉を紡ぐ。
「私もう限界みたい……ゴメンなさい……」
「なんで……なんでそんなこと言うんだよ」
時雨が、鸛を壁に任せる。
鸛が吐血。時雨の服に生々しく血が這う。
「……私が死んでも、引きずらないでいいのよ。……私のことは、さっさと忘れるべきよ」
「お断りだ!大体……なんでお前が死ぬ前提なんだよ!わけわかんねぇよ!なんで!なんでお前が!お前が死ななくちゃならねぇんだよ!」
「……世の中は理不尽だらけよ。私だって……交通事故にさえ遭わなければサイボーグになんてならなかったんだもの……」
こうして話している間にも、留めなく溢れる鸛の血液。
「……だから、ね?私を……忘れて?」
「……忘れないからな!俺は!絶対に!忘れない!
お前がいたこと!俺の人生にお前がいたことを!俺は絶対に忘れないからな!」
「……貴方は本当に頑固ね……そんなところが、私は好きになったんだけどね」
「鸛……お前」
時雨が鸛の手を握り、気付く。
「後悔はあるわ。未練なんて数えられないわ。でも一つだけ、どうしても諦めきれない未練があるのよ」
鸛は、冷たくなりはじめていた。
それはーーーー死に向かっているということでもある。
鸛が、時雨の首に腕を回した。
「できれば……貴方の隣に……ずっといたかった。
貴方の傍にいて……貴方とーーーーゴハッ!」
再び血を吐いた鸛。もう余命はほんのわずかであることは明白だ。
「……今、私は念動磁場で血液をやりくりしてなんとか生きてるの。
お願い……私を貴方の手でーーーー殺して」
「何……言って」
「お願い。私は……最後は苦しまずに好きな人の前で死にたいの」
時雨が反論しろうとしたとき、唐突にドアが開けられた。
「時雨さん!?」
「……時雨か」
「平子!?司?!お前達何をやって……」
そしてドアから現れたのは、平子と風間だった。
駆け寄った平子と風間が、鸛の容態を見て思わず絶句する。
そして部屋を見渡す風間。最早風間には爆発物を大量に使用した部屋にしか見えなかった。
「……悪い、こっちが先でいいか?」
無言。それを肯定と見なした時雨が鸛に向き直る。
「時雨、私は、好きな人の前で死にたいの。最後のわがまま…………聞いてくれないから?苦しくて苦しくて仕方がないの……お願い」
「……無理だ!俺にはお前を殺すなんて……」
「どけ」
その短い二文字を時雨にかけたのは、風間だった。
ホルスターから実弾銃を抜き、弾を込めた風間。
「おい、執行人は俺でもいいのか?」
「司!?お前何しようとしてんだ!?」
鸛はコクリと頷く。そして少し笑って
「……貴方は優しい人ね。ありがとう」
「鸛!?お前も何を言ってるんだ!?」
「……何か遺言はあるか?」
「本音を言うなら……大好きな人と……一緒に歳をとって、死にたかった……。
……もういいわ。一思いに撃って」
「待っーーーー」
時雨がその言葉を言い終わる前に
風間がトリガーを絞り、銃弾が鸛の眉間に突き刺さった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.185 )
- 日時: 2016/09/17 08:18
- 名前: 波坂@携帯 (ID: hSqi2epP)
「司ぁぁぁぁぁ!お前は何をやってんだよ!」
時雨が、風間の胸倉を掴み軽々と持ち上げた。多少苦しいのか風間から小さな吐息が漏れる。
時雨が、腕を持ち上げて風間を殴ろうとすると、風間が言葉を吐き出す。
「さっきのアイツは、俺と火麗とザンとキャロルを殺しかけた奴だ。
例えお前がアイツをどういう風に思おうが、アイツは俺にとってはただのテロリストであり復讐の相手だ」
風間の淡々とした口調に時雨がなわなわと体を震わせる。
「だからって……殺すことはねぇだろうが!」
「アイツは死にたがっていた。苦しんでいた。
俺はただそれを解放してやっただけ。ついでに自分の復讐も終わらせただけだ」
「ふざけんな!お前がーーーー」
「ふざけているのは、お前だ」
時雨の言葉を遮る風間の言葉。
「怒りの矛先を間違えるな。俺がアイツを撃ち殺すことになった元凶に向けろ。俺がお前に怒られる筋合いなどありはしない」
「……分かったよ」
時雨が腕の力を緩めて胸倉を放す。
風間が床に足を付けると、平子に目を向ける。
「平野、もう行くぞ」
話し掛けられた平子は少し混乱気味だった。
無論、鸛の容態を見て吐き気がするのも原因の一つでもあり、時雨がいるのも原因の一つではあるがーーーーなによりも気になる疑問があった。
「了解って訳ですよ。
…………ところで時雨さん、その髪……どうしたんですか?」
〇
「……んー、もういいかしらね」
コバルトブルーの髪を二つに束ねた髪型の高身長の女性のハスキーな声が、その人以外誰もいない場所で響く。
その女性がいるのは、ガラスのように透明で青色のかかった薄い【障壁】によって作り出された城、【王城防壁】の内部である。
そしてそれの主ーーーー聖林寺五音は内部でずっと暇な思いをしていた。
その青色のガラスのようなものでできた城の周りには、武装した人間や超能力者達が様々な形で倒れ伏している。
自ら力尽きたものもいれば、聖林寺が内部から放った【障壁】を変形させた槍に貫かれたものもいた。貫かれたもの達には決まって一定サイズの穴が空いている。
聖林寺が靴の爪先でコンコンと地面を鳴らす。
すると、城が段々と透けはじめ、終いには空気中に消えてなくなるように雲散無消した。
すると聖林寺の体に雨が降り注いだ。すっかり忘れていた聖林寺が自分の上に障壁を作り出して雨を防ぐ。
降り注ぐ雨の中、視線を黒ビルに向ける聖林寺。
「……さて、あの娘はうまくやってるかしら?」
そんなことを呟く聖林寺。
聖林寺とて心配なのだ。平子のメンタルは強いようで弱いことを聖林寺は見抜いている。
適度なストレスは発育にいいが、過剰過ぎるストレスはもはやただの害でしかない。今後平子には、沢山の厄災が降り注ぐだろうと聖林寺は予想している。
ーーーー私が支えてあげなくちゃね。
と、一人で考えるのに没頭していた聖林寺に声がかけられた。
「五音っちゃん先輩ちゃん、ちょっといい?」
考え込んでいて下にずらしていた視界を、上に上げるとちょうど前にいたその人物と目が合う。
「あら、早夜ちゃんじゃない。それも大人バージョンとは珍しい。
それで?そこの二人はお持ち帰りかしら?」
そう、聖林寺の前にいたのは早夜だ。ただし身長は聖林寺に並ぶ程に高いが。
所謂早夜は大人の姿になっているのだ。そして早夜の大人姿は中々見られないので聖林寺が物珍しげに話したのは道理である。
その早夜はというと、両手に花と言うよりは両肩に薔薇状態となっていた。
なぜなら早夜はその二人を肩で支えて引きずったりしていて、その二人は棘があることでもある意味有名な二人だ。
「こんな味の強そうな二人はお持ち帰りしないよ。五音っちゃん先輩ちゃんはどっちかいる?」
聖林寺はその言葉を聞いて、じゃあと言い右肩に肩を借りる形で歩いている人影を指して言う。
その人影はブロンドヘアーで、上はシャツ姿となっている。
「じゃあジーナを貰おうかしら」
「……悪いけどアタシには、バイのばあさんと遊ぶ趣味なんて無いんだよ」
聖林寺の言葉に対し、ハリック・ジーナこと本名守谷仁奈は相変わらずの減らず口で言葉を返す。
「あらそう、それは残念だわ」
「……聖林寺、アンタそれマジで言ってたの?」
割と本気で残念そうな反応をしたので、ジーナは少し戦慄しながらも真実を問う。
「うふふふ、さあ?」
「そんなこと言うからアンタは変態とか言われるんじゃない?」
聖林寺はギリギリのセクハラ行為を繰り返すことでもある意味有名である。そのため変態と言われることもあるがーーーー実際は変態である。
特に貧乳の胸をわざと揉む等という奇行を繰り返すので、ある一部から憎まれていたりする。
「じゃあこっちはどうするの?」
こちらは完全に気絶しているようだった。その青から白へのグラデーションの髪は特徴的過ぎるので誰しもがそれを誰だか知っていた。
「雅ちゃんじゃない。
……雅ちゃんも雇われていたのかしら?」
「そうだよ。私がちょっとお仕置きしておいたけど」
お仕置き、今の姿の早夜にはする側が似合うが、仮に小さな姿の場合だったら最早早夜はされる側である。
「ジーナは?」
「ジーナっちゃん後輩ちゃんは、一階の玄関あたりで壁に背を任せて倒れ込んでたから、多分テロの方とやりあったんじゃないかな?」
〇
「俺の……髪?」
平子のように長くも無い髪を自分で見ることは不可能なので時雨がそれに気付きもしなかったのは、当然と言えよう。
時雨が髪を一本だけ引き抜く。
一本では細くて見え辛かったがーーーー色が黒ではなく赤だと言うことに気付く。
「……どういうことだ、これ」
「時雨さん……まさか……能力者に……」
「お前達、落ち着け」
二人が風間の冷静な声に耳を向ける。
「時雨の髪がどうなろうと、俺達にはもっと重要な目的があるはずだ。今までの階層に、天澤達はいなかった。
そして、このビルは残り一階。
……俺はいち早くアイツを助けたい。お前達と目的は同じはずだ。ならさっさと行くべきだ」
「……ああ、そうだな。
……これも気になるが、碧子を助け出してからでいい」
「じゃあ、早く行こうって訳ですよ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.186 )
- 日時: 2016/09/19 10:45
- 名前: 波坂@携帯 (ID: hSqi2epP)
「我々も佳境の様だな、里見」
「案ずるな。サイボーグ共はよくやったさ。最早あのメンツは押せば倒れるような人間が半数以上。我々だけでも十分対処できる。
最も抹殺者の裏切りさえ無ければ十橋時雨は仕留めていたがな」
椅子に腰掛け、ミネラルウォーターを喉に押し込む明示はその老いた風貌に多少の焦りと心配を含めていた。
里見もそれと向かい合うようにして椅子に腰掛けていた。電子タバコをくわえながら監視カメラのモニターを眺めている。
モニターには階段を駆け上がる三人が映っている。
が、明示と里見は逃げようとはしない。何故なら、三人がやってくるのは彼らの狙いのキーパーツを説得するための材料が転がり込むのと同義だからだ。
「しかし……義義理碧子の説得はどうした?奴は反抗的だったはずだが」
里見の問いに、そんなことあったなと、どうでもいい過去を思い出したかのような話し方で明示は返す。
「なに、単純な話、心身共に徹底的に痛ぶっただけだ」
チラリと壁と鎖で繋がれている碧子を見る里見。
チラリと見ただけでも、傷だらけと把握するには十分だった。白衣はボロボロで頭には血が付き、肌が覗けばそこは痣だらけだ。本人は起きているのか寝ているのかすら分からない程に虫の息である。
その隣には気絶している紡美。こちらはまだ割りと綺麗な方である。傷という傷は見当たらない。
更に隣には、未だに目を開けている秋樹がいる。無論、鎖に繋がれていて動けない状態だ。破れにくい防弾制服は一切破れてはいないが、秋樹の頬は腫れ上がっていて、足には血の色が滲む包帯が巻かれている。
天澤秋樹がマインドコントロールを受ければ、今回の目的はほぼ九割達成できたと言っても過言では無いが、奴は一向に明示に刃向かっているのか。そう感想を抱きながら電子タバコを一度手に持って息を吐き出す里見。
「さて……どうやらもうそろそろこの事件もクライマックスのようだな」
明示のその言葉に数秒遅れ、装飾が施されていた扉が無惨に玉砕される。部屋に響き渡る破砕音。そしてその奥には蹴りを放った姿勢の人間が一人。
明示が椅子から立ち上がるのと同時に、その人物が部屋へと入り込む。
そして遅れて二人の人物も入ってきた。
それは紅の髪だった。深紅の赤い紅。それは無造作に切られていて短めだ。
それは灰色の髪だった。白でも黒でもない、灰。それは目にかかる程度までに切られていて長めだ。
それは白色の髪だった。雪のような、真っ白い白。それは長いものでは腰の上辺りまで伸びていた。
「精々盛り上げるんだなーーーー正義のヒーロー達よ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.187 )
- 日時: 2016/09/21 21:49
- 名前: 波坂 (ID: hSqi2epP)
「死ね」
物騒な一言を挨拶代わりに風間が銃弾をありったけ撃ち込む。
度重なる発砲音。弾き出された弾丸達が明示に襲い掛かる。
明示はそれを数歩動くだけで回避した。それも殆ど動かずにだ。
「不意打ちとは、まるで悪役だな」
「悪役で何が悪い?」
風間が銃をホルスターにしまい、その流れの中で残り一つとなった手榴弾を取り出してピンを抜き、オーバースローで投げつける。
しかし明示はその爆発寸前の物体を傍目に直立しているだけだ。
その光景に驚く風間。
そして爆発ーーーーは起こらない。たとえそれが床に落ちても、爆発する気配は一向に無い。
その手榴弾を明示がそれをゴミでも蹴るかのようにどうでもよさげに蹴っ飛ばした。
その先にいたのはーーーー平子。
次の瞬間、平子の体が横殴りの圧力に襲われる。
「きゃぁっ!」
軽い悲鳴が手榴弾の爆発音に掻き消される。
熱風が平子を襲うが、爆発によるダメージは一向に現れない。
「大丈夫か!?今変なところ触っても文句言うなよ!?」
そう、時雨が平子を抱き寄せて横に飛んでいたのだ。時雨の脚力ならば爆発による破壊の起こり得る範囲から抜ける事など余裕である。
「い、言いませんよ!は、恥ずかしいって訳ですよ!」
平子に手を伸ばして立ち上がらせる時雨に平子が顔を軽く羞恥に染めて返す。平子としては普通にそういうことは言わないで欲しかったのだ。
一方そんな二人には目もくれず、風間は明示を睨み続けている。
ーーーー何故手榴弾が爆発しない?
風間としては手榴弾のピンを抜き、それが爆発するまでの計算を間違えた記憶はない。それが奴の能力かと疑いつつも拳銃をリロードする。
「風間さん!その人の能力はげほっ!」
「黙っていろ」
風間の存在に気が付いた秋樹が、風間に明示の能力の正体を教えようとするものの、それは里見の靴の爪先が秋樹の腹部に食い込む事で中断されてしまった。
風間の頭が一瞬だけ真っ赤に染まったが、頭を降って正気を取り戻す。今は怒っている場合ではない。そう自分に言い聞かせる。
「行くぞ!」
時雨が一瞬で明示の元まで跳躍した。軽く風が舞い起き、踏み込んだ場所にはクレーターという名の跡が残っていた。
その充分過ぎる威力を秘めた腕を時雨が振るう。
その拳が明示の掌に吸い込まれーーーーそのまま受け流される。
「ーーーーな」
時雨の拳など、そう簡単に受け流せるものではない。
仮に受け流すことに失敗すれば、肩が脱臼してもおかしくはなかっただろう。
だが明示はそれをやってのけた。それも実際に見るのは初めてで、だ。
そして、柔道の要領で床に打ち付けられる時雨。元々時雨の飛びかかった速度とほぼ等速で叩き付けられた為に時雨としてもダメージは大きかった。
時雨がガチャリという音に対して危険を察知。間髪入れずに床を横に転がる。
次の瞬間、弾丸が時雨の耳の横を走る。
弾丸が風を切る音という滅多に聞かない音を聞くが、今更そんなもので時雨は縮こまりはしない。すぐに起き上がり、再び拳を交え始める。
それから時雨が幾度も拳を放ち、蹴りを放ち、攻撃手段の限りを尽くすが、明示はそれを全て体捌きと掌で受け流す。
「クソ!決定打が入らねぇ!」
時雨は常に高速の攻撃を繰り出し続けている。威力を半減させ、その分素早く手数で攻める戦法だ。しかしそれでも明示には全てが見切られているかのように避けられる。
「代われ!」
その声を発したのはーーーー風間。瞬間、時雨が身を引き、その開いたスペースから風間の拳が伸びた。
直後、風間の能力を無効化する際の音が部屋に反響し、数秒後に風間の拳が明示の顔面を捕らえた。
そのまま力を入れて振り抜く風間。ずっしりと重みを感じながら明示を殴り飛ばした。
だが身のこなしは良いようだ。明示は転がりつつも手を付いて後転をする動作から立ち上がった。
どうやらかなり身体能力と技術は高いようだ。
だが、風間としては解せない点があった。
ーーーー何故、俺の能力が発動した?
「……里見、あの灰色の奴を潰せ」
「了解した」
里見の能力、[音速で行動できる能力]が作動。一日三度、五分間だけ音速で行動することが可能になるが、制限が厳しい能力だが、効果のある内は強力な能力だ。
里見の姿が掻き消えた。否、文字通り目にも止まらぬ音速で風間の背後に移動したのだ。
風間が背後を振り返ろうとするがーーーー胸の傷が感覚神経を通して激痛を伝える。それが行動をほんの数秒遅らせた。
たかが数秒。されど数秒。
音速で行動する里見がスイッチを入れた、電流が回路を流れるスタンガンを首筋に流し込むには充分過ぎる時間だった。
能力を無効化する音。どうやら里見が風間に触れた事により能力が無効化されたようだ。だが、既に手遅れ。風間が膝を床に付き、そのまま俯せに倒れた。
まず聞こえたのは、痛々しい秋樹の悲鳴。
「司ぁ!」
「風間さん!」
時雨と平子が風間の名を呼ぶも、風間は意識を落としてしまったようだ。全くをもって反応という反応を示さない。
その動きもしない風間を引きずって明示の前に放り投げた里見。床を転がされても投げ出されても風間はびくともしない。
「ご苦労。これで材料は揃った」
明示が風間の腰のホルスターから拳銃を引き抜き、安全装置を外して風間のこめかみに突き付けた。
「この木偶を壊されたくなければ命令を聞く事だな」
明示の目線は時雨達には向いていない。
その視線に映るのはーーーー唯一、被害者の中で意識のあった天澤に向けられていた。
「さぁ天澤秋樹、『私に従うか?』」
天澤が、悔しそうに唇を噛んだ後、頭に拳銃を突き付けられた風間とそれを突き付ける明示を見て、口を開いた。
「……ごめんなさい。私は風間さんが大切なんです。……弱い私を……許して下さい……イエス」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.188 )
- 日時: 2016/09/22 14:17
- 名前: 波坂 (ID: hSqi2epP)
秋樹が、その言葉を言い切った途端に意識を失った。そのまま壁に背中を預ける形で倒れる。
「‥…遂に、遂に手にした……未来を予知する能力を!」
その意味不明な言動と共に、いままでは自らしかけなかった明示が走り出す。その速度はとても老いを感じさせない。
その先にいたのはーーーー時雨。
時雨がいい機会だと間合いに突入された瞬間に、素早くジャブのような軽く速い一撃を腕から弾き出した。
その超高速の拳をスルリとかわした明示。時雨の顔が驚愕に染まる。
そして拳を放とうと構えた明示。時雨がそれをいち早く察知して対応策を実行に移す。がーーーー
「そちらに回避するのは把握済みだ」
ーーーー明示が、時雨の避けた方向目掛けて拳を振るった。そう、時雨がサイドステップで横移動をしたところに、丁度打ち込んだのだ。
最早たまたま、偶然としか言いようの無いラッキーヒットに狼狽する時雨。更に追撃の膝蹴りが時雨の腹を打つ。
勿論、そんな攻撃が時雨の体に効くはずがなかった。
そう、効くはずがなかったのだ。
が、時雨の体が蹴られた部分を中心として激痛に強襲された。たまらず息を吐き出してむせ返る時雨。なにか嫌な予感を感じて後ろに着地を考えずに跳ぶ時雨。勿論着地の事など考えておらず、当然床を転がる。
「……なんだアイツ……なんでだ……?」
時雨の回避する先を読んでそこに拳を打ち込んだり、時雨の頑丈な体にダメージを与えたりと色々とおかしい。明示の能力は決して物理的なものではないと考えていた時雨の頭がぐちゃぐちゃに掻き乱される。
そしてそこに明示の追撃が入るーーーーはずだが、明示はその場で立ち止まり、頭を抱えて少し苦しそうな表情を浮かべた。
「……クッ……やはり15秒が限界か……」
それを耳に入れても、未だに真偽は不明だ。少なくとも、平子と時雨では、今の発言の意味すら理解できないだろう。そう、平子と時雨では。
「私も入らせて貰おうかね」
平子の背後から声が聞こえた。瞬間的に振り返り、その拳に全身の体重と力を込める技術を用いて拳を繰り出した平子。
が、何の感触も無い。平子には心当たりがあった。
少なくとも、音も立てずに高速で移動できる人間は、一人しか心当たりがなかった。
「……貴方は未だにこんな悲しい事を続けてるんですね」
「ああ、そうだね。私は未だにこんなことを続けている」
平子の前に里見が立ちはだかる。
とても軽視できる相手では無いことはわかってる。それどころか強敵ですらある。
前は油断と偶然が重なり何とか倒したレベルだ。正直、武器も無い今平子に勝ち目など殆ど無いだろう。
それでも平子は、その目から炎を決して絶やさない。決断したのだ。もう決めたのだ。友人を救うためでもあり、自分のために戦うと、決めたのだ。
一方時雨の前には明示が立ちはだかる。
時雨の攻撃は当たらない。一方明示は着々とダメージを蓄積させる。どちらが有利かはもう考えなくともわかることだ。
それでも、時雨は立ち上がる。
唯一の、今の自分に残された、たった一つの、かけがえのないもののため。そして自分のためにだ。
「さぁ、最後の楽譜だ。精々足掻け」
〇
「しっかし……どうしようか。風間っちくん後輩くんを助けに行っても良いんだけどジーナっちゃん後輩ちゃん達も心配だしね」
早夜が黒いビルを見つめた後、振り返って息絶え絶えなジーナを見る。
顔色は悪く、引きこもっているせいで真っ白い肌は青白くなっている。
腹部の傷は酷い。鈍器を激しく打ち付けられた部分の変色が激しく、まるで紫のペイントを施したようだ。そして口からは血が垂れている辺り、内臓もダメージを負っている。早夜はとても医者として見逃せる容態ではなかった。
取り合えず水を一度沸騰させ、それを冷やして再び水にするという蒸留という動作を行い、それを冷やした水を傷に当てているのだが、あくまで応急処置でしかない。
雅もグロッキーの状態だが、早夜は一応死なない程度に電圧を調整していたので大丈夫だと踏んでいた。
聖林寺は自分の車を取りに行っている。早く医療機関に連れていかなければならないからだ。つまり、手が空いている人員はいない。
仮に聖林寺が戻ってきても、そしたらすぐさま車で運ばなければならない。緊急事態の為に早夜は車に乗らなければならない。どちらにしろ風間の救援に向かうことは無理なのだ。
と、軽自動車が近くに停車した。どうやら聖林寺が到着したようだ。そのまま二人を担ぎ込む。
「……早夜ちゃん、心配なのかしら?」
「……うん、そうだね。風間っちくん後輩くんってなんか心配なんだよ。あの子、多分どこまでも無理しちゃうから」
その心配そうな表情をした早夜。そろそろ大人の時間も終わりそうなので、車に乗ろうとした時だった。
その人影が、二人の視界に映ったのは。
所々跳ねたウルフカットの金髪の髪は、少々乱れていた。
同じく金色の瞳はけだるげに歪められていて、表情は自分の行動への馬鹿らしさに呆れているようだった。
白シャツのインナーの上。テーラードジャケットを羽織り、ボトムスにスニーキーパンツ。それらは所々汚れていたり血痕が付いていたりした。
また、傘もさしておらず全身はびしょ濡れだが本人は気にした様子はない。
「……聖林寺と……大人版の早夜チャンじゃねーか」
その人影ーーーー表の社会の中では最強を冠する『司る能力者』であり、[エネルギー変換を司る能力]と[伝導を操る能力]を合わせ持った能力者ーーーー風折影雪は二人を見てけだるげに挨拶をした。
「……あら、ユッキーくん。何しにここへ?」
「その呼び名まだ続けんのかよ……ああ、ちょっとここのデケー障害物が邪魔だから更地にしに来た」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.189 )
- 日時: 2016/09/22 17:39
- 名前: 三毛猫 (ID: s00TEuml)
なんだろう、影雪さんが来た途端に、この安心感…………!
毎話どのような展開になるのか、とてもドキドキしながら、楽しく読ませてもらっています。
続きも期待しています。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.190 )
- 日時: 2016/09/22 23:11
- 名前: 波坂 (ID: hSqi2epP)
三毛猫さん感想ありがとうございます。
こういう感想、普通に飛び上がるくらいに嬉しいです。本当に。
影雪さんはようやく本領発揮ですからね!今まで空気っぽかっただけにこれからはバリバリ目立っていく予定です。
次の話もお楽しみに。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.191 )
- 日時: 2016/09/23 21:53
- 名前: siyaruden (ID: jo2UR50i)
今晩はsiyaruden です
回覧数5000を突破しました!おめでとうございます!
いや~ここまで貴方の小説が愛されている証拠ですね........正直羨ましいです
この小説が執筆開始からもうすぐ一周年を向かえる訳ですがその時も改めてお祝いしようかと思います
あと聖林寺さんの各キャラの愛称ですが私のキャラは
裁華→サッちゃん
プルミエル→エルちゃん、エルルん、エルっち
恭子→キョンちゃん、キョン子ちゃん
と呼んでくれれば嬉しいです
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.192 )
- 日時: 2016/09/24 00:01
- 名前: 波坂 (ID: hSqi2epP)
siyarudenさんありがとうございます!
他の人から言われると嬉しいです!
そういえばこの小説ももう一周年ですね。どんだけ長いんだこれ……(汗)
聖林寺さんは基本、ある程度は知っている人はちゃん付けくん付けもしくはあだ名でしか呼ばないのでこの内のどれかで呼ばせて貰いますね。
続きです。
「……いい加減諦めろ。往生際が悪い」
時雨の体に明示の蹴りが入る。
そんな蹴りは本来なら通じないーーーーはずだが、時雨には多大なダメージがのしかかる。
時雨の攻撃は、それらは最早受け流すどころか触れられすらせずに全て避けられた。
そんな理不尽な戦闘が続き、時雨の体はボロボロとなっていた。
だが、時雨の瞳には諦めの感情は灯らない。灯っているのは決して諦めないという強い意志。
気に食わないと、明示が時雨の顔面を殴り飛ばした。床に転がる時雨。
「何が貴様を動かす?何が貴様に虚勢を張らせる?何が貴様の目的だ?」
床に転がる時雨に侮蔑の目を向けて問い掛けた明示。時雨は気丈に視線を合わせて答えた。
「大切な奴、連れ戻しに来ただけだ」
一方、平子は一方的に攻められていた。
音速の五分をなんとか耐えた平子。しかしその時既に体はボロボロで、もやしのように細い里見の相手すら厳しい状況へと追い込まれていた。
「もう諦めたまえ。君の勝率はほぼ0%だ」
「0%じゃないなら、私は最後まで抵抗するって訳ですよ」
しかし、例え二人が諦めない心を持っていたとしても、状況は全くをもってして好転はしない。
既に二人とも満身創痍。相手の二人は未だに余裕。勝率があるとかないとかの次元を超えて、二人が敗北を喫するのは目に見えていた。
〇
真っ黒いビルの壁面に触れる影雪。聖林寺達は既に医療機関へと向かっているので、この場で意識がある人間は二人。
そう、二人。
一人は当然影雪。もう一人はーーーー加速者こと白道潤正である。体はその通りスクラップに近く、銀髪は汚れ放題。体は血まみれ。最早生きている方が不思議なレベルである。
「オイ、スクラップ。一つ聞いておきてー事がある」
スクラップ呼ばわりされた加速者としては憤慨の念を抱かざるを得ないが、最早風前の灯、風の前の塵に同じとなっている自分の寿命に限界を感じるにつれて、怒りはどこかへと溶けていく。
「プロフェッサー……ってのは誰だ?」
「それはゲッホガハッ!……里見……甲人プロフェッサーで……」
その続きの言葉は耳に入らなかった。
なぜなら、影雪が壁面を走り出したのだ。
そう、壁面をなんの苦もなく走り出したのだ。
これは摩擦と重力による運動エネルギーの補正を無理矢理能力で捩曲げているのだ。そうすることにより、重力と雨による摩擦力の低下を無視して壁にエネルギーを伝え、壁を床のように蹴って壁を走っている影雪。
そのスピードは、常人の走るの比ではない。空気を切り裂き、雨を弾いて、壁を高速で上っていく。
そして影雪の顔はーーーー笑っていた。
壊れた笑みで、歪んだ口元で、心の底から笑っていた。
ーーーー決して愉快な感情からきたものではないが。
「待ってろよぉぉぉぉぉ……里見のクソ野郎がぁぁぁぁぁ!」
〇
その、狂喜に狂った叫び声が、最上階の平子達のいる部屋に響いた。
そして、誰もが反応をしようとした瞬間、窓ガラスが蹴破られ、何者かが室内に入ってきた。振り込むガラスの破片と微量の雨。
金髪の濡れた髪を掻き分けながら、その歯車狂いネジが飛んだ残酷な笑みを浮かべて、その人物はこう言った。
「…………雪花の一件、忘れたとは言わねぇぇぇよなぁぁぁぁぁ?……里見ィィィィィ!」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.193 )
- 日時: 2016/09/25 13:42
- 名前: 波坂 (ID: hSqi2epP)
その人物を見て、真っ先に表情を驚愕に染めたのは里見だ。
そして、平子と時雨が驚きながらも首を回す。視界に移った見覚えのある人物に二人がほぼ同時に声をあげた。
「風折!?」
「影雪さん!?」
予想外の人物の登場に、場が静寂に包まれる。唯一何も驚いていないのは明示だけだ。
「オイオイオイ!テメーらしけた面してんな!オレは今最高に興奮してるっつーのによぉぉぉ!ああああああ!最高だぁぁ!今日は最高の日だぁぁぁ!こんなに素敵なことが応酬するような日は久しぶりだぁぁぁ!」
その静寂に影雪の騒がしく嬉々とした様子の、ひび割れた声が響く。堪えきれないとばかりに漏れ出す笑い声は、正常な精神を持つ者が放てるものではない。
平子はそんな影雪に驚きの目を向ける。なぜなら平子の頭では影雪は常に妹以外に関心が薄い、過保護なシスコン程度にしか思っていなかったからだ。
だが、今の影雪はどうだ。
急に現れて混乱した頭だが、平子でも理解できた。
ーーーー影雪は、既に狂っている。
時雨としても、そのような感想を抱かざるを得ない。
壊れた声を響かせながら、影雪が高速で移動し、里見の頭を鷲掴みにした。
里見が音速を出そうとするが、加速はしない。
その里見の心情を覚ったか否か、影雪が吐き出し嘲笑うかのように、壊れた声で話す。
「テメーの音速ってのはよぉぉぉ、よぉぉするに移動速度をマッハ1まで速度を上乗せしてるだけだろぉぉぉが。だったら話は単純だっつーのぉぉぉ。
テメーが加速する為の運動エネルギーは全部オレが変換して横取りしてんだよぉぉぉ!」
そして鷲掴みにした頭を、鉄筋コンクリートの壁目掛け、奪った運動エネルギーをその里見の頭を掴む右腕に伝導し、
「ギャハ!」
一切の慈悲や容赦などなく、叩き付けた。
打撃面から、痛々しく残虐性の塊のような、グロテスクな音が弾けた。
トマトを壁に投げつけたように、大量の赤い飛沫が飛ぶ。
壁を蜘蛛の巣状にひび割れさせ、一部を破壊した里見の頭の行方など、最早言う必用はない。
そして、それを攻撃する必用も無い。
だがーーーーこの程度で、影雪が約二ヶ月間溜め込んできた怒りが晴れる道理はーーーー無かった。
里見だったものが、霜に覆われ、凍り付く。
影雪が全ての熱量を奪ったのだ。0度は水の融点、人体など凍てつく温度だ。
その凍った氷像を、奪った熱量を運動エネルギーに変換し、天井に投げ付けた。
人体が、氷のように砕け散る。四つほどの塊に分かれた里見の屍。
「オレがテメーの屍、残すわきゃねぇぇぇよなぁぁぁぁ!」
それでと飽き足らないと、影雪がその四つの塊に触れる。
次の瞬間、大量の水蒸気とともに四つの塊が粉々に爆ぜた。
影雪は、大量の熱量を押し込み瞬間的に沸騰させるという、自然現象では不可能な行動をとっていた。
凍り付いた血液が急激な沸騰を起こし、結果的に肉体を粉々にしたのだ。
「ギャハハハハハハハ!ヤベー!脳が沸騰しちまうかもしんねー!最高だぁぁぁ!本当に愉快で愉快でたまらねーよ!」
一人で髪を掻きむしったり身体を忙しなく動かしたり、挙動不審な影雪。その興奮は冷めない。
平子はただ、友人の兄に絶句するしかない。
時雨はもう、そんな影雪を見ていられない。
「じゃあ宣言どぉり更地にしてやんよぉぉぉ!ギャハ!」
影雪が床を蹴って窓から飛び降りた。それだけだ。
それだけで、窓ガラスが全てひび割れ、証明がスパークし、モニターが爆発する。
目も当てられない超常現象の後、影雪が過ぎ去り再び静寂が訪れるーーーー訳がない。
下から、爆発音ともとれる轟音がはい上がってきた。
影雪が、暴れているのだ。
彼は、宣言通り、この一帯を更地にしようと言っているのだ。
「早く逃げねぇと!クソ!」
時雨が明示に飛び掛かる。不意をついたつもりがあっさりと避けられ顔面に膝蹴りを貰った。
「諦めろ。お前達では私は倒せん」
「うるせぇんだよ!てめぇが倒せねぇとか関係ねぇ!」
心底馬鹿らしい。そんな風な表情で、明示は呟く。
「なぜ、あんな能力の容れモノ如きにムキになる?」
時雨の怒りが、爆発しそうになった。
平子が、声を荒げて怒ろうとした。
だが、そんな二人の感情さえも、明示の精神すら凍り付いた。
そのーーーー一人の声によって。
「ふ ざ
け
る
な 」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.194 )
- 日時: 2016/09/26 21:53
- 名前: 波坂 (ID: hSqi2epP)
「な……ぜ……だ」
その声が、他の音を全て殺した。
勿論、音が無くなった訳ではない。
ただ、その声の圧倒的な存在感が、他の音を認識させていないのだ。
「何故……だ」
フラリフラリと、何度も何度も崩れ、それでもなお立とうとする、そんな人影の発する声は、まるで怒りを何千倍にも圧縮したような声だった。
「貴様らに……貴様ら如きに……」
その声が、平子を恐怖で支配した。
崩れて膝を着く平子。しかし、その視線をそれから背けることはできない。
「何が……分かる‥…アイツの……天澤の……何が分かる……」
その声が、時雨をその場に縛り付ける。まるで金縛りにあったかのように、微動だにしない時雨。
「アイツほど……天澤ほど……心優しい人間が他にいるのか……!気遣いのできる人間がいるのか……!」
その声は、常に冷静を保ち平然としていた明示ですら、その顔を恐怖一色に染めていた。
「天澤の何が悪い……!天澤の何が気にくわない……!天澤が何をした……!」
絞り出すように、濃密な怒りと哀しみの感情の弾丸が、その灰色の髪の人物から放たれる。
「ふざけるな!いい加減にしろ!何故罪無き天澤が!貴様のような人間の屑の肥やしにされなければならない!
何故お前は!お前達は!天澤を否定する!天澤秋樹という一人の人間を肯定しない!何故『未来を予知する能力』のみを認め天澤を認めようとしない!
天澤を否定するのは許せん!例え貴様にどのような理由があろうともだ!」
涙。
風間の、緋色の瞳から漏れるのは、一筋の水だった。
風間が泣いたことなど、あっただろうか。
それを自分の為ではなく、他人の為に流したことなど、あっただろうか。
「天澤のような人間が損をし、貴様のような屑が得をするだと!?
消す……!殺す……!そんなものは全て全て俺が殺して消して存在そのものを無くしてやる……!」
風間が、そのロクに動きもしない体を、後先考えずに持てる全力を挙げて、明示に殴りかかった。
明示がかろうじて意識を取り戻し、それに応戦しようとするが、フラフラの風間のストレートが顔面に突き刺さる。
「効かぬ!」
明示の放った拳。風間を一メートルほど吹き飛ばしたそれの威力は高い。
明示が膝に手を付き安心したのも束の間、風間の動くはずも無い体が動かされる。
筋肉が悲鳴を鳴き叫ぶ。骨が苦痛を訴える。
だが風間は止まらない。例え何度打ち倒されようとも、そのスクラップ同然の体を動かし、殴られて腫れた顔を上げ、泥臭く無様にしがみつく。
また、一発。みぞおちに拳が入り風間の体が膝を着いて倒れる。だが風間は諦めない。
また、一発。突き飛ばされ風間の体が背中から床に這う。だが風間は止まらない。
また、一発。顔面を殴られて宙を舞い、床に音を発てて打ち付けられる。だが風間の炎は消えない。
もう風間に、止まる理由も思考も選択肢も存在しない。あるのは一つ。目の前の人間を倒すという思考だけ。
なぜなら、明示は、紡美を、碧子を、そして天澤を『容れモノ』扱いしたのだ。
風間はそれを許さない。自分がどれだけ傷付こうがどうでもいいが、天澤を汚すのは許さない。
血まみれスダボロ呼吸難。三拍子揃ったやられ様。だが風間はそれでも往生際悪く、泥臭く、諦め悪く。三拍子揃った無様な格好悪さを見せながら、それでも風間は止めない。
ーーーー後悔、させる。
風間の拳が明示のみぞを捉える。しかし明示は苦しそうに顔を歪めただけで、風間のがら空きの顔面を容赦なく殴る。
もう何度目かすら検討も付かない快音。しかし風間は立ち上がる。
「貴様は……何だ」
明示が小さく呟いた一言。風間は、それよりも小さな声で応じた。
「……貴様を……倒す……それだけだ……」
明示が、小さな動揺を見せる。
それを、風間は見逃さない。
「あああああああああああああああああああああ!」
風間の放った拳。
それは明治の顔面を完全に捉え、鼻を潰して殴り飛ばした。
一メートルほど吹き飛んで、明示が脳震盪を起こして気絶した。
ーーーーざまぁみろ。
そしてーーーー風間がその殴った姿勢を直さずに、そのまま床に倒れ込んだ。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.195 )
- 日時: 2016/09/28 21:34
- 名前: 波坂 (ID: hSqi2epP)
風間が倒れ伏し、そのまま動かなくなる。
意識を失ってしまったようだ。むしろ先程まで本当に意識と言えるものが存在していたかすら怪しいレベルの様子だったが。
風間の最後の一発を受けた明示も、同じくして動かない。
「……限界って奴……か」
時雨の弱々しい声。追い掛けるようにして、ドサリと倒れ込む音。
平子が振り返ると時雨が俯せになって倒れていた。その紅の髪が段々と黒に染まっていく様をじっくりと見つめる平子。
相変わらずよくわからない人って訳ですよ。そんな感想を胸の内で述べながら、手をついて立ち上がる。先程の余韻がまだ残っているのか、膝はガクガクと笑っている。
足を奮い立たせ、取り合えず安定して立つ平子。深呼吸をすると血の臭いが鼻を突き刺して思わず吐き気が誘われる。
回りを見れば世紀末もよいところな戦場跡地が広がっている。余さず砕かれた窓ガラスや爆発した精密機器はここでどの程度の力が使われたか如実に語っていた。
「取り合えず……終わったって訳かな……」
が、その考えが甘い事を平子は思い知らされる羽目になる。
フラリと紡美が立ち上がった。何故か手錠や鎖は全て外されていた。
多少の疑問を抱いた平子だが、正直それはどうでもいい事。むしろ外す手間が無くなったと思ってすらいた。
そのまま平子は紡美に近付く。それを察したかのように、紡美もそちらを向いた。
その距離が50cm程度まで埋まる。改めて紡美の顔が目に映る。
高校生にしては幼い容姿。黒い髪のショートヘアー。柔らかそうな頬。やはり親友の古都紡美である。
ーーーーしかし平子はどうしても違和感を感じてしまう。
それを自分の勘違いと判断した平子に、紡美が抱き着いた。
軽口を添えて頭を撫でようとした平子。
しかし、それは腹部に襲い掛かった強烈な熱さで中断されてしまう。
「ーーーーえ?」
思わず数歩たたらを踏み、紡美から離れた平子。
そしてーーーー自分の腹部に突き刺さった折り畳み式のナイフの刃が、明かりに照らされて妖しく光った。
激痛を腹部に感じた。どうやら切り裂かれた痛みを熱と勘違いしたらしい。
急いでナイフを抜く。すると更なる激痛が平子の腹部を突き刺し、血液が止めなく溢れ出る。藍色と混ざり合い深い紫に染まるブラウス。
反射的にその血に塗れたナイフを放る。クルクルと回転しながら床を滑り壁に当たって小さな音を出す。
「痛ぁい!」
声をあげて痛がる平子。だが思考回路は働いている。
ーーーー誰?誰の仕業?
ーーーーまず風間さんと時雨さんは除外だ。勿論碧子ちゃんも紡美ちゃんも青い髪の人も除外。だったら、あの人?
平子の視線が明示が倒れていた場所に向く。
明示は倒れていたーーーーが、目は開いていた。そして平子が視界に入れると同時に瞬きをした。
ーーーーアレを、止めれば。
紡美がナイフを拾う。それを傍目に腹部を押さえて明示の元へ向かう平子。
この時幸いだったのは、人質の中でまともに体が動くのが紡美だけだったことだ。他の二人まで動かされては最早平子に希望の二文字は見当たらなかっただろう。
紡美が平子に向かって走る。平子は気にせず明示を目指す。
平子と明示の距離は残り3m、対して紡美と平子の距離は5m。
それは間に合うかのように思えた。がーーーー平子の腹部が強烈な激痛を発信し続けてていて、平子の足取りはフラフラだ。
そして明示との距離が1mほどになったときだった。
紡美が、親友に向かって、そのナイフを振り下ろし、背中に突き立てたのは。
「ぎあぁぁぁっ!」
堪え切れずに漏れた、痛々しい悲鳴。
そのまま紡美が、ナイフを深く押し込む。
当然、燃え上がるように激化するのは痛覚。
「ああっ!ぎっ!あっ!」
だが、平子はそれに負けない。点滅する視界と段々と無くなっていく触覚という、頼りない感覚神経共に頼り、ポケットかあるものを引き抜く。
重く冷たいそれは、どこか危険なフォルムをしていた。
『使え。とは言わないわ。ただ、それ脅し目的なら大分使えるわよ。あ、安全装置は外してないから。……じゃ、後頼むわよ!』
聖林寺の声が、平子の頭で反響した。
そして、平子が真っ先に思ったこと。それはーーーー
ーーーー安全装置を外して。
ーーーーえっと……こう?
そして平子がーーーーそのポケットから取り出した、黒光りする拳銃の引き金を、明示に向かって絞った。
強い衝撃が伝わり、思わず銃を落とした平子。
銃声に刺激された耳がキーンと鳴る。
そして、明示の頭が、真っ赤に弾けた。
血の噴水に鉄の香りを感じながら、平子はそのまま俯せに倒れた。
「……駆け付けてみたらこの有様ねぇ……。
平治郎さんの頼みを聞いて正解だったわ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.196 )
- 日時: 2016/10/01 07:16
- 名前: 波坂 (ID: aU3st90g)
第7章、〜無彩色は何の為に〜、エピローグ
エピローグ1.黒は守るべき少女の為に
十橋時雨は右手に花束を手にぶら下げていた。左手にはビニール袋が下げられている。
身に纏うのは喪服の代わりの真っ黒いスーツ。
背丈の高い時雨が見下ろしていたのは、元々黒ビルだった瓦礫達。影雪によって完膚無きまでに破壊されたそれは最早原型がどうのこうのと議論を重ねるだけ無駄なように思える。
三日。
そう、時雨が寝込んでいた期間だ。
その三日の間に、特殊警察は現場の取り調べを終えていたらしい。ここに来た際には黄色いテープが事件現場を取り囲んでいただけ。他は数名の見張りがいたのみだ。
「……」
何も言わない時雨。無表情で花束を置き、ビニールから線香を取り出し、今時使う機会も少なくなったマッチ棒で火を付け線香の先端を燃やす。
その蛇のような、くねくねとした動きで白い煙りは空へと上がっていく。
その線香を適当な瓦礫の上に置き、黙って両手を合わせて目を伏せて合掌。
暫く不動。束の間の静寂。
耳に入るのは、ただ遠くに聞こえる街の喧騒。
その後時雨は目を開けて、ただ目の前の瓦礫達に目を向けた。
「……ゴメンな……鸛……お前を……守れなくて……」
時雨がその言葉を発し、踵を返して帰宅しようとしたその時だった。
ーーーーその血色に染まった鉄線が目に映ったのは。
「……」
無言でそれの元に近寄る時雨。不安定な瓦礫達を踏み越えた先にそれはあった。
その細い鉄線を頼りに、瓦礫を次々と退かしていく。ガランガランと瓦礫の破壊音が流す、粗い合奏曲。
その一際大きな瓦礫を両手で持ち上げ後ろに投げた時、それは姿を現した。
ーーーー周りの灰色の景色とその闇色の長髪の奏でるコントラストは刺激的過ぎた。
ーーーー顔に付いた幾つもの赤い斑。それはまるで液体を乾燥させたような質感だった。
ーーーーレディーススーツにリュックサック。そしてリュックサックからは何十本もの鉄線が伸びている。
ーーーー一際目を引いたのは、その腹部に開いた大きな傷。水筒一つ分程度の大きさの円柱をくり抜いたかのような傷。
ーーーーその唇は紫色となっていた。目は伏せられている。そして安らぎを得た安堵の表情。
時雨の顔に、水玉がまた一粒。また一粒と伝う。
それを起こし、そのまま両腕でガッシリと抱きしめる。
こんなこと、時雨にはできなかった。
相手が死んでいなければ、時雨にはできなかった。
「畜生……」
「畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!鸛ぃぃぃぃぃぃ!」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.197 )
- 日時: 2016/10/02 12:50
- 名前: 波坂 (ID: aU3st90g)
散々涙を零した時雨は、鸛だったものをその場に置いて、その場から立ち去った。
黄色のテープの前で待っているのは碧子だ。頭に包帯を巻いていたり、左腕と右足に包帯を巻いているが、それでも相変わらず白衣にワンピースの奇抜な服装をしている。
「時雨、終わった?」
碧子にはあえて来ないように頼んでいた時雨。自分の情けない姿を見せたくなかった。というのも理由の一つとして上げられるだろう。
時雨は碧子の言葉に全くの反応を示さず、黙っているだけだ。
「どうしたのー?時雨?」
「……なぁ、碧子」
ようやく言葉を発した時雨は、とてもどんよりとした目をしていた。
そして、唐突にその場に膝を付き、碧子に抱き着いた時雨。
突然の行為に驚愕を覚え、慌てる碧子。
「し、時雨?何をやってるの?碧子、そんな趣味があるなんて知らなかったよ?」
軽口を混ぜて冗談気味で言葉をかける碧子。
だが、時雨はそんな言葉に耳を貸してはいなかった。
ただ、碧子の体に、涙を零しつづける顔を押し当てて、華奢で折れそうな体を抱きしめ、言葉を続ける。
「お願いだ……頼む……碧子‥…。
お前は………‥お前だけは……俺の前から……消えないでくれ……死なないでくれ……碧子……!」
「俺を……‥…一人にしないでくれ……」
時雨は、無敵で完全で、全てを救えるヒーローではない。
弱虫でちっぽけな存在なのだ。人の屍を、一人では踏み越えられないほどに、弱虫だ。
ではそんな時雨に、碧子は失望するだろうか。
「……うん。分かったよ」
答えは『否』
碧子は知っている。
時雨は、常人離れしているのは肉体だけだと。
偽善者を名乗っている時雨は、ただの仮面でしかないと。
精神は、心は、普通の人間と、なんら変わらない。ヒーローみたいな強さは無いと、知っている。
それでも、碧子はその仮面の時雨と『本当の時雨』を愛し続ける。
なぜなら、碧子は救われてしまったのだ。時雨の一言で、たった一つの言葉だけで救われ、時雨によって、人生を変えられたのだ。
だから、もう後戻りなんてできない。それほどまでに、碧子は時雨に恋をしてしまっているのだ。依存にも置き換えられらほどの愛情を、碧子は持ってしまったのだ。
ーーーー碧子は、ずっと時雨を愛し続けるよ。例え時雨が凶悪な犯罪者になっても、碧子を嫌いになっても、碧子は愛し続ける。
ーーーーだって、好きになっちゃったから。
その小さな手を、時雨の頭に乗せて、赤子をあやすように撫でる。
いつもは撫でられる側だった碧子。撫でられるのが好きだった碧子。だけどこれも悪くない。碧子はそう実感していた。
「碧子は、時雨が……時雨が守ってくれてる間は、ずっと時雨の傍にいる。
勿論、碧子を守るために時雨が傷つくのは嫌だよ?だけど……時雨はいいって言っても守るもんね。
だから、時雨は……碧子のヒーローになって?碧子の前では、ヒーローでいて?」
「……ああ、俺は碧子のヒーローだ……ずっと守る。誰にも渡さない……」
そして、時雨は再び碧子を一層強く抱きしめ、嗚咽を漏らし始めた。
まるで、今まで溜めていた全てを吐き出すかのように、小さな温もりを感じながら、時雨は涙を零し続けた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.198 )
- 日時: 2016/10/05 13:58
- 名前: 波坂 (ID: aU3st90g)
エピローグ2.白はかけがえのない友人の為に
平野平子が目を覚ましたのは、事件から二日後の朝だった。
一応、平子の傷はそこまで深くはないらしい。ただかなりギリギリの出血量だったらしく、後三日は大人しくしているようにと扇堂医師から告げられていた。
病室のベッドで上半身を起こして横になっている平子。
そして、それの傍にいるのは紡美だ。 らしくない暗くどんよりとした雰囲気を漂わせている。
なにを喋ろうにも今この場で適する話題を考えつかない平子。
その二人の間にシンとした空間が生まれる。ただただなるのは心音を計測する機器の小さな音ばかり。
「えっと……」
「あのね……」
お互いがようやく決心して喋ろうとするが、タイミングがピッタリと被ってしまい空振りに終わる。再び気まずい空間。
平子が逃避気味に窓を見る。空には鳥が飛んでいた。ああ、私も空が飛べたらなぁと関係の無いことを考えた瞬間、謎の不可視の攻撃(念動砲弾)によって鳥が撃ち落とされた。
夢を返せと心の中で呟く平子。
羽根を散らして落ちていく鳥は恐らくカラスだろうか。ゴミを漁るカラスは未だに人々の敵だったりする。
「……平ちゃん」
と、平子が無意味な現実逃避を繰り返している間にも紡美は決心を固めていたらしい。小さな声で平子を呼ぶ。
「ん?どうしたの?」
紡美の顔が俯き、声が暗い口調となる。
「……私、人を殺したんだよ……怖いんだよ……私は……私が……」
紡美が吐いたのは、自分と殺人への恐怖を表す言葉だった。
平子としては、
「え?なんで怖がってるの?」
そう返した。
何の迷いもなく。
まるで当たり前のことを疑ってきた人に返す返事のように。
日常生活の会話の一部であるかのように。
平然と、その言葉を発したのだ。
「ーーーーは?」
思わず、一文字の聞き返すニュアンスの言葉を出してしまった紡美。だが、紡美はそんなことがどうでもよくなるほどに驚いていた。
あの、正義感の強かった平子が。
あの、人の死体を見て吐きそうになり頭が混乱していた平子が。
ーーーー当たり前程度にしか、殺人に対しての感情が無くなっている。
「だって紡美ちゃん、アレは正当防衛って訳だよ?」
一瞬、平子が本当に理由もなく殺人を肯定てしいるのかと疑っていた紡美は、少しばかりの安堵のため息をついた。
しかし、理由があれば殺人を肯定しているのだ。それだけでも平子は変わったと言えるだろう。
紡美は驚きはしたが、まあこの程度なら自然と治るのではないかと希望的な観測を打ち立てた。
ーーーー次の瞬間、その期待がぶち壊されることも知らずに。
「だって私も人を殺したよ?」
恐怖。
それが、形も無く紡美に襲い掛かる。
平子は、たった今、何事もなかったかのように殺人を自白した。
何事もなかったようにだ。
そして、紡美にはわかってしまった。
平子は、壊れてしまったのだと。
例え表面上は治っていてもーーーー平子の心は壊れたままだ。
正義感はあるが、殺人に対しての感情は薄い。
恐怖はあるが、殺人に対しての恐怖は薄い。
そんな風に、都合よく殺人にのみ正義感や恐怖などの感情が働かなくなってしまったのだ。
心を壊さなければ、乗り越えられないほどの逆境だったのだ。
思わず、紡美は平子の手を握った。
怖かったのだ。紡美は、平子に対してではなく、怖くなったのだ。
ーーーーいつか、平子が自分の知らない平子になってしまうのではないかと。
だから、せめて繋ぎ止めようと、紡美は平子の手を握ったのだった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.199 )
- 日時: 2016/10/07 07:15
- 名前: 波坂 (ID: aU3st90g)
「……終わったのかな」
平子は一人で屋上の鉄格子に肘を乗せて空を見ていた。頭には包帯が巻かれ、傍らには一応渡された松葉杖が立て掛けられている。
思い返せば、今回の事件は幾重にも奇跡と偶然が積み重なっていた。平子は今更そんな事を思い浮かべる。
平子一人では、確実に辿り着けなかった。
結構ギリギリだったって訳だよねぇ。そう一人で呟く。
当然、返す者はいないーーーーハズだった。
「ええ、その通りよ」
だが平子の背後から声が返された。予想外の出来事だが、平子は落ち着いていてゆっくりと後ろに首を回す。
紫色の長髪、紫色の髪。ゆったりとした紫色の柄の服を着ていて、身長は平子よりも10cmほどは高いだろう。紫色のハイヒールはそこまで高く作られておらず、履きやすさを重視したデザイン。細身と言うよりは太過ぎず細すぎずという体。
「……一応聞いときます。貴女は誰って訳ですか?」
女性は微笑みを浮かべてその口紅の塗られた綺麗な唇を動かした。
「私は中央エリア元首、織宮織香よ」
「……元首さんが一人の女子高生になんの用って訳ですよ」
平子は余り驚いていない。というよりは疲れていて反応するのが面倒といった印象を抱かせる。
対して織香は「もう少し驚いてくれてもいいのに……」と一人で少し残念気味に呟いている。
「まあいいわ。それより貴女。気にならないかしら?」
言葉足らずもいいところの台詞。だが平子は何を読み取ったか問い返す。
「……事件の全貌……ですか?それなら気になりますよ」
再び微笑む織香。否、先程より怪しげな雰囲気を放出している。
「じゃあ教えてあげる。貴女には知る権利があるものね」
〇
「まず今回の事件について軽く流して説明するわよ。
今回の事件。それはDHAが三人の能力者を狙って起こした事件よ。
三人……は説明しなくていいかしら?」
「……そういえば、あの青髪の人は……」
「天澤秋樹ちゃんね。彼女は世界でたった一人の[未来を予知する能力]を持った女の子よ。勿論、デメリットだらけだし、かなり先の未来は見えない。第一彼女自身の戦闘能力はほぼゼロだもの」
「……え?じゃあなんでDHAは?」
「過去、秋樹ちゃんは一度だけDHAに誘拐されたの。風間くんが救助したらしいけど……。その時はマインドコントロールで強制的に操っていたのよ。
秋樹ちゃんの欠点。それは15秒以上先の未来を見ようとすると強烈な頭痛が襲い掛かること。
でも……マインドコントロールで頭痛を無視させれば何時間先だって読めるわ。……そんなことを長く続けていたら脳が崩壊を起こすけど、ね」
「…………」
「さて、ここで問題よ。
何故DHAは三人を狙ったのかしら?」
「特異な能力者を確保する為……ですか?」
「惜しいわね。答えは『三人の能力が必要だったから』よ。
ここで第二問。三人の能力は何?」
「……紡美ちゃんの[結果と選択を司る能力]。碧子ちゃんの[能力を発展させる能力]。そして天澤さんの[未来を予知する能力]」
「正解よ。じゃあ第三問」
「三人の能力を組み合わせたらどうなるのかしら?」
「能力を……組み合わせ?
……紡美ちゃんの能力は把握している現象・物事がどういう方向に転がるか、またその物事の結果を操れるって言ってたし……。
碧子ちゃんは他の能力者の能力そのものを引き上げる能力……。
さっきの天澤さんの能力を組み合わせたら……」
「……まさか、未来を操れる……って訳ですか?」
「そうよ。秋樹ちゃんの能力で未来を知覚。紡美ちゃんの能力でその把握した未来を捩曲げる。
でも二人の力……特に秋樹ちゃんの能力はまだ制限が激しい。だから碧子ちゃんの能力で力を引き上げる。そしたら……完全に。とは言わないけど、[未来を操る能力]が生じると言っても過言では無いわ。
そして……DHAの長だった場舞明示、彼の能力は[協力を操る能力]。合意を得た相手の体の支配権、そして能力そのものを使役できるようになる能力よ。
……じゃあ貴女達は何故勝てたかわかるかしら?」
「……未来を操れなかった理由……。
そもそもあの人は誰に倒されたんだっけ……あ」
「気づいたようね」
「……時雨さんはいくら攻撃をしても全て効かなかった。あの運動能力を有する時雨さんが……。でも……風間さんは攻撃を当てていた……」
「そう、風間くんの能力。[能力を無効化する能力]があったからこそ、貴女達はここにいるのよ」
「……なるほど」
「大体は理解できたようね。じゃあ私はこれで失礼させて貰うわ。
……そうそう、私の娘をよろしくね」
「え?何か言いました?」
「何でもないわ。じゃあね」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.200 )
- 日時: 2016/10/10 09:58
- 名前: 波坂 (ID: aU3st90g)
3.灰は愛する想い人の為に
風間司は、ただ手を握っていた。
事件から五日後。風間が目を覚ましたのはその頃だ。
体中の筋肉が劣化している。症状が回復するのは一週間後。そう早夜から伝えられた風間。今も一人で支え無しに歩行するのは厳しく、松葉杖が必需品となっている。
風間の手に絡んでいるのは、風間の手よりも少し小さめの手だった。その手の出元を追っていくと一人の人物の顔がある。
そう、天澤秋樹だ。
秋樹は未だに目を覚ましていない。その目は伏せられたまま開きはせず、口元は動かない。両頬には湿布が張られている。
『秋樹ちゃん後輩ちゃんはね〜、多分だけど疲労が溜まってるんだと思うよ〜。足に弾痕があったけど致命傷じゃないし〜、適切な処理がされてるからね〜。
まあ〜風間っちくん後輩くんにできることは〜、無事を祈ることくらいだよ〜』
早夜が言っていたことが、風間の頭の中で反響する。
どちらにしろ、風間にできることなどない。できるのは、こうして精々手を握り、いつもアテにすらしない神に頼む位だ。
そうすることしかできない、無力な自分に嫌気が差した風間は秋樹の手をそっと離し、松葉杖を付きその場を後にした。
〇
「……人がゴミのようだ」
特殊警察中央エリア本部の屋上から眺める町並みは非常に小さく見てた。歩く人だかりはもう色の違う点にしか見えない。
そんなミニチュアの景色を見下ろしながら風間はポツリと呟いた。
鉄格子は老朽化していて、錆び付きが酷い。風間が体重をかけているのは比較的錆び付きが薄い場所だが、仮にここで体重をかける場所を間違えれば、即紐無しバンジージャンプを体験することになるだろう。
「……思い出せないな……」
今回、風間の記憶はかなり曖昧なところで終わっているのだ。風間の頭には、気絶させられた後の記憶など殆ど残っていない。ただ覚えているのはーー何か思考回路が真っ赤に染まったということだけ。
ここにいても、何も変わりはしないな。そう考えた風間が屋上を後にしようと松葉杖を左手に持った時だった。
屋上のエレベーターの扉が開いたのは。
「お久しぶり……と、言うべきでしょうか。風間くん」
天澤春樹だ。水色よりの青い髪はストレートに伸ばされていて、前髪だけは目にかかる程度まで切られている。
相変わらずのスーツ姿。その顔にはデフォルト設定の笑顔が貼付けられている。
特殊警察ではない人間が何故ここに?と一瞬疑問を抱いた風間だが、天澤の見舞いか。とすぐに結論に至ったので余計な質問はしない。
「……どうして……ですか」
「はい?何がですか?」
風間の圧倒的に言葉が少ない質問に春樹が問い返す。
風間は声を絞り出して言った。
「どうして……俺を憎まないんですか……」
きっと、風間が春樹の立場だったら許せなかったはずだ。
ーーーー大切なものを守れなかった人間が。
だから、風間は不思議で仕方がなかった。
ーーーー何故春樹は自分を憎まないのかーーーーと。
「……一つ、教えましょう」
人差し指を立て、春樹ははっきりと言った。
「私は、秋樹を愛しています。これは兄妹の間の愛情を超えていると言っても過言ではありません。
そして、私は秋樹の愛するものを傷付けることはありません。何故なら秋樹が悲しむからです。私は秋樹の悲しむ顔だけは見たくないのです。例えそれが必要な事であろうとも、秋樹にその表情をさせることだけは認めません。
……ここから先は一人で考えた方がよろしい。
……私の用事は済みましたのでこれで」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.201 )
- 日時: 2016/10/11 19:30
- 名前: 波坂 (ID: aU3st90g)
鬱陶しい程の機械的な音がポケットから流れた。突如鳴り出した着信音に風間が耳を塞ぎたくなるような気になりつつもスマートフォンを取り出す。
送信者は桟橋火麗。流石に隊長の連絡を無視する訳にはいかないので仕方なく応答する風間。
耳に押し当て、もしもしの一言を喋った瞬間、火麗の声がスマートフォンのスピーカーから流れはじめた。
『……今回、会議で特殊警察00部の本格的な位置付けがされた』
「隊長、00部の位置付けは『管理の面倒な人材の流れつく場所』と『使い勝手のいい支援部隊』だった筈だ」
そもそもの話、特殊警察00部。通称【問題児部】は特殊警察の設立当初から存在していたものではない。ノウハウも何も無い、たかだか十数年程度の歴史しかない小さな部だ。そのため上層部は風間の言った二通りの見方しかしていなかった。
だがーーーーそれを揺るがしたのは、ある人物の一言。
『……立待月早夜。この名に聞き覚えがあるか?』
「……早夜先輩が?」
唐突にその名を出された事に虚を突かれた風間。なぜそこで早夜の名が出てくるのか、風間には到底理解できなかった。
火麗の声も少し堅苦しい。思えば火麗は上層部会議に唯一出席の義務のある00部の隊長だ。先程まで会議を行っていたとするなら、先程の緊張が残っているのかも知れない。
『さっきの会議でな、医務部総長である立待月早夜はこう言ったんだ。『特殊警察00部……彼等の行動は規律を既に超えている。しかしその功績は認めざるを得ない。だから私は00部を特殊部隊に加える事を推奨する』ってな。
……お陰で私達の出番の仲間は増えそうだ。00部の戦力も強化しないといけないらしい』
その火麗なりの解釈を纏めた早夜の言葉に、更に風間の頭は掻き乱される。
何故?
予想外過ぎた。その予想外過ぎる事実に風間はハンマーで頭を撲られたどころか時雨に本気で殴られたかのような衝撃を受けた。
何故、早夜がそんなことをしたのか。
風間には、やはり理解することはできなかった。
『だがその分自由に動けなくなる。基本的に規則重視の方針にするつもりは無いが、これから何が起こるのか私でも予想がつかない。慎重な行動を心掛けろよ……』
その火麗の言葉すら、右耳から左耳へとすり抜けていた。
間抜けに開いた口を、手で抑えて閉じながら、風間は屋上を後にした。
ーーーー多少の汗を拭きながら。
〇
天澤秋樹は、目を覚ましていた。
白い天井が真っ先に視界に映り込む。そういえば前は風間さんがいたなぁと考え、その後の自分の行動を思い出して顔を真っ赤に染める秋樹。
ゆっくりと体を起こす。見舞いの品だろうかフルーツの盛られたカゴが近くに置いてある。
それを視界の隅に秋樹は日めくりカレンダーをぼんやりと見た。そしてーーーー自分が五日もの間眠っていた事実に驚愕する。
自分以外誰もいない病室は、ただ心音を計測する機械音が寂しく響くだけでとても孤独を感じた。
病室に降り注ぐ日光は少し朱が入り、今を夕方だと示す。時計を見れば短針は既に6を指していた。夏はこの時間帯でも未だに太陽がしぶとく光を放っている。
「……はぁ」
どれくらいそうしていただろうか。病室のドアが開く音がした。
一人の、人物が立っていた。
灰色の髪は、緋色の瞳の目にかからないギリギリで切られている。
鋭い目つき。男性としてはそこまで高くない身長。
凡の字を二つ程度重ねてようやく表現できるような、平凡な凡人。
そしてーーーー天澤秋樹にとっての英雄。
言葉が、出なかった。
まるで、喉に穴が空いて、空気が漏れ出てしまうように、いくら力を入れても、声は出なかった。
その代わり、ただただ漏れるのは、言葉に鳴らない嗚咽。
目がぼやけていた。
まるで水面が揺れるように、視界が少しだけ歪みまともに見れず、思わず手で目を擦る。それでもまた揺れて、また擦る。
そしてーーーーやっと見れた。その顔が。
そして、やっと言えた。言葉が言葉になって、口から飛び出した。
ーーーー風間さん。
ーーーー貴方は、ごめんなさいより、この言葉が好きでしたね。
ーーーーだから、貴方にこの言葉を、送ります。
ーーーーありがとう。
病室に、ただただ、二人の男女の嗚咽が、響き続けた。
まるで、お互いの傷を、お互いの涙で潤そうとするように。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.202 )
- 日時: 2016/10/16 01:05
- 名前: 波坂 (ID: aU3st90g)
後書き
時雨「おい」
風間「どうした」
時雨「残りのエピローグはどうした?やるはずじゃなかったか?」
平子「無くなったらしいです。なんでも新しい登場人物をこれ以上この章で出したくないとか」
風間(まだ出す気だったのか)
影雪「さっさと始めるぞオイ」
時雨「あー、たしか中間に一回説明挟んだしそっから行くぞ。
俺は加速者こと白道潤正から本拠地の場所を教えられ、そこに行ったが実は罠で待ってたのは風折だった」
影雪「オレがテメーを投げ飛ばして黒ビルまで投げたんだったな」
平子「私は【シャドウウォーカー】に保護された後、聖林寺さんと向かったって訳ですよ」
風間「俺は天澤の兄の天澤春樹。そして特殊警察医務部総長の立待月早夜と向かった」
時雨「俺を待ち構えていたのは鸛と加速者だったな」
平子「私はジーナさんと燃焼者が待ち構えていましたね……ジーナさんが裏切りましたけど。
そのあと、黄昏さんと相対したって訳です」
風間「俺達は飛翔者と遭遇した。春樹さんが飛翔者を連れ去ったことは俺も本当は知らん」
平子「で、私と風間さんが合流して進み、時雨さんは一人で上り……」
風間「最後の辺りで三人が揃ったな。作者的に三人揃い踏みはやってみたかったらしい」
影雪「オレも色々とやらかしちまったみてーだ」
時雨「今回の章は挑戦だらけだったな。
描写とか、いつもは一人中心の視点なのにそれを三人中心なんてやったりした。キャラクター数も40は超えたと思う」
平子「聖林寺さん、出雲さん、中野さん、円くん、アカネちゃん、春樹さん、早夜さん、黄昏さん、織宮さん、平雨ちゃん、サイボーグの四人、場舞さん、私の父さん、……これくらいですかね?」
風間「古都も全目立ったキャラクターではなかったし、ある意味今回がやっとまともな登場だったとも言える……最初からいるキャラクターだがな」
時雨「今回、それぞれの主軸三人になにかしらあったな」
平子「時雨さんがあんな情けないこと言うなんて想像してませんでしたよ」
時雨「インパクトならお前の発言も負けてないからな?」
風間「ところで5000回記念とかやるのか?」
時雨「一応やる予定らしい。まあ次の更新でわかることだ」
平子「それではまた。次の話で」