複雑・ファジー小説
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.219 )
- 日時: 2016/12/07 22:43
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: SA0HbW.N)
8章、十人十色の始まり方
古都紡美は緊張している様子だった。
いつもの制服に身を包んでいるものの、いつもとは違う面持ちでいた。
紡美の隣に一人分ほど空けて座っているのは、オレンジ色の髪を肩辺りで切り揃えた、菫色の鮮やかな瞳の少女ーーーー軌城真季(きじょう/まき)。
体は細身ながらも女性的なラインを描いていて、見た目が小学生と間違われる紡美としては羨ましい限りである。
そして真季が身を包んでいるのは紡美と同じ制服。つまりは同じ高校の生徒である。
だが紡美は少なくとも先程までは真季の存在を知らなかった。そして真季もまた紡美の存在を知ってはいなかった。
ではなぜ二人が、護送用の黒塗りの軽自動車に乗って、中央エリアの中枢とも言える『国家元首政務活動院』ーーーー通称『元院』へと向かっているのか。
それを知るには、少し遡ることとなる。
〇
一日前。
古都紡美は高校の宿題の確認、制服の点検、日程の確認など、夏休み最終日のテンプレとも言える行為に励んでいた。
そんな中、紡美に一通のメールが届く。
知らないメールアドレスから送られて来たものは、所謂『召集令』であった。
そして日程は明日ーーーーそう、始業式とダブってしまうのだ。
紡美は急いで連絡したものの、国は『国から休む連絡を送ろうか?』と対応してた。国からそんなことを直々に言われれば当然ながら学校側は明らかな異常を察するだろう。慌てて制止した紡美は結局自ら学校側に始業式に遅れることを伝えたのである。
そして次の日。
自分の部屋を探しても真面目な場に合う服など制服しか持ち合わせていなかった紡美は、自分の学校の制服に袖を通していた。自分でも「……これで良いのかな?」等とひとり言を呟いていた。
前のマンションは復旧工事中なので、その間だけ住むことが許可されたマンションの前に立っていた。
すると思ったより早く車が到着した。中に乗り込むとそこには既に真季の姿があったのだ。
〇
紡美は真季についてあることだけを知っていた。
勿論制服をみれば同じ高校だとわかる。だが紡美はそうではない別のことを知っていた。
なぜなら、今回召集を受けたのは『司る能力者』。影雪や聖林寺のような高位能力者である。
最も、紡美の髪は真っ黒で本来ならば能力者ですらないはずだ。しかし紡美は数ヶ月前の事件により脳を改造され、奇跡的に能力者へと変化してしまった。
しかも能力は三段階ある内の最高位の『司る能力』である。それによって紡美もまた、召集の対象である。
そう、つまりは目の前にいる真季もまた『司る能力者』の一角であるということだ。
紡美としては、できるだけ年齢が近いものと親しくしておきたい。なぜなら紡美はまだ裏の知り合いなどおらず、当然ながら味方もいない。だから一人でも友人と呼べる味方を作って起きたかったのだ。
そうして紡美は、真季に対して声をかけたのだった。
「ねぇねぇ、私は古都紡美って言うんだよ。貴女の名前は?」
急にかけられた声に、真季は少し驚いていた。それには真季に声をかける者が少ないという意味でもあるのだが。
「……ああ私の名前は軌城真季……で、古都さん、何の用?」
紡美は、過去に自分がとある少女からかけられた言葉を真似するようにこう言った。
「私と友達になろう!」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.220 )
- 日時: 2016/12/11 08:07
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: SA0HbW.N)
その言葉を聞いた瞬間、無表情だった真季の顔が驚きに歪んだ。
「え……私と?」
「うん!」
真季には友人と呼べるものが一切存在しなかった。
詳しい説明は割愛するが、真季は周りとの、あまりの格の違い故に、いつも孤立してしまい友人と呼べるものがいなかった。小学生の頃は数人はいたが、中学生から完全なぼっちだったのだ。
そんな真季に向かって積む紡美の一言は衝撃だった。
今日、真季は小学校以来の友人と呼べるものができたのである。
〇
国家元首政務活動院などと大仰な名前を付けていても、結局は巨大なビルの一つだ。
紡美の目に映るのは、表面が薄く青みがかかった黒で塗り潰された高層ビル。このビルこそ紡美が招待された場所である。
ビルの周囲は敷地を囲む形で壁が包囲していた。高さ十メートルにも及ぶそれは能力者でも無いかぎり上ることは殆ど不可能である。
ではどうやって敷地に入るのか。それは東西南北に一つずつ設置されたゲートから入るのだ。警備は厳重でもし不法侵入でもしようものなら、よほどの実力者でもない限りすぐに無力化されるだろう。
だがゲートをくぐる際に、紡美と真季だけはなぜかすんなり入ることができた。
無論、『元院』の人間が連れてきたというのもあるだろうが、やはり『司る能力者』としての特権でもあった。
敷地内で護送車から降りた二人。
その後現れた案内係を名乗る女性に連れられ『元院』の中へと足を踏み入れた。
〇
案内係の女性があるドアの前で止まった。するとポケットから一枚のカードを取り出し、ドアに取り付けられた電子ロックシステムのカードリーダー……読み取り機にカードを当てる。
すると傍に付いていたLEDが赤から緑へと色を変えた。おそらく開いた合図だろうと紡美が予想する。
「どうぞお入り下さい」
紡美が頭を下げた後、その部屋へと入室する。真季もそれに続いた。
部屋には所謂円卓と呼ばれものが中央に設置されていた。円卓のサイズはそこまで大きくなく、詰めれば30人入るかどうかのレベルである。
既に腰掛けているものも何人かいた。よく見ると円卓の上に名前の書かれた三角柱が置かれている。
紡美が自分の名前が書かれた三角柱があったことにホッとする。因みに真季は紡美とは離れてしまった。
「あら紡美ちゃんじゃない。久しぶりね」
紡美が自分の席に座ったとき、横から声がかけられた。
服装は薄灰色を基調として、白い縦線と黒い横線を右胸辺りで交差させた十字架の様な模様のYシャツに、赤と黄のチェック柄の膝丈のスカート。首には水玉のネックレスを付けている。
濃く鮮やかな青色ーーーーコバルトブルーに輝く長髪は二つに括られていて、髪を括っているのは銀色の洗濯バサミのような髪留め。
聖林寺だった。落ち着いたハスキーな声は聞いていると何故か安心感がある。
「お久しぶりです」
「初めてのことで緊張するかもしれないけど、頑張ってね」
「はい」
正直紡美は安心していた。隣の席が両方とも知らない人間だったら紡美はかなりのプレッシャーを背負うことになるからだ。
その点、聖林寺とは多少なりとも縁があるのでマシではあった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.221 )
- 日時: 2016/12/13 16:03
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: SA0HbW.N)
それからどれほどの時間が経っただろうか。
紡美にはその時間が数時間にも数分にも感じられた。いつもより息苦しく感じ自分の緊張を自覚する。
円卓を囲む人数は十数人程になっていた。
そして一人の人物ーーーー織宮織香が手をパンパンと叩く。
それを境に、この場が一気に張り詰めた空気となった。
その空気を肌で感じた紡美にも一気にスイッチが入る。スイッチの入った紡美は自分の事を『黒髪の古都紡美』ではなく『能力者の古都紡美』へと切り換えた。
こうして『司る能力者』達の円卓会議が始まった。
〇
「まずは私、織宮織香が立場上、司会を務めるわ。この子は助手よ」
そういって織香が後ろに控えていた少女を呼ぶ。
紡美は思わず口を開け、声を出す寸前で口を押さえた。
肩甲骨辺りまでで切り揃えた真っ白い雪のような髪。左右にヘアピンが一つずつ付いていて髪を左右に分けている。
黒真珠のような瞳。線の細い身体。肌は白いが病的という程ではない。
ーーーーあまりに平子に似ていた。
聖林寺も同じような驚愕を覚えたのか少しだけ微笑みが崩れる。だがすぐに修正され誰もその動揺には気付かなかった。
「助手の平雨平瀬です。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げるとその少女は再び織香の後ろへと控えた。直立不動の姿勢はどこか機械めいている。
「まずは今日は召集に集まってくれてありがとう……と、言いたいのだけれど何人か来てないわね」
円卓にはまだ空席があった。
それを一瞥しつつも織香は「まあいいわ」と結論付けて視線を戻す。
織香が後ろに控えていた平瀬に向かってハンドサインを送る。意味を受け取った平瀬が抱えていたタブレット端末を操作すると、全員の前にホログラムが投影された。
「今、中央エリアでは様々な事件が多発しているわ。投影されたホログラムは起こっている事件の種類の傾向を種類別にまとめたものよ。何か気づくことは無いかしら?」
ホログラムには棒グラフが映っており、グラフの下には『交通事故』などの事件の項目が記載されている。
「……圧倒的に故意による流血沙汰が多い……」
その言葉を発したのは雨宿頼弥(あまど/らいや)という高校生だ。
その表情はあまり感情というものを感じさせない。濃紺の瞳はどこか機械的で、栗色の髪は肩までの、耳より後ろのものは束ねられている。身長は高くはなく、細身で高校の制服に身を包んでいる。
「その通りよビリリくん。今、中央エリアでは人為的な暴力行為が横行していると言っても過言ではないわ」
因みにビリリくんとは織香が頼弥に付けたあだ名である。彼女の趣味の一つに他人のニックネームをつけるというものがあることは、最早周知の事実である。
「勿論私達も対応策は講じているわ。でも私達では限界があるの」
「だけど、僕ら『司る能力者』達を集めてまで対策を講じる必要は無いんじゃない?」
頼弥の指摘には最もなところがあった。
そもそも『司る能力者』は一人いれば一つの軍隊を壊滅させることができる人材が少なくない。それを召集するということは戦争でもするのかという程の戦力を集める事となる。
だが織香はそれに対し、平然とした様子でこう答えた。
「あなた達を抱え込む事であなた達が敵戦力に回ることを予防しているのよ」
数人の能力者が皮肉るように鼻で笑う。
織香は『司る能力者』が敵でも容赦無く攻撃すると言っているのだ。
その遠回しの脅迫に対し背中にヒヤリとした感覚を背負いながらも頼弥は発言を止めた。
※三毛猫様のくれたキャラクターである『雨宿頼弥』を『雨戸雷弥』と誤植していました。読者の皆様。そして三毛猫様。大変申し訳ございませんでした。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.222 )
- 日時: 2016/12/17 09:13
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: SA0HbW.N)
「他に、質問はあるかしら?」
静寂が訪れたのも束の間、一人の男性がスッと手を挙げる。
「発言の許可を取りたい」そう織香に呼び掛けた男性はとても厳つい風貌だった。彫りが深く、無骨な雰囲気が放たれている。
織香が頷くとその男が立ち上がる。背丈は少なくとも180はあるだろうか。赤い髪は白髪混じりとなり、些か色褪せはしているものの、その立ち姿は老いなど知ったことかと言わんばかりに若々しい。新品のようにシワの無いスーツが筋肉によって盛り上げられている事から、相当屈強なら肉体も持っていることが窺えた。堅苦しい雰囲気を纏ったその男はたった一人に視線を向けつつ発言した。
ーーーー正確には、その唯一の黒い髪に視線を向けながら。
「何故、この場に黒髪がいる?」
その男性ーーーー普文字理蔵(ふもんじ/りぞう)の発言は、紡美にのみ向けられていた。
紡美は少しだけ微笑みを浮かべて立ち上がる。なぜ微笑みを浮かべているのかは紡美自身にもよくわかっていなかった。
円卓の性質上、この場にいる全員は紡美の髪が黒い色だと把握している。当然ながら何人かは頭に疑問符を浮かべていた。
「私が答えます。私は古都紡美」
「脳を外的手術により開発された『元』無能力です」
その発言が、円卓に静かなどよめきを与えた。
「言っておくけどつむりんは被害者に過ぎないわ。今年の梅雨にあった黒髪連続誘拐事件があったでしょう?実はあれは無能力者の脳を改造して能力者に仕立て上げる為のモルモットを集めていたの」
その言葉を発端として、織香は全員に紡美の能力が発現した理由について、全てを述べた。DHAの事もだ。
その説明を受けた能力者達の反応はバラバラだった。
驚く者もいれば首を傾げる者もいる。表情を崩さない者もいた。
しかし全員の頭の中には共通の考えが浮かんでいた。
ーーーー絶対に扱いが難しい。
正式には能力者だが、それと同時に能力者ではない決定的証拠が存在する。正しく矛盾状態である。
それに無能力者が能力者になったと広まれば、私も私もと無能力者が改造を求めてくるに違いない。勿論日本政府はそのようなことは出来ないし、仮に里美甲人の行っていた改造手術をしたとしても、紡美のように正常なまま能力者になる確率は極めて低く、良くて感情が無くなり、悪ければそのまま人生のゴールテープを切ることとなる。
それらを含め、今後どのように扱っていくのか。それに悩まされるのは当然のことと思えた。
「なるほどな……失礼した」
説明を聞いて納得したように頷き、紡美に非礼を詫びる普文字。だが紡美は普文字にむしろ好印象を抱いていた。
ーーーー発言のチャンスをくれたのだから。
「それと一つ言っておきますね」
紡美は思い出したかのように呟いた。
「ーーーーどうか私を怒らせないで下さい」
その一言を、『司る能力者』達に、怯みもせずに放った。
「私の能力は発動さえしなければ無害なんですよね。だから私は能力をこれから使う気はありません」
紡美は自分の能力の恐ろしさに気がついていた。
紡見の能力、[結果と選択を司る能力]はありとあらゆる現象、事象を紡美に都合よく動かすことができる能力である。
だが、この能力は把握している事しか操れない。紡美が把握していない事象は操れないのだ。だがそれは対した問題ではない。能力が発動してさえいれば、全ての把握している事象は紡美にとって都合よく進むのだから。
そう、紡美にとってはだ。
この能力の最大の欠陥、それは他人の事を一切考慮しないことだ。
例えば、紡美がトラックに轢かれそうになるとする。この時紡美が能力を使ってしまえばトラックは急旋回して紡美を避けるだろう。
だが、その後は悲惨なこととなる。急旋回したトラックに反応できずに巻き込まれるのはら関係の無い一般車両や通行人ばかり。紡美一人のために何十人が犠牲になることもありえるのだ。
だから紡美は決めたのだ。自分から能力は使わないと。
「でも私が我慢できない位に怒って、能力を使ったら……」
「死にますよ」
その言葉を、冷たい感情を込めて吐き捨てた。
普文字は一切表情を変えずに「ふむ、善処しよう」とだけ反応して再び腰を降ろした。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.223 )
- 日時: 2016/12/22 19:15
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: cGVBDhbB)
ーーーー同時刻。
平野平子は彼女の通う学校、待舞高校の体育館にいた。
パイプ椅子に座った平子は眠たそうにあくびをしながらぼんやりと前を見ていた。
平子の視線の先には教頭が演台の後ろに立ち、マイクに向けて長々とした言葉を連ねていた。
待舞学校では今日、夏休み明けの学校の初日にある『始業式』と呼ばれる行事が開かれていた。夏休み中、色々な事はあったものの時間にルーズな生活をしていた平子にとっては最早苦行以外の何でもない。
チラリと横を見ると、緋奈子が背筋をピンと伸ばして教頭の話を眠い様子も無く聞いていた。行儀の正しい彼女の佇まいは、まるで一輪の花のようである。
流石お嬢様様って訳ですよ。そんなことを口に出さずに思った平子。因みにこの二人が隣な理由は、二人の出席番号が31と32だからである『は』の字が名前の頭に来ている緋奈子と『ひ』の文字が名前の頭に来ている平子の出席番号が近いのは必然である。
「今日、紡美ちゃん来てないのかな……?」
呟くように、小さな声で平子が発した声は、隣の緋奈子には聞こえていた。
「遅れて来るそうですよ……相川先生が言っていました」
そんなことは朝話していなかった為、恐らくは朝のHRの後に個別で聞いたんだろうな。と想像しつつも平子は会話を続ける。
「……何だか怪しいって訳だよ」
「私も同意見です」
緋奈子がそう返答したとき、教頭の話は終わりを迎えていた。
〇
ガヤガヤと少し騒がしい教室も、チャイムと同時に少しずつ収まっていく。平子の所属する1-b組もその例の通りに、チャイムが鳴り終わる頃には教室を静寂が包んでいた。
日直の合図と共に、起立、礼、着席を済ませると、1-bの担任教師である相川悟が話を始めた。
「今日は夏休み明けの一日目だ。……さて、本来ならここで夏休みの課題を集めるところだが……先に転校生の紹介を済ませておこう」
そう言って相川は一度教室を出て行った。恐らくは転校生を呼びに行ったのだろう。
暫くすると相川が戻ってきた。それに遅れて一人の男子生徒が教室に入ってくる。
ーーーー思わず、平子と緋奈子が声を上げそうになる。
その男子生徒の最も目立つ特徴はその車椅子だった。そしてそれは手によってではなく超能力ーーーー念動系の能力によって操作されていた。
暗い紅の短髪は照明をうっすらと反射している。
鼻にも口にもこれといって特徴はない。紫の瞳に鋭い三白眼。
待舞高校の制服に身を包んだその男子生徒は、車椅子に座ったまま、教卓の前に立ち、黒板に名前を書きはじめた。
名前を書き終えたその男子生徒が今度は平子達1-bの面々の方を向いた。
「不知火、自己紹介を頼む」
相川の言葉を聞いて頷く男子生徒。
「俺は不知火円。親の事情でここに転校してきた」
ーーーー【シャドウウォーカー】の一員、不知火円は無表情のまま、はっきりと聞き取れる低い声音で自己紹介を始めた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.224 )
- 日時: 2017/01/08 19:44
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: O0NjrVt8)
円の自己紹介が終わると、円に席が充てられる。とは言っても車椅子のまま座れる特別な机だが。
「ああ、それともう一人転校生がいるがどうやら遅れて来るそうだ」
相川はその発言の後、夏休み明け最初の授業を開始した。
〇
時は流れ、一時限目の授業が終了した頃。
平子は新しく用意された、特別な机に車椅子のまま座っている円に声をかけた。
「……あのさ、不知火君……」
すると円は教科書の整理をしつつも顔だけを平子へと向ける。落ち着いているのか無表情なのかはわからないが、転校初日だと言うのにその顔は平常心一色である。
「……平野平子。詳しい話は後でする」
円はそうとだけ言い、再び視線を机へと戻した。
平子としては些か疑問が残るものの、後でと言っているので後回しにすることにした。どうせ時間が経てば聞けるのだ。今聞く必用など無い。そう考えて。
平子が円から離れると、他の何人かの生徒が円に話かけていた。どうやらコミュニケーションが取れないほど無口という訳でも無く、しっかりとした会話は成立しているように見えた。
悪目立ちをしている訳でも無いので何故か安心を覚えた平子。だが大して気にする事もなく次の授業の準備をし始めた。
〇
同時刻。
『司る能力者』達の円卓会議も終盤に差し掛かっていた。
後は今後の方針とそれぞれの意志を確認するだけで終わり。そう聞かされた紡美は安堵のため息をつく。
「それじゃあ今後の方針について話すわ。まずは……」
この発言から、織香が今後の中央エリア元首としてのスタンスや、能力者や能力者集団などの運用について話すはずだった。
だがそれは、一人の乱入によって掻き消される羽目になる。
ーーーー突如として、その部屋に一人の人間が現れた。
その神々しい姿は威圧感に似た何かを放っていた。オーラ。と言っても間違ってはいない。
その真っ白で煌めく白髪は足首までストレートに伸ばされている。
肌は透けているかの如く白く、瞳は金色を放ち、髪には黒薔薇のヘアバンドが付けられている。
白、黒、金で縁取られた煌びやかなドレスは袖口はラッパのように開いており、肩はふわりとしたパフスリーブ状。二の腕には左右対称の位置に小さめの黒いリボンが付いており、胸元は大胆に開かれ、かなり豊満なそれをより強調しているようにも見える。
ロングスカートは二重構造となっており、外には腰マントのような作りがある。正面からはスカートと両足が見えるような構造である。
白く長い手袋を両手に付け、左腕には腕輪がついており、左手には外れた腕輪を持っている。ーーーーおそらくは右手の腕輪を何らかの理由で外したのだろう。
白いニーソックスにドレスと似た柄のハイブーツ。首には黒いチョーカーが巻かれていて、それには金の錠前が下げられている。また、耳には十字架のピアスが付けられている。
そしてーーーーその少女の神々しさを放つものは、その翼だった。
髪に隠れて見えない肩甲骨辺りから生えた双翼は、それを構成する一つ一つの羽根が輝きを放っているようにも見えた。
そのテレポートによって現れた少女ーーーープルミエル・アンファングが突如として現れたことにより、場は騒然となった。
〇
「あらあら……皆さんどうしたんです?そんな死神を見たような顔をして……うふふっ」
クスリと笑うプルミエル。だがその微笑みは同時に得体の知れない恐ろしさのようなものを放っている。
「あら……エルちゃんじゃない。久しぶりね」
だがそんな中、聖林寺だけが平然と挨拶を返しひらひらと手を振る。
「久しぶりですねぇ……聖林寺さん」
お互い微笑んでいるだけなのだ。だが重圧はどんどん増していく。
これに笑顔でいられる聖林寺も聖林寺だが、重圧をはなつプルミエルもプルミエルである。あの無表情の頼弥ですら明らかな動揺を示している。普文字は平然とした様子で二人の話を聞いているだけのようだ。
そして紡美もまたーーーー微笑んでいる。
「今日はどうしたのかしら?円卓会議ももう終盤よ?」
「ちょっと面白い話を聞いたんですよぉ……」
プルミエルがすっと手を出す。それはまるで紡美を指しているようだ。
「新しく『司る能力者』になった人が黒髪という噂を聞いたけど……本当だったようですねぇ」
プルミエルはそのまま体の軸ごと紡美の方向を向いた。
「君が古都紡美さん?」
「はい、そうですよ」
「じゃあ……ふふっ」
プルミエルは右手を紡美に伸ばした。
それはまるで何かに狙いを付けているようだった。
「あはっ」
プルミエルがそう声を上げたとき、既に彼女の背中から生える翼が紡美の体を貫こうとしていた。
〇
「うわぁ!」
紡美が危機を感じて無意識に能力を発動した。
紡美の能力の発動は他人には知覚できない。使ったことは本人にしかわからないのだ。
ーーーーまた使っちゃったな。
紡美が咄嗟に左に避けると、さきほどまで紡美がいた場所を、プルミエルの光り輝く翼が通り過ぎた。
「ッ!」
すると紡美の横にいた、聖林寺ではない方の席の人物に向かって流れ弾が飛んでいく。その人物に向かって翼が直進し、このままでは翼がその人物に当たることは確定しているようにも見えた。
ーーーーまた、他人を不幸にしちゃった。
紡美はその自責の念に捕われてしまう。
だから気が付かなかった。
ーーーーその人物もまた、『司る能力者』の一角であると。
その濃い緑色の髪をした人物は翼の攻撃を一瞥した後、目を伏せてこう言った。
「吹っ飛べ!」
次の瞬間、その人物を中心として全てのものに対して遠ざける圧力がかかった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.225 )
- 日時: 2017/01/08 19:42
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: O0NjrVt8)
急激な圧力によって、その光り輝く翼の攻撃は形もなく吹き飛ばされた。
それと同時に、小柄な紡美は一瞬の内に足が地面から離れてしまう。
足が浮いた感触に恐怖を覚える間もなく、体が一気に吹き飛ばされ、壁に向かって一直線を描いて飛んでいく。
だが、今紡美は自分の能力である[結果と選択を司る能力]を使用している。ありとあらゆる事象現象は紡美に対し都合よく働くのだ。
「落ち着きなさい……」
その呆れたような聖林寺の声が響いた直後、放出されていた圧力がピタリと止んだ。
なぜなら、聖林寺が自分の能力、[障壁を司る能力]によって障壁を生成、それを圧力を放っていたであろう人物の周りを囲んだからだ。聖林寺の能力はその気になればありとあらゆるものを一定値まで遮断することができる。圧力を放っていた人物を囲んでいる青色ガラスのような長方形状の障壁達は、運動量ならば工事用の鉄球ですら真正面から容易に受け止めることができる代物だ。当然ながらその障壁が破られることは無かった。
しかし、紡美は未だに勢いづいたままだ。このままでは高速で壁に激突してしまうだろう。紡美と似たような状況の能力者達もまた、命の危機に陥っている。
「ーーーー減速」
だが、普文字がその言葉を放った瞬間、紡美の速度が激減した。そのまま急激な失速の後、床に倒れた。紡美としてはそれなりに痛いが、大怪我をするよりはマシだったと流すことにした。
「やみちゃん……貴女の能力は周りの全てを巻き込んでしまうんだから……」
聖林寺はその人物ーーーー科戸ややみ(しなとややみ)に対して軽率な行動を注意する。
特殊警察の青い制服に身を包んだ、身長160cm程度の女性。髪はかなり濃いめの緑色はボブカットに切り揃えられており、白い花に数枚の鮮やかなパステルカラーの短冊を重ねた髪飾り。鋭い切れ目の青緑の瞳はプルミエルをじっと睨んでいる。
聖林寺の注意にも、当の本人はどこ吹く風といった様子で、堂々と言葉を返した。
「正当防衛よ。それに結果的に重軽傷はプラマイゼロ。なんか文句ある?」
「文句しかねーよクソが」
ややみに食ってかかったのは影雪だ。金色の目は不愉快そうに歪められている。
「ユッキーくん、やみちー、今は控えてくれないかしら」
織香が二人を落ち着かせると、ややみの能力が発動したにも関わらずその場に余裕の表情で留まり続けていたプルミエルに相対した。
織香の表情は硬い。いつもの穏和な顔は、プラスでもマイナスでも無い完全な無表情に変わり果てていた。
「エルちゃん……つむりんに何をしようとしたのかしら?」
「試させて貰っただけです……それより、ねぇ古都さん」
そのまま織香から目を離し、紡美の方へと顔を向けるプルミエル。
紡美と目を合わせると、プルミエルは紡美に問い掛けた。
「ねぇ……君はこの世界をどう思う?」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.226 )
- 日時: 2017/01/19 15:15
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: O0NjrVt8)
「ーーーー難しい質問だね。でも答えることはできる」
「最高で、最低な世界だよ」
〇
プルミエルはその紡美の問いを聞いた後、大人しくすることを条件として円卓会議に参加した。
街の治安について、能力者の法について、等の話はあったものの、特に目立った事件もなく、その日の円卓会議は終了した。
ただ、会議中にある事が決定された。
それは、『司る能力者』全員で同盟を組むというものだ。
基本、『司る能力者』は『司る能力者』に対しての敵対及び武力行使を禁止する。仮に、『司る能力者』が他の『司る能力者』に武力行使をしかけた場合、武力行使を行った『司る能力者』を他の全ての『司る能力者』が武力行使を行った者に制裁を行う。というものだ。
これを発案したのはプルミエルである。
この案に賛成したのは、発案者であるプルミエル・アルファング、古都紡美、霧隠五月(きりがくれ/いつき)、軌城真季、御堂輝(みどう/ひかる)、雨宿頼弥、三田瑠伊(さんだ/るい)の六人、それに対して反対は風折影雪、科戸ややみ、テレス・パルギミナ、堀崎乃々(ほりさき/のの)の四人。普文字理蔵、聖林寺五音、織宮織香、医柱創羅(いばしら/そうら)の四人は無回答。その後の交渉の結果、同盟は決定された。
〇
解散、その一言が織香から放たれた瞬間、紡美はほっとして息を吐き出した。
聖林寺は紡美に別れの挨拶をするとそのまま部屋を退出した。少し急ぎ足だったのには彼女なりの理由があるのだろう。しかし紡美にはそれを知る術もないので考えないようにした。
「……大丈夫?古都さん」
声をかけたのは真季。彼女としてはこういう場合どのような言葉をかければいいのかすらもわからない程に、他人とコミュニケーションの機会が無かった為に、取り合えず気分を聞いておく事にした。
「紡美でいいよ。真季ちゃんって呼ぶから」
真季ちゃん。その単語に真季は電撃が走ったような衝撃を覚えた。
今まで真季のことを下の名前で呼ぶ人間は親を除けば片手で事足りるからだ。新鮮な気分に謎の感動を感じるながらも、真季は何か言葉を返さなければと必死に考える。
「じゃあ私は紡美って呼ぶから」
また、相手の名前を下で呼ぶことにも謎の感動を感じる真季。彼女にとって今日は円卓会議とは別の意味で忘れられない日になるだろう。
「お取り込み中のところ申し訳ありません。お二人にはそろそろ準備をしてもらいます」
急に現れたその人物、平雨平瀬に紡美は驚いて思わず声を上げた。一方真季は表情は相変わらずクールな顔つきのまま対応する。内面は興奮状態なのだが。
紡美が驚いた理由に、急に現れたこと以外もう一つ存在した。
背丈は高めで真季よりも5cm以上高い。真季の身長は160cmあたりなのでその背丈は165cm辺りとなる。
髪は雪のように真っ白で、肩甲骨の下まで伸ばされている。前髪は二つのヘアピンで五分五分に分けられ、スラリと長い手足に線の細い身体。黒目で大人しそうな顔立ちと、ピンク色の唇。
ーーーー平瀬の容姿が余りに似ていたからだ。誰と言われれば紡美の頭に浮かび上がるのは当然ながら『訳ですよ』が口癖の白髪少女である。違いと言えば一目でわかるのはヘアピンの数くらいである。
オマケに似ている人物とは180度違って表情が殆ど無い。その意味ではかなり不気味にも感じられた。
「わかったわ。それで、私達はどこに行けば良いのかしら?」
「私について来て下さい」
平瀬は部屋の端に置いてあった一つの通学カバンを手に取って、二人を手招きした。
〇
二時限目が終わった頃。
平野平子は鼻にムズムズとした感覚を覚えた。
すぐさま制服のスカートのポケットからティッシュを取り出す。タイミングピッタリでそのティッシュに向かってくしゃみが放たれた。
「……誰か噂でもしたのかな……」
鼻水のついたティッシュを丸めてごみ箱に捨てる。流石に教室でゴミを投げる行為をするほど平子は非常識では無かった。
「ひ、平野さん……ひ、久しぶり……」
平子が席に戻ると横から声がかけられた。反射的に顔を向けると見覚えのある顔が一つ。
空気に透けてしまいそうな程色素の薄い紫色の髪。弱々しい金色の瞳に大人しそうな顔立ち。小柄な身体も相まって小動物のような雰囲気を放つ少年ーーーー能野安だ。平子との対面は夏休みのある一件以来で少し緊張している様子だ。
「能野くん久しぶり。元気してた?」
平子は得に緊張した様子も無い。無論あの一件のことは覚えているが、その後にあった出来事達に比べれば、小さな出来事に過ぎなかったからだ。
思いの他平子がフランクに接してきた為に安も少し緊張が解れる。その後少し話をすると安は若干早足で平子から離れて行った。
ーーーー避けられてるって訳ですよ……。
安としては平子と話せた事が嬉しく、また近くにいるとどうしてもぎこちなくなってしまうので早々に撤退しただけなのだが、平子はてっきり勘違いしてしまった。
そんなことは露知らず、安は心の中でガッツポーズを決めているのであった。
「平ちゃん」
目で安を追っていた平子が突然かけたら声にビクッと反応した。
声の主はーーーー紡美だ。
「あれ?紡美ちゃんさっきまでいたっけ?」
「さっき来たんだけどね」
先程来たなら私が見てないのは当然って訳か。そう頭の中で考えた納得した平子。
そして、少しトーンを落として紡美に喋りかける。
「……それで、なんで遅れたって訳?」
「……後で説明するね。緋奈子ちゃんもいるときに」
そこまで話したところで、シャットアウトするかのようにチャイムが流れた。移動教室ではないのでそのまま自分の席を目指して紡美は平子に背を向けた。
チラリと横目で円を見る平子。円の視線は紡美に向いていた。
勿論その意図を平子が把握できるわけが無く、そのまま気にせず前を向いた。
「さっき言っていた遅れて来る転校生が今来た。入ってくれ」
今度は呼びに行かず扉に向かって呼びかける相川。若干音をたてて扉が開いた。
クラスの大半の表情が、小さな驚きに染まり、その後数名が平子の方を見た。
だが、平子はそれに気づかない。というより、前にいる人物に釘付けになっているのだ。
その女子生徒が黒板にチョークで名前を書いていく。その名前にすら驚愕を隠せない平子。
黒板には、白い文字でこう書かれていた。
『平雨平瀬』
「初めまして。平雨平瀬と言います。宜しくお願いします」
緋奈子も、能野も、平子に視線を向けた。
平子は、ただ平瀬に視線を向けるだけだった。
紡美だけが、何故か苦笑を浮かべていた。
〇
昼休み。
大半の生徒は弁当を広げるか食堂へと向かう頃。
平子、紡美、緋奈子、円の四人は屋上に上がっていた。
屋上。というと弁当を広げている生徒がいそうだが、実際のところソーラーパネルが所狭しと並べられているので非常に行動範囲が限られているので生徒は誰ひとりとしていなかった。
紡美は購買で買ってきたパンを。紡美と平子は持参した弁当を広げつつ、円の話に耳を傾ける。
「俺達はここに監視の意味でやってきた。この学校……待舞高校には危険分子か多くてな。無論、お前達もそれに入っている」
「達?一人じゃなくて?」
紡美の問い掛けにピックアップするのはそこじゃないと言いたかった緋奈子だった。
だが円はその質問にも律儀に答える。
「もうすぐやって来るはずだ」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに屋上のドアが勢いよく開かれた。
「ご主じ……不知火くぅぅぅぅぅぅん!」
言い直しつつも円の名前を呼び、そのまま抱き着こうと突撃して来る女子生徒。
だが激突する寸前で円の能力、[念力を操る能力]によって止められた。
そのことに若干不満げな表情をするものの、円の「落ち着け」の一言に素直に従う。
オレンジ色から黄色のグラデーションのセミロングの髪は言わば夕焼けのような色だ。高校の制服を身に纏い、パッチリとした黄色の瞳の女子生徒。
そう、アカネだ。
「……奥間、学校では苗字で呼べと言っているだろうが」
奥間、とは苗字を持たないアカネに円が付けた苗字である。
少ししょんぼりとした表情で円に謝るアカネ。
「ごめんなさいご主じ……不知火君」
円がため息をつくと諦めたように「昼食はあるか?」と聞くと一気に明るい表情となって円に弁当を渡した。
表情豊かって訳ですよ。……何この人達。愉快な人達だなぁ。三者三様の反応を示す三人。
「まあいい。俺達の役目は問題を明るみに出さないこと。つまりは隠滅だ。
……仮に表に出たら困るような事をしたら消されると覚えておけ」
重圧のある円の言葉。
しかし、平子はそれを全く感じていないのか「了解って訳だよ」と軽い調子で返した。緋奈子はそんな平子に驚きつつも「わかりました」と返す。
だが、紡美の返答だけは違った。
「じゃあ私を怒らせないでね」
「……何不知火君に喧嘩売ってるの?」
紡美にアカネの先程とは全く違う種類の視線が突き刺さる。それは剣のように鋭く氷のように冷たい。
だが紡美もその視線に毅然とした態度で応じる。一触即発の空気の中、アカネの頭に円の手が乗せられた。
「古都は俺に喧嘩など売っていない。警告しただけだ。だからお前が怒る理由はない」
「でも不知火君!」
「落ち着け」
ポンポンと頭を撫でると表情が途端に柔らかくなるアカネ。そのまま円は紡美に謝罪する。
「済まない。奥間は多少抑えが効かない性格でな」
「大丈夫だよ。こっちもちょっと悪かったしね」
その様子を見て平子は「アカネちゃんってご主人に刃向かう奴殺す人かな?」と予想し緋奈子はただ冷や汗をかいていた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.227 )
- 日時: 2017/01/18 14:15
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: O0NjrVt8)
*お知らせ
更新を暫く凍結します。
理由は受験に専念する為。再開は早くても二ヶ月後となります。
こちらの小説は荒らし対策としてロックさせて頂きました。なので意見や感想等は>>0のURL先にどうぞ。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力【更新再開】 ( No.228 )
- 日時: 2017/03/08 20:32
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: rMeeZFi3)
受験が終わったので更新を再開しようと思います。
〇
ーーーー放課後。
平雨平瀬は、相変わらずその無機質で感情という色の無い瞳を目の前の人物達に向けていた。
「……初めまして、でしょうか。【シャドウウォーカー】の不知火さん、アカネさん」
平瀬の目の前にいるのは車椅子に座った円と、その車椅子の後ろのハンドルを掴むアカネだ。
アカネが微かに息を呑む音を首から漏らす。何故、平瀬は自分達のことを知っているのかと。
今こうして三人が視線を合わせているのも、円が平瀬に「暗部の人間として話がある」と言われた事が原因だ。
仮に相手も暗部の人間なら、是非とも情報を共有しておくべきだ。円はそう判断し平瀬と会うことを決めたのである。
円は少々迷ったもののアカネも同伴させる事にした。仮に戦闘になった場合、後衛から念動磁場によるアシストが基本的な戦い方の円では接近戦に持ち込まれた場合、必ず勝てるという見込みが無かったからだ。
無論、平瀬にはそんな気は全くを以て無く、当然敵対しようという意思もまた無かった。そこに円のただならぬ用心深さが垣間見えている。
平瀬の言葉を聞いた円は「やはりな」と呟き言葉を紡ぎ出す。
「暗部、という言葉は暗部の人間しか使わない。そして相手を暗部と言うからにはそれを判断する材料があってのことだ。
……俺達二人が【シャドウウォーカー】の構成員という情報を得ているなら判断材料としては十二分。だからお前は俺を暗部の人間と呼んだ。
……だがな、それはお前がそこまでの情報を入手できる立場であることを証明している。……答えろ。お前の属する集団は何だ?」
円の限りなく真実に沿った推測。それを突き付けられても無表情を崩さない平瀬はコクリと頷く。
「私は暗部の人間。属する集団は元首直属である。とだけ言っておきます」
元首直属。とは元首である織宮織香が直々に配下に置いている人材を指す。その立場を得るには手段は無く、織香が気に入った人物を加える。という構成員の選び方だが、織香に選ばれるだけあって皆が一癖あるものの、なかなかの切れ者揃いだ。
だから、円は平瀬が元首直属の一員であることを知り、微かな動揺を示したのだ。
そんな動揺を悟ったか否か、平瀬は制止するように手を前に出す。
「安心してください。私の前の担当は、あくまで情報処理・及び生活補助。戦闘能力は恐らくお二人よりも格下です」
「……では聞くが、お前は何故ここに来た?」
「『平野平子の監視及び、平野平子の殺害防止』……この任務を果たすため、私はこの待舞高校に入学しました」
張り詰めた緊張感が場を支配し一触即発の空気が作り出される。
一秒にも十分にも感じられる静寂の後、円はその重そうな口を開いた。
「……わかった。お前の任務には干渉しない。だがお前も俺達の仕事に干渉してくれるなよ。
……だが、仮にだ。俺達の仕事のターゲットが平野に向いた場合、お前と俺達は敵対関係だ。忘れるなよ。……奥間、帰るぞ」
「うん、不知火くん!」
アカネは円の乗る車椅子を押して、平瀬の前から去って行った。
平瀬は無表情でその場に立ったまま、周囲を見渡す。
誰もいない事を確認し、手を耳に当てた。直後、電波障害が起きたテレビのノイズの様なザザザという音が平瀬の手の平から微かに発生する。
暫くするとその音は小さくなり、今度は平瀬にしか聞こえない程度の小さな音量で、人間の女性の声が出される。
『あら、もう終わったのかしら?』
声の主は織香だ。そしてその声はまるで受話器の様に平瀬の手の平から聞こえて来る。
一方平瀬も、自分の手の平に向かって話を始める。 どうやら本当に会話が成り立っているらしい。織香への報告を手短に済ませると平瀬は自分の耳から手を離した。
ーーーーそして、その手の平からは極僅かだが、モーター音が漏れていた。
「……彼等は私の正体を知れば、私を気味悪く思うのでしょうか」
ポロリと零した平瀬の独り言。
その独り言は、抑揚が無い癖してかなりの重さを孕んでいた。
平瀬は決して、円やアカネに正体などを明かしていなかった。
いや、確かに平瀬は元首直属ではある。しかし、その肩書きよりも思い何かを、平瀬は確かに抱えていた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力【更新再開】 ( No.229 )
- 日時: 2017/03/07 21:54
- 名前: siyaruden (ID: aVnYacR3)
今晩は、siyarudenです
この日を待っていました、お帰りなさい
プルミエルが登場しましたが若干、口調が恭子と似てるかも......
設定がいくらか変わっているとして彼女は忙しいスケジュールの間を空けて会議に参加したのですかね?
しかし彼女は能力を憎んでいるので計画発案の真理は如何に.......
それではこれからも応援していますのでよろしくお願いします
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力【更新再開】 ( No.230 )
- 日時: 2017/03/07 22:46
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: rMeeZFi3)
>>229
お久しぶりです。
まだ口調を掴めていない感じはありますが、そのあたりは余裕があれば随時修正していく予定です。
一応会議の価値等についても触れていく予定ですので少々お待ち下さい。
ありがとうございます。これからも頑張って行きます。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力【更新再開】 ( No.231 )
- 日時: 2017/03/15 08:20
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: rMeeZFi3)
平瀬と円、そしてアカネが対面している時。
守谷仁奈ことハリック・ジーナはあくびをしつつも寝間着から、数着ほどストックのある鼠色のレディーススーツに着替えていた。
着替え終わると、この前新しくコンビニで買ったライターと『RUCIA』(ルシア)という、白基調の黒や灰色で縁取られたシックなパッケージの割にRUCIAというフォントだけが何故か丸っこいという何を目指しているのかよくわからない銘柄のタバコをバックに入れようとする。しかし掴んだ瞬間にグシャッとタバコの箱が音を発てた。中身を覗きタバコが一本も入っていないことに気がついたジーナは箱をごみ箱に捨てライターのみをバックに入れた。因みにこの鞄にはそのほかにサバイバルナイフや拳銃等の見付かったら犯罪予備軍認定間違いなしの代物が入っている。最もジーナは政府の権力によって保護されているため、仕事や正当防衛の大義名分さえあれば捕まることは無いとは言え、流石にこれは油断しているとしか言いようが無かった。
家の戸締まりをして階段を下る。ジーナが住んでいる部屋は三階の一番端だ。
階段を下り終えて外に出る。西を見るとまだ陽はギリギリ落ちていないが、これから暗くなる頃だろう。
ーー今から行くとして30分程度かかるか。
道のりを頭に入れつつジーナは目的地へと向かった。
ジーナはかつて影雪と平子が衝突した場でもあるB-6にある、既に廃屋と化した吹き抜けの倉庫、言わば学校の体育館のような構造の建物を目前に見据えていた。
肩甲骨の下辺りまで伸ばされた、ブロンドのロングヘアーは薄暗い夜中でも目立っている。しなやかな四肢に透き通りそうなほど白い肌。そしてサルファーイエローの瞳。
そんな恵まれた容姿とは打って変わって彼女の放つ雰囲気はけだるげ。要約すると「面倒臭い」雰囲気を放っていた。
最近、DHAの一件の際に裏切った事で能力者としての信用が落ちたのか、依頼が激減していたのだ。だがジーナはこれをとても喜ばしく思っていた。何故ならジーナにとって外に出ることそのものは軽度のストレスであり、仕事等で関わりたくもない人間と無理矢理関わらせられるのは彼女にとっては苦痛以外のなんでもなかった。
だが今日は違う。仕事ではなく人と関わることそのものが目的なのだ。当然ながら嫌ではあるが、中央エリア元首である織香から「行け」と命令が下れば行くしかない。国単位で干されて生きていけるほど自分は逞しくない事をジーナは知っている。
ジーナが腕時計を見ると、既に予定時間となっていた。
欠伸をしつつもジーナは錆びた扉を開けて廃屋となった倉庫に入っていった。
〇
中には既に、呼ばれた者の中ではジーナ以外が全員揃っていたのだろう。男女比率はジーナを合わせて四対三。男性四人に女性三人だ。そして恐らく全員『裏』の人間である。
ジーナの右前に見えるのは青から白のグラデーションの長髪を持った女性、黄昏雅だ。確か彼女は[一時停止させる能力]を持っていたはずだ。その能力は時間をも停められるという圧倒的アドバンテージをもたらす能力であるが、本人曰くそれなりのデメリットがあるらしい。
その奥に腕を組んで立っているのは耳にかかる程度の白髪の男性。名前は黒田流星(くろだ/りゅうせい)だ。
顔立ちは人当たりが良さそうな、優しい青年顔をしていて今もニコニコとしている。着ている服は黒のライダースーツだろうか。ただでさえ薄暗い部屋なのでジーナは黒田の着ている服をはっきりと識別することはできなかった。彼の能力は精神に干渉するタイプであり、ジーナは苦手意識を持っている。
左に視線を向けると幼い少女と目が合った。少女は目が合った途端に怖がるように手に持っていたホワイトボードで顔を隠す。ジーナは多少のショックを受けつつその少女と隣に控える身長の高い銀髪の男を見る。
身長の高い銀髪の男の名前は大見代久郎(おおみだい/くろう)。銀縁の飴色のサングラスをかけ、ボタンのついた白いシャツに黒いカーディガン、ミルクティーのような色をした長ズボンを着ている。見た目は20歳台で、大柄でスマートな体型をしているものの、彼はかなりの怪力である。能力も殆ど力任せに扱うらしく『狂犬』だの『人狼』だのと言われている。
幼い少女は久郎の後ろに隠れるように移動していた。
顔立ちはかなり童顔だ。歳は15も行かない程度だろう。薄い抹茶色の髪はショートカットに切られ、丸く大きな目の瞳は綺麗な海のような水色に染まっている。
黄緑色の上着に白いシャツ。膝丈までのスカート。そして最も目立つのは手に抱えているホワイトボードだ。何回か消した跡がある。
彼女の名前は縫空霞夏(ぬいぞら/かすか)。たしか『擬似兎』と呼ばれていたはずだ。
久郎と霞夏はコンビを組んでいる。コンビとは要約すると二人一組で一つの名義を持つということ。お笑いコンビを想像するとわかりやすいだろう。因みに三人以上はグループという呼び方をする。
コンビ名は『ブラットラビック』。本人達が考えたものでは無いらしい。
その右に壁に背を預けて立っている人物の名前は五雨千尋(いさめ/ちひろ)だ。金色の入り混じった黒い髪をしているれっきとした能力者である。いや、千尋の場合は外見で判断することはできない。なぜなら千尋は変身系の能力者であるために自分の容姿も自由自在なのだ。当然性別すらも書き換えることができるため、千尋を彼とも彼女とも呼ぶことはできない。
今の姿は男の時に良く使っている姿だろう。180cm程の長身である。
そしてジーナが一番最後に見たのは、この中で明らかに浮いている人物だ。
暗い藍色の髪は短髪の上にくたくたな野球帽をテキトーに被り、これまたくたびれた年季の入った黒いスーツ。顔立ちはとても若いとは言えない。40台程に見えるが本人はまだ36と言っている。名前は具列鎖(ぐれつ/くさり)。
全員を見て、ジーナは二つの共通点を見つける。
一つ目は、全員が役には立つ存在であること。
二つ目は、全員が【シャドウウォーカー】のような組織に属していないこと。
「で?今日は何の用?織宮のばーさんが言う位何だから重要なんでしょ?」
相変わらず失礼な物言いのジーナ。しかし周りはそれには反応しない。それは無視するというより、最早指摘して改善させることを諦めたといった感じだ。
ジーナの発言に最初に突っ込んだのは大見代久郎だ。
「はァ?なんで織宮さんが出てくるんだよ」
「……何言ってんだコイツ」
後から茶々を入れたのは具列鎖だ。無精髭を生やした顔から滲み出る感情は「コイツ馬鹿か?」である。
その顔面に右ストレートを食らわせてやりたい気分になったジーナだが、我慢を貫き状況を説明する。
「いやね?アタシのとこにはババアから電話がかかってきたんだって」
「ごめんなさい。ジーナさん。それ、私が千尋に頼んだんです」
ジーナに謝罪したのは黄昏雅だ。五雨千尋本人はニヤニヤとしてやったりと言わんばかりの表情を零している。
その言葉にジーナは大体の検討がついた。恐らく千尋が織香に変身した状態で電話をかけたのだろう。千尋は後天的なもの以外は全てをコピーできる。能力や身体能力などはコピーできないが、声等は完全にコピーすることができるのである。
今思えば、織香からの電話が非通知になっていたことに違和感を感じるべきだったのだ。だがジーナはそれをしなかった。
不注意な自分に歯がみしつつ、「で?そこまでして連れてきた理由は何?」と雅を非難するような声音で言う。
「今日、『司る能力者』達が会議を開いたことはご存知でしょう?」
円卓会議の事だ。ジーナとしては自分にとってどうでもいい事である。何故ならそれはジーナに関わりの無いものであり、関係性の無いものに関心を示すほどジーナの好奇心は生きてはいないからだ。
「どうでもいいんだけど」
「ではそこで同盟が結ばれた事もご存知で?」
その後雅はその同盟の内容について事細かに説明をした。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力【更新再開】 ( No.232 )
- 日時: 2017/03/14 22:25
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: rMeeZFi3)
「ではジーナさん、仮に敵対する可能性が0の相手がいた場合、その相手とどう接しますか?」
「そりゃ敵対の可能性が0なら手を結ぶ。裏切られない相手ほど信頼できる仕事仲間はいないからねぇ」
「そうです。なら仮に『司る能力者』達の対立がほぼ消滅した今、『司る能力者』達はどうすると思いますか?」
「寝る」
瞬間、ジーナの目の前に雅が突然現れデコピンを食らわせた。
時間を停止した状態で移動し、瞬間移動したのだ。
「痛ッ」
「真面目にどうぞ」
「わかったって……そりゃ同盟を組むに決まって……あ……」
ジーナは覚ったようだ。雅の言いたいことを。
他の能力者達も、段々と理解が追い付いたようだ。
「そう、今『司る能力者』達は結束しているんです。それはつまり、無敵の集団ができて、その集団から目を付けられたら単独では生き残れない。……ということなんです」
仮に一人の『司る能力者』と敵対したとしよう。
今はまだいい。一人なら逃げることはできるし、撃退することも不可能ではない。
だが、今後『司る能力者』達が結束したとしよう。そうすれば軍隊一つ分にも相当する力を持った能力者もいる集団から追い掛けられる事になる。当然、たった一人では逃れることはできないだろう。
「何となく言いたいことはわかった。雅、アンタは私達と手を組もうって訳だ」
「ええ、そうです。正確には『司る能力者が脅威に思う程度の集団』を作ることが目的です」
「だが地位争いなんか俺やだぜ。んな殺伐としたもんにゃ入りたくねーしよ」
乱暴な口調で千尋がそういう。しかし雅は想定済みだと言わんばかりにすぐに切り返した。
「だから私が作るのは横広い組織。全員が等しい権力を持った薄い繋がりの組織。これが私の理想です」
「なるほどねぇ。それなら面倒臭い訳じゃあなさそうだねぇ」
ジーナは前向きだ。彼女からしたら面倒ではなく、なおかつ自分が利益を得られる話はとても有り難いからだ。
「……どうする霞夏。俺ァ正直ノッてもいいと思ってる。どの道すぐに切れる繋がりなら繋いどくべきだってな…………ああ、悪ィな。俺の都合で決めちまってよ」
久郎は独り言を呟いている様にも見えるが、実際は霞夏のホワイトボードを見つつコミュニケーションを取っている。霞夏は声が出せない障害を持っているため、会話をホワイトボードに依存しているのだ。
今までずっと黙ってニコニコしていた黒田流星も参加の意志を示している。
千尋も反対ではないようだ。
だが、一人だけ違う意向を示した。
具列鎖だ。
「味方ぁ?あんたらが?おいおい冗談は止してくれよ。悪いが俺は、この話から抜けさせて貰うぜ」
手をヒラヒラを振りながら鎖は夜に消えて見えなくなった。
「一人減って六人……ね。さ、どうしますか?」
こうして、裏社会にまた一つの組織が誕生した。
序列も階級も無い、横広く薄く細い繋がりでできた組織が。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力【更新再開】 ( No.233 )
- 日時: 2017/03/15 23:29
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: rMeeZFi3)
具列鎖は一人で夜道を歩いていた。
一人だけ組織への参加を断った鎖。理由は単純だ。彼は他人の下に置かれるのが好きなのだ。
別にマゾヒズムを持っている訳ではない。鎖は自分が責任を取ったりすることが大嫌いで、他人から命令されて何も考えずに動く方がよっぽど楽だと考えているのである。
最初は組織の設立と聞き期待していたが雅が出した案は自分の求めるようなカースト制のような『縦構造の組織』ではない『横構造の組織』だった。同じ権力の者しかいない組織など、鎖の好みでないどころか嫌いですらある。彼は群れることも嫌いなのだ。
自分が責任をとりたくない。だが群れていては36歳という現役の能力者にしては歳を食った方である最年長の自分が責任をとらされる事になる。だから群れなければいい。群れなければ、他人の責任を自分がとる必用など無いのだから。このような考えから鎖は雅の『横構造の組織』を嫌い、参加を断ったのだ。
帰りに適当なつまみでも買って帰ろうとコンビニに寄ろうとする鎖。
しかしそんな鎖の肩が誰かの手によって掴まれた。
「なぁオッサン。ちょっと来てくれね?」
鎖がため息をつきつつ振り返ると、鎖よりも大柄な制服を着崩した学生が肩を掴んでいた。耳にピアスをしていて、髪型はリーゼント。絵に描いたような不良の姿だ。
後ろにはニヤニヤしつつもこちらを見るニット帽を被ったダボダボのジャージの学生(と思われる年齢)と、頭を丸めサングラスをかけた学生が控えている。
鎖が黙っているとそのままコンビニの裏まで連れられる。
ここは超能力の誕生によって必用とされなくなり捨てられジャンクになった工場や倉庫などの建造物が建ち並ぶ地区だ。
このあたりには廃墟を根城とする不良が棲息しているという情報もあったな。そんな過去に耳に挟んだ程度の知識を引っ張り出していると唐突に肩を押された。
何も出来ずに倒れる鎖。若いときの様に受け身を取ることはできず、硬い地面に無様にはいつくばる。
「なーオッサン。小遣いくれよ小遣い。……さっさと出せや」
リーゼントの不良が鎖の胸倉を掴んで圧をかける。しかし鎖の視線は不良にすら向いていない。自分の持っていた持ち物が散らばっていないかどうかを確認している。
確認が終わると、ゆっくりと不良の方を向き、鎖は不良に向かってこう放った。
「オッサンさぁ、実は今金に困ってんだよ。小遣いくれね?」
不良の顔が一瞬固まった。直後、爆笑が起こる。
「オイオイ!今の台詞聞いたか!このオッサン状況がわかってねーよ!ヒャッハッハァ!」
笑い声をあげる不良。それを遮ったのは、鎖の鉄拳だった。
そしてその拳が打ち抜いたのは、ちょうど右目の辺りだ。
鎖の胸倉を離し、のたうちまわるリーゼントの学生。壮絶な悲鳴がコンビニの裏手に反響する。
「アッガァァァッ!」
「悪いなぁ。オッサン、普通にやって勝てる気しないから目、潰させて貰ったわ」
次の瞬間、不良の顔面に目掛けて容赦の無い鎖の蹴りが放たれた
鼻が折れたのか、鼻血が噴き出した。その鼻血が鎖の靴を赤く、紅く汚す。
鎖は面倒臭そうに「あ〜あ、靴って洗うの面倒なんだよな」とぼやいている。 それは人を傷付けている者の台詞ではない。まるでゴミ掃除をして服が汚れた時の反応だ。
他の二人の不良は固まっていた。仲間の惨いやられ様に怯え、それを平然と行う鎖に脅えたのだ。
鎖は固まっている二人の不良に向き合うと表面上はニコニコとした笑みでこう語りかける。
「いやな?オッサン状況理解してる上で言った発言全否定されてちょいと怒ってんだよ。わかる?ま、こうすりゃわかるな」
鎖が二人の不良と距離を詰め、強引に二人の服を掴み、密着させた。
次の瞬間、鎖の能力である[接着を操る能力]が発動した。
鎖の能力は辞書で『張り付ける』と引いた際に書いている事が大体できる。
例えば、今のように不良の服同士を接着して離れなくしたりする事ができる。
他には評判操作などだ。この場合は『レッテルを張り付ける』という意味になる。
制服がくっついた事により二人三脚以上の束縛を受け、上手く動けず転んで地面に激突した不良。そして不良に襲い掛かるのは、鎖の蹴り。
容赦の無い蹴りは身を打ち骨を砕く。例えどれだけ叫ぼうが喚こうが鎖は止めないし、容赦もしない。
暫く鎖が蹴り続けていると、不良は誰も動かなくなった。正確には、動く体力も叫ぶ気力も無くなったのだが。
「ふいー、終わったかぁ。じゃ、財布の中身は貰ってくな。オッサン、つまみかうから」
三人の財布から札を抜き取り変わりに一円玉を三枚入れる鎖。それは最早やっていることは不良達と変わらないカツアゲ行為である。
「まあアレだ。カツアゲっつーのは常にカツアゲされる覚悟の無い奴がすることじゃねぇって事だな。ほら勉強になっただろ?じゃあ授業料は貰っていくぜ」
他に比べ歳を取った能力者、具列鎖。
だが、その身に宿る能力者としての本質はなんら衰えてはいなかった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力【更新再開】 ( No.234 )
- 日時: 2017/03/19 22:13
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: rMeeZFi3)
解散した後、黄昏雅にとって長い時間話していた気は全く無かったのに、気がつけば陽はとっくに沈み、代わりに街灯が静寂な夜を照らしていた。
首からかけてある懐中電灯を見ると既に時計は七時を回っていた。
この頃ならまだ間に合うだろうか。そう思いながら雅は指を鳴らす。
直後、周囲のものが全て無彩色に染まった。時間が停まった証拠だ。
雅の能力、[一時停止を操る能力]は指定した物体、現象、または指定したもの以外の全てを停止させる事のできる能力だ。正確には『物質、現象、力をその時点で凍結し、解凍するまで保存する』という能力だ。例えば林檎を投げたとする。雅が能力を使うと林檎はその場で停止するが、能力を解けば林檎は地面に落ちずに先程の運動を再開する。ビデオの一時停止と再生ボタンを想像すると理解が容易いだろう。
そして停止した物体は絶対に傷付けたりは出来ないし絶対に動かすことはできない。つまり停止している人間にいくらナイフを突き刺そうとしても絶対に突き刺さる事は無いのだ。だから停止した人間を傷付ける際には時間停止を解かなければならない。そこが雅の能力の弱点だった。
雅は静寂に包まれた停止世界の中を早足で歩く。彼女が一度に停められる時間は長くて30分。しかも精神状態によって激しくブレが生じる為、時間が停まっているとしてもモタモタとしている暇は無いのだ。
雅にとって停止した無彩色の世界はもう一つの自分の居場所であり、自分だけの場所でもあった。誰もいない世界は孤独に溢れていて、当時世間そのものを嫌悪していた雅にとっては二番目に優しい居場所だった。
この中では雅は自由になれた気がしていた。自分だけの空間はとても居心地が良かった。
だがDHAの一件でそれは覆された。灰色の髪の特殊警察の人間は指定してもいないのに停止世界に入ってきたのだ。誰もいない世界に招かざる客がやってくる。決してあってはならないことなのだ。
そのことを思い出し、唇を噛む雅。彼女の能力以外で停止世界に入ることは彼女にとっては、自宅に泥だらけの長靴で踏み入られること以上の憤りを覚えることなのだ。
意味のない屈辱に苛立ちを覚えつつも雅は黙って目的地へと歩き続けた。
〇
雅が目的地に到着した頃には、既に時間停止の時が迫っていた。
周囲に誰もいないことを確認し、時間停止を解く。
次の瞬間、無彩色に染まっていた世界が色付き始める。夜なので変化は劇的という程ではないが、昼間にやると劇的な変化が起こる。
雅の目的地は目の前の、四角い巨大な豆腐に屋根を付け、窓を付けたような建物。色は全体的に薄く緑がかかっている。
正面には門があり、ブロック塀で敷地が囲まれている。その門の横のブロック塀に付いているインターホンを押す雅。
十数秒ほど待つと、建物の黒いドアの棒状のドアノブが周り扉が開いた。
中から現れたのは五十代後半程の女性だ。顔にはシワがより、老眼から眼鏡をかけている。緋色の目は優しさのような雰囲気に溢れている。
茶色の髪は白髪混じりで肩辺りまでに切られ、軽くパーマがかけられている。
「あらまあ、雅ちゃんじゃないかぇ。久しぶりだねぇ」
「お久しぶりです。浦崎さん」
彼女の名は浦崎志穂乃(うさらき/しほの)。この浦崎孤児院の院長である。
「立ち話もなんだし入りなさい。子供達も雅ちゃんに会いたがってるからねぇ」
〇
「雅おねーちゃん!久しぶりー!」
浦崎孤児院の中に入った雅を出迎えたのは幼稚園児から小学生までの子供達だ。ざっと数えて二十数人はいるだろう。
そして奥では中学生から高校生の学生達が苦笑しつつその様子を見ている。こちらは十人程だ。
小さな子供達から質問責めに遭う雅。無論彼女は聖徳太子ではないので複数人の質問を同時に受け取ることはできない。
「ありゃ……雅ちゃん相変わらず大人気だねぇ」
一人ずつ質問を受け、それに律儀に返答を返す雅を見て志穂乃は呟いた。
そして、雅はいつに無く楽しそうな声音と表情をしていた。
〇
質問責めを乗り越えた雅は大きく息を吐き出した。流石に両手を使っても到底数えられない人数を相手するのは、能力者相手に戦闘もこなす彼女でも疲れることだった。
「すまないねぇ。疲れてるだろうに」
「いえ、私がやりたくてやっていることですから」
雅は嘘は付いていない。実際雅はここに来て一度も嘘は付いていない。いつもは表面上のみを取り繕い、嘘と建前で自分を塗り固めている雅だが、ここにいる間は正直でいようと決めているのだ。
「そうかい?そりゃ良かった良かった」
シワの多い顔を更にくしゃっと歪めて笑う志穂乃。しかしその何処にも醜さと言うものは存在しなかった。
そして、雅がここへ来た理由についての話を聞き出そうとした時だった。
「あのーー」
インターホンが鳴ったのは。
「こんな時間に誰だろうねぇ?」
ゆっくりと立ち上がり玄関に向かうために部屋を出た志穂乃。
そして志穂乃が部屋に戻って来たとき、その後ろに雅にとって見覚えのある大柄な男性が付いて来ていた。
「悪ィっすね志穂乃さん。……あ?雅?」
銀髪の髪に銀縁の焦げ茶色のサングラス。白いボタンの付いた白いシャツに黒のカーディガン、そして薄茶色の長ズボン。
身長は190cmもある彼は入口の上に頭をぶつけないようにしゃがむようにして入ってきた。
「久郎……貴方も此処に?」
「奇遇だな。俺も今日の予定が終わった後に来る予定だったんだ」
そう、大見代久郎だ。雅の提案した案に乗った人物の一人である。
そして、二人にはそれ以上の関わりがあった。
「霞夏ちゃんはどうしたの?」
霞夏、とは縫空霞夏の事だ。彼女は久郎とコンビを組んでいたはずだが傍らにはいない。彼女は他人とのコミュニケーションが非常に苦手な一面があり、久郎に依存しているような印象があった。
「家で待たせてある。今頃は風呂にでも入ってんだろ」
そういえば二人は同居していたなと頭から記憶を引っ張り出しつつも、確かそれで過去に散々ロリコンとなじった記憶があるのを思い出して雅は吹き出した。現在霞夏は13で久郎は23だ。同居を始めたのは二年前だから霞夏は当時11で久郎は21。11の少女に手を出したと此処で暴露してその数日後久郎から苦情の電話が来たのは今でも覚えている。
「……お前今、ロリコンとかおもったよなァ?」
「……うん……ふふっ」
「何笑い堪えてんだコラァ!」
「相変わらず二人は仲が良いねぇ。歳は離れてるって言うのに」
「騙されちゃいけないッスよ志穂乃さん。コイツは時間止められるから実年齢よりも精神年齢と肉体年齢は歳をとってるから、常時サバ読み状態ッスよって止めろナイフを取り出すなバカ!」
騒ぎ出す二人を見て志穂乃は微笑む。
志穂乃は二人の幼少期を知っている。というか彼らを育てたのは誰でもない志穂乃なのだから。
雅を拾ったのは彼女が10歳の頃。彼女は確か他人よりも早期に能力が発現して、周囲からのけ者にされたこと、そして無能力の両親が青から白へのグラデーションの髪に嫉妬を覚えて雅を捨てた。それを拾ったのが志穂乃だったのだ。
久郎を拾った、というか行き場を失った彼を見つけたのは彼が12歳の頃だ。両親を失い、親族もいなかった彼は路頭に迷っていた。
雅を拾ったのは6年前。久郎を拾ったのは11年も前の事だが志穂乃は昨日の事のように思い出せる。いや、雅や久郎だけではない。彼女はこの浦崎孤児院で保護した子供全ての事を覚えている。
志穂乃という女性は良く出来た人格者だ。元はある有名な会社の社長の娘だったらしいが、自分の資産を切り崩してこの孤児院を回している。
そんな彼女だからこそ、彼女は雅と久郎に対してとても申し訳なく思っているのだ。
雅と久郎は志穂乃が資産を切り崩して孤児院を成立させていることを知っている。いや、知ってしまったのだ。そしてーーーーその資産が尽きそうな事も。
彼らにとって志穂乃は自分の人生を変えてくれた言わば親のようなものである。だから彼らは恩を返したかった。だが彼らに出来ることなどたかが知れている。例え二人でアルバイトをしても孤児院を回すための金額には到底及ばない。
だからーーーー二人は裏社会に足を踏み入れたのだ。
そしてそのことを知った志穂乃は自分が許せなかった。自分のせいで二人を社会の汚い面に放り込んでしまったのだと。
だから、志穂乃は二人にせめてと頼み込んだ。
ーーーー必要の無い殺しはしないでおくれ。と。
だからこそ雅は時間を停めて容赦の無い攻撃はしないのだ。彼女の言葉は雅が意識せずとも常に彼女が人殺しになることを防いでいた。
目の前で言い合いを始めた二人の間に仲裁に入る志穂乃。
そして彼女は言い忘れていたことを一つ思い出した。
「雅ちゃん、久郎。おかえり」
二人は瞬きを数回した後に少しニヤつき返事をした。
「ただいま、志穂乃さん」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力【更新再開】 ( No.235 )
- 日時: 2017/03/29 07:47
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: c1MPgv6i)
「ところで雅ちゃん。さっき何か話そうとしてなかったかい?」
「あ、はい。……実はリモデルチルドレンの件についてです」
リモデルチルドレン。この言葉を聞いて久郎が少し眉をひそめた。
その様子に気がついた雅はしまったと後悔しつつも話を進める。そろそろ彼にも知ってもらうべきなのだ。
「リモデルチルドレンは最近増加傾向にあります。彼らは元は孤児や事情によって捨てられた子供。又は売られた子供です」
リモデルチルドレン。漢字では改造児と言う。
リモデルチルドレンとは、改造された子供達だ。具体的には、あまりに幼過ぎる年齢で能力を持っている子供達を指す。
通常能力の発現時期は12歳とされているが、これはあくまでも一般的な基準であり、これよりも早く発現する子供もいれば遅く発現する子供もいる。
例えば、義義理碧子の能力が発現したのは10歳の頃であるし、ハリック・ジーナこと守谷仁奈の能力が発現したのは高校1年生、つまり15歳の頃である。
だが、能力は絶対に10歳未満では発現しないのだ。能力を発現させる薬品は効果に最低五年はかかるものであるし、何より脳が未成熟過ぎて能力を作るということもできない。
だが、リモデルチルドレンは違う。彼ら彼女らは自分の脳の一部を外科的な手術によって改造し、能力の発現のタイミングを7歳にずらしている。
そのため能力が有り得ないほど早く発現する。それはいい。だが問題は、手術の成功率である。僅か10%にも満たない。
そしてもう一つの問題が寿命だ。彼らは早すぎる能力の発現により感じはしないが脳に多大なダメージが来る。そのため20歳程度で脳が麻痺してしまうのだ。
「彼らは最近増加している。少しずつですが増えてきています。つまりリモデルチルドレンを作り出す組織が動き始めたようです……恐らくDHAがいなくなった事により活動が活性化したのでしょう」
「……なるほどねぇ。つまり雅ちゃんは私に引き取りの活動をもっと広げてと言いたい訳だ」
「その通りです」
「しかし……資金面は二人のお陰で問題はないんだが……どうにも人手不足が深刻でねぇ。私にしかできないこともあるし、子供達の負担もある」
雅の顔が少し沈む。
雅は孤児だった。正確には、黒髪の両親の間に生まれた雅は能力が発現した日に激しい拒絶を受けたのだ。雅の両親にとっては能力者は醜い嫉妬を向ける対象でしか無かった。そしてその嫉妬はいつしか暴力に変わり雅は虐待を受けるようになったのだ。
幸いだったのは両親が目立たない部位に傷を付けるなどの配慮をしなかったことだ。怪我が見つかり雅は両親と縁を切り、その後志穂乃と出会った。
だがもしも、仮に自分を引き取ったのがリモデルチルドレンを作り出している組織だったら、と考えると雅はとても他人事には思えなくなるのだ。
そんな組織に引き取られる位なら、志穂乃の元の方が何倍も良い。そう思っていた。
だが考えてみればそれは志穂乃の都合を考えない自分勝手な考えだったのだ。
そのことに気が付き、当然断られるだろうと思う雅。そして自分の虫の良い考えにも腹が立つ。
だが志穂乃の答えは雅の予想とは違っていた。
「分かった。引き取りの範囲を広げようじゃないか」
「……え?」
「え?じゃないよ。分かったって言ってるんだ」
「でも大変って……」
「雅ちゃん。雅ちゃんは子供達を助けたいんだろう?だからアタシにその話を持ち出した。つまりアタシを信頼してくれているって事だ。
……信頼してくれている子供の期待を裏切れるほど、アタシは賢くないのさ」
〇
大見代久郎は帰路を走っていた。
久郎はあの場に留まれなかった。雅を話を最後まで聞くことはできなかった。
無理だったのだ。雅の話し方を、リモデルチルドレンの存在を否定しているように感じてしまったのだ。
無論雅に関してそんなことはないと分かっている。だが久郎は聞けなかった。あの場にいたら、自分は暴れてしまいそうだったから。
霞夏と二人で暮らしているアパートが見えてくる。二人暮らしをするには狭いし窮屈な広さのアパートだ。
階段を駆け上がり乱暴に扉を開けようとして、一度深呼吸をする久郎。こんなことで霞夏を怖がらせる訳にはいかない。と思っての行動だった。
「ただいま」
ゆっくりと扉を開けるとトタトタという足音と共に彼の相棒である霞夏が姿を現した。まだ風呂上がりなのか顔が少し赤い。
霞夏は抱えていたホワイトボードを久郎に見せる。そこには可愛らしい文字で『お帰りなさい』と書かれている。
それを見て少し安堵の表情を浮かべる久郎。
久郎が暴れてしまいそうだった理由。それは極めて単純な事だった。
彼の相棒の霞夏も、リモデルチルドレンだからだ。
彼女の能力は[透明を操る能力]自分と自分の触れているものを透明にしてしまう能力だ。時々だが情緒不安定になると周りのものを透明化させ始めるので久郎は何度かそれで痛い目を見ている。
今は13歳だが出会った当初、彼女は9歳だった。10歳未満の能力の発現。それだけでもリモデルチルドレンの証拠としては十分過ぎた。
久郎は今でも信じることができない。
目の前の豊かに表情を変える元気な少女の寿命は20歳程なのだと。
そんな久郎の少し憂いを帯びた表情に霞夏は『久郎さん、どうかした?』と記入したホワイトボードを見せる。
なんでもねェ。そう言うと同時に自分に言い聞かせた久郎は家の中に入って行った。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.236 )
- 日時: 2017/03/27 16:19
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: rMeeZFi3)
第8章、十人十色の始まり方、エピローグ?
身が弾けたように鮮血が撒き散らされた。
背中から血が吹き出し、白かったブラウスが赤黒い色で染まる。
「ッ!」
その血の主である女子生徒は壮絶な表情と共に、声に成らない悲鳴をあげた。
逃げなければ。その言葉のみを頭の中に浮かべ、歯を食い縛って笑う膝を必死に動かし、裂けた肩口を抑えつつ壁に手を当てて歩く。
壊れかけの電灯が僅かな光を放つのみの、静まり返った薄暗い闇の中、出口を目指して一歩、また一歩と激痛と闘いながら踏み出す。
その速度は焦りとは反比例するように遅く、あくびが出るような速度だ。だが今の女子生徒はそれすらも認識できていなかった。
ーーーーそんな状態の人間が、後ろから迫り来る高速の『刃』を回避できる訳が無い。
血が噴き出す音と共に、盛大な噴水を打ち上げながら、女子生徒の腰に激痛が走った。
何が起こったかもわからず、何に攻撃されどのように傷つけられたか。それすらも知ることができないまま、あまりの激痛にたたらを踏んで床に倒れ込む女子生徒。倒れ込んだ際の衝撃が傷口に塩水を塗り込むように追い討ちをかける。
「ネェ、待ってよ……アハ」
その幼さの残る、女性の声が女子生徒の耳元で囁かれた。その声は無邪気な様で、歪んだ狂気を孕んでいた。
全身の身の毛のよだつような恐怖が女子生徒を襲う。反射で女子生徒が能力を使い、念動磁場によってその人物を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた緑色の髪をした女子生徒は壁に激突する。が、意識が朦朧とする中で行使された能力の出力などたかが知れている。当然気絶させる威力も無く、その緑髪の女子生徒はすぐに起き上がり、血まみれの女子生徒に向かって、カマイタチのような『刃』を飛ばした。
再び、鮮血の噴水が上がる。鉄の臭いが鼻を突き刺し、吐き気を誘う臭いに変わる。
血まみれの女子生徒の意識の糸が切れた。あまりの激痛により意識が切れてしまったようだ。ピタリと電池の無くなった玩具のように動かない。
緑髪の女子生徒は満足げに口を三日月形に歪め、狂気的な光を瞳に灯して、笑った。
「私のお人形さんが、逃げちゃダメでしょ?」
第9章、リッパーガールと平等少女
あとがき
平子「えー、今回は割と短かったって訳ですよ」
風間「これが普通だ」
時雨「さて、今回の章だが役割は『7章の影響とそれによる変化』を描写する為だけの章だ。まあ7章の延長線上にある話ばかりだ」
平子「そして最後のは……まあ次の章への繋ぎです」
風間「平等少女も何も俺達の中で少女という時点で平子一択だな」
時雨「平子出番多すぎないか?」
平子「だってぇ!主人公の中の主人公は私なのに皆が平子の影薄くなった薄くなった言うって訳ですよぉ!時雨さんだって二章連続でメイン張ったし風間さんは六章で長々やったじゃないですかぁ!だったら私にも長々やる権利はあるって訳ですよぉ!」
時雨「風折なんてなかったんや」
風間「そういう事だから次回からもお楽しみに」