複雑・ファジー小説

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.47 )
日時: 2015/12/02 07:18
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 第四章、甘い海と苦い記憶。


 ギラギラと輝く夏の太陽。
 それを遮るために砂浜に突き刺したパラソル。
 そして視線を落とせば、一面に広がる砂浜と海と水平線。

「平ちゃんお待たせ〜」

「すみません……ちょっと時間がかかっちゃいました」

 うん。大丈夫だよ。全然。

 そして私に話しかけてくる二人の友人。なぜ緋奈子ちゃんが謝っているかと言うと、二人は(主に紡美ちゃんが)着替えに戸惑っていたのだ。何に着替えていたのかと言うとそれは水着です。
 身長の低い紡美ちゃんは黄緑色のフリル付きの水着を着ています。高校生にしては幼稚ではないかと思うかもしれないけど紡美ちゃんはアレだ。中学生位にしか見えないから全然、違和感が無いんですよ。
 一方、身長の高く巨乳…チッ…である緋奈子ちゃんは紫色の上が2つ、下も2つに別れそれを紐で繋げるタイプの青紫色のビキニ……喧嘩売ってる? を着ていてその豊満な胸を強調する感じになっているって訳ですよ。舌打ちが出るのは仕方ないと思いません?
 私? 私は白い色のワンピースにミニスカが付いた見たいな水着ですよ。髪の色に合わせてるんですけど…ね。

「時雨ー。あれが海?」

「そうだぞ。あれが海だ」

 手を引いて何かを指差し、質問をする碧子ちゃん。碧子ちゃんの水着フリルの付いたは髪よりも少し薄い色の緑水着。
 あるぇー? 碧子ちゃんと紡美ちゃんに差があまり無いや。
 それに答える時雨さん。水着は上に長袖のジャージを羽織り、下は黒っぽい海パンです。二人は兄妹の様でした。ところであの水着は時雨さんが選んだんでしょうか…?

「ほおー。久しぶりに見たな。いつぶりだ?」

「三年前ですよ。兄さん」

 今度はリアルの兄妹が登場。だが、あちら程身長が離れている訳でもない。(影雪が20。雪花が15)私は雪花ちゃんにが全体的に細い印象を抱いていたけど……隠れ巨乳だったとはな…解せぬ。
 兎に角、そのプロモーションでワンピースを着たが為に凹凸が余計に強調されています。……泣いてなんか無いって訳ですよ。
 影雪さんは白黒チェックの長袖水着にこれまた白黒チェックの半ズボン辺りの長さまである水着を着ていた。

「あー。眼福眼福。そう思いません?」

「多分だけど、あの司る能力者の妹に手を出すのはやめとけよ。…あのシスコンorブラコン兄妹はやあヤベェぞ」

 二人は今までの面子を鑑賞している様でした。
 風折兄妹乙。
 片方は、黄色に黒っぽい金属色が入った感じの(金色ではない)クロムイエローの髪型を目に入るか入らない程度まで伸ばした髪型で、目の色は特に変わってないです。服に来ているのは黄色のジャージに黒と黄色の海パン。特殊警察の残切山斬さん。ザンって呼んでと言われたけど、私はザンさんって呼ぶ事にしました。
 もう片方は灰色の髪を眉毛の見える位まで切っている風間司さん。目が緋色に変色しています。服装は…上に長袖競泳水着、下は半ズボンの競泳水着で二つともアッシュグレーから白のグラテーションになっている。

 なんでこの面子で海に行くことになってたっけ?
 私は自分の記憶を整理する事にしました。



 プルルルル、プルルルル。

 ピッ「もしもし。こちら平野護身術講座です」

『あ、平ちゃん元気? 紡美だよー』

「ああ、紡美ちゃんどうしたの?」

『緋奈子ちゃんがさ、海に行こうって言ったんだよ。それで人を集める訳になったけど…平ちゃんはどうする?』

「行くに決まってるって訳だよ」

『じゃあ人を集めてくれない?私達含めて十二人位なら誘っていいって』
 私、友達はいるけど、遊ぶ仲の人は少ないんですよね。

「わかった。じゃあね」プツッ。

 さてどうしましょうかね……とりあえず最初は……。


 風折自宅。
 プルルルル。
 ピッ「もしもし。風折です」

『ああ、雪花ちゃん? 私平子』

「ああ! 平ちゃん! どうしたの?」

『あー。実は海に行く人を集めてるんだけど来る? 影雪さんも連れてきていいから』

「わかったよ。兄さんに訊いてみるね」

『じゃーねー』プツッ


 次は……つーかあの人に丸投げするか…。


 【上原荘】503号室

 プルルル。
 ピッ「もしもし時雨だ」

『時雨さん? 平子です』

「ああ、平子退院したんだな」

『まあそれは置いといて……海に行きません?』

「まあ行くなら行くが…俺以外に連れていっていいか?」

『まああと3人位なら』

「わかった。じゃあな」


 これが事の発端でした。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.48 )
日時: 2015/12/02 17:59
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 【上原荘】503号室


「……俺が行くとなると碧子も行くことになるな……で、あと二人は……あの二人にするか」
 時雨は懐かしい番号を打ち電話をかけた。

 特殊警察本部、第00部室

 ここは特殊警察本部の第00部、通称【問題児部】の部室。
 プルルルルル。
「はいこちら特殊警察00部。どうしました?」
 そしてその受話器をとったザン。
『俺だ。時雨だ』
「ああ、時雨先輩。どうしました? 奢りの話ですか?」
 話す声はそこそこ大きく、一応00部室の中の全員が聞こえていた。
「時雨? あの時雨から電話か?」

 そう問いかけたのは問題児部の一員である風間。
『ん? この声司か?』

 受話器を強引にザンから引ったくった風間は話を続ける。

「久しぶりだな。生憎火麗はいないぞ」

「風間さんって本人の前とかなら部長って言ってますよね」

『久しぶり。今日はそっちじゃなくてザンと司に用があったんだ。お前達…海に行かないか?』

「…俺は久しぶりに有休とって行きたい。ザンはどうする?」

『ザンは来いよ。焼き肉の代わりだ』

「…わかりましたよ」

『じゃあ詳しい事は後日な』

「……火麗が有休を許可してくれるかが心配だ」

「激しく同意っす」


 【上原荘】503号室

「二人は来れそうだな……後は」

 時雨の部屋はワンルームだが、仕切りがついているため部屋をひとつ増やせるのだ。そして今、もう片方を碧子が使っている。
 コンコンとしきりをノックする。

「時雨? どうかしたの?」

「碧子、海に行くことにしたぞー」

「海って……あの地球の大半を占めているあの海?」

 どうやら碧子は海を知っている様だ……知識的には。

「まあ俺たちが行くのは砂浜だけどな」

「んー。まあ見てみたいし……わかったよ」

「だから水着買いに行くぞ」

 ガララと音を立てて仕切りが開き、碧子が出てくる。服装は前と変わらないワンピースに白衣を羽織っている。

「水着?」

「ああ。まぁ行けばわかる」

 そしてしばらく経ちーーーー


「こうなったって訳ですよ」

 今、平子達は平子の家の前にいる。
 なぜ平子の家なのかというと、単に護身術教室もやっているため、みんながわかりやすかったのだ。

「えーっと。全員揃いました?」

 何故緋奈子の言葉が疑問形なのかと言うと、緋奈子はこの場にいる5割以上を知らないからだ。

「私は三名を除いてわかるけどね」

 平子が言っている三人は、碧子とザンと風間の事だ。

「…嘘……ですよ…ね」

 緋奈子はある人物を見て、絶句する。その人物とは、時雨である。

「緋奈子ちゃん?」

「ああっ…何でもありませんよ」

「そう? なら……えーと。取り合えず一人ずつ自己紹介してください、多分だけどほとんどの人が初対面だから訳がわかんなくなっちゃうって訳ですよー」

 平子の言葉は全員に届いた様だった。全員が集まった辺りで平子が自己紹介を始める。

「平野平子です。趣味はアニメ鑑賞。宜しくお願いします。ハイ次!」

 自己紹介を終えた平子は緋奈子を引っ張る。

「あっ……鋼城緋奈子です」

 そして自己紹介は続いていった。

「十橋時雨。趣味は「ロリ」で好きな食べ物は「ロリ」だ。……おい平子ぉ! いらねぇ台詞つけてんじゃねぇ!」

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.49 )
日時: 2015/12/02 22:38
名前: 三毛猫 (ID: s00TEuml)

司が出てる!!
イメージ通りです。採用ありがとうございます!!

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.50 )
日時: 2015/12/02 22:40
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 そして、時間は流れーーーー。

「この砂浜に着いていた」

「何喋ってるんだよ」

 そう言ってパラソルの日陰に入ったのは確か……。

「風間さん。でしたか?」

「ああ、どうとでも呼んでくれ。これでも時雨と同年代だ」

 風間さんは、はぁっとため息をついて砂浜に寝転ぶ。

「そう言えば、お前は遊ばないでいいのか?」

 風間は平子に問いかける。そもそも今、平子以外の女子は水辺で遊んでいる。碧子は初めて水に入った(富柄の時のはカウントしない)ようで、最初は戸惑っていたが、その内はしゃいでいた。やっぱり、白衣とか着てても子供なんだなぁと平子は思った。

「風間さん。人の髪の毛って何で色がついてるかわかります?」

「えーっと。確か色素で髪が守られるだのどうのこうの……でも能力者なら色だって変わるだろ」

 実際に、ここに来ている7割程が黒髪である。が、彼ら彼女らは特に気にした様子は無かった。

「いやー。みんなは少しでも色素があるからいいけど私は完全に抜け落ちて真っ白ですからねー。髪が死にやすいんですよ。何故か」

 平子は今、大量の髪を一本に纏めている。ポニーではなく、腰辺り迄の髪の少し上に大きなリボンをつけて纏めている感じである。

「学校とかなら室内プールだし、日常的には髪にいつも汗じゃ落ちない薬品塗ってるからいいんですけど…流石に海に浸かったら溶けちゃいますよ」

 自分の髪を持ってハァと溜め息をつく平子。
 余談ではあるが、平子の髪はアルビノとも表現できない事も無いが、どちらかと言うと雪の様で、その細いルックスも合い、一部の生徒の間で人気となっている。要するに平子はそこそこモテているのだ。本人は気づいてないが。
 それは兎に角。

「風間さんは行かないんですか?」

「平野。お前はアレを見てその戦場に突っ込む事ができるか?」

 風間が海の、女子と反対側の方を指差す。
 そこには、

「喰らえ!」

 ザバァン! と軽くそこそこな波を繰り出す時雨さん。

「時雨先輩…大人げないっす」

 その波を自分にかかる分だけ分散させるザン。

「ほらよ。電気に変換してお返しだ」

 波の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、それを時雨の方に伝導させる影雪。

「あっがががが!」

 バシャン! と痺れて倒れる時雨。

 しかし、倒れたところから水が派手に上がり、

「風折ィィ!」

 と、今の電撃が効いてない事を証明する時雨。

 ……………。

「だいたいわかりました」

 だいたい理解できた平子は視線をそらす。そして風間に同情の眼差しを送る。

「そう言えば…」

 平子は、ふと思った事を口にする。

「風間さんの能力って何ですか?」

 それを聞いた風間は少し考えて答えを出す。

「俺の能力? 平野、だいたいお前と同じだ」

 何でも無いように答えた風間。一方平子は。

「嘘! 能力の名前は何ですか?」

 仲間を見つけた様に質問する。因みに何故平子の能力を風間が知っているかと言うと、それは時雨からザン。ザンから風間。と伝言ゲーム方式に伝わったのだ。

「能力名? [能力を無効化する能力]だったか? 詳しい事は覚えてないから帰ったら詳しく話すが…まあ自分を対象とした能力。または何かを経由して自分に干渉した能力を無効化する事ができる……ああ、飛んできた岩とかなら、運動エネルギーを消せる」

 それを聞いた平子は納得のいった表情だった。

 そして、二人が黙る。

 ザザザァと波の音がし、時折キャッキャと女子の声が聞こえ、時折男たちの方からドガーン! 等と海にふさわしくない音が聞こえる。

「暇ですねぇ……」

「ま、こうしてお互いに暇なんだ。暇を楽しめ平野」

「ま、それもそうって訳ですね」


「ビーチバレー! 大会!」

「「イェェェイ!」

 最初の声は時雨。次に続けたのは平子と碧子だった。碧子は大分この空気に慣れたらしい。

 因みに全員一旦ここに集合している。意味は時雨のセリフを見ればわかる事だった。

「じゃあチーム分けだ! あ、これくじな」

 時雨の手元には割り箸の入った筒が。用意がいい時雨である。

 結果。
 当たりチーム。
 平子・風間・碧子・緋奈子・ザン

 外れチーム
 時雨・錘美・雪花・影雪

 最初は当たり(赤と呼ぶ)チームからのボール。
 ポワーンと弾かれたボールは、外れ(青と呼ぶ)チームの影雪がレシーブし、
「おらぁぁぁ!」

 バァァァン!

 物凄い炸裂音と共に、ビーチボールが後ろのザンに直撃し、吹っ飛ばす。

 破裂したボールが乗っていたザンは返事か無い。ただの(ry 状態となっていたので、緋奈子の能力でパラソルの下に運搬する。

「時雨さん、ちょっとこっち」

「どうした?」

 平子は時雨の腕をすっと触り、パン! と合掌する。

「これで私と平等ですよ♪」

「しまったぁぁぁぁ!」

 そしてそのままプレー続行。今度は私がサーブを打つ。
 またレシーブ。そして時雨さんがスパイクしようとするも、

 パスッ。と音を出して飛ぶだけだった。

「便利のいい能力だな」

 風間からの称賛(?)に平子は「それはどうも」と返す。今度は碧子がレシーブをし、緋奈子がスパイク。

 ポスッ、と間抜けな音を出して飛ばされたボールは、影雪の腕を、逃げるようにして地面に落ちた。
 緋奈子の能力。[物体を移動させる能力]である。
 この後も能力を併用したビーチバレーは続いた。

 余談だが、復活したザンは影雪の周りの日光を運動エネルギーに変換したスパイクにより再び吹っ飛ばされた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.51 )
日時: 2015/12/03 20:11
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 しばらく時が流れ、夕方になる。
 平子達のグループは、一応主催者は緋奈子である。なぜ、緋奈子が企画したかと言うと、緋奈子はいわゆる【お嬢様】と言う奴で、鋼城家は金持ちである。
 そして、緋奈子の両親が気をきかせてたまには遊びにでも行かせよう。となり、今があるのだ。
 なぜ、こんな話をしたかと言うと今から宿泊に行く場所は緋奈子が手配した場所なのだ。
 場所こそ普通の民宿だが、人数もあり一人ひと部屋で貸し切りといった状態だった。

「はぁ……疲れた」

 なぜろくに泳いでいない平子がこんなにしんどそうな顔をしているのか、それはナンパを追い払うのに疲れたのである。
 平子が一人でパラソルの下に居るとき、何回か声をかけられた。その人達はまだ断ったら諦めてくれたが、問題は酔っ払った奴等である。
 そんな奴等は殴り倒した。平子はまあこれで少なくなるだろうと思っていたのだが……余計にナンパ人が増えたのである。
 やはり火傷してでもちょっかいをかけて見たくなるものだったのだろうが、平子からすればいい迷惑であった。
 結局、男で二人きりになったのは風間だけである。しかも風間とは何回も二人きりになったので、風間にはナンパ失敗人たちから舌打ちが飛んできていた。最も、風間は特に気にしていなかったが。

 テレビに電源を入れ、横になる平子。
 食事を終えた彼女には、何をやる気もおきなかった。


 暗い夜の浜辺に、二人の人影が立っている。
 一人は緋奈子。もう一人は時雨である。
 この二人には、接点がないようで実はあったのだった。

「…お久しぶりです。十橋さん」

「久しぶりだな鋼城」

 この二人の話は、およそ数ヵ月前に遡る。
 いや、時雨の場合は二年間だろうか。


 十橋時雨は道を踏み外していた。
 せっかく受かった高校を退学し、宛も無くブラブラしては、不良に絡まれ返り討ちにする。
 そんな日々が続いていた。
 何で。と思うかもしれないが、こうなったのには理由があったのだ。
 十橋時雨には家族がいた。
 兄と両親の四人家族だった。
 前はまだ、幸せだった。
 平凡と言う名の日常を、時雨は楽しんでいた。
 だが、ある日兄が失踪する。
 時雨の目の前で男に連れ去られた。時雨は立ち向かうが、まだ小学生三年生の時雨に、能力者に立ち向かうすべなど無かった。
 それから、時雨はトレーニングを始める。
 それから7年間程経ったある日の頃。
 時雨はいつも通りに家に帰った。
 いつも通りだったはずなのだ。だが、そんな日常は、

 時雨の両親の屍により十二分に打ち砕かれるどころか粉砕された。

 何の為に努力したんだよ。家族の為だろ。救えてねぇじゃねぇか。そうだよ! 救えなかったよ! その自問自答を繰り返した時雨の心は徐々に崩れ、崩壊した。
 そして時雨の生活はこんな生活になった。
 モノクロに見える世界。何もつまらなく思う自分。味の無い食事。
 時雨がそんな生活をし始めて一ヶ月が経った。
 時雨にはあだ名がついていた。
 【機械仕掛けの喧嘩屋】と言うあだ名が。
 かかってくる相手を無表情でいたぶり無表情で去っていく。そんな時雨につけられたあだ名だった。
 しかし、時雨はそれすらどうでもよくなっていた。
 そして、更に一ヶ月経った頃だった。

「お前が十橋時雨か!」

「…あ? だから何だよ」

「俺の名前は桟橋火英だ! とりあえず…」

 火英は時雨に手を伸ばして。

「飯食いに行こうぜ」

 これが、自分の人生を変える出会いだと言うことを、この時の時雨は知らなかった。


 過去編やっちまった…終わらせられるかな…。by波坂

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.52 )
日時: 2015/12/04 07:23
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 時雨の第一印象からすれば、火英の印象はバカだった。

(何が言いたいんだ?)

「おい。何が狙いだよ」

 時雨は火英を睨み付けて鉄パイプを拾う。

「おおいっ! 俺は単に飯に誘っただけ…うおあっ!」

 ドスッ!

 火英が説明している途中で時雨が鉄パイプを投げた。その鉄パイプは見事先程まで火英がいた場所に突き刺さる。火英が少し避けなかったら火英自身に鉄パイプが刺さっていただろう。

「ハッ。何が飯に誘っただ? お前の目的は何だよ」

 このころの時雨は碧子までとはいかないが人間不振だった。親切な事をされても裏があると考える。そんな自分を時雨は嫌い、自己嫌悪の悪循環が続いていた。

「本当の目的? …お前を助けたいってのが俺の目的だぜ」

 時雨はその言葉を聞いた直後、火英に向かって走り出していた。
 火英は紅色の髪をしているため、能力があるのだろうが、先程まで手を出さなかった事から遠距離攻撃では無いと予想した。
 時雨は懐に潜り込み、ボディーブローを叩き込む。それを火英はガードしようとするも、パンチのスピードを捉えきれずに防御できなかった。
 結果的に、火英は吹っ飛ばされて5mほど飛んでいく。それを見た時雨はどうでも良さそうにポケットに手を突っ込んで背を向ける。

「くっ…中々良いパンチを持ってるな。お前、特殊警察でも通じるぜ」

 火英は立ち上がっていた。少し腹を押さえながらも立ち上がっていた。

「ほら、もっとやってみろ。思う存分殴ってみろ。それが済んだら飯食いにいくぞ」

 火英のその一言は、時雨にとっては挑発としか聞こえなかった。
 今度は時雨はわざと見える様に、右手で顔面を狙い拳をつき出す。

 パァン!

 火英はそれを受け止めるも。

 ゴギッ。

「うぐぁっ!」

 手から乾いた音が響き、口から声が漏れた。
 時雨は受け止められた右腕ではなく左腕で拳を繰り出す。
 左腕を今度は学習した火英は拳出はなく、腕に横から攻撃して軌道を逸らした。
 しかし、時雨は容赦しない。
 時雨は右足で足払いをかける。上半身の防御に徹していた火英は当然気が付かずに転倒した。
 さらに転倒した火英の横腹に時雨は蹴りを叩き込んだ。

「ガアッ!」

 声を挙げながらゴロゴロと地面を転がる火英。
 時雨は溜め息をついてその場を立ち去ろうとするがーー

「その…程度…か、よ」

 ーー火英は再び立ち上がった。

「…お前、いつまで諦めないつもりだよ」

「お前が更正するまでだっ! うおおぉぉぉ!」

 質問に答えた火英は時雨に向かって走り出す。それは普通に見たって速いだろう。だか、時雨からすれば。

(遅いんだよ。なってねぇ)

 助走をつけて火英が放った拳を時雨は易々と避け、カウンターで顔面を殴った。
 また飛ばされた火英。しかしまたもや立ち上がる。
 鼻血が出始めたのは鼻が折れたのだろうか。

「何の為にそんなに頑張ってんだよ」

 時雨は諦めない火英に一言。

「この偽善者が」

 これを言えば、きっと火英は立ち去る。そう思っていた。が、

「…そうだ。俺は偽善者だ」

 帰ってきたのは予想外の言葉だった。

「俺は全ての人を救える訳じゃあ無い。完全無欠のヒーロー何かじゃあ無い。目の前に困ってる奴が、助けを求めてる奴が、道を踏み外した奴がいれば、俺はそいつを助ける。なぜ助けるかって言っても、それは俺の自己満足に過ぎない。俺は、目の前にいる奴等だけを救って、ありがとうを言われて、嬉しいって思う様な。ちっぽけなやっなんだよ」

 その言葉を聞いた時雨は思った。
 こいつは、俺が出会ってきた中で一番のヒーローじゃないか、と。

「だからよ。俺にお前を救わせてくれ」

 火英は時雨に向かってそっと手をさしのべる。
 時雨はその手をーー

 ーー握り潰した。

「グガァァッ?!」

 火英は声をあげる。

「信じ…られるかよ!」

 時雨は火英の顔面を殴る。しかし、殴られた火英はニヤッとする。

「どうした! 何がおかしいんだ!」

「お前、気がついて無いんだな。……拳の威力が無くなって来てるぜ。ま、体は素直なんだな。……まさかこのセリフをエロ0%の所で繰り出すとは思ってなかったぜ」

 時雨は、認めたく無いとばかりにうつ向く。

「だから、飯食いに行こうぜ」

「チッ」

 時雨の舌打ちが、了解の意味の返事だった事を火英は理解していた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.53 )
日時: 2015/12/04 21:49
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 三毛猫さん。返信をしてくれた事に気がつかなかった私を許して下さい。
 そして返信ありがとうございました。
 今後、キャラが崩壊してしまうかもしれませんが、その時はご指摘してください。


 続きです。



「何でラーメンだ」

「いいだろ。結構うまいんだ」

 時雨の手を引いてラーメン屋へと入っていく火英。時雨は面倒そうにしながらもしっかり自分で歩いていた。
 店内に入った火英はカウンター席へと座り、注文をする。時雨はメニューを見て、一番先に目がついた醤油ラーメンを頼んだ。

「なあ……時雨って呼ぶぞ。時雨。お前住むとこあんのか?」

「…ねぇ」

 火英は心配して質問したのだが、時雨はその問いに家族の事を思い出してしまう。素っ気ないながらも返事をしたのは、少し火英を信じたからだろう。

「へいお待ち」

 ゴトッ。醤油ラーメンと……謎のラーメンがおかれる。

「何だよそれ」

 真っ赤というか赤しかない。赤いスープに赤い麺。赤いナルトに…あれはトマトだろうか。ついでにパプリカも入っている。

「REDラーメン」

 微妙にREDの発音がよかった火英はそのラーメンをいただいます。と言い食べ始める。ぶっちゃけ不味そうにしか見えない。

「…いただきます」

 こんな事言ったのいつぶりだっけ。そんな事を思いながら時雨はラーメンをすする。
 火英と食べたラーメンは、いつものコンビニ弁当よりも、ずっと美味しいと時雨は感じた。



「お前。俺と同居しないか?」

 そんな事を言ったのは、火英だった。
 突然の事に多少驚く時雨だが、路地裏に寝るよりは衛生的にもいいだろうと思い同居する事となった。


「早速だが、お前にも生活費を稼いで貰わないと困る」

 まさか生活費を稼げと同居してから一週間目に言われるとは思わなかった。
 でも何をしろと? 時雨はそう思っていたが…。

「特殊警察に入れ。学校に通ってないなら給料は貰えるはずだ」

 因みに学校に通っている場合は、学費の五割援助か給料の4分の1の収入である。大半が学費の五割免除だが、安い収入もそこそこはいる。事実火英はその一人だ。

「…はぁ」

「何だよ。どうした?」

 時雨はため息をついた。
 時雨はこの時、自分が特殊警察は無理だろうと考えていた。
 事実、特殊警察の九割が能力者だ。一方、時雨は無能力である。

「大丈夫だ。お前ならできるさ」

 面倒だ。と思いつつもやるだけやってみるか。時雨はそう思って一週間後の特殊警察の入試に参加を決めた。



 そして、特殊警察の入試が始まった。体力テスト、能力テスト、面接、の三つで合否が決まるが、時雨は能力を持っていないため、圧倒的に不利と思われた。がーー

 ーー常識を潰すのか時雨である。

 時雨は体力テストで異常な点数を叩き出した。それも最高記録の三倍程のものもあれば、五倍が出たものもあった。
 能力テストは受けられず、そのまま面接に移行する。
 三人の試験官がいた。
 試験官は始めにこう言った。

「貴方はどんな人間ですか」

 それに、時雨はこう答えた。

「俺はクズ見てぇな人間だ」

 試験官はそれを訊いた後、幾つか質問をした。

「貴方の体験をお聞かせください」

「家族が俺以外死んだ」

「得意な事はなんですか」

「喧嘩と破壊」

 その回答は、常識から考えればおかしいものだった。

 時雨は落ちるな。と予想していた。あんな事を言ったりしたのだ。自分が受け入れられる訳がない。
 が、予想を裏切って、時雨は合格した。そして、配属されたのは特殊警察00部。通称、【問題児部】だった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.54 )
日時: 2015/12/05 19:45
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

「何でこの部は人数が少ないんだよ」

 時雨はそう思った。
 先程、00部に入室して自己紹介をして、自分の机を教えて貰った時雨はそのまま頬杖をついている。
 暇潰しに時雨は人数を数えて見たが、時雨自身を含めても4人だけなのだ。

「仕方無いだろ。俺達は通称【問題児部】なんだからよ」

「問題児部?」

 なんだそれは。と言いたげな時雨の声に答えたのは、青制服にモッズコートを羽織った風間だった。

「俺達は皆、個性が強すぎたり人格破綻者だったりするんだ」

 はきはき喋る風間。しかし時雨にとっては余計疑問が増えるだけだ。

「じゃあ…風間は何なんだ?」

「俺は、能力の個性が強いんだ。[能力を無効化する能力]という特異的な能力を持っているためここに配属されたと思っている」

「因みに俺は人格破綻者だぜ。お人好し過ぎるからだとよ」

 風間と同じ青制服を着た火英が胸を張る。時雨からすれば、それ自慢できないだろ。とツッコミたいが、事実自分はそれに助けられたので何も言えなかった。

「それが火英兄の良いところだ!」

 後ろから風間の後ろから会話に入ってきたのは、青制服を着てオレンジ色の髪をセミロングの長さにした多少癖っ毛の髪と多少大人びた雰囲気の容姿の桟橋火麗だった。火麗は火英の妹で、火英の事を「火英兄」と呼んでいる。

「え…じゃあ桟橋先輩はどっち…」

 因みに何故火麗だけ先輩付けなのかと言うと、火麗は時雨より歳上であるからだ。当然火英はその兄であるため時雨より歳上なのだが、時雨は今更変えたところで。といった感じで先輩を付けていない。

「私の事は火麗で良い。私か?」

「…能力だろ、流石に火麗は人格破綻者じゃ無いだろ」

 風間の指摘には説得力があった。

「…俺は両方だな」

 確かに時雨は運動能力だけで勝ち抜いたし、面接であんなことを言ったのだからあながち間違いと言う訳では無かった。

「そうか、じゃあ理由も分かっただろ? 俺達の人数の少ない理由が」

「ああ。大体な」



 プルルルルルル。

「はいこちら第00部です」

 突然の電話に対応したのは火麗だった。

『至急、応援を頼む。座標はE-7だ。相手はATMを車で引きずり出し強盗。、能力によって逃走中。人数は4~7人だ』

「分かりました。失礼します」

 ガチャッ。

「皆。強盗だそうだ」

 火麗のその一言で、【問題児部】は動き出す。
 自分の制服に空気銃と警棒を差す火英。机から何かの鍵を取り出していた。
 大体、以下同文、風間。
 なんとなく便乗する時雨。
 時雨は初めての仕事だが、緊張は見られなかった。



「彼らはATMを奪って逃走中らしい。座標はE-7。間違えないでよ火英兄」

「分かってるよ!」

 返事をしながらパトカーのアクセルを全開にする火英。黙ってシートベルトをする助手席に乗った風間。基本黙っている時雨。説明をする火麗。
 動き出したパトカーは、周りの車を軽々と上回る速度で現場に急行している。その速さは明らかに改造しているとしか思えない。

「特殊警察が改造とか良いのかよ」

「安心しろ! 俺の改造は爆発以外の失敗が無いぜ!」

 それを聞いても不安しか出てこない時雨の反応は正しいだろう。
 信号無視しながらパ行の音を出しつつ現場に急行する00部。それは大義名分があるからこそできる行為だった。

「あ、ゴミ跳ねた」

「止めろ!」



「おい! 考えて見たら逃走中ならもうE-7に居ねぇだろ!」

 それは時雨の一言だった。

「…そうかもな。ちょっと確認してみようか」

 電話をかけて情報を集める火麗。

 電話が終わると火麗はこう言った。

「今、特殊警察が包囲して、E-7を右往左往しているらしいが…何か強行手段に出そうだ」

「そいつはやべぇぜ……ってかここもうE-6だぞ。隣だぜ」

 相変わらずとばして信号無視を繰り返しているために速度は速い。なぜ事故にならないのかが不思議だが。

 そこからちょっとするとパトカーか見えてくる。
 運転している火英の代わりに助手席の風間が通信機を車外に出す設定にしてこう言った。

『どけどけ、【問題児部】のお通りだ』

 その声を聞くと、すっと包囲網の一部が解かれてパトカーが通れる様になる。

「俺の知ってる特殊警察じゃねぇ…」

「これが俺達のやり方だぜ」

 ドヤ顔でわざわざミラーから目線を向けてくる無駄な配慮に時雨は少しイラッときた。

「あれか?」

 火英の一言に全員が指差した方向を見る。こんな所にダンプカー。しかも特殊警察から発砲されている。もう犯人と見て間違い無いようだ。

 周りの特殊警察に風間は一言。

『どけどけ、【問題児部】のお通りだ』

 スーッと引いていく特殊警察を見て時雨は思う。
 俺もこいつらの同類か、と。

「さあ、行くぜ!」

 いきなりダンプカーに突撃する火英。だか、ダンプカーに触れる前に見えない何かによって弾かれる。

「…念動能力か空気圧縮壁? どっちにしろ風間の能力で消せるはずだ」

「了解だ」

 再びパトカーが接近する。今度は窓から風間が手を出している。
 ダンプカーに触れる少し前辺りで、キィィン! と音が鳴る。
 風間はその音を境に手を引っ込める。そして窓を閉めた。
 直後、強烈な衝撃が車内全員に襲いかかった。

「おい! 相手にダメージあんのか!」

 時雨はそこ迄言って気がつく。
 パトカーに一切傷が無いのだ。
 一方、ダンプカーは傷はあまり無いものの、壁に衝突して今に止まろうとしていた。

 ダンプカーから人が5人程出てくる。

「今だ火麗! 燃やしちまえ!」

「分かった火英兄!」

 火麗が止まったダンプカーに手をかざした一秒後、

 ドガァァン!

 ダンプカーが大爆発した。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.55 )
日時: 2015/12/06 04:55
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 突然の爆発に強盗犯と時雨は驚くしか無いのだが、他の三人は違った。

「早く出ろ! 直ぐに取っ捕まえるぞ!」

「了解した」

「分かった火英兄!」

 二人はとっととシートベルトを外し、ドアを開いて驚いている強盗犯達に先手必勝を仕掛ける。

「警棒の先制攻撃だぜ!」

 妙に聞き覚えのある台詞を漏らしつつも警棒を容赦無く振るう火英。
 こうしてはいられないと時雨も車から飛び出し戦いに加わる。

「喰らいなっ!」

 強盗犯の誰かが出した声に比例して、周りの物体が次々と飛んで来た。

「邪魔だ、失せろ」

 キィィン! 念動能力的な能力だったのだろう。風間が手を横に振ると、周囲の念動磁場が消え去った。

 因みに念動磁場という物は、念動能力によって物が動かされたりするときに発生する物で、念動磁場その物が物を動かしたり物体に干渉する性質を持っている。磁場を操って、物を動かすだけではなく、念動力の壁を作ったり物を千切るとか捻るとか絞めるなどもできる。また、念動磁場にも+と-があり、+の念動磁場は物体を能力者本人の方向に引き寄せる力があり、-の念動磁場は物体を能力者本人から引き離す性質がある。横に飛ばす時は、二つを同時にかけたり片方を弱めにして角度を調節したりする。磁場、と言うだけあって念動磁場は電気エネルギーにも干渉が可能だが、電気自体を操る事はできず、エネルギーを打ち消し会うだけだ。
 風間は今回近くの+と-の磁場を触っただけだが、念動磁場は能力が弱いほど不安定な為、一つを無効化するだけで全てがジェンガの様に崩れたのだった。

 能力による攻撃が止んだ為、風間と時雨は別々の敵に走り出す。
 時雨のターゲットは、先程まで攻撃していた念動能力者。風間のターゲットは別の能力者。

「くそがっ!」

 時雨に念動能力がかけられ、後ろに飛ばさんとする。が、

 時雨は目の前からの圧力を無視して能力者に近づく。流石に念動能力者も驚いた。
 念動力が更に強くなる。時雨はそれを思いっきり手を引いてーーー

「ぶっ壊れろ!」

 バギッ!

 拳をふりきり、念動磁場その物に対抗した。念動磁場は壊れ、霧散する。
 そのすきに時雨は、念動能力者にボディーブローを加える。

 少し呻き声を出して念動能力者は気絶した。だが、後4人はいる計算だ。

 一方風間の方では。

「な、何故だ! 何故能力が効かない!」

 この男は[発火させる能力]を持っている。そして近づいていた風間に発火させたのだが……風間に能力は効かない。当然発火も起こらなかった。

「そんな事は、どうでもいい」

 本当にどうでも良さそうな風間は近付いて、殴りかかる。拳を受け止められるが、容赦無く足で股間を蹴りあげて金的をかます。風間に慈悲は無いようだ。怯んだ隙に顔面に一発。

 バギッ! 殴ったってこのくらい気絶しないことは百も承知で、そのまま警棒を取り出してその柄で後頭部を打撃して気絶させた。
 あと三人。
 いや、後一人か。
 既に、火麗の[摩擦を操る能力]が二人に襲いかかっていた。二人は走った瞬間に空気摩擦で服が燃えていた。

 あと一人は火英なのだが…。

「これで終わりだ!」

 ぶん殴って相手を気絶させた。

 時雨の初仕事は成功に終わった。
 ……せめてもうちょっと大人しくしろと言われたが、ダンプ燃やすなとか色々。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.56 )
日時: 2015/12/06 17:45
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 時雨が特殊警察に所属し始めてかれこれ二年が経った頃だった。

「暇だ……」

 この頃になると、時雨はすっかり丸くなり、また【問題児部】としての資質(良いものではない)が備わってきた。今はずっと自分の机でグデーっとしている。それもそのはずで、00部は今のところ時雨を除いて通学している。当然、平日に特殊警察に顔を出すのは五時以降になる事が多い。
 しかし、時雨は給料を十割貰っている身なので朝の九時辺りに出勤しなければならない。火英とも朝は会わない。

 この頃、時雨は一人暮らしを始めた。住居はあの【上原荘】の503号室である。
 あのマンションは1・2(しきりで分けられるから)LDKで最初から洗濯機が着いて、風呂場とトイレが別々のいい場でそこそこな値段で人気のはずの住居だ。なぜ人気では無いのかと言うとエレベーターは壊れている上に階段も無駄に多い為、一階や二階は満員。三階もそこそこ。四階はほぼいない。五階は時雨のみで、その上は全ての部屋が空いているという奇妙なアパートなのだ。

 それは兎に角。

 時雨は色々な事を体験していた。
 能力者と戦ったり、能力者を殴ったり、能力者を捕まえたり、エトセトラ、エトセトラ……能力者関連なのは仕方がない事なのだ。
 そもそも00部は、緊急事態にのみ要請がかかってくるのだ。そしてその緊急事態とは、高位の能力者がアレしたコレしたりした時の事なのだ。
 その為か00部は給料が高い。<要請=危険>の方程式が成り立っているからだ。事実、時雨も一般人なら死んでいた事は何回もあった。コンクリートが高速で飛んできたのがいい例だろう。もっとも時雨はそれを粉砕したが。

「失礼しまーす」

 そして二年もすれば00部にも新人はやって来る。と言うか半年前にやって来た。
 その名は残切山斬。通称ザンだ。
 風間が名前の漢字を読んで、「ザンセツザンザン?」と言ったのが切っ掛けだった。

 とは言ってもやはり【問題児部】である。ザンも曲者だった。
 時雨の事を最初は無能力だからと完全に舐めきっていたため反抗的だったが、時雨の素手で高速コンクリート粉砕を見て態度を入れ換えていた。

「遅かったな……」

 時雨は机から黒と白のチェック柄の板と数十個の白黒の小さい人形達を取り出す。

「じゃあ今日もしますか……えーっと、俺が10勝時雨先輩が9勝でしたね」

「今日は勝つさ」

 二人はチェスを始めた。

「ボーンって砕いたらタワーに直せそうだな」

「止めてくださいよ」



「お前ら部長様の登場だぞ〜」

「火英兄。何かすっごい偉そうな態度だな」

 火英と火麗の二人は茶番しながら部室の中へと入る。そこで二人が見たのは……。

「ふはは! クイーンがついに無くたってしまったな」

「不味いですね」

 コトッとザンが駒を数個進める。

「はい詰みな」

 結果的に時雨とザンはお互いに十勝だった。


「全員いるな? じゃあ説明会を始める。今度はホテルの警備でーー」

 火麗が目の前のホワイトボードを使い説明しているが、要点をまとめるとこうである。

・今度、金持ちの仲でパーティーがある。
・特殊警察はそれの警備をする。
・00部もそれに参加する。

 そして今、火麗は場所や配置を決めていた。
 時雨の位置は、最も金持ちの達に近い場所だった。





 この少し前の日、世の中では入学式というイベントが多数の場所で行われていた。
 そして、平子達が通っている高校も今日が入学式だった。
 入学式が終了すると、教室に案内される。その中に新品のブレーザーとロングスカートの制服に身を包んだ鋼城緋奈子はいた。
 因みにここの制服は、上と下で別れていて、上はブレーザーで夏用の緑の線が入った服(半袖)と冬用の青の線が入った服(長袖)の二種類があり男女共通。下は女子は青いロングスカート(足首の少し上)と緑のミニスカート(膝の上)の二種類があり、男子は共通の長ズボンである。

(……はぁ。今のところ、私の席の周りは黒髪ばっかりの様ですね…嫌なんですけど)

 この頃。緋奈子は困った考え方をしていた。それは黒髪への差別だった。

(何で私が無価値な人間と近くで勉強しないといけないんですかね?)

 声に出さないものの、中ではそう思っていた。因みにこの時の周りには紡美も含まれていた。

(後は隣の席の……平野平子さん。どうか能力者でいてくださいよ)

 ふと教室に、目立つ髪の目立つ人間が入ってくる。
 真っ白い髪に細い身体。成長途中ながらもそこそこな高身長と胸。
 何より目立っているのは白い髪だ。人の髪の色が変わるのはあるが、色素を手放す事はほとんどない為に真っ白い髪と言うのは珍しいのだ。

(ああ、あの人が隣なら嬉しいんですけどね)

 そして、緋奈子の思いは兎に角、平子は自分の席を探して一分程迷い緋奈子の隣に着席した。

(この人私の隣だったんですね。良かったです)

 緋奈子はそう安堵している。一方平子は。

(眠い…あの校長先生は「話が短いと嫌われます! 私の様に髪が短くても嫌われます! だからこれだけ言いましょう。入学おめでとう。そして頑張れ。以上です」って私でも覚えられる位に短くてそこそこ面白い人だったから良いけど……教頭の話長いって訳だよ。……席は紡美ちゃんが近いしいいとするか)

 こんな感じのありきたりな事を思っていた。



 自己紹介で学校生活が決まる。
 これは本当ではないが、違うと言えば嘘になる。
 だから印象に残る自己紹介で、人気者になるかカースト下位になるかが決まる。

 だからある意味、平子の自己紹介は強烈だった。

「次、自己紹介してくれ」

 相川悟あいかわさとると名乗った藍色の髪の青年教師が次の人を指名する。その次とは平子の事だった。

(あー。眠い)

 平子は前に行く途中で、まず、一回転倒する。

 バダン!

「痛いって訳です…」

 大体がクスクス笑っているが眠い平子はさっさと終わらせたかった。

「私の名前は平野平子です。へいやにひらたいに子供のこで平野平子。趣味はアニメ。嫌いな物は…まあ色々と。得意科目は、理科と数学。苦手科目は古典、社会科、英語。別にあだ名は着けていいですけどアルビノって名前は止めてください」

 そう言うとまあ当然皆から拍手が起こる。そして再び席へ戻ろうとしてーー

 バダン!

 もう一度転倒した。

 今度は皆態度を隠さずに笑っている。平子は眠たいからどうでも良かったが、後から思い出してうわあああってなったらしい。

(流石に入学式前に夜更かししたのは間違いだった…)

 平子は入学式前に夜更かしする様な感じで、今と特に変わらずフリーダムだった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.57 )
日時: 2015/12/07 13:47
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 鋼城家は裕福である。
 何故。と言われたら答えるのは難しく無い。
 鋼城家は六代前の先祖が鉄工業で成功し、それを切っ掛けにして富豪へとのしあがった。
 更に今でも使われる、合金等は鋼城家が開発した物が多く使われている程だ。
 そんな感じで、その家の娘である緋奈子には少なくとも友人と呼べる者はいなかった。
 だから緋奈子は一人で朝食を食べようとしていたが…。

「一緒に食べてもいいですか?」

 隣にいた平子もまた、一人で食べようとしていた。
 紡美は学食で食べる為、平子もこのクラスには親しい中学時代の友人はいなかったため、緋奈子を誘ったのだった。

「良いですよ。どうぞ」

「ありがとう……えっとタメ口でいいですか?」

 緋奈子としてもそんなことを言わないでも良いのでは? と思ったが、気を使われているのを冷たく返すのもどうかと思い、無難に「良いですけど?」と返す。

「ふぅ。良かったー。紡美ちゃんは学食だから私一人で食べるところだったって訳だよ」

 そう言いながらパクついてる平子の弁当は恐らく手作りである。誰が作ったかはさておき。
 緋奈子はしっかり自分で作っている。料理くらいできないといけないらしいのだ。

「そう言えば緋奈子ちゃんって能力者なんでしょ? どんな能力?」

 平子の視線は緋奈子の青紫色の髪に向けられていた。髪の毛の色ではだいたいしか分からない物なのだ。
 因みに強さは兎に角、異色な能力は色が薄い事が多い。最も全てが当てはまる訳では無いが。その点から考えて緋奈子の能力はオーソドックスな能力だろうと平子は考えていた。

「私の能力ですか? [物体を移動させる能力]まあ便利な能力ですよ平野さん」

 緋奈子は自分を椅子ごと移動させて見る。移動と言っても横に数メートル程スライドしただけだが。

「へぇー。ああ、私の能力はね[相手と自分を平等にする能力]だよ」

 緋奈子はそれを聞いても理解ができなかった。

「ああ、こんな感じ」

 緋奈子の手を触った後に、平子は教室の中なので小さくパン、と合掌をする。

「能力を使ってみてよ」

 緋奈子は不思議な行動だと思いながらも能力を使おうとする。が、平子の能力で能力が行使できなかった。

「え?」

「私の能力はね。自分が持ってない相手の能力を自分に合わせる。つまり一時的に消せるんだよ。あ、戻すね」

 平子は能力を解除する。とは言っても平子の能力は戻す場合に挙動は無いため分からないが。最も、ほとんどの能力に戻す時の挙動は無い。

「まぁ…凄い能力ですよね」

「でも殴り合いにしか使えない様な応用0の能力だし、何より肌に触れないと使えないって訳ですよ」




「紡美ちゃん。帰ろうか」

「そうだね」

 平子は放課後に部活動と言う名の戦場に行く気などさらさら無いので帰ろうとしていた。紡美も運動能力以前に能力を持って無いため部活動に入る気は無かった。

「ちょっと待って下さい平野さん」

 帰ろうとしていた二人。いや正確には平子を引き留めたのは緋奈子だった。

「平ちゃん。この人は…?」

「鋼城緋奈子ちゃん。今日知り合った」

「平野さん」

 緋奈子は真剣な表情でこう言った。

「何で無能力何かと付き合いがあるんですか?」

 その言葉は、室内の空気を凍り付かせるには充分過ぎた。

「…あるぇー? 何て言ったのかな? 緋奈子ちゃん。私聞き間違えたかも」

「だから何で無能力何かと付き合いがあるのかと訊いています」

 同じ事を繰り返して言う緋奈子。それに対して平子は。

「無能力何かってどういう意味なのぉ?」

 半分キレかかっていた。しかし緋奈子はそんな事は視野に入れていない。

「何言ってるんですか? 私達能力者は才能ある者達ですよ? それが少しの才能すら無い無能力何かと分かり合えるとでも思ってるんですか?」

「ふざけないで下さいって訳ですよぉ!」

 緋奈子の発言に怒りを抱いた平子。
 緋奈子はそれでも、平子が何に怒っているのか理解できなかった。

「私の何処がふざけてるんですか?」

「無能力を馬鹿にするなぁ! 紡美ちゃんに謝れ! 発言を撤回しろ!」

 平子の言葉でようやく言っている事が理解できた緋奈子はこう言う。

「まさか無能力何かと仲良くするとは……失望しましたよ。何で私が古都さんに謝るんです? 謝る価値何て無い様にしか思えません。発言を撤回する気はありません。事実ですから」

「貴女……貴女って奴はぁ! 貴女の様な能力の有無で人間の価値を評価する様なクズが居るから無能力はバカにされるんだよぉ! 無能力と能力者の違い何て……髪の色と能力の有無だけだぁ! それ以外に何が違う! 少なくとも、私は無能力を否定する」

 平子は緋奈子に指差しして

「貴女が大嫌いって訳ですよぉ!」

 流石にここまで言われて緋奈子も怒る。

「黙って下さい!」

 能力を発動して壁に平子を移動させる。しかし平子はその前に緋奈子に近づいて手を叩いた。

 次の瞬間。平子が壁に飛んで行く。

 ドン! とそこそこ大きな音がする。平子も苦痛の表情を浮かべている。が、平子は合唱をする。

 パーン!

「これでよしと……緋奈子ちゃん? 貴女は今、無能力と同じ状態ですよぉ?」

「っ!」

 平子の発言に能力の使えなくなった緋奈子は黙る。

「もういいですよぉ。貴女はそんな人なんですから。精々無能力の時間を有意義に過ごして下さいよ」

 スタスタと平子は紡美のところまで歩いて、紡美の手を取り教室から出ていく。教室に残った緋奈子は。

「何で私が間違っているって思われるんですか…!」

 怒りと空しさだけが残っていた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.58 )
日時: 2016/11/29 20:24
名前: 波坂 (ID: hQNiL0LO)

 緋奈子は迎えに来た使用人と共に自宅へと帰宅していた。

(……そう言えばもうすぐ親睦会がありますね)

 緋奈子はそんな事を考えながら窓から外を見ている。
 親睦会とは、富豪等が集まって親睦を深める。時には縁談をまとめ、時には火花を散らす。その様な物で、ホテルで開かれる。緋奈子はそれに十二歳から参加をしているが、馴れた訳ではなかった。因みに警備に特殊警察が付いている。

(はぁ……いざとなったら)

 緋奈子は通学カバンを右から左にゆっくりと能力を使い移動させる。

(この力で……)




 それから一週間の時が過ぎた。
 緋奈子は相変わらず紡美や平子とギクシャクしたまま。
 時雨は相変わらず【問題児部】の一員として名を挙げていた。
 この二人が今日、交錯する。



 時雨は今、一流。と言うか富豪しか使えない様なホテルのロビーに居た。
 何故、一般人である時雨がこんな高級ホテルに居るかと言えば、それは特殊警察の仕事だからだ。

「はい王手」

「ここはこうしてと……」

 こんな所でも堂々とチェス盤(500円)を広げてチェスをする時雨とザンはやはり問題児だった。

「ナイトは使い方では強いよな」

 白ナイト(手作り。時雨が暇潰しに消しゴムを削って作った)を動かしながら時雨が言う。

「そうですね。ま、安定はクイーンですけど」

 黒クイーン(手作り。これは黒消しゴムで作った)を動かしてボーン狩りをするザン。

「お前達……緊張感が無いな」

 呆れた様に言ったのは火英だ。青制服を着ている。因みに制服には赤、青、灰色、白、黒があり、赤は業務部のもので、青は動きやすさ重視の戦闘部のもの。白は鑑識等の捜査部で、灰色は医務部、黒は上位の人物専用のものだ。

「テレビ(スマホで)を見て大爆笑していた火英兄が言えないと思うぞ」

「全くだ」

 今日は制服の上に白いコートを羽織った火麗は火英の発言にツッコミを入れ、いつものコートを羽織った風間は火麗に同意する。

「司。そう思うならやってみろ。ルールを覚えたらな」

 時雨は完璧に火英をスルーして風間に言う。

「今、覚えているがキングとルーク? だったか覚えてないがそれの関係がわからない」

 別に風間は頭が悪い訳では無いが、一度覚えた事に何かを上書きするのが苦手なのだ。

「今覚えているなら覚えてないなんて言っちゃ駄目ですよ風間先輩……」

 これを言ったのはザンで全くの正論である。

「あ、時雨先輩詰みです」

「しまったぁぁぁぁ!」




 緋奈子は高級ホテルに入り、中で親が受け付けに向かった時に、ロビーを見回していた。
 そこで見たのは特殊警察だったが……。

(何で特殊警察に無能力が? 特殊警察も落ちましたね)

 チェスに負けてばたんきゅーしている時雨を見て緋奈子はそう思った。

「時雨。そろそろだ」

「分かりました火麗先輩」

 そして特殊警察の面々はエレベーターに乗って上階に向かった。

(あの人が私の近くの警備では無いことを望みますね)

 フラグじゃないか。
 そんなフラグを建てた緋奈子の元に緋奈子の両親が戻ってきて、時雨達の乗った隣のエレベーターに乗って上階へ向かった。




「流石金持ち共……。良いもん食いやがる」

 時雨のその発言は富豪達にとっては無礼極まった物だが、幸い富豪は周辺にはいなかった。目の前には豪華な食事の乗ったテーブルがある。

「当たり前だ。金持ちの金はドブに捨てる為にあるからな」

 火英のその発言も富豪にとっては無礼極まった物だが、その発言(暴言)を止める者は居ない。

「ここで札束で殴り合うとかするんですかね?」

「そんなわけ無い!」

 ザンの発言は流石にヤバイと思った火麗は一応誤解を解いておく。
 因みにザンの札束で殴り合うは文字通り手に札束を持って殴り合っているのかと思っていた。火麗が想像したのはドロドロの買収だの売却だの売買だのエトセトラだのエトセトラみたいな事だが。

(いや、無いわけでは無いだろう)

 そう口に出さずに思ったのは風間だった。風間は一番この中で冷静だった。




(本当ですか…)

 緋奈子がそう思ったのは開会宣言が始まる少し前だった。
 鋼城家の一番近いのは00部で、緋奈子に一番近い警備している人物は時雨だった。

(ま、気にしないでおきましょう)

『えー。本日は皆様お集まり頂きまして誠にありがとうございます』

 アナウンスが会場に響く。どうやら開会宣言が始まった様だ。
 正直言ってどうでも良かったため、省かせて貰う。

『それでは開会宣言を終了します』

 そして親睦会は始まった。




『こちらA班。開会宣言が終了しました』

「引き続き監視しろ」

『了解』

『こちらB班。準備が完了しました』

「よし、合図があるまで待て」

『了解』

『こちらC班。準備が完了しました』

「合図があるまで待機しろ」

『了解』

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.59 )
日時: 2015/12/07 21:36
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

「はぁ……」

 時雨は溜め息を吐いていた。時雨は去年この警備に参加していなかったため、どんなものか予想していなかった。だからこれ程迄にーーーー退屈だとは思っていなかった。
 時雨は誰とも会話せず、ただ会場の壁際でつったっているだけだ。時々カ○ピスを注いだグラスをボーイが持って来てくれるが、それを飲み、警備or監視、飲む、警備or監視、飲む、警備or監視の繰り返し無限ループだった。

「くそぉ……退屈過ぎるぞおい」




 時雨が自分の尾を追い続ける犬の様に無限ループしていた頃、緋奈子はうんざりしていた。

(声をかけられても町のナンパとほとんど何も変わってない様な人達ばかり。おまけに財力はあるから迂闊に能力で追っ払えないなんて……疲れました)

 緋奈子は壁にはぁといった感じにもたれかかる。緋奈子的にはもうさっさと終われよ見たいな気分だった。

「一人? 僕も一人何だよ。一緒に回ろうよ。ねっ」

(また来ました。面倒ですからあっち行って下さい。お願いします)

「いえ、私は一人でいるのが好きなもので」

 流石はお嬢様。中々本性を表さず、しっかり本音と建前を理解していた。
 勿論緋奈子は真っ赤な嘘を言っている。緋奈子は一人が好きという訳では無い。

 その後もしつこく言い寄る害虫を撃退した緋奈子は精神的に疲れきっていた。緋奈子の帰りたいメーターは百をぶっちぎっていた。




 時雨は暇潰しに富豪の様子を見ていた。
 視線の先には車椅子の人、それを押す人、札束で殴り合いをする展開になっている人、何か握手してお互いに黒く笑ってる人達、疲れきっている人、色々な人がいた。

(思ったんだが富豪って結構個性的な奴多いよな)




 それは、唐突に起こった事だった。

 何やらゴテゴテした服に身を包んだ人間が細い鉄の塊ーーーーライフルを持ってパーティー会場に数人ほどいきなり侵入して来たのだ。

「おい! こいつのいのtぐぶぁ!」

 時雨は真っ先に人質をとろうとしていた奴の顔面に拳を叩き込む。グシャリと音がして男は一気に盛大に吹っ飛んでいく。
 ロケ○ト団よろしく吹っ飛んでいった人間はそのまま前の開会宣言をした場所の教壇的な物に激突した。
 バゴォ! と物凄く大きな破壊音が鳴り、半壊した教壇的な物に人間が逆さ状態で上半身を突っ込んでいるシュールなオブジェが完成した。
 そのオブジェの生成を手掛けた破壊手、時雨はこう語る。

「やっべ」

 人質をとられそうになっていたのを救出したのは良いものの、このままでは恐らく今みたいなのが侵入してくると思い立った時雨は助けた少女ーーーー緋奈子を放して出入口へと向かった。

 出入口では既に戦闘が展開されていた。

「おい時雨! こいつら多分テロリスト共だ!」

 そう時雨に大声で伝えたのは火英。
 今、火英は警棒でテロリストを殴りながら頑張っている。因みに特殊警察の制服は防弾・防刃性能がついているためある程度は安全である。

「くっそー! 切断したら死ぬから能力が使えないぜ!」

 そう叫びながら相手の銃等を切断するザン。どうやら能力が生物に効きすぎるのも良くないようだ。

「鬱陶しい、さっさと引き返せばいいものを」

 能力者達を相手にしている風間。所々コートが破れてしまっているが、本人的にはどうでも良さそうだった。

「これでも喰らえ!」

 向こう側から走って来てテロリスト側に赤い筒状の物をぶん投げた火麗。火麗が投げた赤い筒ーーーー消火器がテロリストに到達した瞬間。

「空気摩擦で燃えろっ!」

 次の瞬間、消火器が燃え上がり、それが壁に激突しーーーー大爆発を引き起こした。

Re: 超殴り合う能力 ( No.60 )
日時: 2015/12/08 10:16
名前: 齋藤 凜美 (ID: gp9wpgoS)

そうなんです

わたすが大分県の魔王


鱗状寺とうまなんです


はみがきこ


いちごのおいしい歯磨き粉

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.61 )
日時: 2015/12/08 22:30
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 ……すいません。私は小説カキコで所詮は半年も経たない初心者の為、上の様なコメントにどう対応していいのか分かりません。
 こんなクソ真面目な私でごめんなさい。


 続きです。




 ドガァァン!

 消火器による爆発の音は富豪達の部屋にも当然響き渡っていた。
 それを聞き、富豪達の大部分はパニックを起こす。

「動くな!」

 そこに低い男の声が部屋中に響いた。富豪達はそれでも落ち着かないが、その男がマシンガンを乱射すると静まる。冷静を取り戻した訳ではなく、恐怖で硬直しているだけだが。

 そして次から次へと武装したテロリストが火英率いる00部が交戦している場の反対側の方から乗り込んでくる。
 ガチャガチャと歩く度に音を鳴らすその様は富豪達を更に恐怖で埋め尽くす。

(……まずいです)

 その中では比較的冷静なーーーー最も一般的な水準から見れば冷静では無いがーーーー緋奈子は舌打ちをする。

(恐らく、彼らはこの後人質を取った上で何かしらの要求をするはず。私の予想では身代金……とは言えこの状況からの逆転なんてほぼ無い気がしますけど…)

 緋奈子は内心諦めている。いくら誰が何をしようとこの状況は簡単に覆せるものではない。と考えていた。
 そんな緋奈子に、「おい」と声がかけられる。
 そちらを向くとゴテゴテした装備のテロリストがズカズカと緋奈子に近づき。

「こっちに来いっ!」

「きゃっ!」

 緋奈子は強引に立たされ髪を引っ張られて男に移動させられる。移動した場所は最も目立つ場所。
 緋奈子の予想は正しかった。現に彼らは人質を取っている。そしてその次も予想が正しければーーー

「オイ! こいつの命が惜しいか?!」

 ーーーー緋奈子を使って身代金を要求するはずだ。

「惜しいなら俺達の要求を飲みな……十億用意しろ! 出来ねぇなら……」

 そこまで言い、近くにいた女性と男性に銃口を向けて。

「こうなっちまうぞ!」

 次の瞬間。ズダダダダダダ! と無慈悲な銃の発砲音が鼓膜を叩いた。
 銃口の延長線上には、小さい穴だらけの紅い人間ーーーーだったものが二人転がっていた。

 若干15歳ほどの少女が耐えられる光景でもまた無かった。




「クソッ! 数が多い!」

 時雨は毒を吐きながらも次々と自分に向かって攻撃をしてくるやつらを文字通り叩き潰していた。
 叩き潰す。とは言ってもヘルメットに覆われた顔面を思いきり、ヘルメットが意味を為さない程度に殴っているだけである。
 幸いだったのが、能力者を殆ど風間が相手している事だった。彼に有効な能力を使用した攻撃など、上からの超質量攻撃以外にはそうそう無い。
 だが、それでも数が多すぎる。ザンは能力が逆に対生物に効きすぎて使えず、相手の厄介な武器を愉快な形に切り刻んでプレゼントする事以外にはすることが無い。火麗は消火器を爆発させた事により相手にしている大部分は減ったがやり辛そうだ。能力が[摩擦を操る能力]といった防具をガチガチに固めた相手には相性が良くない能力であるため苦戦を強いられていた。
 火英は司令塔として後方支援をし、時折殴り込んでいく姿が見られる。

(そう言えば火英の能力って何だ? 風間の笑った顔並(=0)に見たことが無いな)

 時雨が考え事をしている最中にテロリストが襲ってくる。時雨は一度意識を覚醒させて跳びかかってきたテロリストにラリアットを決め、そのまま後ろにいた二人も巻き添えにする。

(どっちにしろこのままじゃあ拉致が開かないな。全員ぶっ飛ばすしか無いのか…)

 時雨はそのまま右にいたテロリストに腹パンを決め、乱暴に投げる。

(…やるしか無いな)

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.62 )
日時: 2015/12/09 13:48
名前: 麦茶 (ID: y7oLAcgH)

波坂さん、僕の小説にも同じようなことがきました。一応関係ない話は控えるように注意しときました。小説、頑張ってください!応援してます!

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.63 )
日時: 2015/12/09 20:36
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 麦茶さんアドバイスありがとうございます。
 ここで関係無い話はほんの少しならいいのですが、勝手に続きを書くとか予想を書くとかは遠慮して欲しいです。(予想ならリク板の方でお願いします)
 

 続きです。




 会場の中は静寂に包まれていた。
 たった今、人が目の前で射殺された。
 それだけでも、この場を恐怖によって掌握するのには充分だった。
 緋奈子はガクリと地面に膝を着く。当然だ。今まで喧嘩に巻き込まれたりした事はあっても、人が血を吹き出しながら死ぬ。何て物は見たことがあるはずが無かった。

『よし、じゃあコイツの親。出てこい』

 テロリストの男はマイクを使っている為、会場中に声は響いているはずだ。が、親は名乗り出なかった。

(え? 何で? 何でなんですか?)

『さっさと出てこい! 子供が殺されていいのか!』

 男が声を荒くして脅迫する。が、緋奈子の両親は出てこない。
 ふと、緋奈子はある事に気が付く。
 目の前の二人の死体は、見覚えがある。いやありすぎるのだ。

「嘘……いや……いやですよ…」

 しかし、緋奈子の脳はこう伝えていた。
 あの死体は、自分の両親である、と。

「何で……そんなの無いですよ……」

 緋奈子は泣き出す訳でも無く、叫ぶ訳でも無く、ただ、呆然とした。

『ああ? ……まさか撃ち殺した奴がテメェの両親か?』

 緋奈子は小さく呆然とした表情で頷く。

『フフフ……ハハハハハ! コイツはたまげたぜ! まさか今撃ち殺した奴がコイツの親だったとはな! ハハハハハ!』

 その罪悪感など微塵も浮かんではいない表情と笑い声に、緋奈子に一つの感情が灯った。

 ーーーー殺してやる。




「おい! 時雨! ちょっと会場が心配だから行くぞ!」

「わかった! ……お前ら大丈夫か」

 大分、テロリストは片付いてきた為、火英は時雨に自分と会場に戻るように伝える。時雨も向かおうとしたが、残りが心配だった。

「大丈夫だ、行け」

 風間の短い返事。

「大丈夫っす!」

 ザンの威勢の良い返事。

「気をつけるんだぞ!」

 そして火麗の心配する返事が返ってきたところで時雨と火英は会場に戻った。




 時雨がドアを開けると、会場は随分と変わっていた。
 富豪だけしかいなかったはずの会場にはテロリスト達が大勢いる。前にいるのは人質だろうか。
 少し探せば銃痕が見つかり、食器や食物が散乱している。

 そして、耳に響くのは男の声の高笑い。

「……時雨。俺達はまだ気付かれてねぇ。まず、音を出さずに近くの奴を仕留めるぞ」

「了解だ」

 時雨はしゃがみ、上を見上げている形になっているテロリストに接近し、剥き出しの顔面を掴んで口が開かない様にして、腹パンを決める。

 うぐっ! とは出したものの、その声は男の高笑いの方が大きい為にその声が目立つ事は無かった。

 一方火英はモロに首筋に麻酔をぶち込んでいた。黙ってお休みしているテロリストから剥ぎ取りを行い持ち物を搾取する。

「時雨、次の奴もいけるか?」

「今度は流石に厳しい。火英はどうだ?」

「麻酔があるから後一人ってところだ」

「そうか。俺は……ちょっと努力する」

 火英はもう一人の方に麻薬注射器を持って近づく。時雨は先程倒した男から抜かれなかったハンドガンと手榴弾を手に取る。

 時雨がそれを使ってどうしようかと考えていた時だった。

 ドゴン! 人質を取っていた男が天井に叩きつけられた音だった。
 男は天井から跳ね返った様に離れ、重力に従い床に落下する。

「……仇です」

 緋奈子が能力を使って男を吹き飛ばしたのだった。

 が、それはタイミングを間違えた行為だった。

 緋奈子に向かって、幾らか銃口が向けられていた。
 緋奈子の能力も、銃弾を跳ね返す程の念動磁場は作れない為、緋奈子はしまったという表情をする。

 ドガン!

「うおおおおお!」

 発砲音が、ライフルから響いた。
 その銃弾は不発する訳でも無く、当然緋奈子に向かって飛んでいく。が、緋奈子の前に何かが現れる。

 ブシュ!

 銃弾は肉を抉り、内蔵を撃ち抜いた。

「グガッ!………あああああァァァァ!」

 が、撃ち抜かれた後に叫び声を上げ、高速で移動し始める。

「アアッ!」

 ドゴッ! 短い叫びと共に放たれた拳はテロリストを捉え吹き飛ばす。

「化け物めッ!」

 ドゴン! 別のライフルが火を吹く。人を壊すには充分過ぎる威力の銃弾は。

「アアアアア!」

 カァン! と何かに弾かれる。
 手に持っていたのは折れた警棒。つまり警棒が折れたにも関わらず銃弾を防いだ。

 ドゴッ! 再び人が殴り飛ばされる。

 そしてまたライフルが火を吹こうとした時。

「大人しく…しろッ!」

 今度は時雨の拳がライフルを捉え、ライフルを破壊する。
 拳を振りきった勢いで裏拳を繰り出す。裏拳は顔面を捉え竹トンボの様に回転させた。

「まだだ!」

 その男を掴んで投げつける。まさかの投げるという選択肢を予想していなかったテロリストは巻き込まれて転倒する。
 時雨は別のテロリストが集中していた場所に、ためらい無く手榴弾を投げた。

 直後。

 ドガァァン!

 爆発が起きる。ドアの近くだったためにドアが吹っ飛ぶ。当然そこにうた人間の命は保証できる物ではなかった。

「アアアァァ! アァァ……」

 そして先程までテロリストを倒すのに暴れまわった、被弾した者ーーーー火英はその場に倒れ込む。

 一方富豪達は我先にと一気に逃げ出す。しかし緋奈子は呆然と床に膝をついたままだ。

 つい先程まで暴れていたのが火英だと知らなかった時雨は慌てて火英に駆け寄る。

「火英! 大丈夫か! それよりどうしてあんな事……被弾したばかりで! だいたい何でできたッ!」

「俺の能力だよ……」

 時雨は驚愕する。あの暴れまわった火英は能力によるものなのかと。

「俺の能力は……[暴走する能力]……文字通り暴走する能力だ……心臓の鼓動の速度を引き上げて血液の循環速度を引き上げて、体中のリミッターとかセーブとか限界とかを必要最低限以外全部外して……運動神経を引き上げる能力だ」

 だったら、何故最初から使わなかったんだ。時雨の考えを覚ったか火英はこう伝える。

「だけど……体に負担がかかりすぎて……足手まといになっちまう……ガハァッ!」

 ベチャリ。と床についたのは真っ赤な血液だった。

「もう喋らないでいい! だから休め。もうテロリストは大半が火英が始末したおかげでいない。助けを待てば……」

「時雨先輩!」

 時雨の声を遮ったのは、焦ったザンの声だった。

「どうした」

「大変です! テロ共が火を放ったんです! ……て火英先輩!」

「更に、火災警報装置や消火装置もテロリストによって破壊されている」

(やべぇ……それじゃあ助けが来ねぇ……少なくともロスした時間の間に火英は……!)

「もう…いいんだ。時雨」

 もう虫の息の火英は時雨に呼び掛ける。

「何でだよ! 諦めたら駄目だろ!」

「……時雨。富豪達が逃げたこの会場を見てみろ」

 火英の声に時雨は周囲を見回し、気づいてしまった。
 会場には気絶したテロリスト達や散乱した食器や料理、そして……恐ろしい程にあたかもホースで撒いたように飛び散っている……血。

「……暴走したら…心臓の鼓動を加速させる…俺は…ずっと、血液を、出し続け…た…つまり俺の血液は…間もなく50%を…下…ま…ガハァッ!」

 再び火英が血を吐く。
 火英が虫の息である事は誰が見ても分かる事だ。血液もじわじわと背中から出血し、命を削っていく。

「そんな……何で……」

「助け…たか…った…んだよ」

 火英は途切れ途切れに話す。もう時雨も止めない。火英の命のタイムリミットを知ってしまったからだ。
 火英が顔を傾けた方向には、先程人質に取られていた、そして人質を取っていたテロリストを倒した緋奈子がいた。顔に生気が無くなっている事が目に見えて分かる。服や顔には火英の血がべっとりとついている。

「何かな……あいつが…撃たれ…そうに…なった時…勝手、に…能力が、は…つ動してて、いつ…の…間にか庇ってた……なぁ時雨…」

「…何だよ火英」

「俺は……アイツ…を助、けら…れたの…か? 確認、して無い、ん…だ」

 改めて緋奈子の様子を時雨は観察する。
 先程見た様に顔に生気が無く、血がべっとりとつき、両膝を床についている。……本来ならアイツは死んでいた。だけど火英はそれを……助けた。

「……お前は、いや先輩はアイツを救ったよ。火英先輩」

「……はは。最後に救えて良かった……そしてお前も…そう呼んでくれる様になったのか……」

 火英は口に血をつけながらも満足そうな笑みを浮かべ、

「火麗に……宜しく頼むぞ…じゃあ……な」

 カクリ。と首が落ちる。
 その閉じた目は自発的に開かれる事は永遠になくなった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.64 )
日時: 2015/12/11 20:00
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 時雨は火英の亡骸を風間達に任せて立ち上がる。非情と思われる行為かもしれないが、時雨は何も感じていない訳ではない。むしろ一番激情を露にしたいはずなのだ。
 だが、それは後でいい。今することは、火英が救った一人の少女を最後まで救う事。このまま緋奈子を放置して焼死でもしたら火英の行為は本当に無意味で無価値なものになってしまうからだ。
 風間が火英の亡骸を背負いドアを蹴破って外に出る。
 火麗は会場の外にいるのだから、火英を見てヒステリーする可能性を心配していたが、それらしい声は聞こえない。どうやらうまく言いくるめたようだった。

「おい! さっさと出るぞ! 火事になってんだよ!」

 緋奈子に時雨は声をかけるが緋奈子は反応しない。

「おい! 死んで良いのか!」

 その問いに緋奈子は呟く様に消えそうな声で応答する。

「……良いんです……私は彼を…私が彼を殺したんです……人殺しが…生きる理由なんて……」

 その言動に対して時雨が行ったのは、慰めでもなければ説得でもない。

「ふざけんなァ!」

怒りの爆発。すなわち激怒だった。

「お前なぁ……火英先輩は命に代えてお前を救ったんだぞ!」

「………?」

 緋奈子は顔にクエスチョンマークを浮かべて時雨の顔を見る。

「なのに……折角助けられた命を捨てる? ふざけてんのか! その命を捨てるのは、何よりも火英先輩に対しての冒涜だ!」

 じれったくなった時雨は緋奈子の手を掴み、強引に立たせ、背に乗せる。
 緋奈子の体重は重くは無いが、人が活動するのには十二分に邪魔になる。が、時雨の運動能力からすれば関係無かった。

「…何してるんです?」

「救助活動だ!」

 バン! ドアを蹴り壊して廊下に出る。そのまま階段を目指して時雨は走り出す。
 少し走った辺りだろうか。

「チッ……」

 目の前が火の海だった。
 時雨はまだ大丈夫だか緋奈子には耐えられない。それを覚って逆向きに走り出す。
 しかし、その先にも火の海が存在している。

「ヤッベ……」

「……私は死ぬべきなんですね」

 時雨の落胆した声に応じるかの様に緋奈子が絶望した声を吐き出した。

「許さん。お前は俺が許さない限り死ねない」

 時雨は解決策を見つける。

「…でもどうやって……」

 緋奈子がそう言った時だった。

 バゴォン! 時雨が床を思いきり蹴る。蹴りつけられた床は蜘蛛の巣の様に亀裂が入る。

「もう一発!」

 ドゴォン! 再び轟音が廊下に響きわたり、ついに床が鉄骨コンクリートの雨となり、下の階にバラバラと落ちる。
 当然、時雨と緋奈子も重力に従い落下する。

「きゃあああ!」

「よっと」

 時雨は見事に着地を決めて、周囲を見回す。
 幸い、片方は火の海では無かったため、そちらに向かう。
 このホテルは20階建てで、会場は7階のため、今時雨がいるのは6階である。
 向かった先には幸運にも階段があったため、時雨はそれを使って下る。
 1階2階と下ったところで事件が発生。
 下に行く為の階段が火の海と化していた。時雨は仕方なく別の非常階段目指して走り出す。
 4階は、大分火の海が少なく、そこまで燃えてはいないように思えた。

「見つけた!」

 時雨は非常階段のドアを見つけてドアノブに触れる。
 そして、ジュワァ! と肉が焼ける音がする。

「熱っ!」

 時雨が反射的に手を放す。どうやらドアノブは高温状態の様だ。

「おらぁ!」

 バガァン!

 時雨は蹴りを非常階段のドアに叩き込む。音を立てて破壊されたドアはくの字に曲がって壁に衝突する。
 非常階段は鉄骨と鉄の板が組合わさったような危なっかしいもの。しかも、階段事態が火事の影響で熱を帯びている為に、ロクに手すりを使う事すらできなかった。
 螺旋状になっている階段を下りて行く時雨を見ている緋奈子はこんな事を考えていた。

(……なんでこんなにこの人は頑張ってるんでしょうか? 私を切り捨てれば自分だけなら逃げられるのに)

 緋奈子にとっては疑問でしか無かったのだ。
 そうこうしている内に、時雨はついに一階に辿り着く。
 非常階段のドアは何故か鋭利な物で切断された様に、くりぬかれていたので時雨はその中を潜り、ロビーに出る。
 そして愕然とする。

 出口まで、既にロビーは火の海だった。

「ははは、もう無理ですね…」

 そんな事を言っている緋奈子を、時雨は肩に担ぐようにして持ち上げる。
 そして時雨は、火の海に突っ込んだ。

 時雨の体に、焼けるような、いや実際に焼ける火傷の痛みが襲いかかる。
 しかしそれでもスピードは落ちず、むしろ速くなる。
 一方緋奈子に一切火は触れなかった。時雨が肩に担いで火から遠ざけているのだから。

「アっ!…アアア!」

 時雨の口から声にならない声が漏れる。

「ァァァアアアアアア!」

 それは次第に絶叫に変わる。
 時雨の足は既に火傷の状態で、ズボンには炎が燃え移っている。時雨の足は放って置いても激痛が走るのにそれに走る事によるダメージと燃え移った炎のダメージが時雨に耐えがたい激痛をもたらす。
 しかし時雨は速度を緩めはしない。歯をくいしばり、我慢というよりその感情を絶叫と速度の加速に費やす。
 歯をくいしばり過ぎて何本か折れたがどうでもいいとばかりに疾走する。
 そして遂に出口が見える。

「アアアアア!」

 緋奈子をお姫様抱っこに持ち変えた上で時雨は外と内を隔てているガラスに背中から激突し、バリィーン! と音を響かせながら脱出する。
 勢い余って外のコンクリートに火傷をぶつけたりして、それが時雨に決定打をもたらす。

「ーーーーッ!」

 時雨は声にならない声を挙げたのを境に意識が薄れていく。

「お…時雨せ……ぱ…しっ…して……救き…」

「お…時…大丈…な…お…!」

「時…! …雨!」

 仲間の声を聞きながら時雨の意識は奥深くに沈んでいった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.65 )
日時: 2015/12/13 22:51
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 ザザァ……ザァ……

 静かな浜辺に静かな波の音が静かに響く。
 夜の海は月を写し出していてとても幻想的な雰囲気だった。
 そして、そんな浜辺に立つ二人の男女。
 一方は、平子の親友であり鋼城家のお嬢様である鋼城緋奈子。
 もう一方は、元特殊警察第00部、通称【問題児部】であり今現在はスタントマンとアルバイトで生活費を稼ぐ十橋時雨。
 二人は共通の事に思いを馳せていた。
 とても綺麗とは言えない、苦くも辛くもある昔話である。

「十橋さん」

「なんだ?」

「何で、あの時私を庇って悪役になったんですか?」

 この言葉を理解するには、もう少し昔話を語らなければならない。
 再び、苦くて辛い昔話へ。




 ここは、とある病院の一室。
 時雨はその病院のベットに横になっていた。
 気絶した後に時雨は救急車で病院に担ぎ込まれた。後遺症の残る様な火傷が無かったのが幸いだが、全治一週間というこの世代では重傷だった。

「…………」

 時雨は、そのベットで上半身を起こしながら無言になっている。
 理由は簡単な事だった。

「…………あの」

 緋奈子がすぐ近くの椅子に腰掛けているためである。
 時雨からすれば、というか緋奈子からしてもお互いに黙っていては気まずい以外の何者でもないのは承知しているのだが、逆にお互いにろくに何も知らないために話を切り出すのに勇気がいるのだ。

「…どうした」

「お名前、教えて下さい」

(そう言えばこいつと俺って名前をお互いに知らないんだな)

「…十橋時雨。漢字は多分イメージ通りだ」

「そうですか。私は鋼城緋奈子です」

「そうか鋼城か」

「よろしくお願いしますよ十橋さん」

 二人の間に、またもや沈黙が訪れる。
 この空気はマズイと思った時雨は当たり障りの無い適当な話題をふることにした。

「き、今日はいい天気だな」

 ポツ……ポツ…ポツサーー……ザーザーザーザー。

 時雨の言葉を境に、そこそこな豪雨が降り始めた。どうやら時雨は大地にふってしまった様だ。

「そう…です……ね。あはは……」

「「…………」」

 時雨の失敗行動により更に空気が悪くなる。雨により湿度まで増えそうだ。

「時雨。入るぞ」

 その時、ドアを開けて病室に入ってきた者がいた。
 多少癖のある髪をセミロングまで伸ばした髪型で色はオレンジ。歳は時雨よりも上。能力は[摩擦を操る能力]。
 桟橋火英の妹である桟橋火麗だった。

「ああ、火麗先輩。今日はどうしました?」

「時雨。単刀直入に訊きたい」

 火麗の顔に冗談の様な雰囲気は殆ど無く、また真剣な表情だった。

「火英兄は、何故死んだ?」

 これを聞いた時、時雨は少し納得した。

(そう言えば火麗先輩はあの場に居なかったんだな……)

 しかし、この病室にはもう一人居ることを忘れてはならない。

(…私のせい……ですよね)

 緋奈子はそう考えていた。
 緋奈子の考えている事は事実ではない訳ではない。緋奈子がもっと冷静に場を見れば、死なない可能性もあったのだ。

「そ、その人は私を「俺のせいだよ。火麗先輩」」

 怯えながらも絞り出した緋奈子の告白は、時雨によって遮られた。だが緋奈子からすれば、遮られた事よりも時雨の発言に対しての驚きが強かった。

(えっ?)

「……それはどういう意味だ?」

 火麗の目付きが険しくなる。

「文字通りですよ。でしゃばって撃ち殺されそうになった俺を、火英先輩が助けてくれた。それだけです」

 時雨は、明らかに嘘をついている。
 当然。その嘘は緋奈子にも筒抜けだった。が、
 その場に居なかった火麗がわかるはずもない。

「それだけ?! ふざけているのか! 時雨ェ!」

 火麗が、時雨の病院服の胸ぐらを掴み自分の顔と高さを合わせて睨み付ける。が、自分はそれに怯えずにこう返した。

「ああ、他にも思いましたよ。生き残れてラッキーだなー。まあ自分が助かったしいいやー、とか」

「き…貴様ァ!」

 バチィン! 時雨の頬に平手打ちがお見舞いされた。しかし時雨は言うのを止めない。

「火英先輩死んだなー。まあ残念だけど自分が生き残れたし良かったー。特殊警察とかもうどうでもいいやー。辞ーめた」

 バギィッ! 時雨の頬に今度は拳がお見舞いされた。

「貴様がッ……貴様が居たから火英兄は死んだんだッ! 殺してやるッ! いつか殺してやるッ!」

 そう殺意と怒りと悲しみを混ぜた表情をした火麗は涙を溢してそう吐き捨て病院を走って立ち去る。

「……何で」

「……どうした」

「何であんな事言ったんですか!」

 今度は緋奈子が叫ぶ。

「本当は私が悪いのに! 貴方は悪く無いのに! 何で! 何で庇ったんですか!」

「……悪いが体調が悪いから、病院から出てくれ」

「何でですか!」

「いいから出ていけ!」

 時雨の真剣な声に緋奈子は驚いてしまう。

「頼む…そしてもう来るな」

 緋奈子に残された選択肢は立ち去る事だけだった。




 再び場所は浜辺に戻る。

「……あの人みたいに、なりたかった。んだろうな俺は」

「あの人とは……」

「火英先輩。桟橋火英先輩の事だよ」

 時雨は自分の手を強く握る。

「あの人は、俺にとってヒーローだった。ダメな部分も結構あったが、【格好いい】とは程遠い存在だったが、諦めの悪さと人の良さだけは、俺が一番信じてた」

 緋奈子は黙って時雨の話を聞く。
 時雨の声はどこが自慢する様でありながら、どこか寂しげな雰囲気だった。

「俺は完全無欠のヒーローじゃない。何かを救うのに代償を払わないといけない時もある」

「じゃああの時私を救う為に……」

「代償を払ったさ。火麗先輩との関係と言う代償をな」

「そんな……私のせいで……」

 ポタリポタリ、緋奈子の目から滴が溢れる。それが糸の様な形状になるのには少ししかかからなかった。

「だけどな…火麗先輩とは既に一回だけ話したんだよ」

「えっ?」

「最も、喧嘩だけで終わったけどな」

 時雨の言葉は何処か哀しげな感じをかもしだしていた。

「……ごめんなさい」

 涙を流しながら緋奈子は時雨に頭を下げた。

「鋼城? 別にお前が悪い訳じゃあ「私が悪いんです!」…何でだよ」

 緋奈子が声を荒くした事に時雨は若干驚く。が、すぐに反論を建てる。

「お前が何かしたのか?」

「私は十橋さんに代償を払わせて、兄の桟橋さんを殺して…妹の桟橋さんを怒らせた……それでも私は傷ついて無いんですよ! 私が悪いのに! 十橋さんは何も悪く無いのに!」

 夜の浜辺に緋奈子の叫び声が大きく響いた。
 緋奈子の顔は涙で溢れ反ったようになっている。
 時雨からすれば、そんな表情はしてほしく無かった。

「分かった。お前が悪いんなら……」

 時雨が腕をあげる。緋奈子は目を瞑って来る衝撃に準備をする。
 そしてーーーー


 ーーーーコツン。と時雨は緋奈子の頭を小突いた。

「……えっ?」

 緋奈子は驚いた表情を見せる。

「俺が泣いてる奴を殴る様な奴に見えるか? ま、それは兎に角だ」

 時雨は、緋奈子の正面にたち、両腕を緋奈子の背中に回した。いわゆる抱き締める。という行為だ。

「ちょっ! なっ!」

「すまなかったな」

 時雨は、泣いた子供をあやす様に優しく頭を撫でながら優しい口調で言う。

「お前が、そんなに悩んでる事を放っておいて」

 男性からのこういった行為に馴れていない緋奈子は顔に朱色を入れながら返す。

「別に十橋さんは悪くなんか「俺だって悪いさ」」

「お前がこんなになるまで放置した。お前の悩みに気づいてやれなかった。お前の話をしっかり聞いてやれなかった。これだけでも俺は充分悪いさ」

「でも!」

「だったらさ。罪滅ぼしと思って、俺を悪役にしてくれ」

 緋奈子は、こう言われれば何も言うことができなかった。

「そして鋼城。俺を許してくれるか?」

「許すに…決まってますよ」

「じゃあ、これで帳消しだ。両方とも悪くない」

 時雨はしてやったりといった感じに満面の笑みを浮かべる。

「十橋さんはずるいですよ……そんなに優しくされたら……また泣いちゃうじゃないです…か」

「そうか……だったら」

 ポンポンと緋奈子の頭に再び手を乗せ、

「泣いたって、いいんだぞ」

 そっと、優しく頭を撫でる。緋奈子の青紫色の髪は夜の海と合わさってとても綺麗だった。

「そう…です、か。じゃあ…お言葉に…甘えて」

 夜の静かな浜辺に、少女の泣き声が波の音と共に静かに響いた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.66 )
日時: 2015/12/16 06:55
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 更新遅れて申し訳無いです。
 続きです。




「…………」

 ん? あそこにいるのは緋奈子ちゃんかな?

 おーい。緋奈子ちゃーん。

「…………」

 返事が無い。ただの屍の様だ。……本当にどうしたんだろう。
 私は目の前で手を振って「おーい」と呼び掛けると緋奈子ちゃんは

「なじぇっ!」

 と奇怪な声を出した十数秒後に「……あ、平さんですか」と落ち着いた様にため息をついた。何で私を見てため息をつくんですかね。
 それより……。

 緋奈子ちゃん。何か顔が赤いって訳だけど何かあったの?

 私から見て緋奈子ちゃんの顔には少し朱色が入っていました。
 それを指摘すると緋奈子ちゃんは、

「なな何でもありません!」

 明らかに動揺しながら返してくる。いやそれ肯定って意味って訳ですよ。

(十橋さんに抱き締められた上に泣きついた何て恥ずかしくて言えません!)

 何かとてつもなく気になるけど親友の為にここは引いておきます。だって私紳士ゲスですから。
 ここはね。ここは……グヘヘ。
 おっとついついB面が出てしまいましたよ。失敬失敬。
 それにしても今の緋奈子ちゃん……かなり色っぽいって訳ですよ……。


 ああもう恥ずかしくて仕方がない! 十橋さんは気を遣ってくれたんでしょうがその上自分から泣きつくなんて! ああもう私ったら!

 私は平子さんの前で平常運転を演じます。多分顔は赤いでしょうが。
 すると何やら「ふふふっ」と言って平さんが何処かへ向かって行きます。正直嫌な予感しかしません。

 ……そう言えば十橋さんがくれたものはまだありましたね……。

 十橋さんは、彼は私の価値観を変えてくれた。
 無能力の彼が私を救ってくれたから、私は無能力を差別していた自分の愚かさに気がついた。
 そして愚かさを知ったから、平さんや紡美さんと親友になれた。正直、あの時は許して貰えるか不安だったけど、二人が優しい人で良かった。
 十橋さん。貴方は自分がしたのは大した事無いなんて思ってるかも知れませんけど、私にとっては、人生を変えたのと同義だったんです。
 だから、もう一度言いますね。

 ーーーーありがとう。


 緋奈子ちゃーん。

 私は女性陣を自分の部屋に押し込み、最後の一人の緋奈子ちゃんを呼ぶ。

「? どうしました?」

 まあいいから来て来て。

 私は強引に体を引っ張って私の部屋に押し込みます。
 部屋の中には女性陣が勢揃いしせいます。今から何をするかと言うと……。
 ズバリ、緋奈子ちゃんの行動を突き止めようかと。

「あの…皆さん何を……」

 あ、とりあえず能力で逃げられない様に合掌しておきます。

 パン。と短く叩いてもしっかり効力は出ていて緋奈子ちゃんの能力を一時的に消しました。

「ねー。緋奈子ちゃーん。さっきまで何してたの?」

 紡美ちゃんが微笑み…訂正、ちょい黒い笑みを浮かべて緋奈子ちゃんに迫ります。

「何って言われましても……」

「さっき平ちゃんが『緋奈子が凄く色っぽかったよ』って言ってたから」

「ひ、平さん!」

 こちらを見て非難する様な目付きでこちらを軽く睨んでくる緋奈子に私は。

 グッドラック。

 と言って親指を立ててあげました。

 緋奈子ちゃんの方からは砕けんばかりの歯ぎしりの音が聞こえます。ざまぁw。

「もう白状しなよー。碧子、そのメロン掴んじゃうよ」

 と緋奈子の胸を観察する様に見ながら手を握ったり開いたりしている碧子ちゃん。いいよいいよ。

「ぜひとも揉んで見たいです」

 そう言いながらこちらも手を握ったり開いたりしている雪花ちゃん。

「え、ちょ、嘘ですよね。冗談ですよね……」

 冷や汗を浮かべて苦笑いをしている緋奈子ちゃんの背後から忍び寄った私は肩に手を回して羽交い締めにします。

「きゃっ! は、放してください!」

 放したら逃げるでしょ♪ さぁ! 何があったのか白状して下さいって訳だよ緋奈子ちゃん!

「い、嫌ですよ!」

 クッ。なら仕方が無いって訳ですよ……。

 雪花ちゃん、碧子ちゃん。

「「何?」」

 揉んでいいよ。

「平さんッ!」

 ひどいッ! と言わんばかりの声をあげてジタバタともがく緋奈子ちゃん。だかしかぁーし! 能力をかけられた今では運動能力は私の八割だ! 逃れる事はでき無いって訳ですよッ!

「「じゃあ…お言葉に甘えて」」

 そして悪ノリして便乗する二人。
 二人は徐々に緋奈子に近寄りニヤッと笑いかけます。その笑顔は緋奈子ちゃんからすれば絶望以外のなんでも無いんですけどね……。

「おお…柔らかいや。時雨もこういうのがいいのかな?」

 碧子ちゃん。その歳ならまだ希望はあるよ。

「ふむ……私より大きい……」

 雪花ちゃん。貴女は充分にあるよね? 何? 私への当て付け? 良いよね巨乳は。

「ひゃあああっ! やめっ! あっ! ひぃっ!」

 胸を揉まれて妖艶な喘ぎ声を挙げる緋奈子ちゃん。ふふ。

 結局この茶番は夜遅くまで続いたって訳ですよ。
 ちゃんちゃん。

「ちょっ! 放して下さいよぉッ!」

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.67 )
日時: 2015/12/16 22:24
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 第四章、甘い海と苦い記憶、エピローグ


 えー、今現在は緋奈子ちゃんの家こと鋼城家の車に乗って高速道路を使いあの都市…中部エリアに向かっております。
 因みに今の都市は大きく北部、中部、南部の三つのエリアに別れています。日本列島を三等分した感じです。

「zzz……」

 私の隣で首を私の肩に乗せているのは紡美ちゃんです。ちょっと出来心でほっぺをつついたりしてみます。
 するとプニッていい感触がしますね。癖になりそうって訳ですよ。
 二日目? ああ、午前中だけ遊んで今帰ってます。なんと言うか…二日目はカオスでした。
 何故か様子がおかしい緋奈子ちゃんと時雨さん。
 ふふふふふ、と昨日の悦を引き継いで笑っている雪花ちゃんに、それを見て「雪花……」と膝まずいて言う影雪さん。
 昨日のビーチバレーでボロボロになったストレスを解放してめちゃくちゃ水を切断していたザンさん。奇声と息がヤバかったです。
 そしてそれらを見ても特に変わった様子のない紡美ちゃん。
 そしてそれらを見てドン引きする私と無表情で「…………」となっている風間さん。

 ……ものすっごく強烈な思い出ができた海でした。

 皆が疲れて寝ている為に暇な私はずっと紡美ちゃんのほっぺをつついたりつねったりしていました。



 あとがき+説明


平子「まあこのあとがきも四回目な訳ですが……キャラクター大分増えましたっけ?」

時雨「まぁ増えたな。ざっと……平子、俺、鋼城、古都、碧子、ザン、司、風折兄妹、後は桟橋兄妹に…平子の教師? も一応名前があるな。相川、それと敵で…里見と富柄か? 後はモブどもか」

影雪「十五人前後辺りだな」

平子「なんだまだ居たんですか非主人公」

影雪「非を強調するオマエはなんなんだよ」

時雨「まあそれは置いといて…あと他にも増えたな」

平子「話数ですか?」

影雪「それもあるけど作者こと波坂が驚愕してんのは別の事みてーだ」

時雨「ああ、アイツ閲覧数が900越えてんのを見て驚愕したらしい」

平子「あるぇー? でも1000回行ってもそれって凄い事なんですか?」

時雨「悪いが俺には分からん。だから読者の人達に教えて貰いたいと思う。
 突然だけど閲覧数ってどのぐらいで凄いって事になるんだ? 後1000回って凄いのか? 今後の目標にするから答えてほしい。勿論無視したってエタる訳じゃ無いが」

平子「時雨さんが敬語じゃ無いのはキャラが崩れるからです」

影雪「是非とも答えてください」

時雨「じゃあ本編の説明……って言ってもな…俺がグレて、火英先輩に更正させられたり特殊警察に入れられて、そっから能力者と戦ったりして、二年くらい経って火英先輩が死んで鋼城を助けた……端的に言えばそれ位だろ?」

平子「緋奈子ちゃんも初めは中々イラッとくる人でしたよ。今はいい人ですけど」

影雪「質問、意見、誤字等があったら伝えて欲しい。作者は報告が無いと修正しないような奴だからな」

時雨「因みに消火器の爆発はイメージでやってる。パ○プロくんポ○ット10でそんな感じの奴があったから使ってみた」

平子「一章ですでに消火器爆弾使ってますけどね……」

影雪「またしてもオレの出番は薄かった……解せぬ」

平子「非主人公だからじゃねww」

影雪「平子sheね」

時雨「ザコいからじゃねww」

影雪「本気出してねーんだよ。オマエも4ね」

平子「えー。続きまして次の章ですが……大体キャラとストーリーは組んでます。多分」

影雪「多分って何だよ」

平子「仕方ないじゃないですか。作者はその場の思い付きで内容変えるから。時雨さんの時も4割がアドリヴだったんですよ?」

時雨「マジかよ………」

影雪「ま、いつ更新かはわからないがすぐに更新する…はずだからな」

平子「では次回も宜しくお願いします」