複雑・ファジー小説

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.68 )
日時: 2015/12/29 19:20
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 第五章、弱虫ヒーローと南京錠


 僕は、ずっと影の存在だった。
 ずっと、流されるままに、自然に溶け混むように過ごしてきた。
 だからだろうか。僕の髪の色素が空気に透けるほど薄いのは。
 そんな僕は、能力を持っていた。
 [無音を操る能力]という能力の順番的には二番目のそこそこいいはずの能力だ。
 強いと思った?
 そんなわけ無い。
 だって能力が強かったら僕はーーーー

「オイ! さっさと有り金出せやッ!」

 ーーーーこんな無能力の不良なんかに負けたりしない。

 そんな僕が、彼女を見たのはいつ頃だっただろうか。
 確か、僕が入学して少し経ったの頃だったはずだ。
 能力が弱くて身長も低い僕がいいやられ役になっていた頃だった。




「俺達優しいからさー」

 ケンカで負けた僕が帰り道に興味本意で路地裏を覗いた時だった。
 嫌そうな顔をしている髪の真っ白な見覚えのある女子生徒に二人の能力者であろう見るからに不良オーラ全開の男二人が詰め寄っていた。

「白い髪って珍しいね〜。能力者?」

 そんな事を言った不良Aがその女子生徒の髪を触る。
 その女子生徒は心底嫌そうな顔をしている……てあの人は確か僕のクラスメイトの……自己紹介の時に転けまくった人だ。たしか平野さんだっただろうか。

「じゃあこっち来いよ!」

 パシッ! 平野さんの手が不良Aに握られる。

「へっへっへ」

 不良Bも逆の腕を掴む。マズイマズイマズイ!
 どうしよう! 僕じゃ何もできないよ! どうしよ……落ち着け僕。
 安全なのは見て見ぬふりをすることだけど……それはしたくない。罪悪感が募るから。
 じゃあどうする? 覚悟をして突っ込む? いや無謀だ。

 なんて僕が頭でゴチャゴチャ考えている時だった。

 平野さんが右手をBから引き抜いたと思った次の瞬間。

「止めて下さい! 気持ちが良くないです!」

 バギィッ! 平野さんの右ストートがモブAの顔面に突き刺さった。
 突然の事に僕は「え?」と言う超ありきたりな個性のない発言しかできなかった。

「このクソアマァ!」

 といい顔面を殴られた男は手に炎を纏う。それはヤバくない?!
 と僕の心配は杞憂だった様だった。
 平野さんがパーンと合掌をすると、なぜが炎が消え去る。
 男が驚いた表情を見せたのも束の間で、平野さんの拳が再び顔面を射抜き壁に叩きつけた。

 それじゃだめだ!

 僕の思考なんかが彼女の脳内に届く訳もなくもう一人の不良が能力を使おうとして、驚愕する。え? どうやら能力が発動できない様だ。
 と、そこに平野さんが容赦なく股間を蹴りあげた後に足を再びあげて回し蹴りを繰り出してまたも壁に叩きつけた。僕が反射的に股間を押さえたのは仕方のない事だろう。

 彼女は当然僕なんかには目もくれず、白くて長い髪を揺らしながら、「デデンデンデデンデン!」と言いながら路地裏を出ていった。
 この日からだった。
 僕こと能野安ののしずかが彼女こと平野平子に憧れを持ったのは。




 やあやあ、アタシはハリックジーナ。引きこもりだよ。
 え? 引きこもりがいけないこと? そんなわけないでしょ。
 アタシはもう争いだの攻撃だのそんなのと関わりたくない。つーか人間と関わりたくない。引きこもり最高。てアタシは一人で何喋ってんの。
 だからアタシは起きたばかりの布団の中に再び戻って二度寝しようとする。

 ブーン、ブーン。

 ああ?! 誰だ! アタシの安らぎを邪魔すんのはぁ! ……ケータイか。また依頼? もう依頼なんて面倒で仕方がないけど世の中金が無いと生きられないからね。渋々ケータイを開く。

 もしもし。何? こんな朝っぱらから電話してきて。

『いや、今は昼なんだが……』

 そう指摘されて時計を見る。確かに時計は昼を回っているが常日頃から引きこもってる引きこもりにとっては時間なんて関係無い。
 美容室に行くのが面倒だったからしばらく放置していたプラチナブロンドの髪をわしゃわしゃと掻いて眠気を覚まそうとする。あー。布団最高。布団を纏って生きたい。

『それで本題だが……ある能力者を襲ってほしい』

 襲う? 何でそんな事すんのさ?

『何でも上がその相手の力を測りたいそうでな。君も合図があるまで戦闘してくれ。いいか?』

 う〜ん。確かにこの前のテログループの拠点潰す為に一つずつ建物を紙の錠をかけて燃やしてを繰り返した時よりはマシかな……。話の分かる相手なら終わったら軽くお茶でもしよう。

 分かった。引き受けてあげるよ。

『そうか、では情報を送る。一応襲う日時はこちらに伝えておいてくれ』

 じゃ。 ピッ。

 さてと…相手の情報はと。
 名前は『平野平子』多分読み仮名はひらのひらこ。15。居住区はC-6……能力は……何この能力? できる事が全くわからないや。ま、どうでもいいや。合図があったらさっさと終わらせて話の通じる相手ならお茶でもしよう。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.69 )
日時: 2015/12/17 20:41
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 はぁ……。

 私こと平野平子はため息をつきます。
 何故つくか?

 目の前に不良がいるからですよ。しかも二人。

「よぉ。この前はよくもやってくれたな」

 すいません。全く身に覚えがありません。と言うか私は基本的に正当防衛しかしない迎撃タイプなので貴方達に喧嘩を売ったりしないんですけどね……。

「六月の時はよくもやってくれたな……」

 六月? あ、この二人の能力者は私が能力でボコった奴ですか。(←一番上を参照)

 今更何をしに来たんですか?

「てめえをボコッた後に……」

 後に何だろう。凄く気になる。

「レイp」

 消え去れっ!

 危ない用語を叩き出しそうだった不良の顔面に先制攻撃をします。いい感じにクリーンヒットした拳は肌にめり込む感触と共に不良をその場から押し出しました。
 そのまま後ろに倒れた不良は………あ、ゴンッ! と音をたててコンクリートに後頭部を直撃させて気絶しました。

「ひ、卑怯だぞっ!」

 二対一は卑怯じゃないとか思ってるんですか? 貴方も十分に卑怯って訳ですよ。
 と思いながら私はスカートのポケットからスタンバトンを取りだし伸ばして打撃を繰り出します。

「なあがっ!」

 恐らく「何ッ!」と「あがっ!」が混じった悲鳴(?)を出しますけど私だって容赦していられないって訳なので電気スイッチを入れます。

 バリッ。

「ッ!」

 声にならない絶叫をしたのちに不良は倒れ込みます。さぁて、今の内にとんずらとんずら。

「ま、待って……」

 後ろから弱々しくかけられた蚊の様な声に気がついた私は降り返って声の主を特定しようとします。

 すると奥からフラフラと汚れた制服を着た低身長の男子が姿を表しました。薄い透き通った前髪の長い紫色の髪をした人……妙に見覚えがあると思ったら同級生の能野君でした。

「ありがと……僕はこいつらに…暴行を受けていた、ところだったんだよ」

 え? じゃあ私はそれをヘルプしたって訳ですか?

「まあ……そうだね。もう一度、言うよ、……ありがとう」

 と言って能野君は頭を下げる。別になぁ……。

 私は絡まれたから正当防衛しただけだって。

「それでも、いいよ。結果的に…僕は助かったし」

 能野君は結果が良ければいいようだった。

 うん。じゃあね。

 私はそう言い残して今度こそ路地裏を出た。




 平野さん。格好良かったな……。
 僕もあんな風に強くなりたいけど……僕じゃ無理だ。体格も小柄。能力も弱い。僕なんかじゃ誰かを助けるなんてできない。
 それは僕が一番わかってる。
 それでも現実を見ちゃうとやっぱり目に洪水が発生した。
 男なのに泣くなんて……なんで僕はこんなに人生と言う名のトランプで配られたカードがこんなに微妙なんだろう。
 自分の中途半端さに自己嫌悪をしていると暗い気持ちになった。ええい忘れろ忘れろ。
 僕はずっと何かに沈んだ気分だった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.70 )
日時: 2015/12/29 19:24
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 次の日、私は身支度を済ませてフラフラと出かけました。別に体調が悪い訳ではありません。服装は半袖のシャツにミニスカートといった単純なもの。
 さて……私の居住区のC-6は……特に変わった所はありません。普通の街と言うのがしっくりくる街です。

……暇……でしか無いって訳ですよ。

 やっぱり家にいた方が良かったかなー? でも全部アニメ見たしゲームも大方クリアしたし、宿題はとっくに終わったし。

「ちょっとアンタいい?」

 私の考え事の途中で後ろから声をかけられます。
 後ろを振り向くとそこには……美人がいました。
 背もそこそこ高くてサルファーイエローって奴かな? の瞳とブロンドの髪は太陽の光を反射してとても綺麗だ。服装はグレーのレディーススーツ。
 ここまで外国人色に染まる事も案外珍しいですねぇ。

「アタシはジーナ。突然だけどアンタは平野平子であってるのかな?」

 突然の質問に少々狼狽するが、普通に「それがどうかしましたか?」と返す。

「そう……じゃあ」

 次の瞬間、私は咄嗟に後ろに飛び退いきます。理由はジーナさんが何かを私に振ってきたからなんですが……。
 そして私が先程までいた場所を、銀色に煌めくサバイバルナイフが通過しました。……あっぶねー!

「不意討ちのナイフを回避した…ね。アンタ中々やるねー」

 いきなり何をするんですか! 危ないでしょ!

「いや、仕方ないじゃん。アタシは仕事をやってるだけなの。分かる?」

 分かりませんよ!

 私は殆ど無かった間合いを詰めて渾身の拳をジーナさんの腹部にめがけて放ちます。
 その時、ジーナさんの手がレデイーススーツに付いているポケットに手を伸ばします。その後、ガチン! と言う得体の知れない音が私の鼓膜に響きましたが私は構わず拳を叩き込みました。

 ドッ!

 そのボディーブローはいい感じに決まったんですが……ジーナさんはダメージを受けた感じが全く無いって訳ですよ。

 ガチャリ。また変な音がしましたがどうでも良かったので無視します。
 そしてカウンターの様に放たれた意趣返しのボディーブローを私はモロに受けます。ナイフによる攻撃は何とかスタンバトンを取り出してパリィしたものの拳を振りきった状態でボデイーブローまでパリィするのは無理がありました。

 ドボッ! 私の腹部に衝撃が与えられるのとほぼ同時に数m後ろに飛ばされます。どうやら運動能力は高そうだって訳ですよ。

 思わず口から呻き声が出つつも飛び退いて距離を取りつつ私は考えます。

 ーーこの人の能力は何だ。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.71 )
日時: 2015/12/21 07:27
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 平子が次にとった行動は単純なものだった。
 スタンバトンを構えて突撃する。ただこれだけのこと。
 助走をつけて降り下ろされたスタンバトンをサバイバルナイフで受け止めてジーナは左手で反撃を試みる。
 しかしガシッと平子の右手に掴まれてお互いに両腕が使えなくなる。
 そして次の瞬間、ゴンッ! と鈍い音が響く。平子の頭はジーナの額に触れていた。そしてあの音からもわかるように平子はジーナの頭に頭突きをしたのだ。
 ヘットバットが直撃したジーナは負けじと平子のスタンバトンにナイフで受け止めながら触れ、能力を発動させる。

 ガチン!

 平子のスタンバトンに手のひらの半分程の大きさのダイヤ柄の南京錠が出現する。

「なぁっ?!」

 突然の事に何が起こったか意味不明な平子。しかしジーナは何食わぬ顔でナイフの刃でスタンバトンを切ろうとする。

 スパッ!

 本来ならば切れないはずのスタンバトンは、ハサミで紙を切る様に簡単に切れる。

 ガチャリ。

 またあの音がした後、平子が握っていたスタンバトンの残骸からダイャ状の南京錠が消え去る。

(相変わらず能力は分からないけど……あの南京錠が怪しいって訳ですよ)

 平子はそう考えつつ手を放して、ついでにスタンバトンの残骸も捨ててバックステップで距離を取る。

(まあでも)

 平子は両手を合わせてパーン! と合掌する。そして能力は発動されるがジーナは能力を発動していないから気がつかない。

(無効化するからいいけど……問題はサバイバルナイフ……どうしよう)

(ん? 何か能力でも使った? でもあまり、と言うか全く変化が見られないんだけど……まぁいいや)

 ジーナは怪しみながらも平子と距離を詰めてナイフを垂直に降り下ろす。
 平子はしゃがみ込んでナイフをかいくぐりそのまま足を水平に回す様にして蹴りを繰り出す。

 ガッ!

 ジーナの顔が苦痛の色に少し染まる。平子はそれを見逃さない。一度立ちジーナのナイフを持ってる右手の手首に手刀を叩き込む。バシッ! と音がでる。ジーナは手が痺れてしまって動かせない状況に陥る。だが平子はお構い無しに痺れた右手にあるナイフをはたき落とす。
 そしてそのままボディーブローを放つ。ジーナはポケットに手を突っ込み縦横高さ1cm程の鉄の塊を触り、その【錠】を服にかけようとする。

(あれ?)

 しかし【錠】がかかった感触は無く、南京錠も現れない。そしてその場合に起こり得る事はただひとつ。

「ハアァァッ!」

 ドボォッ!

 平子の渾身のボディーブローがジーナの腹部を射抜いた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.72 )
日時: 2015/12/29 19:32
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 あれ? おかしいな。何で能力が使えないの?
 アタシの能力。[【錠】を掛ける能力]で服に鉄の【錠】を掛けたからこれを破るにはそれ以上の硬度の物や超高温や酸化とか膨大な電気とかじゃないと破れないはずなんだけど……。そもそも南京錠すらも現れない。もう能力が発動できてないとしか考えらんない。
 しっかし……ボディブローが派手に入ったせいで……大分ダメージが大きい。
 アタシが数歩たたらを踏んだ時、右耳につけた小型無線通信機からビーッ! と音が流れた後に男の声が流れた。

『もう充分だ。戦闘を中止して構わない』

 それだけ言ってさっさと無線の通信を切ってしまう。ちょっとさぁ……向こうはまだまだやる気満々なんだけど。アタシのやる気メーターは底をつくどころかカラッカラに砂漠化してるけど。何? アンタのやる気はオアシスですか? アタシがあのオアシスの水を飲んだら拒絶反応が起こるわ。絶対。

 あのさぁ……。

「……何ですか」

 ああ、一応会話する気はあるみたいだね。良かった。戦闘大好きな某戦闘民族的な人だったら殴りかかられてたよ。

 もう止めにしない? アタシの仕事は終わったからもう闘う理由とか無いし。多分だけどアンタと私の能力って相性悪いと思うんだよね。それに美女同士が殴り合って傷つけ合っても誰得じゃん。

 少なくともアタシは自分が美女だとは思っている。……少々遅れて能力が発言した時のアイツらの態度の変わり様でわかったんだよね。
 まぁ目の前にいる高校一年もそこそこ整った容姿だし案外モテそうだし。アタシ? 私は17。

「……じゃあどうするんですか?」

 じゃあついてきて。



 私こと平野平子はジーナと名乗った謎の女性(笑)に連れられています。
 うわぁ……私どうなっちゃうんだろ。不安でいっぱいって訳ですよ。

「ここでいっか」

 ついた場所はと……ただのファミレスじゃないですか! 私の不安を返せ!
 なんて私の憤慨に目もくれずにジーナさんはファミレスに入っていく。
 私も何かやけくそ気味になって入ったって訳ですよ。



「じゃあ名乗っとくよ。アタシはハリック・ジーナ。別に本名じゃ無くてコードネーム的なアレだけどね」

 平野平子です。って知ってますか…。

 取り合えず名乗ってきたのでこちらも名乗っておきます。でもこの人初対面から私の名前知ってましたね……。ま、まさかストーカー!

「盛大かつ壮大な勘違いしてる様だけどアタシは単に国から依頼があって標的がアンタだったから名前だの身長だの体重だのスリーサイズだの知ってるんだよ」

 心を読んだか突っ込みを入れてきたジーナさんはそこまで言ってニヤッと口を歪ませた。そして、

「アンタのスリーサイズここで暴露していいww?」

 とんでもない事を言い始めた。当然純粋(笑)な乙女の私は。

 止めて下さぁぁい!

 叫ばすにはいられないって訳ですよ。

「ハハハ。冗談冗談」

 こ、この悪魔めぇ……。私は口に出さずにそう思いました。
 一方ブロンドデーモンことジーナさんは「ハハハ」と笑うばかり。

「で、その事は兎に角」

 兎に角じゃないって訳ですよ!

「国はアンタに対して特にお詫び的な事はしないんだよ。アタシにもやっぱ申し訳ない的な思いはあるからさ、アタシにできる範囲でアンタの言うこと三つだけ聞いてあげるよ」

 無視ですか。三つってジーナさんはランプの魔神ですか?

 私の冗談っぽい問いにジーナさんは

「ま、制限つきの拒否権ありきだけどね」

 そう返してきた。
 さてと、三つか……図々しいかと思うかも知れないけど私は被害者だ。だったら行使する権利があるって訳ですよ。

 じゃあ……。一つ目はジーナさんの能力について教えて下さい。

「えーっと……まぁ国のなんたらとかあるけどいいや。……アタシの能力は[錠を掛ける能力]……でも何か私、今は能力が使えないんだよね……」

 頭を掻くジーナさんを見て私は思い出したように能力を解除します。

 すいません。それ多分私の能力です。

 私の能力とできることについて簡単にジーナさんに説明する。

「それは……なんと言うか応用が少なそうな能力だね……ああ、アタシの能力だけどさ……簡単に言えば弱点を追加したり弱点以外から無敵になれるんだよ」

 ジーナさんはポケットから何かの銀色の物体を取り出す。

「これは鉄。例えばこの鉄を元にした鉄の【錠】をこの服に掛ける」

 ガチン! と先程聞いた音が鼓膜を揺らす。ああ、この音は能力の発動音だったんですね。

「因みにこれが【錠】」

 コートの右腕の袖口辺りに手のひらの1/2位のダイヤ柄の南京錠がかかっている。触ると熱くも冷たくもなかった。

「じゃあここにライターの火を押し付ける」

 あっ!

 ジーナさんは容赦無く火をレディーススーツに押し付ける。私は燃え移る映像を予想しましたが……びっくりなんと燃え移らないって訳ですよ。

「これは【鉄】の融点や沸点が高いからなんだよ。勿論それくらい過熱したら燃えるけどね。あ、南京錠自体に弱点攻撃を加えれば【錠】は解ける。と……これぐらいでokかな?」

 じゃあ二つ目です。私と電話番号交換して下さい。

「何でまたそんなこと……」

 ジーナさんと居ると楽しいので、友達になりたいんです。

「何それ」

 それを言ったジーナさんの声は先程とはうって変わって冷たくなっていた。

「そんなんじゃこの国の裏でやってけない。アンタはまだ表の人間でしょ? だったらやめときな。大体アタシはアンタを信じられないし、アンタはアタシと友達になんてなれない。なれるはずがない」

 突き放す様な口調。冷たい眼差し。向こうが拒否してるのはわかってますけど……。

 まぁ良いじゃないですか。たまに相談に乗って貰う位ですし。

 諦めませんよ。私が信じられないなんて絶対に間違いだと認めさせてやるって訳ですよ。
 そしてそれを聞いたジーナさんは沈黙した後。

「プッ……ハハハハ!」

 急に笑い始めた。
 そして声色も眼差しも先程の冷たさはどこかへ飛んでいってしまった様に明るくなっている。

「ハハ! アンタちょっと気に入ったわ。いいよ。これ番号ね」

 とか言いながら渡された名刺には連絡先だのの個人情報、ジーナさんの写真、そして肩書きが書かれている。
 ジーナさんの名刺に書かれていた肩書きはこうだった。

 臨時的【日本国直属一等超能力者】
 臨時的【単発依頼募集超能力者】
 【日本国中超能力者特権行使可能能力者】

 ……一応説明しときますけど一番上の奴は国直属で契約している能力者の事です。臨時的の意味がわかりませんが一等って事はかなり優秀です。
 次の奴は他の個人や企業から依頼を受けて、報酬を貰う事で仕事として能力を行使できる人の事を指します。こちらも臨時がついてますがまあいいでしょう。因みにこれは国の審査が必要です。
 そして最後の項目は……以前影雪さんと闘った時に言いましたが、[〜を司る能力]を持った能力者は余りに能力が強すぎる為に能力の事故が起こりやすく、その為に大抵の事件なら事件扱いされない特権を持っています。そしてジーナさんのこれはその特権を扱う事のできる能力者に与えられる肩書きです。つまりジーナさんは……国の抱える超凄い超能力者って訳ですよ。
 どうやら私はとんでもない友達を作ってしまった様です。


 閲覧1000回突破ありがとうございます。
 能力やオリキャラ等も募集しておりますので良かったら上のリンク先でお願いします。
 あ、気分転換するために新しい小説書き始めました。あっちの更新は遅いです。波坂でした。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.73 )
日時: 2015/12/23 22:14
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 これは平子とジーナが戦闘している頃。

「なあ兄貴。あのクソアマをやらねぇと気が済まねぇ。どうかして潰さねーか?」

 現在ここの路地裏には二人の不良がたむろしていた。今喋りかけたのが有原次郎ありはらじろう。もう片方の兄貴と呼ばれたのが井上連いのうえれん。この二人はこの前平子にケンカを売って返り討ちにされたにも関わらず再び平子を襲おうと考えていた。

「そうだな。しかしどうする? ……取り合えず俺は後二人程集めよう。
 おお、そういえばだ。コイツも使うか」

 そうして倒れている人間を指差す井上。その人間ーー能野安はぐったりしていて意識が無い事がわかる。

「コイツの能力も使えるかもしれねーな。おい起きろ」

 ゲシッと安の頭を踏みつける井上。安は苦痛に目を覚ます。

「悪いけどちょっと協力してもらおうか」

「え? いや、でも」

「分かったって訊いてんだよゴラァ!」

「は、はいぃ!」




(つ、疲れた。今日の戦闘では集中力をかなり使ったしその後のプロフィールを見てまた疲れたって訳ですよ)

 平子はジーナと別れファミレスから出て現在帰宅している。
 ジーナのプロフィールを聞いた事から遠慮と言う物が平子に生まれたために三つ目の願いは保留になった。
 それは兎に角。疲れきった平子ちょいちょいフラフラとしながらてくてくと歩いている。
 だから、平子は異常に気がつかない。疲れているせいで集中力が散漫になっている。
 平子はフラフラと歩いている為に無意識の内に強く地面を蹴っている筈だ。
 だが、足音はしない。これは明らかにおかしい事態だが、これだけで済んでいないのがまた厄介なのだ。
 足音どころか息をする音も聞こえない。
 理由はあった。何故なら現在平子の周りの音は何かしらの能力で全て消えていて無音であるからだ。
 そして平子は気がつかない。
 背後から音をたてて踏み込んだ上での拳が猛スピードで後頭部に迫っている事を。

 ガンッ! 等という音はしなかった。平子の周りはやはり無音だからだ。まるで何処かに奪われた様に。
 殴られた後、平子はあっ! と声をあげた筈だった。
 だがそれは誰にも、平子自身にすらも聞こえなかった。

 あるぇー? 何かおかしいですね。

 平子はこう発声したつもりだった。
 だがその声も空気を震わせず鼓膜を叩く事もなく誰の耳にも届かない。
 平子の顔に驚愕が生まれて隙ができる。
 そして二発目の拳ーー否、今度はスタンガンを持っているーーが平子の首を捉えた。

 平子の細い首筋に乱暴にスイッチを入れたスタンガンが押し込まれる。暴れる様な電撃が平子を襲う。当然平子は悲鳴をあげるがそれすらも誰の耳にも届かない。
 平子はそのまま糸の切れた人形の様にカクリと気絶した。
 そして、その光景を見ていた色素の薄い髪の少年は、

(ごめん。平子さん。僕もやりたく無いんだよ)

 自分の無力さに打ちのめされながら噛んでいる唇を指で触りながら涙を少しながら溢していた。

(こんな僕を……許してッ!)

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.74 )
日時: 2015/12/26 14:00
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 そこからの不良達の行動は決して早いとは言えなかっただろう。盗難車に平野さんを乗せるのに三十分程を要したのだから。
 だけど周りはあまり反応しない。表向きから見れば路地裏の前に車を止めているだけに見えるのもあるが、僕の能力、[無音を操る能力]で音が無くなっているから目立たないのだ。
 僕の能力の使用方法なんてこれと言って無い。精々気付かれにくくなったり、物を気付かれない内に移動させる事が可能になる位だ。
 それをまさかこんな事に使わせられるなんて思ってなかった。現在僕の体は罪悪感で破裂してしまいそうだ。何よりも自分が好意を持っている人に対してこんなことをした僕はもう何が何だかわからなくなってきた。
 僕がボーッとしている内に不良達は車を出す。当然僕も乗せられたがボーッとした状態から抜け出せたのはB-6の廃墟に入り、平野さんの監視を命令されてからだった。
 そして現在、僕は廃墟で平野さんの監視をしている。廃墟には後二人ほど不良が残っている為に逃げ出す事はできない。
 どこから入手してきたのやら手錠がついている。そんな犯罪者でも無いのに手錠を掛けられた平野さん連れ去って一時間程経った今も彼女は目を覚まさない。

 …………

 僕は初めて彼女の顔を至近距離で見ている。見ていると鼓動がバクバクとする。顔が熱くなる。ずっと影から彼女を見たり少しだけ話して喜んだりしていた僕が、彼女の無防備な場面に居合わせている。

 …………

 無防備な彼女の夏休み前までは肩よりもした辺りだったのに今は更に伸びた髪を持つ。サラサラとしていてとても綺麗な髪だった。

 彼女を自分の物にしたい。

 そんな衝動が感情の壺から沸き上がる。頭を振って自分の煩悩を振り払おうとするが中々頑固な油汚れの様に取れない。それを落とす洗剤もスポンジも僕は持っていない。

 髪を触る手は徐々に毛根へと向かう。そして頭に到達した。

 ゴクリ。

 唾を呑み込んでじっと顔を見つめたまま触る右手をそのままに左手を服に伸ばそうとするーーーー

「オイ! ちゃんと見張ってろよ!」

 不良の声にビクッと反応し我に帰る。
 ぼ、僕は何て事を……。

 自分の左手を見つめてもやろうとしたという事実は変わらない。やりなおしのロードやリセットボタンもない。既に時間と言う常時セーブ機能に記録されてしまった。

 とりあえずゴスッと自分の頭を叩く。
 だけどそんな事で自己嫌悪の警報ベルが鳴り止む訳が無かった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.75 )
日時: 2015/12/26 21:49
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 僕がずっと監視をし続けてもう三時間程が経っただろうか。
 腕時計の針も、もう5時を指していていつもなら帰宅を考え始める時間帯だ。
 だけど僕にはそんなことを考えている余裕は無かった。理由なんて簡単だ。

「そろそろ始めるか」

 目の前にいるやたらと図体だけはでかいチンピラに脅されているからだ。僕はコイツに勝てないから逆らえない。やられるとわかって挑む奴なんてのは追い詰められたネズミかよっぽどのバカだけだろう。
 今現在僕は廃墟の中にいる。僕の視界には今だ意識を失った平野さんが4人位の不良に取り囲まれている。
 これから何が始まるのだろうか。と言ってもだいたい分かっている。どうせ性欲盛んなチンピラがあれやこれやするだけだろう。最も先程の行為の為に僕が言える立場ではないが。

「おい! お前!」

 この兄貴と呼ばれるチンピラがお前と呼ぶのは僕しか居ない事を学習した僕は直ぐに振り向く。

「お前はとっとと帰れ」

 今更帰れ? 僕の能力を散々こき使っておきながら何の代償も謝礼もせず?
 僕の感情に少しの怒りの炎が灯る。
 しかしそんなものは現実と言う越えられない壁に直ぐに消される。

 どうせ僕が抵抗したって、暴れたってこいつらには効かない。だったら諦めよう。

 僕の感情は怒りどころか諦めの氷付けになっていき、やがて凍り付く。もういいや、全部もういいや。

 そんな僕みたいな人間に残された選択肢は負け犬の様に惨めに引き返す事だけだった。



 廃墟から出てきて道をてくてくと歩く。まだ十数秒しか経って無いが。

 今日は災難な日だ。何で僕ばっかりこんなにシャワーみたいに厄が降ってくるんだ。僕は神様の加護や運命の赤い糸を打ち消す右手も他人から厄を吸い寄せる力も無いのに。

 今日の事は忘れよう。嫌な事は忘れるんだ。全部全部。
 明日からはできるだけ無音になっておこう。そうすれば気づかれないでまた影の人生を送れる。
 ほら、そうして生きて、いつもの日常を過ごせばいいじゃないか。最高のノーマルルートじゃないか。
 僕の頭にふとこんな単語が出てくる。

 ーー平野さんの事は。

 忘れよう。忘れるんだ。彼女に持った憧れも、希望も、好意も、全部全部。諦めるんだ。諦めて何が悪い? 諦める権利位僕にもあるよね? 平野平子なんて人間は僕の人生には名前も知らぬ他人。そうすれば良いじゃないか。
 僕にとって最高の結末じゃないか。僕は傷つかない。負い目を感じる事も無い。罪悪感に縛られる事も無い。

 あああああああ!

 思いきりコンクリートの壁を殴り付ける。拳に鈍い痛みが走るがどうでも良かった。

 できるわけ無い! 僕が忘れるなんてできるわけ無い!
 大体彼女がああなった原因は僕だ! 僕が弱いから、僕が脅しに屈して能力を使ったから! だから彼女は捕まったんだ!
 なのにっ! 僕って奴は!

 そんな自分に怒りを抱いて、何もできない自分が情けなくて、好きな女の子一人助けられない自分が悔しくて、僕は泣きながら壁を殴り続ける。

 痛い、痛い、痛い。だけど止めない。感情の暴走は止まってくれない。

 僕はいつの間にか走り出していた。

 跳ね返ったボールの様に180度の方向転換をして。




 僕が廃棄に戻った時には既に平野さんの服に手がかかっていた。
 その光景を見た僕は、

 平野さんに……手を出すなぁぁぁ!

 いつもの自分ですら弱々しいと思ってしまう声からは想像のつかないほどの大声量と共に拾った鉄パイプを降り下ろしていた。

 ゴンッ!

 僕の声と鈍い音が廃墟に響く。当然他の三人が気が付いて僕の方を見る。
 殴り付けたチンピラは気絶している。だが僕はなりふり構っていられない。そのまま鉄パイプを横に振りもう一人のチンピラをスタンさせる。

 そして鉄パイプを兄貴と呼ばれるリーダー格のチンピラに横回転をかけてプレゼントする。結果は見ていないが「うぐっ!」と声が聞こえたので当たったのだろう。
 そのまま平野さんをお姫様抱っこで抱える。きっと火事場の馬鹿力って奴だろう。あまり重さを感じなかった。

「オイ! 追いかけろ!」

「ハ、ハイ!」

 すぐに一人のチンピラが追いかけてくる。いくら火事場の馬鹿力状態でも足が遅くなるのは当然だ。
 兎に角僕は廃墟の階段をかけ上がる。階段の上は歩道橋の様な造りで上から移動できる様になっている。

「待てやゴラァ!」

 誰が待つか。そう毒付きながら階段を必死にかけ上がる。先程まで全力疾走した上に平野さんをお姫様抱っこしているまま逃げた為に普段鍛えてない足が悲鳴をあげるが歯を食い縛る。
 階段を登りきった僕は一旦平野さんを下ろして周りの廃材やらを階段から落とす。

「おいっ! 止めろコラァ!」

 誰がやめるか。転がしてきたドラム缶を階段に落とす。
 だかチンピラは階段の手すりにぶら下がって徐々に上ってくる。

「よし、テメェは後でぶっ殺してやるからな」

 徐々に近づき余裕が出てきたチンピラはそう言いながら僕を見る。

 僕は内心焦りつつも落とすが階段に蓄積するばかりで手すりの外にぶら下がっているチンピラには当たらない。

 もうチンピラとの距離があと2m程の時だった。
 遂に最後の僕が動かせる範囲の物の鉄塊を階段に落としてなおもチンピラに当たらない。クソッ! 僕は苛立って階段に思いきり武器用に持っていた鉄パイプを階段に叩きつける。

 次の瞬間、ギィィン! 鉄の切れる音がし始める。僕もチンピラも驚くばかりだが原因は単純だった。
 元々骨組みだけの階段はそれほどの重量を想定していなかった。
 そして僕は兎に角、廃材を落としまくった。徐々にそれらは階段に蓄積し、階段に負担をかける。
 そして僕が丁度切れ目に鉄パイプを叩きつけた。結果、それが原因で階段が切れ始める。
 チンピラの捕まっている手すりは運悪く僕のいる足場と繋がっておらず、ギィィィ……と音を立てて落下する階段と共に落下していった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.76 )
日時: 2015/12/29 08:40
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 終わった。

 僕が落ちていった階段とチンピラを見つめ初めに出てきた単語はこれだった。
 もう一度平野さんを抱える。失礼に聞こえるが重い。単純に僕の腕力が無いだけなのだが。
 さっきまでの力はやっぱり火事場の馬鹿力とか言う奴だったのだろう。平野さんを抱えて別の階段から降りるのに約10分程かかった僕はおせじにも力強いと言う形容詞は当てはまらない。
 だが、もう出口は目前だ。
 あと少しで助けられる。ヒーローになれる。
 こんな卑屈な事を考えている自分に多少の嫌気が差すがそれでも好意を寄せている相手を助けたと言う満足感の前には塵も同然だった。
 僕が一歩踏み出す。

 ドガッ!

 あれ? おかしいな。僕の足音ってこんなのだっけ?
 それにほら、何か床が近づいて来てる。何で? 僕は転けたのか?

 そんな呆けた事を考えながら僕は前のめりに転倒する。平野さんは床に打ち付けられ多少苦い表情をする。が、意識はまだ戻らない様だ。

 僕はとっさに起きようとして、体を反転させて仰向けになる。

 ガシィッ!

 ドンッ!

 それと同時に僕の頭が鷲掴みにされ、床に叩き付けられる。……え?

 僕の目の前には、

「さっきはよくもやったなオイ」

 兄貴、とチンピラ達から呼ばれるリーダー的な存在のチンピラがいた。

 うぐっ!

 頭を握る握力が徐々に強くなっていく。僕の頭に指がめり込み頭蓋骨が軋み悲鳴を上げる。

「テメェはぶち殺して灰にして海にぶけちまけてやんよ」

 僕が返事をする間もなく、体が浮遊感に囚われる。視点が移り変わりバックの背景が天井主体から壁面主体になった事から上に頭を掴まれて持ち上げられている事がわかる。

「クソチビが。弱い癖に調子こいてんじゃねーぞ!」

 次の瞬間、物凄い横の圧力がかかり、僕のちっぽけな体が紙屑の様に吹き飛ぶ。手は何とか圧力に逆らおうとするも空気を掻いても何の抵抗も生まれずに壁に激突床に落下頭がぐるぐると回る様な症状に陥る。

「全く手間かけさせやがって! おかげでお楽しみの時間が減っちまったじゃねーか!」

 無様に倒れているところに容赦の無い蹴りが叩き込まれ、頭を踏みつけられる。

 ぐがぁぁ……。

「チッ。もういいか」

 舌打ちをしてチンピラが僕から目線を外す。
 このままだと平野さんのところへ行くだろう。駄目だ。それは駄目だ。兎に角駄目だ。
 体、動け。
 意識、働け。

 僕は唇に人指し指に触れ能力を使う。消した音は<僕の発する音>。これで僕は見られなければ気付かれない。因みに触れる指に関係はない。
 [無音を操る能力]なだけに発動後はもちろん発動時も音は無い。なぜ発動したかが分かるかは、無音に指定した音が頭に直接入ってくる感覚があるからだ。頭に入る理由は無音にした音は僕の頭に情報として鼓膜などの感覚器官などを介さず直接脳に入って来る為にどれだけの大音量を聞いても鼓膜が破れるなどと言う事は無い。

『カツ…カツ…カツ』
『はぁ、はぁ、ふう、はぁ』
『ドクン! ドクン! ドクン!』

 足音、息、いつも聞こえない心臓の鼓動までが頭に響く。その聞き慣れたBGMをバックにチンピラに思いきり殴りかかる。

 ゴッ。

「……あ?」

 だけど悲しい事に僕の腕力ではチンピラの鎧の様な筋肉を通してダメージを与える程の力は無かった。

 バギィッ!

 頬に高速の硬い鉄拳がめり込みそのまま僕の体勢は約90度入れ替わり床に倒れ込む。

「ウゼーんだよ。そんなんやって格好いいと思ってんのか?」

 そんな訳…無い…よ。僕の、格好悪さは僕が一番わかってるん、だ。
 だけど…こんな僕だって譲れないものがある。愛しいと思える人がいる。
 だから…倒れる訳には…いかないんだ!

 膝がガクガクと警報器。体がやめろそと赤信号。
 関係無い。警報器なんてぶち壊して、赤信号なんて無視して、後は目の前の壁を倒せばいい。
 立ち上がり、床を蹴って突撃する。

「もうメンドクセーよテメェ」

 ゴガッ!

 がぁっ!

 繰り出された膝打ちを僕は避ける事はできず顔面に受ける。
 仰向けになり視界が天井一色に染まる。

 まだだ、まだいける。

 それから何度繰り返しただろうか。
 ゾンビの様に立ち上がる僕。
 それを倒すチンピラ。
 
 そして、ある一回だった。
 チンピラが右ストレートを繰り出した時だった。
 足がもつれてフラフラとなる。そして大きく体が揺れる。
 その時に右ストレートが目の前を通過した。それを見た僕はここぞとばかりにチンピラに飛び付く。
 チンピラと言えど僕から飛び付かれて倒れない程の力は持ち合わせていなかったらしい。僕もろともチンピラと床に這いつくばる。
 僕はチンピラに馬乗りになり右左右左右左とめちゃくちゃに拳を振るう。
 チンピラは黙ってやられるかと思いきやカウンターで左フックを放ってきた。もろに直撃するが、歯を食い縛り攻撃を続行。
 そんな僕を見たチンピラは恐れたかの様に右ストレートを放ってきた。
 ゴギャァ! 肉がめり込みリンとカルシウム性の骨格が折れる音がする。
 ドバドバと流血しだす。どうやら鼻の骨が折れた様だ。
 構わない。どうなってもいい。
 僕はめちゃくちゃ振るう腕を止めて、思いきり頭を振りかぶり、振り下ろす。

 ゴォォン!

 僕の頭突きはチンピラの意識を刈り取った。ざまあみろって言おうとするけど……あれ? 何かし、かいがぼ…やける。
 僕の頭突きは、僕の意識すらも刈り取っていった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.77 )
日時: 2015/12/31 07:46
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 第五章、弱虫ヒーローと南京錠、エピローグ




 あの後の事を話そうか。
 僕が道連れにして最後のチンピラを倒した後、最初に目を覚ましたのは平野さんだった。
 彼女はとりあえず僕のケータイを使って救急車を呼んだらしい。手錠はチンピラのリーダーの近くに転がっていたそうだ。
 そして僕は病院に担ぎ込まれた。目を覚ました時に、「……リアルで目を覚ましたら白い天井が見えるなんてあったんだ……」と謎の感想を溢したのを覚えている。
 僕の体? ああ、担当医の扇堂医師は「全く、夏休みにこんな怪我をするのはあの白い髪の少女か髪の色の変わる不思議な青年だけだと思っていたんだがね」だそうだ。前者は恐らく平野さんだろうが後者は誰だろう。



「ふ…ふぁ……ハクション!」

 【上原荘】503号室では時雨がくしゃみをしていたとかしなかったとか。

「時雨ー? 風邪?」

「大丈夫だ、多分」

「碧子、バカは風邪引かないって言うけど流石に夏でも夜に全裸で徘徊してたら風邪引くよって思う」

「さりげなく俺をバカ呼ばわりした上にそんな変質者扱いしてんじゃねぇよ」



 チンピラ達は事件発覚後、直ぐに一旦特殊警察のお世話になったらしい。最も解放されたらしいので復讐に来ないか心配だが。
 僕はあの事件で色々な事を思って、色々な事をした。
 こんなに弱虫な僕があんなに頑張れたのは何でだろう。警報器が僕の鼓膜を突き破る様になり響き、赤信号が自己主張するかの様に光っていたのに、どうして僕は倒れなかったのだろう。
 考えても、答えはありふれたものだった。

 他人の為にやったから。正確に言えば、好意を寄せている人の為にやったから、あんなに頑張れたんだと僕は思う。
 違うって思われるかも知れない。嘲笑われるかも知れない。失笑を買い占めるかも知れない。だけど、僕はその結論に納得した。何故納得した。と訊かれれば答える事はできないけど、僕が満足ならそれでいい。

 それと、僕も最近変われた気がする。
 今日の友達の家に遊びに行った帰り道ことだった。町で平野さんを見かけた。
 チンピラに絡まれた、平野さんを。
 今までの僕なら見てみぬふりをしただろう。だけど僕はいつの間にかそこに近づいて行っていた。
 視界に入れられる前に音を消す。
 そしてチンピラの背後から近づいてーーーー

 ガンッ!

 ーーーー鉄パイプを振り下ろす。

 チンピラは気絶せずに頭を押さえる。
 僕はそんな事には目もくれず、平野さんの手を握り走り出す。
 しばらく走ったところで止まる。息が荒くなっているのは僕だけの様だ。

「あ……能野くん……あ、ありがとう」

 いつもの様に明るい感じの無い平野さん。何かもじもじとしている様だが……。
 そこで、平野さんの目線が握りっぱなしの手と手に向いている事がわかる。

 あっ……ご、ごめん……ね。

 弱々しい僕の声と共に手を放す。

 その後も気まずい雰囲気は帰り道の間も続いていた。

 僕は変われた。確かに変われた。が……もう少し変わる事を要される事がわかった。




 プルルルルル。

 アタシのケータイ部屋になり響く。
 安らぎの睡眠が邪魔され思わず「アタシの安らぎの睡眠を邪魔するなぁ!」と叫んでしまう。でも依頼なら受けとかないと……と思いケータイを開く。
 送信者が初めての番号な事に少々の警戒を含みながら応答する。

『やぁ、君がハリック・ジーナか?』

「そうだけど、何か用?」

 平子とは基本的にメールてでやり取りしていた為に平子じゃあ無いなと予想していたがまさか男だとはね。

『君に依頼があってね』

「アタシに? ああ、単刀直入に訊くけどさぁ……それって【表】? それとも【裏】?」

 男は一息置いた後に、

『【裏】だ』

 と言い放った。




 あとがき+説明



平子「私は〜ヒロインなんです〜。戦ってばっかじゃあ無いんです〜」

時雨「おい、何で俺が扱いされてやがる」

影雪「コイツらやる気ねー……」



平子「気を取り直してと……えー、今回の物語は短かったですね」

時雨「ま、ストーリー自体が薄っぺらいからな。作者の文才が無いのが悪い」

影雪「今回の話はハリックジーナがオマエを襲う、戦闘が終わる、疲れた状態の時にチンピラに襲われる」

平子「あのときは音が聞こえなくて…」

時雨「連れ去られて平子の色々な危機の時に能野って奴が助ける。とても格好いいって感じじゃあ無いけどでも平子を助けられた。そして変わる事ができた……こんな感じの章だったな」

平子「質問や意見があったら言って下さい。あ、能力・キャラ募集で応募してくださった方々ありがとうございます。更新の度に読んでくれる方々もありがとうございます」

影雪「そう言えば、リク依頼・相談掲示板で能力の募集を行っている見てーだがそれで新しい事が始まるらしいぞ」

時雨「詳しい事はあっちに書いておくからな。是非応募して欲しい」

平子「次回は……どうしよう。見たいな感じですね」

時雨「更新はできるだけ早くするつもりだ」

影雪「次回も楽しみにしとけよ」