複雑・ファジー小説

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.78 )
日時: 2015/12/31 14:49
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 第6章、がんばれ! かざまくん



 風間司は特殊警察に所属している。
 そして、あの色々な意味でも名高い特殊警察第00部、通称【問題児部】の数少ない一人でもある。
 00部は人格破綻者や特異能力者のみが入部してくるために、そもそもの絶対数が少ない。過去に所属していた火英や時雨が普通と言えばまちがいなく嘘になるだろう。
 現在00部は火麗、風間、残切の三人と言う極めて少人数の為に00部のみでの活動は最近はなかった。
 あるときは、火麗が特殊警察実動部の指揮をとり、あるときは、残切や風間が個人的に動く。そんな感じの内容だったが…。

「今月、新たに二人の部員が入部してくるそうだ。質問は?」

 火麗は隊長と書かれた三角柱が置かれたデスクに肘を着いて両手を合わせている。そしてその火麗の前には灰色の髪の表情筋がえらく欠落していそうな18の青年。彼は高校生だ。と、クロムイエローの金色とは違った金属色を帯びた黄色の髪の明るい印象の17の青年、彼も高校生だ。

 質問を促した少し赤よりのオレンジ色の髪を癖のあるセミロングにした火麗はあの日を境に冷たくなった。あの日、とは言わずと知れた火英の命日である。

 バッと手をあげたのは髪の少し長くなった残切。

「どうした」
「ソイツらは人格すか、それとも能力すか」

 この場合、人格の場合は<人格破綻者>を意味し、能力の場合は<特異能力者>を意味する。
 火麗は少し唸った後にこう説明した。

「二人の内、一人は間違いなく能力。もう一人は……分からない。ってのが現状」

 どちらにしろ頭数が増えればまた00部のみで活動ができる可能性があるのだ。
 その事に対して残切は期待を寄せていた。
 一方風間は、

(手のかかる奴は御免だ)

 どうでも良さそうな感じだ。


「風間先輩」
「どうした」

 残切が風間を呼ぶ。先程までカタカタパソコンをいじっていた風間も残切の声に反応して手を止め振り向く。

「戻って来ないっすね」
「……そうだな」

 誰、と言う主語は抜けているもののそれをわざわざ特定する必要は無かった。

「時雨は、火麗の性格を知っているからな。もしも庇わなければ絶対に火麗はあの少女に対して復讐として殺人を犯しただろう。時雨は火麗の復讐の邪魔をした訳だ。おまけに火麗なら時雨を見かけた瞬間に襲いかかってもおかしくはない。時雨が戻ってくるのはまず火麗の問題を解消してからだ」
「やっぱそうっすか」

 どうやら、まだ火種は燃え尽きてはいない様だった。

 余談たが時雨のくしゃみはこれの影響もあったとか無かったとか。



 そして、2日が経った。
 今日も夏休みで定休日では無かったのでさっさと00部に向かう風間。服装はいつも通りの青制服にモッズコート。それ暑くないのか。と言われてもあまり暑く無いのだから仕方がない。
 00部の部室に入り、自分の出欠札を反転させておく。その時、何かの違和感を感じ少し下がって見る。
 ああ、これか。風間は違和感の正体がわかった様だった。
 出欠札が二つ増えているのだ。
 片方の札には『天澤秋樹』もう片方には……カタカナが詰め込まれた様に『キャロル・シェイキー』と書かれている。風間はこれを見てよく入ったなと感想をのべた。



 それからは、残切が出勤し、火麗が例の二人を連れてきていた。

「しっつれいしまーす。と」
「ししし失礼しましゅ!」

 ……何だろうか。風間は頭を押さえたい気分だった。
 片方の女性。恐らくは『天澤秋樹』読み仮名は知らないが多分そいつだろうと思ったが、もう一人はそう……年齢的には碧子と同じくらいにしか見えない様な少年だった。

「こんにちはっ! 僕はキャロル・シェイキーだよ!」
「わわ私は、ああ天澤秋樹あまさわあきです、よよよろしくお願いしします」

 威勢のいいキャロルと対照的にカチコチになっている秋樹を見て再び頭を人知れず抱えた風間だった。

(俺が、多分唯一の常識人だ)

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.79 )
日時: 2015/12/31 19:28
名前: モンブラン博士 (ID: akJ4B8EN)

波坂さんへ
キャロル登場しましたね。これからどんな活躍をするのか楽しみです!

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.80 )
日時: 2016/01/04 11:15
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 皆さんの投稿したキャラクターを大分登場させる事ができました。
 モンブラン博士さん、キャロル君にはあんな事(笑)やこんな事(意味深)をしてもらう予定です。

 続きです。




 今、風間は特殊警察の中を歩いている。金属製の床が靴とぶつかり、コッコッと音色が一定のペースで室内に響く。
 いや、その音色はひとつではない。
 コツコツと控えめな音色とカツンカツンという無遠慮な音色も混じっていた。
 片や、緊張でガチガチになり右手と右足が同時に出ている事にすら気づいていない天澤。
 片や、実年齢何歳だよと聞きたくなる様な容姿をしたキャロル。

(キャロルに至っては制服すら着ていない……と言うか何歳だ)
「ねー風間さん」

 無邪気な声で風間の名を呼ぶキャロル。風間は振り返らずに、どうした。と返す。

「今何処に向かってるの?」

 実演室。とだけ答える風間。彼は緊張で口数が少なくなっている訳ではなく、単純に彼自身が無口なだけである。
 その無口な彼は頭の隅で先程までの火麗との会話を思い出していた。



「俺が、奴等の指導を」

 今現在風間の目の前に存在する人物は言わずと知れた00部部長桟橋火麗である。今は足を組んでフリーな姿勢だ。

「そうだ。風間があの二人の指導をしてくれ」

 首を回した火麗の視線の延長線上には机を開けたり閉めたりしているキャロルと緊張して背筋を伸ばしたまま椅子に座り硬直している天澤の姿があった。

 ーー冗談じゃない。止めてくれ。

 風間はこう思うものの事実自分がしなければならない事も理解していた。
 恐らく火麗では天澤がもたない。
 残切では二人がジャンクフード見たくなってしまう恐れがある。
 そして少人数極まったこの00部で残りは風間しかいなかったのだ。
 風間は決して面倒事が好きではない。風間は暇な時間が好きなのだ。
 だがしかし、結局やらねばならない時もある。
 こうして風間は二人の指導員になった。


「ん、着いたな」

 風間は実演室の目の前ドアに立った事を認識し、先程までの考え事を脳細胞から消去する。
 風間は自分のコートから一枚のカードを取りだし、ドアの横にある口にさしこむ。

『コード読み取り……完了。第00部。風間司のパスを確認。指紋認証をしてください』

 機械声が指令をした通りに指を押し付ける風間。

『指紋読み取り……完了。第00部。風間司の指紋を確認。ドアを開きます』

 鉄のドアがゆっくりと右と左に別れて通路が出てくる。後ろの二人が少々驚いている様だが風間はどこ吹く風といった感じでさっさと歩いていく。二人は慌ててついていった。


「まず、お前たちの能力について説明してもらおう。まずキャロルからだ」

 風間の声が白一色の立方体の様な作りをした部屋に響く。
 ここは実演室。要するに、暴れる事ができる部屋だ。ここではどれだけ暴れてもまず外に被害は出ない。……一度時雨が壁にクレーターを作った事があるが。

「オッケー。じゃあいっくよー!」

 次の瞬間、キャロルの手のひら中心に風が収束される。

 ビュオォォォ!

 そしてそれは束となり、回転を帯びーーーー竜巻となる。

「そーれっ! ハハハハハ!」

 無邪気な声をあげながらその竜巻を壁に向かって放った。その竜巻は唸りり、壁に激突してゴォォォ! と悲鳴を連続してあげる。

「それで終わりか?」

 だが風間のそれだけか? と言う目線と問いに一瞬目を見開くキャロル。だがすぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべ。

「これはどうかなっ!」

 再び空気が集められる。その束は今度はキャロルの足下から発達しーーーーキャロルを空に浮かべた。

 きっとキャロルは愉快に素敵に「ハハハハハハ!」と高笑いしているだろうがビュオォォォ! と風切り音が煩くて聞こえない。
 と、言うより風間からすればもっとヤバイ問題があった。
 キャロルのすぐ近くには、天澤が立っていた。そして、今天澤は腰を抜かして尻餅をついている。天澤が奇跡的に竜巻に巻き込まれていなかったがどちらにせよ危機的状況には変わりない。

「キャロル、他人を巻き込む位ならもっと小さな竜巻にしたらどうだ」

 風間が天澤の前に庇う様にして立つ。天澤の顔は驚愕に包まれている。

「かっ、風間さん危ないです!」
「案ずるな」

 天澤は自分の能力を発動させ、風間の十秒先の未来を見ようとした。
 それと同時にキィィィン! と耳を突く様な音が発生し、再び天澤の表情に驚愕が上塗りされる。

(何で風間さんの【先】が観えないの!)

 天澤は風間が竜巻の餌食になる事を想像して目を瞑る。
 そして、風間が竜巻に触れーー

 キィィィン!

 ーー跡形も無く、竜巻は分散した。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.81 )
日時: 2016/01/01 00:22
名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)

新年あけましておめでとうございます。そして、秋樹を採用していただきありがとうございます!

すっかりイメージ通りで、予想以上に可愛くて安心しました。w

これからも更新頑張ってください(´ω`*)

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.82 )
日時: 2016/01/01 11:12
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 新年あけおめことよろ(殴 \_(`^´)

 新年明けましておめでとう御座います。今年もよろしくお願い致します。
 雪兎さんへ
 秋樹ちゃんめちゃくちゃ可愛いです。
 続きです。



 いつまでも何も起こらない事を不思議に思った天澤は恐る恐る目を開く。
 そこにあったのは、半透明の空気ミキサーでは無くコートを羽織りそれのポケットに手を突っ込んだまま立っている一人の青年だった。
 天澤は何があったかはわからないが、ひとつだけなら確かに分かった事があった。
 それは風間が自分を救った。と言う事だった。

「大丈夫か」

 突然かけられたそのぶっきらぼうな問いに天澤はえ、あ、その……、等しか返せない。
 はぁ…と溜め息をついて振り返り風間は天澤に手を伸ばす。

「怪我等は無いかと訊いている」
「は、はい! 大丈夫ですっ! ……えと…」

 天澤は風間が手を伸ばしている事について疑問に思う。
 それを感ずいたのか風間は口に出す。

「起き上がるのに、手助けが必要だろう」

 その言葉に「はわわっ! すいません!」と返して手を握る天澤。風間は特に力を入れた様子も無く天澤を立ち上がらせる。

「あ…ありがとうございます……ふふっ」

 天澤の柔らかい微笑みに対して風間は怪訝な怪しみの目線を送る。
 ーー天澤はなぜ急に笑ったんだろうか。
 風間の感想はこれだった。
 そんな風間の視線に気付いたのか天澤は手を振って「いや、えっと……違うんです。ただ…」

 この時風間からすれば、何に対して違うと言っているんだ? と気にならざるをえなかったがそれよりも、

「ただ、何だ?」

 こっちの方が気になっていた。
 慌てた表情からまた柔らかな微笑みに表情を変えた天澤はこう言った。

「いえ、風間さんって以外と優しいんだなぁ……って」
「できれば、それ以前の俺の印象もお聞かせ願いたいものだ」

 こんな事を言うが実際は照れ隠しをしているだけである。もっとも表情筋に変化がみられない為に相手にはわからず当然天澤にもわからないが。

「風間セーンパイ。酷いですよー」

 上から小さな竜巻に乗って降りてきたキャロルがそんな事を口走る。
 風間としてはお前の自業自得だ。ついでに言うなら最初からそのサイズで飛べ。だの言いたい事は色々あったが、

「その事については謝罪する。だがなキャロル、特殊警察は集団だ。他人との連携が必要になってくる。お前の能力ちからは確かに強力だ。だが味方を巻き込む位なら能力を使うな。能力ちからは時に人を繋ぐ能力はしになり、時に人に恵みをもたらす能力あめになり、時に人を守る能力かべになる。だがな、使い方を謝れば時に人を惑わす能力どくになり、時に人を傷付け殺す能力ぶきにもなる事を忘れるな。それを理解しない奴が特殊警察で能力ちからを使う事を俺は認めない」
「……ちぇーっ。わかりまーしたっ」

 風間の説教にうんざりした様に返事をし、明後日の方を向くキャロル。心にはまだ悪戯心がごうごうと燃え盛っているが。

「次は天澤。お前の番だ」
「はいっ!」

 天澤は頭痛が起こらないギリギリの15秒先の未来を観る。
 大体の場合は一秒程の映像が頭に入ってくる。今回もそうだが……何処か不審な点があった。
 白いモヤに包まれた人型の何かが映像にあったのだ。後からわかるがこれは風間だ。
 それは兎に角。最も天澤が驚いたのは、

 ーー何で私が抱きしめられてるんですかっ!

 その白いモヤに包まれた人型の何かに自分が抱き止められているではないか。
 因みにこの時天澤は動揺しすぎで風間からキィィィン! と聞き慣れた能力を無効化する音が響いていた事にすら気付かなかった。

「はっはわわ!」

 顔を朱に染めて口をパクパクと開閉させる天澤。それを見た風間と天澤の、おいどうした。なな何でも無いですっ! それは何にも無かった奴のセリフではないだろう。というやり取りの中、キャロルは笑いを堪えながら能力を使っていた。
 天澤の右足の裏から不自然な圧力が、小さな竜巻が発生し、天澤の右足を押し上げバランスを崩す。

「きゃあっ!」

 そのまま前のめりに天澤が転倒しそうになった時、

 ポフッと風間が天澤を受け止める。その行為は……端から見れば抱き締めると言う行為だ。

「きゃ、きゃわわわわ! ごごごごごめんなさい!」
「ハハハハハ! ハハハハハハ!」

 天澤の悲鳴(?)とキャロルの笑い声が白一色の部屋に反響して嫌と言うほど鼓膜を打ち鳴らす。
 一方風間は天澤の150辺りの身長としては大きい豊満な胸の感触と水色の髪から涌き出るいい香りを堪能している訳でも無く、こう考えていた。

(……天澤の肉体には筋肉があまりついてはいない。日常生活では不満がなさそうだが非力なタイプだ。別に性格が悪いと言うほどではない。少々気を遣いすぎだが……。と言うことは能力が特異なんだろう。俺が先程何もしていない上で能力を無効化した事から物理的なものでは念動系か空気操作、もしくは精神干渉やハック/ステクチャもあり得る。案外平野の様な規格外の可能性もあるな)



「お前達……入部初日で問題行動とはどういう事だ」
「ア、ハハハハ……」
「ごごごめんなさいっ!」

 明らかにイライラとした態度で一定のリズムでカツカツカツとデスクを指先で叩く火麗の前には新入部員である二人。
 あの後、監視カメラに天澤の恥態が写っていた為に00部の隊長である火麗が上層部から注意を受けたのだ。注意のみで済むのは良くも悪くも【問題児部】だからである。

「風間。お前まで何をしている」
「俺は、ただ天澤を受け止めただけだ。この二人が必要以上に叫んだから監視カメラの破壊が間に合わなかっただけだ」
「反省しろっ!」

 火麗が空気摩擦で作った火球を風間にぶつける。端から見ている二人は驚愕するが、風間に当たった瞬間にキィィィン! と音が鳴り火球が打ち消される。

「ともかくっ! これ以上私に手間をかけさせるなっ!」

 それ職務放棄だろう。と風間は口が裂けても言えなかった。


 天澤さんの髪型を教えて欲しいです。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.83 )
日時: 2016/01/01 17:57
名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)

了解しました!えっと、ここでいいのかな……?

秋樹は肩くらいまでのストレートで、前髪はおろしてます。寝起きでもスッと通って、柔らかく手触りがいい感じです。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.84 )
日時: 2016/01/01 19:41
名前: モンブラン博士 (ID: akJ4B8EN)

波坂さんへ
キャロルのいたずらが可愛くて吹き出した私がいます。
彼のいたずら心が今後どのように発揮されるのかわくわくしながら
続きを楽しみにしています。
遅れましたがあけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.85 )
日時: 2016/01/02 09:22
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 ざっくり言って火麗が職務放棄した後だった。
 風間は、はて二人をどうしたものかと考えている。ついでに言うなら俺の開けてないコーラを振るなキャロルとも考えていた。
 そう言えば、と風間は思い出した様にデスクから数枚の紙が纏められた資料を取り出す。そこにはキャロルのプロフィール等が纏められていた。
 取り合えずキャロルからコーラを奪い窓の外に向かって栓を開けて室内に飛び散るのを防ぐ風間。しかしそれは外に飛び散っているのでどちらかと言えば迷惑行為であった。
 下から色々と聞こえるも今日の天気もどうでもいいなぁ等を考えつつも華麗に無視を決め込む。コーラが吹き出し終わったらとっとと窓を閉めた。

 キャロル・シェイキー。13歳の現在中1。能力は[竜巻を操る能力]。竜巻を作り出し、その作った竜巻を操作する能力である。その竜巻自体の破壊力はもちろんの事、竜巻に乗って飛ぶ事もできる能力だ。
 写真にはふわふわとしたオレンジ色の髪と大きな目でどっかの漫画みたいな容姿をしたキャロルがダボッダボの青制服を着ている。どうやらキャロルに合う男用の制服が無かったらしい。

 ーーそれは置いておくとしても多少性格に難ありだな。

 後は特に目立つ所はない。身長は中1だが低い部類だろう。体重……は30~40辺りだろうか。そして血液型はB型。

 ーーこいつはどう使ったものかな。

 キャロルから一旦視点を外した風間は今度は別の資料を取り出す。

「天澤秋樹……現在17歳。つまり高2か高3だな。背丈は153cm。体重は……先程の出来事で大体は把握した。血液型はAB型。
 わからないのは能力だ」

 風間がパラリパラリとページを重ねていく。そこで目に留まるものがあった。

「天澤秋樹の能力についてか。こんな記述があると言う事は何かあるのか?」

 風間は黙って読み進める。

 [未来を観る能力]文字通り未来を観る能力。具体的には目を瞑り、対象者、もしくは自身の未来を観る。15秒までがダメージ無く観る事ができる範囲。それ以上は頭痛が襲いかかりそれは遠い程強くなる。
 そしてそれとは別に【危険予知】と言うものがあり、彼女に何か重大な事がある場合は自動的に能力が発動して彼女に危険を察知させる。ただしそれには強烈な頭痛が伴う。

「……随分とリスキーな能力だ。ハイリスク、ハイリターンな能力だからこそこの00部に所属したんだろう」



 ジリリリリリ!

 まさか入部初日に来るとは時雨以来の偶然だな。とか、かわいそうな奴らだ。等と考えながら風間は受話器を取る。

『大至急応援を頼む。現在テログループによるテロが行われている。相手は能力者達によって構成されたテログループの様だ』
「了解。座標は」
『E-7だ』

 E-7と言えば時雨の初仕事の場だったなと思いつつも「至急応援に向かう」といって受話器を置いた。

「さぁ、初仕事だ」



 5人は改造パトカーに乗りE-7へと走り出す。が、不意に通信機から男の声が発生した。

『どうやら3つに分裂した様だ。1つのグループに我々は足止めされているのでD-7とE-8のテログループを止めて欲しい』

「……私は残切とD-7に向かう。お前たちはE-8へ行け……風間」
「わかっている。精々、死なない様に努力するさ」
 パトカーの荷台から白バイを取りだし、火麗がバイクにまたがり残切がサイドカーに乗り走り出す。
 それを追いかける様に三人はE-8へ向かって行った。



「あれか」

 戦車等と言う物騒なものまで取り寄せていたテロリストの用意の良さに感嘆をもらしつつも風間は命令を下す。

「キャロル、竜巻で戦車を吹き飛ばせるか?」
「うーん……やって見ないとわからないや」

 風間は溜め息をつくこともなく、
 アクセルを全開にして走り出す。

「飛ばせ。きっとできる筈だ」

 そして風間が戦車に接近きた時にこちらに気が付いた周りの車が射撃をしてくる。
 風間のパトカーは何発かは披弾しているが全くと言っていい程傷がない。こちとら違法改造した対砲弾パトカーだ。風間はそのまま戦車に突っ込む。

「キャロル!」
「そおれぇっ!」

 ゴオォォォ!

 風が戦車に、正確には戦車の下に集まり収束される。そして、竜巻を作り出される。
 その竜巻は、戦車を持ち上げるどころか吹き飛ばしてしまう。

 グシャァン!

戦車は180度入れ替わった状態で地面に激突したために使い物にならなくなる。
 蜘蛛の子の様に戦車から人が飛び出す。普通ならそいつらは逃げる筈だ。が、そいつらに物怖じした様子は無い。
 それは能力と言う自信だ。自分の能力が負ける筈が無いと本気で思っているのだ。
 風間達は降りずにそのまま戦車の周囲を走っていた車を攻撃する。降りたところで車から挽き殺されるなんて目も当てられない事態を避ける為でもある。

「風間さんっ! 今すぐハンドルを右に切って下さいっ!」

 一瞬戸惑う風間だが彼女の能力を思い出してハンドルを右に切る。

 次の瞬間、

 ドゴォン! バガァン! ドガァン!

 そして先程のコースなら風間達が走っていたであろう場所に数個のクレーターが発生しアスファルトが悲鳴をあげた。どうやら念動磁場砲弾やら空気圧縮砲弾等の不可視の攻撃を放っているらしい。
 このままでは拉致が開かない為に風間が相手の車に突撃を仕掛ける。改造パトカーは敵の車を破壊する。
 だが敵だってテロリストだ。黙ってやられる訳も無く能力による攻撃を連発している。

「風間さんブレーキ!」

 天澤の焦った声を耳に入れた風間はアクセルを離しブレーキを最大まで入れた上でハンドルを少し右に切った後左に大幅に切りドリフトをする様な姿勢になる。

 キィィィ! 中に合成樹脂が詰め込まれた重量者用のタイヤと少しひび割れた蜘蛛の巣が入ったアスファルトがお互いの摩擦力によってパトカーの慣性を消し去ろうと悲鳴をあげる。後ろで二人は耳を押さえるが風間にそんな余裕は無い。

 そして風間達の目の前で再び小規模な爆発と質の悪いパーティークラッカーの音が鼓膜を揺らす。

「きゃああああっ!」

 天澤の悲鳴がパトカーの中に木霊するが風間はそれを無視した上でキャロルに命令を出す。

「キャロル、全てランダムでいい。ありったけの竜巻を作れ」
「……でもそれじゃあボク達まで…」
「俺の能力は[能力を無効化する能力]だ。お前の竜巻も例外では無い」

 その後少々やり取りを重ねキャロルは了解する。

「じゃあ……いっくよー!」

 この日、E-8では大規模な想定外の気候となった。


 雪兎さんありがとうございます。
 肩までのストレートで柔らかい髪質ですね。

 モンブラン博士さん感想ありがとうございます。
 キャロル君にはこれからも色々な事(意味深)で頑張ってもらう予定ですので楽しみにしていてくださいww。
 それとキャロルの能力の方を少々変更しました。理由はリク版の方に書いておきますね。
 波坂でした。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.86 )
日時: 2016/01/02 23:15
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 ゴォォォォ!

 視界がブラックアウトする程の竜巻が辺り一帯を埋め尽くす。
 現在キャロルの能力の影響により竜巻が辺り構わず大量発生している。風間達はパトカーから降りて固まっていた。
 具体的にはキャロルが風間の背中にしがみつき、風間が両手で天澤を離さないようにしている状態だ。使用者自身すら吹き飛ばされそうな風の中を風間が立っていられるのは風間が[能力を無効化する能力]と言う類い稀なる能力を所持している為だ。

「風間センパ…イ。そろそろ限界だよっ」

 苦しそうな声をあげるキャロル。そもそもこんなに暴走したかの如く能力を乱用していれば能力にとってバッテリーとも言える代物の創造力が尽きてしまってもおかしくない。

「後三秒間でいい。それまで続けてくれ」
「りょう…かい」

 天澤はずっと黙っている。
 と、言うより風間が悲鳴をあげない様に自分の胸に天澤の顔を押し付けていた。
 自分で自分の悲鳴を聞くことでさらに恐怖心を募らせる場合があるためにこうして悲鳴をあげられない様にしているのだ。

 ゴォォ……ビュゥゥ……。

 急に風が弱くなり、ブラックアウトしていた視界が鮮明になる。風間が少し視線をずらすとキャロルが首をカクンとして気絶している様だった。
 創造力の枯渇は想像力の枯渇。想像力の枯渇は集中力の枯渇。ましてや精神的にーーキャロルは精神年齢は見た目よりも上だがーーまだ弱い年頃だ。創造力を作る根本は精神に依存しているのだ。キャロルが気絶したのは別に不思議と言う訳ではない。

 が、キャロルの置き土産は壮大な被害をもたらしていた。
 テログループの車は転倒したり壁に激突したりくの字に折れ曲がっていたりもする。多少発火した痕跡があるがあの竜巻達によってかき消されたのだろう。但し関係の無い建物まで巻き込んでいるが避難指示は出ていたはずだからきっと大丈夫だろう。
 天澤をさっと離した所で風間は周囲を確認する。テログループは壁に打ち付けられていたり地面に倒れていたりしている。だが何人かは空の彼方へバイバイキンしてしまっただろう。
 彼等は防護用のプロテクターを着込んでいた為に死にはしていないだろうと思うが仮に死んだとしてもそれは自業自得であり決して特殊警察及びキャロルが悪い事にはならないはずだ。
 と、言う訳で風間は火麗に連絡を入れるーーーー前に天澤を狙って飛んできた念動磁場砲をケータイを持っていた右手とは反対の手で軽く触れる。キィィィン! と言う耳をつんざく音と共に砲弾の延長線上にいた男が驚愕の表情を浮かべる。
 が、それも一瞬でヘルメットを何処かへ吹き飛ばされてしまった男は念動磁場砲を風間に仕向ける。

「学習しないのか?」

 が、その不可視であるはずの砲弾を風間は明らかにわかっている様に防御する。

「な、何故不可視の砲弾を……」
「風、そして砂埃だ」

 先程までの竜巻によって砂やコンクリート粉等のものが飛び交っている。ここに念動磁場砲を撃ち込む。すると念動磁場砲はその砂埃等を押し出しながら進む為に位置が特定できるのだ。
 そして、これも竜巻の影響だが風がほとんど無くなっている今現在に空気すらも押し出す念動磁場砲が近付けば自然と風が発生する。明らかに流動の違う空気は風の無い今は非常に目立つ。
 この二つにより風間は不可視の攻撃である念動磁場砲を把握、無効化していた。

「クッ! だったら」
「彼は六秒後に風間さんの背後3方向から念動磁場砲を撃ち出す様です」

 風間のすぐ近くで目を閉じた天澤が静かに言う。
 その声を聞いた相手は何かを呟きながら顔を驚愕の表情に染め直す。
 風間が彼女の方を見ると、彼女はそれに気付いたかの様に顔を風間に向けてニコリと微笑む。

「お前の攻撃は全て俺によって無効化され、お前の行動はある程度天澤が把握する。これでもまだやるほどお前は諦めが悪いのか?」

 驚愕に顔を染め上げたまま懐から銃を地面に落とした相手が取った行動は手を挙げる(ホールドアップ)だった。



「お前達聞いたか? 今日空から武装した人間が降ってくると言う出来事があったらしいぞ」
「ふ、ふーん。たいちょーよくご存じで」

 ーー絶対俺達がやった、と言うかキャロルが俺の命令の元やった事だな。



 あの後、キャロルが風間の命令でやったと暴露した事により風間が火麗からぶん殴られる等と言う茶番はあったもののキャロルと天澤の初仕事は無事完了した様だった。



「これは興味深い」

 とある組織のアジトで一人の男が漏らした言葉だった。その男の前には大画面のディスプレイが存在し、映し出されているのは上から見た風間や天澤。
 この男は風間にも興味を持つが、念動磁場砲を把握、無効化している事から高位の念動能力者と判断を下していた。
 そしてその男が、更に興味を持ったのは風間の隣にいる天澤。
 中でも男が興味を持ったのはこの発言だった。

『彼は六秒後に風間さんの背後3方向から念動磁場砲を撃ち出す様です』

 そして男はその直後の相手の男の顔を拡大する。明らかな動揺の表情が映し出されていた。

「どうやら精神干渉能力者の様だな……実に我がドッグ・ヘッド・アリゲイターに引き取りたいものだ。いや……引き取るか」

 男はディスプレイの画面に映っている防犯カメラの映像を消し、代わりにパソコンのデスクトップの様なものが写し出される。

「国民検索エンジンハック、検索、天澤」

 その声を音声検索機能が読み取り、命令通りに国家データパンクにハックを仕掛け国民データを検索、そして関連のあるデータをダウンロードし、履歴を削除。そしてダウンロードしたデータをディスプレイに映し出す。

「こいつじゃ無い。これも違う」

 次々とデータをゴミ箱に入れていく。

「これも違う。これは……そうだこれだ」

 男はそれ以外のデータを全て消去し、残ったデータを読む。

「本名天澤秋樹、年齢現在17。現在兄と二人暮らし。特殊警察第00部に所属。これは厄介だな……。能力は……プロテクト? 何故こんなものが。
 プロテクト解読、解除スタート」

 もの凄いスピードで警告が現れ消えを繰り返す。何度もウインドウが開いたり閉じたりを繰り返し、遂にピタリと止む。

「はて能力は……」

 プロテクトの外れた天澤の能力を見た瞬間、男は「ほう」といいケータイに手をかける。

「もしもし、俺だ。早速だが天澤秋樹と言う能力者を引き入れる事にした。……何? 能力を聞かせろ? いいだろう。天澤秋樹の能力はーー」

 風間達の知らないところで事態は加速して行くーー。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.87 )
日時: 2016/01/03 10:19
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 天澤秋樹はお人好しだ。
 時雨の様な意味とは違った方向でお人好しだ。
 だからだろうか。路地裏に倒れている人間がいるのを見た彼女がそこに駆け寄ったのは。

「だ、大丈夫です…か?」

 恐る恐る声をかける天澤。だが倒れている見知らぬ人物は返事を寄越さない。
 天澤は緊急と判断したか、すぐさまケータイから風間の番号を呼び出す。彼女は特殊警察関連の個人電話番号を風間の番号しか知らなかった為だった。

 プルルルル。プルルルル。

 変に静かな夜の路地裏にその音は反響する。が、その音がなりやんだのは5コール目が終わろうとしていた頃だった。

『天澤か、どうした』
「風間さん、すいま

 そこまで言って、不意に天澤が言葉を止める。いや、止めざるを得なかった。
 天澤は現在先程まで倒れていた人間に口を塞がれ腕を拘束された状態となっている。
 そしてその人物は口を塞ぐ手にハンカチを巻き込んでいる。無論、ただのハンカチでは無いが。
 ガシャン。ケータイが天澤の手元から溢れ落ちる。タブレット端末のケータイはアスファルトに重力によって叩きつけられ蜘蛛の巣の様に液晶画面にひびが入る。
 それと同時に天澤は体の力が抜け、崩れ落ちる様になる。その茶色の瞳は目蓋に塞がれて外からは見えなくなっている。

『天澤? おい天澤どうした』

 電話からは風間の声が聞こえる。が、その人間はそんな事には興味も示さずにさっさと天澤を担ぎ路地裏を出て行った。




「……ここか」

 風間が現在立っている場所は昨日の早朝に天澤のひび割れたケータイが見つかった場所だ。昨日の早朝に見つかったと言う事は二日前の夜に起こった出来事だと言う事が推測されている。
 現在、特殊警察は風間の通話内容と天澤秋樹の兄である天澤春樹あまさわはるきの捜索願いから天澤秋樹誘拐として捜索を続けている。
 既にここは特殊警察の第01部が調べあげていた場所だ。今更行く場所でも無いように思えるが彼の右脇に控えている人物の力を借りればまだ可能性は残っていた。

「……風間、証拠品」
「これだ青星」

 風間は01部からくすねてきた証拠品である天澤のケータイを取りだし青星葉月あおぼしはづきに渡す。それを右手で受け取った青星はそのままそれをオールバックであるために露出している額に押し付けその深い藍色の瞳を閉じる。
 青星葉月、特殊警察第05部の事務員だ。基本的には会計等を担当している為に制服も青ではない。(今は私服を着ているが)藍色の長い髪をオールバックにし、それをサイドテールにして残りを三つ編みにしている非対称ながらもどこかバランスの釣り合う特徴的な髪型をした160とそこそこの身長である風間のクラスメイトだ。
 彼女の行っている行為は彼女の能力に必要な挙動だ。その名も[過去を知覚する能力]。対象物を額に押し付け目を閉じる事でその対象物の一週間前から今までの事を知覚する能力だ。今回はある程度までは絞られているからいいものの、実際一週間前から今までの全ての過去を知覚すれば頭がオーバーヒートを起こしてしまう。実際に元々01部で捜査員だった青星が05部に所属しているのは一度オーバーヒートして危うく障害が発生しかけたと言う事故があったからだ。

「……人間、水色髪女子、拘束、薬品、気絶、誘拐、逃走」
「人間が水色の髪の女子を拘束して薬品を入れて気絶させてから誘拐して逃走した。これで合ってるか?」

 青星は何も言わずにコクリと頷く。

「結論、彼女、誘拐、薬品、使用、事から、彼女、自体、目的」
「結論、彼女の誘拐には薬品が使用された事から彼女自体が目的だった」
「彼女、能力、私、未知、風間、情報、提供」
「彼女の能力を私は知らない。風間、情報を提供しろ。
 分かった。但し、色々と言いふらすなよ。今回の事で天澤の能力に対する情報網が強化されたからな」

 そして風間は天澤の能力を教える。限界から頭痛まで全てを。
 それを聞いた青星は無表情の顔の瞳をほんの少し見開く。そして続けざまに喋る。

「彼女、私、能力、微妙、類似、比較、彼女、能力、方、有益、何故、回答、過去、未来、知覚、利益、格差」
「彼女と私の能力は微妙に類似している。だが比較すると彼女の能力の方が有益。何故かと言えば答えは過去と未来を知覚する事には利益に格差がある」
「同類、特殊警察、彼女、標的、仕方、無、彼女、能力、強力」
「同類である特殊警察の中でも彼女が標的にされたのは仕方の無い。彼女の能力は強力だからだ。それは俺も理解している」

 コクリ。と頷いた後に青星は風間の右耳に顔を近づけ、こう耳打ちする。

「風間が特殊警察(私達)の切りジョーカー

 珍しく文章として発声したと思えば彼女はどこかへ去って行った。

「相変わらず、何を考えているのかわからないな。記憶の追跡者メモリー・ストーカー

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.88 )
日時: 2016/01/04 11:33
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

「00部の精鋭様がこんなメカメカとした場所に何の用だ?」

 マグカップにコーヒーを注ぎながら御手洗隆治みたらいりゅうじは適当な椅子に腰掛けている風間に問い掛けた。
 風間の座っている周りには個人で扱うには多すぎる程のコンピューターが置かれていてまさしく『メカメカした感じ』だった。

「少し頼み事があってな」
「頼み事?」

 コーヒーを風間に渡しつつ御手洗が聞き返す。風間は「ああ」と短く返事をする。

「入手してもらいたい情報がある」

 何故風間がこんな事を頼んでいるかと言うと、目の前にいる風間のクラスメイトの御手洗は所謂凄腕ハッカーなのだ。
 彼は知識は勿論の事、[電子を操作する能力]と言う能力を持っている。何故操る能力では無いかと言うと、操作できる電気の量がお話しにならない程少ないからだ。
 彼はその少ない電気の操作を有効活用しようとタブレットから電子を直接操りハッキングすると言う荒業をこなす人物だ。

「……言ってみろ」
「監視カメラの二日前の21時から22時までのこの辺りの映像と、コイツらの親玉の情報だ」

 風間が何枚かの写真を取り出す。
 一枚目は、男たちが写っている。二枚目には女たちが写っている。この二枚の写真に写っているのは先日のテログループの連中だ。
 そして三枚目の写真に写っているのは赤紫色の髪を横分けにした六角形のピアスを付けた男ーーーー富柄純である。

「分かった」

 御手洗は風間から顔を背けたと思いきやタブレットのキーボードに触れる。
 タブレットが唸りを上げて演算を開始する。ウインドウが次々と開き、閉じを繰り返す。
 何度かパスワード入力画面が出てくるものの御手洗はそれを構築する電子を一時的に崩壊させて無理矢理通る。言わば何層ものコンクリートの壁を戦車が破壊しながら通過する様なものだ。

 少し経つと御手洗が「ほらよ」と言いハードディスクを投げつけてくる。

「今焼いた監視カメラの映像だ」

 それに対して風間は少し礼をした後に、ディスク? レトロだな。それがいいんだろ。そういうものか。とやり取りを重ねた。

「じゃあ、頼むぞ」
「了解」

 風間が部屋から出ていく。

「さてと」

 デスクからカフェイン錠剤の詰まっている。いや詰まっていたボトルを取り出す。
 内容量が五割を下回ったボトルからカフェイン錠剤を五粒程取り出してバリバリと噛み砕く御手洗。呆けた様な目付きが鋭くなる。

「やるとするか」



 風間が監視カメラの映像をチエックしていた時の事。
 天澤秋樹は目を覚ましていた。

(あ、ごはん作らないと…)

 彼女はいつも通りに布団から起き上がろうとする。が、違和感に気が付く。
 彼女の体勢は椅子に腰かける様な体勢になっていた。

(ん、私ったら椅子で寝てたんですか…)

 今度は椅子から起き上がろうとしてーーーー起き上がる事はできなかった。
 天澤は今更ながらに手足や胴体に締め付ける感触がある事に気が付き目線を自分の体に落とす。
 体には何本ものベルトが巻き付いており、そのベルトは木材でできた椅子に巻き付いていた。蜘蛛の巣にかかった様に天澤は身動きがとれなくなっている。

「目が覚めたか」

 一人の男が、天澤の前に立っていた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.89 )
日時: 2016/01/05 08:42
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

「だ、誰……ですか」
「色々と迷うが答えるのは難しく無い。我が名は三木共和みきともかず。ドッグ・ヘッド・アリゲイターの中央エリア支部長だ」

 黄緑色の髪の男は一言で言うなら『奇怪』だった。
 得体の知れない何かがある様な気がする。そんな感じの感情が何処からか涌き出る様だった。
 椅子の近くまで来た男は天澤と目線を合わせる様に座る。

「単刀直入に聞く。我々の仲間になれ天澤秋樹。そして[未来を観る能力]をもつ能力者よ」

 そこまで自分の事が知られている事に天澤は驚愕の顔を浮かばせずにはいられない。

「い、嫌…です。貴方は多分ですけど…悪い人だと思い…ます。あ、あのっ! 間違ってたらごめんなさい!」

 拒否したかと思えば急に謝り出す天澤に対して三木は「ほう」と唸りを上げた。

「いかにも、テログループは世間体は良くない」
「テ、テロ!?」

 天澤は驚いた様に体を動かして椅子が、ガタンと音を立てた。

「さて、もう一度訊くぞ。我が仲間となるか? 天澤秋樹。今なら悪い様には扱わない事を約束しようではないか」

 天澤はしばらく黙った後、

「嫌で…す。テログループの人達は悪い人じゃないかも…知れませんけど、……ぼ、暴力に頼るの…は、間違って…ます!」

 震える声で力強く拒否を表す。
 三木は「そうか」と行った後に天澤の額に人差し指を置き、

「だったら無理矢理にでもさせてもらおう」

 何をするん。そこまで言いかけた時、天澤が糸の切れた人形や電池の切れたロボットの様にカクリと意識を失った。
 だがすぐに意識を取り戻す。

 ーーーー否、戻ってきた意識は天澤であって天澤でないもの。

 その虚ろげな光を失った茶色の瞳の天澤は所謂マインドコントロール状態だった。
 精神干渉、精神操作、精神命令。
 それを指す単語はいくつもあれど天澤が受けたのは精神干渉による攻撃だ。
 現在の天澤は主人格を無意識の奥底に沈められ、無意識に特定人物の命令を聞いてしまう無意識状態である。
 そしてその精神干渉を行った三木はその特定人物に自分を書き加えていた。

「もう一度訊く。我々の仲間となるがいい。天澤秋樹よ」

 ただただ虚ろげな光を失った瞳で一点を見続ける無意識の天澤は、

「はい」

 とだけ無機質で気遣いの感じられない声色で言う。
 三木はその言葉を聞き、口元を三日月に歪めた。




「…………」

 風間はあの後、一人でずっと監視カメラの映像を見続けていた。
 そして風間が特に見ているシーンがあった。
 映像の中では、天澤を気絶させた男が路地裏を出ている。風間は監視カメラを切り替えて男を追うが次の瞬間にはいなくなっていた。

 ーーーー瞬間移動能力者テレポーターか?

 一瞬そんな考えが頭を横切った事に自分でバカかと思う風間。

 瞬間移動能力者、テレポーター。
 上の能力者は物体を別座標に飛ばす力を持っている。触れている物体、認識した物体、自分のみ。その制限の種類は能力の数だけ存在している。
 だが、テレポーターは能力を使わない。否、使えないのだ。
 答えは簡単だ。
 自分の全てを飛ばせない事が多いから、具体的には腕のみをテレポートさせてしまい腕が無くなるとか、全身をテレポートしたら足が移動しておらず足が無くなるとか。
 勿論全身を飛ばせる能力者も存在する。が、それができるものは今度は出現する場所を間違える事が多い。
 例えば、地面にテレポートしてアスファルトの下に埋まってしまい窒息とか、ビルのコンクリートにテレポートして抜けないどころかビルの重量に押し潰されてしまったり。
 兎に角、例えるなら[瞬間移動する能力]を持つ能力者の内、それを使いこなせるのは1/100以下なのだ。

 仮にテレポーターならば強敵となるが、それ以外の能力だとすればなんだろうか。風間はそれを考えていた。

(光操作で光学迷彩? いや天澤を抱えた状態では難しいだろう。
 ステクチャ能力で自分と天澤に透明属性でも付けた?)

 しかし疑問はいつになっても分からない。監視カメラで分かった事は既に記憶の追跡者こと青星葉月によって導かれた回答の答えだけだ。勿論正解だったため実質何も分かっていない。

 風間はその日犯人の尻尾すら掴む事はできなかった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.90 )
日時: 2016/01/08 22:25
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

「よくもまあ、こんな所に住めるものだ」
「安心しろ。自分でも腐ってると自覚はある」

 ーーそれを聞いて安心できないのは俺だけだろうか。

 風間は頭を抱える。
 現在風間はメカメカとした部屋の御手洗の部屋にいる。
 今日風間は特殊警察が非番休日だったのだが御手洗から連絡が入った為にここにいるのだ。

「で、情報は?」
「おいおい、俺を誰だと思ってやがる」
「ネットワークの徘徊虫、プライベートを踏みにじる者、トイレ君」

 得意気な御手洗に対して風間は容赦の無い口撃を繰り出す風間。それを受けた御手洗は「がはぁっ!」と血を吐く仕草をした後に

「てめぇ……最後の奴以外的確に合ってるから否定し辛いじゃねぇか。
 最後の奴は御手洗いって言いたいのか? はっ倒すぞ」

 と少々凄むが。

「やるか?」
「冗談に決まってるだろ」

 流石に特殊警察に殴り合いてば勝て無いために冗談に変換する御手洗だった。

「ま、それは兎に角だ。お前の一枚目と二枚目に写っていた奴等だが……テログループ、ドッグ・ヘッド・アリゲイター……長いしDHAって言うぞ。そのDHAの末端の組織だ」
「よくも末端のしたっぱからそこまで辿り着けるな」

 御手洗の強引な話題転換に風間は特に反応せず話を聞いていた。
 風間も普通に感心する。実際セキュリティレベルの上昇した現代でここまで権限無しで情報を集められるのは御手洗ぐらいなのだ。

「俺だからな。で、DHAの特徴は一般人になりきる事だ」
「それはよくある話だ」
「いいやあいつらはそんなものじゃない。
 例え実行犯が捕まっても捕まった奴等は特徴警察に自分を一般人と思わせるんだ。そういう風にする事で尻尾が全く掴めない。と言うよりは尻尾を掴んでもトカゲみたいに切り離される」

 それは非情だが有効な構成だなと考えつつもこちらからすれば厄介極まりないものだと風間は心の中で毒を吐く。

「……つまり今までの一般人がヤケを起こしたと思われていたテロは」
「半数がDHAの仕業だ」

 風間はまんまとやられたと少し落ち込むが風間自身は取り調べをする訳でも無いので思考から除外した。

「……そうか。それで三枚目は?」

 三枚目に写っていたのは義義理碧子を必死で守った時雨の最大の敵だった富柄純。残切も戦闘しているが残切曰く、<嫌な奴>が第一印象らしい。

「それがドンピシャのDHA本体の構成員。だけどコイツも尻尾だ」
「……他に手掛かりはあるか?」

 すると御手洗の顔からふざけた雰囲気が無くなる。どうやら真剣な事の様だ。少しいつもよりトーンを落とした声色で御手洗は促す様に言う、

「……いいか。絶対に無理すんじゃねぇ。これだけは誓え。死ぬなよ」
「……分かった」

 ーーと言っておく。

 御手洗がその風間の思考を読み取っている訳が無かった。

「じゃあこれが……DHAの中央支部の座標とマップだ。大人しく上層部にでも渡すんだな」
「……受け取った。じゃあ今回のハッキングは見逃しておく」

 風間と御手洗の関係。それは風間の違法捜査を御手洗が手伝う代わりに風間が御手洗の特殊警察やらへのハッキングを見逃すと言うお互いが脅迫する側される側の関係だった。

「頼むぜ」




 あの後、火麗に全ての情報を渡す。火麗は風間に出所を訊こうとするが、風間の訊くなと訴えかける声色と雰囲気を感じとったのか訊かなかった。
 風間はそういう気遣いをしてくれる火麗がとてもありがたかった。




 風間が帰宅した頃には時計は午後4時でそこそこ日が斜めって来た頃だった。
 そこそこの疲労感の溜まった風間はドカっとソファに座り込む。柔らかい感触が感情を落ち着かせる様に存在感を示す。
 溜め息をつきながらスマホを取り出すと新しく新着メールが届いていた。差出人は火麗。

『桟橋火麗

 今日の午後10時にお前の提供した情報を便りに特殊警察で制圧する事が決定した。九時には1km離れた場所で集団で待機らしい。
 大規模な集団を形成するらしいから私たちはいらない様だからゆっくり休め』

 特殊警察第00部は基本的に大人数の集団には向いていない為にこういう場合は問題児達に出番は無いのだ。
 風間は必要最低限に『了解』と返信してスマホをテーブルに置く。
 段々と遅くなっていく思考と出てきたあくびに対して最近疲れてるなと思う頃には既に風間は睡魔に捕らわれていた。

 そしてこの日。

 特殊警察の勢力は9時頃、集団を形成する最中に奇襲され大打撃を受ける事となった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.91 )
日時: 2016/01/08 23:18
名前: 三毛猫 (ID: B3O778cF)

波坂さん)いや……本当にすごい。これだけ質の高い文章を継続的に書けるコツが知りたいです。
それに、ここまで僕のキャラをイメージ通り書いてくれる方にも、ついぞあったことがありません。
続きも楽しみにしています。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.92 )
日時: 2016/01/09 14:19
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 三毛猫さん感想ありがとうございます。
 質が高いと評価してくれるのは大変嬉しかったです。
 コツ? 私的にはあんまり無いつもりです。


 続きです。



「失敗…?」

 いつも驚かない風間が珍しく表情を変えている。
 風間はたった今、特殊警察の失敗を知らされたのだ。
 普通はあり得ない。こんなに、あたかも分かっていたかの様に奇襲をかけたりするのは少なくとも位置と時間を把握していなければならない。
 だが特殊警察から情報漏れは無い。そもそも風間が情報を提供してから数時間後に組み立てられた作戦だ。そんな短時間では漏らす方が無理だろう。

「現在は特殊警察で原因を手探りしている所だ」

 ーー何故だ。考えろ。

 風間の頭が回転し始める。

 ーーあの情報を知っているのは俺と御手洗だけ。なら御手洗? いやあり得ない。あいつの尻尾が掴まえられる訳が無い。

 ーー待て、まず一から整理だ。

 風間は事件の発覚した頃から今までの記憶を起こして考える。

 ーー風間が特殊警察(私達)の切り札(ジョーカー。

 ふとそんな言葉が風間の頭に浮かび上がる。
 そして風間の頭に雷が落ちた様に衝撃が走る。

 ーーそういう事か。全く、その通りだよ青星。いや記憶の追跡者。

「……隊…いや火麗。一つ頼みがある」



 風間は一人車を走らせていた。
 ジャラジャラやガチャガチャと言った金属同士がぶつかる音が車内に響く。だが風間は気にした様子も無い。
 何故こんな音が。と言っても今の風間の装備が異常だからだ。
 防弾・防刃仕様の特殊警察青制服の上に更に防弾チヨッキを羽織り、手には防刃仕様の手袋。腰には拳銃に炸裂音爆弾や閃光爆弾が吊るされ他にもスタンガンや手榴弾等か揃えられており、裾には弾倉が数個と言う重装備だ。
 今から戦場にでも行くのか。と言われれば彼は「ああ」と何気無く言うだろう。

 天澤を救うには、この手段しか無いのだ。
 風間の予想では天澤は精神干渉によって操られ、能力の行使を強制させられているのだろうと考えられていた。
 そしてその場合。全ての動きは把握されてしまい誰も手が出せなくなる。未来を観る事のできる彼女に対しては騙し討ちもそこまで通用せず、正攻法なら奇襲をかけられるだけだ。
 そんな特殊警察にとって絶望的な状況だが、特殊警察にはとある切り札がいた。

 [能力を無効化する能力]を持つ能力者。風間司だ。

 青星はこの事を予想して風間に耳打ちしていたがその予想は見事に的中し、風間が単独で救出を仕掛けなければならなくなっていた。

「厄介だ」

 風間は車を走らせながらそうポツリと呟いた。



 風間か目の前のダミー企業を装ったDHAの中央支部にその重装備で堂々と侵入する。流石に企業を装っているだけあって玄関ではドンパチする気は無いようだ。最も風間の格好では目立つどころの話では無いが。
 エレベータで50階建ての中で40までしかボタンが無いのを不審に思うが取り合えず40を押す。

 ウィーンと機械音を立ててエレベーターは登っていく。風間はその間に拳銃に弾丸を込め安全装置を外して右手に持つ。左手には閃光爆弾が握られている。

 そして40階に辿り着きエレベーターが開幕宣言するかの様にドアを左右に割る。
 その先には、大量の黒光りするクラッカーが風間に向かってつきつけられていた。

「悪趣味な出迎えご苦労様」

 風間は容赦なく銃と反対の左手に持っていた閃光爆弾を地面に投げ付ける。勿論目は閉じる。
 一方今か今かと集中していたDHAの構成員達は閃光をもろに喰らい眩しい光が網膜に焼き付きクラッカーを手から溢して目を押さえる。
 風間はその間に悪趣味なクラッカーを回収し、丁寧に一人一人スタンガンを当てて全ての構成員の頭の電源をOFFにした後にエレベーターに黒光りするクラッカーを放り込み一階を押す。これは風間なりの一般市民へ向けた『逃げろ』のメッセージだった。

 直後、キィィィン! と風間から音が響いた。それは、能力を打ち消す音。



「ふむ……これは想定外だ。おい天澤」

 男のディスプレイの前には風間が映し出されている。今は銃器をエレベーターに乗せている。
 一方男の声に反応したのは、無機質な声の天澤。その声には人の言霊が込もっていない。

「どうしました」
「奴の未来が観えるか?」

 天澤は目を瞑り機械的に能力を行使する。激痛が彼女の脳を蝕むが今の彼女に痛がる機能は存在しない。
 しかし彼女の脳内には風間の未来が映し出されてはいなかった。

 この時ディスプレイからはキィィィン! と音が鳴っていた。

「……観えません」
「ほぅ……」

 男の顔が少しの興味から大きな興味を表す表情となった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.93 )
日時: 2016/01/13 22:26
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 投稿遅れてすみません。
 嫌な事を忘れる方法とか無いですかね。

 続きです。




 キャロル・シェイキーは退屈だった。
 同じ新人であり(年はキャロルが4つ下だが)悪戯しがいのある天澤が誘拐されたと思えば特殊警察で一番関わっていると言える風間も忙しそうにしていて悪戯を楽しむ事ができていなかった。
 今も椅子に座り自分のサイズに合う男性制服が無いために半ズボンを履いている足を振りながら中学校の宿題にかじりついていた。
 キャロルは特殊警察に対してもっと硬派なイメージを持っていた。だが実際に入って見れば周りに居るのは白っぽい灰色の無口な先輩だのよく分からない黄色っぽい色のチャラそうな先輩だの水色の挙動不振な同期だのと言うイメージとかけ離れた人物達だった。火麗はまだイメージ通りだがそれでも比率は3:1だ。最も、00部以外の特殊警察は硬派だが。
 キャロルが特殊警察に入ったのも事実、親に強制されたからである。別に収入がどうのこうのでは無く特殊警察に入れば規律を学び悪戯も減るだろうと言う両親の考えに基づいたものだった。
 その両親にはもはや「乙」としか言いようが無い。特殊警察には規律を守れない者共の住み着く巣がある事を両親は知らなかったのだから。

 閉話休題。

 キャロルは火麗と二人で部室にいた。残切は今日は非番であり風間は絶賛殴り込み中である。
 火麗は机仕事に集中していると見せかけて時折「……誰に似たんだ」だの「…アイツに任せるしか……」とか「連絡はまだか…」等と呟きが聞こえる。その表情は本人は気付いて無いだろうがかなり不機嫌そうだ。
 流石にそんな表情をされていては同室にいるキャロルの精神状態にも良くない事だけは確かだ。証拠として宿題を進める手が全く動いていない。
 そんな威圧感の中でキャロルは視界の隅にある物を見付ける。
 それは風間が何時も羽織っているモッズコートだった。この前の事件からクリーニングに出していない様で少々汚れが着いている。
 風間さんがコートを脱ぐか……防弾チョッキでも羽織って戦場にでも行ったのかな?
 等とキャロルは冗談を思い浮かべる。
 まさか的中しているとは知らずに。

「キャロル」
「たいちょー。どうしましたー?」
「行くぞ」

 急に名前を呼ばれたかと思えば行くぞ等と言われたキャロルの頭にはクエスチョンマークが張り付いていた。




 風間は銃器の扱いは得意では無い。
 上手と下手に分類するとすれば風間は下手に入るだろう。
 だが当たらない訳では無い。
 下手な鉄砲も数撃てば当たる。と言う言葉は実に理に叶っている。一発の可能性ではなく可能性の数そのものを増やすと言う画期的な発想だ。
 風間はその発想に基づき引き金を数回引く。銃弾は銃口から吐き出され延長線上にある気体液体個体を関係無く押し退け突き進む。
 しかしそれは明らかにDHAの構成員二人には接触すらしておらず威嚇射撃以上の意味を成してはいなかった。
 風間とて自分の射撃の技術を甘く見ている訳では無い。威嚇射撃で怯んだ隙をついて左腹部に右手で打撃を加える。だがそれでは止まらずに突き出した右腕を思いきり引き左足をハイキックの要領で弾き出す。
 弾き出された足は踵で右肩を捉えてそのままノックバックを引き起こす。一人が床に倒れ込むと焦った様にライフルを風間に向ける構成員。だがこの至近距離においてそんな物は金属の塊以外の存在意義を示すことは無かった。
 構えられたライフルの下を滑り込む様に風間が移動し足を両腕でホールド、そのまま後ろに倒れ込ませた後に容赦無く眉間に右手でホルスターから引き抜いた拳銃の銃口を突きつける風間。

「…すまない」

 風間から漏れた言葉は糾弾でも非難でも無ければ謝罪だった。

 ドォン!

 0距離で放たれた高速の鉛の塊は人体における最も重要と言ってもおかしくない脳を貫き細胞を破壊する。血が噴水の様に飛び散り周囲に降り注ぐ。
 構成員である男は最後に何を見て思ったのだろうか。男には家族がいたのだろうか。男には人生でやり残した事があったのだろうか。
 風間はその疑問を思考から削除しもう一人の構成員に対して数発の銃弾を発砲する。
 被弾地点から出血の雨が降る。だがそれがもたらすのは恵みでは無く命の消失と言う名の厄災。
 風間は二人の構成員に対して合掌。
 そしてすぐにその場を立ち去る。
 風間は、人を殺害するのはもう二桁に達している。
 最初は殺したその日にストレスでどうにかなってしまいそうだったが、最近は殺しても罪悪感が沸くのみになってしまっていた。

 ーーいつかこの感情も、感じ無くなるのだろうか。

 風間は階段を登りつつこんな自分に戦慄を考えていた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.94 )
日時: 2016/01/14 22:05
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 風間が引き金を引くと言う名の死刑執行を自らの判断で行える理由。それは風間の精神が強い訳でも無く死んでいると言う訳でも無かった。
 それは正義と言う後ろ楯、大義名文があるからである。
 風間は人を殺す事に関して抵抗はある。だが一度として理不尽な死をもたらした覚えは無かった。

 ーーコイツらは犯罪者、又はそれに肩入れする悪だ。自分達がやっている事を返されているだけだ。
 ーー俺には正義に基づきコイツらに裁きを加えているだけだ。

 ーーだったら文句は無いだろ?

 風間は二つの【事実】に基づき自分の行為を正当化しストレスの軽減に成功している。
 一般人が知れば、死者への冒涜だと騒ぐ者もいるだろう。責任を取って十字架を背負えと言う者もいるだろう。
 だが彼を知る者達は決してその事を否定しない。なぜならそれは事実であり、風間は【事実】を有効活用しているだけなのだ。死者への冒涜はできない。何故なら居ないのだから。十字架は背負わない。何故なら邪魔であり不要だからだ。
 勿論風間は【事実】が無ければ人は殺さない。彼は根本に存在する人格は善人である。
 だが裏を返せば風間は【事実】があれば殺す。善人だが殺る時は殺る。彼の性格はチェスの盤上の様に白黒混合でグレーが無い。裏表が激しい。
 そしてそんな彼は今、48階の階段を見つけていた。




 火薬の臭いと血の臭いが鼻を突き刺し刺激臭を体現する。
 火薬の臭いは弾倉の弾も吐き出し終え、後3発の銃弾のみを残した拳銃から。
 そして血の臭いは返り血の染み付いた服から発生しているものだった。
 その両方の発信源が自分である事を理解しつつ風間は階段を登り上の階を目指す。
 しかしこの建物の階段は一階分ずつ分けられていて上へ上がるには再び階段を探す必要があった。
 この建物は上の階に上れば上る程警備の人数が多くなると言う厄介な設定があった。実際に48階は最も多くの弾を使った。そして刈り取った命も最多だった。
 風間は当然49階も厄介だろうと思い込んでいた。しかし。

「全く人気が無い」

 警備の人数が圧倒的に少ない……と言うより警備が居ないのだ。
 不振に思いつつも階段を探す風間。
 ダンダンダンと足音を大きく鳴らすが警備の連中も気にしなくていい為に今までやっていたスニークも止めていた。

「あれか?」

 風間が階段を見つける。
 そして風間は階段まで走っていき存在を確認しようとしていた。

 ダン!

 不意に、強く硬い床を足裏で叩きつける音がする。
 風間が音に反応して音源の方向を向いた瞬間。
 風間の頬に、拳が突き立った。
 直後、バギィッ! と言う音と共に風間が殴り飛ばされる。
 壁に激突し、口から空気が吐き出され、スタンガンと役目を終えた弾倉が床に散らばりガチャンガチャンとリズムを奏でる。
 風間は元自分がいた場所を見る。その時に手を着いて立ち上がる。
 風間が元居た場所には男が立っていた。
 茶色い髪を適当に伸ばした男。そして風間にはこの男に見覚えがあった。

「まさか……瞬間移動能力者がいたとはな」

 ならば事故率を下げる為に他の人間を配置しないのはある意味当然かと風間は他人事の様に呟いた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.95 )
日時: 2016/01/19 06:38
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 風間はテレポーターとは相性が悪い。
 何故なら、テレポートはずっと触るしか防ぐ方法が無く、当然そんな事は不可能だからだ。
 だから風間は、武器に頼ろうとする。ここで勘違いしないで欲しいが風間は素手での戦闘は特殊警察でもかなり上位だ。ただ、その素手とやらではテレポーターは倒せないだけだ。
 風間が手袋からぶら下がる数個の鉄の輪を引っ張ったり残りある消耗品を撫でたりする。

 ヴヴゥン。

 空気を裂く音と共テレポーターが風間に接近していた。その距離、約1メートル。
 咄嗟に風間は拳銃をドロウ。即座に一発発砲する。

 カァン!

 だが銃弾は予想を裏切り当たった瞬間甲高い音を鳴らしながら明後日の方向に跳ね反った。
 風間が軽く冷や汗を流す。

 ーーおまけにサイボーグか?

 テレポーターが風間の目の前に移動する。風間の背後は壁だったために背後は取る事ができないために正面にテレポートするしか無かった。
 テレポーターが風間に殴りかかる。
 その拳の威力は中々のものだったと覚えている風間は拳ーーーーではなく腕を掴みそのまま背負い投げをする。
 かなりの重量だった事からもはや体を改造している事は確定していた。
 その重い四肢が風間の背負い投げによって投げられる。いや、叩き付けられる。
 風間は後ろに向かって投げた。そして風間の背後は壁である。

 ドガァン!

 ちょっとした爆発の様なインパクトが発生し、金属で補強されたコンクリートが破片を撒き散らしコンクリート粉を舞い上がらせる。
 これでも充分致命傷な訳だが風間は容赦せずに腕を掴んだままボディーブローを打ち込む。

 ゴン!

 鉄を殴った様な感触、つまり激痛が風間の拳を襲った。
 風間が手の痛みに捕らわれている間にテレポーターの男は風間の掴んでいる腕を放せと言わんばかりに風間を蹴り飛ばした。
 その出力、人間では異常。
 当たった瞬間にドォン! と音を響かせ盛大に吹っ飛ぶ風間。そのまま木製ドアに激突し中に意図せず突入してしまう。
 風間の入った場所は所謂仕事場でパソコンやタブレットか規則正しくデスクと共に並べられている。

「痛いな……」

 愚痴を溢す風間の声を壊れた木材のドアを壊す音が掻き消す。
 テレポーターの男が登場し、風間の背後にテレポートする。
 そして上から手刀を降り下ろす。その刀は、風間の頭を容易く叩き割る威力。

 ギイン!

 しかし風間の頭には触れておらず、風間の咄嗟につき出した右手と左手ーーの間で受け止められていた。
 風間の黒い右手袋からは数本のワイヤーが飛び出ていてそれが黒い左手袋と繋がっており、そのワイヤーが手刀を受け止めていた。

 ーーやはりサイボーグか。

 本来ならば相手の手刀は切断されるはずだか拮抗状態と言う形になっており、生身で無い事はもはや確定だった。
 倒す方法を思案する風間。圧倒的なテレポーター。勝利するのはどちらだろうか。


 遅くなった理由をリク板の方に書いておきました。
 今後ともこの様な事があるかもしれませんがそれでもこの小説を読んでくれると幸いです。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.96 )
日時: 2016/01/29 19:10
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 風間の耳に響いた音は相手の声ーーーー等と言う物では無く、チュイイイイイン! と歯医者のドリルを連想させる音だった。
 風間がそちらに視線をずらすと、いつの間に変型したのかテレポーターの右手は銀色に反射する円盤の様な物になっていた。そして、それが回転ノコギリ、所謂チェーンソーだと気がついたのはそれが風間に向かって降り下ろされた時だった。
 このままではワイヤーもろとも一刀両断されてしまうと悟った風間は地面を蹴り後ろに跳ぶ。

 バザザァァッ!

 風間の防弾チョッキが切り裂かれる。風間はかすっただけで防弾チョッキを切り裂くチェーンソーに冷や汗をかきつつも体勢を立て直す。

 ーーさあ、どうする風間司。




 残切山斬は遊んでいた。
 週に0.5~3.5と言う特殊警察の休暇の不安定さの為に今まであまり友人と交遊していなかった。
 今日はたまたま誘いが来てたまたま休暇だった為に残切は友人達と共にカラオケで遊んでいた。

「次、ザンな」

 残切の友人である棟鳥誠也むなとりせいやが残切にマイクを渡す。誠也は黒い髪を伸ばしワックスで少し立たせた髪型をしている。

「俺さっき歌ったばっかだぜ……」

 呆れながらにマイクを手に取る残切。女子たちは、残切君って以外と歌うまいよねー。等としゃべっている。

 ヴヴヴヴヴ!

 残切のケータイが突如バイブレーションを始めた。

「あ、ちょっと出るぜ」

 カラオケボックスから出て発信者も見らずに通話に応じる。

『ザンか! 私だ! 火麗だ!』
「どうしたんすかそんなに焦って」
『今すぐ、特殊警察に来れないか?』

 きっと休暇の自分を呼び出すとはそこそこの事なのだろうと思い残切は「二十分くらい待っててください」と言い電話を切る。
 そのままSNSで棟鳥に『特殊警察から呼び出し。残切出動だぜ』と打ち込む。返信はすぐに来て、『いってら』と一言だけだった。
 それを見て苦笑しつつも残切はカラオケを後にした。



 ドガァン!

 テレポーターの男のパンチがビルの壁を砕き爆音を作り出す。
 風間はしゃがんだ状態になっている事からテレポーターのパンチを風間がしゃがんで避けた事が分かる。
 風間がそのまま足を右足のローキックで狙う。

 ゴッ!

 風間の足に痛みが走ると同時にテレポーターが少し体勢を崩す。それを風間は軸足を右足に切り替えて顔面を狙い左足の爪先をつき出す。

 バゴッ!

 顔面は流石に金属には被われておらずに肉を押さえつける感触がする。そのまま足を振りきりテレポーターを押し出す。
 そして追撃とばかりに椅子を投げつける。テレポーターはそれを唸りをあげるチェーンソーで破壊し、風間のすぐ真横にテレポートする。
 風間が一瞬の判断で拳銃をドロウ。引き金が引かれて銃弾が激発される。
 その銃弾がテレポーターのチェーンソーにヒット。大きく弾かれるがテレポーターは意を返さずに右腕が弾かれて産み出された回転エネルギーを生かした左拳を風間の鳩尾に叩き込んだ。

 ドボォッ!

 風間はそのまま吹き飛び、部屋の一面ガラス張りの部分に激突する。多少ヒビが入りもしこのまま割れでもしたら風間は地上まっしぐらになってしまう。
 それを知ってか知らずかテレポーターが目前3m程に現れたと思いきや椅子を投げつけ始めた。ガラスにひびが入っていく。
 風間は焦りながらテレポーターに突進をかけ、奇跡的に手放していない拳銃を、最後の一発の引き金を引く。
 だがそれは虚しく空を切ったと思いきや、横に口を歪めたテレポーターが立っていた。
 問答無用で殴り飛ばされる風間。
 だが、テレポーターは違和感を覚える。
 風間が、口元をニヤリと歪ませていたのだ。そして、その口がこう動いた。

 ーー地獄に落ちろ。

 瞬間、

 ドガァァァン!

 爆発が起きた。
 風間の殴り飛ばされた際の置き土産。それはーーピンを抜いた手榴弾だった。

 爆風がガラスを殴り付け、割り砕く。テレポーターにも爆風が襲いかかり、そのまま落下して行った。
 

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.97 )
日時: 2016/02/11 20:08
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 コツ…コツ……コツ。

 一歩一歩不規則なリズムで階段を上る音がする。

「……血か」

 風間は額から少々流れる流血を手で払いつつも階段を上っていた。
 そのフラフラとした上り方は見ていて安心できる物ではない。
 風間は既に満身相違だ。顔には腫れた箇所があり、額から血を流し、身体中に打撲等かある。特殊警察の制服を着ていたために擦り傷こそできてはいないがもはや常人なら歩けるレベルの傷ではなかった。
 だが、風間は止まらない。と言うより止められない。
 風間の頭には最初から天澤を救い出す事しかない。風間はその目的の為にのみ動いていた。




 階段を上り終えた風間は目の前の恐らく大部屋のドアを蹴る。ギィィィ…と音を立ててドアが開き始める。

 中には社長机に一台のパソコン。ガラスの一面に何本かの苗木。そして、二つの人影。

「初めまして。だな。風間司」

 風間はその問いに対して弾の入っていない銃の銃口を向けて「誰だ」とだけ返す。

「おっと自己紹介がまだだったな。私は三木共和だ。そしてDHA中部エリア支部長でもある」

 男はそう言うと隣の人影に手を向け、

「そしてこいつは天澤秋樹。新入だ」

 青い髪の、茶色の瞳の、背の低い後輩が目の前にいるにも関わらず風間はいかにも敵を見るような目だった。

「どうせ、天澤を精神干渉で操っているだけだろう」
「なぜそう言い切る」
「簡単な話だ。天澤の性格からしてお前たちに手を借す訳が無い」
「それはこいつの演技では無いのか?
 正義ぶって、善人ぶって、他の人間から好かれようとしていただけではないのか?」

 嘲笑う様に言った三木に対して風間はその三木を笑う様にこう言った。

「お前のどうでもいい言葉には天澤自身以上に信じる価値があるのか?」

 三木は少々考えた後にこうした。
 具体的に言うと、天澤にサバイバルナイフを投げたのだ。

「天澤、命令だ。奴を刺せ」
「……はい」

 風間は舌打ちをもらす。

 ーー天澤なら、今までの様に殺す事はできない。だが気絶しても精神干渉で直ぐに起こされるだけだ。

 風間は再び舌打ちをして天澤が振ったナイフをかわした。




 平野平子は一人でブラブラとしていた。

 ーー今日は暇って訳ですよー。

 暇だなぁ……ジーナさんにメールでも打って見ようかな……。等とジーナと遊ぶことすら考え始める程に暇だった。
 ふと、目の前のビルに一台のパトカーが止まっている事に気がつく平子。

 ーーあるぇー? 何があったんだろう?

 しばらく平子は興味深そうにパトカーを見つめている。そして驚愕する。

 もう一台の一回り大きいパトカーがキィィィ! と派手にドリフトしながらそのパトカーの真横に停車したのだ。
 まさしくあんぐりといった様子で口を開ける平子。そのまま見ていると、中からは妙に見覚えのあるオレンジ色の髪の女性と金色ではない黄色の金属色をした男性が出てきた。他にはオレンジ色の髪の制服すら着ていない男の子も出てきた。

 ーーあの人ザンさんじゃ無いですか?

 平子が驚愕している間に男性はビルに入っていった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.98 )
日時: 2016/02/20 19:46
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 風間が大きく後ろに跳ぶ。
 その目の前を間一髪の距離で鋭利な刃が通過し空を切る。
 風間の前にいるのは、救い出すべき目標であり、自分の後輩でありーー自分を攻撃している敵である天澤秋樹。天澤の茶色の瞳には魂が抜けた様な無機質さがあった。
 声を上げようが今の天澤には届かない事を知っている風間は黙ったまま、ただひたすらに攻撃を避け続ける。

 ズギッ!

 突き刺すような激痛が、風間の足を突き刺した。

「ッ!」

 想定外の激痛が走った為に思わずして数歩たたらを踏む風間。
 そしてそこへ天澤の無慈悲な斬撃が飛んでくる。
 風間が首を捻る。そこへ飛んできたナイフは風間の頬を浅く切る。
 風間は舌打ちしつつも牽制の足払いを放つ。天澤は後退して一定の距離を取る。

 ーーダメージが溜まっているな。

 自分の足を見て風間は自虐的に苦笑する。もうその苦笑すらも限界の裏返しだと言うことも理解した上でだ。

 再び横切る銀色の刃。
 風間はそれを防刃グローブで思いきり掴んだ。
 多少グローブが切れて肌が傷付き赤い鮮血が風間の黒いグローブをどす黒い色へと変色させる。
 ナイフを掴んだまま風間は天澤の凶器を持つ手に思いきり左拳を叩き込んだ。
 
 脆くなったセメントを砕く様な骨折もしくは骨の圧壊する乾いた音がした。
 天澤がナイフを手放した瞬間だった。

 風間はそのナイフを持って三木に特攻を仕掛けた。
 三木は大して焦った様子も無くただ、哀れむ様にこういい放った。

「惜しかったな」

 その瞬間、形容しがたい程重なり積もったの音が部屋に反響した。



 強く踏み込む音がした。
 更に強く踏み込む音がした。
 円盤状の武器が唸りをあげる音がした。
 防弾チョッキと防弾制服を切り裂く音がした。
 肉を挽き、抉り、貪る様な音がした。
 そしてーーーー血が噴き出す音がした。



 風間は何が起こったのかいまいち理解できていなかった。
 ただ、二つだけ理解していた事があった。
 ひとつ目、噴き出す血は自分の物である事。
 二つ目、この腹部辺りから生えている銀色の円盤状の物はーーーー先程のテレポーターの物である事。

 肉を抉る音と共に盛大に後ろに圧力を感じた。
 なす術なく倒れた時には直前の圧力は自分からチェーンソーを抜くための物であったと風間は理解する。
 ふと床が妙に生ぬるく湿っている事に気がつく。
 そして風間はそれが自分の血だと言うことを思い出して絶望する。

 ーーこのままだと死ぬ。

 だが悔しい事に体は動かない。チェーンソーでたて広い大穴を開けられてしまった体は、どうやらもう風間を見捨ててしまった様だった。
 目蓋を開けることすらも気だるく感じる。人とは脆いなと逃避ぎみに考えていると耳に何かが入ってくる。
 小さく、微かな、床に耳を近づけている自分だから気がつくような小さな音。そして聞き覚えのある音。
 そしてもうひとつ音が入ってくる。

「風間さんっ! 目を開けて下さい! 風間さん!」

 この声はーーーー。




 倒れた風間がとても哀れに思えた三木は最後の情けとして、せめて最後くらい会話させてやろう。もっとも生きていればな。そう思いながら天澤への精神干渉を停止する。
 それまで風間を見てぼうっとしていた天澤が、雷に打たれた様に体をはねあがらせた。

 すぐ近くを見るとテレポーターが不愉快そうに左手を見ている。いや、左手だった物を見ている。
 それはもう完全に潰れていた。間接が駆動しないどころか腕として振り回す事すら困難な程に潰れていた。あれは風間が49階から落とした際に左手のみで衝撃を殺そうとしたためにああなってしまっていた。
 テレポーターの右手には銀色の円盤状のチェーンソーが付いておりそれが風間に致命傷を与えたものだった。今は銀色に血が付き妖しく輝いて見えるが。

「え?」

 天澤の、混乱した声が聞こえる。

「嘘ですよね……。嘘なんですよね」

 だが風間は起き上がらず、血は留めなく溢れ反るばかりだ。

「そんな……嫌です…風間さん…」

 風間の傷口はひどいもので青かった制服が紫色になりつつある程だ。
 天澤は風間の側に駆け寄り、こう嘆く様に言った。

「風間さんっ! 目を開けて下さい! 風間さん!」



 聞き覚えのありすぎる声を聞いた風間はゆっくりと目蓋を開いた。

『ーーーー』

 目の前にいたのは天澤だった。目から留めなく溢れる涙は風間を失うことへの悲しみが表れた様だった。

『ーーーー』

 何を言っているかわからない。ついに難聴まで出たかと風間は思う。
 そして天澤の後ろに立つチェーンソーを高く振り上げているテレポーターを見て風間はもがき始める。
 天澤を逃がすためにろくに動きもしない四肢を懸命に動かそうと努力する。しかし聴覚すらあやふやな今では残念ながら動いてはくれない。
 そしてそんな風間の意思は伝わらずに天澤は逃げない。
 最もテレポーターには風間しか殺す気は無いのだが。

 高く振り上げられたチェーンソーが、糸が切れたかの様に降り下ろされる。

 ーーもう駄目だ。

 そして風間がすべてを諦めた時だった。

 鉄筋コンクリートを引き裂く大轟音と共に風間と天澤のみが浮遊感に捕らわれた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.99 )
日時: 2016/02/20 22:46
名前: 三毛猫 (ID: B3O778cF)

波坂さん頑張って……司さんも頑張って……

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.100 )
日時: 2016/02/24 20:40
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 頑張ります。

 続きです。


 風間は突然訪れた浮遊感を自分が死亡したと勘違いした。
 だから驚いたーーーーその直後に訪れた衝撃に。
 何が起こったか理解が追いつかない風間。そして衝撃によって傷口が刺激され激痛を連鎖的に引き起こし風間に襲いかかる。
 激痛でショックで気絶できなかった風間は激痛によって閉じかけていた緋色の瞳を見開いた。
 そして、風間の目には見馴れた人物が映し出されていた。無論、天澤ではない。
 視界はぼやけるが、その特徴的な髪の色は間違えようが無かった。
 その人物はこう言った。

「無茶しすぎっすよ。風間先輩」

 特殊警察第00部。通称【問題児部】の一員。残切山斬がそこに居た。




「何ッ!」

 三木は今起こった出来事が信じられなかった。
 三木はテレポーターのチェーンソーが風間の心臓ないし首を抉り裂く様な光景を予想していた。
 しかしその描いた未来予想図は粉々に霧散した。
 なぜなら風間と天澤のいた床そのものがピンポイントに切断され一階下ーー49階に落下したのだ。

「クソッ! 後を追え!」

 テレポーターに指示を出す三木。しかし、

「そこまでだッ!」

 その声が聞こえると同時に大量の火球がテレポーターに降り注いだ。テレポーターが数個ほど受けつつもテレポートで避ける。

「あなたたちをタイホしまーすッ!」

 その声が聞こえると同時に窓ガラスが大量に炸裂し暴風が室内に吹き荒れた。

「お前たちはッ!」

 三木はオレンジ色の髪の色をした二人を名指して叫ぶ。

「桟橋火麗にキャロル・シェイキー!
 まさか……【問題児部】だとッ!」




 残山は連絡用の端末を06部に繋ぎ連絡を入れる。

「緊急手当てが必要な者が一人。至急ビルの49階までドクターヘリを飛ばしてくれ。
……大丈夫だぜ。隙間なら俺が作るぜ」

 残山は端末を落として右手に持っていた竹光を構える。
 本来残山単体の能力に強化鉄筋コンクリートを破壊する程の威力は無い。
 ではなぜ天井ないし床を切断することができたのか? その問いは単純である。
 答えは、竹光を媒体としたからである。
 残山の様な能力は応用が効く反面、範囲が広すぎで制御やコントロールが難しい。だから制限を自ら課す事により制御を容易にする事ができる。
 そして残山が行った制限。それは『竹光の延長線上しか切断ができない』である。
 こうする事により創造力を削減する上にイメージがより強固なものとなり能力の威力自体も上がる。
 だからこそ残山は天井ないし床を切断することができたのだ。
 そして残山は今、かなりの挑戦をしようとしていた。

「天澤、下がってろだぜ」

 言われるままに風間を右腕だけで引っ張りながら後退する天澤。
 残山が鞘に入れる様に竹光を構え、あたかも抜刀術の様な構えを取る。
 そして、残山がそのまま軸を斜めにして体を捻り、円を描く様に竹光を振るった。
 再び、耳の鼓膜を破壊するかの様な暴力的な先程以上の大轟音がビルにいる殆どの人間に聞こえるほどになり響いた。
 そして、ビルを直方体とするなら、その直方体の一角が丸ごと切り取られた。
 その切断面は49階では収まらず42階まで届くほど大きく、床は2/5が切り取られていた。
 そしてそれと同時に、元々風間とテレポーターとの交戦の中で割れたガラスの壁面から吹き込んでいた暴風がさらに強くなる。
 残山はしばらくすると風間の方へ向かい風間をお姫様抱っこしてもう一度切断面付近に近づく。
 そしてその下からスタンバイしていたドクターヘリが姿を表した。

「後、頼むぜ」

 切断面付近に着陸したドクターヘリから出てきた06部員に風間を渡す残山。
 風間は動かぬままドクターヘリ内部へと消えていった。
 ドクターヘリのプロペラが風を切り裂き推進力を生み出している中。残山は天澤にこう告げた。

「まだ一仕事。残ってるぜ」




影雪「もう他のヤツラはオレを覚えてねーよ」
雪花「拗ねないで下さい兄さん」

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.101 )
日時: 2016/02/25 00:07
名前: 彩都 (ID: 5VUvCs/q)  

NO.100突破おめでとう御座います!

彩都も暢気に更新してたら、あっと言う間に抜かされてしまいましたか…

彩都も『セカイ戦記』がNO.100になりますので、同じ複雑・ファジー板の小説家同士頑張りましょう!

おまけに『セカイ戦記』は参照数が1000を越えそう&NO.100となるので、色々とやらかしたいです!

波坂さんも頑張って下さい!

彩都でしたっ!

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.102 )
日時: 2016/02/28 17:57
名前: 波坂@携帯 (ID: DJvXcT4Z)

あの〜。非常に申し上げにくいのですが……そういったこの小説に関係の無い宣伝等は控えて貰いたいです。「控えて」いるからいいだろ見たいな捕らえ方をしたならしないで下さい。どうせやるならやるのならリク版の方でお願いします。
生意気言ってすみません。応援メッセージは嬉しい限りです。
私も負けない様に頑張ります。
最後にせっかく感想をくれたのに新人風情が生意気言ってごめんなさい。すみませんでした。


続きです。


燃え盛る火球が音を立てて襲い掛かる。
それを改造された機械の足で蹴り付けて雲散霧消させるテレポーター。
火麗は舌打ちしながら後ろにいる後輩を見る。

「キャロルッ! まだかッ?」
「もうちょっと……」

後輩ことキャロルは険しい顔で受け答えをする。

「よそ見していて良いのか?」

三木の挑発的な言葉に多少イラッと来た火麗だが、迫り来るテレポーターのチェーンソウを見ればもはやそれどころではない。摩擦を減らし滑り込む様にチェーンソウを回避する火麗。そのままスイングで伸びきったテレポーターの腕を下からオーバーヘッドキックの様に蹴りあげチェーンソウを弾き、後転して体制を整えて空気銃を連射。
金属に小石が当たった様な音が空気銃の無力さを体言する。
次の瞬間火麗の視界からテレポーターが文字通り消え失せる。もしやと思いとっさに横に跳ぶ火麗。その行動が火麗の命運を分けた。

約一秒前に火麗がいた場所にチェーンソウが振り下ろされ鉄筋コンクリートをスナック菓子の如く削り取る。冷や汗で服を濡らしつつも火球を飛ばしテレポーターに牽制を入れる。
テレポーターは再び消え、今度は華麗の目の前に現れた。
とっさに空気摩擦と床の摩擦を変更し、機動力を高めて逃れようとするが既に手遅れ。火麗とテレポーターの距離は後一メートルも無いのだから。

火麗の引き締まった肉体にその邪悪な金属堺が突き刺さるーーーー直前に不自然な風力が発生。辺りの摩擦の弱まっていた火麗を吹き飛ばす。
その風力の源である竜巻まみるみる膨張していきテレポーターを飲み込む。

「たいちょー! 準備できたよ!」
「やれ!」

火麗が合図を出すと同時にキャロルの元にダイブする。それと同時にテレポーターが無理矢理竜巻を破壊する。
そしてそれと同時に、

「風間センパイの恨みだーッ!」

鼓膜を金属バットで殴りつける様な大轟音が発生。そして巨大な三角錐のコンクリート堺がテレポーターのいた座標を貫いた。




先程残切はビルの一角を切断した。
それはいい。問題は切断した後である。
仮に切断した一角かが市街地に落ちたら多大な被害がでるだろう。
では、その切断されたオブジェクトはどこへ行ったのだろうか?
答えは単純だった。

キャロルの戦車すらも吹き飛ばし転覆させる竜巻が、ビルに突き刺したのだった。



突き刺さった三角錐のもたらした被害は甚大だった。
なぜなら刺さるだけではあきたらず、ビルの高層部分が崩壊を始めたのだから。
テレポーターはどうなったかは神のみぞ知るが、回避はできていなかったために恐らくはスクラップだろう。
だが、火麗達は生きていた。

なぜなら火麗達のいた床が、予想していたかの様に切断されたからだ。
そして、49階の床が切れ、48階に着いたと思えば48階の床が切れ、47階に着けばまた切れ……という事が30階まで続いたのだ。
これらの事はあらかじめこの事を知っていなければ到底できない事だ。
だが、00部にはこれを可能にする能力者がいた。
天澤秋樹という、能力者が。



「火麗先輩、早く逃げましょう」

そうニコリと行ったのは天澤だった。

「そうだな。じゃあザン。頼む」
「わかったっすっ!」

残切が竹光を振るい始め、一方的なエレベーターは下って行った。



ここは何処だろう。
そもそも俺は誰だろう。
名前は……そうそう風間司だ。
じゃあここは何処だ? 目の前にえらく悪趣味な川がある以外に特徴は無いな。
そもそも何でここにいるんだ?

そう自問自答を重ねている内に俺は見た。
自分の腹部の傷を。

そうだ。俺はあの時気を失って……まさか死んだのか? この悪趣味な川は三途の川か? そんなわけ……ご丁寧に看板に三途の川と書いてあるな。
死んだなら仕方が無い。潔く渡るべきだろう。

『おい! お前まさかーー風間か?』

はてあの世に知り合いなんぞいたかと思い川の向こう側を見る。
そして、そいつは知り合いだった。

『俺を覚えているか? 俺はーーーー桟橋火英だ!』



私こと、天澤秋樹誘拐事件はテログループ、DHA中部エリア支部長の三木の逮捕によりたった今幕を閉じたーーはずでした。
だけど、まだ終わっていないんです。彼が、風間さんが目を覚まさなきゃ終わらないんです。
先程治療が終わった風間さん。一命は取り留めたもののかなり危険で今既に峠の真っ只中でいつ命を落としても分からないらしいです。
現代の医学でも風間さんが危ないのは、皮肉にも風間さんの能力、[能力を無効化する能力]のせいで能力による治療が行えないからなんです。
現在、ベットで死んだ様に気を失っている風間さんが私の目の前にいた。
私もいつのまにか骨折していましたが、風間さんはそれよりも何倍何十倍もの苦しみを味わってるはずなんです。
だからっ! 私は謝りたいんです。そしてこの気持ちを打ち明けたいんです。
お願いです。神様でも、誰でも良いんです。風間さんを……助けてっ!

気付けば私は風間さんの耳元に顔を押し付けて泣いていた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.103 )
日時: 2016/03/08 22:05
名前: 波坂@携帯 (ID: DJvXcT4Z)

赤よりも紅い髪をした正しく桟橋火英ーーただし足は無いーーを目撃した風間の行動は次の様なものだった。
回れ右をし、力強く足を踏み出し、全力で手足を駆動させる。
つまりーー全力で逃げ出した。
風間の苦手なもの。それは表情にこそ出さないもののオカルト全般である。
そして、目の前の火英の姿をした幽霊を目の当たりにした風間に考える余地は存在するはずもなかった。

(夢だ。これは夢だ。ディスイズドリームだ。出てくる訳無い。幽霊なんていない)

「おーい!ちょ、マジかおい!」

幽霊と死に損ないの追いかけっこが始まった。



「んん……ふぁ?」

あれ?ここはどこ……そっか病院だ。私いつのまにか寝てたんですね……。

「おはよう天澤」

あ、聞き覚えのある声ですね。この声はたしか……

「おはようございます風間さ……風間さんんんんんんん!?」

余りの驚きに声がおかしくなっちゃいました……ってそんな事はどうだっていい!

「本当に風間さんですよね!?」
「本当に風間だ」
「本当の本当に風間さんですよね!?」
「本当の本当に風間だ。」
「本当の本当の本当に風間さんですよね!?」
「以下省略、風間だ」

うん。絶対に風間さんだ。
その事を理解した瞬間、私の中の何かが弾けた音がした。
そして、それと同時に私は風間さんに抱き着いていた。

「……ど、どうした?」

珍しく動揺している風間さん。
多分。私がいきなり抱き着いたりしたから驚いているんでしょう。
ごめんなさい。後で何回でも謝ります。だけど今は……この温もりを感じさせて欲しいんです。

「よかった……風間さんが無事で…本当に、よかったです」

私は一旦顔を離して風間さんと目を合わせる。

「こんなこと……原因を作った私が言える事じゃないのも、分かってます。だけど、言います、よ。わ、たし、とっても心配だった、んですから、ね」

泣きながら言ったわたしの言葉には、どれだけの意味があったのか、どれだけの重みがあったのか、風間さんは理解してくれるのだろうか。
いや、理解してくれなんていわない。だって私はただ、この言葉を私の口から伝えたかっただけなのだから。

「天澤……」

風間さんが私の名前を読んだあと、訳が分からないと言った口調でこう言った。

「お前は何をいっているんだ?」

え?
風間さんは何を言っているのだろうか。

「いいか天澤。お前は実際はテロリストグループに拉致された上に強制的に能力を使わされた被害者だぞ?お前が謝る理由なんて何処にも無いだろう。なによりーー」

それはそうですけどやっぱり私のせいじゃないですか。
私はその言葉を飲み込んだ。
なぜなら彼の言葉を聞いてしまったからだ。

「この程度でお前を救えるのなら、俺は十二分に満足さ」

ぽつり。
ぽつり。
何でだろう。どうしてここは室内なのに雨が降っているのだろう?
いちがいます。これは雨じゃない。
私のーーーー涙だ。
私は責められなくちゃ自分を許せないはずなのに。許されちゃいけないはずなのに。
そんな優しい言葉をかけられて嬉し涙をこぼしている自分がいる。

「お、おい天澤?お前…」

私が再び抱き着くと、風間さんも再び狼狽する。

「じっとしてて、下さい」
「いやそれは」
「風間さんは意地が悪いです。だって……女の子をこんなに泣かせるんですから
だったら私も風間さんに意地悪します。風間さん、私を抱きしめて下さい。泣かせた責任。取って下さい」

風間さんは一瞬迷う様に黙るが、諦めてかなり控え目に私の背中に手を回した。
それだけで、私の顔からは火が付いているのではないかと疑う程に熱くなったが、恥ずかしさよりも風間さんと接する事のできる喜びが心情を占めていた。




風がふき、細かくなったコンクリート粉が飛ばされる。
上の階層が殆ど崩壊してしまったビルの一番上にある少年、いや青年が右足と左手から閃光を吐き出しながら向かっている。
目的の位置についたそれはそのまま閃光を逆ベクトルに噴射。勢いを撃滅させてから着陸する。
青年の目の前には、キャロルの突き刺した荒い三角錐が映る。
青年は腰を少し落とし、あたかも武道家の様な構えを取る。
次の瞬間。爆発的な炸裂音とともに青年の右腕が閃光とは逆ベクトルに弾き出された。
その威力は三角錐の中腹辺りを玉砕し、叩き割る。
さらに再び激発。今度は右足だ。
その足が三角錐の突き刺さっていた部分を蹴り飛ばす。

「いやぁ。しかし毎回の如く君の頑丈さと悪運の強さには驚かされますよ。【移動者】(テレポーター)」

青年の前には右手と左手の両手、右足の大部分を損失したテレポーターだった。

「……【加速者】(ブースター)か」
「助けに来ました。君は有能ですからね。きっと我等がプロフェッサーも君を無くすことはいかんせん許しがたい事でしょう」
「……お前に俺が運べるか」
「当たり前です。僕の力は十橋時雨と同等を目標に設計されているのですから。それより君にはDHAで僕と同じ中央エリア本部でまた一仕事してもらう予定ですから」
「……何がある」
「決まってるじゃあないですか。三人の人間を取り戻すんですよ」
「一人はあの三木が執着していた女か」
「ええ、後は[能力を発展させる能力]を持つ義義理碧子。それからプロフェッサーの
リサイクル実験ただ一人の成功者ーーーー古都紡美です」

もう、加速していく歯車は、壊れるまで止まらないーーーー。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.104 )
日時: 2016/03/19 22:21
名前: 波坂@携帯 (ID: DJvXcT4Z)

第六章、がんばれ!かざまくん、エピローグ



風間司はいつもの日常に取り込まれようとしていた。
いつも、といっても実際には風間が一時間遅れで出勤し、火麗が報告書などによりストレスが溜まっている目の前で風間がご丁寧に枕まで用意して夢の世界に意識をフライアウェイしようとしたためにしばかれ、その後医務室で頬にできた打撃痕(笑)を冷やしながら意識を夢の国へフライアウェイし、その間にキャロルが『肉』と風間の額に油性マジックで書き、その後部室に戻った際に残切と天澤に大爆笑され、悲鳴を上げながら逃走を諮るキャロルと凍てつく無表情のまま実弾を装填した拳銃を連射する風間が特殊警察中央エリア本部を舞台とした楽しい楽しい鬼ごっこを繰り広げ、見事勝利した風間はそのまま05部の部室へと赴き、青星に風間にしては珍しく礼を言い青星から「風間、風邪?」といつもなら相手に理解力を必用とする青星にしては珍しく分かりやすいコメントを貰い、その後天澤とキャロルに例の事件で先延ばしになっていた特殊警察中央エリア本部の案内(キャロルは鬼ごっこのせいで片方の瞼が開かない状態となっていた)をし、報告書を纏めながら今日の夕飯の事を考え、解散後御手洗の元に礼を言いに向かおうとしたら天澤もついて来ると言いだし、御手洗からは「リア充爆発しろよ」と言われ天澤が必要以上の反応をしたためさらに面倒臭くなり、天澤を家に送り自分も帰宅して夕飯を済ませソファに倒れ込む様にして横になったのが今現在である。

風間は一人で考え事をしていた。
DHAの狙いは何なのだろうか、と。
仮に特異的な能力が目的ならば、わざわざ特殊警察の首輪の繋がった天澤ではなく民間人から連れ去れば良かったのだ。
だが、DHAはそれをせず、あえて天澤を選んだのだ。
ではなぜ天澤なのか。
風間の脳裏にある仮説が立った。
DHAが狙っているのは[特異な能力]ではなく[未来予知の能力]だったのではないだろうか。
ではなぜ未来予知なのか?勿論未来が視えるのは確かに絶大なアドバンテージだ。
しかしそれに自分達の敗北する結末が映ってしまえばそれこそ大ダメージを受ける始末になる。
何かが引っ掛かると思いつつも分からない事を考えても無駄だと風間はもう一つの事を考える。
01部の調査によると、あのビルからは武装した人間しか救助されなかったようだ。
だからこそおかしいのだ。ーーーーテレポーターが消えているのだから。
テレポートしたとは考え辛い。なぜならテレポートは周りの状況を把握していなければうまく作動しないからである。
そしてテレポーターが埋まっている筈の所には明らかにおかしい点が一つあった。
キャロルの刺した三角錐がーーーー叩き折られているのだ。
予想ができない今後について風間は戦慄した。



ケータイの着信音が鳴る。
全く誰だ?こんな時間に?
そう思いながらオレこと風折影雪は応答した。

「もしもしー。風折ですがー」
『初めまして。早速だが仕事の話がしたいがいいかい?』
「いいけどよー」
『風折影雪。これは【裏】の仕事だ』

裏ねー……………はッ。

「先に言っておくが、雪花に手を出したらただじゃーすまねーからな?」
『心配するな。我々は君に足止めを依頼するだけだ』

は?足止め?



あとがき

平子「ファッキュー!」
時雨「落ち着け」
風間「どうした」
平子「風間さん!なんでそんなに尺とってるんですか!?」
時雨「リアルタイムで一番時間喰ってるな」
風間「仕方ないだろ。平子はそもそも考え方が作者が書きやすい様になっているし、時雨は理想像をそのまま書けばいい。だがな、俺は違うんだよ。考え方や感じ方にどうしてもコレジャナイ感が出てしまう。何回俺の台詞が修正されたか!」
平子「凄い説得力って訳ですよ」
時雨「右に同じく」
風間「それはそうと風折が遂にここに出すらしなくなったな」
時雨「弱者は消えるのみだ」
平子「次の話は…………長ぁ。私と紡美ちゃんと緋奈子ちゃんの女子いつもの三人組。時雨さんと碧子ちゃんの二人。風間さん含む特殊警察。DHAにジーナさんや風折さん。新キャラも居て……これ書けきれるんですかねぇ…」
風間「と言うか、作者はちょっと息抜きに新しい小説を書こうかなとか言ってるぞ」
時雨「……とにかく次回をお楽しみに」